JP3928755B2 - レーザ光発生制御装置、レーザ光発生装置およびレーザ光発生制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体製造用露光装置,干渉計,科学技術,計測,波長変換等に用いられるレーザ光を発生させるためのレーザ光発生制御装置、レーザ光発生装置およびレーザ光発生制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、狭帯域化された強力なレーザ光を発生する装置として、注入同期されたレーザ光を出力するレーザ光発生装置が知られている。注入同期とは、出力レーザ光の周波数を、外部から注入されたレーザ光の周波数に対して所定の関係を有するように同調させることを言う。注入同期には、パルス光を発生するインジェクションシーディングや、連続光を発生するインジェクションロッキング等がある。このような注入同期を用いるレーザ光発生装置は、半導体製造用露光装置や干渉計等で利用されている。
【0003】
注入同期を用いるレーザ光発生装置は、レーザ光を共振させるための共振器を備え、この共振器に注入される基本レーザ光と共振器によって発生されるスレーブレーザ光とを、互いに同調するように制御して所定の特性のレーザ光を出力するようになっている。このようなレーザ光発生装置では、基本レーザ光とスレーブレーザ光との同調をとるために、アクチュエータによってレーザ光の波長以下の寸法精度で共振器光路長(以下、単に「共振器長」という。)を制御するようにサーボがかけられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、注入同期を用いるレーザ光発生装置では、振動,温度変化による共振器の膨張,変形,屈折率変化等の外乱により共振器長が変化することがある。このとき、レーザ光発生装置では、共振器長を一定に保つようにサーボをかけて共振器長を制御するが、それには機械的または電気的な限界がある。この限界を越えると共振器長を制御できなくなる。そのため、レーザ光発生装置では、制御回路に所定の制御の限界点を設けて、この限界点に達したら、一旦、共振器長の制御を停止し、アクチュエータを例えば中立点または中央点付近に戻し、その後、共振器長の制御が可能となる位置をサーチ(探索)した後、そのサーチした位置を共振器長の制御状態への移行開始点として、再び共振器長の制御を再開させることがよく行われている。
【0005】
上述のような処理により、共振器長と共振器モードの次数が変わることで、再び発振周波数が同一になるように共振器長を制御できるようになるが、共振器長の制御を停止させてから制御を再開させて制御が安定するまでの間は、レーザ光発生装置は、マルチモード発振状態または注入不可能状態となり、レーザ光が例えば単一周波数で出力されなくなる。このような状態のときには、レーザ光の特性が変わるため、レーザ光発生装置を利用するシステムにおいてレーザ光を利用することができなくなる。従って、なるべく制御回路が一時停止する頻度を減らして、レーザ光の利用可能時間を長くとることがレーザ光の使用者にとっては好ましい。
【0006】
ここで、特性の異なるレーザ光における特性とは、出力、可干渉性(時間コヒーレンス,空間コヒーレンス)、空間強度分布、ビーム特性(サイズ,発散角,ビームウェスト位置等)、ビーム安定性(ピークや重心の位置,角度)、時間特性(ノイズ,パルスの幅やタイミング,出力変動)、波長(絶対波長,波長分布,変動)、消光比、偏光方向等である。なお、レーザ光発生装置を利用するシステムでは、例えばレーザ光の出力変動に対処するために、フォトダイオード等の光検出器で検出した光量が一定値になるように駆動値(電流,電圧,光量)を変化させたり、音響光学素子や光減衰器等の使用により光軸上の光透過率を制御する等の手段を採用して、利用する光の出力を一定にすることも可能である。しかし、こうした手段の応答速度や、制御確度には限界があり、この限界よりも速い急激な光源出力変化には追従できなかったり、微小な変動を見逃すおそれもある。その場合、出力変動を除去できず、例えば、従来のレーザ光発生装置を半導体製造用露光装置に使用した場合には、露光量の過不足により露光量の目標値からのずれが生じて必要な精度で露光パターンの転写ができないことが予想される。そのため、光量に応じて露光時間を調整してこれに対応することも可能であるが、応答速度に限界があるといった不具合や、露光時間を変化させるためにスペックル強度が変化する等の副次的な不具合が発生することもある。
【0007】
また、通常、可干渉性の測定には相当な時間を要するので、常に可干渉性の値を監視することは難しい。しかしながら、可干渉性が変化すると、例えば半導体用露光装置の場合、通常の平均化により、光量分布の一様性が保たれなくなる可能性があるといった不具合がある。このような不具合は、空間強度分布、ビーム特性、ビーム安定性、時間特性、消光比、偏光方向等の変化によっても引き起こされる。また、波長の変化により、レンズの像面位置が変化したり、収差が変化するといった不具合もある。干渉計においても、波長、出力、ビーム特性の安定性等は重要な要因である。
【0008】
しかしながら、従来のレーザ光発生装置における共振器長の制御方法では、以下のような理由により、共振器長の制御が一時停止する頻度が多くなって、レーザ光の利用可能時間が短くなる場合があるという問題があった。
【0009】
図10は、従来のレーザ光発生装置における共振器長の制御の様子を示す説明図である。以下では、アクチュエータが共振器を構成するミラーの一つに取り付けられることにより、共振器長を伸縮させるような場合について考える。また、アクチュエータは、PZT(Piezo-electric transducer)等のように、印加電圧に応じて長さが伸縮するものを使用するものとし、例えば印可電圧Vpを大きくすると、アクチュエータの長さが伸長して共振器長を短くするように働き、逆に、印可電圧Vpを小さくすると、アクチュエータの長さが縮み、共振器長を長くするように働くものとする。更に、アクチュエータの制御回路の制御の限界点として、アクチュエータに加える印可電圧Vpの上限と下限とが設けられ、それぞれの電圧値がVpH,VpLであるものとする。
【0010】
図10(a)は、例えば、レーザ光発生装置の立ち上げ後、温度が徐々に上昇して、熱膨張により共振器長が次第に長くなった場合に、これを補正するために、アクチュエータに加える印可電圧Vpを大きくしてアクチュエータを伸長し、共振器長を元に戻すようにサーボが働いている場合の電圧Vpの変化を示している。この場合には、アクチュエータに加える印可電圧Vpが大きくなって、制御の上限である電圧値VpHに達すると、まず、共振器長の制御が一時停止する。次に、アクチュエータを制御の中立点、中央点付近の位置に戻すよう電圧値Vp0を印加し、その後、その位置から、共振器長の制御が可能となる状態への移行開始点(図において、電圧値Pa11に対応する位置)をサーチした後、その移行開始点から再び共振器長の制御を再開する。
【0011】
一方、図10(b)は、例えば、レーザ光発生装置の立ち上げ後、温度が徐々に下降して、熱収縮により共振器長が次第に短くなった場合に、これを補正するために、アクチュエータに加える印可電圧Vpを小さくしてアクチュエータを縮め、共振器長を元に戻すようにサーボが働いている場合の電圧Vpの変化を示している。この場合には、アクチュエータに加える印可電圧Vpが小さくなって、制御の下限である電圧値VpLに達すると、まず、共振器長の制御が一時停止する。次に、アクチュエータを制御の中立点、中央点付近の位置に戻すよう電圧値Vp0を印加し、その後、その位置から、共振器長の制御が可能となる状態への移行開始点(図において、電圧値Pb11に対応する位置)をサーチした後、その移行開始点から再び共振器長の制御を再開する。
【0012】
このように、従来は、図10(a),図10(b)に示したように、共振器長の制御が一時停止し、アクチュエータを中立点、中央点付近に戻した後、共振器長の制御が可能となる状態への移行開始点をサーチし、このサーチした移行開始点から共振器長の制御を再開させる。このとき、従来では、移行開始点のサーチを始める方向は、共振器長の伸縮の方向に拘らず常に同じ方向(図10(a),図10(b)に示した例では、アクチュエータを縮める方向(電圧Vpを小さくする方向))になるように設定されていた。このように設定されていると、図10(a)に示した場合には、熱膨張による共振器長の伸びとは反対方向(アクチュエータを縮める方向)から共振器長の制御を再開するようになるため、最初の制御が一時停止した時刻から、次の一時停止するまでの期間ta11は比較的長くとれる。
【0013】
しかし、図10(b)に示した場合には、熱収縮による共振器長の縮みと同一方向(アクチュエータを縮める方向)から共振器長の制御を再開するようになるため、最初の制御が一時停止した時刻から、次の一時停止するまでの期間tb11は、図10(a)に示した場合の期間ta11と比べて短くなってしまうという問題がある。これは、特に、熱収縮による共振器長の縮みが、より速く起こる場合に顕著になる。また、図10(b)に示した場合において、制御の下限(電圧値VpL)付近に、共振器長の制御が可能となる状態への移行開始点があるときには、符号tb12で示した期間のように、アクチュエータが下限(電圧値VpL)に達しやすくなるため、制御の一時停止と再開が頻繁に繰り返されて、共振器長制御が安定して行われなくなる等の問題があった。このような問題は、温度が一定となり、共振器長の制御が安定するか、または共振器長の伸縮の方向が逆転しない限り、引き続き繰り返し起こる。
【0014】
上記のような問題は、移行開始点のサーチを始める方向を、図10に示した場合とは逆の方向(アクチュエータを伸長する方向(電圧Vpを大きくする方向))になるように設定した場合も同様であり、この場合には、図10(b)に示した期間tb11は比較的長くなり、図10(a)に示した期間ta11は逆に短くな
る。
【0015】
このように、従来では、共振器長の制御を一時停止し、アクチュエータをほぼ移動中心点付近に戻した後、特定の方向から、共振器長の制御が可能となる状態への移行開始点のサーチを始めるという制御方法が用いられていた。従って、サーチした移行開始点が中心点からずれるほど、伸縮の一方向では一時停止の時間間隔が長くなって有利である反面、伸縮の他方向では、短期間に一時停止が繰り返されたり、場合によっては制御の限界点付近でより短期間に一時停止が繰り返されて、安定な制御に至らない場合があるという問題があった。
【0016】
なお、例えば、アクチュエータのストロークを長くとる等の手段で、ある程度共振器長の制御が一時停止する頻度を減らすことができるが、このように、アクチュエータのストロークを長くすると、逆にアクチュエータの特性(直進性、周波数特性、長期信頼性等)が劣化してしまうという問題がある。
【0017】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、共振器長の制御が一時停止する頻度を減らすことを可能にし、レーザ光の利用効率を向上させることを可能にしたレーザ光発生制御装置、レーザ光発生装置およびレーザ光発生制御方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明によるレーザ光発生制御装置は、基本レーザ光注入手段によって注入される基本レーザ光に基づいて、共振器より出力されるレーザ光を注入同期するために、共振器または基本レーザ光注入手段における共振器の共振器長を制御する共振器長制御手段と、この共振器長制御手段による共振器長の制御を一時的に停止する制御一時停止手段と、この制御一時停止手段によって共振器長の制御が一時的に停止された後、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測し、予測した方向に向けて、共振器長の制御が可能な状態を探索し、その状態より、共振器長制御手段による共振器長の制御を再開させる制御可能状態探索手段とを備えたものである。
【0019】
本発明によるレーザ光発生装置は、レーザ光を共振させ、且つレーザ光を出力するための共振器と、この共振器に対して基本レーザ光を注入する基本レーザ光注入手段と、この基本レーザ光注入手段によって注入される基本レーザ光に基づいて、共振器より出力されるレーザ光を注入同期するために、共振器または基本レーザ光注入手段における共振器の共振器長を制御する共振器長制御手段と、この共振器長制御手段による共振器長の制御を一時的に停止する制御一時停止手段と、この制御一時停止手段によって共振器長の制御が一時的に停止された後、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測し、予測した方向に向けて、共振器長の制御が可能な状態を探索し、その状態より、共振器長制御手段による共振器長の制御を再開させる制御可能状態探索手段とを備えたものである。
【0020】
本発明によるレーザ光発生制御方法は、基本レーザ光注入手段によって注入される基本レーザ光に基づいて、共振器より出力されるレーザ光を注入同期するために、共振器または基本レーザ光注入手段における共振器の共振器長を制御すると共に、所定の場合に、共振器長の制御を一時的に停止し、その後、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測し、予測した方向に向けて、共振器長の制御が可能な状態を探索し、その状態より、共振器長の制御を再開させるものである。
【0021】
本発明によるレーザ光発生制御装置、レーザ光発生装置およびレーザ光発生制御方法では、基本レーザ光注入手段によって注入される基本レーザ光に基づいて、共振器より出力されるレーザ光を注入同期するために、共振器または基本レーザ光注入手段における共振器の共振器長が制御されると共に、共振器長の制御が一時的に停止した場合には、その後、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向が予測され、予測された方向に向けて、共振器長の制御が可能な状態が探索され、その状態より、共振器長の制御が再開される。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
[第1の実施の形態]
まず、本発明の第1の実施の形態について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ光発生装置の構成を示すブロック図である。なお、以下の説明は、本実施の形態に係るレーザ光発生制御装置の説明を兼ねている。
【0024】
このレーザ光発生装置は、基本レーザ光を発生して出力するマスタレーザ部11と、このマスタレーザ部11より注入される基本レーザ光によってインジェクションシーディングされたパルスレーザ光、すなわち、基本レーザ光の周波数と一致した周波数のパルスレーザ光を出力するスレーブレーザ部12とを備えている。スレーブレーザ部12の出力光は、レーザ光利用システム13に供給されるようになっている。なお、レーザ光利用システム13は、半導体製造用露光装置や干渉計等、レーザ光発生装置から出力されるレーザ光を利用するシステムを総称したものである。
【0025】
レーザ光発生装置は、更に、スレーブレーザ部12からレーザ光利用システム13に供給される出力光の一部を反射して分岐するパーシャルミラー14と、このパーシャルミラー14によって反射された光を検出する光検出器15と、この光検出器15の出力信号S1 を入力して、後述するパルスの立ち上がり時間(以下、BUTと記す。)を測定するBUT測定部16と、スレーブレーザ部12内の後述するアクチュエータを駆動する駆動回路17と、BUTを表し、BUT測定部16より出力されるBUT信号S2 に基づいて駆動回路17を制御することによって、スレーブレーザ部12内の共振器の共振器長をサーボ制御する共振器長サーボ回路18と、レーザ光発生装置の全体を制御するシステム制御回路19とを備えている。なお、パーシャルミラー14および光検出器15はスレーブレーザ部12に内蔵するようにしてもよい。
【0026】
マスタレーザ部11は、基本レーザ光を出力するレーザ発振部21と、必要に応じてこのレーザ発振部21より出力される基本レーザ光をスレーブレーザ部12に向けて反射させるミラー22とを有している。なお、必要に応じてレーザ発振部21と合波用光学素子26aとの間に光アイソレータ等を設けて戻り光を防ぐようにしてもよい。
【0027】
スレーブレーザ部12には、例えばQスイッチパルスレーザが用いられる。以下、スレーブレーザ部12としてQスイッチパルスレーザを用いた場合について説明する。この場合のスレーブレーザ部12は、例えば対向するように配置された2つの共振器ミラー23,24を含み、レーザ光を共振させ且つ出力する共振器と、共振器ミラー23,24間に共振器ミラー23側より順に配置されたQスイッチ25,合波用光学素子26aおよびレーザ媒質26bを有している。なお、これらの配置は一義的なものではなく、使用するQスイッチの種類等により数種の異なる配置に変更してもよい。
【0028】
共振器ミラー23は、レーザ光を略全部反射するようになっている。共振器ミラー24は、レーザ光を一部透過させ、スレーブレーザ部12の出力光として出力するようになっている。Qスイッチ25は、共振器のQ値を急速に変化させて尖頭出力の大きいパルスレーザ光を発生させるためのものである。合波用光学素子26aは、マスタレーザ部11からの基本レーザ光を、スレーブレーザ部12の共振器によって共振するレーザ光と合波させることによってスレーブレーザ部12に注入するためのものである。
【0029】
スレーブレーザ部12は、更に、共振器の共振器長を制御するために共振器ミラー23を共振器の光軸方向に沿って移動可能なアクチュエータ27を有している。このアクチュエータ27には、例えばPZTやボイスコイルモータ(VCM)が用いられる。アクチュエータ27は、駆動回路17によって駆動されるようになっている。
【0030】
システム制御回路19は、共振器長のサーボ制御を一時的に停止することを決断するサーボ一時停止決断部28と、このサーボ一時停止決断部28によって共振器長のサーボ制御を一時的に停止することが決断されたときに、例えば、共振器長の制御が一時的に停止する前の所定期間における共振器長の制御の動向に基づいて、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測し、予測した方向に向けて、共振器長の制御が可能な状態(例えば、共振器長の制御が可能な状態への移行開始点)をサーチ(探索)し、その状態より、共振器長の制御を再開させるためのサーチ制御部29とを有している。システム制御回路19は、例えばマイクロコンピュータによって構成されている。なお、サーチ制御部29におけるサーチ制御の具体的な手法については、後に詳述する。
【0031】
共振器長サーボ回路18は、駆動回路17に対して、アクチュエータ27を微小振動させるためのディザ(Dither)信号を重畳した位置補正信号S3 を送ると共に、駆動回路17から、アクチュエータ27の位置を表す位置信号S4 を受け取るようになっている。駆動回路17は、共振器長サーボ回路18からの位置補正信号S3 に基づいてアクチュエータ27を駆動するようになっている。また、駆動回路17は、システム制御回路19のサーボ一時停止決断部28およびサーチ制御部29に対して、アクチュエータ27の位置を表す位置信号S5 を送ると共に、サーチ制御部29より、サーチ制御開始時のアクチュエータ27の位置(例えば中立点付近)への復帰を指示すると共に、共振器長の制御が可能な状態のサーチを行わせるためのサーチ制御信号S6 を受け取るようになっている。なお、駆動回路17からサーボ一時停止決断部28およびサーチ制御部29に対して送信する位置信号S5は、アクチュエータ27を駆動するために印加する駆動電圧そのものでもよいし、駆動電圧を何分の一かに縮小したモニタ用の電圧であってもよい。
【0032】
また、共振器長サーボ回路18は、システム制御回路19のサーボ一時停止決断部28およびサーチ制御部29に対して、BUT等から判断したサーボ制御の状態を表す制御状態信号S7 を送ると共に、システム制御回路19のサーボ一時停止決断部28から、サーボ制御の開始および停止を指示するための制御指示信号S8 を受け取るようになっている。
【0033】
なお、図1に示したレーザ光発生装置の構成要素のうち、マスタレーザ部11と、スレーブレーザ部12とを除いたものが本実施の形態に係るレーザ光発生制御装置を構成する。
【0034】
次に、本実施の形態に係るレーザ光発生装置の動作について説明する。なお、以下の説明は、本実施の形態に係るレーザ光発生制御方法の説明を兼ねている。このレーザ光発生装置では、マスタレーザ部11より出力される基本レーザ光は、合波用光学素子26aを介して、スレーブレーザ部12に注入される。スレーブレーザ部12では、通常時には、共振器より出力されるレーザ光の周波数が、注入される基本レーザ光の周波数と一致するように、または一定の周波数差を持つように共振器長が制御される。また、共振器長の実質的な制御に先だって、共振器長の制御が可能となる状態をサーチするためのサーチ制御が行われる。
【0035】
共振器長の制御は、具体的には、以下のようにして行われる。まず、BUT測定部16によって、光検出器15の出力信号S1 に基づいてBUTが測定される。ここで、図2を参照して、BUTについて説明する。BUTとは、Qスイッチ25をオンにするトリガ信号(電圧,高周波等)をQスイッチ25に入力してから、パルスレーザ光が発生するまでの時間である。図2において、(a)はトリガ信号を示し、(b)はパルスレーザの光出力を示している。この図に示したように、トリガ信号の立ち上がり時刻をt1 、パルスレーザ光の発生時刻をt2 とすると、BUTはt2 −t1 となる。通常、BUTは数十から数百ナノ秒、パルスレーザ光のパルス幅は数ナノ秒から数十ナノ秒、パルスの立ち上がりのジッタは数ナノ秒程度であることが多い。なお、トリガ信号は、システム制御回路19よりQスイッチ25に与えられる。図2では、トリガ信号付与中にQスイッチ25に印加される電圧または高周波がオンまたはオフになるために、共振器の損失が小さくなるように設計されている。
【0036】
BUTを最小にすれば、スレーブレーザ部12の共振器の複数の縦モードのうちの一つの周波数が、注入される基本レーザ光の周波数と略一致し、スレーブレーザ部12を、基本レーザ光の周波数と略等しい単一の周波数で発振させることができるということは、略正しいと考えられている。そこで、本実施の形態では、BUTを最小にするように、共振器長を波長以下の精度でサーボ制御するが、そのために、共振器長を微小振動させて、BUTの増減を極性も含めて観測する(同期検波する)という方法を採用する。そのため、共振器長サーボ回路18は、駆動回路17に対して、アクチュエータ27を微小振動させるためのディザ(Dither)信号を重畳した位置補正信号S3 を送る。駆動回路17は、共振器長サーボ回路18からの位置補正信号S3 に基づいてアクチュエータ27を駆動する。これにより、共振器長は微小に振動する。BUT測定部16は、光検出器15の出力信号S1 とシステム制御回路19より出力されるQスイッチ25用のトリガ信号とをモニタしてBUT信号S2 を出力する。共振器長サーボ回路18は、BUT測定部16より出力されるBUT信号S2 と、システム制御回路19より出力されるQスイッチ25用のトリガ信号とをモニタし、共振器長の微小振動に対応して微小振動するBUTの極性を観測し、BUTが小さくなる方向にアクチュエータ27が移動するように位置補正信号S3 を生成し、駆動回路17に出力する。このようなサーボ制御により、共振器長は微小に振動しながら、複数の縦モードのうちの一つの周波数が、注入される基本レーザ光の周波数に近づくように制御される。このような動作は、外乱(振動、膨張等)が生じてから、BUTが最小になるまで行われ、結果として、BUTが最小付近に固定され、基本レーザ光の周波数と近い周波数でスレーブレーザ部12が発振する。
【0037】
また、サーチ制御は、次のようにして行われる。すなわち、共振器長を所定の方向に変化させながら、BUTを観測し、BUTが所定値以下になったら、共振器長の制御が可能となる状態へ移行したと判断して、共振器長の制御を再開させる。なお、BUTの観測動作は、上述の共振器長の制御の場合と、基本的に同じである。
【0038】
ここで、図3に、スレーブレーザ部12の共振器長における波長以下の微小変化に対する共振器モードの変化を示す。また、共振器長を往復または一周の光路長と定義し、これをLとする。共振器内の各素子の長さと屈折率をそれぞれL(i),n(i)とすると、L=2n(1)L(1)+2n(2)L(2)+…となる。共振器モードの次数をmとすると、共振器内を一往復して同位相で干渉し、共振すべき(発振できる)光の波長λm は、L=mλm で与えられる。このうち、レーザ発振できる波長λm は、レーザ媒質26bの利得波長域にあるべきだから、例えば、Nd:YAGレーザの1064.1nmの発振線の利得中心の波長を考えると、L=500mmとした場合、mの値は約939700となる。波長とLのわずかな誤差でmは大きく変化するので、通常、mは一つの値に特定せず、その代表値をm0として、その付近のmを、m0±1、m0±2、m0±3、…と記述する。
【0039】
図3では、簡単のために、ΔL≒λm0/2とし、アクチュエータ27がΔzだけ伸びると共振器長が2Δzだけ短くなるものとしている。ここで、図3(c),(a)に示したように、ある瞬間において、アクチュエータ27の異なる長さに対応する共振器長L=L0 とL=L0 −2ΔLのどちらにおいても、注入される基本レーザ光の波長λ0 と共振器モードの一つの波長が一致するため、どちらの状態においても、スレーブレーザ部12は、基本レーザ光の波長(または周波数)と略一致する波長(または周波数)で単一周波数の発振が可能である。一方、図3(b),(d)に示したように、共振器長L0 −ΔLとL0 +ΔLにおいては、共振器モードのいずれの波長も基本レーザ光の波長とは異なり、いわゆる引き込み範囲外にあるため、スレーブレーザ部12は、通常、マルチモードで発振しやすい。従って、最初に、アクチュエータ27の位置が、例えば共振器長L0 −ΔLを与える位置付近にある場合には、通常、L=L0 とL=L0 −2ΔLのうちの近い方に、アクチュエータ27が伸縮して合わせ込むことで、基本レーザ光を利用して単一モードで発振するようにサーボ制御がなされる。
【0040】
ところで、共振器長は、温度変化による膨張、屈折率変化、変形等の理由により、時間と共に変化することが多い。このとき、スレーブレーザ部12では、共振器の光路長を一定に保ち、共振器モードの周波数を、注入される基本レーザ光の周波数に合わせるようにサーボが働いて、PZT等のアクチュエータ27が伸縮する。しかし、このようなサーボ制御には、機械的または電気的な限界がある。この限界を越えると、制御不可能となる。そのため、よく行われているのは、制御の限界点を設けて、一旦制御を停止し、アクチュエータ27を中立点、中央点付近に戻し、その後、共振器長の制御が可能となる位置をサーチした後、そのサーチした位置を共振器長の制御状態への移行開始点として、再び共振器長の制御を再開する方法である。この場合、共振器長と共振器モードの次数が変わることで、共振器長の制御停止前と制御再開後で、発振周波数が同一になる。以下、このことを詳しく説明する。
【0041】
いま、レーザ光発生装置の立ち上げ後、例えば温度が徐々に上昇して、熱膨張により共振器長が次第に長くなった場合を考える。インジェクションシーディング(注入同期)のサーボがかかっている場合には、上述のように、アクチュエータ27が伸長して共振器長を一定に保とうとする。図3(c)に示したL=L0の位置から開始した場合には、一定時間後には、アクチュエータ27が伸長してL=L0 を保ちながら、図3(a)におけるアクチュエータ27の状態になってくる。もし、更に共振器を形成する材質が伸びてアクチュエータ27が更に伸びると、共振器長はL=L0 に保たれたまま、すなわちモード次数m0 が保たれたまま、遂にはアクチュエータ27の動作範囲限界に達する。制御系は、アクチュエータ27に印加する電圧等から、制御の限界点を知ることができるので、限界点付近に達したら、一旦制御を停止し、λm0/2の整数倍だけアクチュエータ27を縮めて共振器長(往復)をλm0の整数倍だけ伸ばし、例えばアクチュエータ27を可動範囲の中央点付近に戻し、その後、共振器長の制御が可能となる位置をサーチした後、そのサーチした位置を共振器長の制御状態への移行開始点として、再び共振器長の制御を再開する。これにより、モード次数はm0 +M(Mは整数)、一周の共振器長はL=L0 +2MΔLに移行し、アクチュエータ27は、例えば図3(c)に示した位置に戻る。逆に、周囲温度が低下し、共振器を形成する材質が縮む場合は、前述した動きとは反対の動きでアクチュエータ27を可動範囲内に戻す。
【0042】
以上のような制御の一旦停止および再開は、具体的には、次のようにして行われる。システム制御回路19のサーボ一時停止決断部28は、駆動回路17からの位置信号S5 を監視し、位置信号S5 が予め定めた設定された限界値に近づいたら、過去の動きの履歴から限界値への到達時刻を計算し、その到達時刻より前に、サーボ制御の停止を指示するための制御指示信号S8 を共振器長サーボ回路18に送る。これにより、サーボ制御が停止される。サーボ制御の停止は、例えば、サーボゲインの低下や、スイッチ、サーボループの接続変更等によって行われる。
【0043】
システム制御回路19のサーチ制御部29は、サーボ一時停止決断部28によって共振器長のサーボ制御を一時的に停止することが決断されたときには、サーチ制御開始時のアクチュエータ27の位置(中立点付近)への復帰を指示すると共に、共振器長の制御が可能な状態のサーチを行わせるためのサーチ制御信号S6を駆動回路17に送る。また、サーチ制御部29は、駆動回路17からの位置信号S5から、例えば、共振器長の制御が一時的に停止する前の所定期間における共振器長の制御の動向を調べ、この制御の動向に基づいて、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測し、予測した方向に向けて、共振器長の制御が可能な状態(共振器長の制御が可能な状態への移行開始点)をサーチする。また、サーチ制御部29は、サーチにより、共振器長の制御が可能な状態になったら、その旨をサーボ一時停止決断部28に送る。
【0044】
サーボ一時停止決断部28は、サーチ制御部29から、共振器長の制御が可能な状態になった旨の信号を受信すると、サーボ制御を再開する。サーボ一時停止決断部28は、サーボ制御を再開するときには、サーボ制御の再開を指示するための制御指示信号S8を共振器長サーボ回路18に送る。これにより、サーチ制御部29によってサーチされた状態(移行開始点)からサーボ制御が再開される。
【0045】
なお、サーチ制御部29は、例えば、共振器長の制御が一時的に停止される前における共振器長の変化の方向に対して反対方向を、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向として予測する。
【0046】
次に、図4を参照して、システム制御回路19のサーチ制御部29におけるサーチ制御の手法について詳述する。図4は、本実施の形態に係るレーザ光発生装置における共振器長の制御の様子を示す説明図である。なお、以下、図4に対応した説明においては、アクチュエータ27は、PZTのように、印加電圧に応じて長さが伸縮するものを使用するものとし、印可電圧Vpを大きくすると、アクチュエータ27の長さが伸長して共振器長を短くするように働き、逆に、印可電圧Vpを小さくすると、アクチュエータ27の長さが縮み、共振器長を長くするように働くものとする。更に、アクチュエータ27の制御回路の制御の限界点として、アクチュエータ27に加える印可電圧Vpの上限と下限とが設けられ、それぞれの電圧値がVpH,VpLであるものとする。
【0047】
図4(a)は、例えば、レーザ光発生装置の立ち上げ後、温度が徐々に上昇して、熱膨張により共振器長が次第に長くなった場合に、これを補正するために、駆動回路17からアクチュエータ27に加える印可電圧Vpを大きくしてアクチュエータ27を伸長し、共振器長を元に戻すようにサーボが働いている場合の電圧Vpの変化を示している。この場合には、駆動回路17からアクチュエータ27に加える印可電圧Vpが大きくなって、制御の上限である電圧値VpHに達すると、システム制御回路19のサーボ一時停止決断部28によって、共振器長の制御を一時停止することが決定される。
【0048】
一方、図4(b)は、例えば、レーザ光発生装置の立ち上げ後、温度が徐々に下降して、熱収縮により共振器長が次第に短くなった場合に、これを補正するために、駆動回路17からアクチュエータ27に加える印可電圧Vpを小さくしてアクチュエータ27を縮め、共振器長を元に戻すようにサーボが働いている場合の電圧Vpの変化を示している。この場合には、駆動回路17からアクチュエータ27に加える印可電圧Vpが小さくなって、制御の下限である電圧値VpLに達すると、システム制御回路19のサーボ一時停止決断部28によって、共振器長の制御を一時停止することが決定される。
【0049】
このように、図4(a),図4(b)に示した場合共に、共振器長の制御を一時停止した後は、次に、アクチュエータ27を制御の中立点、中央点付近の位置に戻すよう駆動回路17から電圧値Vp0が印加される。その後、その位置から、共振器長の制御が可能となる状態への移行開始点(図において、電圧値Pa1,Pb1に対応する位置)をサーチした後、その移行開始点から再び共振器長の制御が再開される。このとき、移行開始点をサーチするための制御は、システム制御回路19のサーチ制御部29において、駆動回路17からの位置信号S5から、例えば、共振器長の制御が一時的に停止する前の所定期間における共振器長の制御の動向が調べられ、この制御の動向に基づいて、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向が予測され、その予測された方向に向けて、移行開始点がサーチされるように行われる。その後、共振器長の制御停止前と制御再開後で、共振器長と共振器モードの次数が変わることで、再び発振周波数が同一になるように共振器長の制御を再開できるようになる。具体的には、図4(a)に示した場合には、サーチ制御部29は、サーチを始める方向が、アクチュエータ27を縮める方向になるようにサーチ制御する。これにより、熱膨張による共振器長の伸びとは反対方向の移行開始点から共振器長の制御を再開するようになるため、最初の制御が一時停止した時刻から、次の一時停止するまでの期間ta1は比較的長くなる。
【0050】
また、図4(b)に示した場合には、サーチ制御部29は、サーチを始める方向が、図4(a)に示した場合とは反対方向、すなわち、アクチュエータ27を伸長する方向になるようにサーチ制御する。これにより、図4(b)に示した場合においても、熱収縮による共振器長の縮みとは反対方向の移行開始点から共振器長の制御を再開するようになるため、最初の制御が一時停止した時刻から、次の一時停止するまでの期間tb1は、図4(a)に示した場合の期間ta1と同様に比較的長くすることができる。
【0051】
また、図4(b)に示した場合において、符号tb2で示した期間は、途中で温度が逆転し、熱膨張により共振器長が次第に長くなったために、これを補正するために、駆動回路17からアクチュエータ27に加える印可電圧Vpを大きくしてアクチュエータ27を伸長し、共振器長を元に戻すようにサーボが働いている場合の電圧Vpの変化を示している。この場合には、駆動回路17からアクチュエータ27に加える印可電圧Vpを大きくすることにより、制御の上限である電圧値VpHに達すると、システム制御回路19のサーボ一時停止決断部28によって、共振器長の制御を一時停止することが決定される。このようにサーボ制御の状態(共振器長の変化の方向)が途中で変わった場合には、一時停止後のサーチ制御が開始される方向も、その制御状態の変化に応じて逆転する。すなわち、サーチ制御部29は、期間tb2後のサーチ制御が開始される方向を、最初のサーチ制御の方向とは逆転させ、アクチュエータ27を縮める方向からサーチ制御を行う。
【0052】
以上のようにして、サーチ制御部29によって、次回の制御の限界点に達するまでに要する時間が長くなるような方向に向けて、共振器長の制御が可能となる状態への移行開始点のサーチが行われる。なお、以上のようなサーチ制御部29によるサーチ制御は、共振器長が一時停止する前の過去の所定期間のサーボ制御の動向のみならず、共振器長のサーボ制御の将来の所定期間後の動向を予測し、この将来の所定期間後の動向に基づいて、サーチ制御を行うようにしてもよい。より具体的には、例えば、駆動回路17からの位置信号S5で表される過去の所定期間のサーボ制御の動向に対応する関数の一次微分と二次微分を演算することにより、所定期間内における共振器長の変化の速度と加速度を求めて、この速度と加速度の変化より、将来の所定時間後の共振器長の制御の動向を予測する。これにより、サーボ制御の停止後に、制御状態が逆転するような場合においても、次回の制御の限界点に達するまでに要する時間が長くなるように、移行開始点のサーチ制御が行われる。
【0053】
図5(a),(b)は、以上のようにして共振器長の制御が行われてマスタレーザ部11の出力レーザ光の周波数とスレーブレーザ部12の出力レーザ光の周波数とが略一致しているときのマスタレーザ部11の出力レーザ光の周波数特性とスレーブレーザ部12の出力レーザ光の周波数特性とを示したものである。なお、図5において、縦の実線は出力光の相対強度を表し、縦の破線は共振器モードを表している。
【0054】
図5(c),(d)は、スレーブレーザ部12がマルチモード発振になっているときのマスタレーザ部11の出力レーザ光の周波数特性とスレーブレーザ部12の出力レーザ光の周波数特性とを示したものである。この図に示したように、共振器長の制御を一旦停止してから、再開して制御が安定するまでの間は、スレーブレーザ部12は、通常、マルチモード発振になるか、不安定な状態になる。
【0055】
ところで、レーザ光発生装置では、共振器長のサーボ制御時に、スレーブレーザ部12が弱シード状態と呼ばれる不安定状態になることがあり、このような状態になった場合にはサーボ制御を一旦停止しない限り、安定な単一縦モードのレーザ光が得られない。ここで、図6を参照して、弱シード状態について説明する。図6において、横軸はアクチュエータ27の位置zを表し、縦軸はBUTを表している。また、図中、Dは、ディザ信号に基づくアクチュエータ27の微小振動範囲を示している。アクチュエータ27の位置zに関して、レーザ光の半波長毎に周期的に、BUTが最小値を取る最小位置z1 が存在する。ここで、図6に示したように、最小位置z1 以外に、BUTが最小値よりも大きな極小値を取る極小位置z2 が存在する場合には、共振器長のサーボ制御によって、アクチュエータ27の位置が極小位置z2 に留まってしまって抜け出せなくなることがある。このとき、スレーブレーザ部12が弱シード状態となると考えられる。
【0056】
弱シード状態では、出力レーザ光のパルスジッタ、周波数分布等が不安定で、使用者の目的によっては使用不可能である場合もある。すなわち、弱シード状態では、注入される基本レーザ光の波長(周波数)と共振器モードの波長(周波数)とが、おそらく十分近接していないため、スレーブレーザ部12において、注入される基本レーザ光の光子を種としてパルスレーザ光が立ち上がるときに、基本レーザ光と略同一波長のパルスレーザ光となる状態と、基本レーザ光を利用せずにマルチモード発振する状態とを不安定に遷移したり、基本レーザ光の波長とは多少異なる波長に不安定に固定される等の症状が出る。弱シード状態では、BUTは、安定状態に比べると大きいが、注入光がない状態に比べると小さくなる。パルスジッタも、複数の状態を遷移したりするために増大する。現在まで弱シード状態を回避するための物理的解決法は見つかっていないので、弱シード状態となったら、この弱シード状態を抜け出すために、一旦サーボ制御を停止し、アクチュエータ27の位置を最小位置z1 へ復帰させる必要がある。
【0057】
そこで、本実施の形態では、システム制御回路19のサーボ一時停止決断部28は、共振器長サーボ回路18より、BUT等から判断したサーボ制御の状態を表す制御状態信号S7 を受け取り、この制御状態信号S7 に基づいて、弱シード状態に保持されていることを検出し、弱シード状態に保持されていることを検出したときにも、共振器長のサーボ制御を一時的に停止することを決断する。弱シード状態になった場合において、サーボ制御を停止してから、移行開始点のサーチを行い、サーボ制御を再開するまでの動作は、共振器長の制御が限界点付近に達する場合と同様である。なお、弱シード状態になった場合には、一度の制御停止によって制御が正常状態に戻って安定する保証はないので、制御停止は繰り返し行われる場合もある。
【0058】
本実施の形態では、このように、弱シード状態を抜け出すために一旦、共振器長の制御を停止する際にも、システム制御回路19のサーチ制御部29が、次回のサーボ制御の停止が行われるまでに要する時間が長くなるように、共振器長の制御が可能となる状態への移行開始点のサーチ制御を行う。
【0059】
以上説明したように、本実施の形態によれば、サーチ制御部29において、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測し、予測した方向に向けて、共振器長の制御が可能な状態(移行開始点)をサーチし、その状態より、共振器長の制御を再開させるようにしたので、共振器長の制御における一時停止の時間間隔を従来より長くすることができる。これにより、共振器長の制御が一時停止する頻度を減らすことを可能にし、レーザ光の利用効率を向上させることが可能となる。また、レーザ光の利用時間の効率が高まることにより、例えば、レーザ光利用システム13が製造装置の場合には、歩留まりを向上させることができる。
【0060】
更に、アクチュエータ27は、従来の使用していたものをものをそのまま利用することが可能であるから、低コストで実施できる。
【0061】
次に、本実施の形態の変形例について説明する。
【0062】
上記実施の形態では、サーチ制御部29において、サーチを始める方向を共振器長制御の一時停止前の制御の動向に応じて変えるようにしたが、サーチの開始点は常に中立点付近になるように設定していた。本変形例では、サーチ制御部29において、サーチを始める方向のみならず、サーチの開始位置も、制御の動向に応じて変化させ、一時停止後のサーチを行うようになっている。
【0063】
図7は、本変形例における共振器長の制御の様子を示す説明図である。この図は、図4に示した共振器長の制御の説明図に対応したものであり、レーザ光発生装置の立ち上げ後、最初の一時停止が行われるまでの動作は、図4と同様の制御がなされている。しかし、図7の場合には、システム制御回路19のサーチ制御部29は、サーボ一時停止決断部28によって、共振器長の制御を一時停止することが決定された後に、サーチ制御部29の制御に基づいて行われるサーチ制御の開始位置が異なっている。
【0064】
例えば、図7(a)に示した場合には、サーチ制御部29は、移行開始点(図において、電圧値Pa1に対応する位置)のサーチを、アクチュエータ27を縮める方向に向けて行うと共に、サーチの開始位置を、サーボ制御の中立点(駆動回路17の印加電圧値Vp0)よりも、アクチュエータ27を縮める側に、例えば、電圧値でVYだけ電圧値Vp0から移動した位置になるようにサーチ制御を行う。これにより、熱膨張による共振器長の伸びとは反対側の位置からサーチを開始するようになるため、最初の制御が一時停止した時刻から、次の一時停止するまでの期間をより長くすることができる。
【0065】
一方、図7(b)に示した場合には、サーチ制御部29は、移行開始点(図において、電圧値Pb1に対応する位置)のサーチを、図4(a)に示した場合とは反対方向、すなわち、アクチュエータ27を伸長する方向に向けて行うと共に、サーチの開始位置を、サーボ制御の中立点(駆動回路17の印加電圧値Vp0)よりも、アクチュエータ27を伸長する側に、例えば、電圧値でVYだけ電圧値Vp0から移動した位置になるようにサーチ制御を行う。これにより、図4(b)に示した場合においても、熱収縮による共振器長の縮みとは反対側の位置からサーチを開始するようになるため、最初の制御が一時停止した時刻から、次の一時停止するまでの期間は、図7(a)に示した場合と同様により長くすることができる。
【0066】
以上のようにして、サーチ制御部29によって、次回の制御の限界点に達するまでに要する時間が長くなるように、サーチを行う方向のみならず、サーチの開始位置が制御され、一時停止後のサーチが行われるようになっている。なお、サーチの開始位置を制御する場合には、サーボ制御の中立点からサーチの開始位置まで移動する移動量(電圧値VYの大きさ)を、共振器長のサーボ制御が一時的に停止する前の所定期間における共振器長の変化の速さに基づいて変えるようにしてもよい。例えば、サーチ制御部29は、共振器長の変化が速い場合には、中立点から移動する移動量(電圧値VYの大きさ)を大きくし、逆に、共振器長の変化が速い場合には、中立点から移動する移動量(電圧値VYの大きさ)が小さくなるようにサーチの開始位置を決定するようにしてもよい。これにより、共振器長の制御における一時停止の時間間隔をより長くすることができる。
【0067】
なお、サーチ制御部29により決定されるサーチの開始位置は、サーボ制御の上限および下限(電圧値VpH,VpL)から、サーボ制御の中立点(電圧値Vp0)側に、共振波長の半分よりも十分離れていることが望ましい。サーボ制御の上限および下限(電圧値VpH,VpL)付近にサーチの開始位置が設定されると、この位置付近において、短期間のうちにサーボ制御の限界点に達する虞があるためである。
【0068】
また、本変形例におけるその他の構成、動作および効果は、図1に示した実施の形態と同様である。
【0069】
なお、本実施の形態において、マスタレーザ部11より出力されるレーザ光の周波数から一定値を隔てて周波数変調された周波数のレーザ光を基本レーザ光としてもよい。また、基本レーザ光としては複数モードを用いることも可能である。また、スレーブレーザ部12の共振器長を制御せずに、マスタレーザ部11にアクチュエータを取り付けたり、電流や温度をコントロールすることにより共振器長を制御するようにしてもよい。また、本実施の形態において、スレーブレーザ部12内にレーザ媒質26bを設けずに非線形光学結晶を設け、スレーブレーザ部12を、波長変換に用いる外部共振器として利用することもできる。
【0070】
[第2の実施の形態]
図8は、本発明の第2の実施の形態に係るレーザ光発生装置の構成の一例を示すブロック図である。本実施の形態に係るレーザ光発生装置は、インジェクションロッキングを用いて、連続光を出力するものである。インジェクションロッキングの場合も、共振器長を制御するが、その制御方法は、インジェクションシーディングの場合と異なり、注入光に側帯波を立てて反射光を同期検波する方法(R. W. P. Drever et al. "Laser Phase and Frequency Stabilization Using an Optical Resonator". Appl. Phys. B 31. 97-105 (1983) 参照)等が提案されている。本実施の形態では、この方法を用いるものとする。
【0071】
本実施の形態に係るレーザ光発生装置は、基本レーザ光を発生すると共にこれを出力するマスタレーザ部31と、このマスタレーザ部31より注入される基本レーザ光によってインジェクションロッキングされた連続レーザ光、すなわち、基本レーザ光の周波数と一致した周波数の連続レーザ光を出力するスレーブレーザ部32と、マスタレーザ部31とスレーブレーザ部32との間に設けられ、マスタレーザ部31より出力される基本レーザ光を位相変調することによって、基本レーザ光に対して側帯波を付加する位相変調器33とを備えている。スレーブレーザ部32の出力光は、図示しない半導体製造用露光装置や干渉計等のレーザ光利用システムに供給されるようになっている。
【0072】
レーザ光発生装置は、更に、スレーブレーザ部32内の後述する共振器ミラーからの反射光を検出する光検出器34と、この光検出器34の出力信号を同期検波して、基本レーザ光の周波数とスレーブレーザ部32の共振器モードの周波数とのずれに応じたサーボエラー信号を生成する同期検波部35と、スレーブレーザ部32内の後述するアクチュエータを駆動する駆動回路37と、位相変調器33を制御すると共に、同期検波部35より出力されるサーボエラー信号に基づいて、駆動回路37を制御してスレーブレーザ部32内の共振器の共振器長をサーボ制御するロッキング制御回路38と、レーザ光発生装置の全体を制御するシステム制御回路39とを備えている。
【0073】
スレーブレーザ部32は、3つの共振器ミラー41,42,43を含み、レーザ光を共振させ且つ出力するリング形の共振器と、共振器ミラー41,42,43間に配置された図示しないレーザ媒質とを有している。共振器ミラー41は、レーザ光を一部透過させ、一部反射するようになっている。共振器ミラー42は、レーザ光を一部透過させ、スレーブレーザ部32の出力光として出力すると共に、一部を共振器ミラー43に向けて反射するようになっている。共振器ミラー43は、レーザ光を共振器ミラー41に向けて全反射するようになっている。
【0074】
スレーブレーザ部32は、更に、共振器の共振器長を制御するために共振器ミラー41を移動可能なアクチュエータ47を有している。このアクチュエータ47には、PZTやボイスコイルモータ等が用いられる。アクチュエータ47は、駆動回路37によって駆動されるようになっている。
【0075】
システム制御回路39は、共振器長のサーボ制御を一時的に停止することを決断するサーボ一時停止決断部48と、このサーボ一時停止決断部48によって共振器長のサーボ制御を一時的に停止することが決断されたときに、例えば、共振器長の制御が一時的に停止する前の所定期間における共振器長の制御の動向に基づいて、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測し、予測した方向に向けて、共振器長の制御が可能な状態(共振器長の制御が可能な状態への移行開始点)をサーチ(探索)し、その状態より、共振器長の制御を再開させるためのサーチ制御部49とを有している。システム制御回路39は、例えばマイクロコンピュータによって構成されている。
【0076】
ロッキング制御回路38は、駆動回路37に対して、アクチュエータ47の位置を制御するための位置補正信号S13を送ると共に、駆動回路37から、アクチュエータ47の位置を表す位置信号S4 を受け取るようになっている。駆動回路37は、ロッキング制御回路38からの位置補正信号S13に基づいてアクチュエータ47を駆動するようになっている。また、駆動回路37は、システム制御回路39のサーボ一時停止決断部48およびサーチ制御部49に対して、アクチュエータ47の位置を表す位置信号S5 を送ると共に、サーチ制御部49より、サーチ制御開始時のアクチュエータ47の位置(中立点付近)への復帰を指示すると共に、共振器長の制御が可能な状態のサーチを開始するためのサーチ制御信号S6 を受け取るようになっている。なお、駆動回路37からサーボ一時停止決断部48およびサーチ制御部49に対して送信する位置信号S5は、アクチュエータ47を駆動するために印加する駆動電圧そのものでもよいし、駆動電圧を何分の一かに縮小したモニタ用の電圧であってもよい。
【0077】
また、ロッキング制御回路38は、システム制御回路39のサーボ一時停止決断部48およびサーチ制御部49に対して、サーボ制御の状態を表す制御状態信号S7 を送ると共に、システム制御回路39のサーボ一時停止決断部48から、サーボ制御の開始および停止を指示するための制御指示信号S8 を受け取るようになっている。
【0078】
次に、本実施の形態に係るレーザ光発生装置の動作について説明する。このレーザ光発生装置では、マスタレーザ部31より出力される基本レーザ光は、位相変調器33を介して、スレーブレーザ部32に注入される。スレーブレーザ部32では、通常時には、注入される基本レーザの周波数と共振器より出力されるレーザ光の周波数とが一致するように、共振器長が制御される。また、共振器長の実質的な制御に先だって、共振器長の制御が可能となる状態をサーチするためのサーチ制御が行われる。
【0079】
共振器長の制御は、具体的には、以下のようにして行われる。まず、光検出器34によってスレーブレーザ部32の共振器ミラー41からの反射レーザ光を検出し、同期検波部35によって、光検出器34の出力信号を同期検波して、基本レーザ光の周波数とスレーブレーザ部32の共振器モードの周波数とのずれに応じたサーボエラー信号を生成する。そして、このサーボエラー信号に基づいて、ロッキング制御回路38によって駆動回路37を制御して、基本レーザ光の周波数とスレーブレーザ部32の共振器モードの周波数とのずれがなくなるようにスレーブレーザ部32内の共振器の共振器長をサーボ制御する。
【0080】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、共振器長を制御するための制御系が機械的または電気的な限界に達すると制御不可能になるため、一旦制御を停止して、アクチュエータ47を中立点等へ復帰させた後、再度、サーチ等の方法でスキャンしながら、サーボエラー信号を捕らえてサーボをかけ直す必要が生じる。サーボ制御が停止している間、スレーブレーザ部32は、フリーランニング状態となるため、第1の実施の形態と同様に、マルチモード発振しやすかったり、周波数が変動する等の不安定な状態となる。
【0081】
本実施の形態では、共振器長の制御が停止して不安定な状態になる頻度を減少させるために、第1の実施の形態と同様に、サーボ一時停止決断部48によって共振器長の制御を一時的に停止することが決断されたときには、サーチ制御部49において、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測し、予測した方向に向けて、共振器長の制御が可能な状態(移行開始点)をサーチし、その状態より、共振器長の制御を再開させるようにしたので、共振器長の制御における一時停止の時間間隔を従来より長くすることができる。なお、本実施の形態における駆動回路37およびシステム制御回路39は、第1の実施の形態における駆動回路17およびシステム制御回路19と同様の機能を有し、共振器長の制御の一旦停止および再開の具体的な動作は、第1の実施の形態と同様である。
【0082】
本実施の形態におけるその他の構成、動作および効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0083】
[第3の実施の形態]
図9は、本発明の第3の実施の形態に係るレーザ光発生装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態に係るレーザ光発生装置は、波長変換用の外部共振器を用いて、注入同期されたレーザ光を出力するものである。本実施の形態においても、共振器長を制御するが、ここでは、その制御方法は、第2の実施の形態と同様の方法を用いるものとする。
【0084】
本実施の形態に係るレーザ光発生装置は、基本レーザ光を発生すると共にこれを出力するマスタレーザ部51と、このマスタレーザ部51より注入される基本レーザ光によって注入同期され、且つ基本レーザ光に対して波長変換を行って所定の周波数のレーザ光を出力する波長変換用共振器52と、マスタレーザ部51の出力光を波長変換用共振器52に導くためのミラー71,72と、ミラー72と波長変換用共振器52との間に設けられ、マスタレーザ部31より出力される基本レーザ光を位相変調することによって、基本レーザ光に対して側帯波を付加する位相変調器53とを備えている。波長変換用共振器52の出力光は、図示しない半導体製造用露光装置や干渉計等のレーザ光利用システムに供給されるようになっている。
【0085】
レーザ光発生装置は、更に、波長変換用共振器52内の後述する共振器ミラーからの反射光を検出する光検出器54と、この光検出器54の出力信号を同期検波して、基本レーザ光に基づく注入同期のずれに応じたサーボエラー信号を生成する同期検波部55と、波長変換用共振器52内の後述するアクチュエータを駆動する駆動回路57と、位相変調器53を制御すると共に、同期検波部55より出力されるサーボエラー信号に基づいて、駆動回路57を制御して波長変換用共振器52内の共振器の共振器長をサーボ制御するロッキング制御回路58と、レーザ光発生装置の全体を制御するシステム制御回路59とを備えている。
【0086】
マスタレーザ部51としては、Nd:YAGレーザ装置,Nd:YVO4 レーザ装置や、これらのレーザ装置の出力レーザ光を波長変換した、いわゆるSHGレーザや、波長可変レーザとしてのTi:Al2 O3 ,Cr:LiSAF,Cr:LiCAF,Cr:Alexandriteレーザ装置等が用いられる。Nd:YAGレーザ装置に用いられるNd:YAGはNd3+イオンをドープしたY3Al5 O12結晶であり、Nd:YAGレーザ装置の発振波長は1.0641μmが代表的であるが、他にも1.32μm等多数ある。Nd:YVO4 レーザ装置に用いられるNd:YVO4 はNd3+イオンをドープしたYVO4 結晶であり、Nd:YVO4 レーザ装置の発振波長は1.0641μmが代表的であるが、他にも1.34μm等多数ある。ここでは、一例として、マスタレーザ部51としてNd:YAGレーザ装置を用いると共に、マスタレーザ部51の第2高調波を基本レーザ光としているものとする。
【0087】
波長変換用共振器52は、4つの共振器ミラー61,62,63,64を含み、レーザ光を共振させ且つ出力するループ形の共振器と、共振器ミラー61,62間に配置された波長変換用の非線形光学素子とを有している。ここでは、一例として、波長変換用共振器52内の非線形光学素子としてBBO(バリウムボレート)65を用いるものとする。波長変換用共振器52の入力端の共振器ミラー61と出力端の共振器ミラー62は、インピーダンスマッチング(ミラーの反射率や共振器内のロス(吸収、散乱、反射、波長変換)のバランス)に近い条件に設計されている。波長変換用共振器52では、波長変換用共振器52への入力光のモードマッチング(共振器空間モードと入力光のスポットおよび波面の重なり)を取り、更に、波長変換用共振器52の一周の光路長を波長の整数倍等にする(共振させる)ことにより、波長変換用共振器52内にレーザ光を閉じ込め、入力光の大きければ何百倍以上もの共振器内パワーを用いて、波長変換効率を上げることが可能になっている。
【0088】
ここで、一例として、波長変換用共振器52は、第2高調波発生(SHG)による波長変換の機能を有し、波長266nmの紫外光を出力するものとする。
【0089】
波長変換用共振器52は、更に、共振器の共振器長を制御するために共振器ミラー61を移動可能なアクチュエータ67を有している。このアクチュエータ67には、PZTやボイスコイルモータ等が用いられる。アクチュエータ67は、駆動回路57によって駆動されるようになっている。
【0090】
システム制御回路59は、共振器長のサーボ制御を一時的に停止することを決断するサーボ一時停止決断部68と、このサーボ一時停止決断部68によって共振器長のサーボ制御を一時的に停止することが決断されたときに、例えば、共振器長の制御が一時的に停止する前の所定期間における共振器長の制御の動向に基づいて、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測し、予測した方向に向けて、共振器長の制御が可能な状態(共振器長の制御が可能な状態への移行開始点)をサーチ(探索)し、その状態より、共振器長の制御を再開させるためのサーチ制御部69とを有している。システム制御回路59は、例えばマイクロコンピュータによって構成されている。
【0091】
ロッキング制御回路58は、駆動回路57に対して、アクチュエータ67の位置を制御するための位置補正信号S13を送ると共に、駆動回路57から、アクチュエータ67の位置を表す位置信号S4 を受け取るようになっている。駆動回路57は、ロッキング制御回路58からの位置補正信号S13に基づいてアクチュエータ57を駆動するようになっている。また、駆動回路57は、システム制御回路59のサーボ一時停止決断部68およびサーチ制御部69に対して、アクチュエータ67の位置を表す位置信号S5 を送ると共に、サーチ制御部69より、サーチ制御開始時のアクチュエータ67の位置(中立点付近)への復帰を指示すると共に、共振器長の制御が可能な状態のサーチを開始するためのサーチ制御信号S6 を受け取るようになっている。なお、駆動回路57からサーボ一時停止決断部68およびサーチ制御部69に対して送信する位置信号S5は、アクチュエータ67を駆動するために印加する駆動電圧そのものでもよいし、駆動電圧を何分の一かに縮小したモニタ用の電圧であってもよい。
【0092】
また、ロッキング制御回路58は、システム制御回路59のサーボ一時停止決断部68およびサーチ制御部69に対して、サーボ制御の状態を表す制御状態信号S7 を送ると共に、システム制御回路59から、サーボ制御の開始および停止を指示するための制御指示信号S8 を受け取るようになっている。
【0093】
なお、本実施の形態における同期検波部55、駆動回路57、ロッキング制御回路58およびシステム制御回路59は、第2の実施の形態における同期検波部35、駆動回路37、ロッキング制御回路38およびシステム制御回路39と同様の機能を有している。
【0094】
次に、本実施の形態に係るレーザ光発生装置の動作について説明する。このレーザ光発生装置では、マスタレーザ部51より出力される基本レーザ光は、位相変調器53を介して、波長変換用共振器52に注入される。波長変換用共振器52は、通常時には、マスタレーザ部51より注入される基本レーザ光によって注入同期され、且つ基本レーザ光に対して波長変換が行われたレーザ光を出力するために、精密に共振器長が制御される。共振器長の制御の動作は、第2の実施の形態と同様である。
【0095】
本実施の形態においても、第2の実施の形態と同様に、共振器長を制御するための制御系が機械的または電気的な限界に達すると制御不可能になるため、一旦制御を停止して、アクチュエータ67を中立点等へ復帰させた後、再度、サーボをかけ直す必要が生じるが、サーボ制御が停止している間、波長変換用共振器52へ結合されるレーザ光の平均値が減少し、その出力レーザ光は不安定な状態となる。
【0096】
本実施の形態では、共振器長の制御が停止して不安定な状態になる頻度を減少させるために、第2の実施の形態と同様に、サーボ一時停止決断部68によって共振器長の制御を一時的に停止することが決断されたときには、サーチ制御部69において、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測し、予測した方向に向けて、共振器長の制御が可能な状態(移行開始点)をサーチし、その状態より、共振器長の制御を再開させるようにしたので、共振器長の制御における一時停止の時間間隔を従来より長くすることができる。なお、共振器長の制御の一旦停止および再開の具体的な動作は、第1の実施の形態および第2の実施の形態と同様である。
【0097】
なお、図8に示した例では、波長変換用共振器52が第2高調波発生(SHG)の機能を有するものとしたが、本実施の形態はこれに限らず、波長変換用共振器52が、光パラメトリック発振(OPO)、和周波混合(SMF)、差周波発生(DFG)等の機能を有するものでもよい。本実施の形態におけるその他の構成、動作および効果は、第2の実施の形態と同様である。
【0098】
また、第2の実施の形態または第3の実施の形態において、マスタレーザ部31,51より出力されるレーザ光の周波数から一定値を隔てて周波数変調された周波数のレーザ光を基本レーザ光としてもよい。また、基本レーザ光としては複数モードを用いることも可能である。また、スレーブレーザ部32や波長変換用共振器52の共振器長を制御せずに、マスタレーザ部31,51にアクチュエータを取り付けたり、電流や温度をコントロールすることにより共振器長を制御するようにしてもよい。
【0099】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、例えば、マスタレーザ部やスレーブレーザ部には、各実施の形態で挙げた構成のものの他にも、種々のレーザ装置を使用することが可能である。
【0100】
【発明の効果】
以上説明したように請求項1ないし5のいずれかに記載のレーザ光発生制御装置、請求項6ないし12のいずれかに記載のレーザ光発生装置または請求項13ないし17のいずれかに記載のレーザ光発生制御方法によれば、共振器長の制御が一時的に停止した場合には、その後、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測し、予測された方向に向けて、共振器長の制御が可能な状態を探索し、その状態より、共振器長の制御を再開するようにしたので、共振器長の制御が一時停止する頻度を減らすことが可能となり、レーザ光の利用効率を向上させることが可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るレーザ光発生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】BUTについて説明するための説明図である。
【図3】図1におけるスレーブレーザ部の共振器長における波長以下の微小変化に対する共振器モードの変化を示す説明図である。
【図4】図1におけるスレーブレーザ部の共振器長の制御を説明するための説明図である。
【図5】図1におけるマスタレーザ部の出力レーザ光の周波数特性とスレーブレーザ部の出力レーザ光の周波数特性とを示す説明図である。
【図6】弱シード状態について説明するための説明図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態の変形例における共振器長の制御の様子を示す説明図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係るレーザ光発生装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係るレーザ光発生装置の構成を示すブロック図である。
【図10】従来のレーザ光発生装置における共振器長の制御の様子を示す説明図である。
【符号の説明】
11…マスタレーザ部、12…スレーブレーザ部、13…レーザ光利用システム、15…光検出器、16…BUT測定部、17…駆動回路、18…共振器長サーボ回路、19…システム制御回路、23,24…共振器ミラー、25…Qスイッチ、26a…合波用光学素子、26b…レーザ媒質、27…アクチュエータ、28…サーボ一時停止決断部、29…サーチ制御部
Claims (17)
- レーザ光を共振させ、且つレーザ光を出力するための共振器と、この共振器に対して基本レーザ光を注入する基本レーザ光注入手段とを備えたレーザ光発生装置に用いられ、このレーザ光発生装置におけるレーザ光の発生を制御するためのレーザ光発生制御装置であって、
前記基本レーザ光注入手段によって注入される基本レーザ光に基づいて、前記共振器より出力されるレーザ光を注入同期するために、前記共振器または前記基本レーザ光注入手段における共振器の共振器長を制御する共振器長制御手段と、この共振器長制御手段による共振器長の制御を一時的に停止する制御一時停止手段と、
この制御一時停止手段によって共振器長の制御が一時的に停止された後、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測し、予測した方向に向けて、共振器長の制御が可能な状態を探索し、その状態より、共振器長制御手段による共振器長の制御を再開させる制御可能状態探索手段と
を備えたことを特徴とするレーザ光発生制御装置。 - 前記制御可能状態探索手段は、前記制御一時停止手段によって共振器長の制御が一時的に停止される前における共振器長の制御の動向に基づいて、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測することを特徴とする請求項1記載のレーザ光発生制御装置。
- 前記制御可能状態探索手段は、前記制御一時停止手段によって共振器長の制御が一時的に停止される前における共振器長の変化の方向に対して反対方向を、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向として予測することを特徴とする請求項1記載のレーザ光発生制御装置。
- 前記制御可能状態探索手段は、基準とする所定の共振器長に対して、予測した方向に所定長さだけ変化させた共振器長より、共振器長の制御が可能な状態の探索を開始することを特徴とする請求項1記載のレーザ光発生制御装置。
- 前記制御可能状態探索手段は、前記制御一時停止手段によって共振器長の制御が一時的に停止される前における共振器長の変化の速さに応じて、前記所定長さを変更することを特徴とする請求項4記載のレーザ光発生制御装置。
- レーザ光を共振させ、且つレーザ光を出力するための共振器と、
この共振器に対して基本レーザ光を注入する基本レーザ光注入手段と、
この基本レーザ光注入手段によって注入される基本レーザ光に基づいて、前記共振器より出力されるレーザ光を注入同期するために、前記共振器または前記基本レーザ光注入手段における共振器の共振器長を制御する共振器長制御手段と、この共振器長制御手段による共振器長の制御を一時的に停止する制御一時停止手段と、
この制御一時停止手段によって共振器長の制御が一時的に停止された後、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測し、予測した方向に向けて、共振器長の制御が可能な状態を探索し、その状態より、共振器長制御手段による共振器長の制御を再開させる制御可能状態探索手段と
を備えたことを特徴とするレーザ光発生装置。 - 前記制御可能状態探索手段は、前記制御一時停止手段によって共振器長の制御が一時的に停止される前における共振器長の制御の動向に基づいて、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測することを特徴とする請求項6記載のレーザ光発生装置。
- 前記制御可能状態探索手段は、前記制御一時停止手段によって共振器長の制御が一時的に停止される前における共振器長の変化の方向に対して反対方向を、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向として予測することを特徴とする請求項6記載のレーザ光発生装置。
- 前記制御可能状態探索手段は、基準とする所定の共振器長に対して、予測した方向に所定長さだけ変化させた共振器長より、共振器長の制御が可能な状態の探索を開始することを特徴とする請求項6記載のレーザ光発生装置。
- 前記制御可能状態探索手段は、前記制御一時停止手段によって共振器長の制御が一時的に停止される前における共振器長の変化の速さに応じて、前記所定長さを変更することを特徴とする請求項9記載のレーザ光発生装置。
- 前記共振器は、前記基本レーザ光が注入されるレーザ装置内に設けられたものであることを特徴とする請求項6記載のレーザ光発生装置。
- 前記共振器は、波長変換用の共振器であることを特徴とする請求項6記載のレーザ光発生装置。
- レーザ光を共振させ、且つレーザ光を出力するための共振器と、この共振器に対して基本レーザ光を注入する基本レーザ光注入手段とを備えたレーザ光発生装置に用いられ、このレーザ光発生装置におけるレーザ光の発生を制御するレーザ光発生制御方法であって、
前記基本レーザ光注入手段によって注入される基本レーザ光に基づいて、前記共振器より出力されるレーザ光を注入同期するために、前記共振器または前記基本レーザ光注入手段における共振器の共振器長を制御すると共に、
所定の場合に、共振器長の制御を一時的に停止し、その後、所定の共振器長を基準にして、共振器長を伸ばす方向と縮める方向のうち、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向を予測し、予測した方向に向けて、共振器長の制御が可能な状態を探索し、その状態より、共振器長の制御を再開させる
ことを特徴とするレーザ光発生制御方法。 - 前記共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向の予測を、前記共振器長の制御が一時的に停止する前における共振器長の制御の動向に基づいて行うことを特徴とする請求項13記載のレーザ光発生制御方法。
- 前記共振器長の制御が一時的に停止する前における共振器長の変化の方向に対して反対方向を、共振器長の制御の再開から次回の共振器長の一時的な停止までの時間が長くなる方向として予測することを特徴とする請求項13記載のレーザ光発生制御方法。
- 前記共振器長の制御が可能な状態の探索を、基準とする所定の共振器長に対して、予測した方向に所定長さだけ変化させた共振器長より開始することを特徴とする請求項13記載のレーザ光発生制御方法。
- 共振器長の制御が一時的に停止する前における共振器長の変化の速さに応じて、前記所定長さを変更することを特徴とする請求項16記載のレーザ光発生制御方法。
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