JP3987463B2 - 放射線像変換パネル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、蓄積性蛍光体を利用する放射線画像記録再生方法に用いられる放射線像変換パネルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
X線などの放射線が照射されると、放射線エネルギーの一部を吸収蓄積し、そののち可視光線や赤外線などの電磁波(励起光)の照射を受けると、蓄積した放射線エネルギーに応じて発光を示す性質を有する蓄積性蛍光体(輝尽発光を示す輝尽性蛍光体等)を利用して、この蓄積性蛍光体を含有するシート状の放射線像変換パネルに、被検体を透過したあるいは被検体から発せられた放射線を照射して被検体の放射線画像情報を一旦蓄積記録した後、パネルにレーザ光などの励起光を走査して順次発光光として放出させ、そしてこの発光光を光電的に読み取って画像信号を得ることからなる、放射線画像記録再生方法が広く実用に供されている。読み取りを終えたパネルは、残存する放射線エネルギーの消去が行われた後、次の撮影のために備えられて繰り返し使用される。
【0003】
放射線画像記録再生方法に用いられる放射線像変換パネル(蓄積性蛍光体シートともいう)は、基本構造として、支持体とその上に設けられた蛍光体層とからなるものである。ただし、蛍光体層が自己支持性である場合には必ずしも支持体を必要としない。また、蛍光体層の上面(支持体に面していない側の面)には通常、保護層が設けられていて、蛍光体層を化学的な変質あるいは物理的な衝撃から保護している。
【0004】
蛍光体層としては、蓄積性蛍光体とこれを分散状態で含有支持する結合剤とからなるもの、気相堆積法や焼結法によって形成される結合剤を含まないで蓄積性蛍光体の凝集体のみから構成されるもの、および蓄積性蛍光体の凝集体の間隙に高分子物質が含浸されているものなどが知られている。
【0005】
また、上記放射線画像記録再生方法の別法として特許文献1には、従来の蓄積性蛍光体における放射線吸収機能とエネルギー蓄積機能とを分離して、少なくとも蓄積性蛍光体(エネルギー蓄積用蛍光体)を含有する放射線像変換パネルと、放射線を吸収して紫外乃至可視領域に発光を示す蛍光体(放射線吸収用蛍光体)を含有する蛍光スクリーンとの組合せを用いる放射線画像形成方法が提案されている。この方法は、被検体を透過などした放射線をまず、該スクリーンまたはパネルの放射線吸収用蛍光体により紫外乃至可視領域の光に変換した後、その光をパネルのエネルギー蓄積用蛍光体にて放射線画像情報として蓄積記録する。次いで、このパネルに励起光を走査して発光光を放出させ、この発光光を光電的に読み取って画像信号を得るものである。このような放射線像変換パネルも、本発明に包含される。
【0006】
放射線画像記録再生方法(および放射線画像形成方法)は上述したように数々の優れた利点を有する方法であるが、この方法に用いられる放射線像変換パネルにあっても、できる限り高感度であってかつ画質(鮮鋭度、粒状性など)の良好な画像を与えるものであることが望まれている。
【0007】
感度および画質を高めることを目的として、放射線像変換パネルの蛍光体層を気相堆積法により形成する方法が提案されている。気相堆積法には蒸着法やスパッタ法などがあり、例えば蒸着法は、蛍光体またはその原料からなる蒸発源を抵抗加熱器や電子線の照射により加熱して蒸発源を蒸発、飛散させ、金属シートなどの基板表面にその蒸発物を堆積させることにより、蛍光体の柱状結晶からなる蛍光体層を形成するものである。
【0008】
気相堆積法により形成された蛍光体層は、結合剤を含有せず、蛍光体のみからなり、蛍光体の柱状結晶と柱状結晶の間には空隙(クラック)が存在する。このため、励起光の進入効率や発光光の取出し効率を上げることができるので高感度であり、また励起光の平面方向への散乱を防ぐことができるので高鮮鋭度の画像を得ることができる。
【0009】
結晶構造を有する物質のX線回折(XRD)の線幅は、結晶子径、結晶化度および超格子、結晶内部ひずみ(組成変動を含む)によって変化することが知られている(非特許文献1)。結晶化度(物質中に含まれる結晶の割合)および超格子(原子配列が不規則格子から規則格子に変化すること)の影響を無視できる場合には、回折線幅は結晶子径と結晶内部ひずみとによって変化し、下記式(1)に示すHallの式で表すことができる。
【0010】
【数1】
βcosθ/0.9λ=1/D+2εsinθ/0.9λ ‥‥(1)
【0011】
[ただし、βは試料物質による半値幅であり、Dは結晶子径であり、εは格子歪みであり、θはブラッグ角であり、そしてλはX線波長である]
【0012】
上記Hallの式(1)を、sinθ/λに対してβcosθ/0.9λをプロットすれば、傾き2ε/0.9で切片1/Dの直線が得られ、X線回折線幅(半値幅)の変化(増大)が格子歪みεと結晶子径Dのどちらに起因するかを切り分けることができる。
【0013】
格子歪み(格子不整ともいう)は、格子定数に対する格子定数の変位の比の平均値で表される。一般に、格子不整は結晶内部ひずみによって生じ、その原因としては主に、試料物質の粉砕や圧延などによる残留応力と、試料物質に不純物を固溶した場合などのような成分組成の不均一性、いわゆる組成変動とがある。
【0014】
なお、特許文献2には、輝尽性蛍光体層が、成長速度の最も速い方向に垂直な結晶格子面について粉末法のX線回折装置によりX線入射角10゜から35゜までの範囲で測定したときのX線回折パターンにおいて、第2ピーク強度I2と第1ピーク強度I1の比I2/I1が0.3以下となるように、結晶格子面の方向が揃っている放射線像変換パネルが開示されている。
【0015】
また、特許文献3には、I100/I110≧1であるような強度I100を有する(100)回折線および強度I110を有する(110)回折線を有するXRD−スペクトルを示すアルカリ金属保存蛍リン光体を含んでなる無結合剤保存蛍リン光体スクリーンが開示されている。
【0016】
【特許文献1】
特開2001−255610号公報
【特許文献2】
特許第3130632号公報
【特許文献3】
特開2001−249198号公報
【非特許文献1】
佐々木義典、外、著、基本化学シリーズ12、「結晶化学入門」、1999年、p.71−75
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
付活剤で付活したアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体の蒸着膜など気相堆積膜では、付活剤イオンが蛍光体の母体結晶を構成するイオンとイオン半径や価数が大きく異なる場合に、付活剤は母体結晶と相分離してその表面や内部に析出しがちで母体結晶中に活性な状態で導入することが困難であり、充分な輝尽発光が得られ難いという問題がある。
【0018】
本発明者は、検討を重ねた結果、付活剤が蛍光体の母体結晶中に導入されると、付活剤イオンのイオン半径の違いや価数の違いによって格子歪みが生じることを見い出した。特に付活剤の価数が異なる場合には、電荷補償のために空孔が導入されて結晶中に格子欠陥が生じる一方で、付活剤イオン−空孔対が形成され、これが輝尽発光中心となって輝尽発光量が増加する。空孔は過度に生じると、逆に付活剤イオンの再結合中心となって輝尽発光量が減少する。そして、気相堆積膜の格子歪みや格子欠陥の程度は、XRDパターン上には回折線の半値幅の広がりとして現れ、他方で気相堆積膜の輝尽発光量とも密接な関係があることを見い出し、本発明に到達したものである。
【0019】
従って、本発明の目的は、感度の向上した放射線像変換パネルを提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明は、気相堆積法により形成された蛍光体層を有する放射線像変換パネルにおいて、該蛍光体層が付活剤で付活したアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体からなり、そして該蛍光体層の結晶格子のβ=2ε tan θ(βはX線回折により得られる試料物質による半値幅であり、θはブラッグ角である)の式から算出される格子歪みεが0.035乃至0.30%の範囲にあることを特徴とする放射線像変換パネルにある。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の放射線像変換パネルにおいて、蛍光体層の結晶格子の格子歪みは0.040乃至0.20%の範囲にあることが好ましく、特に好ましくは0.050乃至0.15%の範囲にある。
【0022】
付活剤で付活したアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体は、下記基本組成式(I)を有することが好ましい。基本組成式(I)において、zは1×10-4≦z≦1×10-2の範囲内の数値であることが好ましく、またMIはCsであり、XはBrであり、そしてAはEuであることが好ましい。
【0023】
MIX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA ‥‥(I)
【0024】
[ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し;MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し;MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し;X、X’及びX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;AはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表し;そしてa、b及びzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す]
【0025】
以下に、本発明の放射線像変換パネルについて詳細に説明する。
本発明において、放射線像変換パネルの蛍光体層は、気相堆積法により形成されたものであり、蛍光体の柱状結晶がほぼ厚み方向に成長した層である。そして、蛍光体層は、X線回折法(XRD)に基づいて次のようにして決定された格子歪みを有する。
【0026】
本発明において付活剤で付活したアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体からなる蛍光体層において、前述したXRDの回折線幅の変化(増加)に対する結晶化度および超格子の寄与は、一般に蛍光体母体に対する付活剤の含有量が少量(1モル%以下)であるので、無視することができる。
【0027】
また、結晶子径が回折線幅に寄与するのは一般に0.1μm以下の場合であることが分かっているが、本発明の蛍光体層の柱状結晶の柱径は数μm以上であるので、結晶子径の寄与も無視できると考えられる。実際に、アルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体の代表的な例であるCsBr:Eu蛍光体からなる蒸着膜について、下記Hallの式(1)をsinθ/λ対βcosθ/0.9λでプロットすると、図1に示すように、原点を通る直線が得られる。
【0028】
【数2】
βcosθ/0.9λ=1/D+2εsinθ/0.9λ ‥‥(1)
【0029】
[ただし、β、D、ε、θおよびλは前に定義した通りである]
【0030】
図1において、各測定点は、リガク社製Cu管球、RAD-2VRを用いて、グラファイト湾曲モノクロメータ(Kα線)使用、管電圧40kV、管電流30mA、発散スリット1度、散乱スリット1度、受光スリット0.15mm、モノクロ用受光スリット0.6mmの条件の光学系で、CsBr:Eu蛍光体蒸着膜のX線回折測定を行って得られた。実測半値幅は、Rachinger方法でKα2の寄与を除去して求めた。
【0031】
また、試料物質による半値幅βは、実測した半値幅Bから装置に由来する半値幅bを差し引くことにより求めた。装置に由来する半値幅bは、歪みのない充分大きな結晶であるSi単結晶ウェファーを用いて、以下のようにして求めた。なお、詳細は三宅清照、外著、日本写真学会誌、第63(1)巻、p.4−11に記載されている。(100)切り出しSiウェファーで、(400)面、(111)切り出しSiウェファーで(111)面、これら二つの回折面の回折線の半値幅を測定し、この二点を通る直線の近似式により、測定回折面と同一回折角の装置に由来する半値幅を求めた。図2に、(100)切り出しSiウェファーのXRDパターンの一部を示す。上記の光学系では、装置由来の半値幅b(単位:度)は、下記式(2)で近似することができる。
【0032】
【数3】
b=0.005×θ+0.00399 ‥‥(2)
【0033】
[ただし、bは装置由来の半値幅であり、θはブラッグ角である]
【0034】
図1のグラフから、切片1/D=0であるので結晶子径Dは無限大であり、結晶子は充分に大きいとみなすことができる。従って、回折線幅(半値幅)の増加は格子歪みのみによって決定される。そして、上記Hallの式(1)は次のように簡単に表すことができる。換言すれば、XRDの半値幅βと1/2回折角(ブラッグ角)θから格子歪みεを決定することができる。
【0035】
【数4】
β=2εtanθ ‥‥(3)
【0036】
[ただし、β、εおよびθは前に定義した通りである]
【0037】
本発明において、上記の式(3)から求めた蛍光体層の結晶格子の格子歪みεは、輝尽発光特性の点から、一般に0.035乃至0.30%の範囲にある。格子歪みは、好ましくは0.040乃至0.20%の範囲にあり、特に好ましくは0.050乃至0.15%の範囲にある。
【0038】
回折角2θが大きいほど格子歪みεの検知能力が高くなるので、Cu−KαのXRDでは2θ60度以上で蛍光体層の回折線の半値幅を測定することが好ましい。例えば、蛍光体層を構成する蛍光体母体が塩化セシウム型のCsBrやCsIの場合には、(321)面及び(400)面の回折線を用いることができる。塩化ナトリウム型のRbBrやRbIの場合には、(422)面及び(600)面の回折線を用いることができる。なお、高角度であって回折強度が強ければ、回折面に特に制限はない。
【0039】
本発明において格子歪みは、主として蛍光体母体結晶中に付活剤が導入されることによって生じると考察される。具体的には、付活剤原子と母体結晶を構成する原子とのイオン半径差による微視的なイオン間距離の揺らぎ、多価付活剤原子導入に伴う電荷補償のための空孔の生成、付活剤原子による格子間サイトの占有によって生じる。
【0040】
蛍光体母体に導入される付活剤の量は、その種類や組合せなどによっても異なるが、上記範囲の格子歪みを形成するためには母体1モルに対して1×10-4モル以上であることが好ましい。一方、付活剤の量が多過ぎると濃度消光の弊害が起こるので、付活剤は1×10-2モル以下であることが好ましい。より好ましくは、母体1モルに対して5×10-4乃至5×10-3の範囲にある。
【0041】
蛍光体層が上記範囲の格子歪みを有することによって、その結晶格子中に導入された付活剤は輝尽発光の発光中心として有効に機能し、発光しない付活剤サイトのみならず消光を引き起こす付活剤サイトも減少して、少量の付活剤で効率良く輝尽発光を生じさせることができる。
【0042】
なお、付活剤原子のイオン半径が母体結晶構成原子のイオン半径と同等であって価数も一致するような場合には、充分な格子歪みが形成され難いので、発光を阻害しないような原子を母体結晶中にドープして適度に格子歪みを形成してもよい。
【0043】
本発明に用いられる蛍光体は、付活剤で付活したアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体であり、下記基本組成式(I)を有する輝尽性蛍光体を好ましく用いることができる。
【0044】
MIX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA ‥‥(I)
【0045】
[ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し;MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し;MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し;X、X’及びX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;AはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表し;そしてa、b及びzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す]
【0046】
上記基本組成式(I)において、前述したように、zは1×10-4≦z≦1×10-2の範囲内の数値であることが好ましい。また、MIとしては少なくともCsを含んでいることが好ましい。Xとしては少なくともBrを含んでいることが好ましい。Aとしては特にEu又はBiであることが好ましい。また、基本組成式(I)には、必要に応じて、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物を添加物として、MIX1モルに対して0.5モル以下の量で加えてもよい。
【0047】
次に、本発明の放射線像変換パネルを製造する方法について、気相堆積法として抵抗加熱方式による蒸着法を用いる場合を例にとって詳細に述べる。抵抗加熱方式は、中程度の真空度で蒸着を行うことができ、柱状結晶の良好な蒸着膜を容易に得られる利点がある。蛍光体層の格子歪みは、特には気相堆積時の雰囲気や真空度、基板の温度、および堆積速度などによって制御することができる。
【0048】
蒸着膜形成のための基板は、通常は放射線像変換パネルの支持体を兼ねるものであり、従来の放射線像変換パネルの支持体として公知の材料から任意に選ぶことができる。特に好ましい基板は、石英ガラスシート、サファイアガラスシート;アルミニウム、鉄、スズ、クロムなどからなる金属製シート;アラミドなどからなる樹脂製シートである。公知の放射線像変換パネルにおいて、パネルとしての感度もしくは画質(鮮鋭度、粒状性)を向上させるために、二酸化チタンなどの光反射性物質からなる光反射層、もしくはカーボンブラックなどの光吸収性物質からなる光吸収層などを設けることが知られている。本発明で用いられる基板についても、これらの各種の層を任意に設けることができ、それらの構成は所望の放射線像変換パネルの目的、用途などに応じて任意に選択することができる。さらに、柱状結晶性を高める目的で、基板の蒸着膜が形成される側の表面(支持体の蛍光体層側の表面に下塗層(接着性付与層)、光反射層あるいは光吸収層などの補助層が設けられている場合には、それらの補助層の表面であってもよい)には微小な凹凸が設けられていてもよい。また、基板表面にプラズマ洗浄を施してもよい。
【0049】
多元蒸着(共蒸着)により蒸着膜を形成する場合には、まず蒸発源として、上記輝尽性蛍光体のアルカリ金属ハロゲン化物母体成分を含むものと付活剤成分を含むものからなる少なくとも二個の蒸発源を用意する。多元蒸着は、蛍光体の母体成分と付活剤成分の蒸気圧が大きく異なる場合に、その蒸発速度を各々制御することができるので好ましい。各蒸発源は、所望とする輝尽性蛍光体の組成に応じて、蛍光体の母体成分および付活剤成分それぞれのみから構成されていてもよいし、添加物成分などとの混合物であってもよい。また、蒸発源は二個に限定されるものではなく、例えば別に添加物成分などからなる蒸発源を加えて三個以上としてもよい。
【0050】
蛍光体の母体成分は、母体を構成する化合物それ自体であってもよいし、または反応して母体化合物となりうる二以上の原料の混合物であってもよい。また、付活剤成分は、一般には付活剤元素を含む化合物であり、例えば付活剤元素のハロゲン化物や酸化物が用いられる。
【0051】
付活剤がEuである場合に、付活剤成分のEu化合物におけるEu2+化合物のモル比が70%以上であることが好ましい。一般に、Eu化合物にはEu2+とEu3+が混合して含まれているが、所望とする輝尽発光(あるいは瞬時発光であっても)はEu2+を付活剤とする蛍光体から発せられるからである。Eu化合物はEuXm(Xはハロゲン)であることが好ましく、その場合には、mは2.0≦m≦2.3の範囲内の数値であることが好ましい。mは、2.0であることが望ましいが、2.0に近づけようとすると酸素が混入しやすくなる。よって、実際にはmは2.2付近でXの比率が比較的高い状態が安定している。
【0052】
蒸発源は、その含水量が0.5重量%以下であることが好ましい。蒸発源となる蛍光体母体成分や付活剤成分が、例えばEuBr、CsBrのように吸湿性である場合には特に、含水量をこのような低い値に抑えることは突沸防止などの点から重要である。蒸発源の脱水は、上記の各蛍光体成分を減圧下で100〜300℃の温度範囲で加熱処理することにより行うことが好ましい。あるいは、各蛍光体成分を窒素ガス雰囲気などの水分を含まない雰囲気中で、該成分の融点以上の温度で数十分乃至数時間加熱溶融してもよい。
【0053】
蒸発源の相対密度は、80%以上、98%以下であることが好ましく、より好ましくは90%以上、96%以下である。蒸発源が相対密度の低い粉体状態であると、蒸着の際に粉体が飛散するなどの不都合が生じたり、蒸発源の表面から均一に蒸発しないで蒸着膜の膜厚が不均一となったりする。よって、安定した蒸着を実現するためには蒸発源の密度がある程度高いことが望ましい。上記相対密度とするには一般に、粉体を20MPa以上の圧力で加圧成形したり、あるいは融点以上の温度で加熱溶融して、タブレット(錠剤)の形状にする。ただし、蒸発源は必ずしもタブレットの形状である必要はない。
【0054】
また、蒸発源、特に蛍光体母体成分を含む蒸発源は、アルカリ金属不純物(蛍光体の構成元素以外のアルカリ金属)の含有量が10ppm以下であり、そしてアルカリ土類金属不純物(蛍光体の構成元素以外のアルカリ土類金属)の含有量が1ppm以下であることが望ましい。このような蒸発源は、アルカリ金属やアルカリ土類金属など不純物の含有量の少ない原料を使用することにより調製することができる。これによって、不純物の混入が少ない蒸着膜を形成することができるとともに、そのような蒸着膜は発光量が増加する。
【0055】
上記複数の蒸発源および基板を蒸着装置内に配置し、装置内を排気して0.03〜3Pa程度の中真空度とする。好ましくは、0.05〜2Pa、より好ましくは0.3〜1.2Paの真空度にする。更に好ましくは、装置内を排気して、1×10-5〜1×10-2Pa程度の高真空度とした後、Arガス、Neガス、N2ガスなどの不活性ガスを導入して上記中真空度にする。これにより、装置内の水分圧や酸素分圧等を下げることができる。排気装置としては、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ、ディフュージョンポンプ、メカニカルブースタ等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0056】
次に、各抵抗加熱器に電流を流すことにより蒸発源を加熱する。このとき、基板も加熱することが好ましい。基板温度は、一般には50〜250℃の範囲にあり、好ましくは80〜200℃の範囲にある。蒸発源である蛍光体母体成分や付活剤成分等は加熱されて蒸発、飛散し、そして反応を生じて蛍光体を形成するとともに基板表面に堆積する。このとき、基板のサイズ等によっても異なるが、各蒸発源と基板との距離は一般に5乃至50cmの範囲にある。各蒸発源の堆積速度、すなわち蒸着速度は、抵抗加熱器の抵抗電流などを調整することにより制御することができる。蛍光体の蒸着速度は、一般には0.1乃至100μm/分の範囲にあり、好ましくは1乃至20μm/分、より好ましくは2乃至15μm/分の範囲にある。
【0057】
なお、抵抗加熱器による加熱を複数回に分けて行って二層以上の蛍光体層を形成することもできる。また、蒸着終了後に蒸着膜を熱処理(アニール処理)してもよい。熱処理は、一般には100℃乃至300℃の温度で0.5乃至3時間かけて行い、好ましくは150℃乃至250℃の温度で0.5乃至2時間かけて行う。熱処理雰囲気としては、不活性ガス雰囲気、もしくは少量の酸素ガス又は水素ガスを含む不活性ガス雰囲気が用いられる。ただし、熱処理を過度に行うと、蒸着膜中の格子歪みが緩和されて輝尽発光量の低下を引き起こす。
【0058】
なお、上記輝尽性蛍光体からなる蒸着膜を形成するに先立って、蛍光体の母体のみからなる蒸着膜を形成してもよい。これによって、より一層柱状結晶性の良好な蒸着膜を得ることができる。なお、蛍光体からなる蒸着膜中の付活剤など添加物は、特に蒸着時の加熱および/または蒸着後の熱処理によって、蛍光体母体からなる蒸着膜中に拡散するために、両者の境界は必ずしも明確ではない。
【0059】
一元蒸着の場合には、蒸発源として蛍光体自体または蛍光体原料混合物を用いてこれを単一の抵抗加熱器で加熱する。蒸発源は予め、所望の濃度の付活剤を含有するように調製する。もしくは、蛍光体母体成分と付活剤成分との蒸気圧差を考慮して、蒸発源に蛍光体の母体成分を補給しながら蒸着を行うことも可能である。
【0060】
このようにして、輝尽性蛍光体の柱状結晶がほぼ厚み方向に成長した蛍光体層が得られる。蛍光体層は、結合剤を含有せず、蛍光体のみからなり、蛍光体の柱状結晶と柱状結晶の間には空隙(クラック)が存在する。蛍光体層の層厚は、目的とする放射線像変換パネルの特性、蒸着法の実施手段や条件などによっても異なるが、通常は50μm〜1mmの範囲にあり、好ましくは200μm〜700μmの範囲にある。
【0061】
本発明に用いられる気相堆積法は、上記の抵抗加熱方式による蒸着法に限定されるものではなく、電子線照射方式など公知の他の蒸着法であってもよい。さらに、スパッタ法、化学蒸着(CVD)法、イオンプレーティング法など公知の各種の方法を利用することができる。
【0062】
なお、基板は必ずしも放射線像変換パネルの支持体を兼ねる必要はなく、蛍光体層形成後、蛍光体層を基板から引き剥がし、別に用意した支持体上に接着剤を用いるなどして接合して、支持体上に蛍光体層を設ける方法を利用してもよい。あるいは、蛍光体層に支持体(基板)が付設されていなくてもよい。
【0063】
この蛍光体層の表面には、放射線像変換パネルの搬送および取扱い上の便宜や特性変化の回避のために、保護層を設けることが望ましい。保護層は、励起光の入射や発光光の出射に殆ど影響を与えないように、透明であることが望ましく、また外部から与えられる物理的衝撃や化学的影響から放射線像変換パネルを充分に保護することができるように、化学的に安定で防湿性が高く、かつ高い物理的強度を持つことが望ましい。
【0064】
保護層としては、セルロース誘導体、ポリメチルメタクリレート、有機溶媒可溶性フッ素系樹脂などのような透明な有機高分子物質を適当な溶媒に溶解して調製した溶液を蛍光体層の上に塗布することで形成されたもの、あるいはポリエチレンテレフタレートなどの有機高分子フィルムや透明なガラス板などの保護層形成用シートを別に形成して蛍光体層の表面に適当な接着剤を用いて設けたもの、あるいは無機化合物を蒸着などによって蛍光体層上に成膜したものなどが用いられる。また、保護層中には酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、アルミナ等の光散乱性微粒子、パーフルオロオレフィン樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末等の滑り剤、およびポリイソシアネート等の架橋剤など各種の添加剤が分散含有されていてもよい。保護層の層厚は一般に、高分子物質からなる場合には約0.1〜20μmの範囲にあり、ガラス等の無機化合物からなる場合には100〜1000μmの範囲にある。
【0065】
保護層の表面にはさらに、保護層の耐汚染性を高めるためにフッ素樹脂塗布層を設けてもよい。フッ素樹脂塗布層は、フッ素樹脂を有機溶媒に溶解(または分散)させて調製したフッ素樹脂溶液を保護層の表面に塗布し、乾燥することにより形成することができる。フッ素樹脂は単独で使用してもよいが、通常はフッ素樹脂と膜形成性の高い樹脂との混合物として使用する。また、ポリシロキサン骨格を持つオリゴマーあるいはパーフルオロアルキル基を持つオリゴマーを併用することもできる。フッ素樹脂塗布層には、干渉むらを低減させて更に放射線画像の画質を向上させるために、微粒子フィラーを充填することもできる。フッ素樹脂塗布層の層厚は通常は0.5μm乃至20μmの範囲にある。フッ素樹脂塗布層の形成に際しては、架橋剤、硬膜剤、黄変防止剤などのような添加成分を用いることができる。特に架橋剤の添加は、フッ素樹脂塗布層の耐久性の向上に有利である。
【0066】
上述のようにして本発明の放射線像変換パネルが得られるが、本発明のパネルの構成は、公知の各種のバリエーションを含むものであってもよい。例えば、放射線画像の鮮鋭度を向上させることを目的として、上記の少なくともいずれかの層を、励起光を吸収し輝尽発光光は吸収しないような着色剤によって着色してもよい。
【0067】
【実施例】
[実施例1]
(1)蒸発源
蒸発源として、純度4N以上の臭化セシウム(CsBr)粉末、および純度3N以上の臭化ユーロピウム(EuBrm、m≒2.2)粉末を用意した。各粉末中の微量元素を、ICP−MS法(誘導結合高周波プラズマ分光分析−質量分析法)により分析した結果、CsBr中のCs以外のアルカリ金属(Li、Na、K、Rb)は各々10ppm以下であり、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Ba)など他の元素は2ppm以下であった。また、EuBrm中のEu以外の希土類元素は各々20ppm以下であり、他の元素は10ppm以下であった。これらの粉末は、吸湿性が高いので露点−20℃以下の乾燥雰囲気を保ったデシケータ内で保管し、使用直前に取り出すようにした。
【0068】
(2)蛍光体層の形成
支持体として、順にアルカリ洗浄、純水洗浄、およびIPA(イソプロピルアルコール)洗浄を施した後、更にプラズマ洗浄を施したガラス基板(コーニング社製)を用意し、蒸着装置内の基板ホルダーに設置した。また、上記CsBr蒸発源およびEuBrm蒸発源をそれぞれ装置内の抵抗加熱器の坩堝容器に充填した。基板と各蒸発源との距離は10cmであった。装置内をロータリーポンプ、メカニカルブースターおよびターボ分子ポンプの組合せを用いて排気して1×10-4Paの真空度にした後、Arガスを導入して0.9Paの真空度(Arガス圧)にした。次いで、基板の蒸着面とは反対側に位置したシーズヒータで、石英基板を200℃に加熱した。蒸発源それぞれを抵抗加熱器で加熱し、まずCsBr蒸発源側のシャッタだけを開いて、基板表面にCsBrを堆積させて蛍光体母体層(厚み:50μm)を形成した。次に、EuBrm蒸発源側のシャッタも開いて、蛍光体母体層上にCsBr:Eu輝尽性蛍光体を堆積させた。また、各加熱器の抵抗電流を調整して、輝尽性蛍光体におけるEu/Csモル濃度比が0.001/1となるように制御しながら、13.3μm/分の速度で堆積させた。蒸着終了後、装置内を大気圧に戻し、装置から石英基板を取り出した。石英基板上には、蛍光体の柱状結晶がほぼ垂直方向に密に林立した構造の蒸着膜(膜厚:約500μm、面積10cm×10cm)が形成されていた。
【0069】
次に、この基板を石英ボートの中に置き、石英ボートごとチューブ炉の炉芯内に挿入した。ロータリーポンプにより約10Paまで真空に引いて蒸着膜に吸着している水分等を除去した後、この真空度を維持しながら、N2ガス雰囲気中、200℃の温度で1時間蒸着膜を熱処理した。N2ガス雰囲気中で基板を冷却し、充分に温度が下がった時点で炉芯内から基板を取り出した。このようにして、支持体と蛍光体層とからなる本発明の放射線像変換パネルを製造した。
【0070】
[実施例2〜6]
実施例1の(2)蛍光体層の形成において、基板の加熱温度および/または蒸着速度をそれぞれ表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、本発明の各種の放射線像変換パネルを製造した。
【0071】
[比較例1〜3]
実施例1の(2)蛍光体層の形成において、基板の加熱温度および/または蒸着速度をそれぞれ表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較のための各種の放射線像変換パネルを製造した。
【0072】
[参考例1] CsBr層
実施例1の(2)の蛍光体層の形成において、CsBr蒸発源のみを用いたこと、そして基板の加熱温度および蒸着速度を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、参考のための放射線像変換パネルを製造した。
【0073】
[実施例7]
実施例3で得られた蛍光体層に更に熱処理を200℃で1時間行って、本発明の放射線像変換パネルを製造した。
【0074】
[比較例4]
実施例3で得られた蛍光体層に更に熱処理を200℃で3時間行って、比較のための放射線像変換パネルを製造した。
【0075】
[実施例8〜10] 一元蒸着
実施例1において、蒸発源としてCsBr粉末とEuBrm粉末の混合物を用いたこと、そして基板の加熱温度、基板と蒸発源の距離、Arガス圧および/または蒸着速度をそれぞれ表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、本発明の各種の放射線像変換パネルを製造した。
【0076】
[実施例11〜14]
実施例1の(2)蛍光体層の形成において、基板の加熱温度、基板と蒸発源の距離、Arガス圧、基板の回転、蛍光体母体層の厚みおよび/または蒸着速度をそれぞれ表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、本発明の各種の放射線像変換パネルを製造した。
【0077】
[実施例15]
実施例1の(2)蛍光体層の形成において、支持体としてアルミニウム基板を用いたこと、そして基板の加熱温度、Arガス圧および蒸着速度を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、本発明の放射線像変換パネルを製造した。
【0078】
[比較例5]
実施例1の(2)蛍光体層の形成において、支持体としてアルミニウム基板を用いたこと、そして基板の加熱温度、Arガス圧、蛍光体母体層の厚みおよび蒸着速度を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較のための放射線像変換パネルを製造した。
【0079】
[放射線像変換パネルの性能評価1]
得られた各放射線像変換パネルの蛍光体層について、以下のようにして格子歪みを決定した。X線回折装置(リガク社製)を用いてXRD測定を行ってXRDパターンを得た。XRDパターンに現れた回折角2θ98.1度付近のCsBrの(400)面の回折線について半値幅B(実測値)を測定した。装置由来の半値幅bを前記式(2)に上記θを代入することにより求めた。次いで、試料由来の半値幅β=B−bを求め、そして前記式(3)に得られたβとθを代入することにより格子歪みεを算出した。
【0080】
また、各放射線像変換パネルの感度について以下のようにして評価を行った。放射線像変換パネルを室内光を遮蔽可能なカセッテに収納し、これに管電圧80kVp、管電流16mAのX線を照射した。次いで、パネルをカセッテから取り出した後、パネルを半導体レーザ光(波長:660nm)で励起し、パネルから放出された輝尽発光光をフォトマルチプライヤで検出し、その発光量(実施例1を基準とした相対値)により感度を評価した。
【0081】
得られた結果をまとめて表1に示す。また、参考例1および実施例13のXRDパターンを図3、図4に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
図3は、参考例1のCsBr層のXRDパターンの一部を示すグラフである。図4は、実施例13のCsBr:Eu蛍光体層のXRDパターンの一部を示すグラフである。
【0085】
表1に示した結果から、蛍光体層の格子歪みが0.035〜0.30%の範囲にある本発明の放射線像変換パネル(実施例1〜15)はいずれも、格子歪みが0.035%未満である比較のための放射線像変換パネル(比較例1〜5)に比べて、感度が高いことが明らかである。特に、格子歪みが0.050〜0.15%の範囲にある場合に、感度が顕著に向上することが分かる。
【0086】
実施例1〜3と比較例1、2との比較から、蒸着速度を遅くすると格子歪みが生じる傾向にあることが分かる。実施例3と比較例3との比較から、基板温度が低い方が格子歪みが生じる傾向にあることが分かる。さらに、実施例3、7と比較例4との比較から、蒸着後の熱処理を過度に行うと格子歪みが減少し、感度が低下することが分かる。また、CsBr層のみを有する参考例1で、格子歪みが生じたのはArガス雰囲気などによるものと考えられる。
【0087】
[実施例16] 電子線蒸着
(1)蒸発源
実施例1と同様にして、蒸発源としてCsBr粉末およびEuBrm粉末を用意した。
【0088】
(2)蛍光体層の形成
支持体として、順にアルカリ洗浄、純水洗浄およびIPA洗浄を施した後、更にプラズマ洗浄を施したガラス基板(コーニング社製)を用意し、蒸着装置内の基板ホルダーに設置した。また、上記CsBr蒸発源およびEuBrm蒸発源をそれぞれ装置内の所定位置に配置した。基板と各蒸発源との距離は20cmであった。装置内をロータリーポンプ、メカニカルブースターおよびターボ分子ポンプの組合せを用いて排気して1×10-4Paの真空度にした。次いで、基板の蒸着面とは反対側に位置したシーズヒータで、石英基板を200℃に加熱した。蒸発源それぞれに電子銃からの電子線を照射し、まずCsBr蒸発源側のシャッタだけを開いて、基板表面にCsBrを堆積させて蛍光体母体層(厚み:20μm)を形成した。次いで、EuBrm蒸発源側のシャッタも開いて、蛍光体母体層上にCsBr:Eu輝尽性蛍光体を堆積させた。また、各電子銃のエミッション電流を調整して、輝尽性蛍光体におけるEu/Csモル濃度比が0.003/1となるように制御しながら、4.7μm/分の速度で堆積させた。蒸着終了後、装置内を大気圧に戻し、装置から石英基板を取り出した。石英基板上には、蛍光体の柱状結晶がほぼ垂直方向に密に林立した構造の蒸着膜(膜厚:約100μm、面積10cm×10cm)が形成されていた。
【0089】
次に、実施例1と同様にして蒸着膜を熱処理した。このようにして、支持体と蛍光体層とからなる本発明の放射線像変換パネルを製造した。
【0090】
[実施例17、18]
実施例16の(2)蛍光体層の形成において、基板の加熱温度および/または蒸着速度をそれぞれ表2に示すように変更したこと以外は実施例16と同様にして、本発明の各種の放射線像変換パネルを製造した。
【0091】
[比較例6]
実施例16の(2)蛍光体層の形成において、基板の加熱温度および蒸着速度を表2に示すように変更したこと以外は実施例16と同様にして、比較のための放射線像変換パネルを製造した。
【0092】
[放射線像変換パネルの性能評価2]
得られた各放射線像変換パネルの蛍光体層について、回折角2θが65.2°付近の(321)面の回折線の半値幅Bを用いた以外は、前述と同様にして、格子歪みを決定し、そして放射線像変換パネルの感度評価を行った。
得られた結果をまとめて表2に示す。なお、感度の換算値は、蛍光体層の層厚を500μmに換算した値である。
【0093】
【表3】
【0094】
表2に示した結果から、格子歪みが0.035〜0.30%の範囲にある本発明の放射線像変換パネル(実施例16〜18)はいずれも、格子歪みが0.035%未満である比較のための放射線像変換パネル(比較例6)に比べて、感度が高いことが明らかである。
【0095】
【発明の効果】
蛍光体層がその結晶中に格子歪みを特定の範囲内で有する本発明の放射線像変換パネルは、蛍光体の付活剤が母体結晶中に効率良く導入されて輝尽発光中心として機能し、その結果として高い感度を示す。従って、本発明の放射線像変換パネルは、医療用放射線画像診断などに有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】CsBr:Eu蛍光体の蒸着膜についてsinθ/λ対βcosθ/0.9λでプロットしたグラフである。
【図2】Si単結晶ウェファーのXRDパターンの一部を示すグラフである。
【図3】CsBr層のXRDパターンの一部を示すグラフである。
【図4】CsBr:Eu蛍光体層のXRDパターンの一部を示すグラフである。
Claims (6)
- 気相堆積法により形成された蛍光体層を有する放射線像変換パネルにおいて、該蛍光体層が付活剤で付活したアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体からなり、そして該蛍光体層の結晶格子のβ=2ε tan θ(βはX線回折により得られる試料物質による半値幅であり、θはブラッグ角である)の式から算出される格子歪みεが0.035乃至0.30%の範囲にあることを特徴とする放射線像変換パネル。
- 蛍光体層の結晶格子の格子歪みεが0.040乃至0.20%の範囲にある請求項1に記載の放射線像変換パネル。
- 蛍光体層の結晶格子の格子歪みεが0.050乃至0.15%の範囲にある請求項2に記載の放射線像変換パネル。
- 付活剤で付活したアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体が、基本組成式(I):
MIX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA ‥‥(I)
[ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し;MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し;MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し;X、X’及びX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;AはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表し;そしてa、b及びzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す]
を有する請求項1乃至3のいずれかの項に記載の放射線像変換パネル。 - 基本組成式(I)のzが1×10-4≦z≦1×10-2の範囲内の数値である請求項4に記載の放射線像変換パネル。
- 基本組成式(I)のMIがCsであり、XがBrであり、そしてAがEuである請求項4または5に記載の放射線像変換パネル。
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