JP3936918B2 - 電波到来方向探知方法及び装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数のアンテナ素子を備えて指向特性を変化させることができるアレーアンテナを用いた電波到来方向探知方法及び装置に関し、特に、指向特性を適応的に変化させることができる電子制御導波器アレーアンテナ装置(Electronically Steerable Passive Array Radiator Antenna)を用いた電波到来方向探知方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
アレーアンテナに入射する信号の到来角(DoA)の推定は、ディジタルアレー処理における興味ある、かつ重要な問題である。この問題を解決するために、いくつかの方法が提案されている。特に、非特許文献1に記載のMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)アルゴリズムは、漸近的に不偏推定量に近づく結果を提供するものとして広く知られている。
【0003】
特許文献1や非特許文献2及び3において提案されている電子制御導波器アレーアンテナ装置は、無線信号が給電される励振素子と、この励振素子から所定の間隔だけ離れて設けられ、無線信号が給電されない少なくとも1個の非励振素子と、この非励振素子に接続された可変リアクタンス素子とから成るアレーアンテナを備え、上記可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることにより、上記アレーアンテナの指向特性を変化させることができる。この電子制御導波器アレーアンテナ装置は、従来型のアレーアンテナに比べて低コスト、低電力消費でありかつ構成が簡単である。従って、この電子制御導波器アレーアンテナ装置は、移動体ユーザ端末へのアプリケーションとして非常に有望な候補である。しかしながら、この電子制御導波器アレーアンテナ装置は単一ポートの出力構成であるので、従来型のアレーアンテナのためのアルゴリズムはそのままでは使用できない。
【0004】
最近、特許文献1のアレーアンテナを用いて電波到来角を推定するために、改良されたMUSICアルゴリズムに基づく「リアクタンス領域MUSICアルゴリズム」が提案されている(非特許文献4を参照)。このアルゴリズムは、上記アレーアンテナの相関行列を取得し、また複数の入射信号の到来角を推定している(以下、従来例という。)。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−24431号。
【非特許文献1】
R. O. Schmidt, "Multiple Emitter Location and Signal Parameter Estimation", IEEE Transactions on Antennas and Propagation, Vol. AP-34, No. 3, pp. 276-280, March, 1986。
【非特許文献2】
T. Ohira et al., “Electronically steerable passive array radiator antennas for low-cost analog adaptive beamforming", 2000 IEEE International Conference on Phased Array System & Technology pp. 101-104, Dana point, California, May 21-25, 2000。
【非特許文献3】
T. Ohira, et al., "Equivalent weight vector and array factor formulation for Espar antennas," IEICE Technical Report, AP2000-44, SAT2000-41, NW2000-41, July, 2000。
【非特許文献4】
プラプース・シリルほか,「エスパアンテナによるリアクタンスドメインMUSIC法」,電子情報通信学会技術研究報告,RCS2002−147,電子通信情報学会発行,2002年8月。
【非特許文献5】
大平孝,“エスパアンテナの等価ウエイトベクトルとその勾配に関する基本的定式化”,電子情報通信学会研究技術報告,AP2001−16,SAT2001−3,電子情報通信学会発行,pp.15−20,2001年5月。
【非特許文献6】
C. M. S. See, "Sensor array calibration in the presence of mutual coupling and unknown sensor gains and phases", Electronics Letters, Vol.30, No.3, pp.373-375, March 1994。
【非特許文献7】
平田明史ほか,“エスパアンテナのリアクタンスドメイン信号処理−空間相関及び相関行列−”,電子情報通信学会研究技術報告,RCS2002−148,電子情報通信学会発行,pp.9−14,2002年8月。
【非特許文献8】
R. Janaswamy, "Radiowave Propagation and Smart Antennas for Wireless Communications", pp.185-217, ISBN0-7923-7241-7, Kluwer Academic Publishers, 2001。
【非特許文献9】
太郎丸真ほか,“エスパアンテナのリアクタンス空間から等価ウエイトベクトル空間への写像に関する考察”,電子情報通信学会研究技術報告,RCS2002−179,電子情報通信学会発行,pp.43−48,2002年10月。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来例の電波到来方向探知方法では、これに用いる電子制御導波器アレーアンテナ装置に固有の等価ウエイトベクトルの校正が十分でなかったために、MUSICスペクトラムのピークが鈍く分解能が低かった。そのため、複数の近接した到来波に対してポテンシャルを十分に発揮できず、これら複数の到来波を分解して探知することができないという問題点(以下、第1の問題点という。)があった。
【0007】
また、送受信の変復調において周波数偏差があり受信信号の位相が回転している場合、送信信号が周期的系列であるという前提が成り立たないため到来方向推定が不可能となる。特に、MUSICアルゴリズムは各受信信号の振幅及び位相差から到来方向を推定する方法であるため、到来信号を受信している間の位相回転は大きな問題点(以下、第2の問題点という。)となる。
【0008】
本発明の第1の目的は、上記第1の問題点を解決し、特許文献1において開示されたアレーアンテナ装置を用いて電波到来角を探知するときに、当該アレーアンテナ装置に固有の等価ウエイトベクトルを校正して、より高い分解能を得ることができる電波到来方向探知方法及び装置を提供することにある。
【0009】
また、本発明の第2の目的は、上記第2の問題点を解決し、特許文献1において開示されたアレーアンテナ装置を用いて電波到来角を探知するときに、送受信の変復調において周波数偏差があり受信信号の位相が回転している場合、周波数偏差を補償することができ、角度推定誤差を低減できる電波到来方向探知方法及び装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
第1の発明に係る電波到来方向探知方法は、無線信号を受信するための励振素子と、上記励振素子から所定の間隔だけ離れて設けられた複数の非励振素子と、上記各非励振素子にそれぞれ接続された可変リアクタンス素子とを備え、上記各可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることにより、上記各非励振素子をそれぞれ導波器又は反射器として動作させ、アレーアンテナの指向特性を変化させるアレーアンテナを用いた電波到来方向探知方法において、
上記アレーアンテナの互いに異なる複数の所定の方位角の方向から送信された無線信号をそれぞれ、オムニパターン(無指向性パターン)のときの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットと、互いに異なる複数のセクタパターンの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットとによりそれぞれ設定された互いに異なる複数の放射パターンの状態において上記アレーアンテナで受信し、上記受信された各受信信号を検出し、上記検出された複数の受信信号間の相関を示す相関行列Ryyを計算し、計算した相関行列Ryyに基づいて固有値分解法を用いて各方位角毎の受信信号に対する固有値を計算し、最大値の固有値を各方位角の方向毎の固有値とし、上記各方位角の方向毎の固有値からなる固有値ベクトルを用いて、上記アレーアンテナの各可変リアクタンス素子による放射パターンの各方向ベクトルに対する重み付けを表す等価的なベクトルからなる等価ウエイト行列を校正するステップと、
上記互いに異なる可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットをそれぞれ設定したときに上記アレーアンテナによって受信される各受信信号を検出し、上記複数の受信信号間の相関を表す相関行列Ryyを計算し、上記計算された各相関行列Ryyを固有値分解して上記各相関行列Ryyの固有ベクトルを計算し、上記計算された各固有ベクトルと上記校正された等価ウエイト行列とに基づいて、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法を用いてMUSICスペクトルを計算し、上記計算されたMUSICスペクトルに基づいて上記アレーアンテナによって受信された受信信号の到来角を計算するステップとを含むことを特徴とする。
【0011】
上記電波到来方向探知方法において、上記互いに異なる可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットは、上記アレーアンテナにより受信した受信信号と、上記アレーアンテナにおける非励振素子を励振素子とした別のアレーアンテナで受信した各受信信号を合成したときの合成受信信号とが実質的に同一になるような放射パターンに対する可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットであることを特徴とする。
【0012】
また、上記電波到来方向探知方法において、オムニパターンのときの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットを設定した後、所定のセクタパターンの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットを設定する1組の設定を、上記セクタパターンが互いに異なるように複数回繰り返した各組の設定の状態において、互いに隣接する2つのオムニパターンでの2つの受信信号を、当該2つの受信信号の位相に基づく位相補償量で位相補償した信号を、オムニパターンでの受信信号とし計算し、各組の設定におけるセクタパターンでの受信信号をオムニパターンでの受信信号で除算することにより規格化してなる信号を、セクタパターンでの受信信号とし計算し、上記計算された複数の受信信号間の相関を示す相関行列Ryyを計算することを特徴とする。
【0013】
第2の発明に係る電波到来方向探知方法は、無線信号を受信するための励振素子と、上記励振素子から所定の間隔だけ離れて設けられた複数の非励振素子と、上記各非励振素子にそれぞれ接続された可変リアクタンス素子とを備え、上記各可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることにより、上記各非励振素子をそれぞれ導波器又は反射器として動作させ、アレーアンテナの指向特性を変化させるアレーアンテナを用いた電波到来方向探知方法において、
上記アレーアンテナの互いに異なる複数の所定の方位角の方向から送信された無線信号をそれぞれ、複数のパターンで上記アレーアンテナで受信し、上記受信された各受信信号を検出するときに、オムニパターンのときの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットを設定した後、所定のセクタパターンの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットを設定する1組の設定を、上記セクタパターンが互いに異なるように複数回繰り返した各組の設定の状態において、互いに隣接する2つのオムニパターンでの2つの受信信号を、当該2つの受信信号の位相に基づく位相補償量で位相補償した信号を、オムニパターンでの受信信号として計算し、各組の設定におけるセクタパターンでの受信信号をオムニパターンでの受信信号で除算することにより規格化してなる信号を、セクタパターンでの受信信号として計算し、上記計算された複数の受信信号間の相関を示す相関行列Ryyを計算し、上記計算された各相関行列Ryyを固有値分解して上記各相関行列Ryyの固有ベクトルを計算し、上記計算された各固有ベクトルに基づいて、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法を用いてMUSICスペクトルを計算し、上記計算されたMUSICスペクトルに基づいて上記アレーアンテナによって受信された受信信号の到来角を計算するステップとを含むことを特徴とする。
【0014】
第3の発明に係る電波到来方向探知装置は、無線信号を受信するための励振素子と、上記励振素子から所定の間隔だけ離れて設けられた複数の非励振素子と、上記各非励振素子にそれぞれ接続された可変リアクタンス素子とを備え、上記各可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることにより、上記各非励振素子をそれぞれ導波器又は反射器として動作させ、アレーアンテナの指向特性を変化させるアレーアンテナを用いた電波到来方向探知装置において、
上記アレーアンテナの互いに異なる複数の所定の方位角の方向から送信された無線信号をそれぞれ、オムニパターンのときの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットと、互いに異なる複数のセクタパターンの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットとによりそれぞれ設定された互いに異なる複数の放射パターンの状態において上記アレーアンテナで受信し、上記受信された各受信信号を検出し、上記検出された複数の受信信号間の相関を示す相関行列Ryyを計算し、計算した相関行列Ryyに基づいて固有値分解法を用いて各方位角毎の受信信号に対する固有値を計算し、最大値の固有値を各方位角の方向毎の固有値とし、上記各方位角の方向毎の固有値からなる固有値ベクトルを用いて、上記アレーアンテナの各可変リアクタンス素子による放射パターンの各方向ベクトルに対する重み付けを表す等価的なベクトルからなる等価ウエイト行列を校正する第1の制御手段と、
上記互いに異なる可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットをそれぞれ設定したときに上記アレーアンテナによって受信される各受信信号を検出し、上記複数の受信信号間の相関を表す相関行列Ryyを計算し、上記計算された各相関行列Ryyを固有値分解して上記各相関行列Ryyの固有ベクトルを計算し、上記計算された各固有ベクトルと上記校正された等価ウエイト行列とに基づいて、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法を用いてMUSICスペクトルを計算し、上記計算されたMUSICスペクトルに基づいて上記アレーアンテナによって受信された受信信号の到来角を計算する第2の制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0015】
上記電波到来方向探知装置において、上記互いに異なる可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットは、上記アレーアンテナにより受信した受信信号と、上記アレーアンテナにおける非励振素子を励振素子とした別のアレーアンテナで受信した各受信信号を合成したときの合成受信信号とが実質的に同一になるような放射パターンに対する可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットであることを特徴とする。
【0016】
また、上記電波到来方向探知装置において、オムニパターンのときの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットを設定した後、所定のセクタパターンの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットを設定する1組の設定を、上記セクタパターンが互いに異なるように複数回繰り返した各組の設定の状態において、互いに隣接する2つのオムニパターンでの2つの受信信号を、当該2つの受信信号の位相に基づく位相補償量で位相補償した信号を、オムニパターンでの受信信号とし計算し、各組の設定におけるセクタパターンでの受信信号をオムニパターンでの受信信号で除算することにより規格化してなる信号を、セクタパターンでの受信信号とし計算し、上記計算された複数の受信信号間の相関を示す相関行列Ryyを計算することを特徴とする。
【0017】
第4の発明に係る電波到来方向探知装置は、無線信号を受信するための励振素子と、上記励振素子から所定の間隔だけ離れて設けられた複数の非励振素子と、上記各非励振素子にそれぞれ接続された可変リアクタンス素子とを備え、上記各可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることにより、上記各非励振素子をそれぞれ導波器又は反射器として動作させ、アレーアンテナの指向特性を変化させるアレーアンテナを用いた電波到来方向探知装置において、
上記アレーアンテナの互いに異なる複数の所定の方位角の方向から送信された無線信号をそれぞれ、複数のパターンで上記アレーアンテナで受信し、上記受信された各受信信号を検出するときに、オムニパターンのときの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットを設定した後、所定のセクタパターンの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットを設定する1組の設定を、上記セクタパターンが互いに異なるように複数回繰り返した各組の設定の状態において、互いに隣接する2つのオムニパターンでの2つの受信信号を、当該2つの受信信号の位相に基づく位相補償量で位相補償した信号を、オムニパターンでの受信信号として計算し、各組の設定におけるセクタパターンでの受信信号をオムニパターンでの受信信号で除算することにより規格化してなる信号を、セクタパターンでの受信信号として計算し、上記計算された複数の受信信号間の相関を示す相関行列Ryyを計算し、上記計算された各相関行列Ryyを固有値分解して上記各相関行列Ryyの固有ベクトルを計算し、上記計算された各固有ベクトルに基づいて、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法を用いてMUSICスペクトルを計算し、上記計算されたMUSICスペクトルに基づいて上記アレーアンテナによって受信された受信信号の到来角を計算する制御手段を備えたことを特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図面において、同様の構成要素については、同一の符号を付している。
【0019】
図1は本発明に係る実施形態である電波到来方向探知装置の構成を示すブロック図である。この実施形態の電波到来方向探知装置は、図1に示すように、1つの励振素子A0と、6個の非励振素子A1乃至A6とを備えて構成され、特許文献1において開示された電子制御導波器アレーアンテナ装置(以下、アレーアンテナ装置という。)100と、無線受信機4と、電波到来方向探知コンピュータ20と、リアクタンス値コントローラ10とを備えている。電波到来方向探知コンピュータ20は、例えばディジタル計算機で構成され、第1の実施形態では、図6に示すように、等価ウエイト行列を校正して計算する処理(ステップS1)を実行した後、例えば非特許文献1などにおいて開示されたMUSICアルゴリズムを用いて方位角推定処理(ステップS2)を実行することにより電波到来方向を推定して出力し、また、第2の実施形態では、図7に示すように、周波数偏差補償法を用いて等価ウエイト行列を校正して計算する処理(ステップS11)を実行した後、上記MUSICアルゴリズムを用いて方位角推定処理(ステップS12)を実行することにより電波到来方向を推定して出力することを特徴としている。
【0020】
図1において、アレーアンテナ装置100は、接地導体11上に設けられた励振素子A0及び非励振素子A1乃至A6から構成され、励振素子A0は、半径rの円周上に設けられた6本の非励振素子A1乃至A6によって囲まれるように配置されている。好ましくは、各非励振素子A1乃至A6は上記半径rの円周上に互いに等間隔を保って設けられる。励振素子A0及び各非励振素子A1乃至A6の長さは、例えば約λ/4(但し、λは所望波の波長である。)になるように構成され、本実施形態では0.23λである。また、上記半径rはλ/4になるように構成される。接地導体11は、半径λ/2の円板形状の上面部と、上面部の外周縁端部から下に延在する長さλ/4の円筒形状のスカート部とから構成され、このスカート部を備えた構成により、主ビームの仰角を減少させることができる。励振素子A0の給電点は同軸ケーブル9を介して無線受信機4の低雑音増幅器(LNA)1に接続され、また、非励振素子A1乃至A6はそれぞれ可変リアクタンス素子12−1乃至12−6に接続され、これら可変リアクタンス素子12−1乃至12−6のリアクタンス値はリアクタンス値コントローラ10からのリアクタンス値信号によって設定される。
【0021】
図2は、アレーアンテナ装置100の縦断面図である。励振素子A0は接地導体11と電気的に絶縁され、各非励振素子A1乃至A6は、可変リアクタンス素子12−1乃至12−6を介して、接地導体11に対して高周波的に接地される。可変リアクタンス素子12−1乃至12−6は、例えば、制御電圧(又はバイアス電圧)が印加されることによってそのリアクタンス値が変化する可変容量ダイオードであって、制御電圧はリアクタンス値コントローラ10からのリアクタンス値信号を介して印加される。リアクタンス値コントローラ10は、デジタルシグナルプロセッサをベースとするコントローラであって、リアクタンス値テーブルメモリ13内に予め設定されたディジタル電圧値を参照し、内蔵した6個のD/A変換器(図示せず。)を使って上記ディジタル電圧値をアナログの制御電圧値に変換し、この制御電圧値をリアクタンス値信号としてアレーアンテナ装置100の可変リアクタンス素子12−1乃至12−6に出力して設定することによって、アレーアンテナ装置100上で、対応する各指向性ビームパターンが形成される。
【0022】
可変リアクタンス素子12−1乃至12−6の動作を説明すると、例えば励振素子A0と非励振素子A1乃至A6の長手方向の長さが実質的に同一であるとき、例えば、可変リアクタンス素子12−1がインダクタンス性(L性)を有するときは、可変リアクタンス素子12−1は延長コイルとなり、非励振素子A1乃至A6の電気長が励振素子A0に比較して長くなり、反射器として働く。一方、例えば、可変リアクタンス素子12−1がキャパシタンス性(C性)を有するときは、可変リアクタンス素子12−1は短縮コンデンサとなり、非励振素子A1の電気長が励振素子A0に比較して短くなり、導波器として働く。また、他の可変リアクタンス素子12−2乃至12−6に接続された非励振素子A2乃至A6についても同様に動作する。従って、図1のアレーアンテナ装置100において、各非励振素子A1乃至A6に接続された可変リアクタンス素子12−1乃至12−6のリアクタンス値を変化させることにより、アレーアンテナ装置100の平面指向性特性を変化させることができる。
【0023】
図1のアレーアンテナの制御装置において、アレーアンテナ装置100は無線信号u(t)を受信し、上記受信された無線信号である受信信号y(t)は、励振素子A0に接続された同軸ケーブル9から出力される。出力された受信信号y(t)は、無線受信機4の低雑音増幅器1を介してダウンコンバータ2に入力され、ダウンコンバータ2は入力される受信信号を所定の中間周波数の中間周波信号に周波数変換した後、A/D変換器3に出力する。A/D変換器3は、入力されるアナログの中間周波信号をディジタルの中間周波信号に変換した後、電波到来方向探知コンピュータ20に出力する。さらに、電波到来方向探知コンピュータ20は、入力される中間周波信号(簡単化のために、受信信号y(t)として表記する。)に基づいて、送信側と同一のシーケンス信号を発生するシーケンス信号発生器22からのシーケンス信号(図4又は図5を参照。)と受信信号中のシーケンス信号との相関行列を計算して、受信された無線信号の到来角を計算し、その結果をCRTディスプレイ31に出力して表示する。ここで、電波到来方向探知コンピュータ20は、第1の実施形態では、図6に示すように、等価ウエイト行列を校正して計算する処理(ステップS1)を実行した後、例えば非特許文献1などにおいて開示されたMUSICアルゴリズムを用いて方位角推定処理(ステップS2)を実行することにより電波到来方向を推定して、電波到来角度の推定結果をCRTディスプレイ21に出力して表示し、また、第2の実施形態では、図7に示すように、周波数偏差補償法を用いて等価ウエイト行列を校正して計算する処理(ステップS11)を実行した後、上記MUSICアルゴリズムを用いて方位角推定処理(ステップS12)を実行することにより電波到来方向を推定して、電波到来角度の推定結果をCRTディスプレイ21に出力して表示する。
【0024】
ここで、上記ステップS1又はS11の処理を実行するときに、電波到来方向探知コンピュータ20からの制御信号に基づいて、アレーアンテナ装置100を励振素子A0を中心軸として回転させる回転機構30が設けられている。
【0025】
次いで、まず、非特許文献4において開示されている「リアクタンスドメインMUSIC法」について以下に説明する。
【0026】
「リアクタンスドメインMUSIC法」は電子制御導波器アレーアンテナ装置100のリアクタンスドメイン信号処理によって生成される相関行列を利用した高分解能到来方向推定法である。非励振素子A1乃至A6に装荷された可変リアクタンス素子12−1乃至12−6のリアクタンス値を表1のように設定し、それぞれの指向性パターンによって受信された同一のシーケンス信号系列から相関行列を生成する(図3及び図4参照。)。そして、この相関行列にMUSIC法を適用して到来方向推定を行う。
【0027】
【表1】
Figure 0003936918
【0028】
表1に記載の可変リアクタンス素子12−1乃至12−6のリアクタンス値xmk(k=1,2,…,6)の7組のセットは、1つのオムニパターンを発生するためのセットと、図3に示すように、それぞれ励振素子A0から各非励振素子A1乃至A6に向う方向の6個のセクタパターンとを発生するためのセットとを含む。表1において、最大値及び最小値はそれぞれ、装荷された可変リアクタンス素子12−1乃至12−6の各リアクタンス値の可動範囲の最大値及び最小値を意味する。また、第1の実施形態においては、送信側の無線送信機及び受信側のシーケンス信号発生器22は、図4に示すように、表1に示す各パターンで、互いに所定のガードタイムを挟み、それぞれPシンボル(2msec)のシーケンス信号を順次発生し、シーケンス信号発生器22で発生されるシーケンス信号と,受信信号中のシーケンス信号との相関行列を計算してMUSIC法を適用する。なお、第2の実施形態においては、詳細後述するように、図5のシーケンス信号を用いる。
【0029】
L個の波の平面波がアレーアンテナ装置100に到来するとき、表1のm番目の指向性パターン(m=0,1,…,6)で受信される受信信号は次式で表される。
【0030】
【数1】
Figure 0003936918
【0031】
ここで、行列Aは次式で表される。
【0032】
【数2】
A=[a(φ), ..., a(φ)]
【0033】
また、a(φ)は到来角φ(l=1,2,...,L)における方向ベクトルであり、u(t)は次式で表される到来する無線信号である。
【0034】
【数3】
u(t)=[u(t), ..., u(t)]
【0035】
さらに、n(t)は熱雑音であり、上付き添字は行列の転置を表す。wは等価ウエイトベクトルであり、素子間結合を含めたインピーダンス行列Zを用いて、次式で表される(例えば、非特許文献5参照。)。
【0036】
【数4】
Figure 0003936918
【0037】
ここで、等価ウエイトベクトルとは、電子制御導波器アレーアンテナ装置100において可変リアクタンス素子による放射パターンの各方向ベクトルに対する重み付けを表す等価的なベクトルである。zは受信機の内部インピーダンスであり、uは次式で表される単位ベクトルである。
【0038】
【数5】
=[1,0,0,0,0,0,0]
【0039】
上記等価ウエイトベクトルからなる次式の行列Wを
【数6】
W=[w … w
「等価ウエイト行列」と定義し(なお、等価ウエイト行列Wとは、電子制御導波器アレーアンテナ装置100において可変リアクタンス素子による放射パターンの各方向ベクトルに対する重み付けを表す等価的な行列である。)、ベクトル表記の受信信号系列を次式で表されるとすると、
【数7】
Figure 0003936918
相関行列と固有ベクトルの関係から、複数の受信信号から検出した複数のシーケンス信号間の相関行列Ryyは次式で表される。
【0040】
【数8】
Figure 0003936918
【0041】
ここで、E[・]はエルゴード性を仮定した所定の時間期間における時間平均値(又はアンサンブル平均値)であり、上付き添字は行列のエルミート転置を表す。eは信号部分空間を張る第lの固有ベクトル(l=1,2,...,L)である。
【0042】
電子制御導波器アレーアンテナ装置100のMUSICスペクトラムは等価ウエイト行列を用いて、次式で表される。
【0043】
【数9】
Figure 0003936918
【0044】
ここで、
【数10】
Figure 0003936918
である。
【0045】
次いで、オムニパターンを含めた7つの指向性パターンを用いて、信号部分空間から電子制御導波器アレーアンテナ装置100の「等価ウエイト行列」を校正する方法(第1の実施形態)について以下に説明する。
【0046】
上記数4においてインピーダンス行列Zの各要素は未知である。鋭いMUSICスペクトラムを求め角度分解能を向上させるためには、このインピーダンス行列Zを含んだ等価ウエイト行列Wを校正する必要がある。本実施形態では、校正方法として7つの指向性パターンで受信した受信信号系列を用いて、信号の固有値に対応する信号固有ベクトルによって等価ウエイト行列を推定する方法を提案する。校正では到来波は1波のみ(L=1)とし、平面波を12方位から順次に到来させる。
【0047】
校正の手順を図8に示すように、まず、受信アンテナである電子制御導波器アレーアンテナ装置100から見た電波到来方向を0°に固定する(ステップS22でθ=0゜)。次に、可変リアクタンス素子12−1乃至12−6のリアクタンス値を表1のように7通り(m=0,1,...,6)に設定し、指向性パターンを回転させて受信信号系列y(t)を取得する(ステップS23−S26)。tはサンプリング時刻を表し、1シンボルにつき1回サンプリングを行う。指向性パターン毎にPサンプル(=Pシンボル)の信号を受信する。受信信号系列を上記数7のようにベクトル表記し(ステップS28)、上記数8の相関行列Ryyを固有値分解した後(ステップS29)、信号の固有値に対応する信号固有ベクトルe (1)を取得する(ステップS30)。
【0048】
次いで、電波到来方向を30°に固定し(ステップS22)、同様の手順によって信号固有ベクトルe (2)を取得する(ステップS23−S30)。電波到来方向を0°から30°間隔で12方位に順に設定し、同様の手順を繰り返すと12個の信号固有ベクトルが得られる(S21−S32の繰り返しフロー)。電波到来方向は既知であり、その方向の方向ベクトルも既知であるため、次式が成立する。
【0049】
【数11】
Figure 0003936918
【0050】
ここで、上述の校正手順で計算された各方位角での最大値の固有値からなる固有値ベクトル[e (1) (2) ... e (12)]を行列Eと置き換え、各方位角毎のステアリングベクトルからなるステアリング行列[a(φ) a(φ) ... a(φ12)]を行列Aと置き換えると、等価ウエイト行列Wは次式で表される(例えば、非特許文献6参照。)。
【0051】
【数12】
Figure 0003936918
【0052】
上記数12から明らかなように、等価ウエイト行列Wを、上述の校正手順で計算された各方位角での最大値の固有値からなる固有値ベクトルの行列と、各方位角毎のステアリングベクトルからなるステアリング行列とを用いて校正している。
【0053】
次いで、第2の実施形態に係る周波数偏差を補償する方法として、指向性パターンにて得られる受信信号を直前のオムニパターンにて得られる受信信号によって規格化する方法を提案する。本実施形態では、受信信号を規格化することにより周波数偏差を補償する。
【0054】
MUSICアルゴリズムは各受信信号の振幅及び位相差から到来方向を推定することができる。リアクタンスドメインMUSIC法では周期的に送信される信号系列を複数の指向性パターン(オムニパターンを含む。)にて受信するため、到来信号を観測している間に急激な振幅の落ち込みや位相の回転が発生すると、推定精度は著しく劣化する。本実施形態では送受信間のキャリア同期が不完全であり位相回転が生じる場合の補償方法について述べる。
【0055】
送信機から繰返しPシンボル送信される周期的信号系列を図5に示す。送信機からは同一のシーケンス信号系列が12回繰返し送信され、受信側の電子制御導波器アレーアンテナ装置100の指向性パターンは、オムニパターン→0°セクタパターン→オムニパターン→60°セクタパターン→・・・のようにオムニパターンと6方位のセクタパターンを切り替える。周期的シーケンス信号系列の間には指向性パターンを切り替えるために必要なガードタイム(図5のハッチング部分)を挿入している。図5は繰返し送信されるシーケンス信号系列の1つが2ms(Pシンボル)である場合の例であり、本実施形態の実験システムにおける時間を示している。
【0056】
1つの指向性パターンで受信するシーケンス信号系列長は同一であるため、セクタパターンとその直前のオムニパターンで受信する間に回転する位相量はほぼ一定であると考えられる。従って、セクタパターンにて受信した受信信号系列を直前のオムニパターンにて受信した受信信号のシーケンス信号系列で規格化することで、セクタパターンにて受信している間の位相回転は大幅に改善される。
【0057】
オムニパターン受信時の位相回転については、60°セクタパターンの直前のオムニパターンにて受信した受信信号系列を、0°セクタパターンの直前のオムニパターンにて受信した受信信号系列で規格化することによって得るものとする。指向性パターンはオムニパターン→0°セクタパターン→オムニパターン→60°セクタパターン→…と変化するから、このときの位相の回転量は、他のセクタパターンと直前のオムニパターンとの間の回転量に比べて2倍となる。従って、オムニパターン受信時の規格化における位相補償量は2分の1にする必要がある。
【0058】
信号系列のシンボルの番号をp(p=1,2,…,P:Pは1つのシーケンス信号系列における全シンボル数である。)、60°セクタパターンの直前のオムニパターン及び0°セクタパターンの直前のオムニパターンにて受信した受信信号の位相をそれぞれ、ψo1(p)及びψo2(p)とすると、規格化における位相補償量z(p)は次式で表される。
【0059】
【数13】
Figure 0003936918
【0060】
m番目(m=0、1、…、6)のオムニパターン及び指向性パターンにて受信した受信信号をそれぞれ、yom(p)及びyvm(p)と表し、規格化後のpシンボル目の受信信号系列y(p)を、改めて次式でおく。
【0061】
【数14】
Figure 0003936918
【0062】
このp番目の受信信号系列y(p)を用いて相関行列を生成して固有値分解を行う。比較のために、規格化前の受信信号系列を次式で表す。
【0063】
【数15】
before(p)
=[yo1(p) yv1(p) yv2(p) … yv6(p)]
【0064】
上記数14における周波数偏差の補償のための受信信号の規格化においては、オムニパターンのときの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットを設定した後、所定のセクタパターンの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットを設定する1組の設定を、上記セクタパターンが互いに異なるように複数回繰り返した各組の設定の状態において、互いに隣接する2つのオムニパターンでの2つの受信信号を、当該2つの受信信号の位相に基づく位相補償量で位相補償した信号を、オムニパターンでの受信信号とし計算し、各組の設定におけるセクタパターンでの受信信号をオムニパターンでの受信信号で除算することにより規格化してなる信号を、セクタパターンでの受信信号とし計算している。
【0065】
図6は、図1の電波到来方向探知コンピュータ20によって実行される、第1の実施形態に係る電波到来方向推定処理を示すフローチャートである。図6のステップS1において、図8の等価ウエイト行列を校正して計算する処理を実行した後、ステップS2において、図10の方位角推定処理を実行して当該電波到来方向推定処理を終了する。この電波到来方向推定処理は、第1の実施形態に係る等価ウエイト行列を校正する処理のみを含んで電波到来方向を推定するものである。
【0066】
図7は、図1の電波到来方向探知コンピュータ20によって実行される、第2の実施形態に係る電波到来方向推定処理を示すフローチャートである。図7のステップS11において、図9に図示された、周波数偏差補償法を用いて等価ウエイト行列を校正して計算する処理を実行した後、ステップS12において図10の方位角推定処理を実行して、当該電波到来方向推定処理を終了する。この電波到来方向推定処理は、第1と第2の実施形態に係る、周波数偏差補償法を用いて等価ウエイト行列を校正する処理を含んで電波到来方向を推定するものである。
【0067】
図8は、図6のサブルーチンである等価ウエイト行列を校正して計算する処理(ステップS1)を示すフローチャートである。なお、リアクタンス値テーブルメモリ13には、図4に図示した放射パターンを順次設定するために、例えば、表1に示した7組のリアクタンス値セット(m=0,1,2,…,6)が格納されている。ただし、これは一例であって、少なくとも1組のオムニパターンと複数組のセクタパターンのリアクタンス値セットを含む、互いに異なる複数のリアクタンス値セットであってもよい。
【0068】
図8のステップS21において、電波到来方向設定パラメータnを1に初期化し、ステップS22において、回転機構30を用いてアレーアンテナ装置100を回転させて送信無線信号に対して到来角θ=30×(n−1)[度]となるように設定する。次いで、ステップS23において、放射パターンパラメータmを0に初期化し、ステップS24において、リアクタンス値コントローラ10を制御してリアクタンス値テーブルメモリ13からm番目のリアクタンス値セットを読み出してアレーアンテナ装置100の各可変リアクタンス素子12−1乃至12−6に設定する。そして、ステップS25において、受信信号y(t)を受信して電波到来方向探知コンピュータ20内の一時記憶メモリに格納し、ステップS26において放射パターンパラメータm≧6であるか否かが判断され、NOであるときは、ステップS27で放射パターンパラメータmを1だけインクリメントした後、ステップS24に進む。一方、ステップS26でYESであるときは、ステップS28に進む。
【0069】
次いで、ステップS28で一時記憶メモリに格納された7個の受信信号y(t)を数7のように受信ベクトルとして電波到来方向探知コンピュータ20内の一時記憶メモリに格納し、ステップS29で数8を用いて相関行列Ryyを計算し、固有値分解法を用いて受信信号に対する複数の固有値e(n),e(n),…を計算する。さらに、ステップS30で計算された複数の固有値e(n),e(n),…のうち最大値の固有値をe(n)とし、ステップS31において電波到来方向設定パラメータn≧12であるか否かが判断され、NOのときはステップS32に進み、電波到来方向設定パラメータnを1だけインクリメントした後、ステップS22に進む。一方、ステップS31でYESであるときは、ステップS33に進み、固有値ベクトルに対する等価ウエイト行列と、各放射パターンのステアリングベクトルからなるステアリング行列との積を表す数11に基づく数12を用いて校正された等価ウエイト行列Wを推定して計算して、元のメインルーチンに戻る。
【0070】
図9は、図7のサブルーチンである周波数偏差補償法を用いて等価ウエイト行列を校正して計算する処理(ステップS11)を示すフローチャートである。なお、リアクタンス値テーブルメモリ13には、図5に図示した放射パターンを順次設定するために、12組のリアクタンス値セット(m=0,1,2,…,11)が格納されており、ここで、例えば、mが偶数であるときは、表1のm=0のときのオムニパターンのリアクタンス値セットが格納され、mが奇数であるときは、表1のm=1,2,…,6のときのセクタパターンのリアクタンス値セットが格納されている。ただし、これは一例であって、少なくとも1組のオムニパターンと複数組のセクタパターンのリアクタンス値セットを含み、オムニパターンとセクタパターンが交互にかつ順次設定できる、セクタパターンにおいて互いに異なる複数のリアクタンス値セットであってもよい。
【0071】
図9のステップS41において、まず、電波到来方向設定パラメータnを1に初期化し、ステップS42において回転機構30を用いてアレーアンテナ装置100を回転させて送信無線信号に対して到来角θ=30×(n−1)[度]となるように設定する。次いで、ステップS43において、放射パターンパラメータmを0に初期化し、ステップS44でmは奇数であるか否かが判断され、YESのときはステップS45に進む一方、NOのときはステップS47に進む。ステップS45では、リアクタンス値コントローラ10を制御してリアクタンス値テーブルメモリ13からm番目のオムニパターンのリアクタンス値セットを読み出してアレーアンテナ装置100の各可変リアクタンス素子12−1乃至12−6に設定する。そして、ステップS46において、受信信号y0(m/2)(t)を受信して電波到来方向探知コンピュータ20内の一時記憶メモリに格納してステップS46に進む。一方、ステップS47では、リアクタンス値コントローラ10を制御してリアクタンス値テーブルメモリ13からm番目のセクタパターンのリアクタンス値セットを読み出してアレーアンテナ装置100の各可変リアクタンス素子12−1乃至12−6に設定する。そして、ステップS48において、受信信号yv(m/2)(t)を受信して電波到来方向探知コンピュータ20内の一時記憶メモリに格納してステップS46に進む。ステップS49では、放射パターンパラメータm≧12であるか否かが判断され、NOのときはステップS50に進み、放射パターンパラメータmを1だけインクリメントした後、ステップS44に戻る。一方、ステップS49でYESであれば、ステップS51に進む。
【0072】
次いで、ステップS51において、一時記憶メモリに格納された12個の受信信号y(t)を用いて、数7及び数13、数14のように受信ベクトルとしかつ規格化して電波到来方向探知コンピュータ20内の一時記憶メモリに格納し、ステップS52において、数8を用いて相関行列Ryyを計算し、固有値分解法を用いて受信信号に対する7個の固有値e(n),e(n),…を計算する。そして、ステップS53で計算された7個の固有値e(n),e(n),…のうち最大値の固有値をe(n)とし、ステップS54で電波到来方向設定パラメータn≧12であるか否かが判断され、NOのときはステップS55に進み、当該電波到来方向設定パラメータnを1だけインクリメントした後、ステップS42に戻る。一方、ステップS54でYESのときはステップS56に進み、固有値ベクトルに対する等価ウエイト行列と、ステアリングベクトルにてなるステアリング行列との積を表す数11に基づく数12を用いて校正された等価ウエイト行列Wを推定して計算して、元のメインルーチンに戻る。
【0073】
以上の図9の処理においては、周波数偏差を補償する処理と、等価ウエイト行列を校正する処理とを組み合わせているが、本発明はこれに限らず、前者のみの処理を実行するようにしてもよい。
【0074】
図10は、図6及び図7のサブルーチンである方位角推定処理(ステップS2,S12)を示すフローチャートである。
【0075】
図10のステップS61において、放射パターンパラメータmを0に初期化し、ステップS62においてmは奇数であるか否かが判断され、ステップS63で、リアクタンス値コントローラ10を制御してリアクタンス値テーブルメモリ13からm番目のオムニパターンのリアクタンス値セットを読み出してアレーアンテナ装置100の各可変リアクタンス素子12−1乃至12−6に設定する。そして、ステップS64において受信信号y0(m/2)(t)を受信して電波到来方向探知コンピュータ20内の一時記憶メモリに格納してステップS67に進む。一方、ステップS62でNOであれば、ステップS65で、リアクタンス値コントローラ10を制御してリアクタンス値テーブルメモリ13からm番目のセクタパターンのリアクタンス値セットを読み出してアレーアンテナ装置100の各可変リアクタンス素子12−1乃至12−6に設定する。そして、ステップS66において受信信号yv(m/2)(t)を受信して電波到来方向探知コンピュータ20内の一時記憶メモリに格納してステップS67に進む。ステップS67では、放射パターンパラメータm≧12であるか否かが判断され、NOのときはステップS68に進み、当該放射パターンパラメータmを1だけインクリメントした後、ステップS62に進む。一方、ステップS67でYESのときは、ステップS69に進む。
【0076】
次いで、ステップS69において、一時記憶メモリに格納された12個の受信信号y(t)を用いて数7及び数13、数14のように受信ベクトルとしかつ規格化して電波到来方向探知コンピュータ20内の一時記憶メモリに格納し、ステップS70で数8を用いて相関行列Ryyを計算し、固有値分解法を用いて受信信号に対する7個の固有値e(n),e(n),…を計算する。さらに、ステップS71で計算された固有値に基づいて、数9及び数10を用いてMUSICスペクトラムを計算し、その値のピーク値に対応する方位角を到来角(DOA)として推定し、CRTディスプレイ21に出力して表示して、元のメインルーチンに戻る。
【0077】
【実施例】
本発明者らは、上述の等価ウエイト行列を校正する方法、及び周波数偏差を補償する方法について、試作した実験システムを用いて以下のごとく検証実験を行った。
【0078】
図11に電波暗室に設定した実験システムの構成を示す。送信側では、信号発生器(SG)52からの搬送波信号を、シーケンス信号発生器51で発生されたM系列PN符号であるシーケンス信号によって混合器53によりBPSK変調し、当該変調信号をホーンアンテナ50から電子制御導波器アレーアンテナ装置100に向けて送信する。受信側では、電子制御導波器アレーアンテナ装置100により送信された無線信号を受信し、低雑音増幅器1により低雑音増幅し、局部発振器2a、混合器2b及び中間周波帯域通過フィルタ2cからなるダウンコンバータ(周波数変換器)2により低域周波数変換して混合器回路5に出力する。混合器回路5は、入力される低域周波数変換された中間周波の受信信号を局部発振器6からの局部発振信号を用いてIチャンネルとQチャンネルの互いに直交する2つのベースバンド信号に周波数変換した後、図1の電波到来方向探知コンピュータ20、リアクタンス値コントローラ10及びリアクタンス値メモリ13の機能を有するコントローラ7に出力する。
【0079】
なお、この実験システムにおいては、信号発振器52で発生される搬送波信号と、局部発振器6により発生される局部発振信号とを、局部発振器2aで発生される局部発振信号により搬送波同期化している。また、シーケンス信号発生器22により発生されるシーケンス信号はコントローラ7に供給されるとともに、シーケンス信号発生器51にも供給されてシンボル同期化されている。
【0080】
電子制御導波器アレーアンテナ装置100を回転機構30の受信回転台の上部に取り付け、回転機構30を順次任意の角度に変化させることによって送信信号到来方向を変化させる。送信側のホーンアンテナ50と、受信側の電子制御導波器アレーアンテナ装置100は電波暗室内の5mの高さに固定し、送受信間は18mの距離があるように設定した。送受信間のシンボル同期及びキャリア同期はカンニングにより確立している。
【0081】
等価ウエイト行列の校正方法の実験において、表1における最大値及び最小値の値は、現在試作している電子制御導波器アレーアンテナ装置100に装荷された可変リアクタンス素子である可変容量ダイオード(1SV287型)のカタログ値からそれぞれ最大値=−4.77Ω及び最小値=−90Ωとし、予め、コントローラ7内に保持している表1のリアクタンス値セットを順次に設定する。送信信号のシーケンス信号の系列長はP=1000シンボルとし、受信信号は、混合器回路5によりIチャンネル及びQチャンネルに分割された後、12ビットのA/D変換器により複素デジタル値として相関行列を生成する。シンボルレートは500kHzとし、SN比は20dBである。
【0082】
また、周波数偏差の補償法の実験において、送信側の信号発生器52の送信周波数を2.484GHzから偏差量+5Hz、+50Hz、+500Hz、+5kHz、+50kHz、+500kHz、+5MHzと変化させて実験を行った。シンボルレートは500kHzとする。周波数偏差量による違いを比較するため、到来波は1波のみとし電波到来方向は90°に固定する。SN比は20dBである。
【0083】
まず、等価ウエイト行列の校正方法の効果を確認するために、“校正有り”及び“校正無し”の場合のMUSICスペクトラムを図12に示す。MUSICスペクトラムの計算には上記数9を用いた。“校正無し”では上記数9の等価ウエイト行列Wにおける各行ベクトルを上記数4の等価ウエイトベクトル式から算出している。“校正有り”では上記数12から求められる等価ウエイト行列Wを用いている。
【0084】
上記数4においてインピーダンス行列Zは、素子間隔、素子長の2分の1及び素子半径が電子制御導波器アレーアンテナ装置100と同様であるダイポールアレーをモーメント法にて解析した結果を用いており、図2に図示するスカートの接地導体11付きの実際の電子制御導波器アレーアンテナ装置100におけるインピーダンス行列とは誤差を含んでいると考えられる。従って、図13では、0°から30°間隔の12方位すべてにおいて、“校正無し”の場合には到来方向推定ができていないのに対して、校正することによって20dBを超えるピークが得られていることが分かる。
【0085】
次いで、表2及び表3に“校正有り”及び“校正無し”の場合の推定角度及びピーク値をまとめて示す。
【0086】
【表2】
Figure 0003936918
【0087】
【表3】
Figure 0003936918
【0088】
図13には角度推定誤差として“実際の角度に対する推定角度[度]”を求めて視覚的に示した。表2、表3及び図13から明らかなように、0°から30°間隔の12方位は校正時に用いる12方位の電波到来方向と同一であるため、“校正有り”の場合には推定誤差±1°以内かつピーク値20dB以上の推定精度が得られている。
【0089】
次いで、より詳細な到来方向について推定精度を調べる。到来角を校正時に用いた12方位を除いた、0°から180°までの10°間隔とした。その結果を図14、表4、表5及び図15に示す。
【0090】
【表4】
Figure 0003936918
【0091】
【表5】
Figure 0003936918
【0092】
図14、表4、表5及び図15から明らかなように、概ね20dB以上のスペクトラムピークが得られているが、到来角40°及び170°においてはピークが15dB程度に鈍くなっており、すべての到来角で同様のスペクトラムが得られているとは言えないことが予想される。この原因について考えられることを2つ挙げる。1つは使用している指向性パターンに起因するものであり、もう1つは実験環境に起因するものである。前者の原因を解消するために、本実施形態に係る等価ウエイト行列の校正方法を用いる際に適していると考えられる指向性パターンについての考察を詳細後述する。
【0093】
次いで、オムニパターンの有効性について以下に説明する。本実施形態では指向性パターンとしてオムニパターンも含めて使用している。受信信号中のシーケンス信号系列を取得する際におけるオムニパターンの必要性に関して、表6に示すオムニパターンを除いた可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットを用意し、表1の可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットを用いた場合のMUSICスペクトラムとの比較を行った。その結果を図16に示す。
【0094】
【表6】
Figure 0003936918
【0095】
図16から明らかなように、オムニパターンを含まない場合には(6個のパターンを用いたとき)望ましいMUSICスペクトラムが得られないことが分かる。これは提案する校正方法を用いる場合には、到来方向推定の精度及びスペクトラムのピーク値は使用する指向性パターンに依存することを意味している。指向性パターンの数が電子制御導波器アレーアンテナ装置100の素子数より少なく、相関行列Ryyに含まれるべき受信信号の情報の一部が欠落するためと考えられる。
【0096】
次いで、セクタパターンの準対角要素による影響について以下に説明する。
【0097】
セクタパターンの準対角要素(ビーム方向素子に隣接する非励振素子のリアクタンス値)が本実施形態に係る校正方法で得られるスペクトラムに与える影響を調べるために、表7のような可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットを考える。
【0098】
【表7】
Figure 0003936918
【0099】
これは非特許文献7の13頁においてセクタパターンの準対角要素を変化させた場合と同様の考察である。非特許文献7では、準対角要素は、容量性リアクタンスの範囲では0Ωに近いほどよいという結果を得ている。比較のために本実施形態に係る表7では、準対角要素のリアクタンス値を−90Ω(1SV287型可変容量ダイオードの最小値)としている。
【0100】
図17に表1及び表7のときの可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットにおけるMUSICスペクトラムの結果を示す。表7の場合、角度推定誤差が表1の場合に比べて大きくなっているだけでなく、MUSICスペクトラムの下端の拡がりが大きくなっている。MUSICスペクトラムに歪みが見受けられるものもある。従って、準対角要素は表1のように0Ωに近い値が望ましいと考えられる。
【0101】
次いで、適切な指向性パターンに関して以下に考察する。ここで、従来技術のアレーアンテナ装置と等価な指向性パターンを導出する。
【0102】
図16及び図17から、提案する校正方法において使用する指向性パターンには適切なものが存在することが示された。適切な指向性パターンとは、電子制御導波器アレーアンテナ装置100と同一の形状を有する従来技術のアレーアンテナ装置における各素子の受信信号と同様の受信信号を得ることができる指向性パターンであると考える。従来技術のアレーアンテナ装置によって得られるMUSICスペクトラムにはリアクタンス値のようなパラメータが含まれないからである。
【0103】
電子制御導波器アレーアンテナ装置100と同一の形状を有する従来技術のアレーアンテナ装置として、図18に示す7素子の円形配列型モノポールアレーアンテナ装置110を想定する。ここで、素子間隔は電子制御導波器アレーアンテナ装置100と同様に(1/4)λであり、素子間結合を含んだインピーダンス行列も上記数4に示すインピーダンス行列Zと同一であるとする。
【0104】
図18において、アレーアンテナ装置110は、アレーアンテナ装置100と同様に、接地導体11上にそれから絶縁されて7本の励振素子A0−A6が設けられ、各励振素子A0−A6で受信された各受信信号はそれぞれ低雑音増幅器1−0乃至1−6を介して混合器61−0乃至61−6に入力される。各混合器61−0乃至61−6はそれぞれ入力される受信信号を、局部発振器62からの局部発振信号を用いて所定の中間周波の受信信号に低域周波数変換した後、A/D変換器3−0乃至3−6を介してDBF回路63に出力する。DBF回路63は入力される7個の受信信号に対して所定のデジタルビーム形成処理を実行して合成後の1個の受信信号を得て出力する。
【0105】
図18に図示された従来技術のアレーアンテナ装置110における各受信システムでの受信電圧vは、インピーダンス行列Z及び無線受信機の内部インピーダンスz(=50Ω)を要素とする対角行列Zを用いて、次式で表される(例えば、非特許文献8参照。)。
【0106】
【数16】
Figure 0003936918
【0107】
ここで、vocは各アンテナ素子上に誘起する電圧であり、到来波が上記数1と同様であるとき、Au(t)に等しい。上記数16において、
【数17】
C=Z(Z+Z−1
とおいている。
【0108】
ここで、誘起電圧vocを上記数16に代入して熱雑音を含めると、従来技術のアレーアンテナ装置110で受信された受信信号のシーケンス信号系列は、次式で表される。
【0109】
【数18】
Figure 0003936918
【0110】
上記数7と上記数18とを比較すると、電子制御導波器アレーアンテナ装置100と同一の形状を有する従来技術のアレーアンテナ装置110における各素子の受信信号と同様の受信信号を得ることができる指向性パターンは
【数19】
=C
を満たすものであることが分かる。
【0111】
【数20】
C=C
であるから
【数21】
=C
である。
【0112】
すなわち、等価ウエイトベクトルwが行列Cの第m番目列ベクトル(m=0,1,…,6)と等しくなるような可変リアクタンス値から形成される指向性パターンであればよいということがわかる。
【0113】
等価ウエイトベクトルwにおける第k番目のリアクタンス値をxmkとし、行列Cにおける第m番目列ベクトルの第k番目要素をckmとすると、xmkは次式で表される(例えば、非特許文献9参照。)。
【0114】
【数22】
Figure 0003936918
【0115】
その結果得られる可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットを表8に示す。
【0116】
【表8】
Figure 0003936918
【0117】
表1と同様に最大利得の素子方向に装荷された可変容量ダイオードのみ最小値(最小値=121.41+j103.55[Ω];jは虚数単位)をとり、その他の可変容量ダイオードは最大値(最大値=−j50[Ω])となるパターンが得られた。このことは表1の指向性パターンによって、比較的鋭く比較的誤差の小さなMUSICスペクトラムが得られたことの裏付けとなるものである。
【0118】
さらに、適切な指向性パターンによるMUSICスペクトラムについて以下に説明する。
【0119】
上記数22の演算から、最大値及び最小値はそれぞれ、最大値=50[Ω]、最小値=−103.55−j121.41[Ω]であることが導かれた。この値を用いて形成される指向性パターンによるMUSICスペクトラムは、より推定精度の高いものになると予想される。そこで、表1のMUSICスペクトラムと表8のMUSICスペクトラムの比較を試みる。現在試作している電子制御導波器アレーアンテナ装置100では表8の最大値及び最小値の値は実現できないため、シミュレーションによる評価を行う。シミュレーションにおいても、図8の処理によって等価ウエイト行列Wの校正を行い、得られた校正後の等価ウエイト行列Wを用いてMUSICスペクトラムを計算した。表1の最大値及び最小値はそれぞれ、−4.77Ω及び−90Ωとした。
【0120】
当該シミュレーションにおいては、0°から10°間隔で平面波が1波到来するとして36方位に対する到来方向推定を行った。図19にその結果を示す。図19から明らかなように、36方位すべての角度において、表8の指向性パターンによって得られたMUSICスペクトラムの方が、表1の指向性パターンによるMUSICスペクトラムよりも約10dB程度高いピークが得られていることが分かる。このことから、本実施形態に係る等価ウエイト行列の校正方法を用いるリアクタンスドメインMUSIC法では、得られるスペクトラムは使用する指向性パターンに依存することが改めて認識され、従来技術のアレーアンテナ装置110における受信信号を表現できる指向性パターンの方がより適切であることが示された。
【0121】
ここで、図14において到来角40°及び170°付近でスペクトラムのピークが鈍くなっていた原因について考察する。図19のシミュレーション結果を見ると、表1の指向性パターンを用いた場合であっても、36方位すべての角度においてほぼ同等のスペクトラムが得られており、特定の角度でピークが鈍くなるなどの特長は見受けられない。従って、表1の指向性パターンを用いたことが、特定の角度でピークが鈍くなっていることの本質的原因であるとは言いがたいと思料する。
【0122】
以上説明したように、電子制御導波器アレーアンテナ装置100による高分解能到来方向推定では指向性パターンを回転させて相関行列を生成するため、指向性パターンに応じたアンテナの校正を行う必要があり、第1の実施形態によれば、電子制御導波器アレーアンテナ装置100の等価ウエイト行列Wを7つの指向性パターンから得られる信号部分空間によって校正する方法を提案した。本校正方法では7つの指向性パターンにオムニパターンを含むことが必要であり、適切な指向性パターンが存在することが分かった。
【0123】
電波暗室での実験結果では、本実施形態に係る校正方法を用いた場合には校正しない場合と比べて、MUSICスペクトラムのピーク値が20dB程度高くなることが確認できた。角度推定誤差に関しても、等価ウエイト行列の校正時に用いた12方位では1°以内(平均0.5°)、それ以外の12方位では4°以内(平均1.25°)の精度が得られた。また、適切な指向性パターンとして、電子制御導波器アレーアンテナ装置100と同一の形状を有する従来技術のアレーアンテナ装置110における各アンテナ素子の受信信号と同様の受信信号を得ることができる指向性パターンを導出した。シミュレーション結果から、適切な指向性パターンを用いた場合には表1の指向性パターンに比べて、ピーク値が10dB程度向上することを確認した。
【0124】
次いで、周波数偏差の補償法に係る実験結果について以下に説明する。まず、周波数偏差0Hzにおける規格化の影響について述べる。
【0125】
まず、周波数偏差0Hzの受信信号にて本実施形態に係る周波数偏差の補償法が到来方向推定に影響を及ぼさないことを確認する。送受信間のカンニングによってキャリア同期は確立している。到来方向は0度、90度、120度、140度及び160度とする。図20には補償前/補償後のMUSICスペクトラムを示した。表9に補償前後の推定角度及びMUSICスペクトラムのピーク値を示す。図21において各到来角度における補償前後の角度推定誤差を示す。
【0126】
【表9】
Figure 0003936918
【0127】
これら図20、図21及び表9から明らかなように、受信信号にはランダムな熱雑音成分を含んでいるため、スペクトラムは全く同一にはならないが、規格化による劣化などの影響は見受けられず、規格化後の受信信号系列を用いた到来方向推定が可能であることが確認される。なお、本実施形態に係る実験結果は、上述の等価ウエイト行列の校正後のものである。
【0128】
次いで、周波数偏差を補償する規格化の有効性について説明する。ここで、周波数偏差量が+5Hzのときのybefore(p)及びy(p)のオムニパターンでの受信信号をそれぞれ図22(a)及び図22(b)に示し、MUSICスペクトラムを図22(c)に示す。図22(a)及び(b)の上段の図は先頭のオムニパターンと6方位指向性パターンでの受信信号(Iチャンネルのみ)を時系列で表示したものであり、下段の図は先頭オムニパターンでの受信信号(Iチャンネル及びQチャンネル)の信号配置図(コンスタレーション)である。各値はA/D変換後のデジタル値である。図22(a)及び(b)から明らかなように、周波数偏差の補償前には位相が回転しているのに対して、周波数偏差の補償後では位相回転が改善されている様子が分かる。図22(c)では、この改善効果から補償後に鋭いスペクトラムのピークが見られる。角度推定誤差は+2°である。
【0129】
また、周波数偏差量が+50Hz、+500Hz、+5kHz、+50kHz、+500kHz及び+5MHzの場合のMUSICスペクトラムをそれぞれ図23乃至28に示す。周波数偏差量が+50Hzから+50kHzまでは、周波数偏差の補償後のMUSICスペクトラムに鋭いピークが見られるが、周波数偏差量が+5MHzでは、周波数偏差を補償できていない様子が分かる。さらに、周波数偏差量が+500kHzでは、周波数偏差の補償後においてピークは見受けられるが角度推定誤差が−6°と比較的大きく、周波数偏差の補償前の方が鋭いスペクトラムを得ている。
【0130】
シンボルレートは500kHzであるため、周波数偏差量が+50Hzでは1000シンボルの間に位相が36°程度、周波数偏差量が+500Hzでは位相が1回転している様子が見受けられる。また、周波数偏差量が+500kHzでは1シンボル毎に1回転しており、同じ位相でサンプリングするため、見かけ上、位相回転が停止しているように見える。周波数偏差量が+50kHzでは、周波数偏差量が+500kHzの1/10にて回転しているため、周波数偏差の補償前の信号配置図(コンスタレーション)において位相回転の円周上にほぼ等間隔で10箇所の固まりが見られる。
【0131】
以上の周波数偏差の補償法を用いたときのMUSICスペクトラムのピーク及び角度推定誤差を表10に示す。図29は各到来角度における周波数偏差の補償前後の角度推定誤差である。
【0132】
【表10】
Figure 0003936918
【0133】
表10及び図29から明らかなように、周波数偏差量が+5Hzから+50kHzまでにおいては、周波数偏差量が0Hzの場合と比べて推定誤差には大きく影響しておらず、受信信号規格化による周波数偏差補償が機能していると考えられる。
【0134】
周波数偏差量が+500kHzの場合には、周波数偏差の補償後の角度推定誤差は−6°と周波数偏差量が+50kHz以下の場合に比べて比較的大きく、周波数偏差補償の効果が低下していると考えられる。本実施形態では、シンボル同期、キャリア同期を送受信間のカンニングにより完全に確立しているため、周波数偏差の補償前においても位相回転がほとんど見られず補償後よりも高い推定精度と高いMUSICスペクトラムが得られた。
【0135】
また、周波数偏差量が+5Hzの場合にも、周波数偏差の補償前のMUSICスペクトラムは推定誤差を大きく含んでいることから、リアクタンスドメインMUSIC法において送受信間の周波数偏差による僅かな位相回転が推定精度を大きく劣化させることが分かった。
【0136】
以上説明したように、電子制御導波器アレーアンテナ装置100による高分解能到来方向推定では周期的に繰り返される同一送信信号を複数の指向性パターンにて受信するため、送受信間に周波数偏差があるシステムにおいては同一送信信号を受信するという前提が成立しないので、周波数偏差を補償する方法として、本実施形態によれば、指向性パターンで受信する直前にオムニパターンで受信し、指向性パターンでの受信信号をオムニパターン受信信号で規格化することによって位相回転を抑制する方法を提案した。
【0137】
上述の電波暗室での実験結果では、受信信号規格化の方法によって位相回転が大幅に改善され、鋭いMUSICスペクトラムが得られることが確認できた。中心周波数2.484GHz、シンボルレート500kHzに対して、周波数偏差量が500kHz(周波数偏差:201×10−6)程度までは補償可能であることが分かった。このことは、2.4GHz帯小電力データ通信システムの技術基準適合証明(周波数偏差基準:50×10−6)を受けた送受信機から構成されたシステムであれば、本実施形態に係る手法による周波数偏差の補償が適用できることを示している。電子制御導波器アレーアンテナ装置100のリアクタンスドメイン信号処理においては、この送受信間の周波数偏差を補償することが重要な鍵となる。提案した受信信号規格化の方法はリアクタンスドメインMUSIC法だけでなく、リアクタンスドメイン信号処理を利用する他のアルゴリズムにも適用できる有用な方法であると考えられる。
【0138】
以上説明した実施形態では、(1+6)素子のアレーアンテナ装置100を用いたが、非励振素子の本数は6本に限定されず、任意の複数本であればよい。
【0139】
【発明の効果】
以上詳述したように、電子制御導波器アレーアンテナ装置を用いた、本発明に係る電波到来方向探知方法及び装置によれば、上記アレーアンテナ装置の互いに異なる複数の所定の方位角の方向から送信された無線信号をそれぞれ、オムニパターンのときの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットと、互いに異なる複数のセクタパターンの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットとによりそれぞれ設定された互いに異なる複数の放射パターンの状態において上記アレーアンテナ装置で受信し、上記受信された各受信信号を検出し、上記検出された複数の受信信号間の相関を示す相関行列Ryyを計算し、計算した相関行列Ryyに基づいて固有値分解法を用いて各方位角毎の受信信号に対する固有値を計算し、最大値の固有値を各方位角の方向毎の固有値とし、上記各方位角の方向毎の固有値からなる固有値ベクトルを用いて、上記アレーアンテナ装置の各可変リアクタンス素子による放射パターンの各方向ベクトルに対する重み付けを表す等価的なベクトルからなる等価ウエイト行列を校正し、校正した等価ウエイト行列を用いてMUSIC法により受信信号の到来角を計算する。従って、上記電子制御導波器アレーアンテナ装置を用いて電波到来角を探知するときに、当該アレーアンテナ装置に固有の等価ウエイトベクトルを校正して、より高い分解能を得ることができる電波到来方向探知方法及び装置を提供することができる。
【0140】
また、電子制御導波器アレーアンテナ装置を用いた、本発明に係る電波到来方向探知方法及び装置によれば、オムニパターンのときの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットを設定した後、所定のセクタパターンの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットを設定する1組の設定を、上記セクタパターンが互いに異なるように複数回繰り返した各組の設定の状態において、互いに隣接する2つのオムニパターンでの2つの受信信号を、当該2つの受信信号の位相に基づく位相補償量で位相補償した信号を、オムニパターンでの受信信号として計算し、各組の設定におけるセクタパターンでの受信信号をオムニパターンでの受信信号で除算することにより規格化してなる信号を、セクタパターンでの受信信号として計算し、上記計算された複数の受信信号間の相関を示す相関行列Ryyを計算し、上記計算された各相関行列Ryyを用いてMUSIC法により受信信号の到来角を計算する。従って、電子制御導波器アレーアンテナ装置を用いて電波到来角を探知するときに、送受信の変復調において周波数偏差があり受信信号の位相が回転している場合、周波数偏差を補償することができ、角度推定誤差を低減できる電波到来方向探知方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に係る電波到来方向探知装置の構成を示すブロック図である。
【図2】 図1のアレーアンテナ装置100の詳細な構成を示す断面図である。
【図3】 図1のアレーアンテナ装置100で受信される、周期的シーケンス信号を含む無線信号と、受信指向性パターンとを示す平面図である。
【図4】 第1の実施形態で用いる、周期的シーケンス信号系列を示すタイミングチャートである。
【図5】 第2の実施形態で用いる、周期的に繰り返される送信信号のシーケンス信号を示すタイミングチャートである。
【図6】 図1の電波到来方向探知コンピュータ20によって実行される、第1の実施形態に係る電波到来方向推定処理を示すフローチャートである。
【図7】 図1の電波到来方向探知コンピュータ20によって実行される、第2の実施形態に係る電波到来方向推定処理を示すフローチャートである。
【図8】 図6のサブルーチンである等価ウエイト行列を校正して計算する処理(ステップS1)を示すフローチャートである。
【図9】 図7のサブルーチンである周波数偏差補償法を用いた等価ウエイト行列を校正して計算する処理(ステップS11)を示すフローチャートである。
【図10】 図6及び図7のサブルーチンである方位角推定処理(ステップS2,S12)を示すフローチャートである。
【図11】 実施例で用いる電波暗室における実験システムの構成を示すブロック図である。
【図12】 第1と第2の実施形態に係る等価ウエイトベクトルの校正処理の実行の有無におけるMUSICスペクトラムを示すグラフである。
【図13】 第1と第2の実施形態に係る等価ウエイトベクトルの校正処理を実行したときの到来角に対する角度推定誤差を示すグラフである。
【図14】 第1と第2の実施形態に係る等価ウエイトベクトルの校正処理に用いた12方位を除く到来方向に対する角度推定精度を示すMUSICスペクトラムのグラフである。
【図15】 第1と第2の実施形態に係る等価ウエイトベクトルの校正処理に用いた方位角以外の角度推定誤差を示すグラフである。
【図16】 第1と第2の実施形態においてオムニパターンを除いた6個の指向性パターンによるMUSICスペクトラムを示すグラフである。
【図17】 第1と第2の実施形態においてセクタパターンの準対角要素を最小値とした場合(表7)のMUSICスペクトラムを示すグラフである。
【図18】 電子制御導波器アレーアンテナ装置と同一形状の従来技術のアレーアンテナ装置(7素子円形配列アレーアンテナ)とその受信装置の構成を示すブロック図である。
【図19】 図18に図示した従来技術のアレーアンテナ装置と等価な指向性パターンによるMUSICスペクトラムを示すグラフである。
【図20】 第2の実施形態に係る周波数補償前後にMUSICスペクトラムを示すグラフである。
【図21】 第2の実施形態に係る周波数補償前後における周波数偏差が0Hzであるときの角度推定誤差を示すグラフである。
【図22】 周波数偏差量が+5Hzのときのシミュレーション結果であって、(a)は第2の実施形態に係る周波数補償前におけるIチャンネルの時系列の信号波形を示す波形図及び信号配置図であり、(b)は第2の実施形態に係る周波数補償後におけるIチャンネルの時系列の信号波形を示す波形図及び信号配置図であり、(c)は第2の実施形態に係る周波数補償前後におけるMUSICスペクトラムを示すグラフである。
【図23】 周波数偏差量が+50Hzのときのシミュレーション結果であって、(a)は第2の実施形態に係る周波数補償前におけるIチャンネルの時系列の信号波形を示す波形図及び信号配置図であり、(b)は第2の実施形態に係る周波数補償後におけるIチャンネルの時系列の信号波形を示す波形図及び信号配置図であり、(c)は第2の実施形態に係る周波数補償前後におけるMUSICスペクトラムを示すグラフである。
【図24】 周波数偏差量が+500Hzのときのシミュレーション結果であって、(a)は第2の実施形態に係る周波数補償前におけるIチャンネルの時系列の信号波形を示す波形図及び信号配置図であり、(b)は第2の実施形態に係る周波数補償後におけるIチャンネルの時系列の信号波形を示す波形図及び信号配置図であり、(c)は第2の実施形態に係る周波数補償前後におけるMUSICスペクトラムを示すグラフである。
【図25】 周波数偏差量が+5kHzのときのシミュレーション結果であって、(a)は第2の実施形態に係る周波数補償前におけるIチャンネルの時系列の信号波形を示す波形図及び信号配置図であり、(b)は第2の実施形態に係る周波数補償後におけるIチャンネルの時系列の信号波形を示す波形図及び信号配置図であり、(c)は第2の実施形態に係る周波数補償前後におけるMUSICスペクトラムを示すグラフである。
【図26】 周波数偏差量が+50kHzのときのシミュレーション結果であって、(a)は第2の実施形態に係る周波数補償前におけるIチャンネルの時系列の信号波形を示す波形図及び信号配置図であり、(b)は第2の実施形態に係る周波数補償後におけるIチャンネルの時系列の信号波形を示す波形図及び信号配置図であり、(c)は第2の実施形態に係る周波数補償前後におけるMUSICスペクトラムを示すグラフである。
【図27】 周波数偏差量が+500kHzのときのシミュレーション結果であって、(a)は第2の実施形態に係る周波数補償前におけるIチャンネルの時系列の信号波形を示す波形図及び信号配置図であり、(b)は第2の実施形態に係る周波数補償後におけるIチャンネルの時系列の信号波形を示す波形図及び信号配置図であり、(c)は第2の実施形態に係る周波数補償前後におけるMUSICスペクトラムを示すグラフである。
【図28】 周波数偏差量が+5MHzのときのシミュレーション結果であって、(a)は第2の実施形態に係る周波数補償前におけるIチャンネルの時系列の信号波形を示す波形図及び信号配置図であり、(b)は第2の実施形態に係る周波数補償後におけるIチャンネルの時系列の信号波形を示す波形図及び信号配置図であり、(c)は第2の実施形態に係る周波数補償前後におけるMUSICスペクトラムを示すグラフである。
【図29】 第2の実施形態に係る周波数補償前後における周波数偏差を有するときの角度推定誤差を示すグラフである。
【符号の説明】
A0…励振素子、
A1乃至A6…非励振素子、
1…低雑音増幅器(LNA)、
2…ダウンコンバータ、
2a…局部発振器、
2b…混合器、
2c…中間周波帯域通過フィルタ、
3…A/D変換器、
4…無線受信機、
5…混合器回路、
7…コントローラ、
9…同軸ケーブル、
10…リアクタンス値コントローラ、
11…接地導体、
12−1乃至12−6…可変リアクタンス素子、
13…リアクタンス値テーブルメモリ、
20…電波到来方向探知コンピュータ、
21…CRTディスプレイ、
22…シーケンス信号発生器、
30…回転機構、
50…ホーンアンテナ装置、
51…シーケンス信号発生器、
52…信号発生器、
53…混合器、
100,110…アレーアンテナ装置。

Claims (8)

  1. 無線信号を受信するための励振素子と、上記励振素子から所定の間隔だけ離れて設けられた複数の非励振素子と、上記各非励振素子にそれぞれ接続された可変リアクタンス素子とを備え、上記各可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることにより、上記各非励振素子をそれぞれ導波器又は反射器として動作させ、アレーアンテナの指向特性を変化させるアレーアンテナを用いた電波到来方向探知方法において、
    上記アレーアンテナの互いに異なる複数の所定の方位角の方向から送信された無線信号をそれぞれ、オムニパターンのときの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットと、互いに異なる複数のセクタパターンの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットとによりそれぞれ設定された互いに異なる複数の放射パターンの状態において上記アレーアンテナで受信し、上記受信された各受信信号を検出し、上記検出された複数の受信信号間の相関を示す相関行列Ryyを計算し、計算した相関行列Ryyに基づいて固有値分解法を用いて各方位角毎の受信信号に対する固有値を計算し、最大値の固有値を各方位角の方向毎の固有値とし、上記各方位角の方向毎の固有値からなる固有値ベクトルを用いて、上記アレーアンテナの各可変リアクタンス素子による放射パターンの各方向ベクトルに対する重み付けを表す等価的なベクトルからなる等価ウエイト行列を校正するステップと、
    上記互いに異なる可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットをそれぞれ設定したときに上記アレーアンテナによって受信される各受信信号を検出し、上記複数の受信信号間の相関を表す相関行列Ryyを計算し、上記計算された各相関行列Ryyを固有値分解して上記各相関行列Ryyの固有ベクトルを計算し、上記計算された各固有ベクトルと上記校正された等価ウエイト行列とに基づいて、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法を用いてMUSICスペクトルを計算し、上記計算されたMUSICスペクトルに基づいて上記アレーアンテナによって受信された受信信号の到来角を計算するステップとを含むことを特徴とする電波到来方向探知方法。
  2. 上記互いに異なる可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットは、上記アレーアンテナにより受信した受信信号と、上記アレーアンテナにおける非励振素子を励振素子とした別のアレーアンテナで受信した各受信信号を合成したときの合成受信信号とが実質的に同一になるような放射パターンに対する可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットであることを特徴とする請求項1記載の電波到来方向探知方法。
  3. オムニパターンのときの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットを設定した後、所定のセクタパターンの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットを設定する1組の設定を、上記セクタパターンが互いに異なるように複数回繰り返した各組の設定の状態において、互いに隣接する2つのオムニパターンでの2つの受信信号を、当該2つの受信信号の位相に基づく位相補償量で位相補償した信号を、オムニパターンでの受信信号とし計算し、各組の設定におけるセクタパターンでの受信信号をオムニパターンでの受信信号で除算することにより規格化してなる信号を、セクタパターンでの受信信号とし計算し、上記計算された複数の受信信号間の相関を示す相関行列Ryyを計算することを特徴とする請求項1又は2記載の電波到来方向探知方法。
  4. 無線信号を受信するための励振素子と、上記励振素子から所定の間隔だけ離れて設けられた複数の非励振素子と、上記各非励振素子にそれぞれ接続された可変リアクタンス素子とを備え、上記各可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることにより、上記各非励振素子をそれぞれ導波器又は反射器として動作させ、アレーアンテナの指向特性を変化させるアレーアンテナを用いた電波到来方向探知方法において、
    上記アレーアンテナの互いに異なる複数の所定の方位角の方向から送信された無線信号をそれぞれ、複数のパターンで上記アレーアンテナで受信し、上記受信された各受信信号を検出するときに、オムニパターンのときの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットを設定した後、所定のセクタパターンの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットを設定する1組の設定を、上記セクタパターンが互いに異なるように複数回繰り返した各組の設定の状態において、互いに隣接する2つのオムニパターンでの2つの受信信号を、当該2つの受信信号の位相に基づく位相補償量で位相補償した信号を、オムニパターンでの受信信号として計算し、各組の設定におけるセクタパターンでの受信信号をオムニパターンでの受信信号で除算することにより規格化してなる信号を、セクタパターンでの受信信号として計算し、上記計算された複数の受信信号間の相関を示す相関行列Ryyを計算し、上記計算された各相関行列Ryyを固有値分解して上記各相関行列Ryyの固有ベクトルを計算し、上記計算された各固有ベクトルに基づいて、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法を用いてMUSICスペクトルを計算し、上記計算されたMUSICスペクトルに基づいて上記アレーアンテナによって受信された受信信号の到来角を計算するステップとを含むことを特徴とする電波到来方向探知方法。
  5. 無線信号を受信するための励振素子と、上記励振素子から所定の間隔だけ離れて設けられた複数の非励振素子と、上記各非励振素子にそれぞれ接続された可変リアクタンス素子とを備え、上記各可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることにより、上記各非励振素子をそれぞれ導波器又は反射器として動作させ、アレーアンテナの指向特性を変化させるアレーアンテナを用いた電波到来方向探知装置において、
    上記アレーアンテナの互いに異なる複数の所定の方位角の方向から送信された無線信号をそれぞれ、オムニパターンのときの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットと、互いに異なる複数のセクタパターンの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットとによりそれぞれ設定された互いに異なる複数の放射パターンの状態において上記アレーアンテナで受信し、上記受信された各受信信号を検出し、上記検出された複数の受信信号間の相関を示す相関行列Ryyを計算し、計算した相関行列Ryyに基づいて固有値分解法を用いて各方位角毎の受信信号に対する固有値を計算し、最大値の固有値を各方位角の方向毎の固有値とし、上記各方位角の方向毎の固有値からなる固有値ベクトルを用いて、上記アレーアンテナの各可変リアクタンス素子による放射パターンの各方向ベクトルに対する重み付けを表す等価的なベクトルからなる等価ウエイト行列を校正する第1の制御手段と、
    上記互いに異なる可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットをそれぞれ設定したときに上記アレーアンテナによって受信される各受信信号を検出し、上記複数の受信信号間の相関を表す相関行列Ryyを計算し、上記計算された各相関行列Ryyを固有値分解して上記各相関行列Ryyの固有ベクトルを計算し、上記計算された各固有ベクトルと上記校正された等価ウエイト行列とに基づいて、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法を用いてMUSICスペクトルを計算し、上記計算されたMUSICスペクトルに基づいて上記アレーアンテナによって受信された受信信号の到来角を計算する第2の制御手段とを備えたことを特徴とする電波到来方向探知装置。
  6. 上記互いに異なる可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットは、上記アレーアンテナにより受信した受信信号と、上記アレーアンテナにおける非励振素子を励振素子とした別のアレーアンテナで受信した各受信信号を合成したときの合成受信信号とが実質的に同一になるような放射パターンに対する可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットであることを特徴とする請求項5記載の電波到来方向探知装置。
  7. オムニパターンのときの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットを設定した後、所定のセクタパターンの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットを設定する1組の設定を、上記セクタパターンが互いに異なるように複数回繰り返した各組の設定の状態において、互いに隣接する2つのオムニパターンでの2つの受信信号を、当該2つの受信信号の位相に基づく位相補償量で位相補償した信号を、オムニパターンでの受信信号とし計算し、各組の設定におけるセクタパターンでの受信信号をオムニパターンでの受信信号で除算することにより規格化してなる信号を、セクタパターンでの受信信号とし計算し、上記計算された複数の受信信号間の相関を示す相関行列Ryyを計算することを特徴とする請求項5又は6記載の電波到来方向探知装置。
  8. 無線信号を受信するための励振素子と、上記励振素子から所定の間隔だけ離れて設けられた複数の非励振素子と、上記各非励振素子にそれぞれ接続された可変リアクタンス素子とを備え、上記各可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることにより、上記各非励振素子をそれぞれ導波器又は反射器として動作させ、アレーアンテナの指向特性を変化させるアレーアンテナを用いた電波到来方向探知装置において、
    上記アレーアンテナの互いに異なる複数の所定の方位角の方向から送信された無線信号をそれぞれ、複数のパターンで上記アレーアンテナで受信し、上記受信された各受信信号を検出するときに、オムニパターンのときの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値セットを設定した後、所定のセクタパターンの各可変リアクタンス素子のリアクタンス値の複数のセットを設定する1組の設定を、上記セクタパターンが互いに異なるように複数回繰り返した各組の設定の状態において、互いに隣接する2つのオムニパターンでの2つの受信信号を、当該2つの受信信号の位相に基づく位相補償量で位相補償した信号を、オムニパターンでの受信信号として計算し、各組の設定におけるセクタパターンでの受信信号をオムニパターンでの受信信号で除算することにより規格化してなる信号を、セクタパターンでの受信信号として計算し、上記計算された複数の受信信号間の相関を示す相関行列Ryyを計算し、上記計算された各相関行列Ryyを固有値分解して上記各相関行列Ryyの固有ベクトルを計算し、上記計算された各固有ベクトルに基づいて、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法を用いてMUSICスペクトルを計算し、上記計算されたMUSICスペクトルに基づいて上記アレーアンテナによって受信された受信信号の到来角を計算する制御手段を備えたことを特徴とする電波到来方向探知装置。
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