JP3949872B2 - 圧延用ロール外層 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、外層にいわゆるグレン鋳鉄材を用いた熱間又は冷間圧延用複合ロールにおける外層の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
熱間又は冷間圧延ロールは、外面側に耐摩耗性、内部側に強靱性が要求されることから、耐摩耗性にすぐれるハイス系鋳鉄材を遠心力鋳造により形成した外層と、強靱性にすぐれる鋳鉄若しくは鋳鋼又は合金鋼の内層(又はコア)を、冶金的又は機械的に一体化した複合構造のロールが使用されている。
ところで、外層に使用されるハイス系鋳鉄材は、一般的に、通板性があまり良くない。この「通板性」とは、圧延材のロール表面からの離反の容易さをいい、これが悪いと圧延材がロール表面に付着したり、或いは熱膨張によるロール径の変化(サーマルクラウン)によって円滑な走行が妨げられて蛇行し、著しい場合は圧延板の重なり、皺などの表面損傷が生じる。
【0003】
それゆえ、圧延材の圧延後の表面状態が圧延製品としての品質を直接左右する最終スタンド乃至その1つ手前のスタンドでは、ロール外層用材料として、ハイス系鋳鉄材に代えて、グレン鋳鉄材が好適に使用される。このグレン鋳鉄材は、金属組織中にセメンタイトと黒鉛を有しており、耐摩耗性の点ではハイス系鋳鉄材よりも劣るが、通板性にすぐれる特性を有している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このグレン鋳鉄材から作られた遠心鋳造ロール外層は、斑点状の偏析が存在する問題があった。この斑点状偏析は、ミクロ組織としては粗大な基地とその周囲の炭化物の多い領域が斑点状に出現するもので、ロール外層の初径の表面部では、殆んど存在しないか、存在しても非常に小さなものであるが、ロールの内部では、目視で確認できる直径約1mm以上のものが多数散在している。ここで「初径」とは、圧延用ロールとして圧延に使用されるときの最初の外径寸法を意味している。
鋳造された外層は、通常、表面に鋳造欠陥が含まれており、その鋳造欠陥を機械加工により取り除いた後の表面が圧延に供されるため、鋳造外径(金型の内径寸法に略等しい)から径方向に深さ約5〜15mmの部分がロール外層の初径となる。ここで、「深さ」とは、片肉の寸法を意味し、以下の説明でも同様である。直径約1mm以上の斑点状偏析が形成されるのは、鋳造外径から径方向に深さ約25mm以上の領域(鋳造外径面から径方向に深さ約25mm以上内部の領域)であり、初径を基準にすると、鋳造欠陥の削り代にもよるが、径方向に深さ約10mm以上の領域となる。
【0005】
圧延作業が進むと、圧延によって荒れた表面を整えるために、ロール外層の表面は適宜研磨される。このため、ロール初径から径方向に深さ約10mm以上研磨されると直径約1mm以上の斑点状偏析が出現する。
表面に斑点状偏析が存在するロールを圧延に使用すると、基地の部分が優先的に摩耗し、一方、炭化物の部分は摩耗し難い。このため、粗大な基地とその周囲の炭化物の多い部分では摩耗差を生じ、それが圧延材に転写されて、1つの斑点状偏析毎にほぼ丸い凹凸模様が形成される。
斑点状偏析が小さいと、圧延材への転写は殆んど問題にならないが、直径2mm以上のものが多くなると、転写の影響が大きくなり、圧延製品の品質に悪影響を及ぼす。
【0006】
このため、初径から深さ約25〜50mmの内部領域まで圧延使用可能な領域を有するように設計されたロール外層であっても、初径面から深さ約10mm以上研磨されると、直径1mm以上の斑点状偏析が圧延面に露出し始め、その中に直径2mm以上の斑点状偏析が数多く存在すると、最終スタンドで使用できなくなる不都合があった。
このロールは、圧延材の表面状態があまり問題とならない上流側の圧延スタンドで使用することはできるが、グレン鋳鉄材はハイス系鋳鉄材に比べて耐摩耗性に劣るため、結局は早期に廃棄せざるを得ないのが実状である。
【0007】
本発明の目的は、外層にグレン鋳鉄材を用いて遠心力鋳造により形成された圧延用ロールにおいて、直径2.0mm以上の斑点状偏析が殆んど存在しないか又は極めて少ないロール外層、より好ましくは直径1.5mm以上の斑点状偏析が全く存在しないロール外層を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、グレン鋳鉄材の耐摩耗性を向上させることである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の圧延用複合ロールの外層は、遠心力鋳造により作製され、重量%にて、C:2.8〜3.5%、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Ni:3〜5%、Cr:1〜3%、Mo:1.0%未満、残部実質的にFeの鋳鉄材からなり、圧延に供される外層初径面から径方向に深さ20〜30mmの領域の任意の1つの周面において、ロール軸方向中央部の幅100mmの領域に存在する直径1.0mm以上の斑点状偏析は、90%以上が直径2.0mmより小さい。
なお、圧延に供される外層初径面から径方向に深さ20〜30mmの領域の任意の1つの周面において、ロール軸方向中央部の幅100mmの領域に存在する全ての斑点状偏析は、直径1.5mmよりも小さいことがより好ましい。
【0009】
斑点状偏析の測定位置を、外層初径面から径方向に深さ20〜30mmの領域の任意の1つの周面とするのは、次の理由による。
鋳造された外層は、前述したように、表面の鋳造欠陥を取り除いて圧延に供される面を形成するために、通常、鋳造外径から径方向に深さ約5〜15mmの部分が機械加工によって取り除かれる。
ところで、直径1.0mm以上の斑点状偏析が出現するのは、鋳造外径から径方向に深さ約25mm以上の領域であるから、削り代を最も少ない約5mm(片肉)と仮定したとき、少なくとも初径から径方向に深さ20〜30mmの部分の任意の1つの周面でチェックすれば、直径1.5mm以上乃至直径2.0mm以上の斑点状偏析の出現状況を把握できるからである。
なお、斑点状偏析は通常、真円ではなく、いびつな形状であるため、本明細書では、最も長い部分を「直径」として取り扱うものとする。
【0010】
また、斑点状偏析の測定位置を、ロール軸方向中央部とするのは、ロール軸方向の中央部での表面状態が圧延製品に及ぼす影響が最も大きいためであり、幅100mmの領域とするのは、測定上の便宜を考慮したためである。
【0011】
本発明の鋳鉄材は、必要に応じて、B:0.3%以下を含むことができる。
また、V:2.0%以下、Nb:2.0%以下、Ti:1.0%以下、Zr:1.0%以下及びTa:1.0%以下からなる群から選択される少なくとも一種の元素を合計量で2.0%以下含むことができる。
【0012】
【作用及び効果】
本発明の圧延用ロール外層は、直径1.0mm以上の斑点状偏析のうち、その90%以上が直径2.0mmより小さいから、直径2.0mm以上の斑点状偏析は、殆んど存在しないか、たとえ存在したとしてもその個数は非常に少ないといえる。また、望ましい実施例の圧延用ロール外層では、直径1.5mm以上の斑点状偏析の存在は皆無である。
従って、圧延作業において、圧延材への斑点状偏析の転写は殆んど問題とならず、圧延後の表面状態が圧延製品の品質を直接左右する最終スタンド用のロール外層として特に適している。
本発明の鋳鉄材は、Bの含有によって、斑点状偏析はより微細化される。
また、V、Nb、Ti、Zr、Taのうち少なくとも一種を含有することにより、M1C1型の硬質炭化物が形成され、硬度と耐摩耗性の向上を得ることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
≪斑点状偏析の抑制≫
直径2.0mm以上の斑点状偏析は、縦型(回転軸が鉛直方向)よりも傾斜型(回転軸が斜め方向)や横型(回転軸が水平方向)の遠心力鋳造の場合に特に出現し易いことを、発明者は見出した。
傾斜型又は横型の遠心力鋳造の場合、図1に示すように、溶湯に対しては、上昇時に重力による減速力、下降時に重力による加速力が働くため、上部での流速は小さく、下部での流速は大きくなり、凝固途中の溶湯に作用する重力は周期的に変化している。これは縦型遠心力鋳造と本質的に異なる点であり、溶湯に作用する重力の変動を小さくすればよい。
具体的には、外層初径での重力倍数を150G以上、好ましくは180G以上の条件で遠心力鋳造することにより、回転中の溶湯に作用する重力の影響が小さくなり、溶湯の肉厚が略一定に保たれ、直径2.0mm以上の斑点状偏析の発生を可及的に抑えることができた。
本発明のロール外層は、傾斜型又は横型方式の遠心力鋳造によって作製した場合でも、斑点状偏析の存在は実用上差し支えない程度に抑えられる。
【0014】
金型の回転数をN(rpm)、外層初径をD(mm)とすると、重力倍数Gナンバーは次の式で与えられる。
Gナンバー = D×N2÷1790000
【0015】
これまでのロール外層は、一般的に約120〜140G程度の重力倍数で遠心力鋳造を行なっていたが、前述したように、鋳造された外層の外周面近傍には斑点状偏析が殆んど存在しなかった。これは、鋳込まれる外層の外周面近傍は金型により急冷されるため、溶湯を金型内へ溶湯を投入してから凝固するまでの時間が短く、重力変動による影響が少ないためと考えられる。
【0016】
このため、鋳込み時の溶湯温度はできるだけ低い温度にすることが望ましい。溶湯温度が低いと、鋳造外層の内部領域についても、溶湯が金型内へ投入されてから凝固するまでの時間が短くなり、溶湯に重力変動による影響が少なくなるからである。具体的には、鋳込み時の鋳鉄材の溶湯温度を、液相線温度以上、液相線温度+60℃以下にすることが望ましい。
【0017】
≪外層材≫
本発明のロール外層は、重量%にて、C:2.8〜3.5%、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Ni:3〜5%、Cr:1〜3%、Mo:1.0%未満、残部実質的にFeの鋳鉄材からなる。
この鋳鉄材は、必要に応じて、B:0.3%以下を含むことができるし、及び/又は、V:2.0%以下、Nb:2.0%以下、Ti:1.0%以下、Zr:1.0%以下、Ta:1.0%以下のうちの少なくとも一種を合計量で2.0%以下含むことができる。
この鋳鉄材の成分限定理由は次の通りである。
【0018】
C:2.8〜3.5%
Cは主としてFeと結合してM3C1型炭化物のセメンタイトを生成すると共に、黒鉛としても晶出(一部は析出)し、摩擦特性や耐焼付き性を改善する。Cが2.8%未満では黒鉛およびセメンタイトの量が不足し、耐摩耗性が不十分である。一方、Cが3.5%を超えて含まれると黒鉛が過多となるため、摩耗と肌荒れの原因となる。また、セメンタイト量が多くなり過ぎて脆化し、耐クラック性劣化の原因となる。さらに、セメンタイトの分布が不均一になり易いため、斑点状偏析が生成し易くなる。従って、上限を3.5%とする。
【0019】
Si:1.5%以下
Siは溶湯の脱酸剤として、および遠心力鋳造における湯流れ性の確保のためにも必要な元素である。また、グレン鋳鉄材の場合、黒鉛晶出(一部は析出)の促進元素として必要である。しかし、1.5%を超えると脆化して耐クラック性劣化の原因となる。従って、1.5%以下とする。
【0020】
Mn:1.5%以下
Mnは溶湯の脱硫剤としてあるいは脱酸剤として溶湯の健全性を向上させるため、および基地組織の強化に必要な元素である。しかし、1.5%を超えて含有すると、脆化して耐クラック性が劣化するため、1.5%以下とする。
【0021】
Ni:3〜5%
Niは黒鉛晶出の補助元素として、また基地の焼入れ性を改善してベイナイト化を促進し、基地強化を図るのに有効な元素である。3%未満ではこのような効果が十分ではなく、高硬度が得られず、耐摩耗性が不十分となる。このため、下限は3%とする。一方、5%を超えて含まれると残留オーステナイト量が多くなり、熱間圧延中に残留オーステナイトが分解して耐肌荒れ性が劣化する。従って、上限は5%とする。
【0022】
Cr:1 〜3%
Crは主としてCと結合して晶出セメンタイト中に固溶され、耐摩耗性の向上に寄与する。また、一部は析出炭化物を形成して、基地を強化する。含有量が1%に満たないとこのような効果が十分ではない。一方、3%を超えて含有すると、黒鉛の晶出及び析出が阻害され、摩擦係数が増大し、耐焼付き性も劣化する。このため、圧延材の通板性が損なわれ、ロール表面に圧延材が焼き付くトラブルの原因となる。また、脆化して耐クラック性劣化の原因にもなる。従って、含有量は1〜3%に規定する。
【0023】
Mo:1.0%未満
Moは主としてCと結合して晶出セメンタイトの中に固溶し、耐摩耗性の向上に寄与する。また、一部は析出炭化物を形成して、基地を強化する作用を有する。しかし、1%以上含有すると、黒鉛の晶出及び析出が阻害され、摩擦係数が増大し、耐焼付き性も劣化する。このため、圧延材の通板性が損なわれ、ロール表面に圧延材が焼き付くトラブルの原因となる。また、脆化して耐クラック性劣化の原因ともなる。従って、上限は1.0%未満とする。
【0024】
B:0.3%以下
BはBNとして黒鉛の晶出時(一部は析出)の核となり、黒鉛を微細化させる。同時にセメンタイトや基地も微細化させる効果がある。このため、斑点状偏析も微細化され、圧延製品への影響も小さくなる。一方、あまり多く含まれると、黒鉛の晶出(一部は析出)が過多となり、耐肌荒れ性と耐摩耗性の劣化を招く。また、Bは焼入れ性を低下させる弊害もあり、高硬度が得難くなる。従って、0.3%以下の範囲で含有させることが望ましい。
【0025】
V:2.0%以下、Nb:2.0%以下、Ti:1.0%以下、Zr:1.0%以下、Ta:1.0%以下の少なくとも一種を合計量で2.0%以下
V、Nb、Ti、Zr及びTaは主としてCと結合して、M1C1型の硬質炭化物を形成する。このM1C1型炭化物は耐摩耗性を改善する作用がある。また、これらの元素はミクロ組織を微細化させる作用があり、斑点状偏析を目立ち難くする。一方、含有量があまり多くなると、黒鉛の晶出(一部は析出)が阻害され、摩擦係数の増大と耐焼付き性の劣化を招き、圧延材の通板性と耐クラック性が劣化する。
このため、V:2.0%以下、Nb:2.0%以下、Ti:1.0%以下、Zr:1.0%以下、Ta:1.0%以下の少なくとも一種を合計量で2.0%以下の範囲で含有させることが望ましく、V:1.0%以下、Nb:0.5%以下、Ti:0.5%以下、Zr:0.5%以下、Ta:0.5%以下の少なくとも一種を合計量で2.0%以下の範囲で含有させることがより望ましい。
【0026】
前記鋳鉄材は、残部実質的にFeであり、溶製時に不可避的に混入する不純物は鋳鉄材の特性に影響を及ぼさない範囲でその含有は許容される。なお、P、Sはいずれも材質の靱性を劣化させるため、少ない程好ましく、両者とも0.2%以下に抑えることが望ましい。
【0027】
≪内層材及び中間層材≫
圧延用複合ロールは、遠心力鋳造により外層を鋳造した後、その内部に中実状内層が静置鋳造される。必要に応じて、外層と内層との溶着性を改善するために中間層を設けることができる。
スリーブ状のロールを鋳造する場合は、内層も遠心力鋳造することができる。
【0028】
内層材としては、一般的に、ダクタイル鋳鉄が好適に使用されるが、それ以外に高級鋳鉄、黒鉛鋼等の強靱性を有する材料を用いることができる。
ダクタイル鋳鉄の好適な組成として、C:2.5〜4.0%(重量%、以下同じ)、Si:1.0〜3.5%、Mn:0.2〜1.5%、P:0.2%以下、S:0.2%以下、Ni:3.0%以下、Cr:2.0%以下、Mo:2.0%以下、Mg:0.02〜0.10%を含み、残部実質的にFeからなるものを示すことができる。なお、必要に応じて、B、V、Nb、Ti、Zr、Taの少なくとも一種を総計で4%以下含むことができる。これらの元素が選択的に含まれた外層材を用いるとき、外層と冶金学的に一体化する際に拡散によって内層に含まれることがあることによる。これは、後記する内層材用の高級鋳鉄及び黒鉛鋼、並びに中間層材用のダクタイル鋳鉄、アダマイト材及び黒鉛鋼についても同様である。
高級鋳鉄の好適な組成として、C:2.5〜4.0%(重量%、以下同じ)、Si:0.8〜2.5%、Mn:0.2〜1.5%、P:0.2%以下、S:0.2%以下、Ni:3.0%以下、Cr:2.0%以下、Mo:2.0%以下を含み、残部実質的にFeからなるものを示すことができる。必要に応じて、B、V、Nb、Ti、Zr、Taの少なくとも一種を総計で4%以下含むことができる。
黒鉛鋼の好適な組成として、C:1.0〜2.3%(重量%、以下同じ)、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.2〜1.5%、P:0.2%以下、S:0.2%以下、Ni:3.0%以下、Cr:2.0%以下、Mo:2.0%以下を含み、残部実質的にFeからなるものを示すことができる。必要に応じて、B、V、Nb、Ti、Zr、Taの少なくとも一種を総計で4%以下含むことができる。
【0029】
中間層材として、ダクタイル鋳鉄、アダマイト材又は黒鉛鋼等が好適に用いられる。
中間層のダクタイル鋳鉄の好適な組成として、C:2.5〜4.0%(重量%、以下同じ)、Si:0.5〜3.5%、Mn:0.2〜1.5%、P:0.2%以下、S:0.2%以下、Ni:4.0%以下、Cr:3.0%以下、Mo:2.0%以下、Mg:0.02〜0.10%を含み、残部実質的にFeからなるものを示すことができ、必要に応じて、B、V、Nb、Ti、Zr、Taの少なくとも一種を総計で4%以下含むことができる。
中間層のアダマイト材の好適な組成として、C:1.0〜2.5%(重量%、以下同じ)、Si:0.2〜3.0%、Mn:0.2〜1.5%、P:0.2%以下、S:0.2%以下、Ni:4.0%以下、Cr:3.0%以下、Mo:2.0%以下を含み、残部実質的にFeからなるものを示すことができ、必要に応じて、B、V、Nb、Ti、Zr、Taの少なくとも一種を総計で4%以下含むことができる。
中間層の黒鉛鋼の好適な組成として、C:1.0〜2.3%(重量%、以下同じ)、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.2〜1.5%、P:0.2%以下、S:0.2%以下、Ni:4.0%以下、Cr:3.0%以下、Mo:2.0%以下を含み、残部実質的にFeからなるものを示すことができ、必要に応じて、B、V、Nb、Ti、Zr、Taの少なくとも一種を総計で4%以下含むことができる。
【0030】
【実施例】
内径587mm、長さ1150mmの鋼製の金型を用いた横型遠心力鋳造により、各種鋳鉄材の溶湯を、95mmの厚さになるまで鋳込んで供試用ロール外層(発明例1〜発明例20、比較例1〜比較例2)を作製した。各供試例の合金化学成分を表1に示している。なお、比較例は重力倍数が150Gより小さい条件で鋳込んだときの供試例である。
溶湯の鋳込み温度と、遠心力鋳造時の重力倍数については表2に記載している。凝固完了後、常温まで冷却し、組織調整のために、420℃で15時間の熱処理を実施した。
【0031】
得られた供試用ロール外層の鋳造欠陥を取り除くために、機械加工により、外周面から径方向に片肉で10mm削り取った。削り取った後の面が、圧延用ロールの初径面として供される。この初径面をショア硬度計で硬度測定した。測定結果を表2に示している。
【0032】
次に、初径から径方向に深さ25mm(鋳造外径からは35mm)を削り取り、ロール軸方向中央部の幅100mmの領域について、斑点状偏析を観察した。観察は、周方向100mmの任意の3箇所について行ない、#240のエメリー紙で表面を磨き、硝酸で腐食した後、目視により、直径1.0mm以上、直径1.5mm以上、直径2.0mm以上の斑点状偏析の個数を計数し、直径1.5mm以上の斑点状偏析の有無と、直径1.0mm以上の斑点状偏析に対する直径2.0mmより小さい斑点状偏析の個数の割合を調べた。
斑点状偏析の計数結果を表2に示す。表2に記載した斑点状偏析の個数は、前記測定3箇所の平均値であり、便宜上、周面全体の出現状態とした。
なお、ロールを実際に圧延した後で斑点状偏析を観察する場合には、ロール表面に斑点状偏析が存在すると、圧延によってセメンタイトと基地の間で摩耗差ができるため、硝酸で腐食しなくても、圧延後のロール表面肌から斑点状偏析を直接確認及び測定することもできる。
【0033】
次に、摩耗試験片(30mm×40mm×厚さ10mm)を各々1個ずつ採取し、下記条件で大越式摩耗試験を行なった。なお、試験片は30mm×40mmの面が元の供試用ロール外層の初径から径方向に25mm深さ(鋳造外径からは35mm)だけ入った部分になるように採取した。
また、試験片は大越式摩耗試験前に試験面(30mm×40mm)を#600のエメリー紙で研磨後、3μmのアルミナ砥粒でバフ研磨したものを用いた。
試験は各々の供試用ロール材について、5回ずつ行ない、比摩耗量(単位:mm2/kgf)を算出し、5回の平均をその試験片の比摩耗量とした。
試験は、相手材としてSUJ2(HRC60)製の外径30mm×幅3mmリングを用い、摩耗距離400m、荷重18.4kgf(180.4N)、すべり速度3.4m/sとする条件で行なった。
試験結果を表2に示しており、比較例1の比摩耗量を100%としたときの比摩耗量の割合を評価値として記載している。従って、この評価値は小さいほど耐摩耗性にすぐれることを示す。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
発明例1〜発明例8、比較例1〜比較例2は、選択的含有元素であるB、V、Nb、Ti、Zr、Taをいずれも含まない供試例である。
比較例1及び比較例2は、重力倍数が150Gよりも小さいため、直径2.0mm以上の斑点状偏析が多数出現する結果となった。比較例1の斑点状偏析を図2に示す。
発明例1は重力倍数が160Gであるため、直径2.0mm以上の斑点状偏析が少なくなり、直径1.0mm以上の斑点状偏析のうち、90%以上が直径2.0mmより小さい結果となっている。また、発明例3のように、重力倍数を180Gとすることにより、2.0mm以上の偏析は皆無になった。
発明例2は、重力倍数が160Gであるが、発明例1よりも溶湯鋳込み温度が低い(液相線温度+50℃)ため、2.0mm以上の偏析は皆無であった。
発明例1〜発明例8の比較により、重力倍数が大きい程、また、溶湯鋳込み温度が低い程、斑点状偏析が出現し難くなることを示しており、直径1.0mm以上の偏析が少なくなり、また、それに伴って、直径1.5mm以上、直径2.0mm以上の偏析も少なくなった。
【0037】
発明例9〜発明例12、発明例14、発明例16〜発明例20はBを含有する供試例であり、発明例9〜発明例12及び発明例14と発明例3との比較により、また、発明例16〜発明例20と発明例1との比較により、Bの含有が斑点状偏析を減少させる効果を有することを示している。
【0038】
発明例11〜発明例20は、V、Nb、Ti、Zr、Taのうちの少なくとも一種を含有する供試例であり、これらの元素を全く含まない他の発明例及び比較例と比べて、M1C1型炭化物の存在により、耐摩耗性が大幅に向上したことを示している。
なお、発明例2、発明例4、発明例6、発明例8の耐摩耗性が比較例1よりも約5〜10%改善されているのは、鋳込み温度を下げて、組織が微細化したためであり、発明例9、発明例10の耐摩耗性が同じく5〜10%改善されているのは、Bによる組織微細化によるものと考えられる。
【0039】
上記の実施例によれば、重力倍数を180G、又は溶湯鋳込み温度を液相線温度+50℃とする条件で遠心力鋳造を行なうことにより、直径2.0mm以上の斑点状偏析の出現を皆無にできることを示している。
重力倍数を180G、かつ溶湯鋳込み温度を液相線温度+50℃とする条件(発明例4)で遠心力鋳造を行なうことにより、また、溶湯鋳込み温度が液相線温度+80℃であっても、重力倍数200G以上で遠心力鋳造を行なうことにより、直径1.5mm以上の斑点状偏析を皆無にできることを示している。
直径1.5mm以上の斑点状偏析が皆無であれば、圧延製品の表面性状はより良好なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】横型遠心力鋳造における溶湯の状態を模式的に示す図である。
【図2】比較例1の金属組織を示す図面代用写真である。
Claims (10)
- 遠心力鋳造により作製された圧延用複合ロールの外層であって、該外層は、重量%にて、C:2.8〜3.5%、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Ni:3〜5%、Cr:1〜3%、Mo:1.0%未満を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる鋳鉄材からなり、圧延に供される初径面から径方向に深さ20〜30mmの領域の任意の1つの周面において、ロール軸方向中央部の幅100mmの領域に存在する直径1.0mm以上の斑点状偏析は、90%以上が直径2.0mmより小さいことを特徴とする圧延用ロール外層。
- 遠心力鋳造により作製された圧延用複合ロールの外層であって、該外層は、重量%にて、C:2.8〜3.5%、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Ni:3〜5%、Cr:1〜3%、Mo:1.0%未満を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる鋳鉄材からなり、圧延に供される初径面から径方向に深さ20〜30mmの領域の任意の1つの周面において、ロール軸方向中央部の幅100mmの領域に存在する斑点状偏析は直径1.5mmより小さいことを特徴とする圧延用ロール外層。
- 遠心力鋳造により作製された圧延用複合ロールの外層であって、該外層は、重量%にて、C:2.8〜3.5%、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Ni:3〜5%、Cr:1〜3%、Mo:1.0%未満、B:0 . 3%以下を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる鋳鉄材からなり、圧延に供される初径面から径方向に深さ20〜30mmの領域の任意の1つの周面において、ロール軸方向中央部の幅100mmの領域に存在する直径1.0mm以上の斑点状偏析は、90%以上が直径2.0mmより小さいことを特徴とする圧延用ロール外層。
- 遠心力鋳造により作製された圧延用複合ロールの外層であって、該外層は、重量%にて、C:2.8〜3.5%、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Ni:3〜5%、Cr:1〜3%、Mo:1.0%未満、B:0 . 3%以下を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる鋳鉄材からなり、圧延に供される初径面から径方向に深さ20〜30mmの領域の任意の1つの周面において、ロール軸方向中央部の幅100mmの領域に存在する斑点状偏析は直径1.5mmより小さいことを特徴とする圧延用ロール外層。
- 遠心力鋳造により作製された圧延用複合ロールの外層であって、該外層は、重量%にて、C:2.8〜3.5%、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Ni:3〜5%、Cr:1〜3%、Mo:1.0%未満、並びにV:2 . 0%以下、Nb:2 . 0%以下、Ti:1 . 0%以下、Zr:1 . 0%以下及びTa:1 . 0%以下からなる群から選択される少なくとも一種の元素を合計量で2 . 0%以下を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる鋳鉄材からなり、M 1 C 1 型炭化物を有しており、圧延に供される初径面から径方向に深さ20〜30mmの領域の任意の1つの周面において、ロール軸方向中央部の幅100mmの領域に存在する直径1.0mm以上の斑点状偏析は、90%以上が直径2.0mmより小さいことを特徴とする圧延用ロール外層。
- 遠心力鋳造により作製された圧延用複合ロールの外層であって、該外層は、重量%にて、C:2.8〜3.5%、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Ni:3〜5%、Cr:1〜3%、Mo:1.0%未満、並びにV:2 . 0%以下、Nb:2 . 0%以下、Ti:1 . 0%以下、Zr:1 . 0%以下及びTa:1 . 0%以下からなる群から選択される少なくとも一種の元素を合計量で2 . 0%以下を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる鋳鉄材からなり、M 1 C 1 型炭化物を有しており、圧延に供される初径面から径方向に深さ20〜30mmの領域の任意の1つの周面において、ロール軸方向中央部の幅100mmの領域に存在する斑点状偏析は直径1.5mmより小さいことを特徴とする圧延用ロール外層。
- 遠心力鋳造により作製された圧延用複合ロールの外層であって、該外層は、重量%にて、C:2.8〜3.5%、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Ni:3〜5%、Cr:1〜3%、Mo:1.0%未満、B:0 . 3%以下、並びにV:2 . 0%以下、Nb:2 . 0%以下、Ti:1 . 0%以下、Zr:1 . 0%以下及びTa:1 . 0%以下からなる群から選択される少なくとも一種の元素を合計量で2 . 0%以下を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる鋳鉄材からなり、M 1 C 1 型炭化物を有しており、圧延に供される初径面から径方向に深さ20〜30mmの領域の任意の1つの周面において、ロール軸方向中央部の幅100mmの領域に存在する直径1.0mm以上の斑点状偏析は、90%以上が直径2.0mmより小さいことを特徴とする圧延用ロール外層。
- 遠心力鋳造により作製された圧延用複合ロールの外層であって、該外層は、重量%にて、C:2.8〜3.5%、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Ni:3〜5%、Cr:1〜3%、Mo:1.0%未満、B:0 . 3%以下、並びにV:2 . 0%以下、Nb:2 . 0%以下、Ti:1 . 0%以下、Zr:1 . 0%以下及びTa:1 . 0%以下からなる群から選択される少なくとも一種の元素を合計量で2 . 0%以下を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる鋳鉄材からなり、M 1 C 1 型炭化物を有しており、圧延に供される初径面から径方向に深さ20〜30mmの領域の任意の1つの周面において、ロール軸方向中央部の幅100mmの領域に存在する斑点状偏析は直径1.5mmより小さいことを特徴とする圧延用ロール外層。
- 外層の遠心力鋳造は、初径部分における重力倍数を150G以上とする条件で行われたものである請求項1乃至請求項8の何れかに記載の圧延用ロール外層。
- 外層の遠心力鋳造は、鋳込み時の鋳鉄材の溶湯温度を、液相線温度以上、液相線温度+60℃以下とする条件で行われたものである請求項9に記載の圧延用ロール外層。
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