JP3920100B2 - 放射線像変換パネル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、蓄積性蛍光体を利用する放射線画像記録再生方法に用いられる放射線像変換パネル、およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
X線などの放射線が照射されると、放射線エネルギーの一部を吸収蓄積し、そののち可視光線や赤外線などの電磁波(励起光)の照射を受けると、蓄積した放射線エネルギーに応じて発光を示す性質を有する蓄積性蛍光体(輝尽発光を示す輝尽性蛍光体等)を利用して、この蓄積性蛍光体を含有するシート状の放射線像変換パネルに、被検体を透過したあるいは被検体から発せられた放射線を照射して被検体の放射線画像情報を一旦蓄積記録した後、パネルにレーザ光などの励起光を走査して順次発光光として放出させ、そしてこの発光光を光電的に読み取って画像信号を得ることからなる、放射線画像記録再生方法が広く実用に共されている。読み取りを終えたパネルは、残存する放射線エネルギーの消去が行われた後、次の撮影のために備えられて繰り返し使用される。
【0003】
放射線画像記録再生方法に用いられる放射線像変換パネル(蓄積性蛍光体シートともいう)は、基本構造として、支持体とその上に設けられた蛍光体層とからなるものである。ただし、蛍光体層が自己支持性である場合には必ずしも支持体を必要としない。また、蛍光体層の上面(支持体に面していない側の面)には通常、保護層が設けられていて、蛍光体層を化学的な変質あるいは物理的な衝撃から保護している。
【0004】
蛍光体層としては、蓄積性蛍光体とこれを分散状態で含有支持する結合剤とからなるもの、蒸着法や焼結法によって形成される結合剤を含まないで蓄積性蛍光体の凝集体のみから構成されるもの、および蓄積性蛍光体の凝集体の間隙に高分子物質が含浸されているものなどが知られている。
【0005】
また、上記放射線画像記録再生方法の別法として本出願人による特願2000−400426号明細書には、従来の蓄積性蛍光体における放射線吸収機能とエネルギー蓄積機能とを分離して、少なくとも蓄積性蛍光体(エネルギー蓄積用蛍光体)を含有する放射線像変換パネルと、放射線を吸収して紫外乃至可視領域に発光を示す蛍光体(放射線吸収用蛍光体)を含有する蛍光スクリーンとの組合せを用いる放射線画像形成方法が提案されている。この方法は、被検体を透過などした放射線をまず、該スクリーンまたはパネルの放射線吸収用蛍光体により紫外乃至可視領域の光に変換した後、その光をパネルのエネルギー蓄積用蛍光体にて放射線画像情報として蓄積記録する。次いで、このパネルに励起光を走査して発光光を放出させ、この発光光を光電的に読み取って画像信号を得るものである。このような放射線像変換パネルも本発明に包含される。
【0006】
放射線画像記録再生方法(および放射線画像形成方法)は上述したように数々の優れた利点を有する方法であるが、この方法に用いられる放射線像変換パネルにあっても、できる限り高感度であってかつ画質(鮮鋭度、粒状性など)の良好な画像を与えるものであることが望まれている。
【0007】
感度および画質を高めることを目的として、蛍光体層を気相堆積法により形成することからなる放射線像変換パネルの製造方法が提案されている。気相堆積法には蒸着法やスパッタ法などがあり、例えば蒸着法は、蛍光体またはその原料からなる蒸発源を抵抗加熱器や電子線の照射により加熱して蒸発源を蒸発、飛散させ、金属シートなどの基板表面にその蒸発物を堆積させることにより、蛍光体の柱状結晶からなる蛍光体層を形成するものである。
【0008】
気相堆積法により形成された蛍光体層は、結合剤を含有せず、蛍光体のみからなり、蛍光体の柱状結晶と柱状結晶の間には空隙(クラック)が存在する。このため、励起光の進入効率や発光光の取出し効率を上げることができるので高感度であり、また励起光の平面方向への散乱を防ぐことができるので高鮮鋭度の画像を与えることができる。
【0009】
従来より、気相堆積法に適した蓄積性蛍光体としてアルカリハライド系輝尽性蛍光体が知られており、例えば、特許第2060688号公報およびPCT特許出願第WO 01/03156号公報に開示されている。しかしながら、アルカリハライド系蛍光体からなる蛍光体層における酸素の存在については、全く記載されていない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高感度であって、高画質の放射線画像を与える放射線像変換パネルを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、放射線像変換パネルの蛍光体層をアルカリハライド系輝尽性蛍光体を用いて気相堆積法により形成することについて検討した結果、一定濃度の酸素を蛍光体層中に均一に含有分布させることにより、感度が顕著に増加することを見い出した。すなわち、蛍光体層から放出される輝尽発光量を高めるためには、一定濃度の酸素を蛍光体の柱状結晶中に存在させること、および気相堆積後に酸素はEu等の付活剤と複合体を形成しているが、熱処理することによって酸素を拡散させて付活剤と分離すること、が重要であることを見い出した。酸素は、結晶中でEu等の付活剤の電荷を補償する役割を担っており、付活剤と分離することによって付活剤の付活効率および電荷移動効率を向上させることができ、その結果、蛍光体層からの輝尽発光量を顕著に増加させることができる。
【0012】
本発明は、気相堆積法により形成された蛍光体層を有する放射線像変換パネルであって、該蛍光体層が、基本組成式(I):
MIX・aMIIX’2・bMIIIX”3:yA,zO ‥‥(I)
[ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し;MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し;MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し;X、X’及びX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;AはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表し;そしてa、b、y及びzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<y<1.0、0<z≦0.2の範囲内の数値を表す;ただし、酸素(O)は付活剤と分離している]
を有するアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体からなり、かつ蒸着法により蒸着膜を形成し、その後熱処理することにより得られたものであることを特徴とする放射線像変換パネルにある。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の放射線像変換パネルにおいて、上記の基本組成式(I)におけるzは1×10-5≦z≦0.05の範囲内の数値を表すことが好ましい。また、MIXはCsBrであることが好ましく、AはEuであることが好ましい。
さらに、蛍光体層の任意の二箇所における酸素濃度z1およびz2が、下記の関係式を満足することが好ましい。
0.2 ≦ z1/z2 ≦ 5
【0014】
さらに、本発明の放射線像変換パネルの蛍光体層は、蒸着法により形成されたものであることが好ましく、特には、輝尽性蛍光体もしくはその原料からなる蒸発源を、酸素分圧が1×10-6乃至1×10-2Paの範囲の蒸着雰囲気中で基板上に蒸着させた後、蒸着膜を熱処理することにより形成されたものであることが好ましい。
【0015】
以下に、本発明の放射線像変換パネルについて、蛍光体層を気相堆積法の一種である電子線蒸着法により形成する場合を例にとって詳細に述べる。
電子線蒸着法は、抵抗加熱法などと比較して、蒸発源を局所的に加熱して瞬時に蒸発させるので、蒸発速度を制御しやすく、また蒸発源として仕込んだ蛍光体もしくはその原料の組成と形成された蛍光体層中の蛍光体の組成との不一致を小さくできる利点がある。
【0016】
本発明の放射線像変換パネルに用いられる輝尽性蛍光体は、前記の基本組成式(I)で示される。基本組成式(I)には、必要に応じて、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物を添加物として、MIX1モルに対して0.5モル以下の量で加えてもよい。
【0017】
蛍光体層形成のための基板は、通常は放射線像変換パネルの支持体を兼ねるものであり、従来の放射線像変換パネルの支持体として公知の材料から任意に選ぶことができるが、特に好ましい基板は、石英ガラスシート、サファイアガラスシート;アルミニウム、鉄、スズ、クロムなどからなる金属シート;アラミドなどからなる樹脂シートである。公知の放射線像変換パネルにおいて、パネルとしての感度もしくは画質(鮮鋭度、粒状性)を向上させるために、二酸化チタンなどの光反射性物質からなる光反射層、もしくはカーボンブラックなどの光吸収性物質からなる光吸収層などを設けることが知られている。本発明で用いられる基板についても、これらの各種の層を設けることができ、それらの構成は所望の放射線像変換パネルの目的、用途などに応じて任意に選択することができる。さらに、放射線画像の鮮鋭度を向上させる目的で、基板の蛍光体層側の表面(支持体の蛍光体層側の表面に下塗層(接着性付与層)、光反射層あるいは光吸収層などの補助層が設けられている場合には、それらの補助層の表面であってもよい)には微小な凹凸が形成されていてもよい。
【0018】
多元蒸着(共蒸着)により蛍光体層を形成する場合には、まず蒸発源として、上記輝尽性蛍光体の母体(MIX)成分を含むものと付活剤(A)成分を含むものとからなる少なくとも二個の蒸発源を用意する。多元蒸着は、蛍光体の母体成分と付活剤成分の蒸気圧が大きく異なる場合に、その蒸着速度を各々制御することができるので好ましい。本発明において必須成分である酸素(O)は、蒸着過程で蒸着雰囲気中の酸素ガスとして供給される。各蒸発源は、所望とする輝尽性蛍光体の組成に応じて、蛍光体の母体成分および付活剤成分それぞれのみから構成されていてもよいし、添加物成分などとの混合物であってもよい。また、蒸発源は二個に限定されるものではなく、例えば別に添加物成分などからなる蒸発源を加えて三個以上としてもよい。
【0019】
蛍光体の母体成分は、母体を構成する化合物それ自体であってもよいし、あるいは反応して母体化合物となりうる二以上の原料の混合物であってもよい。また、付活剤成分は、一般には付活剤元素を含む化合物であり、例えば付活剤元素のハロゲン化物が用いられる。
【0020】
付活剤AがEuである場合に、付活剤成分のEu化合物におけるEu2+化合物のモル比が70%以上であることが好ましい。一般に、Eu化合物にはEu2+とEu3+が混合して含まれているが、所望とする輝尽発光(あるいは瞬時発光であっても)はEu2+を付活剤とする蛍光体から発せられるからである。Eu化合物はEuBrxであることが好ましく、その場合に、xは2.0≦x≦2.3の範囲内の数値であることが好ましい。xは、2.0であることが望ましいが、2.0に近づけようとすると酸素が混入しやすくなる。よって、実際にはxは2.2付近でBrの比率が比較的高い状態が安定している。
【0021】
蒸発源は、突沸防止などの点からその含水量が0.5重量%以下であることが好ましい。蒸発源の脱水は、上記の各蛍光体成分を減圧下で100〜300℃の温度範囲で加熱処理したり、あるいは窒素雰囲気などの水分を含まない雰囲気中で、蛍光体成分の融点以上の温度で数十分乃至数時間加熱することにより行うことができる。
【0022】
蒸発源の相対密度は、80%以上、98%以下であることが好ましく、より好ましくは90%以上、96%以下である。蒸発源が相対密度の低い粉体状態であると、蒸着の際に粉体が飛散するなどの不都合が生じたり、蒸発源の表面から均一に蒸発しないで蒸着膜の膜厚が不均一となったりする。よって、安定した蒸着を実現するためには蒸発源の密度がある程度高いことが望ましい。上記相対密度とするには一般に、粉体を20MPa以上の圧力で加圧成形したり、あるいは融点以上の温度で加熱溶融して、タブレット(錠剤)の形状にする。ただし、蒸発源は必ずしもタブレットの形状である必要はない。
【0023】
また、蒸発源、特に蛍光体母体成分を含む蒸発源は、アルカリ金属不純物(蛍光体の構成元素以外のアルカリ金属)の含有量が10ppm以下であり、そしてアルカリ土類金属不純物(蛍光体の構成元素以外のアルカリ土類金属)の含有量が1ppm以下であることが望ましい。このような蒸発源は、アルカリ金属やアルカリ土類金属など不純物の含有量の少ない原料を使用することにより調製することができる。これによって、不純物の混入が少ない蒸着膜を形成することができるとともに、そのような蒸着膜は発光量が増加する。
【0024】
上記の蒸発源および基板を蒸着装置内に設置し、装置内を排気して1×10-5〜1×10-2Pa程度の真空度とする。このとき、真空度をこの程度に保持しながら、Arガス、Neガスなどの不活性ガスを導入してもよい。ただし、装置内の雰囲気中の酸素分圧を、1×10-6乃至1×10-2Paの範囲とする。また、装置内の雰囲気中の水分圧を、ディフュージョンポンプとコールドトラップの組合せなどを用いることにより、7.0×10-3Pa以下にすることが好ましい。
【0025】
次に、二つの電子銃から電子線をそれぞれ発生させて、各蒸発源に照射する。このとき、電子線の加速電圧を1.5kV以上で、5.0kV以下に設定することが望ましい。電子線の照射により、蒸発源である輝尽性蛍光体の母体成分や付活剤成分等は加熱されて蒸発、飛散し、そして反応を生じて蛍光体を形成するとともに基板表面に堆積する。この際に、各電子線の加速電圧などを調整することにより、各蒸発源の蒸発速度を制御することができる。蛍光体の堆積する速度、すなわち蒸着速度は、一般には0.1〜1000μm/分の範囲にあり、好ましくは1〜100μm/分の範囲にある。なお、電子線の照射を複数回に分けて行って二つ以上の蒸着膜を形成することもできる。さらに、蒸着の際に必要に応じて被蒸着物(基板)を冷却または加熱してもよい。
【0026】
蒸着終了後、得られた蒸着膜を加熱処理(アニール処理)する。加熱処理は例えば、50℃〜600℃の範囲の温度、窒素雰囲気下(少量の酸素または水素を含んでいてもよい)で数時間かけて行う。
【0027】
一元蒸着(疑似一元蒸着)の場合には、蒸発流に垂直な方向(基板に平行な方向)に上記蛍光体母体成分と付活剤成分とを分離して含む一個の蒸発源を用意することが好ましい。そして、蒸着に際しては、一つの電子線を用いて、蒸発源の母体成分領域および付活剤成分領域各々に電子線を照射する時間(滞在時間)を制御することにより、均一な組成の輝尽性蛍光体からなる蒸着膜を形成することができる。
【0028】
あるいは、蒸発源として輝尽性蛍光体自体を用いる一元蒸着であってもよく、その場合にも、上述のようにして含水量を0.5重量%以下と調整したものを用いる。また、蒸発源の蛍光体はアルカリ金属不純物の含有量が10ppm以下であり、そしてアルカリ土類金属不純物の含有量が1ppm以下であることが望ましい。
【0029】
またあるいは、上記輝尽性蛍光体からなる蒸着膜を形成するに先立って、蛍光体の母体のみからなる蒸着膜を形成してもよい。これによって、より一層柱状結晶性の良好な蒸着膜を得ることができる。なお、蛍光体からなる蒸着膜中の付活剤など添加物は、特に蒸着時の加熱および/または蒸着後の加熱処理によって、蛍光体母体からなる蒸着膜中に拡散するために、両者の境界は必ずしも明確ではない。
【0030】
このようにして、基本組成式(I)を有するアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体の柱状結晶がほぼ厚み方向に成長した蛍光体層が得られる。酸素成分は、蒸着過程で蒸着雰囲気より結晶中に取り込まれ、付活剤Aの電荷補償の役割を担って、A−O複合体を形成する。蒸着膜を熱処理することによって、酸素は結晶中に拡散し、付活剤と分離される。これにより、結晶中の電荷移動効率および付活剤の付活効率が向上し、その結果、蛍光体の輝尽発光量が増加する。
【0031】
よって、輝尽発光量の点から、本発明において基本組成式(I)における酸素の量zは、一般には0<z≦0.2の範囲にあり、好ましくは1×10-5≦z≦0.05の範囲にある。なお、この酸素量zは、本発明の放射線像変換パネルの蛍光体層においては、層全体の平均値を意味する。
【0032】
また、本発明において酸素は蛍光体層中に均一に存在することが望ましく、蛍光体層の任意の二箇所における酸素濃度(O/MI)z1およびz2は、関係式:
0.2 ≦ z1/z2 ≦ 5
を満足することが望ましい。酸素濃度の測定に際しては、各測定箇所における測定面積を1cm2もしくはその附近とすることが好ましい。なお、放射線像変換パネルの蛍光体層全体のうち、微小領域(例えば、10%未満、特に5%未満)が上記の関係式を満足していなくとも、本発明の効果は達成できる。
【0033】
なお、このことは、蛍光体層の複数の箇所において酸素濃度を測定し、その平均値を求めたときに、いずれの箇所においても酸素濃度zが関係式:
(平均値)×1/√5 ≦ z ≦ (平均値)×√5
を満足することにほかならない。
【0034】
蛍光体層は、結合剤を含有せず、上記アルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体のみからなり、輝尽性蛍光体の柱状結晶と柱状結晶の間には空隙(クラック)が存在する。蛍光体層の層厚は、目的とする放射線像変換パネルの特性、気相堆積法の実施手段や条件などによって異なるが、通常は50μm〜1mmの範囲にあり、好ましくは200μm〜700μmの範囲にある。
【0035】
なお、本発明において、気相堆積法は上記の電子線蒸着法に限られるものではなく、抵抗加熱法、スパッタ法、化学蒸着(CVD)法など公知の他の方法を利用することもできる。これら他の蒸着法および気相堆積法の詳細は、公報を含む公知の各種の文献に記載されており、それらを参照することができる。
【0036】
基板は必ずしも放射線像変換パネルの支持体を兼ねる必要はなく、蛍光体層形成後、蛍光体層を基板から引き剥がし、別に用意した支持体上に接着剤を用いるなどして接合して、支持体上に蛍光体層を設ける方法を利用してもよい。あるいは、蛍光体層に支持体(基板)が付設されていなくてもよい。
【0037】
蛍光体層の表面には、放射線像変換パネルの搬送および取扱い上の便宜や特性変化の回避のために、保護層を設けることが望ましい。保護層は、励起光の入射や発光光の出射に殆ど影響を与えないように、透明であることが望ましく、また外部から与えられる物理的衝撃や化学的影響から放射線像変換パネルを充分に保護することができるように、化学的に安定で防湿性が高く、かつ高い物理的強度を持つことが望ましい。
【0038】
保護層としては、セルロース誘導体、ポリメチルメタクリレート、有機溶媒可溶性フッ素系樹脂などのような透明な有機高分子物質を適当な溶媒に溶解して調製した溶液を蛍光体層の上に塗布することで形成されたもの、あるいはポリエチレンテレフタレートなどの有機高分子フィルムや透明なガラス板などの保護層形成用シートを別に形成して蛍光体層の表面に適当な接着剤を用いて設けたもの、あるいは無機化合物を蒸着などによって蛍光体層上に成膜したものなどが用いられる。また、保護層中には酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、アルミナ等の光散乱性微粒子、パーフルオロオレフィン樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末等の滑り剤、およびポリイソシアネート等の架橋剤など各種の添加剤が分散含有されていてもよい。保護層の層厚は一般に、高分子物質からなる場合には約0.1〜20μmの範囲にあり、ガラス等の無機化合物からなる場合には100〜1000μmの範囲にある。
【0039】
保護層の表面にはさらに、保護層の耐汚染性を高めるためにフッ素樹脂塗布層を設けてもよい。フッ素樹脂塗布層は、フッ素樹脂を有機溶媒に溶解(または分散)させて調製したフッ素樹脂溶液を保護層の表面に塗布し、乾燥することにより形成することができる。フッ素樹脂は単独で使用してもよいが、通常はフッ素樹脂と膜形成性の高い樹脂との混合物として使用する。また、ポリシロキサン骨格を持つオリゴマーあるいはパーフルオロアルキル基を持つオリゴマーを併用することもできる。フッ素樹脂塗布層には、干渉むらを低減させて更に放射線画像の画質を向上させるために、微粒子フィラーを充填することもできる。フッ素樹脂塗布層の層厚は通常は0.5μm乃至20μmの範囲にある。フッ素樹脂塗布層の形成に際しては、架橋剤、硬膜剤、黄変防止剤などのような添加成分を用いることができる。特に架橋剤の添加は、フッ素樹脂塗布層の耐久性の向上に有利である。
【0040】
上述のようにして本発明の放射線像変換パネルが得られるが、本発明のパネルの構成は、公知の各種のバリエーションを含むものであってもよい。例えば、得られる画像の鮮鋭度を向上させることを目的として、上記の少なくともいずれかの層を、励起光を吸収し輝尽発光光は吸収しないような着色剤によって着色してもよい。
【0041】
【実施例】
[実施例1]
(1)CsBr蒸発源の作製
CsBr粉末75gをジルコニア製粉末成形用ダイス(内径:35mm)に入れ、粉末金型プレス成形機(テーブルプレスTB−5型、エヌピーエーシステム(株)製)にて50MPaの圧力で加圧し、タブレット(直径:35mm、厚み:20mm)に成形した。このとき、CsBr粉末に掛かった圧力は約40MPaであった。次に、このタブレットに真空乾燥機にて温度200℃で2時間の真空乾燥処理を施した。得られたタブレットの密度は3.9g/cm3であり、含水量は0.3重量%であった。
【0042】
(2)EuBrx蒸発源の作製
EuBrx(x=2.2)粉末25gをジルコニア製粉末成形用ダイス(内径:25mm)に入れ、粉末金型プレス成形機にて50MPaの圧力で加圧し、タブレット(直径:25mm、厚み:10mm)に成形した。このとき、EuBrx粉末に掛かった圧力は約80MPaであった。次に、このタブレットに真空乾燥機にて温度200℃で2時間の真空乾燥処理を施した。得られたタブレットの密度は5.1g/cm3であり、含水量は0.5重量%であった。
【0043】
(3)蛍光体層の形成
支持体として、順にアルカリ洗浄、純水洗浄、およびIPA洗浄を施した合成石英基板を用意し、蒸着装置内の基板ホルダーに設置した。上記CsBr蒸発源およびEuBrx蒸発源を装置内の所定位置に配置した後、装置内を排気して1×10-3Paの真空度とした。このとき、真空排気装置としてロータリーポンプ、メカニカルブースタおよびターボ分子ポンプの組合せを用いた。次いで、基板の蒸着面とは反対側に位置したシーズヒータで、石英基板を200℃に加熱した。蒸発源それぞれに電子銃で加速電圧4.0kVの電子線を照射して共蒸着させ、CsBr:Eu,O輝尽性蛍光体を堆積させた。このとき、各々の電子銃のエミッション電流を調整して、輝尽性蛍光体におけるEu/Csモル濃度比が0.0001/1となるようにし、そして10μm/分の速度で堆積させた。また、蒸着時に、装置内の雰囲気ガスを質量分析器を用いて分析して算出したところ、蒸着雰囲気中の水分圧は4×10-3Paであった。
【0044】
蒸着終了後、蒸着装置内を大気圧に戻し、装置から、蒸着膜を有する基板を取り出した。次に、この基板をガス導入可能な真空加熱装置に入れ、ロータリーポンプを用いて約1Paまで真空に引いて蒸着膜に吸着している水分等を除去した後、窒素ガス雰囲気中、200℃の温度で2時間蒸着膜を熱処理した。真空下で基板を冷却し、十分に温度が下がった状態で装置から基板を取り出した。基板上には、CsBr:Eu,O輝尽性蛍光体の柱状結晶がほぼ垂直方向に密に林立した構造の蛍光体層(層厚:約400μm、面積10cm×10cm)が形成されていた。
このようにして、共蒸着により支持体と蛍光体層とからなる本発明の放射線像変換パネルを製造した。
【0045】
[実施例2]
実施例1の(3)蛍光体層の形成において、輝尽性蛍光体におけるEu/Csモル濃度比が0.001/1となるように制御したこと以外は実施例1と同様にして、支持体と蛍光体層とからなる本発明の放射線像変換パネルを製造した。
【0046】
[実施例3]
実施例1の(3)蛍光体層の形成において、輝尽性蛍光体におけるEu/Csモル濃度比が0.01/1となるように制御したこと以外は実施例1と同様にして、支持体と蛍光体層とからなる本発明の放射線像変換パネルを製造した。
【0047】
[比較例1]
実施例1の(3)蛍光体層の形成において、輝尽性蛍光体におけるEu/Csモル濃度比が0.001/1となるように制御したこと、および蒸着膜に熱処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、支持体と蛍光体層とからなる比較のための放射線像変換パネルを製造した。
【0048】
[比較例2]
実施例1の(3)蛍光体層の形成において、輝尽性蛍光体におけるEu/Csモル濃度比が0.001/1となるように制御したこと、および石英基板を加熱した後、ガス導入ボートから酸素ガスを導入して装置内の真空度を5×10-2Paに調節したこと以外は実施例1と同様にして、支持体と蛍光体層とからなる比較のための放射線像変換パネルを製造した。
【0049】
[放射線像変換パネルの性能評価]
得られた各放射線像変換パネルの感度について評価を行った。
放射線像変換パネルを室内光を遮蔽可能なカセッテに収納し、これに管電圧80kVpのX線を照射した。次いで、パネルをカセッテから取り出し、パネル表面にレーザ光(波長:633nm)を照射してパネルから放出された輝尽発光光をフォトマルチプライヤで検出し、輝尽発光量を測定した。得られた輝尽発光量(相対値)を感度とした。
【0050】
また、放射線像変換パネルの蛍光体層中の酸素濃度(z、O/Cs比)の分析を以下のようにして行った。二次イオン質量分析装置(Secondary Ion Mass Spectrometer:SIMS)を用いて、パネルの蛍光体層に一次イオンビームを照射し、蛍光体層からスパッタされた二次イオンの質量分析を行った。Csを検出するときは一次イオン種としてOイオンを使用し、Oを検出するときは一次イオンとしてCsイオンを使用した。蛍光体層の層内を平面方向に数点測定し、O/Cs比を求めた。また、蛍光体層の厚み方向にエッチングしながら長時間かけてSIMS測定を行い、O/Cs比を求めた。得られた測定値の平均値を算出し、蛍光体層のO/Cs比とした。さらに、各測定値がいずれも下記条件を満足する場合に、酸素が蛍光体層中に均一に分布して良好な均一性を示すとした。
(平均値)×1/√5 ≦ O/Cs ≦ (平均値)×√5
得られた結果をまとめて表1および図1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
図1は、放射線像変換パネルの蛍光体層の厚みと酸素濃度(O/Cs比)との関係を表すグラフである。図1において、実線は実施例2(熱処理後)を表し、点線は比較例1(熱処理前)を表す。
【0053】
表1および図1の結果から明らかなように、酸素が蛍光体層中に0.2以下の濃度で含まれ、かつ均一に分布している本発明の放射線像変換パネル(実施例1〜3)はいずれも、著しく高い感度を示した。それに対して、熱処理しなかった放射線像変換パネル(比較例1)は、図1に示したように蛍光体層中の酸素分布が均一ではなく、結果として極めて低い感度を示した。また、酸素濃度が0.2を越えた放射線像変換パネル(比較例2)も、極めて低い感度を示した。
【0054】
【発明の効果】
本発明では、アルカリハライド系輝尽性蛍光体からなる蛍光体層中に酸素を一定の濃度で均一に含有分布させることにより、蛍光体層からの輝尽発光量を顕著に高めて、高感度の放射線像変換パネルとすることができる。そして、本発明のパネルは、蛍光体層が該蛍光体の柱状結晶からなり、この点でも高画質の放射線画像を与えることができる。よって、医療診断のための放射線画像記録再生方法に適した高性能の放射線像変換パネルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】蛍光体層の厚みと酸素濃度(O/Cs比)との関係を表すグラフである。
Claims (4)
- 気相堆積法により形成された蛍光体層を有する放射線像変換パネルにおいて、該蛍光体層が、基本組成式(I):
MIX・aMIIX’2・bMIIIX”3:yA,zO ‥‥(I)
[ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し;MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し;MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し;X、X’及びX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;AはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表し;そしてa、b、y及びzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<y<1.0、0<z≦0.2の範囲内の数値を表す;ただし、酸素(O)は付活剤と分離している]
を有するアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体からなり、かつ蒸着法により蒸着膜を形成し、その後熱処理することにより得られたものであることを特徴とする放射線像変換パネル。 - 基本組成式(I)において、zが1×10-5≦z≦0.05の範囲内の数値を表す請求項1に記載の放射線像変換パネル。
- 蛍光体層の任意の二箇所における酸素濃度z1およびz2が、関係式:
0.2 ≦ z1/z2 ≦ 5
を満足する請求項1もしくは2に記載の放射線像変換パネル。 - 蒸着膜が、輝尽性蛍光体もしくはその原料からなる蒸発源を、酸素分圧が1×10-6乃至1×10-2Paの範囲の蒸着雰囲気中で基板上に蒸着させて形成されたものである請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載の放射線像変換パネル。
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