JP3942005B2 - 無段変速機の変速制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、無段変速機の変速制御、特に、変速応答遅れを補償し得るようにした変速制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
トロイダル型無段変速機やVベルト式無段変速機などの無段変速機は、エンジンからの入力回転を無段階に変速して出力することができ、変速品質が有段の自動変速機に較べて良好である。
そして無段変速機の変速は通常、実変速比が、運転状態に応じた目標変速比となるようステップモータ等の変速アクチュエータを駆動して行い、トロイダル型無段変速機の場合、例えば図1に示すような制御系を用いて以下の如くに行われるのが普通である。
図1においてDratioは到達変速比(定常的に目標とすべき変速比)で、図2に例示する予定変速マップを基に車速VSPおよびエンジンスロットル開度TVOから求めた変速機の目標入力回転数Ni * を変速機出力回転数で除算して到達変速比Dratioを求める。
【0003】
また1は、この到達変速比Dratioをどのような過渡応答で実現するかを決定するためのフィルターで、これに到達変速比Dratioを通すことにより、その時定数G(s)で決まる目標変速比Ratio0(フィードフォワード制御量)を求める。
2は減算器で、目標変速比Ratio0に対する実変速比Ratioの偏差ΔRatioを求め、この変速比偏差ΔRatioを基にPI演算器3(Pは比例制御:Iは積分制御)でフィードバック制御量FBRTOを求める。
【0004】
更に4はトルクシフト補償量マップで、ステップモータなどの変速アクチュエータの駆動位置に対応した設計上の変速比(ノミナル変速比)に対する実変速比の定常的なずれであるトルクシフト(トロイダル型無段変速機において特に顕著に発生する)が補償されるよう目標変速比Ratio0を補正するためのトルクシフト補償量TSRTOのマップで、予め図3に例示するように与えておく。
かかるトルクシフト補償量マップ4を基に変速機入力トルクTKTinTRQおよび目標変速比Ratio0からトルクシフト補償量TSRTOを求める。
【0005】
指令変速比演算器5は、目標変速比(フィードフォワード制御量)Ratio0、フィードバック制御量FBRTO、およびトルクシフト補償量TSRTOを合算して最終的な指令変速比DSRRTOを求める。
変速アクチュエータ(ステップモータ)駆動指令演算部6は、図4に例示するマップを基に指令変速比DSRRTOから、指令変速比DSRRTOを実現するためのモータステップ数Stepをトロイダル型無段変速機7の変速アクチュエータであるステップモータに指令する。
トロイダル型無段変速機7は、変速アクチュエータであるステップモータがモータステップ数Stepに対応した位置になることで、伝達関数Pr(s)により表される変速応答遅れをもって実変速比Ratioを指令変速比DSRRTOとなし、実変速比Ratioを理論上はトルクシフトの影響を受けることなく所定の時定数で目標変速比Ratio0に一致させることができる。
【0006】
ここで上記の変速制御を、図7(a)に示すごとくスロットル開度TVOを4/8から0/8にするアクセルペダル操作があった場合につき説明するに、かかるアクセルペダル操作にともなう変速時の過渡制御では、変速機入力トルクTKTinTRQ、変速機入力回転数Ni 、目標入力回転数Ni * 、到達変速比Dratio、目標変速比Ratio0、実変速比Ratio、フィードバック制御量FBRTO、トルクシフト補償量TSRTOがそれぞれ同図に示されるように時系列変化する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、トロイダル型無段変速機7の変速制御系には伝達関数Pr(s)により表される変速応答遅れがあることから、変速の過渡期においては図7(a)に示す目標変速比Ratio0と実変速比Ratioとの比較から明らかなように、そしてハッチングを付して示したごとく、当初は実変速比Ratioが目標変速比Ratio0に対して遅れ、その後は実変速比Ratioが目標変速比Ratio0よりも下回るアンダーシュートを発生する。
【0008】
この場合、狙い通りの変速制御が行われずに運転性の悪化を招くだけでなく、後期のアンダーシュートは更に変速機入力回転数Ni の経時変化から明らかなように、瞬時t1においてエンジン回転数の一時的な大きな低下を惹起し、ここで、上記のアクセルペダル操作で開始されていたフューエルカット(エンジンへの燃料供給の停止)が中止されて燃料供給が再開(フューエルリカバー)され、フューエルカットによる燃費低減効果の減少とフューエルリカバーショックの発生を招くという問題を生ずる。
【0009】
また上記の変速応答遅れは、トルクシフトが図3から明らかなように変速比に応じて異なるため、トルクシフトの発生にも関与し、上記のトルクシフト補償は実際に発生しているトルクシフトを補償していることにならず、過渡的には補償のタイミングが適切でないことから、この点でも狙い通りの変速制御が行われずに運転性の悪化を招くという問題を生ずる。
【0010】
請求項1に記載の第1発明は、目標変速比を操作することにより、上記の変速応答遅れによっても実変速比が目標変速比に良く追従し得るようにすると共に上記アンダーシュート(オーバーシュート)が発生しないようにした無段変速機の変速制御装置を提案することを目的とする。
【0011】
請求項2に記載の第2発明は、上記のトルクシフト補償も変速応答遅れによる影響を受けることなく狙い通りに行い得るようにした無段変速機の変速制御装置を提案することを目的とする。
【0012】
請求項3に記載の第3発明は、第1発明のように目標変速比を操作して変速応答遅れによる影響を排除するに際し、無段変速機の状態に関係なくこの排除を確実なものにし得るようにした無段変速機の変速制御装置を提案することを目的とする。
【0013】
請求項4に記載の第4発明は、第2発明のようにトルクシフト補償をも変速応答遅れによる影響を受けることのないようにするに際し、無段変速機の状態に関係なくこの排除を確実なものにし得るようにした無段変速機の変速制御装置を提案することを目的とする。
【0014】
請求項5に記載の第5発明は、変速アクチュエータの駆動速度に関係なく、変速応答遅れによる影響を確実に排除し得るようにした無段変速機の変速制御装置を提案することを目的とする。
【0015】
請求項6に記載の第6発明は、変速アクチュエータの駆動速度が極端に遅くて変速応答遅れによる影響を確実に排除し得ない場合において、当該排除のための制御が無駄に行われることのないようにした無段変速機の変速制御装置を提案することを目的とする。
【0016】
請求項7に記載の第7発明は、無段変速機の回転数に関係なく、変速応答遅れによる影響を確実に排除し得るようにした無段変速機の変速制御装置を提案することを目的とする。
【0017】
請求項8に記載の第8発明は、無段変速機のライン圧に関係なく、変速応答遅れによる影響を確実に排除し得るようにした無段変速機の変速制御装置を提案することを目的とする。
【0018】
請求項9に記載の第9発明は、無段変速機の作動油温に関係なく、変速応答遅れによる影響を確実に排除し得るようにした無段変速機の変速制御装置を提案することを目的とする。
【0019】
請求項10に記載の第10発明は、無段変速機の実変速比に関係なく、変速応答遅れによる影響を確実に排除し得るようにした無段変速機の変速制御装置を提案することを目的とする。
【0021】
請求項11に記載の第11発明は、変速応答遅れによる影響を排除し得るよう操作する前または操作した後の目標変速比の変化割合に制限を付与して、変速応答遅れによる影響を排除し得ないような目標変速比を定めることのないようにし、もって変速制御上の破綻をきたすことのないようにした無段変速機の変速制御装置を提案することを目的とする。
【0022】
【課題を解決するための手段】
これら目的のため先ず第1発明による無段変速機の変速制御装置は、
実変速比が、運転状態に応じた目標変速比となるよう変速アクチュエータを駆動して変速制御を行う無段変速機において、
変速制御系の目標変速比に対する実変速比の変速応答遅れ分だけ前記目標変速比を進み補償した進み補償済目標変速比、および、該進み補償を行う前の進み補償前目標変速比と実変速比との間における偏差に応じたフィードバック制御分の和値を前記変速制御に資するよう構成したことを特徴とするものである。
【0023】
第2発明による無段変速機の変速制御装置は、第1発明において、
無段変速機が、変速アクチュエータの駆動位置に対応した設計上の変速比に対する実変速比の定常的なずれであるトルクシフトが補償されるよう前記目標変速比を補正するようにしたものである場合に、前記変速応答遅れ分だけトルクシフトをも進み補償して前記目標変速比のトルクシフト補償に資するよう構成したことを特徴とするものである。
【0024】
第3発明による無段変速機の変速制御装置は、第1発明または第2発明において、
前記目標変速比の進み補償の強さを無段変速機の状態に応じ変更するよう構成したことを特徴とするものである。
【0025】
第4発明による無段変速機の変速制御装置は、第2発明または第3発明において、
前記トルクシフトの進み補償の強さを無段変速機の状態に応じ変更するよう構成したことを特徴とするものである。
【0026】
第5発明による無段変速機の変速制御装置は、第1発明〜第4発明のいずれかにおいて、
前記進み補償の強さを前記変速アクチュエータの駆動速度が遅いほど強くしたことを特徴とするものである。
【0027】
第6発明による無段変速機の変速制御装置は、第5発明において、
目標変速比に対する追従が不可能なほど変速アクチュエータの駆動速度が遅い場合、前記進み補償を禁止するよう構成したことを特徴とするものである。
【0028】
第7発明による無段変速機の変速制御装置は、第1発明〜第6発明のいずれかにおいて、
前記進み補償の強さを無段変速機の回転数が遅いほど強くしたことを特徴とするものである。
【0029】
第8発明による無段変速機の変速制御装置は、第1発明〜第7発明のいずれかにおいて、
前記進み補償の強さを無段変速機の変速制御に用いるライン圧が低いほど強くしたことを特徴とするものである。
【0030】
第9発明による無段変速機の変速制御装置は、第1発明〜第8発明のいずれかにおいて、
前記進み補償の強さを無段変速機の作動油温が低いほど強くしたことを特徴とするものである。
【0031】
第10発明による無段変速機の変速制御装置は、第1発明〜第9発明のいずれかにおいて、
前記進み補償の強さを無段変速機の実変速比が高速側であるほど強くしたことを特徴とするものである。
【0033】
第11発明による無段変速機の変速制御装置は、第1発明〜第10発明のいずれかにおいて、
前記進み補償する前または前記進み補償した後の目標変速比の変化割合を、前記変速応答遅れが補償され得る範囲に制限するよう構成したことを特徴とするものである。
【0034】
【発明の効果】
無段変速機は、運転状態に応じた目標変速比に実変速比が一致するよう変速アクチュエータを駆動して変速制御を行う。
そして、無段変速機がトルクシフトを発生するものである場合、上記の目標変速比はトルクシフトが補償されるよう補正して上記の変速制御に供される。
ところで第1発明においては、変速制御系の目標変速比に対する実変速比の変速応答遅れ分だけ目標変速比を進み補償した進み補償済目標変速比、および、該進み補償を行う前の進み補償前目標変速比と実変速比との間における偏差に応じたフィードバック制御分の和値を上記の変速制御に資するため、
目標変速比の上記進み補償の結果、変速応答遅れによっても実変速比が目標変速比に良く追従し得るようになると共にアンダーシュートやオーバーシュートを生ずることがなくなり、
狙い通りの変速制御が保証されて運転性の悪化を招くことがないと共に前記したエンジン回転数の一時的な低下に起因するフューエルリカバーを生ずることがない。
しかも第 1 発明においては、進み補償前目標変速比と実変速比との間における偏差に応じたフィードバック制御分を進み補償済目標変速比に加算して得られる和値を上記の変速制御に資するため、
上記のごとく変速応答遅れによる影響が排除されるよう進み補償した目標変速比に加えるべきフィードバック制御分を、変速応答遅れに係わる余分なフィードバックがかかることのないようなものにすることができる。
【0035】
第2発明においては、上記の変速応答遅れ分だけトルクシフトをも進み補償して目標変速比のトルクシフト補償に資するため、
トルクシフト補償も変速応答遅れによる影響を受けることなく狙い通りに行うことができて、実変速比を目標変速比に良く追従し得るようにすると共にアンダーシュートやオーバーシュートが生じなくするという上記の作用効果を更に確実なものにすることができる。
【0036】
第3発明においては、第1発明における目標変速比の進み補償の強さを無段変速機の状態に応じ変更するため、
無段変速機の状態により上記変速応答遅れの程度が変わっても、常時確実に変速応答遅れによる影響を排除することができて、無段変速機の状態に関係なく上記の作用効果を確実なものにし得る。
【0037】
第4発明においては、第2発明におけるトルクシフトの進み補償の強さを無段変速機の状態に応じ変更するため、
無段変速機の状態により変速応答遅れの程度が変わってトルクシフトの出方が変わっても、常時確実に変速応答遅れによるトルクシフト補償への影響を排除することができ、無段変速機の状態に関係なくトルクシフト補償を正確なものにして上記の作用効果を一層確実なものにすることができる。
【0038】
第5発明においては、第1発明〜第4発明における進み補償の強さを変速アクチュエータの駆動速度が遅いほど強くしたため、
変速アクチュエータの駆動速度が遅いほど変速応答遅れが大きくなる事実に良く符合して、変速アクチュエータの駆動速度に関係なく変速応答遅れによる影響を確実に排除することができる。
【0039】
第6発明においては、目標変速比に対する追従が不可能なほど変速アクチュエータの駆動速度が遅い場合、進み補償を禁止するようにしたため、
変速アクチュエータの駆動速度が極端に遅くて変速応答遅れによる影響を確実に排除し得ない場合は、当該排除のための制御が無駄に行われることがないようにし得る。
【0040】
第7発明においては、第1発明〜第6発明における進み補償の強さを無段変速機の回転数が遅いほど強くしたため、
無段変速機の回転数が遅いほど変速応答遅れが大きくなる事実に良く符合して、無段変速機の回転数に関係なく変速応答遅れによる影響を確実に排除することができる。
【0041】
第8発明においては、第1発明〜第7発明における進み補償の強さを無段変速機の変速制御に用いるライン圧が低いほど強くしたため、
ライン圧が低いほど変速応答遅れが大きくなる事実に良く符合して、ライン圧に関係なく変速応答遅れによる影響を確実に排除することができる。
【0042】
第9発明においては、第1発明〜第8発明における進み補償の強さを無段変速機の作動油温が低いほど強くしたため、
作動油温が低いほど変速応答遅れが大きくなる事実に良く符合して、作動油温に関係なく変速応答遅れによる影響を確実に排除することができる。
【0043】
第10発明においては、第1発明〜第9発明における進み補償の強さを無段変速機の実変速比が高速側であるほど強くしたため、
無段変速機の実変速比が高速側であるほど変速応答遅れが大きくなる事実に良く符合して、無段変速機の実変速比に関係なく変速応答遅れによる影響を確実に排除することができる。
【0045】
第11発明においては、進み補償する前または進み補償した後の目標変速比の変化割合を、変速応答遅れが補償され得る範囲に制限するため、
変速応答遅れによる影響を排除し得ないような目標変速比を定めることがなく、もって変速制御上の破綻をきたすことのないようにし得る。
【0046】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図5は本発明の一実施の形態になる変速制御装置の無段変速制御系を示し、1は図1におけるフィルター1と同じローパスフィルターである。
本実施の形態においても、図2に例示する予定変速マップを基に車速VSPおよびエンジンスロットル開度TVOから求めた変速機の目標入力回転数Ni * を変速機出力回転数で除算して到達変速比Dratioを求める。
【0047】
この到達変速比Dratioを、時定数G(s)のローパスフィルター1に通して目標変速比Ratio0を
Ratio0=G(s)・Dratio・・・(1)
のように求める。
この目標変速比Ratio0は、到達変速比Dratioを時定数G(s)により定めた応答で実現させるための過渡的な時々刻々の目標変速比であるが、本実施の形態においては図1につき前述した従来の構成と異なり、伝達関数Pr(s)で表されるトロイダル型無段変速機7の前記した変速応答遅れによる影響を排除するためにこの目標変速比Ratio0をそのままフィードフォワード制御分の目標変速比として用いない。
【0048】
フィードフォワード制御分の目標変速比の演算に当たっては、上記の伝達関数Pr(s)で表される変速応答遅れを考慮して、これを含むよう図5に破線αで囲んだ系が上記の時定数G(s)に一致するような時定数C(s)のフィルター(進み補償器)8を設ける。
ここでフィルター8の時定数C(s)は、Pr(s)の逆数Pr(s)-1と、G(s)との乗算値として、
C(s)=〔Pr(s)-1・G(s)〕・・・(2)
のように定めれば上記の要求を満たすことができる。
【0049】
上記の到達変速比Dratioを当該フィルター8に通すことにより、その時定数C(s)で決まる目標変速比RatioRが
のように求まり、これをフィードフォワード制御量として用いる。
ここで目標変速比RatioRは、(1)式および(3)式の比較から明らかなように、目標変速比Ratio0を伝達関数Pr(s)で表される変速応答遅れ分だけ進み補償して当該変速応答遅れによる影響を排除可能な進み補償済目標変速比である。
【0050】
減算器2は、上記の進み補償を行う前の目標変速比Ratio0に対する実変速比Ratioの偏差ΔRatioを求め、この変速比偏差ΔRatioを基にPI演算器3(Pは比例制御:Iは積分制御)でフィードバック制御量FBRTOを求める。
【0051】
トルクシフト補償量演算器9は、ステップモータなどの変速アクチュエータの駆動位置に対応した設計上の変速比(ノミナル変速比)に対する実変速比の定常的なずれであるトルクシフトが補償されるよう進み補償済目標変速比RatioRを補正するためのトルクシフト補償量TSRTOを求めるもので、
トロイダル型無段変速機7の入力トルクTKTinTRQとトルクシフトによる変速比変化との間における伝達関数が図示のごとくPt(s)であるとすると、図3に例示するトルクシフト補償量マップを基に変速機入力トルクTKTinTRQおよび目標変速比Ratio0から求めたトルクシフト補償量と、トルクシフトの伝達関数Pt(s)と、変速応答遅れに係わる伝達関数Pr(s)の逆数Pr(s)-1とから、現在の変速比に対応するトルクシフト補償量TSRTOを
TSRTO=−Pt(s)・TKTinTRQ・Pr(s)-1・・・(4)
により求めて、トルクシフト補償量TSRTOも伝達関数Pr(s)で表される変速応答遅れ分だけ進み補償する。
なお変速機入力トルクTKTinTRQは、エンジンコントローラからエンジントルク信号を受け取り、これにトルクコンバータのトルク比を掛けて求めることができる。
【0052】
指令変速比演算器5は、進み補償済目標変速比(フィードフォワード制御量)RatioR、フィードバック制御量FBRTO、およびトルクシフト補償量TSRTOを合算して最終的な指令変速比DSRRTOを求める。
この指令変速比DSRRTOがトロイダル型無段変速機7の変速アクチュエータ(ステップモータ)に指令され、トロイダル型無段変速機7は、変速アクチュエータであるステップモータが指令変速比DSRRTOに対応した位置にされることで、伝達関数Pr(s)により表される変速応答遅れをもって実変速比Ratioを指令変速比DSRRTOとなし、実変速比Ratioをトルクシフトの影響を受けることなく所定の時定数で目標変速比Ratio0に一致させることができる。
【0053】
ところで本実施の形態においては、運転状態に応じた目標変速比Ratio0そのものでなく、これを前記したごとく伝達関数Pr(s)で表される変速応答遅れ分だけ進み補償した進み補償済目標変速比RatioRをフィードフォワード制御分として上記の変速制御に資することから、
変速比の目標値が変速制御系の変速応答遅れを先読みして与えられることとなり、実変速比Ratioが
のように制御されて、変速応答遅れによっても実変速比Ratioが目標変速比Ratio0に良く追従し得るようになる。
【0054】
上記の変速制御を、図7(b)に示すごとくスロットル開度TVOを4/8から0/8にするアクセルペダル操作があった場合につき説明すると、かかるアクセルペダル操作にともなう変速時の過渡制御では、変速機入力トルクTKTinTRQ、変速機入力回転数Ni 、目標入力回転数Ni * 、到達変速比Dratio、進み補償前目標変速比Ratio0、進み補償済目標変速比RatioR、実変速比Ratio、フィードバック制御量FBRTO、トルクシフト補償量TSRTOがそれぞれ同図に示されるように時系列変化する。
実変速比Ratioおよび目標変速比Ratio0の比較から明らかなように、変速制御系の変速応答遅れによっても実変速比Ratioが変速過渡期の当初に目標変速比Ratio0から問題になるほど大きく遅れることはなく、その後実変速比Ratioが目標変速比Ratio0に対しアンダーシュートすることもない。
従って、狙い通りの変速制御が保証されて運転性の悪化を招くことがないと共にアンダーシュートによるエンジン回転数の一時的な低下でフューエルリカバーを生ずるようなこともない。
【0055】
本実施の形態においては更に、トルクシフト補償量TSRTOをも伝達関数Pr(s)で表される変速応答遅れ分だけ進み補償して進み補償済目標変速比RatioRのトルクシフト補償に供するため、トルクシフト補償も変速応答遅れによる影響を受けることなく狙い通りに行うことができて、この点でも実変速比Ratioを図7(b)に示すごとく目標変速比Ratio0に良く追従させることができると共にアンダーシュートを生じなくし得て上記の作用効果を更に確実なものにすることができる。
【0056】
また本実施の形態においては、PI演算器3でフィードバック制御量FBRTOを求めるに際し、進み補償前の目標変速比Ratio0に対する実変速比Ratioの偏差に基づいてフィードバック制御量FBRTOを求めたため、以下の作用効果が得られる。
つまり、進み補償済目標変速比RatioRと実変速比Ratioとの偏差に基づいてフィードバック制御量FBRTOを求めると、変速応答遅れ分に対して余分なフィードバックがかかって制御が狙い通りのものにならないが、本実施の形態におけるように進み補償前の目標変速比Ratio0と実変速比Ratioとの偏差に基づいてフィードバック制御量FBRTOを求める場合、変速応答遅れによる影響を排除し得るよう進み補償した目標変速比RatioRに加えるべきフィードバック制御量FBRTOを、変速応答遅れに係わる余分なフィードバックがかかることのないようなものにすることができ、上記の問題を解消することができる。
【0057】
ここで、進み補償する前の目標変速比Ratio0または進み補償した後の目標変速比RatioRの時間変化割合は、上記の変速応答遅れが補償され得る範囲に制限するのが良く、この場合、変速応答遅れによる影響を排除し得ないような目標変速比を定めることがなく、もって変速制御上の破綻をきたすことのないようにすることができる。
【0058】
なお変速制御系の変速応答遅れは、ステップモータの駆動速度や、無段変速機の回転数や、変速制御に用いるライン圧や、作動油温や、実変速比に応じて変化することから、これら無段変速機の状態に応じて目標変速比の進み補償の強さ、およびトルクシフトの進み補償の強さを変更するのが良い。
図6(a)〜(e)は、前記の変速応答遅れを表す伝達関数Pr(s)を2次遅れ系で近似させて
Pr(s)=ωn 2 /(s 2 +2ζωn +ωn 2 )・・・(6)
とした時、この式におけるζおよびωn により変速応答遅れの度合いを表すものである。
【0059】
図6(a)は、ステップモータの駆動速度が200ppsから16ppsへと低下するにつれて、ζがζ1 ,ζ2 ・・・と変化すると共にωn がωn1,ωn2・・・と変化して伝達関数Pr(s)で表される変速応答遅れが大きくなることを示す。
本実施の形態では、このようにステップモータの駆動速度の低下で変速応答遅れが大きなるにつれて、伝達関数Pr(s)の逆数により与える目標変速比およびトルクシフトに関する進み補償の強さを強くして、変速アクチュエータの駆動速度に関係なく変速応答遅れによる影響を確実に排除し得るようにする。
ただし、目標変速比に対する追従が不可能なほどステップモータの駆動速度が遅い場合は、上記の進み補償を禁止してこれが無駄に行われることがないようにする。
【0060】
図6(b)は、無段変速機の回転数が遅い時、ζがζf からζS へと変化すると共にωn がωnfからωnSへと変化して伝達関数Pr(s)で表される変速応答遅れが大きなることを示す。
本実施の形態では、このように無段変速機の回転数が遅くて変速応答遅れが大きい場合は、伝達関数Pr(s)の逆数により与える目標変速比およびトルクシフトに関する進み補償の強さを強くして、無段変速機の回転数に関係なく変速応答遅れによる影響を確実に排除し得るようにする。
【0061】
図6(c)は、無段変速機のライン圧が低い時、ζがζh からζi へと変化すると共にωn がωnhからωniへと変化して伝達関数Pr(s)で表される変速応答遅れが大きなることを示す。
本実施の形態では、このようにライン圧が低くて変速応答遅れが大きい場合は、伝達関数Pr(s)の逆数により与える目標変速比およびトルクシフトに関する進み補償の強さを強くして、ライン圧に関係なく変速応答遅れによる影響を確実に排除し得るようにする。
【0062】
図6(d)は、無段変速機の作動油温が低い時、ζがζH からζL へと変化すると共にωn がωnHからωnLへと変化して伝達関数Pr(s)で表される変速応答遅れが大きなることを示す。
本実施の形態では、このように作動油温が低くて変速応答遅れが大きい場合は、伝達関数Pr(s)の逆数により与える目標変速比およびトルクシフトに関する進み補償の強さを強くして、作動油温に関係なく変速応答遅れによる影響を確実に排除し得るようにする。
【0063】
図6(e)は、無段変速機の実変速比が高速側である時、ζがζLRからζHRへと変化すると共にωn がωnLR からωnHR へと変化して伝達関数Pr(s)で表される変速応答遅れが大きなることを示す。
本実施の形態では、このように実変速比が高速側で変速応答遅れが大きい場合は、伝達関数Pr(s)の逆数により与える目標変速比およびトルクシフトに関する進み補償の強さを強くして、実変速比に関係なく変速応答遅れによる影響を確実に排除し得るようにする。
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来型無段変速機の変速制御装置の概略を示す機能別ブロック線図である。
【図2】 トロイダル型無段変速機の変速マップを示す線図である。
【図3】 トロイダル型無段変速機のトルクシフト補償量を示す特性線図である。
【図4】 トロイダル型無段変速機の指令変速比に対するステップモータのステップ数を示す特性線図である。
【図5】 本発明の一実施の形態になるトロイダル型無段変速機の変速制御装置を示す機能別ブロック線図である。
【図6】 トロイダル型無段変速機の状態ごとの変速応答遅れの発生状況を示し、
(a)は、ステップモータの駆動速度による変速応答遅れの発生状況を示し、
(b)は、変速機回転数による変速応答遅れの発生状況を示し、
(c)は、ライン圧による変速応答遅れの発生状況を示し、
(d)は、作動油温による変速応答遅れの発生状況を示し、
(e)は、実変速比による変速応答遅れの発生状況を示す。
【図7】 変速制御装置における各部信号の時系列変化を示し、
(a)は、図1に示す従来の変速制御装置による変速動作のタイムチャートで、
(b)は、図5に示す本発明の変速制御装置による変速動作タイムチャートである。
【符号の説明】
1 ローパスフィルター
2 減算器
3 PI演算器
5 指令変速比演算器
7 トロイダル型無段変速機
8 フィルター(進み補償器)
9 トルクシフト補償量演算器
Claims (11)
- 実変速比が、運転状態に応じた目標変速比となるよう変速アクチュエータを駆動して変速制御を行う無段変速機において、
変速制御系の目標変速比に対する実変速比の変速応答遅れ分だけ前記目標変速比を進み補償した進み補償済目標変速比、および、該進み補償を行う前の進み補償前目標変速比と実変速比との間における偏差に応じたフィードバック制御分の和値を前記変速制御に資するよう構成したことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。 - 請求項1において、
変速アクチュエータの駆動位置に対応した設計上の変速比に対する実変速比の定常的なずれであるトルクシフトが補償されるよう前記目標変速比を補正するようにした無段変速機であって、
前記変速応答遅れ分だけトルクシフトをも進み補償して前記目標変速比のトルクシフト補償に資するよう構成したことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。 - 請求項1または2において、
前記目標変速比の進み補償の強さを無段変速機の状態に応じ変更するよう構成したことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。 - 請求項2または3において、
前記トルクシフトの進み補償の強さを無段変速機の状態に応じ変更するよう構成したことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。 - 請求項1乃至4のいずれか1項において、
前記進み補償の強さを前記変速アクチュエータの駆動速度が遅いほど強くしたことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。 - 請求項5において、
目標変速比に対する追従が不可能なほど変速アクチュエータの駆動速度が遅い場合、前記進み補償を禁止するよう構成したことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。 - 請求項1乃至6のいずれか1項において、
前記進み補償の強さを無段変速機の回転数が遅いほど強くしたことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。 - 請求項1乃至7のいずれか1項において、
前記進み補償の強さを無段変速機の変速制御に用いるライン圧が低いほど強くしたことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。 - 請求項1乃至8のいずれか1項において、
前記進み補償の強さを無段変速機の作動油温が低いほど強くしたことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。 - 請求項1乃至9のいずれか1項において、
前記進み補償の強さを無段変速機の実変速比が高速側であるほど強くしたことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。 - 請求項1乃至10のいずれか1項において、
前記進み補償する前または前記進み補償した後の目標変速比の変化割合を、前記変速応答遅れが補償され得る範囲に制限するよう構成したことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
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