JP7036119B2 - 圧延用複合ロール及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、耐摩耗性及び耐肌荒れ性に優れた外層と、強靭で耐摩耗性に優れた内層とが溶着一体化した圧延用複合ロール、及びその製造方法に関する。
熱間圧延用のワークロールとして、遠心鋳造法により形成した耐摩耗性鉄基合金からなる外層と、強靭なダクタイル鋳鉄からなる内層を溶着一体化した遠心鋳造製複合ロールが広く用いられている。遠心鋳造製複合ロールでは、圧延材との接触による熱的及び機械的負荷によりロール外層に摩耗及び肌荒れ等の損傷が起こり、圧延材の表面品質の劣化の原因となる。
そのため、外層の損傷がある程度進行すると、ロールの交換が行われる。圧延機から取り外したロールは、外層から損傷部を研削除去した後、再び圧延機に組み込まれる。ロール外層から損傷部を研削除去することは「改削」と呼ばれる。ワークロールは、初径から圧延に使用可能な最小径(廃却径)まで改削された後、廃却される。初径から廃却径までを「圧延有効径」と呼ぶ。外層の損傷のために改削が頻繁に行われると圧延の中断により生産性が低下したり、改削により圧延有効径が小さくなるので、圧延有効径内の外層は、大きな損傷を防止するために優れた耐摩耗性、耐事故性及び耐肌荒れ性を有するのが望ましい。
図1に示すように、複合ロール10は、圧延材と接する外層1と、外層1の内面に溶着した内層2とからなる。内層2は外層1と異なる材質からなり、外層1に溶着した胴芯部21と、胴芯部21から一体的に両側に延びる駆動側軸部22及び従動側軸部23とからなる。駆動側軸部22の端部には、駆動トルク伝達に用いるクラッチ部24が一体的に設けられている。また従動側軸部23の端部には、複合ロール10のハンドリング等に必要な凸状部25が一体的に設けられている。クラッチ部24は端面24aと、駆動手段(図示せず)と係合する一対の平坦な切欠き面24b,24bとを有し、凸状部25は端面25aを有する。
通常、軸部22、23は、外層1が改削を繰り返して廃却に至るまでの間、補修作業を受けることなく使用されているが、近年の外層1の長寿命化に伴い、軸部の損傷が進行して、圧延作業に支障を来すこともあり、軸部の損傷を原因として、早期に廃却せざるを得ない状況に至ることもあった。特に、モーター側から駆動トルクが伝達されるクラッチ部24を有する駆動側軸部22は、カップリングとの摺動やモーターからの駆動トルクによる高い応力を受けるため、損傷が発生しやすく、耐久性が最も要求される部位である。
上記した軸部の損傷の問題を解決するため、本出願人は特開2015-62936号により、従動側軸部の加工性を維持したまま駆動側軸部の耐摩耗性を改善した遠心鋳造製複合ロールを提案した。この遠心鋳造製複合ロールは、遠心鋳造法により形成した外層とダクタイル鋳鉄からなる内層とが溶着一体化したもので、前記外層は、質量基準で少なくともCr:3.0~10.0%、Mo:2.0~10.0%、及びV:5.8~10.0%を含有する化学組成を有するFe基合金からなり、内層は、外層に溶着した胴芯部と、胴芯部の両端から一体的に延出する軸部とを有し、両軸部とも端部におけるCr、Mo及びVの合計量が0.15~2.0質量%であり、かつ一方の軸部と他方の軸部との間でCr、Mo及びVの合計量の差が0.2質量%以上である。
特開2015-62936号の遠心鋳造製複合ロールでは、軸部の耐摩耗性が改善されているものの、近年の胴部の長寿命化に対応するためにさらなる改善が望まれる。内層を構成するダクタイル鋳鉄の耐摩耗性を向上するためには、通常ダクタイル鋳鉄にV、Nb等の炭化物形成元素を添加して、セメンタイトではない硬質炭化物(MC炭化物等)を晶出させるのが有効であるが、これらの炭化物形成元素は、ダクタイル鋳鉄の黒鉛化を阻害し、ダクタイル鋳鉄の伸びを低下させる。従って、軸部の長寿命化には限界があった。
従って本発明の目的は、耐摩耗性及び耐肌荒れ性に優れた外層と、強靭で耐摩耗性に優れた内層とが溶着一体化した圧延用複合ロール、及びその製造方法を提供することである。
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者等は、内層用の溶湯にV等の炭化物形成元素を原材料であるスクラップ材等から混入するもの以外に添加することなく、黒鉛鋳鉄製軸部の少なくとも一方に硬質MC炭化物を外層から適量含有させると、軸部の強靭性を低下させることなく耐摩耗性を著しく改善できることを発見し、本発明に想到した。
すなわち、本発明の圧延用複合ロールは外層と内層とが溶着一体化してなり、
前記外層が、質量基準で1~3%のCと、0.3~3%のSiと、0.1~3%のMnと、0.1~5%のNiと、1~7%のCrと、1~8%のMoと、5~10%のVと、0.005~0.15%のNと、0以上0.05%未満のBとを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるFe基合金からなり、
前記内層が、質量基準で2.4~3.6%のCと、1.5~3.5%のSiと、0.1~2%のMnと、0.1~2%のNiと、0.7%未満のCrと、0.7%未満のMoと、0.05~1%のVと、0.01~0.1%のMgとを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる黒鉛鋳鉄からなり、
前記内層が前記外層に溶着した胴芯部と、前記胴芯部の両端から一体的に延出する軸部とを有し、前記軸部の少なくとも一方が5μm以上の円相当径を有する硬質MC炭化物を200個/cm2以上含有することを特徴とする。
前記外層はさらに0.1~3質量%のNbを含有するとともに、前記内層は0.5質量%未満のNbを含有するのが好ましい。
前記外層はさらに0.1~5質量%のWを含有するとともに、前記内層は0.7質量%未満のWを含有するのが好ましい。
前記外層はさらに、質量基準で0.1~5%のCo、0.01~0.5%のZr、0.005~0.5%のTi、及び0.001~0.5%のAlからなる群から選ばれた少なくとも一種を含有することができる。
前記外層は、MC炭化物の面積率が9~22%、基地粒界の共晶炭化物の面積率が2~10%であるのが好ましい。
本発明の圧延用複合ロールの製造方法は、
(1) 回転する遠心鋳造用円筒状鋳型で前記外層を遠心鋳造した後、
(2) 前記外層の内面の温度が950℃以上1000℃未満のときに前記外層のキャビティに1330~1400℃の前記内層用溶湯を鋳込み、前記外層の内面を厚さ10~30 mmだけ再溶融させることを特徴とする。
前記内層用溶湯を鋳込むときの前記外層の内面温度は960~990℃であるのが好ましい。
前記内層用溶湯は、質量基準で2.5~3.6%のC、1.7~3.3%のSi、0.1~1.5%のMn、0.1~2%のNi、0~0.5%のCr、0~0.5%のMo、及び0.01~0.1%のMgを含有し、残部がFe及び不可避的不純物である組成を有するのが好ましい。
本発明により、外層が優れた耐摩耗性と耐肌荒れ性とを有するとともに、内層溶湯にV等の黒鉛化を阻害する炭化物形成元素を添加することなく、黒鉛鋳鉄製軸部の少なくとも一方に硬質MC炭化物を多く含有させるので、軸部の強靭性を低下させることなく耐摩耗性を著しく改善した圧延用複合ロールを得ることができる。軸部の耐摩耗性が著しく改善されたため、圧延ロールとしてのさらなる長寿命化が達成され、圧延作業のコスト低減に貢献する。
複合ロールを示す概略断面図である。 図1の複合ロールのクラッチ部側を示す部分斜視図である。 本発明の圧延用複合ロールの製造に用いる鋳型の一例を示す分解断面図である。 本発明の圧延用複合ロールの製造に用いる鋳型の一例を示す断面図である。 実施例3の圧延用複合ロールの軸部断面のアルミナ砥粒研磨後無腐食の顕微鏡写真である。
本発明の実施形態を以下詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変更をしても良い。1つの実施形態の説明は、特に断りがなければ他の実施形態にも当てはまる。単に「%」と記載している場合、特に断りがなければ「質量%」を意味する。
[1] 圧延用複合ロール
本発明の圧延用複合ロールは、圧延材と接する外層と、外層の内面に溶着した内層とを有する(図1及び図2を参照)。
(A) 外層
本発明の圧延用複合ロールを構成する外層は、質量基準で1~3%のCと、0.3~3%のSiと、0.1~3%のMnと、0.1~5%のNiと、1~7%のCrと、1~8%のMoと、5~10%のVと、0.005~0.15%のNと、0以上0.05%未満のBとを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるFe基合金からなる。外層はさらに0.1~3質量%のNbを含有するのが好ましい。外層はさらに0.1~5質量%のWを含有するのが好ましい。さらに、外層は質量基準で0.1~5%のCo、0.01~0.5%のZr、0.005~0.5%のTi及び0.001~0.5%のAlからなる群から選ばれた少なくとも一種を含有しても良い。
(1) 必須元素
(a) C:1~3質量%
CはV、Cr及びMoと(さらに、Nb及びWを含有する場合にはNb及びWとも)結合して硬質炭化物を生成し、外層の耐摩耗性の向上に寄与する。Cが1質量%未満では硬質炭化物の晶出量が少なすぎて外層に十分な耐摩耗性を付与することができない。一方、Cが3質量%を超えると過剰な炭化物の晶出により外層の靱性が低下し、耐クラック性が低下するため、圧延によるクラックが深くなり、改削時のロール損失量が増加する。Cの含有量の下限は好ましくは1.5質量%であり、より好ましくは1.8質量%である。またCの含有量の上限は好ましくは2.6質量%であり、より好ましくは2.3質量%である。
(b) Si:0.3~3質量%
Siは溶湯の脱酸により酸化物の欠陥を減少させるとともに、基地に固溶して耐焼付き性を向上させ、さらに溶湯の流動性を向上させて鋳造欠陥を防止する作用を有する。Siが0.3質量%未満では溶湯の脱酸作用が不十分であり、溶湯の流動性も不足し、欠陥発生率が高い。一方、Siが3質量%を超えると合金基地が脆化し、外層の靱性は低下する。Si含有量の下限は好ましくは0.4質量%であり、より好ましくは0.5質量%である。Si含有量の上限は好ましくは2.0質量%であり、より好ましくは1.5質量%である。
(c) Mn:0.1~3質量%
Mnは溶湯の脱酸作用の他に、SをMnSとして固定する作用を有する。MnSは潤滑作用を有し、圧延材の焼き付き防止に効果があるので、所望量のMnSを含有するのが好ましい。Mnが0.1質量%未満ではその添加効果は不十分である。一方、Mnが3質量%を超えてもさらなる効果は得られない。Mnの含有量の下限は好ましくは0.2質量%であり、より好ましくは0.3質量%である。Mnの含有量の上限は好ましくは2.0質量%であり、より好ましくは1.5質量%である。
(d) Ni:0.1~5質量%
Niは外層の基地の焼き入れ性を向上させる作用を有するので、大型の複合ロールの場合にNiを含有すると、冷却中のパーライトの発生を防止し、外層の硬さを向上させることができる。Niの添加効果は0.1質量%未満ではほとんどなく、5質量%を超えるとオーステナイトが安定化しすぎ、硬さが向上しにくくなる。Ni含有量の下限は好ましくは0.2質量%であり、より好ましくは0.3質量%であり、最も好ましくは0.5質量%である。Ni含有量の上限は好ましくは3.0質量%であり、より好ましくは2.0質量%である。
(e) Cr:1~7質量%
Crは基地をベイナイト又はマルテンサイトにして硬さを保持し、外層の耐摩耗性を維持するのに有効な元素である。Crが1質量%未満ではその効果が不十分であり、Crが7質量%を超えると、基地組織の靭性が低下する。Crの含有量の下限は好ましくは3.0質量%であり、より好ましくは3.5質量%である。Cr含有量の上限は好ましくは6.5質量%であり、より好ましくは6.0質量%である。
(f) Mo:1~8質量%
MoはCと結合して硬質炭化物(M6C、M2C)を形成し、外層の硬さを増加させるとともに、基地の焼入れ性を向上させる。また、MoはV及び/又はNbとともに強靭かつ硬質MC炭化物を生成し、耐摩耗性を向上させる。Moが1質量%未満ではそれらの効果が不十分である。一方、Moが8質量%を超えると、外層の靭性が低下する。Mo含有量の下限は好ましくは2質量%であり、より好ましくは3質量%である。Mo含有量の上限は好ましくは7質量%であり、より好ましくは6.5質量%である。
(g) V:5~10質量%
VはCと結合して硬質のMC炭化物を生成する元素である。MC炭化物は2500~3000のビッカース硬さHvを有し、炭化物の中で最も硬い。Vが5質量%未満では、MC炭化物の析出量が不十分であるだけでなく、内層に溶け込むMC炭化物量が不足することにより、クラッチ部の耐損傷性の向上効果が不十分である。一方、Vが10質量%を超えると、鉄溶湯より比重の軽いMC炭化物が遠心鋳造中の遠心力により外層の内側に濃化し、MC炭化物の半径方向偏析が著しくなるだけでなく、MC炭化物が粗大化して合金組織が粗くなり、圧延時に肌荒れしやすくなる。V含有量の下限は好ましくは5.1質量%であり、より好ましくは5.2質量%である。V含有量の上限は好ましくは9.0質量%であり、より好ましくは8.0質量%である。
(h) N:0.005~0.15質量
Nは炭化物を微細化する効果を有するが、0.15質量%を超えると外層が脆化する。N含有量の上限は好ましくは0.1質量%である。十分な炭化物微細化効果を得るには、N含有量の下限は0.005質量%であり、好ましくは0.01質量%である。
(i) B:0以上0.05%未満
Bは炭化物に固溶し、炭化物の融点を低下させる作用があり、凝固過程においてこの部分が最終凝固部となり、鋳造方案によっては引け巣欠陥として残りやすくなる。この作用は、0.05質量%を超えると顕著になり、ロール材質や鋳造方案に制限が出てくる可能性がある。B含有量の上限は好ましくは0.04質量%であり、より好ましくは0.03質量%である。
(2) 任意元素
外層はさらに、0.1~3質量%のNbを含有しても良い。また、外層は0.1~5質量%のWを含有しても良い。外層はさらに、質量基準で0.1~10%のCo、0.01~0.5%のZr、0.005~0.5%のTi、及び0.001~0.5%のAlからなる群から選ばれた少なくとも一種を含有しても良い。外層はさらに、周期表第2族元素、第3族元素からなる群から選ばれた少なくとも一種を含有しても良い。
(a) Nb:0.1~3質量%
Vと同様に、NbもCと結合して硬質MC炭化物を生成する。NbはV及びMoとの複合添加により、MC炭化物に固溶してMC炭化物を強化し、外層の耐摩耗性を向上させる。NbはVより原子量が大きいためVを主体としたMC炭化物に固溶することにより、鉄溶湯より比重の小さなV主体のMC炭化物の比重を増加させ、遠心鋳造中の遠心力によるMC炭化物の偏析を軽減させる作用を有する。Nbが0.1質量%未満では、MC炭化物の晶出量の寄与が少なく内層に溶け込むMC炭化物量を増加させる効果がほとんどなく、クラッチ部の耐損傷性の向上効果への寄与が少ない。一方、Nbが3質量%を超えると、鉄溶湯より比重の重いNbを主体とするMC炭化物の晶出量が増加し、遠心力により表面側に濃化及び偏析しやすくなる。Nb含有量の下限は好ましくは0.2質量%であり、より好ましくは0.3質量%である。Nb含有量の上限は好ましくは2.5質量%であり、より好ましくは2.2質量%である。
(b) W:0.1~5質量%
WはCと結合して硬質のM6C等の硬質炭化物を生成し、外層の耐摩耗性向上に寄与する。またMC炭化物にも固溶してその比重を増加させ、偏析を軽減させる作用を有する。しかし、Wが5質量%を超えると、M6C炭化物が多くなり、組織が不均質となり、肌荒れの原因となる。従って、Wを含有する場合、5質量%以下とする。一方、Wが0.1質量%未満ではその効果は不十分である。Wの含有量の上限は好ましくは4質量%であり、より好ましくは3質量%である。
(d) Co:0.1~5質量%
Coは基地中に固溶し、基地の熱間硬さを増加させ、外層の耐摩耗性及び耐肌荒れ性を改善する効果を有する。Coが0.1質量%未満では効果はほとんどなく、また5質量%を超えてもさらなる向上は得られないとともに原料コストアップになる。Co含有量の下限は好ましくは1質量%である。またCo含有量の上限は好ましくは3質量%であり、さらに好ましくは2.0質量%である。
(e) Zr:0.01~0.5質量%
V及びNbと同様に、ZrはCと結合してMC炭化物を生成し、外層の耐摩耗性を向上させる。また、Zrは溶湯中で結晶核として作用する酸化物を生成し、凝固組織を微細にする。さらに、ZrはMC炭化物の比重を増加させ、偏析防止に効果がある。しかし、Zrが0.5質量%を超えると、介在物となるので好ましくない。Zr含有量の上限はより好ましくは0.3質量%である。十分な添加効果を得るためには、Zrの含有量の下限はより好ましくは0.02質量%である。
(f) Ti:0.005~0.5質量%
TiはC及びNと結合し、TiC、TiN又はTiCNのような硬質の粒状化合物を形成する。これらは、MC炭化物の核となるため、MC炭化物の均質分散効果があり、外層の耐摩耗性及び耐肌荒れ性の向上に寄与する。しかし、Ti含有量が0.5質量%を超えると、溶湯の粘性が増加し、鋳造欠陥が発生しやすくなる。Ti含有量の上限はより好ましくは0.3質量%であり、最も好ましくは0.2質量%である。十分な添加効果を得るために、Tiの含有量の下限はより好ましくは0.01質量%である。
(g) Al:0.001~0.5質量%
Alは酸素との親和性が高いため、脱酸剤として作用する。また、AlはN及びOと結合し、形成された酸窒化物が溶湯中に懸濁されて核となり、MC炭化物を微細均一に晶出させる。しかし、Alが0.5質量%を超えると、外層が脆くなる。また、Alが0.001質量%未満ではその効果が十分でない。Al含有量の上限はより好ましくは0.3質量%であり、最も好ましくは0.2質量%である。十分な添加効果を得るために、Alの含有量の下限はより好ましくは0.01質量%である。
(f)周期表第2族元素及び第3族元素:合計で0~0.1質量%以下
周期表第2族元素及び第3族元素は、OやS元素との親和性が高く脱酸及び脱硫作用があるため、溶湯の清浄作用を持ち、鋳造欠陥発生を防止する作用がある。しかし、通常溶湯のOやS含有量を考慮すると、合計で0.1質量%を超えて添加してもその効果はない。これら合計の好ましい上限は、0.05質量%でありより好ましくは0.03質量%である。周期表第2族元素、第3族元素としては、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Ceなどが例示できる。
(3) 不可避的不純物
外層の組成の残部は実質的にFe及び不可避的不純物からなる。不可避的不純物のうち、P及びSは機械的性質の劣化を招くので、少なくするのが好ましい。具体的には、Pの含有量は0.1質量%以下が好ましい。Sの含有量は0.05質量%以下が好ましい。
(4) 組織
外層の組織は、(a)MC炭化物、(b)基地粒界の共晶炭化物、及び(c)基地からなり、MC炭化物を面積率で9~22%、基地粒界の共晶炭化物を面積率で2~10%含有するのが好ましい。なお基地粒界とは基地組織間の粒界のことを言う。基地粒界の共晶炭化物は、M2C、M6C、M7C3などである。金属Mは主にFe、Cr、Mo、V、Nb及びWの少なくとも一種であり、金属M,C及びBの割合は組成により変化する。本発明の圧延用複合ロールの外層組織には黒鉛が存在しないのが好ましい。MC炭化物は、粒状で特に硬質であり、耐摩耗性に顕著な効果がある。面積率で9~22%のMC炭化物を含有することにより、耐摩耗性により優れた外層材質となる。MC炭化物は面積率で10~17%であるのがより好ましい。一方、基地粒界に形成する共晶炭化物は、基地を支える作用を持つため、圧延負荷による基地の組成流動を防止することによって、耐肌荒れ性の効果を発揮する。
(B) 内層
本発明の圧延用複合ロールの内層は、質量基準で2.4~3.6%のCと、1.5~3.5%のSiと、0.1~2%のMnと、0.1~2%のNiと、0.7%未満のCrと、0.5%未満のMoと、0.05~1%のVと、0.01~0.1%のMgとを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる黒鉛鋳鉄からなる。
(1) 必須元素
(a) C:2.4~3.6質量%
Cは基地に固溶するとともに、黒鉛として晶出する。黒鉛晶出のためにはCの含有量は2.4質量%以上である必要があるが、3.6質量%を超えると内層の機械的性質の劣化を招来する。Cの含有量の下限は2.7質量%が好ましい。またCの含有量の上限は3.5質量%が好ましい。
(b) Si:1.5~3.5質量%
Siは黒鉛を晶出させるために必要な元素であり、1.5質量%以上含有する必要があるが、3.5質量%を超えると内層の機械的性質の劣化を来す。Siの含有量の下限は1.7質量%が好ましい。またSiの含有量の上限は3質量%が好ましい。
(c) Mn:0.1~2質量%
Mnは、溶湯の脱酸作用の他に不純物であるSと結合してMnSを生成し、Sによる脆化を防ぐ作用も有している。Mnの含有量は0.1質量%以上である必要があるが、2質量%を超えると内層の機械的性質が劣化する。Mnの含有量の下限は0.15質量%が好ましい。またMnの含有量の上限は1.2質量%が好ましい。
(d) Ni:0.1~2質量%
Niは黒鉛化の補助元素として有効である。黒鉛化の効果を得るためには0.1%以上が必要であり、0.2%以上が好ましい。内層鋳込み時の外層との溶着時に外層内面が溶融し内層に混入するため、外層のNi含有量が内層より高い場合、内層のNi含有量が増加する。Ni含有量が増加すると、高温でのオーステナイト相から常温での主体となるパーライト相への変態温度が低下し、鋳造後冷却中の外層の軸方向割れが生じやすくなるため、Niの上限は2%とする必要があり、1.8質量%が好ましい。
(e) Cr:0.7質量%未満
CrはCと結合してセメンタイトを形成し、耐摩耗性を改善するが、多すぎると内層の機械的性質の劣化を来す。Crが0.7質量%以上であると内層の機械的性質が劣化する。Crの含有量の上限は0.5質量%が好ましい。なお、Crの含有量の下限は0.05質量%で良い。またCrは溶着一体化する外層から内層に混入するので、外層からの混入量を見込んで、溶着一体化後の内層中のCrの含有量が0.7質量%未満となるように、内層用溶湯中のCrの含有量を設定する必要がある。Crの含有量の上限は0.5質量%が好ましい。
(f) Mo:0.7質量%未満
Moは白銑化元素であり、黒鉛化を阻害するため、その含有量を制限する必要がある。外層との溶着一体化(外層内面の溶融)により外層から内層に混入するMoはMC炭化物に含まれ、あるいはM2C炭化物の状態にある。本発明は、意識的に外層から内層にMoをMC炭化物の状態で混入させ、MC炭化物を再溶融させずにそのまま内層内に残留させることにより、内層の耐摩耗性の向上を図ることを特徴としている。このため、Mo含有量の下限は0.05質量%が好ましい。一方、Moが0.7質量%以上になると黒鉛化が著しく阻害され、内層の靭性が劣化する。Moの含有量の上限は0.5質量%が好ましい。
(g) V:0.05~1質量%
Vは強い白銑化元素であり黒鉛化を阻害するため、含有量は制限される。外層との溶着一体化(外層内面の溶融)により外層から内層に混入するVの多くはMC炭化物の状態にある。本発明は、意識的に外層から内層にMC炭化物を混入させ、再溶融せずにそのまま内層内に残留させることにより、Vの黒鉛化阻害作用を抑制しながら内層の耐摩耗性の向上を図ることを特徴とする。内層の耐摩耗性を十分に確保するために、Vは0.05質量%以上なければならない。しかし、Vの含有量が1質量%を超えると、Vの黒鉛化阻害の作用の影響が大きくなりすぎる。Vの含有量の下限は0.1質量%が好ましい。またVの含有量の上限は0.7質量%が好ましく、0.5質量%がさらに好ましい。
(h) Mg:0.01~0.1質量%
Mgは黒鉛を球状化する効果がある。球状化により内層の強靭性が大幅に向上する。球状化のためにMgは0.01質量%以上である必要があるが、0.1質量%以下で十分である。Mgの含有量の下限は0.015質量%が好ましい。またMgの含有量の上限は0.05質量%が好ましい。
(2)任意元素
(a) Nb:0.5質量%未満
Vと同様に、Nbは強い白銑化元素であり黒鉛化を阻害するため、含有量は制限される。外層にNbが含まれる場合、外層との溶着一体化(外層内面の溶融)により外層から内層に混入するNbの多くはMC炭化物の状態にある。Nbの含有量が0.5質量%を超えると、Nbの黒鉛化阻害の作用の影響が大きくなりすぎる。Nbの含有量の上限は0.4質量%が好ましい。なお、Nbの含有量は、0.02質量%以上であると、MC炭化物による内層の耐摩耗性のさらなる向上を図ることができるため、好ましい。
(b) W:0.7質量%未満
Wは炭化物形成元素であり、内層の黒鉛化を阻害する。外層にWが含まれる場合、Wを含有する外層との溶着一体化(外層内面の溶融)により外層から内層にWが混入することは避けられないが、黒鉛化阻害防止のためWを0.7質量%未満に抑える必要がある。Wの含有量の上限は0.6質量%が好ましい。
(2) 不可避的不純物
内層の組成の残部は実質的にFe及び不可避的不純物からなる。不可避的不純物のうち、P、S及びNは機械的性質の劣化を招くので、できるだけ少なくするのが好ましい。具体的には、Pの含有量は0.1質量%以下が好ましく、Sの含有量は 0.05質量%以下が好ましく、Nは0.07質量%以下が好ましい。また、Bは内層の黒鉛化を阻害するため、0.05質量%未満が好ましい。Alは0.1質量%以下が好ましい。その他の不可避的不純物として、外層にZr、Co、Ti等の元素が含まれる場合は、Zr、Co、Ti等の元素が挙げられる。
(3) 組織
本発明の圧延用複合ロールの内層は黒鉛が晶出した黒鉛鋳鉄からなる。黒鉛鋳鉄は黒鉛を含有しない白鋳鉄より軟らかく、変形能が大きい。黒鉛鋳鉄は、球状、片状、隗状等の黒鉛の形状に応じて分類される。特に、球状黒鉛が晶出した球状黒鉛鋳鉄は大きな強靭性を有するため、ロール内層材に好ましい。
黒鉛鋳鉄中の黒鉛の面積率は2~12%が好ましい。黒鉛の面積率が2%未満であると、セメンタイト量が多く材質の伸びが不足し、圧延時の熱的、機械的負荷に耐えられず、ロールの折損を起こすおそれが大きい。一方、3.6質量%の炭素量上限から、黒鉛の面積率の上限は12%である。
本発明の圧延用複合ロールは、内層の少なくとも一方の軸部が5μm以上の円相当径を有する硬質MC炭化物を200個/cm2以上含有することを特徴とする。硬質MC炭化物とは、Vを主体とし、Mo等を含むMC系炭化物(Nb、Wを含む場合は、V及び/又はNbを主体とし、Mo、W等を含むMC系炭化物)である。アルミナ砥粒より高硬度の硬質MC炭化物は、内層材から採取した試験片の平面にダイアモンド研磨及びアルミナ砥粒研磨を順次行うと、アルミナ砥粒で研磨されずに凸状に残るので、顕微鏡観察により確認できる。
クラッチ部24を有する駆動側軸部22が5μm以上の円相当径を有する硬質MC炭化物を200個/cm2以上含有すると、クラッチ部24の損傷を防ぐことができる。クラッチ部24の損傷の主因は、カップリングとの摺動時にグリース中に含まれるスケール等の粒子により引っ掻かれることによる摩耗である。円相当径が5μm未満であると、硬質MC炭化物は周囲の組織とともに脱落しやすく、軸部の耐摩耗性を向上させる効果が小さい。円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物が多い程耐摩耗性に有利であり、200個/cm2以上必要である。円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物は300~5000個/cm2が好ましい。円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物が5000個/cm2を超えると、内層が硬くなりすぎ、靱性が十分確保できなくなる。なお、硬質MC炭化物の円相当径の上限は100μmが好ましく、50μmがより好ましく、30μmがさらに好ましく、20μmが最も好ましい。
他方の軸部、すなわちクラッチ部24がない従動側軸部23では、ハンドリング等に必要な凸状部25が一体的に設けられており、カップリングとの摺動がないため、駆動部のような耐摩耗性は要求されない。
他方の軸部の5μm以上の円相当径を有する硬質MC炭化物の個数は一方軸部の20~80%であるのが好ましい。他方の軸部の5μm以上の円相当径を有する硬質MC炭化物の個数は一方軸部の20%以上であると、他方の軸部も耐摩耗性の向上が図られるからであり、他方の軸部の5μm以上の円相当径を有する硬質MC炭化物の個数は一方軸部の80%以下であると、他方の軸部の加工性が改善されるため、生産コストの低減に寄与できるからである。他方の軸部の5μm以上の円相当径を有する硬質MC炭化物の個数は一方軸部の30%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。他方の軸部の5μm以上の円相当径を有する硬質MC炭化物の個数は一方軸部の70%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。
(C) 中間層
本発明の圧延用複合ロールについて説明したが、外層と内層の間に緩衝層を形成する目的で、外層と内層の中間的組成の中間層を設けることができる。中間層の厚さは10~30 mmが好ましい。
(D) ロールサイズ
本発明の遠心鋳造製複合圧延ロールのサイズは特に限定されないが、好ましい例は、外層の外径が200~1300 mmで、ロール胴長が500~6000 mmで、外層の圧延使用層の厚さが25~200 mmである。
[2] 圧延用複合ロールの製造方法
圧延用複合ロールは、具体的には以下の方法により製造するのが好ましい。図3(a) 及び図3(b)は、遠心鋳造用円筒状鋳型30で外層1を遠心鋳造した後に内層2を鋳造するのに用いる静置鋳造用鋳型の一例を示す。この静置鋳造用鋳型100は、内面に外層1を有する円筒状鋳型30と、その上下端に設けられた上型40及び下型50とからなる。円筒状鋳型30は鋳型本体31と、その内側に形成された砂型32と、鋳型本体31及び砂型32の下端部に形成された砂型33とからなる。上型40は鋳型本体41と、その内側に形成された砂型42とからなる。下型50は鋳型本体51と、その内側に形成された砂型52とからなる。下型50には内層用溶湯を保持するための底板53が設けられている。円筒状鋳型30内の外層1の内面は内層2の胴芯部21を形成するためのキャビティ60aを有し、上型40は内層2の従動側軸部23を形成するためのキャビティ60bを有し、下型50は内層2の駆動側軸部22を形成するためのキャビティ60cを有する。円筒状鋳型30を用いる遠心鋳造法は水平型、傾斜型又は垂直型のいずれでも良い。
回転中の遠心鋳造用円筒状鋳型30内に外層1の溶湯を鋳込んで遠心鋳造する際に、Si等を主体とする酸化物からなるフラックスを添加し、外層の内面に厚さ0.5~30 mmのフラックス層を形成し、外層凝固後の外層の内周面の酸化を防止するのが好ましい。
図3(a)及び図3(b)に示すように、駆動側軸部22形成用の下型50の上に、外層1を遠心鋳造した円筒状鋳型30を起立させて設置し、円筒状鋳型30の上に従動側軸部23形成用の上型40を設置して、内層2形成用の静置鋳造用鋳型100を組み立てる。これにより、外層1内のキャビティ60aは上型40のキャビティ60b及び下型50のキャビティ60cと連通し、内層1全体を一体的に形成するキャビティ60を構成する。
静置鋳造用鋳型100内の外層の内面温度(フラックス層表面の温度)が950℃以上1000℃未満の範囲内であることを確認した後、1330~1400℃の内層用溶湯を上型40の上方開口部43からキャビティ60内に鋳込む。キャビティ60内の溶湯の湯面は下型50から上型40まで次第に上昇しつつ、フラックス層が除去され、駆動側軸部22、胴芯部21及び従動側軸部23からなる内層2が外層1と一体的に鋳造される。内層用溶湯の組成は、質量基準で2.5~3.6%のC、1.7~3.3%のSi、0.1~1.5%のMn、0.1~2%のNi、0~0.5%のCr、0~0.5%のMo、及び0.01~0.1%のMgを含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるのが好ましい。
鋳込まれた内層用溶湯の熱量により、外層1の内面を厚さ10~30 mmだけ再溶解させる。外層1の内面の再溶解により、外層1中のCr、Mo及びVは(さらにNb及びWを含有する場合にはNb及びWも)内層2に混入する。なお、下型50で形成される駆動側軸部22の方が、上型40で形成される従動側軸部23より、円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物の個数が多くなる。その結果、少なくとも駆動側軸部22における円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物の個数は200個/cm2以上となる。駆動側軸部22の方が従動側軸部23より硬質MC炭化物が多くなる理由は、内層用溶湯の対流の程度が下型50と上型40で異なるためであると考えられる。
外層の内面温度が950℃未満の場合、1330~1400℃の内層用溶湯を鋳込んでも外層内面を十分に(10~30 mmの厚さまで)再溶解することができないため、硬質MC炭化物の外層から内層への混入が十分でなく、境界部に欠陥が残りやすくなるとともに、少なくとも一方の軸部において円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物を200個/cm2以上とすることができない。硬質MC炭化物の混入量を十分に確保するために、同様の観点から、外層の内面温度の下限は960℃が好ましい。また、外層の内面温度が1000℃以上の場合、内層用溶湯を鋳込んだときに外層内面の溶融量が多すぎ、内層の黒鉛化が阻害される。同様の観点から、外層の内面温度の上限は990℃が好ましい。
内層用溶湯の鋳込み温度が1330℃未満の場合、外層の内面温度が950℃以上1000℃未満であっても外層内面を十分に再溶解することができないため、硬質MC炭化物の外層から内層への混入が十分でなく、少なくとも一方の軸部において円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物を200個/cm2以上とすることができない。同様の観点から、内層用溶湯の鋳込み温度は1340℃以上が好ましく、1350℃以上がさらに好ましい。また、1400℃を超える内層用溶湯を鋳込むと、外層内面が再溶解される際に外層中の硬質MC炭化物が内層溶湯中で消失してしまい、少なくとも一方の軸部において円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物を200個/cm2以上とすることができない。同様の観点から、内層用溶湯の鋳込み温度は1390℃以下が好ましく、1380℃以下がさらに好ましい。
遠心鋳造により鋳込んだ外層の内面に、内層との間の緩衝層として中間層を遠心鋳造により形成しても良い。中間層の鋳込みにより外層の内面が再溶融するが、中間層は内層に比べ湯量が少ないため再溶融の熱量が少なく、外層に含まれるMC炭化物は再溶融せずに中間層に残留する。特に比重の軽いMC炭化物は遠心力の作用により中間層の内面に濃化する。本発明の条件において、外層内面温度を中間層内面温度と置き換えた上で、内層を鋳込むことにより、中間層の内面を再溶融させ、中間層中のMC炭化物を内層に混入させることができる。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1~7及び比較例1~4
図3(a)に示す構造の円筒状鋳型30(内径800 mm、及び長さ2500 mm)を水平型の遠心鋳造機に設置し、表3に示す外層組成(残部はFe及び不可避的不純物である。)が得られる溶湯を用いて外層1を遠心鋳造した。遠心鋳造中にSiを主体とする酸化物系フラックスを添加し、外層の内面に厚さ5 mmのフラックス層を形成した。その後、鋳型の内面に外層1(厚さ:90 mm)及びその内面にフラックス層(厚さ:5 mm)が形成された円筒状鋳型30を起立させ、駆動側軸部22形成用の中空状下型50(内径600 mm、及び長さ1500 mm)の上に円筒状鋳型30を立設し、円筒状鋳型30の上に従動側軸部23形成用の中空状上型40(内径600 mm、及び長さ2000 mm)を立設し、図3(b)に示す静置鋳造用鋳型100を構成した。
外層1の内面温度(フラックス層の表面温度)が放射温度計の測定により表2に示す温度となったと判断した後、静置鋳造用鋳型100のキャビティ60に、表1に示す組成(残部はFe及び不可避的不純物である。)のダクタイル鋳鉄溶湯を表2に示す温度で上方開口部43から注湯した。ダクタイル鋳鉄溶湯の湯面は、駆動側軸部22形成用の下型50、胴芯部21形成用の円筒状鋳型30(外層1)及び従動側軸部23形成用の上型40の順に上昇しつつ、フラックスが除去され、外層の内面の一部は、内層用溶湯の熱量により溶解して、外層1の内部に、駆動側軸部22、胴芯部21及び従動側軸部23からなる一体的な内層2を形成した。
Figure 0007036119000001
Figure 0007036119000002
内層2が完全に凝固した後、静置鋳造用鋳型100を解体して複合ロールを取り出し、500℃の焼戻し処理を行った。その後、機械加工により外層1、駆動側軸部22及び従動側軸部23を所定の形状に加工し、クラッチ部24及び凸状部25を形成した。このようにして得られた各複合ロールにおける外層1及び内層2の組成を表3に示す。内層2の組成は、駆動側軸部22の相当する部分の分析値である。
Figure 0007036119000003
Figure 0007036119000004
Figure 0007036119000005
各複合ロールの内層2の両軸部22,23に対してダイアモンド研磨及びアルミナ砥粒研磨を順次行った後、無腐食の状態で顕微鏡写真(倍率200倍)を撮り、円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物の数をカウントした。図4は、実施例3の圧延用複合ロールの軸部の顕微鏡写真を示す。図4において、(1)で示す黒色部分は黒鉛であり、(2)で示す破線で囲んだ灰色部分は円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物である。円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物の数のカウントは、任意の10視野で行い平均値を求めた。
さらに、外層1内面の再溶融厚さ、及び外層1と内層2の境界における溶着状態を超音波検査により観察した。外層1内面の再溶融厚さは、内層を鋳込む前の外層厚さ(90 mm)から、超音波検査で求めた外層厚さを差し引いて算出した。両軸部22,23における円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物の数、外層1の再溶融深さ、及び外層1と内層2の境界における溶着状態を表4示す。
Figure 0007036119000006
注:(1) 円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物の個数(単位:個/cm2)。
実施例1~7では、内層用溶湯を鋳込む前の外層の内面温度(フラックス表面温度)は950℃以上1000℃未満の範囲内であり、内層用溶湯の鋳込み温度は1330~1400℃の範囲内であった。そのため、外層と内層の溶着一体化時の外層内面の再溶融厚さは10~30 mmの範囲内であり、外層と内層は健全に溶着され、境界に欠陥がなかった。また、内層の駆動側軸部及び従動側軸部の少なくとも一方(クラッチ部)は、円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物を200個/cm2以上含有しており、優れた耐摩耗性を有し、耐久性が改善されていた。
これに対して、比較例1では外層の内面温度が777℃と低すぎ、かつ内層用溶湯の鋳込み温度が1415℃と高すぎたので、外層内面の再溶融厚さも小さく、外層と内層の境界に欠陥が生じ、いずれの軸部でも円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物の数が200個/cm2未満であった。
比較例2では外層の内面温度が1041℃と高すぎ、かつ内層用溶湯の鋳込み温度も1453℃と高すぎたので、外層内面の再溶融厚さが40 mmと大きすぎるだけでなく、内面からフラックスが剥がれて外層と内層の境界に欠陥が生じた。また、内層用溶湯の鋳込み温度が高すぎたので、硬質MC炭化物が消失し、いずれの軸部でも円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物の数は200個/cm2未満であった。
比較例3では外層の内面温度が922℃と低すぎ、かつ内層用溶湯の鋳込み温度が1489℃と高すぎたので、外層と内層の境界は良好であったが、硬質MC炭化物が消失し、いずれの軸部でも円相当径が5μm以上の硬質MC炭化物の数が200個/cm2未満であった。
比較例4では外層の内面温度が930℃と低すぎ、かつ内層用溶湯の鋳込み温度も1311℃と低すぎたので、外層内面の再溶融厚さが5 mmと薄すぎるだけでなく、外層の内面の再溶融により内層に混入する硬質MC炭化物の数が少なすぎた。

Claims (5)

  1. 外層と内層とが溶着一体化してなる圧延用複合ロールであって、
    前記外層が、質量基準で1~3%のCと、0.3~3%のSiと、0.1~3%のMnと、0.1~5%のNiと、1~7%のCrと、1~8%のMoと、5~10%のVと、0.005~0.15%のNと、0以上0.05%未満のBとを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるFe基合金からなり、
    前記内層が、質量基準で2.4~3.6%のCと、1.5~3.5%のSiと、0.1~2%のMnと、0.1~2%のNiと、0.7%未満のCrと、0.7%未満のMoと、0.05~1%のVと、0.01~0.1%のMgとを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる黒鉛鋳鉄からなり、
    前記内層が前記外層に溶着した胴芯部と、前記胴芯部の両端から一体的に延出する軸部とを有し、前記軸部の少なくとも一方が5μm以上の円相当径を有する硬質MC炭化物を200個/cm2以上含有することを特徴とする圧延用複合ロール。
  2. 請求項1に記載の圧延用複合ロールにおいて、前記外層がさらに0.1~3質量%のNbを含有するとともに、前記内層が0.5質量%未満のNbを含有することを特徴とする圧延用複合ロール。
  3. 請求項1又は2に記載の圧延用複合ロールにおいて、前記外層がさらに0.1~5質量%のWを含有するとともに、前記内層が0.7質量%未満のWを含有することを特徴とする圧延用複合ロール。
  4. 請求項1~3のいずれかに記載の圧延用複合ロールにおいて、前記外層がさらに、質量基準で0.1~5%のCo、0.01~0.5%のZr、0.05~0.5%のTi及び0.001~0.5%のAlからなる群から選ばれた少なくとも一種を含有することを特徴とする圧延用複合ロール。
  5. 請求項1~4のいずれかに記載の圧延用複合ロールにおいて、前記外層のMC炭化物の面積率が9~22%、基地粒界の共晶炭化物の面積率が2~10%であることを特徴とする圧延用複合ロール。
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