一般に、インクジェット記録分野で使用されるインクタンクは、インクを吐出するための記録ヘッドに対してインク供給を良好に行うために、インクタンク内に貯溜されているインクの保持力を調整するための構成を有している。このインクの保持力は、記録ヘッドのインク吐出部の圧力を大気に対して負とするためのものであることから、負圧、と呼ばれている。
この保持力を簡便に発生させる手段として、ポリウレタンフォーム等の多孔質体にインクを含浸させる方法がよく知られている。このような方法を用いることによって、図20(a)に示す一例のインクタンク101のように、筐体内に多孔質体からなるインク吸収体111を収容し、このインク吸収体111にインクを保持させた簡素な構成のインクタンクが得られる。
図20を参照して、この一例のインクタンク101についてもう少し詳細に説明する。インクタンク101の筐体は、ケース102とその開口面を閉じる蓋103によって構成され、筐体内の空間には、インクを保持し、また記録ヘッドへ供給するインクに対し負圧を作用させる働きをするインク吸収体111が収容されている。インク吸収体111としては、多孔質体または発泡体の他、繊維交絡体を用いることが知られており、その空隙部にインクが充填され、それによってインクに対して毛管力を作用させ、その毛管力がインクに対する保持力として利用されている。
ケース102の底部には、外部へインクを供給するための開口であるインク供給口110が形成されている。また、ケース102の底部には、インク供給口110に通じる筒状部113が形成され、この筒状部113内には、インク供給を安定的に行うために、インク吸収体111より毛管力が強く、かつ物理的強度の強いインク導出部材112が設けられている。
蓋103には、インクタンク101をインクジェット記録装置に装着し、また取り外す操作を容易にするために把手部形成部材150が取り付けられている。そして、この把手部形成部材150には、蓋103に設けられた大気連通口108aを介して、大気と筐体内を連通させるための大気連通口108bが形成されている。また、蓋103の内面側には、突起またはリブ124が形成され、このリブ124がインク吸収体111の上面に当接することによって、大気連通口108aの形成部下面に、インク吸収体111が存在しない空間125が確保されている。この空間125は、大気連通口108aからのインク漏れを防止する働きをするバッファ空間として機能する。
このインクタンク101は、図20(b),20(c)に示すように、インクジェット記録時の主走査を行うキャリッジ上に搭載された記録ヘッド部102に対して、着脱自在に装着されて用いられる。このために、キャリッジには、インクタンク101を着脱自在に支持する部分が設けられ、この部分はタンクホルダ154と呼ばれている。
このタンクホルダ154には、記録ヘッド部102とインクタンク101のインク供給口111の部分に配置されたインク導出部材112とを接続するための供給管152が設けられている。供給管152の先端には、フィルタ153が配置され、また、タンクホルダ154の、インク供給口111の周囲と接触する部分には、インクが漏れないように密封接続するためのシール部材151が設けられている。
インクタンク101は、図20(b)に示すように、回動させながらタンクホルダ154内に挿入され、図20(c)に示すように固定される。なお、位置決めや安定した固定のために、インクタンク101とタンクホルダ154には、互いに係合する係合部が設けられているが、図示を省略している。
図から分かるように、装着の際、インクタンク101底部に設けられたインク導出部材112は、供給管152によってインク吸収体111側に押し上げられるようになっている。その結果、インク吸収体111は、インク導出部材112の近傍の部分で少し圧縮される。その圧縮によって、インク吸収体111の圧縮された部分の毛管力が高まり、この部分にインクが集まりやすくなる。したがって、供給側へエアを巻き込まず安定したインク供給が可能となり、また、インクがインク吸収体111内に取り残されるのを低減し、すなわちインクの使い切り性を向上させることができるようになっている。
こうした形態のインクタンクが装着されるプリンタには、稀な例ではあるが、図21(a)に示すように、高さが比較的低くなるように置いた状態(平置き)でも、図21(b)に示すように、幅が比較的狭くなるように置いた状態(縦置き)でも使用できるものが実用に供されている。図21には、このプリンタにおいて、キャリッジガイドシャフト952に沿って往復移動可能に支持されたキャリッジに装着されたインクタンク951を模式的に示しており、この図から分かるように、インクタンク951は、平置きにした場合と縦置きにした場合とで、90°異なる姿勢で使用されることになる。すなわち、例えば、図20に示すインクタンク101を装着した場合、平置きの時には、図20(a)に示すように、インク供給口110が下方、大気連通口108aが上方に位置する姿勢で使用され、一方、横置きの時には、図20(d)に示すように、インク供給口110と大気連通口108aが横を向いた状態で使用される。
インク吸収体111の毛管力によって負圧を発生する構成のインクタンク101では、プリンタの平置き、あるいは横置きの、両方の姿勢での負圧、および初期から使いきりまでの負圧の変化に多少の差はあるが、その負圧発生原理がゆえに、上記のように90°異なる姿勢で使用しても、負圧を作用させながらインクを供給することが可能である。また、インクタンク101を搭載する、使用時姿勢が一通りのプリンタとしては、図20(a)に示すように、インクタンク101を、インクが重力方向に消費されていく姿勢で装着するように構成されるものが一般的であるが、インクタンク101を、始めから、図20(d)に示す姿勢で装着するように構成されたものも実用化されている。
一方、本出願人は、特許文献1において、上述のようなインクタンクに対して、インク吸収体を利用することによって負圧を伴ったインク供給を可能としつつ、インクの収容効率やインクの使用効率を高くすることができる、信頼性にも優れた簡便なインクタンクを提案している。
図22に、このような構成のインクタンク201の概略断面構成図を示す。このインクタンク201の内部は、連通部209を有する隔壁214によって2つの区画に仕切られている。一方の区画は、隔壁214の連通部209を除いて実質的に密閉されるとともに、インク215を直接収容するインク収容室227となっている。他方の区画は、インク吸収体232を収容するインク吸収体収容室228となっている。このインク吸収体収容室228を形成する壁面には、インク消費に伴ってインクタンク101内へ大気を導入するための大気連通口208と、記録ヘッド部(不図示)へインクを供給するためのインク供給口210とが形成されている。
図示の例では、連通部209には、インク吸収体室228側において、連通部209の貫通孔の上端から上方に延びる大気導入溝250が形成されている。この大気導入溝250は、インク収容室227側への大気導入を促進する働きをする。また、インクタンク201の筐体の、大気連通口208近傍にはリブ124によってインク吸収体232がない空間(バッファ室)225が確保されている。
なお、図22では、インク吸収体232の、インク215を保持している領域を斜線部、で示している。すなわち、インク吸収体215には、毛管力を発生可能な空隙が形成されており、インク吸収体215の下方の部分では、空隙内にインク215が充填され、上方の部分では、空隙内が主として大気で満たされており、これらの部分の境界として気液界面223が形成されている。また、図22において、インク215が直接貯留されている領域は網線部で示されている。
上述の構造では、不図示の記録ヘッドにより負圧発生部材232のインク215が消費されていくと、気液界面223は、やがて図22(a)に示すように、連通部209の上端、すなわち大気導入溝250の上端とインク吸収体232の当接した線251の位置に達する。この状態からさらにインク215が消費されると、以後のインク消費に伴って大気連通口208からインク吸収体収容室228に導入された大気が、隔壁214の連通部209を通じてインク収容室227に入る。これに替わって、インク215がインク収容室227から隔壁214に設けられた大気導入溝250および連通部209を介してインク吸収体収容室228内のインク吸収体232に充填される。この一連の動作を、以下では、気液交換動作と称する。
この気液交換動作が行われるために、記録ヘッドによりインクが消費されても、インク吸収体232には、その消費量に応じてインクが充填され、インク吸収体232は一定量のインクを保持した状態に保たれる(気液界面223の位置が維持される)。それによって、インク吸収体232は、記録ヘッドに対する負圧をほぼ一定に保ち、すなわち記録ヘッドへの安定したインク供給が保障される。
このような小型化と高使用効率とを実現可能なインクタンクは、本出願人により製品化されており、現在も実用に供されている。この際、このようなインクタンク201は、所定の気液交換動作が行われるようにするために、決められた姿勢(プリンタ設置場所の多少の傾斜を含む)でのみ使用可能である。
また、本出願人は、特許文献2において、上述のようなインクタンクの負圧発生部材として、熱可塑性を有するオレフィン系樹脂からなる繊維を用いたインクタンクを提案している。このインクタンクはインクの貯蔵安定性に優れるとともに、インクタンク筐体と繊維体材料とが同種の材料からなるためリサイクル性にも優れている。
特許第2951818号公報
特開平8−20115号公報
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明の、記録ヘッドへ供給する液体として、以下の実施形態ではインクを例にとって説明を行っているが、適用可能な液体としてはインクに限ることなく、例えばインクジェット記録分野にあっては、記録媒体に対する処理液などを含むことは言うまでもない。また、インクタンクの各断面図において、インク吸収体、すなわち負圧発生部材の、インクを保持している領域は斜線部で、インクが空間内に直接貯留されている領域は網線部で示している。また、インクタンクの各断面図は、静的な状態を示しているもののみではなく、負圧発生部材内のインクの消費が進み、インク収容室からインクを消費している(気液交換している)状態を示したものも含んでいる。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施形態のインクタンク1の概略断面図である、このインクタンク1は、幅方向に薄い偏平な形状を有しており、図1は、幅方向に垂直な面で切断した断面図である。このように幅方向に薄い偏平な形状のインクタンク1は、複数色のインクを収容した複数のインクタンク1を幅方向に配列して記録装置のキャリッジに搭載するのに適している。また、図1から分かるように、このインクタンク1では、幅方向に垂直な断面の形状が、縦横の大きさに比較的大きな差がある矩形状となっている。そして、このインクタンク1は、以下の説明から明らかになるように、図1(a)に示す、水平方向に長く、高さが低くなるように配置した状態(横姿勢、あるいは標準姿勢とも呼ぶ)としても、図1(b)に示す、高さが高く、水平方向に短くなるように配置した、横姿勢に対して90°回転させた状態(縦姿勢)としても、良好なインク供給動作が可能な構成を有している。
(インクタンクの構成)
まず、インクタンク1の構成について詳細に説明する。なお、ここでは、便宜上、標準姿勢とした状態を基準として「上下」などの語を説明に用いる。
インクタンク1の筐体は、ケース2と、その上面の開口を覆う蓋3によって構成されている。インクタンク1内は、内部に毛管力の異なる2つの負圧発生部材11a(毛管力弱い)、11b(毛管力強い)がそれぞれ上側、下側に積層されて収容された負圧発生部材収容室26と、液体のインク15を直接貯留して収容するインク収容室(液体収容室)27とに、隔壁14によって仕切られている。隔壁14には、インクタンク1の底部付近に、負圧発生部材収容室26とインク収容室27を連通させる連通部9が形成されている。2つの負圧発生部材11a,11bの当接面41は、連通部9の上端より上方に位置している。隔壁14は、負圧発生部材収容室26とインク収容室27を仕切るように鉛直下方に延びる垂直部14aと、垂直部14aの下端において、負圧発生部材収容室26側に水平に突出するように延びている水平部14bを有し、全体としてL字状になっている。この水平部14bの下面と、インクタンク15の底面との間が連通部9となっている。
インク収容室27は、連通部9を除いて実質的に密閉されている。一方、負圧発生部材収容室26は、上部で大気連通口8を介して大気に連通し、記録装置(不図示)に装着した時、奥側となる側面(図1(a)の左側面)でインク供給口(液体供給口)10に連通している。負圧発生部材収容室26内において、大気連通口8の周囲には、蓋3に形成されたリブ24が、圧縮状態で収容された負圧発生部材11aの上面と当接することによって、負圧発生部材11aの存在しないバッファ室25が確保されている。インク供給口10は、負圧発生部材11bが存在する高さ範囲内に位置しており、負圧発生部材11bとインク供給口10の間には、負圧発生部材11bよりさらに毛管力が強く、かつ物理的強度の強いインク導出部材12が配置されている。このインク導出部材12は、負圧発生部材収容室26の壁面および負圧発生部材11bと圧接するとともに、インク収容室27に収容されるインク15に直接接するように配置され、すなわち、インクタンク1の底面に沿って、連通部9側に延びる部分を有している。
本実施形態において、負圧発生部材11bは、従来技術として示した図22とは大きく異なる外形を有している。すなわち、負圧発生部材11bの、連通部9側の面の下部は、隔壁14の垂直部14aの、負圧発生部材収容室26側の内面位置より後退して、負圧発生部材収容室26内に入り込んでおり、入り込んだ部分より上の部分が、隔壁14まで延びる張り出し部11cとなっている。この張り出し部11cの、隔壁14側の先端には、隔壁14の垂直部14aに沿って下方に、隔壁14の水平部14bの上面まで延びる垂れ下がり部11dが形成されている。したがって、負圧発生部材11bは、連通部9に通じる部分で、全体としてコの字状になっており、負圧発生部材収容室26内には、負圧発生部材11bの、このコの字状になった部分と、連通部9とによって囲まれる部分が、インク収容室27内のインク15が直接流入可能な空間5aとなっている。
この空間5aの部分において、インクタンク1の底部には、インクタンク1の外面に面する面と、空間5a内に面する面を有する反射プリズム13aが配置されている。反射プリズム13aは、空間5a内に面する面にインク15が接しているか否かによって、外部から入射される光の反射量が変化するのを利用して、インク15の残量を検知するのに用いられる部材である。空間5aの下部領域は、図1(a)、(b)から理解されるように、横姿勢においても縦姿勢においても、負圧発生部材11a,11b、またはインク導出部材12に吸収されることなく直接貯留された状態のインク15の底部に位置する。そこで、この空間5aの部分に配置された反射プリズム13aを利用することによって、横姿勢の場合にも縦姿勢の場合にも、直接収容された状態のインク15がほぼ無くなったのを適切に検知することができる。
本実施形態において、負圧発生部材11aの張り出し部11cの下面は水平に延び、垂れ下がり部11dの、負圧発生部材収容室26側に面する側面は、垂直に延びている。これらの面は、後述するように、それぞれ横姿勢、縦姿勢でのインクタンク1の使用時、気液交換動作の際に、インク収容室27内に気体を導入する第1の気体導入面20a、第2の気体導入面20bとして機能する。
(負圧発生部材の材質)
ここで負圧発生部材11a,11bの材質に触れておく。材質としては、発泡ポリウレタン等の多孔質体や繊維材料等からなる様々な毛管体を用いることができる。繊維材料を用いれば、ウレタン等の多孔質体等に比べ、材料の選択自由度が大きいので、よりインク接液性に優れた材料を選択することができ、インクの接液安定性に優れたインクタンクを提供できる。また、繊維材料に熱可塑性の樹脂やインクタンク本体と同材質の材料を選択することで、リサイクル性にも優れたインクタンクを提供できる。この他、繊維材料として融点の異なる2種類の材料を用いた芯鞘構成の繊維材料を選択することで、繊維同士の交点を確実に熱接着により固定できるので、インク保持力(毛管力)が安定し、インク保持特性、すなわち負圧特性の安定したインクタンクを提供することができる。本実施形態では、負圧発生部材11a,11bとして、芯部がポリプロピレン、鞘部がポリエチレンからなるオレフィン系樹脂からなる繊維材料を、方向性を揃え、熱成形したものを使用している。これは、ポリプロピレンとポリエチレンの融点の違いを利用し、熱成形する時の温度を、融点の低い材料の融点と融点の高い材料の融点との間に設定する(例えばポリエチレンの融点より高く、ポリプロピレンの融点より低く設定する)ことで、融点の低い繊維材料を接着剤として利用することができ、繊維同士の交点を、相対的に融点の低い鞘部のポリエチレンを溶融させ固定することが容易にでき、本発明におけるような優れた特性のインクタンクを上で好都合であるので好ましい構成である。
(横姿勢におけるインク供給動作)
続いて、図2〜4を用いて横姿勢(標準姿勢)におけるインク供給動作を説明する。
図2(a)は、インク収容室27および負圧発生部材11a,11b、インク導出部材12にインク15が充填された、インクタンク1の使用開始前の状態を示している。インク15は、負圧発生部材11a内において、気液界面23aで示す液面高さまで充填されており、それより上部の領域11eは、インク15を保持しない負圧発生部材領域となっている。インク供給口10を介して記録ヘッド(不図示)へのインク供給を続けていくと、液面高さは低くなっていく。この際、負圧発生部材11a,11bの毛管力の差のために、気液界面は、図2(b)に符号23bで示すように、一旦、負圧発生部材11aと11bの当接面41に沿って水平な状態になる。その後、さらにインク供給が行われると、気液界面は、やがて、図2(c)に符号23cで示すように、負圧発生部材11bの張り出し部11cの底面、すなわち第1の気体導入面20aの位置の直ぐ上の高さとなる。
この状態よりわずかにインク供給が行われると、気液界面が低下し、ほぼ水平な第1の気体導入面20aのメニスカスが破られ、図3(a)に示すように、インク収容室27へ大気が取り込まれるとともに、替わりにインク収容室27内のインク15が連通部9および空間5aを介して、負圧発生部材11bに充填される(動作C)。充填されたインクは、インク導出部材12およびインク供給口10を介して記録ヘッドへ供給されるとともに、わずかなインク15が、第1の気体導入面20aにおいてメニスカスを再形成し、大気の導入を停止する(動作D)。したがって、インク供給が行われても、インク収容室27にインク15が存在する限り、動作Cと動作Dが小刻みに繰り返され、負圧発生部材収容室26における気液界面は図3(a)に23dで示す位置からがほとんど変化することなく、その結果、供給されるインク15には負圧発生部材11bによってほぼ一定の負圧力が作用し、安定した記録ヘッドへのインク供給が可能となる。
図3(b)は、このようにしてインク15が消費されていき、インク収容室27のインク15の液面高さが、第1の気体導入面20aより低くなった状態を示している。この状態では、第1の気体導入面20aの下方は空気となっているため、図3(a)に示したようなインク15中を立ち上る気泡は観察されないが、気液交換動作は問題なく行われる。
そしてまた、本発明にとって重要なポイントは、液体収容室27内のインク液面高さが気体導入面20aより下方に位置するようにインクの消費が進んでいたとしても(図3(b)参照)、負圧発生部材11bを介して気体導入面20aにインクが速やかに達し、破壊(気液交換の気体導入路が開状態)状態となっていた気体導入面20aのメニスカスが速やかに再生(気液交換の気体導入路が閉状態)される点である。特に、所定の毛管力を発生する繊維交絡体、特にポリエチレンやポリプロピレンに代表されるポリオレフィン樹脂を素材とした繊維交絡体は、同じ毛管力を発生する発泡体に比し、吸収速度が速いため、より好適である。
さらにインク供給を続け、インク収容室27内のインクがほぼなくなると、底部に配置された反射プリズム13によってインク収容室27が空になったことが検出される。以後、供給可能な最大インク量は、ほぼ、負圧発生部材11bの、23dで示す気液界面より下の領域に保持されたインク量となる。すなわち、図3(c)に示すようにインク収容室27が空になった後は、負圧発生部材11b、およびインク導出部材12に保持されたインク15が供給されていき、最終的に、図4のごとく、これらのインク15もほぼ使い切るまで、インク供給を続けることが可能である。
(縦姿勢におけるインク供給動作)
続いて、図5〜8を用いて縦姿勢におけるインク供給動作を説明する。
図5は、図2(a)に示す横姿勢の場合と同量のインク15が収容された同一のインクタンク1の使用開始前の状態を示している。縦姿勢にした場合でも、負圧発生部材11a,11bの毛管力の差のために、インク15は負圧発生部材11b側全体を満たし、負圧発生部材11a内に、23pで示すように気液界面が形成される。すなわち、負圧発生部材11aの、23pで示す気液界面より上部の領域11eは、インク15を保持していない領域となっている。
インク供給口10を介して記録ヘッド(不図示)へインク15を供給していくと、負圧発生部材11a内の気液界面が下がっていく。そして、負圧発生部材11bの上端と負圧発生部材11aにおける気液界面との高さの差が、図6(a)に示すように、負圧発生部材11aと11bの毛管力差に相当する水頭差Hになる、23qで示す高さに、負圧発生部材11aにおける気液界面が下がるまでは、負圧発生部材11b側では気液界面が低下することなく、インク供給が行われる。
負圧発生部材11aにおける気液界面が、23qで示す高さよりも低くなると、負圧発生部材11a,11bの両方において気液界面が下がっていく。この際、負圧発生部材11aと11bの気液界面の高さの差は、上述の高さHに保たれる。
そして、図6(b)に示すように、負圧発生部材11bにおける気液界面は、やがて、23sで示すように、負圧発生部材11bの垂れ下がり部11dの、この縦姿勢での底面となる第2の気体導入面20bの近傍に達する。この際、負圧発生部材11aにおける気液界面は、23rで示す、23sより高さHだけ低い位置となっている。
この状態よりわずかにインク15が供給されると、負圧発生部材11a,11bにおける気液界面が低下し、この縦姿勢においてほぼ水平な第2の気体導入面20bのメニスカスが破られ、図7(a)に示すように、インク収容室27へ大気が取り込まれるとともに、替わりにインク収容室27内のインク15が連通部9および空間5aを介して、負圧発生部材11bに充填される(動作E)。充填されたインク15は、インク導出部材12およびインク供給口10を介して記録ヘッドへ供給されるとともに、わずかなインク15が、第2の気体導入面20bにおいてメニスカスを再形成し、大気の導入を停止する(動作F)。したがって、その後インク供給が継続されても、インク収容室27にインク15が存在する限り、動作Eと動作Fが小刻みに繰り返され、気液界面は、図7(a)に示す位置23rおよび23sからがほとんど変化することがない。この動作Eと動作Fの小刻みな繰り返しが行われるのは、横姿勢での動作Cと動作Dの小刻みな繰り返しと同様である。したがって、ほぼ一定の負圧を伴った安定した記録ヘッドへのインク供給が可能となっている。
図7(b)は、さらにインク供給を続け、直接保持されているインク15の液面が、第2の気体導入面20bより低くなった状態を示している。この状態では、第2の気体導入面20bの下方は空気となっているため、図7(a)に示したようなインク15中を立ち上る気泡は観察されないが、気液交換動作は問題なく行われる。
この際、メニスカスの再形成が、前述したのと同様に行われる。すなわち、本発明にとって重要なポイントの1つは、液体収容室27内のインク液面高さが気体導入面20bより下方に位置するようにインクの消費が進んでいたとしても(図7(b)参照)、負圧発生部材11bの垂直面20aを介して気体導入面20bにインクが速やかに達し、破壊(気液交換の気体導入路が開状態)状態となっていた気体導入面20bのメニスカスが速やかに再生(気液交換の気体導入路が閉状態)される点である。特に、所定の毛管力を発生する繊維交絡体、特にポリエチレンやポリプロピレンに代表されるポリオレフィン樹脂を素材とした繊維交絡体は、同じ毛管力を発生する発泡体に比し、吸収速度が速いため、より好適である。
図7(b)の状態を経て、インク供給をさらに続け、直接保持されたインク15がほぼなくなると、この縦姿勢の場合においても、反射プリズム13によって直接保持されたインク15が無くなったことを検出することができる。以後、供給可能な最大インク量は、負圧発生部材11aの、23rで示す高さより下の領域、および負圧発生部材11bの、23sで示す高さより下の領域に保持されたインク量となる。すなわち、図8(a)に示すように、直接保持されたインク15が無くなった後は、負圧発生部材11a,11b、およびインク導出部材12に保持されたインク15が供給されていき、最終的に、図8(b)のごとく、これらのインク15もほぼ使い切るまで、インク供給を続けることが可能である。
(高い供給性能)
続いて、本実施形態の構成が、インク供給量を増大させてもインク切れを起こさず、しかも流抵抗の増大を抑制するように作用するメカニズムについて説明する。
本実施形態の構成では、図3(a)および図7(a)を参照すれば分かるとおり、いずれの姿勢においても、気液交換時に大気導入をスイッチングするメニスカス形成面(気体導入面20a,20b)は、インクタンクの使用時姿勢においてほぼ水平になっており、インク液面と略平行であることも意味しており、したがって、第1または第2の気体導入面20aまたは20b内のメニスカス力はほぼ一定である。このため、インク15の供給に伴って気液界面が下がった際、図22を参照して説明した従来の構成におけるように気液界面の低下にしたがって、気体導入面の面積が広がっていくのとは異なり、これらの第1、第2の気体導入面20a,20bにおいては、気液界面がさらに低下するのを待たずとも、次々とメニスカスが破壊し一気に広い面積の気体導入面か確保される。それによって、インク収容室27内への空気の導入が効率的に行われるようにすることができ、その結果、負圧発生部材11b内の気液界面が、気体導入面20a,20bを大きく下回って下がるのを抑制することができる。したがって、負圧発生部材11bによる発生負圧の変動を抑え、また、気液界面がインク供給口10付近にまで達することによるインク切れを抑制することができる。
図22を参照して説明した従来の構成と、本実施形態の構成との差についてさらに説明すると、従来の構成では、インク収容室への気体導入面が、垂直方向に、しかも毛管力が増大する方向に広がるのに対して、本実施形態の構成では第1または第2の気体導入面11a,11bはほぼ水平であり、その面における毛管力はほぼ均一である。このため、従来の構成において、本実施形態におけるのと同一面積の気体導入面が確保された状態で比べても、本実施形態における方が、効率的な気体導入が可能である。
このような本実施形態のインクタンク1について、大きさなどの条件を従来のものとほぼ同じにして実験を行った結果、本実施形態のインクタンク1によれば、従来の5倍から10倍のインク供給量に対しても、インク切れを起こさずに供給が可能であった。より具体的には、幅8mmのインクタンクにおいて、張り出し部11cの長さを4mm程度、気体導入面20aの面積にして30mm2程度とすれば、例えば10倍の供給性能(10ml/min)でも十分に引き出せることが数々の検証実験の結果判明した。
(流抵抗低減効果)
本実施形態の構成によれば、さらに、気液交換にまつわる抵抗成分が従来に比べて大幅に減少し、そのために、インク供給時の流抵抗成分を、大流量のインク供給時にも、従来の低流量時並みに抑制することが可能であることも見出された。これを模式的に示したのが、図9である。
図9のグラフはインクジェット記録ヘッドへのインク供給時の記録ヘッド吐出口部における負圧を表したもので、縦軸にインク供給時の流抵抗を含めた動的負圧(全負圧)、横軸にインクタンクから供給されたインクの、トータル消費量をとっている。同図において、P0は、インクを供給していない状態での記録ヘッド部における負圧、すなわち静負圧を示している。この静負圧P0は、インク供給初期には、負圧発生部材における気液界面が下がっていくことによって、徐々に強くなっている。その後、気液交換動作によって負圧発生部材における気液界面が一定に保たれる間、静負圧P0は一定に保たれている。その後、直接保持されたインクがなくなり、負圧発生部材における気液界面が再び下がり始めることによって、静負圧は、再び徐々に強くなっている。
P1は、本実施形態のインクタンクを用いた場合の、インク供給中の、記録ヘッド部における負圧、すなわち全負圧を示しており、インクの流抵抗および気液交換にまつわる抵抗成分の分、R1だけ、静負圧P0よりも強くなっている。
P3は、従来の構成のインクタンクを用いた場合の全負圧を示している。図9に示す結果は、単位時間当たりのインク供給量を、従来よりも多くした場合のものであり、このため、従来の構成では、気液交換動作が開始された後も、負圧発生部材における気液界面が低下し、そのために、全負圧が引き続き次第に強くなっている。従来の構成では、最終的に気液界面がインク供給口にまで達し、インク供給が途絶え、インク切れ現象が引き起こされている。
P2は、従来の構成のインクタンクを用いた場合について、インク切れが引き起こされない程度にインク供給量を抑えたと仮定した場合の全負圧を示している。この場合における流抵抗成分R2に比べて、本実施形態の場合の流抵抗成分R1は、劇的に抑制されており、すなわち、従来のインクタンクよりも負圧の増大を抑制して高流量のインク供給量を実現できている。これは、前述した通り、本実施形態の構成のインクタンク1では、比較的大面積の気体導入面20aまたは20bを一気に確保することができるので、従来のインクタンクのように、負圧発生部材内において気液界面が低下すること無く、しかも、この気体導入面全体において毛管力がほぼ均一であるので、インクの導出量に見合った大量の空気を、従来の構成におけるよりも抵抗を抑えて速やかにインク収容室内へ導入することができるためである。
なお、本実施形態において、インクタンク1を、使用途中で別の装着姿勢のプリンタに付け替えるなどして、装着姿勢を変える場合、姿勢変更に伴って、負圧発生部材11a,11b内でインクの移動(当然、気液界面も移動)やそれに伴う多少の気液交換が起こる可能性がある。しかし、両姿勢でのインク供給性能がほぼ同一になるように、気体導入面20a,20bの面積をほぼ揃えるなどの構成を設定しておけば、使用途中のどの段階において姿勢変更を行ったとしても、それによって信頼性が損なわれたり、インク供給性能が低下したりすることはない。
また、本実施形態では触れなかったが、負圧発生部材11a,11bおよびインク導出部材12のそれぞれが、またそれらと、負圧発生部材収容室26の、隔壁14を含む内壁とが、確実に密着するように適宜リブ等を設けることは本発明に有効な補助手段である。また、空間5aおよび張り出し部11c、垂れ下がり部11dは、供給性能に十分なほぼ水平の気体導入面20a,20bを確保できるように構成すればよく、図示した構成に限定されるものではない。この際、気体導入面20a,20bより発生する気泡群の速やかなインク収容室27への移動を妨げぬよう、構成するのも効果的である。すなわち、例えば、図4に示したように、隔壁14の水平部14bの、負圧発生部材収容室26側の端面と、負圧発生部材11bの垂れ下がり部11dの、負圧発生部材収容室26側の面、すなわち第2の気体導入面20bの位置をG1だけずらしてもよく、この差G1はマイナス寸法からプラス寸法まで許容でき、適宜設定することができる。
(第2の実施形態)
図10は、本発明の第2の実施形態のインクタンク1の概略断面図であり、(a),(b)はそれぞれ横姿勢と縦姿勢を示している。本実施形態のインクタンク1の基本構成は、第1の実施形態に示したものと同様であるが、隔壁14の構成がやや異なっている。すなわち、第1の実施形態では、負圧発生部材11bの垂れ下がり部11dの、横姿勢での低面となる面11fの下方にL字状に回り込むように、隔壁14に水平部が設けられていたが、本実施形態では、この水平部が設けられていない。
図11〜13は、本実施形態のインクタンク1を横姿勢で使用した場合のインク供給動作を示している。詳細は省略するが、横姿勢でのインク供給動作は第1の実施形態と同様である。すなわち、インク15が消費されていくにしたがって、負圧発生部材11a内に気液界面が存在する状態(図11(a))から気液界面が下がっていき、気液界面は、負圧発生部材11a,11bの当接面41に一旦揃った(図11(b))後、第1の気体導入面20a付近に達する(図11(c))。その後、さらにインク15が消費されると、気液交換動作が行われ(図12(a))、直接保持されたインク15が無くなるまでの間、気液界面は、第1の気体導入面20aの位置に維持される(図12(b)、12(c))。その後、負圧発生部材11a,11bおよびインク導出部材12内のインクが消費されて、インクタンク1のインク15が使い切られる(図13)。このような動作によって、第1の実施形態において説明したのと同様の効果が得られる。
縦姿勢の場合には、負圧発生部材11bの垂れ下がり部11dの、横姿勢での底面となる面11fが、ほぼ水平の大面積の気体導入面20bが気体導入面として作用し始めるのに先立って、ほぼ垂直な気体導入面として作用し始める。インク供給量が多い場合には、従来技術におけるように、このほぼ垂直な気体導入面として作用する面11fからの、インク収容室27への気体導入では間に合わず、負圧発生部材11b内での気液界面の低下が生じる。しかし、このようにして気液界面が第2の気体導入面20bにまで達した後は、第1の実施形態におけるのと同様に、この第2の気体導入面20bからの効率的な気体導入によって、気液界面のそれ以上の低下が抑えられ、したがって、大容量の安定したインク供給が可能となる本発明の効果が得られる。この際、気液界面が、負圧発生部材11b内で、第2の気体導入面20bの位置まで下がる間、負圧の変動が生じることになるが、この変動は、負圧発生部材11bの垂れ下がり部11dの幅分の、僅かなものであり、また、気液交換動作が開始されてから、気液界面が第2の気体導入面20bに達するまでのタイムラグも僅かであり、さほどの問題は生じない。また、従来技術のように、気液界面がどんどん低下し、供給負圧の安定性が得られないばかりか、インク切れ現象までも引き起こす、といった恐れもない。
したがって、本実施形態の構成によれば、第1の実施形態よりも構成を簡素なものとしつつ、第1の実施形態とほぼ同様の効果が得られる。
(縦横両姿勢の装着方法)
ここで、図14を用いて、第1あるいは第2の実施の形態で説明したインクタンク1を装着する、インクジェット記録装置(液体吐出記録装置)の搭載部の構成について説明する。
図14(a)および(b)は、インクジェット記録装置としての、奥行きの浅い縦置きプリンタへの搭載例を示した図である。詳細には図示していないが、このプリンタは、搬送される被記録媒体上で往復移動可能に支持されたキャリッジを有しており、インクタンク1は、このキャリッジ上に設けられたタンクホルダ54に搭載される。
インクタンク1は、図14(a),(b)から分かるように、回動させられながら、タンクホルダ54上に搭載される。インクタンク1の筐体外面とタンクホルダ54には、互いに係合し、位置決めや安定した固定のために利用される不図示の係合部を設けることができる。タンクホルダ54には、インクタンク1のインク供給口10と接続される供給筒52が設けられ、この供給筒52は、インクを吐出して記録を行う機構であるインクジェット記録ヘッド部70に通じている。供給筒52の先端には、記録ヘッド部70に気泡や異物が侵入するのを防止する働きをするフィルタ53が配置されている。また、供給筒152の周囲には、インクタンク1のインク供給口10の周囲の部分に当接して、インク漏れや空気の浸入を防ぐ働きをするシール部材51が配置されている。また、タンクホルダ54には、インクタンク1を装着した状態で、インクタンク1に設けられた反射プリズム13に対面する位置に貫通穴60が形成され、プリンタには、光を、この貫通穴60を通して反射プリズム13に入射させ、反射プリズム13から反射された光量を検出する光照射・検出機構61が設けられている。この光照射・検出機構61の検出信号によって、インクタンク1内に直接保持されたインクがほぼ無くなったのを判定することができる。
図14(a),(b)に示す、奥行きの浅い縦置きプリンタの場合、図から理解されるように、インクタンク1は、プリンタ内に鉛直方向に比較的スペースを取りやすいのに合わせて、縦姿勢の状態で装着され使用される。一方、図14(c)は、高さの低い薄形の平置きプリンタへの搭載例を示した図であり、この場合、インクタンク1は、プリンタ内に水平方向に比較的スペースを取りやすいのに合わせて、横姿勢の状態で装着され使用される。図14(c)に示す例では、記録ヘッド部70の配置も含めて、タンクホルダ54は、図14(a),(b)に示すものと、向きが異なるのみで同じ構成を有している。したがって、縦置きプリンタと横置プリンタで、部品の共用化を図ることが可能になっている。この際、記録ヘッド部70からのインク吐出方向が、図14(a),(b)の構成では下向きであるのに対して、図14(c)の構成では横向きとなっており、インク吐出条件は多少異なるが、インク供給については、ほぼ同様の負圧を伴ったインク供給を行えば、良好なインク吐出が可能である。したがって、本発明によれば、両方のプリンタにおいて同じインクタンク1を共通して利用可能であり、同時に、前述のようにインク収容室を兼ね備えインク収容効率が高く、安定したインク供給が可能となる効果も得られる。
なお、タンクホルダ54側については、例えば、図15に示すように、記録ヘッド部70を、平置きプリンタの場合にも、下方に向かってインク吐出する構成とするなど、適宜変更が可能である。また、インクタンク1の、タンクホルダ54への装着方法として、回動させながら装着する構成を示したが、これに限られることはなく、例えば、スライドさせて装着する構成としてもよいし、縦置きプリンタの場合と平置きプリンタの場合とで装着方法が異なる構成としてもよいのはもちろんである。
(第3の実施形態)
図16は、本発明の第3の実施形態のインクタンク1の構成を示す断面図である。図16(a)は、縦姿勢の状態、図16(b)は横姿勢の状態で気液交換動作が行われているのを示している。
本実施形態のインクタンク1は、第1の実施形態とインク供給口10の位置が異なっており、横姿勢の状態での底面の、負圧発生部材11bの直下となる位置に配置されている。それに伴って、インク導出部材12は、横姿勢の状態における底面部分にのみ設けられている。他の構成は第1の実施形態と同様である。
本実施形態の構成でも、第1の実施形態と同様なインク供給動作が行われ、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
なお、インク供給口10は、インクタンク1の角部に斜めに配置してもよく、この場合、縦姿勢の場合にも、横姿勢の場合にも、インク供給口10が45°の角度で斜め下方を向くようにすることができる。
(第4の実施形態)
図17は、本発明の第4の実施形態として、負圧発生部材とインク導出部材の構成のバリエーションを示している。すなわち、図17(a)に示す構成では、インク導出部材が省略されている。図17(b)に示す構成では、負圧発生部材が、符号11で示す1つのみとなっている。図17(c)に示す構成では、インク導出部材が省略され、かつ負圧発生部材が1つのみとなっている。これらの構成に比べて、上述の実施形態の構成は、気液界面を水平にする作用や、インクがインク供給口部分に導かれやすくする作用などの点で有利であるが、図17(a)〜(c)に示すような構成でも、縦姿勢、横姿勢のいずれの姿勢でも大容量のインクを安定して供給可能とする本発明の効果が得られる。
なお、特に図17(c)に示す構成において、記録装置に装着した際、インク供給口10に接続される供給管がインクタンク1内に挿入されることによって、負圧発生部材11が強く圧縮される構成とするのが望ましい。それによって、負圧発生部材11の、インク供給口10付近の部分での毛管力を高めて、インクがインク供給口10側に効率的に集まるようにし、また、エアがインク供給口10を通るのを抑制して、インク供給の安定化を図ることができる。この構成は、図17(a),(b)や第1、第2の実施形態の構成に適用しても有効な作用が得られる。また、図17(b)や(c)のように、負圧発生部材11を1つのみとする場合、ポリウレタンフォームなどの発泡体を用いることによって、両姿勢での性能差を出にくくすることができる。
(第5の実施形態)
図18は、本発明の第5の実施形態を説明するインクタンク1の概略断面図である。本実施形態の構成では、負圧発生部材11bの形状が第2の実施形態と異なっている。すなわち、第2の実施形態では、負圧発生部材11bには、張り出し部11cの先端に垂れ下がり部が形成され、全体としてコの字状になっていたが、本実施形態の構成では、この垂れ下がり部が省略され、負圧発生部材11bは、全体としてL字状になっている。
この比較的シンプルな構成であっても、本発明の効果が得られる。すなわち、まず、図19(a)に示す横姿勢の状態では、負圧発生部材11cの、横姿勢の状態での底面である第1の気体導入面20aが、気液交換動作時に、空気をインク収容室27に導入する働きをし、したがって、第1、第2の実施形態と同様のインク供給動作が得られる。一方、図19(b)に示す横姿勢の場合、負圧発生部材11aの根元の部分から、インクタンク1の壁面に向かって延びる面20cが、第2の気体導入面として作用する。この第4の実施形態においては、この第2の気体導入面20cは、インクタンク1の縦姿勢の状態において、ほぼ水平になっている。この第2の気体導入面20aは、第2の実施形態における第2の気体導入面が下向きであったの対して、上向きであるという違いがあるが、気液交換動作において、気体をインク収容室27側へ導入する動作原理自体は、第2の実施形態と何ら変わることはない。
したがって、本実施形態においても、第1、第2の実施形態と同様に、気液交換動作において、各姿勢においてほぼ水平に位置する気体導入面20a,20cの作用によって、気体が効率的にインク収容室27に導入され、それによって負圧発生部材11bにおける気液界面の低下を抑制し、縦姿勢、横姿勢のいずれの姿勢でも大容量のインクを安定して供給可能とする本発明の効果が得られる。
ただし、本実施形態においても、縦姿勢の場合、気液交換動作の開始時には、第1の気体導入面20aが垂直な大気導入面として作用し始めることに注意する必要がある。したがって、インク供給量が比較的大容量の場合、負圧発生部材11a,11b内における気液界面は、気液交換動作が開始さら始める際の位置23r−1,23s−1に対して、位置23r−2、23s−2までの低下を生じ、その後、第2の気体導入面20cの作用によって、気液界面はこの位置に安定して維持される。この際、気液交換動作開始後に、負圧発生部材11a,11b内において気液界面が低下する間、第2の気体導入面20cの作用による安定した気液交換動作が開始されるまでの間に、僅かではあるが、負圧の変動とタイムラグが生じることを考慮して、これらが大きくならないように、負圧発生部材11bの張り出し部11cの長さ(図11(b)に示す縦姿勢における高さ)を適正に設定することが好ましい。
なお、以上の各実施形態では、負圧発生部材収容室26とインク収容室27との並び方向に長い形状のインクタンク1を示した。この構成は、奥行きの浅い縦置きプリンタと、高さの低い横置きプリンタとで、互いに姿勢を90°変えて装着するのに有利な構成であり、本発明の、縦姿勢、横姿勢の両方で、良好なインク供給が可能となる効果が生かされるものであるが、本発明は、このような構成に限定されるものではない。すなわち、幅方向に十分な厚みがあるものであっても、立方体に近い形状のものであっても、本発明の効果を損ねることはなく、本発明を好適に適用可能である。また、負圧発生部材の、連通部9部分の形状については種々のバリエーションが考えられるが、異なる姿勢いずれにおいてもインク残りをできるだけ少なくし、あるいはインク残量検知手段を共通に利用可能とするために、負圧発生部材は、両使用時姿勢において、インクが直接貯留される領域と、インクが負圧発生部材に保持されて収容される領域とを、ほぼ水平方向およびほぼ垂直方向に区画する構成とするのが望ましい。
最後に、適正なインク充填量・充填状態について触れる。インクは、まず、図1(a),(b)に示すように、インクタンク1の初期状態(使用開始状態)では、インク収容室27と負圧発生部材収容室26とがほぼ完全にインクで満たされた状態となっている。もし満たされていないと、負圧発生部材収容室の未充填領域11eあるいはバッファ空間25に存在する空気が、負圧発生部材に保持されているインクと入れ替わったりしながら、意図しない空気がインク収容室内に流れ込むおそれがある。望ましくは、前記2つの面のうち、使用時姿勢において水平に配置される面よりも上方の負圧発生部材領域にまでインクが保持されているのがよい。また、毛管力の異なる負圧発生部材を、一使用姿勢における上下方向に積層して収容したインクタンクにおいては、インクタンクの2つの使用時姿勢を含むいかなる姿勢であっても、前記第1及び第2の負圧発生部材の圧接部の界面の全域にわたってインクが保持される量のインクを充填することが望ましい。このように充填することで、インクタンク製造後、使用されるまでの流通過程において、負圧発生部材収容室の未充填領域11eあるいはバッファ空間25に存在する空気が、負圧発生部材に保持されているインクと入れ替わったりしながら、意図しない空気がインク収容室内に流れ込み、代わりにインクが負圧発生部材領域に流れ出したりしてくることを防止できる。