JP3933302B2 - 新規な燐酸エステル及び該化合物からなる離型剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は燐酸エステルからなるプラスチックレンズ成形用離型剤および該離型剤を含むプラスチックレンズに関する。
【0002】
【従来の技術】
透明樹脂は、ガラス並の透明性とガラスよりも高い衝撃性を利用して、例えば、航空機用窓ガラス、自動車用ヘッドライトカバー、ペットボトル、封止剤、液晶パネル、光ディスク、光ファイバー、プラスチックレンズなどの多品種に使用されている。
【0003】
一般的な透明樹脂の種類としては、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、PMMA、(メタ)アクリル樹脂等のオレフィン樹脂、ポリエン−ポリチオール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
通常、これらの透明樹脂は射出成型又は注型重合によって成型される。
何れの成型方法によっても、樹脂を成形型から離型させなければ製品は得られない。
【0004】
エポキシ樹脂とウレタン樹脂を除く大部分の樹脂では、成形型からの樹脂の離型は比較的容易で、成形型からの離型性を改良するいわゆる離型剤は必要とされない場合が多い。ところが厳密な成型を行なう場合、離型剤無しでそれらの樹脂を成型すると、離型の際に過大な応力がかかることにより、成型物が反る等の変形を起こしたり、内部に光学歪みを発生する等の好ましくない結果を与える場合が多かった。
【0005】
一方、エポキシ樹脂とウレタン樹脂は、接着剤にも用いられている事からも判る通り、極めて接着力の強い樹脂として知られ、通常離型剤の使用は必須である。
【0006】
離型剤は、成形型表面にスプレー等を利用して塗布する外部離型剤と、原料モノマーに予め添加しておく内部離型剤がある。外部離型剤は、操作が煩雑であるばかりでなく、離型膜が一定になりにくく面精度が低下するといった問題点がある。
【0007】
これら離型剤として、従来より知られている化合物としては、脂肪族アルコール、脂肪酸エステル、トリグリセリド類、フッ素系界面活性剤、高級脂肪酸金属塩等があるが、これらを使用した場合、離型し難かったり、樹脂内部及び表面に濁りを発生し易く樹脂本来の透明性を損ない易いといった欠点があった。
【0008】
透明性を損なう事は、高い透明性を利用した透明樹脂製成型物では、特に問題で、そのなかでも通常の目視では到底判断できない程の僅かな曇りでもスペックアウトになるプラスチックレンズに代表される光学材料の分野では、極めて致命的な欠点となっていた。
特に透明ポリチオウレタン樹脂の場合は、通常のエポキシ樹脂及びウレタン樹脂と同様に極めて接着力が強く、同様に離型剤量を多く必要とするが、通常のエポキシ樹脂及びウレタン樹脂よりもかなり濁り易く、透明性を維持して問題なく離型させる事は容易でなかった。
【0009】
この問題を解決する方法として、種々の提案が行なわれている。
例えば、燐酸エステル等を用いる方法(特開平1−18851号公報,特公平7−118989号公報)、アルコキシアルキル燐酸エステルを用いる方法(特公平6−20752号公報,特開平3−287641号公報)等が挙げられる。
本発明者らも、界面活性剤を用いる方法(特公平7−77733号公報)、チオ燐酸エステル類を用いる方法(特開平5−306320号公報)、酸性ホスホン酸誘導体を用いる方法(特開平8−57864号公報)等を提案している。
【0010】
しかしながら、これらの方法を用いても、厳密にはまだ透明性が不充分であったり、着色したり、不快臭がしたり、接着力の極めて強い場合には、通常の量では離型性が悪かったり、離型性を向上させる為に離型剤量を多く使用して樹脂が濁ったり、染色ムラ、ハードコートの密着性の低下等の二次加工時に問題等が発生する事があった。
また、燐酸エステルのモノエステル体とジエステル体の組成比がある一定の範囲内でない場合は、重合中発泡したり、調合時に不透明物質を生じたり、得られた樹脂が白濁したりするといった問題が発生することもあった(特公平6−20752号公報)。
通常、酸性ホスホン酸誘導体を用いれば、良好な結果を与える事が多い。
しかしながらこの酸性ホスホン酸誘導体も、例えば、ルイス酸と3級アミンを併用してウレタン化重合を均一に短時間で行なう特別な方法(特開平8−8792号公報)に使用した場合、透明性が損なわれ易くなるといった傾向があり、従来の方法では、充分に満足できるとは言い難かった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、モノエステル体とジエステル体の組成比を管理することなく従来よりも透明性と離型性に優れた離型剤と、透明性に優れた高品質の透明樹脂を提供する事にある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、特定の燐酸エステルが並びにその組成物を透明樹脂の離型剤として使用すれば、上記問題点は解決され、高品質の透明樹脂が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、下記式(1)
【化3】
(式中、mは1又は2を示し、nは1〜5の整数を示し、R1は炭素数1〜20の残基を示し、R2、R3はそれぞれ水素原子、メチル基を示す。但し、R2、R3がともに水素原子の場合は除く。)で表される燐酸エステルからなることを特徴とするプラスチックレンズ成形用離型剤及び該離型剤を含むプラスチックレンズからなるものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係わる式(1)の燐酸エステルは、(ジ)メチルエチレングリコール骨格を有する燐酸モノエステルまたは燐酸ジエステルで、mで表せば各々1または2である。
【0015】
式(1)中のnは、(ジ)メチルエチレングリコール骨格の繰り返し数を表し、1〜5の範囲であり、好ましくは1〜3である。
【0016】
式(1)中のR2,R3は、水素又はメチル基を表す(R2,R3がともに水素の場合を除く。)。
R2,R3がともに水素の場合は、少なくとも何れかがメチル基で置換された本発明の燐酸エステルと比較して、離型性が低下する。
【0017】
式(1)で表されるR1残基を構成する炭素数は、1〜20である。炭素数が20を超えると透明性が低下する。好ましくは3〜15である。
【0018】
このR1で表される残基は、炭素数が1〜20の範囲で構成されている事を必須とするものである。従って、以下に代表的な残基の形態を例示するが、本発明がこれらの形態のみに限定されるものではない。
残基の形態としては、例えば、直鎖状飽和アルキル基、直鎖状不飽和アルキル基、分岐状飽和アルキル基、分岐状不飽和アルキル基、直鎖状飽和アルキルアリール基、直鎖状不飽和アルキルアリール基、分岐状飽和アルキルアリール基、分岐状不飽和アルキルアリール基、アリールアルキル基、アリールアルキレン基、アルキルアリールアルキレン基等が挙げられる。また、上記の残基中に、エーテル結合、チオエーテル結合、スルホキシ結合、スルホン結合、エステル結合、カルボニル結合、アミド結合、イミド結合、ヘテロ環、シクロアルキレン環等の異種結合、異種原子、異種構造等も問題のない範囲で含んでもよい。さらにはこれらの残基を構成する水素原子の一部を同様に問題のない範囲でフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子で置換してもよい。
【0019】
本発明に係わる式(1)の燐酸エステルは、例えば、次のような方法で合成される。
1,2−プロピレンオキサイド又は2,3−エポキシブタンと、アルコール類、フェノール類に代表されるヒドロキシ化合物類とを反応させて得られるオキシアルコール類と、オキシハロゲン化燐類を反応させて、下記式(2)
【化4】
(式中、mは1又は2を示し、nは1〜5の整数を示し、R1は炭素数1〜20の残基を示す、R2、R3はそれぞれ水素原子又はメチル基を示す、但し、R2、R3がともに水素原子の場合は除く。Xはハロゲン原子を示す。)で表される燐酸エステルハライドを合成し、次いで加水分解する事によって得られる。pH8以下は好ましい。
【0020】
ジエステル体(m=2)を選択的に合成したい場合は、オキシハロゲン化燐類の代わりに三塩化燐、三臭化燐等の三ハロゲン化燐類とオキシアルコール類を反応させて、亜燐酸ジエステル体を合成する。次いで、副生したアルコキシ(ジ)メチルエチルハロゲライドを減圧蒸留等の精製操作によって系外に留去除去した後、塩素、臭素等のハロゲン類を反応させてハロゲノ亜燐酸ジエステル体を生成せしめ、最後にオキシハロゲン化燐を用いた場合と同様に加水分解することによって得られる。
【0021】
以下に、具体的な一例を挙げて、各工程の製造方法を述べる。
【化5】
【0022】
アルコール類である式(A)の1−ブタノールに式(B)の1,2−プロピレンオキサイドを反応させて、オキシアルコール類である式(C)の1−ブトキシ−2−プロパノールを合成する。
この付加反応に於ける反応温度は、例えば、ヒドロキシ基がアルコール性であるかフェノール性であるか等の酸性度の差でもかなり異なるが0〜200℃が好ましく、30〜150℃が特に好ましい。
【0023】
反応速度を向上させる目的で、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン、ピリジン等の塩基類を触媒として加えてもよい。添加量は、反応液に対して0.001〜5wt%の範囲が好ましく、0.05〜3wt%の範囲であればさらに好ましい。
【0024】
反応溶媒は、使用しなくてもよいが、使用する場合はアセトニトリル、トルエン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性溶媒類が好ましい。
選択率の向上や急激な内温上昇抑制等を目的として、原料である1−ブタノールまたは1,2−プロピレンオキサイドの何れかまたは両方を滴下してもよい。
こうして得られた式(C)の1−ブトキシ−2−プロパノールは、そのまま次の反応に用いても構わないが、通常、蒸留によって精製される事が多い。
【0025】
本発明に係わる式(2)の燐酸エステルハロゲライド類に属する式(E)のモノ(1−ブトキシ−2−プロピル)燐酸ジハロゲライドは、式(C)の1−ブトキシ−2−プロパノールを、オキシ塩化燐、オキシ臭化燐等に代表される式(D)のオキシハロゲン化燐類と反応させる事によって得られる。オキシハロゲン化燐類の中では、経済的に有利なオキシ塩化燐が好ましく用いられる。
【0026】
式(C)の1−ブトキシ−2−プロパノールと式(D)のオキシハロゲン化燐類とのモル比は、所望する燐酸エステルの組成によってほぼ決定されるが、好ましくは0.5〜2.5(C/D)、特に好ましくは0.9〜2.1(C/D)である。
【0027】
反応温度は、0〜100℃が好ましく、10〜50℃であればさらに好ましい。100℃を超えた場合、著しく着色する場合がある。
【0028】
反応速度を向上させる目的で、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン、ピリジン等の塩基類を触媒として加えてもよい。中でもトリエチルアミン、ピリジン等の3級アミンを用いた場合、好ましい結果を与える。
塩基類の使用量は、オキシアルコール類である式(C)の1−ブトキシ−2−プロパノールのヒドロキシに対して、0.5〜2.0当量が好ましく、0.9〜1.3当量であればさらに好ましい。
【0029】
触媒を使用しない場合、反応溶媒も使用しない方が好ましい。
触媒を使用する場合は、反応溶媒は使用した方が都合がよい場合が多く、例えば、ベンゼン、トルエン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン等の水と分離する溶媒が好ましく用いられる。中でも、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン溶媒がさらに好ましい。
【0030】
選択率の向上や急激な内温上昇抑制等を目的として、オキシアルコール類である式(C)の1−ブトキシ−2−プロパノールと触媒を同時に滴下するか、若しくは両方を滴下してもよい。
【0031】
本発明に係わる式(1)の燐酸エステルに属する式(F)のモノ(1−ブトキシ−2−プロピル)燐酸は、式(E)のモノ(1−ブトキシ−2−プロピル)燐酸ジクロライドを加水分解する事によって得られる。
【0032】
加水分解は、水酸化ナトリウム水、炭酸ナトリウム水、炭酸水素ナトリウム水、炭酸カリウム水、燐酸ナトリウム水、酢酸ナトリウム水、アンモニア水、水、酢酸水、燐酸水、塩酸、硫酸等の各種の塩基及び酸等が使用できるが、加水分解のpHは8以下、好ましくは7以下である。pHが8を超えた状態で加水分解を行っても離型剤の性能としては充分満足できるものが得られるが、得られる製品が着色したり、加水分解以外の副反応が起こったりする場合があり、あまり好ましくはない。
加水分解剤の種類としては、経済性、品質、及び操作性等の面から、水が好ましい。さらに、加水分解は、反応液を窒素バブリングしながら行った方が、好ましい結果を与える場合が多い。
【0033】
加水分解温度は、0〜100℃が好ましく、30〜70℃であればさらに好ましい。
加水分解の場合も急激な内温上昇抑制等を目的として、例えば、水等の加水分解剤に、式(E)のモノ(1−ブトキシ−2−プロピル)燐酸ジクロライドまたはその反応液を滴下するといった滴下形態の方が、より好ましい結果を与える事が多い。
【0034】
こうして得られた反応液は、必要に応じて、洗浄、濾過、活性炭処理等に代表される吸着剤処理等、及び脱溶媒等の蒸留操作等よって精製され、本発明の燐酸エステルである式(F)のモノ(1−ブトキシ−2−プロピル)燐酸が得られる。
【0035】
式(F)も含めた本発明に係わる式(1)の燐酸エステルとしては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
代表的な化合物としては、例えば、(モノ,ジ)〔1−メトキシ−2−プロピル〕燐酸、(モノ,ジ)〔1−エトキシ−2−プロピル〕燐酸、(モノ,ジ)〔1−ブトキシ−2−プロピル〕燐酸、(モノ,ジ)〔2−ブトキシ−3−ブチル〕燐酸、(モノ,ジ)〔1−デシルオキシ−2−プロピル〕燐酸、(モノ,ジ)〔1−シクロヘキシルオキシ−2−プロピル〕燐酸、(モノ,ジ)〔1−アリルオキシ−2−プロピル〕燐酸、(モノ,ジ)〔1−(3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデシルオキシ)−2−プロピル〕燐酸、(モノ,ジ)〔1−フェノキシ−2−プロピル〕燐酸、(モノ,ジ)〔1−o−メチルフェノキシ−2−プロピル〕燐酸、(モノ,ジ)〔1−p−ノニルフェノキシ−2−プロピル〕燐酸、(モノ,ジ)〔1−(p−クロロフェノキシ)−2−プロピル〕燐酸、(モノ,ジ)〔1−(p−メトキシフェノキシ)−2−プロピル〕燐酸、(モノ,ジ)〔1−ベンジルオキシ−2−プロピル〕燐酸、(モノ,ジ)〔1−(ウンデシルオキシベンジルオキシ)−2−プロピル〕燐酸、(モノ,ジ)〔1−(1−ブトキシ−2−プロポキシ)−2−プロピル〕燐酸、(モノ,ジ)〔トリ(1,2−プロピレングリコールモノブチルエーテル)〕燐酸、(モノ,ジ)〔テトラ(1,2−プロピレングリコールモノブチルエーテル)〕燐酸、(モノ,ジ)〔ペンタ(1,2−プロピレングリコールモノブチルエーテル)〕燐酸等が挙げられる。当然、本発明の燐酸エステルが、これら列記化合物のみに限定されるものではない。
【0036】
本発明の離型剤は、式(1)であらわされる燐酸エステルを、すくなくとも含むことを必須とする燐酸エステル組成物である。例えば、式(1)であらわされる燐酸エステル以外に、問題の無い範囲でトリエステル、酸無水物、燐酸、ヒドロキシ化合物類、オキシアルコール類等の原料類、反応溶媒、水、金属、金属塩、有機金属塩、及び式(1)以外のその他の燐酸エステル類等を含んでいても良い。さらには、粘度を下げて操作性及び分散性を向上したり、モノマー並びにポリマーへの溶解性を高める目的等で、例えばヘキサン、クロロホルム、ジクロロエタン等に代表される炭化水素系溶媒、アルキル(アリル)アルコール及びアルコキシ(アリロキシ)アルキル(アリル)アルコール類とそのエーテル並びにエステル類、トルエン、キシレン等に代表されるベンゼン誘導体類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン溶媒類、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,′N−ジメチルイミダゾリジノン等に代表される非プロトン性極性溶媒類なども同様に問題の無い範囲で含んでも一向に差し支えない。
【0037】
本発明の離型剤の使用形態は、モノマーに予め添加する内部離型剤方式でも、成形型に予め塗布しておく外部離型剤方式で良いが、煩雑な操作の少ない内部離型剤方式が好ましく用いられる。
【0038】
本発明に係わる透明樹脂は、有機化合物を主成分とする透明樹脂であり、例えば、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、カーボネート樹脂、エステル樹脂、オレフィン−チオール樹脂、エポキシ−チオール樹脂、並びにそれらの併用透明樹脂等が挙げられが、本発明が以上に列記した樹脂のみに限定されるものではないが、特にポリチオウレタン樹脂の場合は、効果的である。
【0039】
本発明の離型剤の使用は、例えば、次のように行う。
成型形態は、射出成型法、インジェクションキュアー法、注型重合法の凡そ3種類に分類されるが、3種類とも行われる操作について先ず説明する。
【0040】
原料のモノマー、オリゴマー、またはポリマーペレットに本発明の燐酸エステルまたは離型剤を添加し、必要な場合は加熱して、混合溶解する。
離型剤の添加量は原料によって大きく変化するため限定出来ないが、0.0001〜30重量%である。
次に、必要に応じ減圧などの適当な方法で脱泡を行い、成形型に注入し、硬化させて透明樹脂成型物を取り出す。得られた透明樹脂は、歪みを取ったり、より完全に重合を完結させる目的で、通常100℃以上以下の温度でアニールを行なう。
以下、前記した3形態について、各々個別に簡単な説明を行う。
【0041】
オレフィン、ポリカーボネート、ポリエステル樹脂等の場合に良く用いられる射出成型の場合は、ペレットに離型剤を添加し100〜400℃で加熱溶解した後、主に金属製の成形型に溶融液を注入し、冷却して、透明樹脂を硬化させる。
【0042】
一部のウレタン樹脂及びエポキシ樹脂等に良く用いられるインジェクションキュアー法の場合も、主に金属製の成形型が用いられ、モノマー組成物に離型剤、硬化剤等を添加し、減圧等によって脱泡を行なった後、樹脂が硬化する前に直ちに成形型に注入し熱硬化させる。
【0043】
ウレタン、オレフィン樹脂をはじめとして大部分の樹脂の精密成型に良く用いられる注型重合は、モノマー組成物に離型剤を添加し、減圧等によって脱泡を行なった後、主にガラスモールドと樹脂製のガスケットまたはテープからなるガラス製モールドに脱泡液を注入し、熱または放射線によって重合硬化させる。
加熱重合の場合の条件は、0〜200℃の温度範囲で低温から高温迄徐々に昇温を行い、1〜100時間で終了させる。
放射線重合の場合は、主に400nm以下の紫外線が良く用いられる。紫外線の量は凡そ1〜1000mJ/secの強度で1〜7200sec照射される場合が多く、時には除熱や光学的に均一な成型物を得る目的で、照射前に冷却したり、照射を数回に分けて行なったりする。
また、熱重合と放射線重合を組み合わせて行なう場合もある。
本発明は、この注型重合の場合に、より効果的になる。
【0044】
以上の成形法において、熱触媒、光触媒、UV吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、油溶染料、充填剤、可塑剤、その他の離型剤、溶剤等の原料以外の有機化合物、無機化合物も問題の無い範囲で加える事ができる。
【0045】
また、得られた透明樹脂、透明光学材料、及びプラスチックレンズは、必要に応じ反射防止、高硬度付与、耐摩耗性向上、耐薬品性向上、防曇性付与、あるいはファッション性付与等の改良を行うため、染色、表面研磨、帯電防止処理、ハードコート処理、無反射コート処理、調光処理等の物理的あるいは化学的処理を施すことができる。
【0046】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。なお、得られた透明樹脂の屈折率、アッベ数、着色度、透明度、及び離型性は、以下の試験方法により評価した。
【0047】
【0048】
実施例1(燐酸モノエステルの合成)
1l反応フラスコに、オキシ塩化燐100g(0.652モル)と酢酸ブチル200mlを仕込み、1−n−ブトキシ−2−プロパノール86.2g(0.652モル)とピリジン51.6g(0.652モル)の混合液を氷冷下で攪拌を行いながら内温15〜20℃で滴下し、20〜30℃で3時間熟成した。次に、49%NaOH水106.5g(1.304モル)を同様に氷冷下で内温15〜20℃で滴下し、15〜25℃で1時間熟成した。
得られた反応マスに酢酸ブチル200mlと5%塩酸300mlを加えて混合攪拌後、静置して、下層の水層を分液廃棄した。更に残った有機層を4回水洗し、得られた有機層を脱溶媒し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで主生成物を分取した。
分取液を脱溶媒後濾過して、水分0.1%以下の透明液体59g(粗収率43%)を得た。
得られた液体の分析結果を表1に示す。
【表1】
<MSスペクトル(FAB−Pos)>
m/z=213(M+H)+
< 1H−NMR> ‥‥ 図1参照
< 13C−NMR> ‥‥ 図2参照
以上の結果より、得られた生成物の構造は、下記式(3)の燐酸エステルである事が判明した。
【化6】
【0049】
実施例2(燐酸ジエステルの合成)
1l反応フラスコに、オキシ塩化燐76.6g(0.50モル)と酢酸ブチル200mlを仕込み、1−n−ブトキシ−2−プロパノール132.2g(1.00モル)とトリエチルアミン101.2g(1.00モル)の混合液を氷冷下で攪拌を行いながら内温20〜30℃で滴下し、30〜40℃で5時間熟成した。次に、49%NaOH水40.8g(0.50モル)を同様に氷冷下で内温15〜20℃で滴下し、20〜25℃で2時間熟成した。得られた反応マスに酢酸ブチル100mlと希塩酸300mlを加えて混合攪拌し、以下、実施例1と同様の操作で目的物を取り出し、水分0.1%以下の透明液体57.1g(粗収率35%)を得た。得られた液体の分析結果を表2に示す。
【表2】
<MSスペクトル(FAB−Pos)>
m/z=327(M+H)+
< 1H−NMR> OH=8.94ppm
< 13C−NMR> ‥‥ 図3参照
以上の結果より、得られた生成物の構造は、下記式(4)の燐酸エステルである事が判明した。
【化7】
【0050】
実施例3(燐酸(モノ及びジ)エステルの合成)
1l反応フラスコに、オキシ塩化燐76.6g(0.50モル)とトルエン200mlを仕込み、1−フェノキシ−2−プロパノール114g(0.75モル)とトリエチルアミン75.9g(0.75モル)の混合液を氷冷下で攪拌を行いながら内温20〜30℃で滴下し、30〜40℃で5時間熟成した。次に、この反応マスを濾過後、濾液を49%NaOH水61.2g(0.75モル)に同様に氷冷下で内温15〜20℃で滴下し、20〜25℃で5時間熟成した。得られた反応マスに酢酸ブチル300mlと希塩酸300mlを加えて混合攪拌し、静置して、下層の水層を分液廃棄した。更に残った有機層を5回水洗した。次に、得られた有機層を脱溶媒後濾過して、水分0.1%以下の透明粘調液体132g(粗収率88%)を得た。
<組成分析>
この液体をHPLCにて分析を行い、それぞれのピークをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分取し、解析を行ったところ、以下のような組成物であった。
【表3】
主生成物である2成分の分析結果を下記する。
【化8】
モノエステル体成分の分析結果は以下の通り。
【表4】
<MSスペクトル(FAB−Neg)>
m/z=231(M−H)-
< 1H−NMR> ‥‥ 図4参照
< 13C−NMR> ‥‥ 図5参照
【化9】
ジエステル体成分の分析結果は以下の通り。
【表5】
<MSスペクトル(FAB−Neg)>
m/z=365(M−H)-
<IR分析>
P=O 1380 cm-1
P−O 1020 cm-1
【0051】
実施例4〜7(その他の燐酸エステルの合成)
実施例1、2及び3と同様にして、その他の燐酸エステルを合成した。
代表的な化合物を表6に示す。
【0052】
【表6】
【0053】
実施例8
m−キシリレンジイソシアナート30g(0.16モル)、ジメチル錫ジクロリド3.5mg(50ppm)、ジメチルシクロヘキシルアミン3.5mg(50ppm)、とペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオン酸)39g(0.08モル)の混合液に離型剤となる各種燐酸エステルを0.05〜1wt%の範囲で加えて混合し、この均一溶液を減圧下で混合脱泡を行った後、ガラスモールドと樹脂性のガスケットからなる成型モールドに注入し、室温から120℃まで徐々昇温し、20時間かけて加熱硬化させた。この間、調合時に不透明物質を生成したり、重合中に発泡したりする現象は全くなかった。
冷却後、離型して得られたレンズは無色透明で、屈折率Nd=1.594,アッベ数 νd=36であった。結果を表7に示す。
【0054】
実施例9〜10、比較例1〜5
離型剤の種類を変えて、実施例8と同様の試験を行なった。
結果を表7に示す。
【0055】
【表7】
【0056】
【表8】
【0057】
実施例11
4,8−ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチア−1,11−ウンデカンジチオール(FSHと略す。)40部、ノルホルナンジイソシアナートメチル20部、トリメチロールプロパントリス(メタクリレート)43部、ジメチル錫ジクロリド0.1部(1000ppm)、t−ブチルペロキシ(2−エチルヘキサノエート)0.1部(1000ppm)、ベンジルメチルケタール0.01部(100ppm)と、実施例10で得られた燐酸エステル0.05部(500ppm)を混合し、均一とした液を減圧下で混合脱泡後、ガラスモールドと樹脂性のガスケットからなる成型モールドに注入し、UV照射して硬化させた。
冷却後、容易に離型して得られた樹脂は無色透明で、屈折率Nd=1.59、アッベ数νd=44であった。結果を表9に示す。
【0058】
【表9】
【0059】
実施例12(実施例1の燐酸エステル)
1l反応フラスコに、オキシ塩化燐100g(0.652モル)とクロロベンゼン200mlを仕込み、1−n−ブトキシ−2−プロパノール86.2g(0.652モル)とピリジン54.0g(0.683モル,1.05モル当量)の混合液を氷冷下で攪拌を行いながら、内温15〜20℃で滴下し、20〜30℃で2時間熟成した。得られた反応マスを濾過して、濾塊をクロロベンゼン250mlで洗浄した。濾液と洗液の混合液を減圧下で脱溶媒し、粗モノ(1−ブトキシ−2−プロピル)燐酸ジクロライドを得た。
次に、水300ml(PH=7.2)が仕込まれた1l反応フラスコに、窒素バブリングを行いながら、得られたモノ(1−ブトキシ−2−プロピル)燐酸ジクロライドを、内温60℃で1時間かけて滴下し、60℃で6時間熟成した(PH<1)。室温に冷却するまで窒素バブリングを続行し、次に活性炭を3g加えて室温で1時間撹拌後、濾過した。
クロロベンゼン750mlで、濾塊の活性炭を洗浄し、その濾液と洗液の混合液を5wt%塩酸60で洗浄し、さらに下層の有機層を水60mlで3回洗浄し、得られた下層の有機層を減圧下脱溶媒した。
最後に、残渣を濾過して、ほぼ無色透明の液体を97g(粗収率70%)得た。得られた燐酸エステルの組成は以下の通りであった。
【表10】
この離型剤を、実施例8と同様の方法で評価を行った。結果は以下の表11の通りである。
【表11】
【0060】
【発明の効果】
本発明に係る燐酸エステルよれば、成形型から容易に透明樹脂が離型し、なおかつ極めて透明性の高い光学材料、プラスチックレンズ製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得た生成物の1H−NMRチャート図である。
【図2】実施例1で得た生成物の13C−NMRチャート図である。
【図3】実施例2で得た生成物の13C−NMRチャート図である。
【図4】実施例3で得た生成物の1H−NMRチャート図である。
【図5】実施例3で得た生成物の13C−NMRチャート図である。
【図6】実施例4で得た生成物の13C−NMRチャート図である。
【図7】実施例5で得た生成物の13C−NMRチャート図である。
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