JP3916332B2 - 高耐食性Zr系非晶質合金 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、大きな非晶質形成能を有し、かつ耐食性に優れたZr系非晶質合金に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
溶融状態の合金を急冷することにより薄帯状、フィラメント状、粉粒体状等、種々の形状を有する非晶質金属材料が得られることはよく知られている。非晶質合金薄帯は、大きな冷却速度の得られる単ロール法、双ロール法、回転液中紡糸法等の方法によって容易に製造できるので、これまでにも、Fe系、Ni系、Co系、Pd系、Cu系、Zr系、またはTi系合金について数多くの非晶質合金が得られており、高耐食性、高強度等の非晶質合金特有の性質が明らかにされている。なかでも、Zr系非晶質合金は、他の非晶質合金に比べて格段に優れた非晶質形成能を有する新しいタイプの非晶質合金として構造材料、医用材料、化学材料等の分野への応用が期待されている。
【0003】
非晶質合金を加熱すると、特定の合金系では結晶化する前に過冷却液体状態に遷移し、急激な粘性低下を示すことが知られている。例えば、Zr系非晶質合金では、毎分40℃の加熱速度で、結晶化までに最大120℃程度の間、過冷却液体領域として存在できることが報告されている[Mater.Trans.,JIM,Vol.32(1991)1005 項参照]。
【0004】
このような過冷却液体状態では、合金の粘性が低下しているために閉塞鍛造等の方法により任意形状の非晶質合金成形体を作製することが可能であり、非晶質合金からなる歯車等も作製されている[日刊工業新聞1992年11月12日参照]。したがって、広い過冷却液体領域を有する非晶質合金は、優れた加工性を備えていると言える。
【0005】
このような過冷却液体領域を有する非晶質合金としては、一般式:Xa b Alc (ただし、Xは、ZrおよびHfから選ばれる1種又は2種以上の元素、Mは、Ni,Cu,Fe,CoおよびMnから選ばれる少なくとも一種の元素、a,b,cは、原子%で、25≦a≦85、5≦b≦70、0<c≦35)で示されるアルミニウムを含有する組成を有し、少なくとも50体積%の非晶質相からなる加工性に優れた非晶質合金が知られており[特公平7−122120号公報]、特に、Zr−Al−Ni−Cu非晶質合金は、100℃以上の過冷却液体領域の温度幅を有し、大きい引張強度、高延性、小さい熱膨張係数等の優れた特性を有し、実用性の高い非晶質合金とされていた。
【0006】
さらに、これらの非晶質合金の非晶質形成能と製造方法の改善が行われ、100℃以上の過冷却液体領域を有し、5mmを超える厚みを製造できる大寸法Zr系非晶質合金が開発された(特開平8−74010号公報)。このZr系非晶質合金は、式:Zr100-a-b-c a b c (ただし、Aは、Ti,Hf,Al,Gaから選択される1種または2種以上の元素、Bは、Fe,Co,Ni,Cuから選択される1種または2種以上の元素、Cは、Pd,Pt,Au,Agから選択される1種または2種以上の元素であり、式中のa〜cは、原子比率であり、それぞれ5≦a≦20,20≦b≦40、0<c≦10,および30≦a+b+c≦70を満足する)で表される組成をもつ。また、特開平8−199318号公報にも、同様な組成のZr系非晶質合金を用いて棒状または筒状の断面形状をもつ製品を鋳型により製造する方法が開示されている。
【0007】
その他に、Zr系金属ガラスとしては、式(Zr1-x Tix a (Cu1-y Niy b Bec で示されるベリリウム含有金属ガラス(特表平8−508545号公報、特開平9−323146号公報)、式(Zr,Hf)a (Al,Zn)b (Ti,Nb)c (Cux Fey (Ni,Co)z d (ただし、45<a<65,5<b<15,5<c<7.5,d=100−(a+b+c),dy<10、0.5<x/z<2で示されるベリリウムを含有しない金属ガラス(特開平9−316613号公報)、式[(Zr,Hf)1-x Tix a Cub (Ni1-y Coy c で示されるベリリウムを含有しない金属ガラス(特表平10−512014号公報)等が公知であるが、耐食性の向上を特に図った合金組成はこれまで見出されていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
前述したZr系非晶質合金は、100℃以上の過冷却液体領域により大きな非晶質形成能と比較的良好な高強度特性を兼ね備えてはいるものの、耐食性は十分なものではなかった。
【0009】
特に、100℃以上の過冷却液体領域の温度幅を有し、大きい引張強度、高延性、小さい熱膨張係数等の優れた特性を有し、実用性の高い非晶質合金であるZr60Al10Ni10Cu20は、Zr60Al10Cu30に比べて耐食性が優れており、6M 塩酸水溶液(22℃)に16時間浸漬した場合、年換算腐食速度率が0.131mm/年の耐食性を示すが、64時間の浸漬では完全に溶解し、十分な耐食性を有しないものであった。
【0010】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、過冷却液体領域の温度幅を大きく損なわずに耐食性が改善され、工業材料への応用が可能になる寸法を実現できる非晶質形成能を備えたZr系非晶質合金材料を提供することを目的として、最適合金組成について鋭意研究した結果、顕著な耐食性を有する合金組成を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、第1に、式:Zr 1 00 -a-b-c Ala (Ni,Cu)b Nbc [ただし、式中のa〜cは、原子比率であり、それぞれ、a=5〜20、b=15〜45、15≦c≦25、a+b+c=30〜70、Ni対Cuの比率=1:8〜2:1を満足する]で表される組成を有する高耐食性Zr系非晶質合金である。
【0012】
また、本発明は、第2に、式:Zr 1 00 -a-b-c Ala (Ni,Cu)b Tac [ただし、式中のa〜cは、原子比率であり、それぞれ、a=5〜20、b=15〜45、0<c≦15、a+b+c=30〜70、Ni対Cuの比率=1:8〜2:1を満足する]で表される組成を有する高耐食性Zr系非晶質合金である。
【0013】
さらに、本発明は、第3に、上記の第1、第2の高耐食性Zr系非晶質合金からなる化学工業機械の配管部材又は原子炉の冷却水循環部材である。
【0014】
上記のように、本発明は、Zr−Al−Ni−Cu系非晶質合金のZrの一部をNb(ニオブ)又はTa(タンタル)元素により置換した場合、これらの元素を添加した合金溶湯を、液体状態から急冷固化させることにより、大きな非晶質形成能と高耐食性とを兼ね備えたZr系非晶質合金が得られるものであり、Zr系非晶質合金の新たな用途拡大に寄与するものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の好ましい実施態様を説明する。本発明のZr系非晶質合金において、式中の(Ni,Cu)b で示すNiおよびCuは、非晶質相を形成せしめる主たる元素であり、NiおよびCuの含有量の和bは、15原子%以上45原子%以下である。この含有量の和が15原子%未満および45原子%超では、冷却速度の大きな単ロール法では非晶質相が得られても、冷却速度の小さな金型鋳造法では非晶質相が形成されなくなる。
【0016】
Ni対Cuの比率は、1:8〜2:1とする。この比率よりCuが多いと、僅かに非晶質形成能が低下するとともに耐食性が大幅に低下する。逆に少ないと良好な耐食性は維持されるものの非晶質形成能が大幅に低下し、好ましくない。より好ましい比率は、1:4〜1:1である。
【0017】
また、Alは、本発明のZr系非晶質合金において非晶質形成能を大幅に高める元素で、この含有量は、5原子%以上20原子%以下、より好ましくは、7.5原子%以上15原子%以下である。Alの含有量が5原子%未満20原子%超では、却って非晶質形成能が低下する。
【0018】
Nb又はTaは、非晶質形成能の大きなZr系非晶質合金の非晶質形成能を大きく低下させずに高耐食性を与える元素であることが分かった。これらの元素を加えないZr60Al10Ni10Cu20の組成のZr非晶質合金の「過冷却液体領域」は110Kに達するが、これらの元素を添加すると「過冷却液体領域」は、狭くなり、非晶質形成能はやや低下する。
【0019】
なお、「過冷却液体領域」とは、毎分40℃の加熱速度で示差走査熱量分析を行うことにより得られるガラス遷移温度と結晶化温度の差で定義されるものである。「過冷却液体領域」は、結晶化に対する抵抗力、すなわち、非晶質の安定性を示す数値である。
【0020】
この元素群の含有量は、Nbは、25原子%以下、より好ましくは20原子%以下であり、Taは、15原子%以下、より好ましくは10原子%以下である。これ以上の含有量では非晶質形成能の低下が大きくなり、また、より以上の耐食性の改善効果は得られない。Nbは、表1の合金組成番号1,2,3に示すように、6MHCl溶液(22℃)に対する腐蝕速度に基づく年換算腐蝕量は、5原子%(番号1)10原子%(番号2)よりも15原子%(番号3)以上の方が少ない。
【0021】
本発明のZr系非晶質合金は、溶融状態から単ロール法、双ロール法、回転液中紡糸法、アトマイズ法等の種々の方法で冷却固化させ、薄帯状、フィラメント状、粉粒体状の非晶質合金固体を容易に得ることができる。
【0022】
また、本発明のZr系非晶質合金は、非晶質形成能の改善がなされているため、溶融合金を好ましくは金型に充填鋳造することにより任意の形状の非晶質合金棒または板を容易に得ることもできる。例えば、代表的な金型鋳造法においては、合金原料を石英管中でAr雰囲気中で溶融した後、溶湯を噴出圧0.5kg/cm2 以上で銅製の金型内に充填凝固させることにより非晶質合金塊を得ることができる。
【0023】
さらに、本発明のΖr系非晶質合金の組成の中で、特に、Zr−Al−Ni−Cu系非晶質合金は、従来のZr系非晶質合金に比べて合金組成の最適化が図られており、大きな非晶質形成能と高強度・高靭性を有するものであり、耐食性を兼備する合金として最適なものである。
【0024】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
実施例1
表1の合金組成番号1〜4になるようにZr,Al,Ni,Cuの他にNbを原料に加えた混合物をAr雰囲気中でアーク溶解し、金型鋳造法により直径2mm、長さ50mmの丸棒状試料を作製した。丸棒状試料について、6MのHCl溶液および12MのHCl溶液に、室温、大気中で浸漬することにより強酸化性溶液中における重量損失を測定した。その結果を表1および図1に示す。なお、表1の番号1、2は参考例である。また、電気化学的測定として、純Zr金属、Nb,Ta,Tiを含まない比較例のZr合金、Tiを含む比較例のZr合金、Nbを含む表1の番号1のZr合金について、3%NaCl溶液に、室温、大気中で浸漬することによりアノード分極曲線を求めた。その結果を図2に示す。
【0025】
この結果、表1および図1に示すとおり、参考例の合金組成番号1、2、本発明の実施例の合金組成番号3、4は、ステンレス鋼が瞬時に溶解するような強酸性溶液中でも溶解せず、耐食性の向上が明らかである。Nbが5原子%の合金組成番号1のものでは、12Mの塩酸水溶液(22℃)に浸漬した場合、5時間経過しても溶解しなかった。しかし、合金組成番号1、2は、6Mの塩酸水溶液(22℃)に浸漬した場合は腐蝕速度がやや大きい。したがって、強酸化性溶液に対して高耐蝕性の本発明の合金組成は、高度の耐蝕性が要求される化学工業機械の配管部材および原子炉の冷却水循環部材等に最適である。
【0026】
実施例2
表1の合金組成番号5、6になるようにZr,Al,Ni,Cuの他にTaを原料に加えた混合物を用いた以外は、実施例1と同様に丸棒状試料を作製した。表1および図1に示すとおり、6Mの塩酸溶液浸漬では実施例1のNb含有合金と同等の耐食性の向上が得られ、特に、Taが5原子%のものは、実施例1より優れた低腐食速度を示した。しかし、12Mの塩酸水溶液(22℃)に浸漬した場合の耐食性は、実施例1のNb含有合金の方が優れている。
【0027】
比較例1
表1の合金組成番号7、8になるようにZr,Al,Ni,Cuの他にTiを原料に加えた混合物を用いた以外は、実施例1と同様に丸棒状試料を作製した。表1および図1、図2に示されるとおり、6Mの塩酸溶液への短時間(16時間)浸漬では、Nb,Ta含有のものと同等の耐食性を示すが、長時間(64時間)浸漬の場合は、Nb,Ta含有のものと耐食性の差が生じる。
【0028】
比較例2
表1の合金組成番号9になるようにZr,Al,Ni,Cuの混合物を用いた以外は、実施例1と同様に丸棒状試料を作製した。表1および図2に示されるとおり、耐食性は乏しい。
【0029】
比較例3
表1の合金組成番号10になるようにZr,Al,Cuの混合物を用いた以外は、実施例1と同様に丸棒状試料を作製した。表1に示されるとおり、耐食性は極めて乏しい。
【0030】
比較例4
表1の合金組成番号11、12になるようにZr,Al,Ni,Cuの他にCrを原料に加えた混合物を用いた以外は、実施例1と同様に丸棒状試料を作製した。Crは、ガラス形成能を小さくさせ、10原子%の添加では結晶相を生じ、また表1に示されるとおり、耐食性向上効果を有しない。
【0031】
【表1】
Figure 0003916332
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のZr系非晶質合金は、大きな非晶質形成能と高耐食性を兼備したZr系非晶質合金であり、バルク材として耐食性を必要とする化学工業機械の配管部材又は原子炉の冷却水循環部材等、結晶質Zr合金が従来用いられていた各種用途へ適用した場合、その顕著な性能向上が実現でき、また、新たな用途への適用も可能であり、実用上極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の合金の元素含有量と腐食速度の関係を示すグラフ。
【図2】参考例及び比較例のアノード分極曲線を示すグラフ。

Claims (3)

  1. 式:Zr 1 00 -a-b-c Ala (Ni,Cu)b Nbc [ただし、式中のa〜cは、原子比率であり、それぞれ、a=5〜20、b=15〜45、15≦c≦25、a+b+c=30〜70、Ni対Cuの比率=1:8〜2:1を満足する]で表される組成を有する高耐食性Zr系非晶質合金。
  2. 式:Zr 1 00 -a-b-c Ala (Ni,Cu)b Tac [ただし、式中のa〜cは、原子比率であり、それぞれ、a=5〜20、b=15〜45、0<c≦15、a+b+c=30〜70、Ni対Cuの比率=1:8〜2:1を満足する]で表される組成を有する高耐食性Zr系非晶質合金。
  3. 請求項1又は2記載の高耐食性Zr系非晶質合金からなる化学工業機械の配管部材又は原子炉の冷却水循環部材。
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