JP2004037363A - 放射線像変換パネルの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】高感度であって、高画質の放射線画像を与える放射線像変換パネルの製造方法を提供する。
【解決手段】蛍光体の母体成分と付活剤成分とを別々に含む複数の蒸発源を用いて、多元蒸着法により基板上に蛍光体層を形成する工程を含む放射線像変換パネルの製造方法において、基板を、その中心が蛍光体の母体成分以外の成分を含む蒸発源よりも蛍光体母体成分を含む蒸発源に近くなるように配置して、蛍光体の各成分を蒸着させる方法。
【選択図】 図2
【解決手段】蛍光体の母体成分と付活剤成分とを別々に含む複数の蒸発源を用いて、多元蒸着法により基板上に蛍光体層を形成する工程を含む放射線像変換パネルの製造方法において、基板を、その中心が蛍光体の母体成分以外の成分を含む蒸発源よりも蛍光体母体成分を含む蒸発源に近くなるように配置して、蛍光体の各成分を蒸着させる方法。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、蓄積性蛍光体を利用する放射線画像記録再生方法に用いられる放射線像変換パネルの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
X線などの放射線が照射されると、放射線エネルギーの一部を吸収蓄積し、そののち可視光線や赤外線などの電磁波(励起光)の照射を受けると、蓄積した放射線エネルギーに応じて発光を示す性質を有する蓄積性蛍光体(輝尽発光を示す輝尽性蛍光体等)を利用して、この蓄積性蛍光体を含有するシート状の放射線像変換パネルに、被検体を透過したあるいは被検体から発せられた放射線を照射して被検体の放射線画像情報を一旦蓄積記録した後、パネルにレーザ光などの励起光を走査して順次発光光として放出させ、そしてこの発光光を光電的に読み取って画像信号を得ることからなる、放射線画像記録再生方法が広く実用に共されている。読み取りを終えたパネルは、残存する放射線エネルギーの消去が行われた後、次の撮影のために備えられて繰り返し使用される。
【0003】
放射線画像記録再生方法に用いられる放射線像変換パネル(蓄積性蛍光体シートともいう)は、基本構造として、支持体とその上に設けられた蛍光体層とからなるものである。ただし、蛍光体層が自己支持性である場合には必ずしも支持体を必要としない。また、蛍光体層の上面(支持体に面していない側の面)には通常、保護層が設けられていて、蛍光体層を化学的な変質あるいは物理的な衝撃から保護している。
【0004】
蛍光体層としては、蓄積性蛍光体とこれを分散状態で含有支持する結合剤とからなるもの、蒸着法や焼結法によって形成される結合剤を含まないで蓄積性蛍光体の凝集体のみから構成されるもの、および蓄積性蛍光体の凝集体の間隙に高分子物質が含浸されているものなどが知られている。
【0005】
また、上記放射線画像記録再生方法の別法として、従来の蓄積性蛍光体における放射線吸収機能とエネルギー蓄積機能とを分離して、少なくとも蓄積性蛍光体(エネルギー蓄積用蛍光体)を含有する放射線像変換パネルと、放射線を吸収して紫外乃至可視領域に発光を示す蛍光体(放射線吸収用蛍光体)を含有する蛍光スクリーンとの組合せを用いる放射線画像形成方法が既に提案されている。この方法は、被検体を透過などした放射線をまず、該スクリーンまたはパネルの放射線吸収用蛍光体により紫外乃至可視領域の光に変換した後、その光をパネルのエネルギー蓄積用蛍光体にて放射線画像情報として蓄積記録する。次いで、このパネルに励起光を走査して発光光を放出させ、この発光光を光電的に読み取って画像信号を得るものである。このような放射線像変換パネルおよび蛍光スクリーンも、本発明に包含される。
【0006】
放射線画像記録再生方法(および放射線画像形成方法)は上述したように数々の優れた利点を有する方法であるが、この方法に用いられる放射線像変換パネルにあっても、できる限り高感度であってかつ画質(鮮鋭度、粒状性など)の良好な画像を与えるものであることが望まれている。
【0007】
感度および画質を高めることを目的として、例えば特公平6−77079号公報に記載されているように、蛍光体層を気相堆積法により形成することからなる放射線像変換パネルの製造方法が提案されている。気相堆積法には蒸着法やスパッタ法などがあり、例えば蒸着法は、蛍光体またはその原料からなる蒸発源を抵抗加熱器や電子線の照射により加熱して蒸発源を蒸発、飛散させ、金属シートなどの基板表面にその蒸発物を堆積させることにより、蛍光体の柱状結晶からなる蛍光体層を形成するものである。
【0008】
気相堆積法により形成された蛍光体層は、結合剤を含有せず、蛍光体のみからなり、蛍光体の柱状結晶と柱状結晶の間には空隙(クラック)が存在する。このため、励起光の進入効率や発光光の取出し効率を上げることができるので高感度であり、また励起光の平面方向への散乱を防ぐことができるので高鮮鋭度の画像を与えることができる。
【0009】
上記公報には更に、蛍光体原料からなる複数の蒸発源を用いて多元蒸着(共蒸着)により蛍光体層を形成してもよいことが記載されている。また、特公平6−100679号公報には、蒸着装置の真空槽内に支持体または保護層の被蒸着体と、輝尽性蛍光体の組成成分を蒸気圧の相違で複数の蒸発源体に分けて遮蔽板で隔てた各蒸発源体とを、所定の間隔となるように対向させて配置した後、真空槽内を所定の真空度とし、各蒸発源体を加熱して蒸発させ、各蒸発源体の蒸発速度を制御して被蒸着体上にタリウム付活ハロゲン化ルビジウム輝尽性蛍光体を蒸着し、輝尽性蛍光体層を形成する方法が開示されている。
【0010】
このように多元蒸着により蛍光体層を形成する方法については既に知られているが、しかしながら、基板(被蒸着物)と複数の蒸発源との位置関係(基板平面に水平な方向の位置関係)については、これまで全く考慮、検討がなされていない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、多元蒸着法によって蛍光体層を形成する方法について検討した結果、基板を蛍光体の付活剤成分や添加物成分を含む蒸発源よりも蛍光体母体成分を含む蒸発源の近くに配置して蒸着を行うことにより、短時間のうちに膜厚が厚く、かつ柱状結晶性の良好な蒸着膜を形成できることを見い出した。
【0012】
従って、本発明は、高感度であって、高画質の放射線画像を与える放射線像変換パネルの製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、少なくとも蛍光体の母体成分と付活剤成分とを別々に含む複数の蒸発源を用いて、多元蒸着法により基板上に蛍光体層を形成する工程を含む放射線像変換パネルの製造方法において、該基板を、有効蒸着領域内にて、その中心が蛍光体の母体成分以外の成分を含む蒸発源よりも蛍光体母体成分を含む蒸発源に近くなるように配置して、蛍光体の各成分を蒸着させることを特徴とする放射線像変換パネルの製造方法にある。
【0014】
ここで、基板の中心が蛍光体母体成分を含む蒸発源に近いとは、基板中心から該蒸発源までの基板平面に平行した水平距離として短いことを意味する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法において、複数の蒸発源が、蛍光体母体成分を含む蒸発源Aと蛍光体付活剤成分を含む蒸発源Bの二個からなり、そして該蒸発源Aおよび該蒸発源Bからそれぞれ基板を含む平面に向かって垂線を引いたとき、基板の中心が両垂線と基板平面との各交点の中間にあって、かつ基板の中心から蒸発源Aの垂線と基板との交点までの距離Xnが、両垂線間の距離Lnに関して、関係式
0 ≦ Xn < Ln/2
を満足することが好ましい。
【0016】
蛍光体は、蓄積性蛍光体であることが好ましく、特に下記基本組成式(I)を有するアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体であることが好ましい。
MIX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA ‥‥(I)
[ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し;MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し;MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し;X、X’及びX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;AはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表し;そしてa、b及びzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す]
【0017】
以下に、本発明の放射線像変換パネルの製造方法について、電子線蒸着法により蓄積性蛍光体からなる蛍光体層を形成する場合を例にとって図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
蛍光体層形成のための基板は、通常は放射線像変換パネルの支持体を兼ねるものであり、従来の放射線像変換パネルの支持体として公知の材料から任意に選ぶことができるが、特に好ましい基板は、石英ガラスシート、サファイアガラスシート;アルミニウム、鉄、スズ、クロムなどからなる金属シート;アラミドなどからなる樹脂シートである。公知の放射線像変換パネルにおいて、パネルとしての感度もしくは画質(鮮鋭度、粒状性)を向上させるために、二酸化チタンなどの光反射性物質からなる光反射層、もしくはカーボンブラックなどの光吸収性物質からなる光吸収層などを設けることが知られている。本発明で用いられる基板についても、これらの各種の層を設けることができ、それらの構成は所望の放射線像変換パネルの目的、用途などに応じて任意に選択することができる。さらに、放射線画像の鮮鋭度を向上させる目的で、基板の蛍光体層側の表面(支持体の蛍光体層側の表面に下塗層(接着性付与層)、光反射層あるいは光吸収層などの補助層が設けられている場合には、それらの補助層の表面であってもよい)には微小な凹凸が形成されていてもよい。
【0019】
本発明において蓄積性蛍光体は、基本的には母体成分と付活剤成分とからなるものである。蓄積性蛍光体としては、波長が400〜900nmの範囲の励起光の照射により、300〜500nmの波長範囲に輝尽発光を示す輝尽性蛍光体が好ましい。
【0020】
これらのうちでも、基本組成式(I):
MIX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA ‥‥(I)
で代表されるアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体は特に好ましい。
ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表わし、MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し、そしてAはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表す。X、X’およびX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表わす。a、bおよびzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す。
【0021】
上記基本組成式(I)中のMIとしては少なくともCsを含んでいることが好ましい。Xとしては少なくともBrを含んでいることが好ましい。Aとしては特にEu又はBiであることが好ましい。また、基本組成式(I)には、必要に応じて、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物を添加物として、MI1モルに対して、0.5モル以下の量で加えてもよい。
【0022】
また、基本組成式(II):
MIIFX:zLn ‥‥(II)
で代表される希土類付活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系輝尽性蛍光体も好ましい。
ただし、MIIはBa、Sr及びCaからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属を表し、LnはCe、Pr、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Nd、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表す。Xは、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表す。zは、0<z≦0.2の範囲内の数値を表す。
【0023】
上記基本組成式(II)中のMIIとしては、Baが半分以上を占めることが好ましい。Lnとしては、特にEu又はCeであることが好ましい。また、基本組成式(II)では表記上F:X=1:1のように見えるが、これはBaFX型の結晶構造を持つことを示すものであり、最終的な組成物の化学量論的組成を示すものではない。一般に、BaFX結晶においてX−イオンの空格子点であるF+(X−)中心が多く生成された状態が、600〜700nmの光に対する輝尽効率を高める上で好ましい。このとき、FはXよりもやや過剰にあることが多い。
【0024】
なお、基本組成式(II)では省略されているが、必要に応じて下記のような添加物を一種もしくは二種以上を基本組成式(II)に加えてもよい。
bA, wNI, xNII, yNIII
ただし、AはAl2O3、SiO2及びZrO2などの金属酸化物を表す。MIIFX粒子同士の焼結を防止する上では、一次粒子の平均粒径が0.1μm以下の超微粒子でMIIFXとの反応性が低いものを用いることが好ましい。NIは、Li、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属の化合物を表し、NIIは、Mg及び/又はBeからなるアルカリ土類金属の化合物を表し、NIIIは、Al、Ga、In、Tl、Sc、Y、La、Gd及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種の三価金属の化合物を表す。これらの金属化合物としてはハロゲン化物を用いることが好ましいが、それらに限定されるものではない。
【0025】
また、b、w、x及びyはそれぞれ、MIIFXのモル数を1としたときの仕込み添加量であり、0≦b≦0.5、0≦w≦2、0≦x≦0.3、0≦y≦0.3の各範囲内の数値を表す。これらの数値は、焼成やその後の洗浄処理によって減量する添加物に関しては最終的な組成物に含まれる元素比を表しているわけではない。また、上記化合物には最終的な組成物において添加されたままの化合物として残留するものもあれば、MIIFXと反応する、あるいは取り込まれてしまうものもある。
【0026】
その他、上記基本組成式(II)には更に必要に応じて、Zn及びCd化合物;TiO2、BeO、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、Y2O3、La2O3、In2O3、GeO2、SnO2、Nb2O5、Ta2O5、ThO2等の金属酸化物;Zr及びSc化合物;B化合物;As及びSi化合物;テトラフルオロホウ酸化合物;ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロチタン酸、及びヘキサフルオロジルコニウム酸の一価もしくは二価の塩からなるヘキサフルオロ化合物;V、Cr、Mn、Fe、Co及びNi等の遷移金属の化合物などを添加してもよい。さらに、本発明においては上述した添加物を含む蛍光体に限らず、基本的に希土類付活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系輝尽性蛍光体とみなされる組成を有するものであれば如何なるものであってもよい。
【0027】
ただし、本発明において、蛍光体は蓄積性蛍光体に限定されるものではなく、付活剤によって付活された蛍光体であれば、X線などの放射線を吸収して紫外乃至可視領域に(瞬時)発光を示す蛍光体であってもよい。そのような蛍光体の例としては、LnTaO4:(Nb,Gd)系、Ln2SiO5:Ce系、LnOX:Tm系(Lnは希土類元素である)、CsX系(Xはハロゲンである)、Gd2O2S:Tb、Gd2O2S:Pr,Ce、ZnWO4、LuAlO3:Ce、Gd3Ga5O12:Cr,Ce、HfO2等を挙げることができる。
【0028】
まず、蒸発源として、上記蓄積性蛍光体の母体成分を含むものと付活剤成分を含むものとからなる少なくとも二個の蒸発源を用意する。多元蒸着は、蛍光体の母体成分と付活剤や添加物などそれ以外の成分との蒸気圧が大きく異なる場合に、その蒸着速度を各々制御することができるので好ましい。各蒸発源は、所望とする蓄積性蛍光体の組成に応じて、蛍光体の母体成分および付活剤成分それぞれのみから構成されていてもよいし、添加物成分などとの混合物であってもよい。また、蒸発源は二個に限定されるものではなく、例えば別に添加物成分などからなる蒸発源を加えて三個以上としてもよい。
【0029】
蛍光体の母体成分は、母体を構成する化合物それ自体であってもよいし、あるいは、反応により母体化合物となりうる二以上の原料の混合物であってもよい。また、付活剤成分は、一般には付活剤元素を含む化合物であり、例えば付活剤元素のハロゲン化物が用いられる。
【0030】
付活剤がEuである場合に、付活剤成分のEu化合物におけるEu2+化合物のモル比が70%以上であることが好ましい。一般に、Eu化合物にはEu2+とEu3+が混合して含まれているが、所望とする輝尽発光(あるいは瞬時発光であっても)はEu2+を付活剤とする蛍光体から発せられるからである。Eu化合物はEuBrxであることが好ましく、その場合に、xは2.0≦x≦2.3の範囲内の数値であることが好ましい。xは、2.0であることが望ましいが、2.0に近づけようとすると酸素が混入しやすくなる。よって、実際にはxは2.2付近でBrの比率が比較的高い状態が安定している。
【0031】
蒸発源は、その含水量が0.5重量%以下であることが好ましい。蒸発源となる蛍光体母体成分や付活剤成分が、例えばCsBr、EuBrのように吸湿性である場合には特に、含水量をこのような低い値に抑えることは突沸防止などの点から重要である。蒸発源の脱水は、上記の各蛍光体成分を減圧下で100〜300℃の温度範囲で加熱処理したり、あるいは窒素雰囲気などの水分を含まない雰囲気中で、該成分の融点以上の温度で数十分乃至数時間加熱溶融することにより行うことができる。
【0032】
蒸発源の相対密度は、80%以上、98%以下であることが好ましく、より好ましくは90%以上、96%以下である。蒸発源が相対密度の低い粉体状態であると、蒸着の際に粉体が飛散するなどの不都合が生じたり、蒸発源の表面から均一に蒸発しないで蒸着膜の膜厚が不均一となったりする。よって、安定した蒸着を実現するためには蒸発源の密度がある程度高いことが望ましい。上記相対密度とするには一般に、粉体を20MPa以上の圧力で加圧成形したり、あるいは融点以上の温度で加熱溶融して、タブレット(錠剤)の形状にする。ただし、蒸発源は必ずしもタブレットの形状である必要はない。
【0033】
蒸発源、特に蛍光体母体成分を含む蒸発源は、アルカリ金属不純物(蛍光体の構成元素以外のアルカリ金属)の含有量が10ppm以下であり、そしてアルカリ土類金属不純物(蛍光体の構成元素以外のアルカリ土類金属)の含有量が1ppm以下であることが望ましい。このような蒸発源は、アルカリ金属やアルカリ土類金属など不純物の含有量の少ない原料を使用することにより調製することができる。これによって、不純物の混入が少ない蒸着膜を形成することができるとともに、そのような蒸着膜は発光量が増加する。
【0034】
次に、図1に示すような蒸着装置を用いて基板上に蒸着膜を形成する。
図1において、本発明に用いられる二元蒸着用蒸着装置の構成の例を概略的に断面図により示している。図1において、蒸着装置は、蒸着チャンバ1、基板加熱用ヒータ2、基板保持部材3、蒸着防止板5、蒸着速度モニタ6、6’、電子銃7、8、電子銃用るつぼ11、12、排気ポンプ15、および吸入ポンプ16から構成される。
【0035】
蛍光体母体成分を含む蒸発源(A)13を図1の装置の電子銃用るつぼ11に配置し、一方、蛍光体付活剤成分を含む蒸発源(B)14を電子銃用るつぼ12に配置する。また、基板4、4’を基板保持部材3に保持させて固定する。
【0036】
図2は、図1の装置内における基板4と蒸発源13、14との位置関係の例を表す模式図である。
本発明においては、図2に示すように、基板4の中心17が、蛍光体付活剤成分を含む蒸発源(B)14よりも蛍光体母体成分を含む蒸発源(A)13に近い位置にあるように、基板4および蒸発源13、14を配置する。蒸発源13と14との位置関係については、蛍光体母体成分を含む蒸着源13が他の蒸着源14よりも基板の中心に近いという条件下にある限り、蒸着源13が蒸着装置1の内側(基板保持部材3の回転軸)に近い側にあってもよい。また、蒸着源13と蒸着源14とは、基板の回転(公転)により形成される軌跡と直交する直線上にある必要はない。
【0037】
好ましくは、蒸発源(A)13の中心位置および蒸発源(B)14の中心位置からそれぞれ基板4に向かって垂線18、19を引いたとき、基板4の中心17から垂線18と基板表面との交点までの距離Xnが、両垂線18、19の間の距離Lnに関して、関係式:
0 ≦ Xn < Ln/2
を満足するようにする。
【0038】
このように基板を蛍光体母体成分を含む蒸発源(A)側に配置して蒸着を行なうことによって、蛍光体の主要組成成分である母体成分の蒸着、堆積が有利となり、蒸着膜をより安定して形成することができるので、従来よりも蒸着膜の膜厚を厚くすることができる(例えば、膜厚約500μmまでが可能となる)。しかも、蒸着膜の厚膜化を短時間で達成することが可能となる。特に電子線蒸着法においては、複数の電子銃を備えた蒸着装置の構成上各蒸発源をある程度の距離をおいて配置しなければならないので、この基板の配置は効果的である。また、柱状結晶性が均一で良好な蒸着膜が得られ、柱状結晶中の付活剤の濃度分布を均一にすることができる。柱状結晶を基板に対して略垂直に成長させることが容易となり、蛍光体層中の柱状結晶の傾きを低減することができる。このことは、放射線画像情報の読み取りの際に読取光(励起光)の照射方向と蛍光体層の柱状結晶方向とを一致させやすいことを意味する。さらに、付活剤など微量成分の濃度を制御することが容易になる。
【0039】
基板4の中心17は、垂線18と垂線19で挟まれた領域内にあることが望ましい。基板中心17が垂線18より外側に位置する場合(図2では、左側に位置する場合、この場合Xn<0となる)には、基板4の大部分が蒸発源13、14よりも外側に位置するようになるために、蒸着装置が必然的に大型化し、また付活剤成分の蒸着膜平面方向における濃度勾配が大きくなるので、好ましくない。なお、
【0040】
蒸発源13と蒸発源14の間の距離を表すLnは、一般には1000mm以下であり、好ましくは500mm以下である。電子線蒸着法の場合には、100乃至500mmの範囲とすることができる。蒸発源13、14から基板4までの垂直距離(垂線18、19の長さ)は、通常は同じであり、一般には300乃至550mmの範囲にある。なお、本発明においては、蒸発源13、14から基板4までの垂直距離が異なる場合であっても、上記関係式を満足すればよい。基板4の平面形状は、通常は長方形であり、その長さは一般には30乃至500mmの範囲にある。
【0041】
次に、装置内を排気ポンプ15により排気して1×10−5〜1×10−2Pa程度の真空度とする。このとき、真空度をこの程度に保持しながら、吸入ポンプ16によりArガス、Neガスなどの不活性ガスを導入してもよい。また、装置内の雰囲気中の水分圧を、排気ポンプ15としてディフュージョンポンプとコールドトラップの組合せなどを用いることにより、7.0×10−3Pa以下にすることが好ましい。蒸着の際に必要に応じて基板4、4’を、基板加熱ヒータ2により裏面から加熱してもよい。あるいは基板4、4’を冷却してもよい。
【0042】
電子銃7、8から電子ビーム9、10をそれぞれ発生させて蒸発源13、14に照射する。このとき、各電子線の加速電圧を1.5kV以上で、5.0kV以下に設定することが望ましい。電子線の照射により、蒸発源である輝尽性蛍光体の母体成分や付活剤成分等は加熱されて蒸発、飛散し、そして反応を生じて蛍光体を形成するとともに基板表面に堆積する。この際に、各電子線の加速電圧などを調整することにより、各蒸発源の蒸発速度を制御する。各蒸着速度は、一般には0.1〜1000μm/分の範囲にあり、好ましくは1〜100μm/分の範囲にある。また、基板4、4’を基板保持部材3と回転支持軸(リボルバ)により水平方向に回転させることによって、各基板4、4’上に蛍光体が均一に堆積するようにする。ただし、基板4’は半回転したときに基板4の位置に重なるように保持部材3に固定されている。なお、各基板は、それぞれの基板中心を回転軸として回転してもよい。
【0043】
なお、電子線の照射を複数回に分けて行って二層以上の蛍光体層を形成することもできる。また、蒸着終了後に蛍光体層を加熱処理(アニール処理)してもよい。
【0044】
あるいは、上記蓄積性蛍光体からなる蒸着膜を形成するに先立って、蛍光体の母体成分のみからなる蒸着膜を形成してもよい。これによって、より一層柱状結晶性の良好な蒸着膜を得ることができる。なお、蛍光体からなる蒸着膜中の付活剤など微量成分は、特に蒸着時の加熱および/または蒸着後の加熱処理により、蛍光体母体からなる蒸着膜中に拡散するために、両者の境界は必ずしも明確ではない。
【0045】
このようにして、蓄積性蛍光体からなる柱状結晶がほぼ厚み方向に成長した層が得られる。蛍光体層の層厚は、通常は50〜1000μmの範囲にあり、好ましくは200μm〜700mmの範囲にある。
【0046】
本発明において蒸着装置は図1に示した装置に限定されるものではなく、例えば、蛍光体母体成分を含む蒸発源13については量が多いので、電子銃用るつぼ11の代わりに、複数の電子銃用るつぼを備えたリボルバを備えていてもよい。蒸着に際しては、各るつぼに複数個の蒸発源を配置してリボルバを順次回転させることにより、蒸発源各々に電子ビームが次々と照射されるようにすることができる。あるいは、二つの電子銃7、8の代わりに、一つの電子銃と二ポイントコントローラを備えていてもよく、電子銃から発生した電子線を二ポイントコントローラで照射位置とその位置における滞在時間を制御することにより、二個の蒸発源に電子線が交互に好適な時間で照射されるようにすることができる。
【0047】
また、蒸着装置は、蛍光体の母体成分、付活剤成分および添加物成分をそれぞれ別個に含む三個の蒸発源、あるいはそれ以上の蒸発源を配置できるものであってもよい。その場合にも、基板の中心から蛍光体母体成分を含む蒸発源までの距離が、他の蒸発源までの距離よりも、基板平面に平行した水平距離で最も短くなるように基板を配置する。
【0048】
図3は、蒸発源が三個である場合に、装置内における基板と蒸発源との位置関係の例を概略的に表す上面図である。図3において、基板4の中心17が、蛍光体付活剤成分を含む蒸発源(B)14および蛍光体添加物成分を含む蒸発源(C)20よりも、蛍光体母体成分を含む蒸発源(A)13に近くに位置するように、基板4が配置されている。
【0049】
蒸着方法としては、上述した電子線蒸着法以外にも、抵抗加熱器を用いる抵抗加熱法など公知の任意の方法を採ることができる。また、蒸着の際に蒸発源から蒸発、飛散する蛍光体成分、特に付活剤成分や添加物成分の蒸発流に指向性を持たせてもよい。
【0050】
さらに、基板上に蒸着膜を均一に形成するために、基板と蒸発源との間に遮蔽フィルタを設置してもよい。遮蔽フィルタは、例えば付活剤成分を含む蒸発源側であって基板近くに部分的に設置する。また、蒸着膜を均一に形成するには、基板を回転させることも有用である。基板の回転は、図1に示したように複数の基板を回転させるものであってもよいし、あるいは一つの基板をその位置で回転させるものであってもよい。
【0051】
あるいは、図4に示すように、バッチ式で複数の基板上に同時に蒸着膜を形成することもできる。
図4は、バッチ式蒸着の例を概略的に表す上面図である。図4において、21と22、23と24、および25と26は三対の蒸発源の組であり、それぞれ蛍光体母体成分を含む蒸発源(A)と蛍光体付活剤成分を含む蒸発源(B)とから構成され、そして27、28、および29はそれぞれ基板である。矢印は、基板27〜29の回転方向を表す。各基板は、いずれの蒸発源の組においても回転してその位置に来たときに、各蒸発源と図2に示したような位置関係を保持するように配置されている。
【0052】
なお、基板は必ずしも放射線像変換パネルの支持体を兼ねる必要はなく、蛍光体層形成後、蛍光体層を基板から引き剥がし、別に用意した支持体上に接着剤を用いるなどして接合して、支持体上に蛍光体層を設ける方法を利用してもよい。あるいは、蛍光体層に支持体(基板)が付設されていなくてもよい。
【0053】
この蛍光体層の表面には、放射線像変換パネルの搬送および取扱い上の便宜や特性変化の回避のために、保護層を設けることが望ましい。保護層は、励起光の入射や発光光の出射に殆ど影響を与えないように、透明であることが望ましく、また外部から与えられる物理的衝撃や化学的影響から放射線像変換パネルを充分に保護することができるように、化学的に安定で防湿性が高く、かつ高い物理的強度を持つことが望ましい。
【0054】
保護層としては、セルロース誘導体、ポリメチルメタクリレート、有機溶媒可溶性フッ素系樹脂などのような透明な有機高分子物質を適当な溶媒に溶解して調製した溶液を蛍光体層の上に塗布することで形成されたもの、あるいはポリエチレンテレフタレートなどの有機高分子フィルムや透明なガラス板などの保護層形成用シートを別に形成して蛍光体層の表面に適当な接着剤を用いて設けたもの、あるいは無機化合物を蒸着などによって蛍光体層上に成膜したものなどが用いられる。また、保護層中には酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、アルミナ等の光散乱性微粒子、パーフルオロオレフィン樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末等の滑り剤、およびポリイソシアネート等の架橋剤など各種の添加剤が分散含有されていてもよい。保護層の層厚は一般に、高分子物質からなる場合には約0.1〜20μmの範囲にあり、ガラス等の無機化合物からなる場合には100〜1000μmの範囲にある。
【0055】
保護層の表面にはさらに、保護層の耐汚染性を高めるためにフッ素樹脂塗布層を設けてもよい。フッ素樹脂塗布層は、フッ素樹脂を有機溶媒に溶解(または分散)させて調製したフッ素樹脂溶液を保護層の表面に塗布し、乾燥することにより形成することができる。フッ素樹脂は単独で使用してもよいが、通常はフッ素樹脂と膜形成性の高い樹脂との混合物として使用する。また、ポリシロキサン骨格を持つオリゴマーあるいはパーフルオロアルキル基を持つオリゴマーを併用することもできる。フッ素樹脂塗布層には、干渉むらを低減させて更に放射線画像の画質を向上させるために、微粒子フィラーを充填することもできる。フッ素樹脂塗布層の層厚は通常は0.5μm乃至20μmの範囲にある。フッ素樹脂塗布層の形成に際しては、架橋剤、硬膜剤、黄変防止剤などのような添加成分を用いることができる。特に架橋剤の添加は、フッ素樹脂塗布層の耐久性の向上に有利である。
【0056】
上述のようにして本発明の放射線像変換パネルが得られるが、本発明のパネルの構成は、公知の各種のバリエーションを含むものであってもよい。たとえば、得られる画像の鮮鋭度を向上させることを目的として、上記の少なくともいずれかの層を、励起光を吸収し発光光は吸収しないような着色剤によって着色してもよい。
【0057】
【実施例】
[実施例1]
(1)CsBr蒸発源の作製
CsBr粉末75gをジルコニア製粉末成形用ダイス(内径:35mm)に入れ、粉末金型プレス成形機(テーブルプレスTB−5型、エヌピーエーシステム(株)製)にて50MPaの圧力で加圧し、タブレット(直径:35mm、厚み:20mm)に成形した。このとき、CsBr粉末に掛かった圧力は約40MPaであった。次に、このタブレットに真空乾燥機にて温度200℃で2時間の真空乾燥処理を施した。得られたタブレットの密度は3.9g/cm3であり、含水量は0.3重量%であった。
【0058】
(2)EuBrx蒸発源の作製
EuBrx(x=2.2)粉末25gをジルコニア製粉末成形用ダイス(内径:25mm)に入れ、粉末金型プレス成形機にて50MPaの圧力で加圧し、タブレット(直径:25mm、厚み:10mm)に成形した。このとき、EuBrx粉末に掛かった圧力は約80MPaであった。次に、このタブレットに真空乾燥機にて温度200℃で2時間の真空乾燥処理を施した。得られたタブレットの密度は5.1g/cm3であり、含水量は0.5重量%であった。
【0059】
(3)蛍光体層の形成
支持体として、順にアルカリ洗浄、純水洗浄、およびIPA洗浄を施した合成石英基板(サイズ:450mm×450mm)を用意し、図1に示した蒸着装置内の基板保持部材3に設置した。上記CsBr蒸発源を装置内の電子銃用るつぼ11に配置し、EuBrx蒸発源を電子銃用るつぼ12に配置した。このとき、図2に示した基板中心17から垂線18までの距離Xnは100mmであり、両垂線18、19の間の距離Lnは300mmであり、各垂線18、19の長さは300mmであり、基板の長さは450mmであった。
【0060】
その後、装置内を排気して1×10−3Paの真空度とした。このとき、真空排気装置としてロータリーポンプ、メカニカルブースタおよびターボ分子ポンプの組合せを用いた。次いで、基板の蒸着面とは反対側に位置したシーズヒータで、石英基板を200℃に加熱した。二つの電子銃から加速電圧4.0kVで電子線をそれぞれ発生させ、各蒸発源に照射して共蒸着させ、CsBr:Eu輝尽性蛍光体を基板上に堆積させた。このとき、各々の電子銃のエミッション電流を調整して、輝尽性蛍光体におけるEu/Csモル濃度比が0.005/1となるようにし、そして4分間堆積させた。CsBr蒸発源は4個準備し、一つの蒸発源を4分間蒸発させた後、リボルバを回転させて、真空下にて、次の蒸発源を蒸発位置に移動させ、再び4分間蒸発操作を行なった。これを4個のCsBr蒸着源を用いて繰り返した。なお、蒸着雰囲気中の水分圧は4×10−3Paであった。
【0061】
蒸着終了後、装置内を大気圧に戻し、装置から基板を取り出した。基板表面には、蛍光体の柱状結晶がほぼ垂直方向に密に林立した構造の蛍光体層(層厚:約100μm、面積10cm×10cm)が形成されていた。
このようにして、二元蒸着により支持体と蛍光体層とからなる本発明に従う放射線像変換パネルを製造した。
【0062】
[実施例2、3]
実施例1の(3)蛍光体層の形成において、距離Xnを50mmおよび0mmにそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、本発明に従う放射線像変換パネルを製造した。
【0063】
[実施例4〜6]
実施例1の(3)蛍光体層の形成において、図1に示した蒸着装置の代わりに電子銃と抵抗加熱ボートを有する抵抗加熱器とを備えた装置を用いて、EuBrx蒸発源は抵抗加熱ボートに配置し160Aの電流をボートに流して加熱したこと、および距離Xnを表1に示すようにそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、本発明に従う各種の放射線像変換パネルを製造した。
【0064】
[比較例1〜3]
実施例1の(3)蛍光体層の形成において、距離Xnを300mm、150mmおよび−50mmにそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較のための各種の放射線像変換パネルを製造した。
【0065】
[比較例4、5]
実施例1の(3)蛍光体層の形成において、図1に示した蒸着装置の代わりに電子銃と抵抗加熱ボートを有する抵抗加熱器とを備えた装置を用いて、EuBrx蒸発源は抵抗加熱ボートに配置し160Aの電流をボートに流して加熱したこと、および距離Xnを表1に示すようにそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較のための放射線像変換パネルを製造した。
【0066】
[放射線像変換パネルの性能評価]
得られた各放射線像変換パネルの蛍光体層について、層厚および柱状結晶性により評価を行った。
【0067】
(1)層厚
蒸着時間4分間に基板上に堆積した蒸着膜の厚みを測定した。
【0068】
(2)柱状結晶性
パネルの蛍光体層を支持体ごと厚み方向に切断し、チャージアップ防止のためにイオンスパッタにより金(厚み:300オングストローム)で被覆した後、走査型電子顕微鏡(JSM−5400型、日本電子(株)製)を用いて蛍光体層の表面および切断面を観察し、以下の基準にて評価した。
AA:極めて良好
A:良好
B:やや不良
C:不良であって実用上問題がある
得られた結果をまとめて表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1の結果から明らかなように、本発明に従う基板配置で二元蒸着させて得られた放射線像変換パネル(実施例1〜6)はいずれも、従来の基板配置で二元蒸着させて得られた放射線像変換パネル(比較例2、5)よりも、蛍光体層の層厚が厚く、そして柱状結晶性が良好であった。柱状結晶性は、基板をCsBr蒸発源側に配置するほど向上し、逆にEuBrx蒸発源側に配置した場合には(比較例1、4)、不十分であった。また、基板中心がCsBr蒸発源よりも外側になるように基板を配置した場合には(比較例3)、層厚も柱状性も十分ではあったが、装置が大型化した。
【0071】
【発明の効果】
本発明によれば、基板を蛍光体の付活剤成分や添加物成分を含む蒸発源よりも蛍光体母体成分を含む蒸発源に近い位置に配置して蒸着を行うことにより、短時間のうちに膜厚が厚く、かつ柱状結晶性が均一で良好な蒸着膜を形成することができる。また、柱状結晶を基板に対して略垂直に成長させることが容易となり、蛍光体層中の柱状結晶の傾きを低減することができる。さらに、付活剤や添加物など微量成分の濃度を制御することが容易になる。よって、高感度であって、高画質の放射線画像を与える放射線像変換パネルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いられる蒸着装置の構成例を示す概略断面図である。
【図2】図1の装置内における基板4と蒸発源13、14との位置関係を表す模式図である。
【図3】基板と蒸発源との位置関係の別の例を表す概略上面図である。
【図4】バッチ式蒸着の例を表す概略上面図である。
【符号の説明】
1 蒸着チャンバ
2 基板加熱用ヒータ
4、4’ 基板
6、6’ 蒸着速度モニタ
7、8 電子銃
9、10 電子線
13 蒸発源(蛍光体母体成分)
14 蒸発源(蛍光体付活剤成分)
17 基板中心
20 蒸発源(蛍光体添加物成分)
【発明の属する技術分野】
本発明は、蓄積性蛍光体を利用する放射線画像記録再生方法に用いられる放射線像変換パネルの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
X線などの放射線が照射されると、放射線エネルギーの一部を吸収蓄積し、そののち可視光線や赤外線などの電磁波(励起光)の照射を受けると、蓄積した放射線エネルギーに応じて発光を示す性質を有する蓄積性蛍光体(輝尽発光を示す輝尽性蛍光体等)を利用して、この蓄積性蛍光体を含有するシート状の放射線像変換パネルに、被検体を透過したあるいは被検体から発せられた放射線を照射して被検体の放射線画像情報を一旦蓄積記録した後、パネルにレーザ光などの励起光を走査して順次発光光として放出させ、そしてこの発光光を光電的に読み取って画像信号を得ることからなる、放射線画像記録再生方法が広く実用に共されている。読み取りを終えたパネルは、残存する放射線エネルギーの消去が行われた後、次の撮影のために備えられて繰り返し使用される。
【0003】
放射線画像記録再生方法に用いられる放射線像変換パネル(蓄積性蛍光体シートともいう)は、基本構造として、支持体とその上に設けられた蛍光体層とからなるものである。ただし、蛍光体層が自己支持性である場合には必ずしも支持体を必要としない。また、蛍光体層の上面(支持体に面していない側の面)には通常、保護層が設けられていて、蛍光体層を化学的な変質あるいは物理的な衝撃から保護している。
【0004】
蛍光体層としては、蓄積性蛍光体とこれを分散状態で含有支持する結合剤とからなるもの、蒸着法や焼結法によって形成される結合剤を含まないで蓄積性蛍光体の凝集体のみから構成されるもの、および蓄積性蛍光体の凝集体の間隙に高分子物質が含浸されているものなどが知られている。
【0005】
また、上記放射線画像記録再生方法の別法として、従来の蓄積性蛍光体における放射線吸収機能とエネルギー蓄積機能とを分離して、少なくとも蓄積性蛍光体(エネルギー蓄積用蛍光体)を含有する放射線像変換パネルと、放射線を吸収して紫外乃至可視領域に発光を示す蛍光体(放射線吸収用蛍光体)を含有する蛍光スクリーンとの組合せを用いる放射線画像形成方法が既に提案されている。この方法は、被検体を透過などした放射線をまず、該スクリーンまたはパネルの放射線吸収用蛍光体により紫外乃至可視領域の光に変換した後、その光をパネルのエネルギー蓄積用蛍光体にて放射線画像情報として蓄積記録する。次いで、このパネルに励起光を走査して発光光を放出させ、この発光光を光電的に読み取って画像信号を得るものである。このような放射線像変換パネルおよび蛍光スクリーンも、本発明に包含される。
【0006】
放射線画像記録再生方法(および放射線画像形成方法)は上述したように数々の優れた利点を有する方法であるが、この方法に用いられる放射線像変換パネルにあっても、できる限り高感度であってかつ画質(鮮鋭度、粒状性など)の良好な画像を与えるものであることが望まれている。
【0007】
感度および画質を高めることを目的として、例えば特公平6−77079号公報に記載されているように、蛍光体層を気相堆積法により形成することからなる放射線像変換パネルの製造方法が提案されている。気相堆積法には蒸着法やスパッタ法などがあり、例えば蒸着法は、蛍光体またはその原料からなる蒸発源を抵抗加熱器や電子線の照射により加熱して蒸発源を蒸発、飛散させ、金属シートなどの基板表面にその蒸発物を堆積させることにより、蛍光体の柱状結晶からなる蛍光体層を形成するものである。
【0008】
気相堆積法により形成された蛍光体層は、結合剤を含有せず、蛍光体のみからなり、蛍光体の柱状結晶と柱状結晶の間には空隙(クラック)が存在する。このため、励起光の進入効率や発光光の取出し効率を上げることができるので高感度であり、また励起光の平面方向への散乱を防ぐことができるので高鮮鋭度の画像を与えることができる。
【0009】
上記公報には更に、蛍光体原料からなる複数の蒸発源を用いて多元蒸着(共蒸着)により蛍光体層を形成してもよいことが記載されている。また、特公平6−100679号公報には、蒸着装置の真空槽内に支持体または保護層の被蒸着体と、輝尽性蛍光体の組成成分を蒸気圧の相違で複数の蒸発源体に分けて遮蔽板で隔てた各蒸発源体とを、所定の間隔となるように対向させて配置した後、真空槽内を所定の真空度とし、各蒸発源体を加熱して蒸発させ、各蒸発源体の蒸発速度を制御して被蒸着体上にタリウム付活ハロゲン化ルビジウム輝尽性蛍光体を蒸着し、輝尽性蛍光体層を形成する方法が開示されている。
【0010】
このように多元蒸着により蛍光体層を形成する方法については既に知られているが、しかしながら、基板(被蒸着物)と複数の蒸発源との位置関係(基板平面に水平な方向の位置関係)については、これまで全く考慮、検討がなされていない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、多元蒸着法によって蛍光体層を形成する方法について検討した結果、基板を蛍光体の付活剤成分や添加物成分を含む蒸発源よりも蛍光体母体成分を含む蒸発源の近くに配置して蒸着を行うことにより、短時間のうちに膜厚が厚く、かつ柱状結晶性の良好な蒸着膜を形成できることを見い出した。
【0012】
従って、本発明は、高感度であって、高画質の放射線画像を与える放射線像変換パネルの製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、少なくとも蛍光体の母体成分と付活剤成分とを別々に含む複数の蒸発源を用いて、多元蒸着法により基板上に蛍光体層を形成する工程を含む放射線像変換パネルの製造方法において、該基板を、有効蒸着領域内にて、その中心が蛍光体の母体成分以外の成分を含む蒸発源よりも蛍光体母体成分を含む蒸発源に近くなるように配置して、蛍光体の各成分を蒸着させることを特徴とする放射線像変換パネルの製造方法にある。
【0014】
ここで、基板の中心が蛍光体母体成分を含む蒸発源に近いとは、基板中心から該蒸発源までの基板平面に平行した水平距離として短いことを意味する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法において、複数の蒸発源が、蛍光体母体成分を含む蒸発源Aと蛍光体付活剤成分を含む蒸発源Bの二個からなり、そして該蒸発源Aおよび該蒸発源Bからそれぞれ基板を含む平面に向かって垂線を引いたとき、基板の中心が両垂線と基板平面との各交点の中間にあって、かつ基板の中心から蒸発源Aの垂線と基板との交点までの距離Xnが、両垂線間の距離Lnに関して、関係式
0 ≦ Xn < Ln/2
を満足することが好ましい。
【0016】
蛍光体は、蓄積性蛍光体であることが好ましく、特に下記基本組成式(I)を有するアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体であることが好ましい。
MIX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA ‥‥(I)
[ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し;MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し;MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し;X、X’及びX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;AはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表し;そしてa、b及びzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す]
【0017】
以下に、本発明の放射線像変換パネルの製造方法について、電子線蒸着法により蓄積性蛍光体からなる蛍光体層を形成する場合を例にとって図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
蛍光体層形成のための基板は、通常は放射線像変換パネルの支持体を兼ねるものであり、従来の放射線像変換パネルの支持体として公知の材料から任意に選ぶことができるが、特に好ましい基板は、石英ガラスシート、サファイアガラスシート;アルミニウム、鉄、スズ、クロムなどからなる金属シート;アラミドなどからなる樹脂シートである。公知の放射線像変換パネルにおいて、パネルとしての感度もしくは画質(鮮鋭度、粒状性)を向上させるために、二酸化チタンなどの光反射性物質からなる光反射層、もしくはカーボンブラックなどの光吸収性物質からなる光吸収層などを設けることが知られている。本発明で用いられる基板についても、これらの各種の層を設けることができ、それらの構成は所望の放射線像変換パネルの目的、用途などに応じて任意に選択することができる。さらに、放射線画像の鮮鋭度を向上させる目的で、基板の蛍光体層側の表面(支持体の蛍光体層側の表面に下塗層(接着性付与層)、光反射層あるいは光吸収層などの補助層が設けられている場合には、それらの補助層の表面であってもよい)には微小な凹凸が形成されていてもよい。
【0019】
本発明において蓄積性蛍光体は、基本的には母体成分と付活剤成分とからなるものである。蓄積性蛍光体としては、波長が400〜900nmの範囲の励起光の照射により、300〜500nmの波長範囲に輝尽発光を示す輝尽性蛍光体が好ましい。
【0020】
これらのうちでも、基本組成式(I):
MIX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA ‥‥(I)
で代表されるアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体は特に好ましい。
ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表わし、MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し、そしてAはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表す。X、X’およびX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表わす。a、bおよびzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す。
【0021】
上記基本組成式(I)中のMIとしては少なくともCsを含んでいることが好ましい。Xとしては少なくともBrを含んでいることが好ましい。Aとしては特にEu又はBiであることが好ましい。また、基本組成式(I)には、必要に応じて、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物を添加物として、MI1モルに対して、0.5モル以下の量で加えてもよい。
【0022】
また、基本組成式(II):
MIIFX:zLn ‥‥(II)
で代表される希土類付活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系輝尽性蛍光体も好ましい。
ただし、MIIはBa、Sr及びCaからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属を表し、LnはCe、Pr、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Nd、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表す。Xは、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表す。zは、0<z≦0.2の範囲内の数値を表す。
【0023】
上記基本組成式(II)中のMIIとしては、Baが半分以上を占めることが好ましい。Lnとしては、特にEu又はCeであることが好ましい。また、基本組成式(II)では表記上F:X=1:1のように見えるが、これはBaFX型の結晶構造を持つことを示すものであり、最終的な組成物の化学量論的組成を示すものではない。一般に、BaFX結晶においてX−イオンの空格子点であるF+(X−)中心が多く生成された状態が、600〜700nmの光に対する輝尽効率を高める上で好ましい。このとき、FはXよりもやや過剰にあることが多い。
【0024】
なお、基本組成式(II)では省略されているが、必要に応じて下記のような添加物を一種もしくは二種以上を基本組成式(II)に加えてもよい。
bA, wNI, xNII, yNIII
ただし、AはAl2O3、SiO2及びZrO2などの金属酸化物を表す。MIIFX粒子同士の焼結を防止する上では、一次粒子の平均粒径が0.1μm以下の超微粒子でMIIFXとの反応性が低いものを用いることが好ましい。NIは、Li、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属の化合物を表し、NIIは、Mg及び/又はBeからなるアルカリ土類金属の化合物を表し、NIIIは、Al、Ga、In、Tl、Sc、Y、La、Gd及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種の三価金属の化合物を表す。これらの金属化合物としてはハロゲン化物を用いることが好ましいが、それらに限定されるものではない。
【0025】
また、b、w、x及びyはそれぞれ、MIIFXのモル数を1としたときの仕込み添加量であり、0≦b≦0.5、0≦w≦2、0≦x≦0.3、0≦y≦0.3の各範囲内の数値を表す。これらの数値は、焼成やその後の洗浄処理によって減量する添加物に関しては最終的な組成物に含まれる元素比を表しているわけではない。また、上記化合物には最終的な組成物において添加されたままの化合物として残留するものもあれば、MIIFXと反応する、あるいは取り込まれてしまうものもある。
【0026】
その他、上記基本組成式(II)には更に必要に応じて、Zn及びCd化合物;TiO2、BeO、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、Y2O3、La2O3、In2O3、GeO2、SnO2、Nb2O5、Ta2O5、ThO2等の金属酸化物;Zr及びSc化合物;B化合物;As及びSi化合物;テトラフルオロホウ酸化合物;ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロチタン酸、及びヘキサフルオロジルコニウム酸の一価もしくは二価の塩からなるヘキサフルオロ化合物;V、Cr、Mn、Fe、Co及びNi等の遷移金属の化合物などを添加してもよい。さらに、本発明においては上述した添加物を含む蛍光体に限らず、基本的に希土類付活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系輝尽性蛍光体とみなされる組成を有するものであれば如何なるものであってもよい。
【0027】
ただし、本発明において、蛍光体は蓄積性蛍光体に限定されるものではなく、付活剤によって付活された蛍光体であれば、X線などの放射線を吸収して紫外乃至可視領域に(瞬時)発光を示す蛍光体であってもよい。そのような蛍光体の例としては、LnTaO4:(Nb,Gd)系、Ln2SiO5:Ce系、LnOX:Tm系(Lnは希土類元素である)、CsX系(Xはハロゲンである)、Gd2O2S:Tb、Gd2O2S:Pr,Ce、ZnWO4、LuAlO3:Ce、Gd3Ga5O12:Cr,Ce、HfO2等を挙げることができる。
【0028】
まず、蒸発源として、上記蓄積性蛍光体の母体成分を含むものと付活剤成分を含むものとからなる少なくとも二個の蒸発源を用意する。多元蒸着は、蛍光体の母体成分と付活剤や添加物などそれ以外の成分との蒸気圧が大きく異なる場合に、その蒸着速度を各々制御することができるので好ましい。各蒸発源は、所望とする蓄積性蛍光体の組成に応じて、蛍光体の母体成分および付活剤成分それぞれのみから構成されていてもよいし、添加物成分などとの混合物であってもよい。また、蒸発源は二個に限定されるものではなく、例えば別に添加物成分などからなる蒸発源を加えて三個以上としてもよい。
【0029】
蛍光体の母体成分は、母体を構成する化合物それ自体であってもよいし、あるいは、反応により母体化合物となりうる二以上の原料の混合物であってもよい。また、付活剤成分は、一般には付活剤元素を含む化合物であり、例えば付活剤元素のハロゲン化物が用いられる。
【0030】
付活剤がEuである場合に、付活剤成分のEu化合物におけるEu2+化合物のモル比が70%以上であることが好ましい。一般に、Eu化合物にはEu2+とEu3+が混合して含まれているが、所望とする輝尽発光(あるいは瞬時発光であっても)はEu2+を付活剤とする蛍光体から発せられるからである。Eu化合物はEuBrxであることが好ましく、その場合に、xは2.0≦x≦2.3の範囲内の数値であることが好ましい。xは、2.0であることが望ましいが、2.0に近づけようとすると酸素が混入しやすくなる。よって、実際にはxは2.2付近でBrの比率が比較的高い状態が安定している。
【0031】
蒸発源は、その含水量が0.5重量%以下であることが好ましい。蒸発源となる蛍光体母体成分や付活剤成分が、例えばCsBr、EuBrのように吸湿性である場合には特に、含水量をこのような低い値に抑えることは突沸防止などの点から重要である。蒸発源の脱水は、上記の各蛍光体成分を減圧下で100〜300℃の温度範囲で加熱処理したり、あるいは窒素雰囲気などの水分を含まない雰囲気中で、該成分の融点以上の温度で数十分乃至数時間加熱溶融することにより行うことができる。
【0032】
蒸発源の相対密度は、80%以上、98%以下であることが好ましく、より好ましくは90%以上、96%以下である。蒸発源が相対密度の低い粉体状態であると、蒸着の際に粉体が飛散するなどの不都合が生じたり、蒸発源の表面から均一に蒸発しないで蒸着膜の膜厚が不均一となったりする。よって、安定した蒸着を実現するためには蒸発源の密度がある程度高いことが望ましい。上記相対密度とするには一般に、粉体を20MPa以上の圧力で加圧成形したり、あるいは融点以上の温度で加熱溶融して、タブレット(錠剤)の形状にする。ただし、蒸発源は必ずしもタブレットの形状である必要はない。
【0033】
蒸発源、特に蛍光体母体成分を含む蒸発源は、アルカリ金属不純物(蛍光体の構成元素以外のアルカリ金属)の含有量が10ppm以下であり、そしてアルカリ土類金属不純物(蛍光体の構成元素以外のアルカリ土類金属)の含有量が1ppm以下であることが望ましい。このような蒸発源は、アルカリ金属やアルカリ土類金属など不純物の含有量の少ない原料を使用することにより調製することができる。これによって、不純物の混入が少ない蒸着膜を形成することができるとともに、そのような蒸着膜は発光量が増加する。
【0034】
次に、図1に示すような蒸着装置を用いて基板上に蒸着膜を形成する。
図1において、本発明に用いられる二元蒸着用蒸着装置の構成の例を概略的に断面図により示している。図1において、蒸着装置は、蒸着チャンバ1、基板加熱用ヒータ2、基板保持部材3、蒸着防止板5、蒸着速度モニタ6、6’、電子銃7、8、電子銃用るつぼ11、12、排気ポンプ15、および吸入ポンプ16から構成される。
【0035】
蛍光体母体成分を含む蒸発源(A)13を図1の装置の電子銃用るつぼ11に配置し、一方、蛍光体付活剤成分を含む蒸発源(B)14を電子銃用るつぼ12に配置する。また、基板4、4’を基板保持部材3に保持させて固定する。
【0036】
図2は、図1の装置内における基板4と蒸発源13、14との位置関係の例を表す模式図である。
本発明においては、図2に示すように、基板4の中心17が、蛍光体付活剤成分を含む蒸発源(B)14よりも蛍光体母体成分を含む蒸発源(A)13に近い位置にあるように、基板4および蒸発源13、14を配置する。蒸発源13と14との位置関係については、蛍光体母体成分を含む蒸着源13が他の蒸着源14よりも基板の中心に近いという条件下にある限り、蒸着源13が蒸着装置1の内側(基板保持部材3の回転軸)に近い側にあってもよい。また、蒸着源13と蒸着源14とは、基板の回転(公転)により形成される軌跡と直交する直線上にある必要はない。
【0037】
好ましくは、蒸発源(A)13の中心位置および蒸発源(B)14の中心位置からそれぞれ基板4に向かって垂線18、19を引いたとき、基板4の中心17から垂線18と基板表面との交点までの距離Xnが、両垂線18、19の間の距離Lnに関して、関係式:
0 ≦ Xn < Ln/2
を満足するようにする。
【0038】
このように基板を蛍光体母体成分を含む蒸発源(A)側に配置して蒸着を行なうことによって、蛍光体の主要組成成分である母体成分の蒸着、堆積が有利となり、蒸着膜をより安定して形成することができるので、従来よりも蒸着膜の膜厚を厚くすることができる(例えば、膜厚約500μmまでが可能となる)。しかも、蒸着膜の厚膜化を短時間で達成することが可能となる。特に電子線蒸着法においては、複数の電子銃を備えた蒸着装置の構成上各蒸発源をある程度の距離をおいて配置しなければならないので、この基板の配置は効果的である。また、柱状結晶性が均一で良好な蒸着膜が得られ、柱状結晶中の付活剤の濃度分布を均一にすることができる。柱状結晶を基板に対して略垂直に成長させることが容易となり、蛍光体層中の柱状結晶の傾きを低減することができる。このことは、放射線画像情報の読み取りの際に読取光(励起光)の照射方向と蛍光体層の柱状結晶方向とを一致させやすいことを意味する。さらに、付活剤など微量成分の濃度を制御することが容易になる。
【0039】
基板4の中心17は、垂線18と垂線19で挟まれた領域内にあることが望ましい。基板中心17が垂線18より外側に位置する場合(図2では、左側に位置する場合、この場合Xn<0となる)には、基板4の大部分が蒸発源13、14よりも外側に位置するようになるために、蒸着装置が必然的に大型化し、また付活剤成分の蒸着膜平面方向における濃度勾配が大きくなるので、好ましくない。なお、
【0040】
蒸発源13と蒸発源14の間の距離を表すLnは、一般には1000mm以下であり、好ましくは500mm以下である。電子線蒸着法の場合には、100乃至500mmの範囲とすることができる。蒸発源13、14から基板4までの垂直距離(垂線18、19の長さ)は、通常は同じであり、一般には300乃至550mmの範囲にある。なお、本発明においては、蒸発源13、14から基板4までの垂直距離が異なる場合であっても、上記関係式を満足すればよい。基板4の平面形状は、通常は長方形であり、その長さは一般には30乃至500mmの範囲にある。
【0041】
次に、装置内を排気ポンプ15により排気して1×10−5〜1×10−2Pa程度の真空度とする。このとき、真空度をこの程度に保持しながら、吸入ポンプ16によりArガス、Neガスなどの不活性ガスを導入してもよい。また、装置内の雰囲気中の水分圧を、排気ポンプ15としてディフュージョンポンプとコールドトラップの組合せなどを用いることにより、7.0×10−3Pa以下にすることが好ましい。蒸着の際に必要に応じて基板4、4’を、基板加熱ヒータ2により裏面から加熱してもよい。あるいは基板4、4’を冷却してもよい。
【0042】
電子銃7、8から電子ビーム9、10をそれぞれ発生させて蒸発源13、14に照射する。このとき、各電子線の加速電圧を1.5kV以上で、5.0kV以下に設定することが望ましい。電子線の照射により、蒸発源である輝尽性蛍光体の母体成分や付活剤成分等は加熱されて蒸発、飛散し、そして反応を生じて蛍光体を形成するとともに基板表面に堆積する。この際に、各電子線の加速電圧などを調整することにより、各蒸発源の蒸発速度を制御する。各蒸着速度は、一般には0.1〜1000μm/分の範囲にあり、好ましくは1〜100μm/分の範囲にある。また、基板4、4’を基板保持部材3と回転支持軸(リボルバ)により水平方向に回転させることによって、各基板4、4’上に蛍光体が均一に堆積するようにする。ただし、基板4’は半回転したときに基板4の位置に重なるように保持部材3に固定されている。なお、各基板は、それぞれの基板中心を回転軸として回転してもよい。
【0043】
なお、電子線の照射を複数回に分けて行って二層以上の蛍光体層を形成することもできる。また、蒸着終了後に蛍光体層を加熱処理(アニール処理)してもよい。
【0044】
あるいは、上記蓄積性蛍光体からなる蒸着膜を形成するに先立って、蛍光体の母体成分のみからなる蒸着膜を形成してもよい。これによって、より一層柱状結晶性の良好な蒸着膜を得ることができる。なお、蛍光体からなる蒸着膜中の付活剤など微量成分は、特に蒸着時の加熱および/または蒸着後の加熱処理により、蛍光体母体からなる蒸着膜中に拡散するために、両者の境界は必ずしも明確ではない。
【0045】
このようにして、蓄積性蛍光体からなる柱状結晶がほぼ厚み方向に成長した層が得られる。蛍光体層の層厚は、通常は50〜1000μmの範囲にあり、好ましくは200μm〜700mmの範囲にある。
【0046】
本発明において蒸着装置は図1に示した装置に限定されるものではなく、例えば、蛍光体母体成分を含む蒸発源13については量が多いので、電子銃用るつぼ11の代わりに、複数の電子銃用るつぼを備えたリボルバを備えていてもよい。蒸着に際しては、各るつぼに複数個の蒸発源を配置してリボルバを順次回転させることにより、蒸発源各々に電子ビームが次々と照射されるようにすることができる。あるいは、二つの電子銃7、8の代わりに、一つの電子銃と二ポイントコントローラを備えていてもよく、電子銃から発生した電子線を二ポイントコントローラで照射位置とその位置における滞在時間を制御することにより、二個の蒸発源に電子線が交互に好適な時間で照射されるようにすることができる。
【0047】
また、蒸着装置は、蛍光体の母体成分、付活剤成分および添加物成分をそれぞれ別個に含む三個の蒸発源、あるいはそれ以上の蒸発源を配置できるものであってもよい。その場合にも、基板の中心から蛍光体母体成分を含む蒸発源までの距離が、他の蒸発源までの距離よりも、基板平面に平行した水平距離で最も短くなるように基板を配置する。
【0048】
図3は、蒸発源が三個である場合に、装置内における基板と蒸発源との位置関係の例を概略的に表す上面図である。図3において、基板4の中心17が、蛍光体付活剤成分を含む蒸発源(B)14および蛍光体添加物成分を含む蒸発源(C)20よりも、蛍光体母体成分を含む蒸発源(A)13に近くに位置するように、基板4が配置されている。
【0049】
蒸着方法としては、上述した電子線蒸着法以外にも、抵抗加熱器を用いる抵抗加熱法など公知の任意の方法を採ることができる。また、蒸着の際に蒸発源から蒸発、飛散する蛍光体成分、特に付活剤成分や添加物成分の蒸発流に指向性を持たせてもよい。
【0050】
さらに、基板上に蒸着膜を均一に形成するために、基板と蒸発源との間に遮蔽フィルタを設置してもよい。遮蔽フィルタは、例えば付活剤成分を含む蒸発源側であって基板近くに部分的に設置する。また、蒸着膜を均一に形成するには、基板を回転させることも有用である。基板の回転は、図1に示したように複数の基板を回転させるものであってもよいし、あるいは一つの基板をその位置で回転させるものであってもよい。
【0051】
あるいは、図4に示すように、バッチ式で複数の基板上に同時に蒸着膜を形成することもできる。
図4は、バッチ式蒸着の例を概略的に表す上面図である。図4において、21と22、23と24、および25と26は三対の蒸発源の組であり、それぞれ蛍光体母体成分を含む蒸発源(A)と蛍光体付活剤成分を含む蒸発源(B)とから構成され、そして27、28、および29はそれぞれ基板である。矢印は、基板27〜29の回転方向を表す。各基板は、いずれの蒸発源の組においても回転してその位置に来たときに、各蒸発源と図2に示したような位置関係を保持するように配置されている。
【0052】
なお、基板は必ずしも放射線像変換パネルの支持体を兼ねる必要はなく、蛍光体層形成後、蛍光体層を基板から引き剥がし、別に用意した支持体上に接着剤を用いるなどして接合して、支持体上に蛍光体層を設ける方法を利用してもよい。あるいは、蛍光体層に支持体(基板)が付設されていなくてもよい。
【0053】
この蛍光体層の表面には、放射線像変換パネルの搬送および取扱い上の便宜や特性変化の回避のために、保護層を設けることが望ましい。保護層は、励起光の入射や発光光の出射に殆ど影響を与えないように、透明であることが望ましく、また外部から与えられる物理的衝撃や化学的影響から放射線像変換パネルを充分に保護することができるように、化学的に安定で防湿性が高く、かつ高い物理的強度を持つことが望ましい。
【0054】
保護層としては、セルロース誘導体、ポリメチルメタクリレート、有機溶媒可溶性フッ素系樹脂などのような透明な有機高分子物質を適当な溶媒に溶解して調製した溶液を蛍光体層の上に塗布することで形成されたもの、あるいはポリエチレンテレフタレートなどの有機高分子フィルムや透明なガラス板などの保護層形成用シートを別に形成して蛍光体層の表面に適当な接着剤を用いて設けたもの、あるいは無機化合物を蒸着などによって蛍光体層上に成膜したものなどが用いられる。また、保護層中には酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、アルミナ等の光散乱性微粒子、パーフルオロオレフィン樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末等の滑り剤、およびポリイソシアネート等の架橋剤など各種の添加剤が分散含有されていてもよい。保護層の層厚は一般に、高分子物質からなる場合には約0.1〜20μmの範囲にあり、ガラス等の無機化合物からなる場合には100〜1000μmの範囲にある。
【0055】
保護層の表面にはさらに、保護層の耐汚染性を高めるためにフッ素樹脂塗布層を設けてもよい。フッ素樹脂塗布層は、フッ素樹脂を有機溶媒に溶解(または分散)させて調製したフッ素樹脂溶液を保護層の表面に塗布し、乾燥することにより形成することができる。フッ素樹脂は単独で使用してもよいが、通常はフッ素樹脂と膜形成性の高い樹脂との混合物として使用する。また、ポリシロキサン骨格を持つオリゴマーあるいはパーフルオロアルキル基を持つオリゴマーを併用することもできる。フッ素樹脂塗布層には、干渉むらを低減させて更に放射線画像の画質を向上させるために、微粒子フィラーを充填することもできる。フッ素樹脂塗布層の層厚は通常は0.5μm乃至20μmの範囲にある。フッ素樹脂塗布層の形成に際しては、架橋剤、硬膜剤、黄変防止剤などのような添加成分を用いることができる。特に架橋剤の添加は、フッ素樹脂塗布層の耐久性の向上に有利である。
【0056】
上述のようにして本発明の放射線像変換パネルが得られるが、本発明のパネルの構成は、公知の各種のバリエーションを含むものであってもよい。たとえば、得られる画像の鮮鋭度を向上させることを目的として、上記の少なくともいずれかの層を、励起光を吸収し発光光は吸収しないような着色剤によって着色してもよい。
【0057】
【実施例】
[実施例1]
(1)CsBr蒸発源の作製
CsBr粉末75gをジルコニア製粉末成形用ダイス(内径:35mm)に入れ、粉末金型プレス成形機(テーブルプレスTB−5型、エヌピーエーシステム(株)製)にて50MPaの圧力で加圧し、タブレット(直径:35mm、厚み:20mm)に成形した。このとき、CsBr粉末に掛かった圧力は約40MPaであった。次に、このタブレットに真空乾燥機にて温度200℃で2時間の真空乾燥処理を施した。得られたタブレットの密度は3.9g/cm3であり、含水量は0.3重量%であった。
【0058】
(2)EuBrx蒸発源の作製
EuBrx(x=2.2)粉末25gをジルコニア製粉末成形用ダイス(内径:25mm)に入れ、粉末金型プレス成形機にて50MPaの圧力で加圧し、タブレット(直径:25mm、厚み:10mm)に成形した。このとき、EuBrx粉末に掛かった圧力は約80MPaであった。次に、このタブレットに真空乾燥機にて温度200℃で2時間の真空乾燥処理を施した。得られたタブレットの密度は5.1g/cm3であり、含水量は0.5重量%であった。
【0059】
(3)蛍光体層の形成
支持体として、順にアルカリ洗浄、純水洗浄、およびIPA洗浄を施した合成石英基板(サイズ:450mm×450mm)を用意し、図1に示した蒸着装置内の基板保持部材3に設置した。上記CsBr蒸発源を装置内の電子銃用るつぼ11に配置し、EuBrx蒸発源を電子銃用るつぼ12に配置した。このとき、図2に示した基板中心17から垂線18までの距離Xnは100mmであり、両垂線18、19の間の距離Lnは300mmであり、各垂線18、19の長さは300mmであり、基板の長さは450mmであった。
【0060】
その後、装置内を排気して1×10−3Paの真空度とした。このとき、真空排気装置としてロータリーポンプ、メカニカルブースタおよびターボ分子ポンプの組合せを用いた。次いで、基板の蒸着面とは反対側に位置したシーズヒータで、石英基板を200℃に加熱した。二つの電子銃から加速電圧4.0kVで電子線をそれぞれ発生させ、各蒸発源に照射して共蒸着させ、CsBr:Eu輝尽性蛍光体を基板上に堆積させた。このとき、各々の電子銃のエミッション電流を調整して、輝尽性蛍光体におけるEu/Csモル濃度比が0.005/1となるようにし、そして4分間堆積させた。CsBr蒸発源は4個準備し、一つの蒸発源を4分間蒸発させた後、リボルバを回転させて、真空下にて、次の蒸発源を蒸発位置に移動させ、再び4分間蒸発操作を行なった。これを4個のCsBr蒸着源を用いて繰り返した。なお、蒸着雰囲気中の水分圧は4×10−3Paであった。
【0061】
蒸着終了後、装置内を大気圧に戻し、装置から基板を取り出した。基板表面には、蛍光体の柱状結晶がほぼ垂直方向に密に林立した構造の蛍光体層(層厚:約100μm、面積10cm×10cm)が形成されていた。
このようにして、二元蒸着により支持体と蛍光体層とからなる本発明に従う放射線像変換パネルを製造した。
【0062】
[実施例2、3]
実施例1の(3)蛍光体層の形成において、距離Xnを50mmおよび0mmにそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、本発明に従う放射線像変換パネルを製造した。
【0063】
[実施例4〜6]
実施例1の(3)蛍光体層の形成において、図1に示した蒸着装置の代わりに電子銃と抵抗加熱ボートを有する抵抗加熱器とを備えた装置を用いて、EuBrx蒸発源は抵抗加熱ボートに配置し160Aの電流をボートに流して加熱したこと、および距離Xnを表1に示すようにそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、本発明に従う各種の放射線像変換パネルを製造した。
【0064】
[比較例1〜3]
実施例1の(3)蛍光体層の形成において、距離Xnを300mm、150mmおよび−50mmにそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較のための各種の放射線像変換パネルを製造した。
【0065】
[比較例4、5]
実施例1の(3)蛍光体層の形成において、図1に示した蒸着装置の代わりに電子銃と抵抗加熱ボートを有する抵抗加熱器とを備えた装置を用いて、EuBrx蒸発源は抵抗加熱ボートに配置し160Aの電流をボートに流して加熱したこと、および距離Xnを表1に示すようにそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較のための放射線像変換パネルを製造した。
【0066】
[放射線像変換パネルの性能評価]
得られた各放射線像変換パネルの蛍光体層について、層厚および柱状結晶性により評価を行った。
【0067】
(1)層厚
蒸着時間4分間に基板上に堆積した蒸着膜の厚みを測定した。
【0068】
(2)柱状結晶性
パネルの蛍光体層を支持体ごと厚み方向に切断し、チャージアップ防止のためにイオンスパッタにより金(厚み:300オングストローム)で被覆した後、走査型電子顕微鏡(JSM−5400型、日本電子(株)製)を用いて蛍光体層の表面および切断面を観察し、以下の基準にて評価した。
AA:極めて良好
A:良好
B:やや不良
C:不良であって実用上問題がある
得られた結果をまとめて表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1の結果から明らかなように、本発明に従う基板配置で二元蒸着させて得られた放射線像変換パネル(実施例1〜6)はいずれも、従来の基板配置で二元蒸着させて得られた放射線像変換パネル(比較例2、5)よりも、蛍光体層の層厚が厚く、そして柱状結晶性が良好であった。柱状結晶性は、基板をCsBr蒸発源側に配置するほど向上し、逆にEuBrx蒸発源側に配置した場合には(比較例1、4)、不十分であった。また、基板中心がCsBr蒸発源よりも外側になるように基板を配置した場合には(比較例3)、層厚も柱状性も十分ではあったが、装置が大型化した。
【0071】
【発明の効果】
本発明によれば、基板を蛍光体の付活剤成分や添加物成分を含む蒸発源よりも蛍光体母体成分を含む蒸発源に近い位置に配置して蒸着を行うことにより、短時間のうちに膜厚が厚く、かつ柱状結晶性が均一で良好な蒸着膜を形成することができる。また、柱状結晶を基板に対して略垂直に成長させることが容易となり、蛍光体層中の柱状結晶の傾きを低減することができる。さらに、付活剤や添加物など微量成分の濃度を制御することが容易になる。よって、高感度であって、高画質の放射線画像を与える放射線像変換パネルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いられる蒸着装置の構成例を示す概略断面図である。
【図2】図1の装置内における基板4と蒸発源13、14との位置関係を表す模式図である。
【図3】基板と蒸発源との位置関係の別の例を表す概略上面図である。
【図4】バッチ式蒸着の例を表す概略上面図である。
【符号の説明】
1 蒸着チャンバ
2 基板加熱用ヒータ
4、4’ 基板
6、6’ 蒸着速度モニタ
7、8 電子銃
9、10 電子線
13 蒸発源(蛍光体母体成分)
14 蒸発源(蛍光体付活剤成分)
17 基板中心
20 蒸発源(蛍光体添加物成分)
Claims (4)
- 少なくとも蛍光体の母体成分と付活剤成分とを別々に含む複数の蒸発源を用いて、多元蒸着法により基板上に蛍光体層を形成する工程を含む放射線像変換パネルの製造方法において、該基板を、有効蒸着領域内にて、その中心が蛍光体の母体成分以外の成分を含む蒸発源よりも蛍光体母体成分を含む蒸発源に近くなるように配置して、蛍光体の各成分を蒸着させることを特徴とする放射線像変換パネルの製造方法。
- 複数の蒸発源が、蛍光体母体成分を含む蒸発源Aと蛍光体付活剤成分を含む蒸発源Bの二個からなり、そして該蒸発源Aおよび該蒸発源Bからそれぞれ基板を含む平面に向かって垂線を引いたとき、基板の中心が両垂線と基板平面との各交点の中間にあって、かつ基板の中心から蒸発源Aの垂線と基板との交点までの距離Xnが、両垂線間の距離Lnに関して、関係式:
0 ≦ Xn < Ln/2
を満足する請求項1に記載の放射線像変換パネルの製造方法。 - 蛍光体が蓄積性蛍光体である請求項1または2に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
- 蓄積性蛍光体が、基本組成式(I):
MIX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA ‥‥(I)
[ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し;MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し;MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し;X、X’及びX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;AはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表し;そしてa、b及びzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す]
を有するアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体である請求項3に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
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