JP3919070B2 - ボールねじ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ナット部材とねじ軸との間でトルクを推力に変換させたり、推力をトルクに変換させたりする構成のボールねじ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
本願出願人は、ボールねじ装置として、特開2001−116095号公報に示すようなものを提案している。
【0003】
この構造では、ねじ軸を軸心方向不動かつ回転不可能に支持して、ナット部材をモータおよび入力歯車でもって回転駆動することにより軸心方向に往復移動させるようにしており、ナット部材を縮み方向の所定位置で停止させる形態として、ナット部材の一部を、ねじ軸の一部に対して軸心方向から当接させることで、強制的に停止させるようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来例では、ナット部材を縮み方向の所定位置で停止させる形態として、ナット部材の一部をねじ軸の一部に対して軸心方向で当接させることにより、物理的に強制停止させる形態にしているために、次のような不具合が発生する。
【0005】
つまり、通常、ナット部材およびねじ軸は、金属材で形成しているが、ナット部材を強制停止させるときの衝突音が発生する他、衝突荷重が繰り返し付与されることに伴い経時的にダメージを受けることにもなる。
【0006】
この他、本願出願人は、下記実施形態で提示する図1に示すように、円筒形状のねじ軸3の中心孔に挿通される軸体12に対して、ねじ軸3の外径側に配置されるナット部材2をブラケット8を介して支持させる構造において、ナット部材2と一体のブラケット8とねじ軸3とに対して、ナット部材2を縮み方向の所定位置で強制停止させるためのストッパピン18と切欠き19とを振り分けて設けており、このストッパピン18と切欠き19を、周方向で当接する形態で配設した構造を考えているが、この場合も上記同様の不具合が懸念される。
【0007】
このような事情に鑑み、本発明は、ボールねじ装置において、ナット部材またはねじ軸を縮み方向の所定位置で物理的な当接によって強制停止させる形態をとりながら、前記当接時の衝突音の発生を防止するとともに、衝突によるダメージを軽減して、耐久性を向上することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明のボールねじ装置は、請求項に示すように、前記ねじ軸が円筒形状とされ、前記ナット部材が、前記ねじ軸の中心孔に非接触に挿通される軸体に対してブラケットを介して支持されており、前記ブラケットが、径方向内外に同心状に設けられて軸心方向一端側で連接される内筒部および外筒部を有し、前記内筒部が前記ねじ軸の中心孔内に非接触状態で配置されて前記軸体に対して支持され、また、前記外筒部が前記ナット部材の軸心方向一端側の領域外周に一体的に嵌合されており、前記ブラケットとねじ軸とにおいて軸心方向で対向する領域に対して、ナット部材とねじ軸とを縮み方向に相対的に移動させたときに所定位置で停止させるためのストッパおよび切欠きが、周方向で当接、離隔する状態で振り分けて設けられており、前記ストッパおよび切欠きの少なくともいずれか一方の当接部分に、デュロメータ硬さで10〜70の弾性体が取り付けられている。
【0010】
本発明のボールねじ装置は、請求項に示すように、請求項において、前記ねじ軸が固定部分に対して非回転かつ軸心方向不動に、また、前記ナット部材が前記軸体に対して転がり軸受を介して回転自在にそれぞれ取り付けられているとともに、前記軸体が軸心方向移動可能に配置されており、前記ブラケットに対してトルクが付与されることにより、当該ブラケットと前記ナット部材と前記軸体の三者が一体になってねじ軸に沿って軸心方向に移動される形態とされている。
【0011】
本発明のボールねじ装置は、請求項に示すように、請求項またはにおいて、前記ストッパが、前記ねじ軸において前記ブラケットの内筒部に対して軸心方向で対向する円周上の所定領域に設けられており、前記切欠きが、前記ブラケットの内筒部において前記ねじ軸に対して軸心方向で対向する領域に設けられている。
【0012】
本発明のボールねじ装置は、請求項に示すように、請求項からのいずれかにおいて、前記ストッパと切欠きとの当接によって前記ナット部材が強制停止された状態で、前記ナット部材と一体のブラケットとねじ軸とが軸心方向で非接触となる関係で配置されている。
【0013】
本発明のボールねじ装置は、請求項に示すように、請求項からのいずれかにおいて、前記ブラケットが、金属材で形成されており、その外筒部の外周面に樹脂製のギヤが一体に成形されている。
【0014】
本発明のボールねじ装置は、請求項に示すように、請求項1からのいずれかにおいて、前記ねじ軸とナット部材との対向環状空間に、前記各ボールを回転可能に保持する保持器リングが相対回転可能に介装されている。
【0015】
要するに、本発明では、ナット部材とねじ軸とを縮み方向の所定位置で強制的に停止させるときの当接部分に弾性体を介在させているから、衝突音が発生せずに済むとともに、衝撃が緩和されるようになる。
【0016】
特に、上記請求項のボールねじ装置では、円筒形のねじ軸の中心孔に挿通される軸体に対してねじ軸の外径側に配置されるナット部材を二重筒形状のブラケットを介して支持させることによりナット部材とねじ軸を縮み方向の所定位置で強制停止させる形態をとったうえで、前記ストッパと切欠きとの当接部分に弾性体を設けるようにしている。これにより、衝突音の発生を防止して、衝撃を緩和できるようになる。しかも、この構造であれば、ナット部材が強制停止されてから所定時間について駆動トルクが付与され続けるような状況でもナット部材と一体のブラケットとねじ軸との当接部分が周方向に押し付けられるだけで、軸心方向から当接させる場合に発生する食い込み現象を回避できるから、前記停止位置から伸び方向へ動かすときにナット部材とねじ軸とが抵抗なく素早く引き離されるようになり、好ましい。
【0017】
また、上記請求項の発明では、ナット部材およびブラケットを、非回転かつ軸心方向不動のねじ軸に沿って回転させながら進退移動させる使用形態、つまりトルクを推力に変換する正効率での使用形態に特定している。また、請求項の発明では、ストッパと切欠きの配設対象を特定している。
【0018】
また、上記請求項の発明では、ナット部材が強制停止された状態でナット部材と一体のブラケットとねじ軸との干渉を避けるようにしている。
【0019】
また、上記請求項の発明では、ブラケットにギヤを設けているから、このブラケットと一体のナット部材と外部装置との間でトルク伝達できるようになり、しかも、このギヤを樹脂製としているから、インサート成形などで容易に製造できるようになる。
【0020】
また、上記請求項の発明では、保持器リングを用いることにより、複数のボール個々を干渉させないようにしているから、ボールの挙動が安定する。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の詳細について図面に示す実施形態を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1から図9に本発明の一実施形態を示している。図1は、ボールねじ装置の縦断面図、図2は、図1の状態からナット部材を軸心方向一方へ移動させた状態を示す縦断面図、図3は、ボールねじ装置の分解斜視図、図4は、ボールねじ装置において一部を断面にした平面図、図5は、図4の(5)−(5)線断面の矢視図、図6は、ボール循環経路を模式的に示す側面図、図7は、図6のボール循環経路の正面図、図8は、ナット部材の縮み方向での強制停止構造を示す斜視図、図9は、ストッパピンに対して切欠きが係入する様子を示す平面展開図である。
【0023】
図例のボールねじ装置1では、ナット部材2と、ねじ軸3と、複数のボール4と、保持器リング5とを備えており、ナット部材2とねじ軸3との対向面間でボール4群を循環させるようになっている。
【0024】
ナット部材2には、その一方軸端から他方軸端まで連続する1本のねじ溝21が形成されており、また、ねじ軸3には、その軸心方向途中領域に不連続の約2巻きのねじ溝31a,31bが形成されている。これらナット部材2のねじ溝21とねじ軸3のねじ溝31a,31bとは、互いに同じリード角に設定されている。これら両ねじ溝21,31a,31bの断面形状は、ゴシックアーク形状とされているが、半円形状とすることもできる。
【0025】
ところで、この実施形態では、ナット部材2とねじ軸3とを最大に引き離した最大伸長状態で軸心方向所定長さの重合領域を確保して、この重合領域にねじ軸3の約2巻きのねじ溝31a,31bを配置させるように設定し、この2巻きのねじ溝31a,31bをそれぞれ独立した閉ループとし、この閉ループにした2巻きのねじ溝31a,31b内に配置されるボール4群をそれぞれ独立して転動循環させるようにしている。
【0026】
具体的に、ねじ軸3の軸心方向で隣り合う2巻きのねじ溝31a,31bの間に存在するねじ山(ランド部)32には、2巻きのねじ溝31a,31bを個別に閉ループとするボール循環溝33,34が設けられている。この2つのボール循環溝33,34は、それぞれ、2巻きのねじ溝31a,31bの上流側と下流側とを個別に連通連結するものであり、各巻きのねじ溝31a,31bの下流のボール4群を内径側へ沈みこませてナット部材2のねじ山(ランド部)22を乗り越えさせて上流へ戻すように蛇行した形状になっている。
【0027】
保持器リング5は、複数のボール4それぞれを円周等間隔に離隔配置して回転可能に保持するものである。この保持器リング5は、薄肉の円筒部材からなり、その円周数ヶ所には、軸心方向に沿う長孔形状のボールポケット51が設けられており、このボールポケット51に対してそれぞれ2つずつボール4が収納される。
【0028】
また、上記保持器リング5は、ねじ軸3の外径側に対して軸心方向でほぼ不動に位置決めされた状態で、かつ相対回転可能な状態で取り付けられている。そのために、ねじ溝3の自由端側に縮径部35を、また、保持器リング5の一端に径方向内向きのフランジ52をそれぞれ設け、ねじ軸3の縮径部35に対して保持器リング5のフランジ52をはめ込み、さらにねじ軸3の縮径部35に設けてある周溝に対して止め輪7を係合させている。但し、止め輪7は、ねじ軸3の縮径部35とねじ溝21の形成部分との境にできる段壁面36から離れた位置に取り付けられていて、これら止め輪7と段壁面36との間に対して保持器リング5のフランジ52が軸心方向に若干の遊びを持つ状態で配置されている。これにより、保持器リング5が、ねじ軸3に対して軸心方向ほぼ不動で、相対回転が許容される状態になる。
【0029】
なお、上記ナット部材2は、ブラケット8に対して一体的に結合されている。このブラケット8は、図示しないモータなどの回転動力源が減速歯車10を介して噛合されるとともに、円筒形状のねじ軸3の中心孔に軸心方向移動可能に挿通される筒軸11に対して転がり軸受12を介して支持される。また、上記ねじ軸3は、筒軸11の内径側に対してスプライン嵌合されている回転軸13に対して転がり軸受14を介して支持されている。この回転軸13は、図示しないが、ケースなどの固定部分に対して軸心方向不動にかつ回転自在に支持されている。なお、筒軸11と回転軸13の軸心方向一端側には、対向面がテーパ状とされた一対のフランジ15,16が振り分けられて設けられており、これらフランジ15,16の対向面の間隔が、ナット部材2の軸心方向往復移動に伴い大小調節されることになって、このフランジ15,16の対向面間に巻き掛けられるベルト17の巻き掛け径が変更されるようになる。
【0030】
上記ブラケット8は、上半分の断面がほぼ逆向きコ字形の金属材で形成されている。つまり、このブラケット8は、径方向内外に同心状に設けられる内筒部81および外筒部82の軸心方向一端側を連接した形状である。内筒部81は、ねじ軸3の中心孔内に非接触状態で配置されて上記筒軸11に対して転がり軸受12を介して支持されている。また、外筒部82は、ナット部材2の軸心方向一端側の領域外周に一体的に嵌合されており、図3に示すように、外筒部82の付け根側の内周面に設けられるセレーション83とナット部材2の嵌入方向奥側の外周面に設けられるセレーション23とを嵌合することにより、ブラケット8とナット部材2とを周方向で一体的に結合するようになっている。この外筒部82の外周面には、樹脂製のギヤ9が一体に成形されている。
【0031】
ちなみに、上記ブラケット8にギヤ9を成形するときには、ブラケット8の外筒部82の内径面においてセレーション部分を除く領域、つまりナット部材2が嵌合される面を金型に対する基準面として行う。このようにすれば、前記嵌合面の真円度や面粗さが高精度に仕上げられているので、ギヤの歯形状を高精度に形成できるようになり、好ましい。
【0032】
また、ブラケット8とナット部材2との結合工程において両者の位相合わせを容易とするために、両セレーション83,23の1つの歯をなくすことにより、ブラケット8とナット部材2とを所定の位相でしか結合できないようにすることができる。
【0033】
ところで、上述したボールねじ装置1の組み立て手順を説明する。まず、ねじ軸3に対して保持器リング5を取り付けてから、保持器リング5のボールポケット51に対して、それを埋め尽くす状態にグリースを塗布しておいて、このボールポケット51に対して必要数のボール4を入れる。ここでのグリースは、ボール4が自重落下しない粘性を有するウレア系のグリースとされ、このグリースでもってボール4がボールポケット51内に保持される。このようにしてから、保持器リング5をねじ軸3に対して回さないようにした状態で、ナット部材2に組み込む。
【0034】
次に、上述したボールねじ装置1の動作を説明する。まず、図示しないモータを駆動することによりブラケット8およびナット部材2を回転させると、このナット部材2自身が回転しながらねじ軸3に沿って軸心方向一方へ向けて直線的に移動させられることによって、例えば図1に示す状態から図2に示す状態になる。一方、上記モータを前記と逆回転方向に駆動すると、ナット部材2が前述と逆向きに回転しながら軸心方向他方へ向けて移動させられることによって、例えば図2に示す状態から図1に示す状態になる。
【0035】
このように、ナット部材2を軸心方向に往復移動させることにより、ナット部材2とねじ軸3とが軸心方向で重合する範囲が大小変化するが、ねじ軸3においてボール循環溝33,34により個別に閉ループとしたねじ軸3の2巻きのねじ溝31a,31b内でそれぞれボール群4が保持器リング5にガイドされながら転動循環することにより、ナット部材2の螺旋運動が円滑にガイドされるとともに、ナット部材2が所定の移動ストローク範囲を往復移動する過程において、ボール4が抜け出す現象を確実に防止できるようになる。
【0036】
ところで、上記動作説明において、ナット部材2を縮み方向の所定位置で強制停止させるために、ブラケット8とねじ軸3に対してストッパピン18および切欠き19を振り分けて設けている。
【0037】
具体的に、図8に示すように、ストッパピン18は、ねじ軸3において径方向内向きに膨出する厚肉部37の内端面に対して軸心方向に沿う姿勢で突出する状態に埋設されており、また、切欠き19は、ブラケット8の内筒部82における径方向内向きのフランジ85の内径側端縁で円周上所定角度範囲に対して設けられている。この切欠き19は、ブラケット8の縮み側への回転方向上流から下流へ向けて軸心方向幅が漸次幅広となっており、平面から見てほぼ三角形状とされている。
【0038】
また、上記ストッパピン18と切欠き19との当接によってナット部材2が縮み方向の所定位置に強制停止された状態では、ナット部材2と一体のブラケット8とねじ軸3とが軸心方向で非接触となる関係で配置されている。
【0039】
しかも、上記切欠き19の幅広側の奥壁19aには、ストッパピン18との衝突時の衝撃を吸収、緩和するための弾性体20が配設されている。この弾性体20は、デュロメータ硬さで10〜70の範囲内のものが好ましく、例えばゴムや、下記する熱可塑性エラストマー樹脂などが選択される。なお、デュロメータ硬さで10〜70の範囲内の熱可塑性エラストマー樹脂としては、例えば東レデュポン株式会社製の商品名ハイトレル、エーイーエスジャパン株式会社製の商品名サントプレーン、大日本インキ株式会社製の商品名パンデックスなどが好ましい。なお、弾性体20の硬さについて、下限値の10よりも小さいと強度が不足し、上限値の70よりも大きいと衝撃吸収効果が薄くなる。また、弾性体20は、図示するように貼り付ける状態の他、埋め込む状態で設けることができる。また、弾性体20は、切欠き19の奥壁19aに設けずに、ストッパピン18の突出部分に取り付けるようにしてもよい。
【0040】
このように構成すれば、上記動作説明において、ナット部材2を縮み方向に移動させたとき、ナット部材2が所定の停止位置に近づくことに伴い、図9に示すように、ナット部材2と一体回転するブラケット8の切欠き19が、その幅狭側の端縁からねじ軸3のストッパピン18に対して径方向で重合し始めて、最後に切欠き19の幅広側の奥壁19aがストッパピン18の周面に対して周方向から当接することになり、これで、ナット部材2およびブラケット8が物理的に強制停止されることになる。ここで、ストッパピン18に対して切欠き19が当接するときの衝突音や衝撃は、切欠き19に配設してある弾性体20によって吸収、減衰されるので、ストッパピン18のダメージやブラケット8に一体成形してある樹脂製ギヤ9のダメージが軽減されるなど、それらの耐久性向上に貢献できる。
【0041】
そして、上述したようにナット部材2が強制停止されると、それに伴い、一般的に、図示しないモータの駆動電流が規定値より上昇することになるので、この現象を制御装置などが検知してモータを停止させる。このように、ナット部材2およびブラケット8が強制停止された時点からモータを駆動停止させるまでにタイムラグが発生する場合、ナット部材2およびブラケット8が強制停止された後、所定時間だけモータからの駆動トルクがブラケット8およびナット部材2に対して付与され続けるために、ブラケット8の切欠き19がストッパピン18に対して周方向から押し付けられた状態になるが、従来例のように軸心方向から当接させる場合に発生する食い込み現象を回避できるようになる。そのため、上記停止状態から上記モータを逆回転方向に駆動させると、ストッパピン18からブラケット8の切欠き19が抵抗なくすぐに離れて、ブラケット8およびナット部材2が伸び方向に移動することになる。したがって、ボールねじ装置1の動作応答性が大きく向上することになって、信頼性向上に貢献できる。
【0042】
ところで、上記実施形態のように、ねじ軸3のねじ山32に2つのボール循環溝33,34を設けることにより軸心方向で隣り合う2巻きのねじ溝31a,31bの個々を独立した閉ループとし、この閉ループ内でボール群4を転動循環させる構造にしていれば、従来周知の循環こまという高精度な部品を排除できて、ナット部材2に循環こま取付用の貫通孔を形成する手間や循環こまの組み付けの手間を省くことができるなど、製造コストの低減に貢献できるうえ、循環こまのボール循環溝とねじ溝との位置合わせが不要になるなど、その万一の位置ずれによる品質低下を回避できるようになる。しかも、上記2つのボール循環溝33,34を、図6に示すように、ほぼ同一位相にかつ軸心方向に隣り合わせに設けていれば、ねじ軸3のねじ溝31a,31bを軸心方向に詰めて配置できるようになって、軸心方向での占有面積を縮小するうえで有利となる。但し、この場合、ボール循環溝33,34に位置するボール4は、ラジアル荷重やアキシャル荷重を受けることができないので、2つのボール循環溝33,34を周方向および軸心方向で接近して設けると、円周上の所定角度範囲に荷重無負担領域ができることになる。しかしながら、上記実施形態のように、ナット部材2およびねじ軸3の軸心方向寸法を短くしたうえで外径寸法を大きく設定していれば、図7に示すように、円周上においてボール循環溝33,34が存在する領域の角度θ範囲が小さくて済むとともにボール循環溝33,34内に位置するボール4の数が少なくて済むから、荷重負担能力の低下を抑制できて、実用上支障ないものとなる。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、いろいろな応用や変形が考えられる。
【0044】
まず、上記実施形態では、ねじ軸3に設けた2巻きのねじ溝31a,31bの個々を閉ループとしてそれぞれ独立してボール3群を転動循環させるために、ねじ軸3にボール循環溝33,34を設けた例を挙げているが、従来一般的な循環こまをナット部材2に対して装着する形態としたものにも本発明を適用できる。
【0045】
また、上記実施形態では、ブラケット8に設けた切欠き19とねじ軸3に設けたストッパピン18とを周方向から当接させてナット部材2を強制停止させる形態にしているが、そのような形態と異なり、図示しないがナット部材2あるいはブラケット8の一部とねじ軸3の一部とを軸心方向から当接させてナット部材2を強制停止させる形態とするものにも本発明を適用できる。この場合、前記当接部分の少なくとも片方に対して弾性体20を設ければよい。
【0046】
また、上記実施形態では、ナット部材2を縮み方向の所定位置で強制停止させるために、ねじ軸3にストッパピン18を、ブラケット8に切欠き19を設けているが、その逆の配置にしてもよいし、また、図10に示すように、ブラケット8の内筒部82の付け根外周にストッパピン18の替わりに凸部18Aを設ける一方で、ねじ軸3の一方軸端に切欠き19Aを設け、これらの当接によりナット部材2を縮み方向の所定位置で強制停止させるようにすることができる。この場合、弾性体20は、凸部18Aと切欠き19Aのどちらに設けてもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、ナット部材2に対するブラケット8の結合をセレーション83,23でもって行わせるようにしているが、図11に示すように、ブラケット8における外筒部82の付け根側円周数ヶ所に凸部84を、ナット部材2の嵌入方向奥側の円周数ヶ所に凹部24をそれぞれ設け、これらを軸心方向から嵌合することにより、ブラケット8とナット部材2とを相対回転不可能に結合するようにしてもよい。この場合、ブラケット8とナット部材2との結合工程において両者の位相合わせを容易とするために、ブラケット8に設ける複数の凸部84のうちの1つと、ナット部材2に設ける複数の凹部24のうちの1つの周方向幅を他の凸部84や凹部24よりも大きく設定することにより、ブラケット8とナット部材2とを所定の位相でしか結合できないようにするのが好ましい。
【0048】
この他、上記ボールねじ装置1については、ナット部材2またはねじ軸3の一方を回転させることで他方を軸心方向に移動させる使用形態、あるいはナット部材2またはねじ軸3の一方を軸心方向に移動させることで他方を回転させる使用形態にすることができる。前者の使用形態については、トルクを推力に変換する正効率と言い、後者の使用形態については、推力をトルクに変換する逆効率と言う。以下で、正効率での使用形態に係る4パターン(A−1〜A−4)と、逆効率での使用形態に係る4パターン(B−1〜B−4)を説明する。
【0049】
(A−1)上記実施形態で説明したように、ナット部材2を回転させながら軸心方向に移動させる。この場合、ねじ軸3を非回転かつ軸心方向不動にしておいて、ナット部材2を回転駆動させればよい。
【0050】
(A−2)ナット部材2を回転させずに軸心方向に移動させる。この場合、ねじ軸3を軸心方向不動にする一方で、ナット部材2を非回転にしておいて、ねじ軸3を回転駆動させればよい。
【0051】
(A−3)ねじ軸3を回転させながら軸心方向に移動させることができる。この場合、ナット部材2を非回転かつ軸心方向不動にしておいて、ねじ軸3を回転駆動させればよい。
【0052】
(A−4)ねじ軸3を回転させずに軸心方向に移動させる。この場合、ねじ軸3を非回転にする一方で、ナット部材2を軸心方向不動にしておいて、ナット部材2を回転駆動させればよい。
【0053】
(B−1)ナット部材2を軸心方向不動で回転させる。この場合、ナット部材2を軸心方向不動にする一方で、ねじ軸3を非回転にしておいて、ねじ軸3を軸心方向に移動させればよい。
【0054】
(B−2)ナット部材2を軸心方向に移動させながら回転させる。この場合、ねじ軸3を軸心方向不動かつ非回転にしておいて、ナット部材2を軸心方向に移動させればよい。
【0055】
(B−3)ねじ軸3を軸心方向不動で回転させる。この場合、ねじ軸3を軸心方向不動にする一方で、ナット部材2を非回転にしておいて、ナット部材2を軸心方向に移動させればよい。
【0056】
(B−4)ねじ軸3を軸心方向に移動させながら回転させる。この場合、ナット部材2を軸心方向不動かつ非回転にしておいて、ねじ軸3を軸心方向に移動させればよい。
【0057】
【発明の効果】
請求項1からの発明に係るボールねじ装置は、ナット部材とねじ軸とを縮み方向の所定位置で強制的に停止させるときの当接部分に弾性体を介在させているから、衝突音が発生せずに済むとともに、衝撃が緩和されるようになり、耐久性の向上に貢献できる。
【0058】
特に、請求項の発明では、ナット部材を縮み方向の所定位置で強制停止させるにあたって、従来例のようにナット部材とねじ軸とを軸心方向から当接させる形態とせずに、周方向で当接させる形態にしているから、前記ナット部材が強制停止された後、所定時間について駆動トルクが付与され続けるような状況でもナット部材と一体のブラケットとねじ軸との当接部分が周方向に押し付けられるだけで軸心方向から当接させる側場合において発生する食い込み現象を回避できる。したがって、ナット部材を前記停止位置から伸び方向に移動させるときに、抵抗なく素早く移動させることができるようになるなど、動作応答性ならびに信頼性を向上できるようになる。
【0059】
また、上記請求項の発明では、ナット部材が強制停止された状態でナット部材と一体のブラケットとねじ軸との干渉を避けるようにしているから、ナット部材の縮み方向での停止位置を安定させるうえで有利となる。
【0060】
また、請求項の発明では、ブラケットにギヤを設けているから、このブラケットと一体のナット部材と外部装置との間でトルク伝達できるようになり、しかも、このギヤを樹脂製としているから、インサート成形などで容易に製造できて、低コスト化が可能となる。
【0061】
また、請求項の発明では、保持器リングを用いることにより、複数のボール個々を干渉させないようにしているから、ボールの挙動が安定し、ナット部材とねじ軸との相対回転が円滑に保たれるなど、動作安定性の向上に有利となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るボールねじ装置の縦断面図
【図2】図1の状態からナット部材を軸心方向一方へ移動させた状態を示す縦断面図
【図3】ボールねじ装置の分解斜視図
【図4】ボールねじ装置において一部を断面にした平面図
【図5】図4の(5)−(5)線断面の矢視図
【図6】ボール循環経路を模式的に示す側面図
【図7】図6のボール循環経路の正面図
【図8】ナット部材の縮み方向での強制停止構造を示す斜視図
【図9】ストッパピンに対して切欠きが係入する様子を示す平面展開図
【図10】ナット部材の縮み方向での強制停止構造の他の例を示す斜視図
【図11】ナット部材とブラケットとの結合部分の他の例を示す正面図
【符号の説明】
1 ボールねじ装置
2 ナット部材
21 ナット部材のねじ溝
3 ねじ軸
31a,31b ねじ軸のねじ溝
33,34 ねじ軸のボール循環溝
4 ボール
5 保持器リング
8 ブラケット
81 ブラケットの内筒部
82 ブラケットの外筒部
9 ブラケットのギヤ
11 筒軸
12 転がり軸受
18 ストッパピン
19 ブラケット内筒部の切欠き
20 弾性体

Claims (6)

  1. ナット部材の内周面に設けられるねじ溝とねじ軸の外周面に設けられるねじ溝との間に複数のボールが介装され、前記ナット部材とねじ軸との間でトルクを推力に変換させたり、推力をトルクに変換させたりするボールねじ装置であって、
    前記ねじ軸が円筒形状とされ、前記ナット部材が、前記ねじ軸の中心孔に非接触に挿通される軸体に対してブラケットを介して支持されており、前記ブラケットが、径方向内外に同心状に設けられて軸心方向一端側で連接される内筒部および外筒部を有し、前記内筒部が前記ねじ軸の中心孔内に非接触状態で配置されて前記軸体に対して支持され、また、前記外筒部が前記ナット部材の軸心方向一端側の領域外周に一体的に嵌合されており、前記ブラケットとねじ軸とにおいて軸心方向で対向する領域に対して、ナット部材とねじ軸とを縮み方向に相対的に移動させたときに所定位置で停止させるためのストッパおよび切欠きが、周方向で当接、離隔する状態で振り分けて設けられており、前記ストッパおよび切欠きの少なくともいずれか一方の当接部分に、デュロメータ硬さで10〜70の弾性体が取り付けられていることを特徴とするボールねじ装置。
  2. 請求項のボールねじ装置において、
    前記ねじ軸が固定部分に対して非回転かつ軸心方向不動に、また、前記ナット部材が前記軸体に対して転がり軸受を介して回転自在にそれぞれ取り付けられているとともに、前記軸体が軸心方向移動可能に配置されており、前記ブラケットに対してトルクが付与されることにより、当該ブラケットと前記ナット部材と前記軸体の三者が一体になってねじ軸に沿って軸心方向に移動される形態とされていることを特徴とするボールねじ装置。
  3. 請求項またはのボールねじ装置において、
    前記ストッパが、前記ねじ軸において前記ブラケットの内筒部に対して軸心方向で対向する円周上の所定領域に設けられており、前記切欠きが、前記ブラケットの内筒部において前記ねじ軸に対して軸心方向で対向する領域に設けられていることを特徴とするボールねじ装置。
  4. 請求項からのいずれかのボールねじ装置において、
    前記ストッパと切欠きとの当接によって前記ナット部材が強制停止された状態で、前記ナット部材と一体のブラケットとねじ軸とが軸心方向で非接触となる関係で配置されていることを特徴とするボールねじ装置。
  5. 請求項からのいずれかのボールねじ装置において、
    前記ブラケットが、金属材で形成されており、その外筒部の外周面に樹脂製のギヤが一体に成形されていることを特徴とするボールねじ装置。
  6. 請求項1からのいずれかのボールねじ装置において、
    前記ねじ軸とナット部材との対向環状空間に、前記各ボールを回転可能に保持する保持器リングが相対回転可能に介装されていることを特徴とするボールねじ装置。
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