JP3913074B2 - アルキルベンゼン類酸化用触媒及び芳香族アルデヒドの製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はアルキルベンゼン類の酸化用触媒及びこの触媒を用いた芳香族アルデヒドの製造方法に関する。詳しくは、本発明は、アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して、対応する芳香族アルデヒドを高収率で製造するに好適な触媒、及びこの触媒を用いてアルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して、対応する芳香族アルデヒドを高収率で製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
芳香族アルデヒドは反応性の高いアルデヒド基を有しており、芳香族化合物の中でも、幅広い用途がある。中でも、アルデヒド基を2つ有するテレフタルアルデヒド(TPAL)は、医薬、農薬、染料、液晶ポリマー、導電性ポリマー、耐熱性プラスチック等への利用が期待され安価な工業的製造法が求められている。
【0003】
p−キシレンの気相酸化により、TPALを製造しようという試みは、かなり古くから行われている。特公昭47−2086号公報には、WとMoとの比が1:1ないし20:1の範囲にある酸化物をアルミナに担持した触媒が開示されている。特開昭48−97830号公報には、VとRb又はCsを含み炭化ケイ素に担持した触媒が開示きれている。米国特許第3,845,137号明細書には、W及びMoの2元素に、Ca、Ba、Ti、Zr、Hf、Tl、Nb、Zn及びSnからなる群より選ばれた少なくとも1元素を加えた酸化物をアルミナに担持した触媒が開示されている。米国特許第4,017,547号明細書には、Mo酸化物とW酸化物又はケイタングステン酸、及び、Bi酸化物からなる成分を炭化ケイ素に担持した触媒が開示されている。米国特許第5,324,702号明細書には、脱ホウ素化したボロシリケート結晶モレキュラーシーブにFe、Zn等とV、Mo、W等を化学蒸着(CVD)で担持した特殊な触媒が開示されている。
【0004】
しかし、これらの触媒はいずれも目的とするTPALの収率及び生産性が低く、工業的に実用化されるには至っていない。
また、本発明者らも、W、Sb及びFe等の酸化物からなる触媒を提案したが(特開2001−198464号公報)、実用化にはまだ充分な性能とは言えなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して、対応する芳香族アルデヒドを高収率で製造できる新規な触媒、及びこの触媒を用いてアルキルベンゼン類から高収率で対応する芳香族アルデヒドを製造する方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手投】
本発明者らは、アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して、対応する芳香族アルデヒドを高収率で製造できる新規な触媒について鋭意研究の結果、以下に述べる触媒がすぐれた部分酸化性能を示し、この触媒を用いる事により、高い収率かつ高い生産性で芳香族アルデヒドを製造できる事を見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して対応する芳香族アルデヒドを製造するための触媒であって、タングステン及びアンチモンを含み、更に、ニオブ、タンタル、ジルコニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物又は2種以上の金属の複合酸化物を含むことを特徴とするアルキルベンゼン類酸化用触媒である。
【0008】
また、本発明は、アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して、対応する芳香族アルデヒドを製造する方法であって、上記触媒を使用することを特徴とする芳香族アルデヒドの製造方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のアルキルベンゼン類とは、1ないし複数個のアルキル基が直接ベンゼン環に結合した化合物を表し、その代表例としては、トルエン、p−キシレン、o−キシレン、m−キシレン、プソイドキュメン、メジチレン及びデュレン等のメチルベンゼン類、エチルベンゼン、クメン及びp−シメン、p−tert−ブチルトルエン、p−ジイソプロピルベンゼン等を挙げることができる。
【0010】
本発明の触媒はこれらアルキルベンゼン類を気相酸化して、対応するアルデヒドを製造するものである。具体的には、例えば、トルエンからベンズアルデヒド;p−キシレンからテレフタルアルデヒド、p−トルアルデヒド;o−キシレンからフタルアルデヒド、o−トルアルデヒド;m−キシレンからイソフタルアルデヒド、m−トルアルデヒド;プソイドキュメンから2−メチルテレフタルアルデヒド、2,4−ジメチルベンズアルデヒド、2,5−ジメチルベンズアルデヒド、3,4−ジメチルベンズアルデヒド;メシチレンから3,5−ジメチルベンズアルデヒド、5−メチルイソフクルアルデヒド、1,3,5−トリホルミルベンゼン;デュレンから2,5−ジメチルテレフタルアルデヒド、4,5−ジメチルフタルアルデヒド、2,4,5−トリメチルベンズアルデヒド、2,4,5−トリホルミルトルエン、1,2,4,5−テトラホルミルベンゼン;エチルベンゼン、クメンからベンズアルデヒド;p−シメンからテレフタルアルデヒド、クミンアルデヒド、p−トルアルデヒド;p−tert−ブチルトルエンからp−tert−ブチルベンズアルデヒド;p−ジイソプロピルベンゼンからテレフタルアルデヒド、クミンアルデヒド等をそれぞれ製造するものである。なかでも本発明の酸化用触媒は炭素数8〜10のメチルベンゼン類から対応する芳香族アルデヒドを製造するのに好適に用いられ、特にp−キシレンからテレフタルアルデヒドを製造するに最も好適に用いられる。
【0011】
本発明の酸化用触媒は、タングステン及びアンチモンを含み、更にニオブ、タンタル、ジルコニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物又は2種以上の金属の複合酸化物を含むことを特徴とする。また、更にZn、Co、Ni、Mn、Mg、Ca、Sr、Li、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。これらの中でもZnを含むことが好ましい。
従来特許で、アルキルベンゼン類を気相酸化して対応する芳香族アルデヒドを製造する触媒に使用されていたα−アルミナ、炭化ケイ素等と、タングステン及びアンチモンを含む触媒成分とを組み合わせた場合、本発明の触媒に比べ著しく活性が低い。また一般的に担体として広く使用されているシリカや活性アルミナの場合には、著しく選択性が低い。一方、本発明の特徴であるニオブ、タンタル、ジルコニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物又は2種以上の金属の複合酸化物を使用しない場合は物理的耐久性に問題があるだけでなく、活性、選択性とも充分でない。これに対し、本発明においてはニオブ、タンタル、ジルコニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物又は2種以上の金属の複合酸化物を使用することにより、高活性でありかつ高選択性を示す。なかでもチタンの酸化物が好ましく、特にルチル型のチタン酸化物が最も好適に使用される。
【0012】
本発明の触媒を製造するにあたり、ニオブ、タンタル、ジルコニウム及びチタンの金属酸化物又はそれらの複合酸化物の形態は特に問わない。例えば、成型体であっても、また粉体であっても良い。また、これら金属酸化物あるいは複合酸化物の前駆体となる水酸化物等の塩や、ゲル、ゾル等の形で触媒の調製時に使用することもできる。
【0013】
本発明で用いるニオブ、タンタル、ジルコニウム及びチタンの金属酸化物又は複合酸化物のBET比表面積には特に制限はないが、副反応を抑え、目的物を高収率で得る点で30m2/g以下が好ましく、特に10m2/g以下が好ましい。また、前駆体を使用する場合も、酸化物に転換後、30m2/g以下、好ましくは10m2/g以下となる焼成処理条件が目安となる。尚、Nb、Ta、Zr及びTiの酸化物又はそれらの複合酸化物の量は通常、質量基準で、触媒を100としたとき、10〜95である。また触媒の形状についても特に制約はなく、反応管のサイズ、形状により、顆粒状、球状、ペレット状、リング状等のほかハニカム状でも使用が可能である。
【0014】
本発明の酸化用触媒の調製法には特に制限はなく、この種の触媒の調製に一般的に用いられている方法によって調製することができる。例えば、メタタングステン酸アンモニウム水溶液に酒石酸アンチモン水溶液あるいは三酸化アンチモン粉末を加え均一溶液あるいは懸濁液を調製し、金属酸化物成型体に含浸してから蒸発乾固し、あるいは金属酸化物粉末、ゾル等と混合して加熱攪拌、濃縮、蒸発乾固を行い、80〜230℃で乾燥処理し、必要により、破砕あるいは成型してサイズ調整し、300〜700℃で焼成することにより得られる。この乾燥及び焼成を行う際の雰囲気には特に制限はなく、大気中でも、高酸素濃度又は低酸素濃度雰囲気中でも、また還元性ガス雰囲気中でも、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中でも、更には真空中でも行うことができる。これらは上記触媒調製時に使用した原料の特性等に応じて適宜選択できる。
【0015】
上記触媒の調製に用いられる原料には特に制限はないが、タングステンとしてはメタタングステン酸アンモニウム水溶液、パラタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン等が好適に用いられ、アンチモンとしては三酸化アンチモン、アンチモン酸ゾル、酒石酸アンチモン水溶液等が好適に用いられる。これらの中でもタングステンとしてはメタタングステン酸アンモニウム水溶液が、アンチモンとしては三酸化アンチモン、及び、酒石酸アンチモン水溶液が好ましい。
上記タングステンの触媒中での含有割合としては、質量基準で触媒を100としたとき、10以上とすることが好ましく、また、60以下とすることが好ましい。より好ましくは、15以上であり、また、40以下である。上記アンチモンの触媒中での含有割合としては、質量基準で触媒を100としたとき、1以上とすることが好ましく、また、20以下とすることが好ましい。より好ましくは、2以上であり、また、10以下である。
また、これら以外に触媒成分として任意に添加する元素についても、硝酸塩、硫酸塩、酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩、有機酸塩、金属酸素酸、金属酸素酸アンモニウム塩、ヘテロポリ酸など特に制限なく原料を選択できる。
【0016】
本発明の気相酸化反応を行う際の原料としては、アルキルベンゼン類及び分子状酸素のほかに、必要に応じて、希釈ガスを用いる事ができる。分子状酸素源としては、空気又は純酸素が使用される。分子状酸素は通常、アルキルベンゼン類1モルに対して、5〜100モルの割合で用いる。希釈ガスとしては、窒素、ヘリウム、炭酸ガス等の不活性ガスや水蒸気等が好適に用いられる。
【0017】
本発明の気相酸化反応を実施する際の反応条件には特に制限はなく、例えば、空間速度1000〜200000h-1、反応温度350〜650℃の条件下に上記原料ガスを本発明の酸化用触媒に接触させればよい。好ましくは空間速度10000〜100000h-1、反応温度は450〜600℃である。上記反応は通常常圧かやや加圧で行うが、高圧下、減圧下いずれでも実施することができる。反応方式についても特に制限はなく、固定床式、移動床式又は流動床式のいずれでもよい。また単流方式でもリサイクル方式でもよい。
【0018】
本発明のアルキルベンゼン類酸化用触媒は、アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して、対応する芳香族アルデヒドを高収率で製造できるものであるが、好ましい実施形態としては、空間速度10000〜100000h-1、かつ、反応温度520〜580℃の条件下での反応で使用される場合に、芳香族アルデヒドの収率が50モル%以上となるようにすることである。50モル%未満であると、テレフタルアルデヒド(TPAL)等の有用な芳香族アルデヒドを工業的に廉価に製造することができなくなるおそれがある。より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは65モル%以上、特に好ましくは70モル%以上である。
【0019】
本発明のアルキルベンゼン類酸化用触媒は、アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して対応する芳香族アルデヒドを製造する際に用いられるものであるが、このような触媒を使用する芳香族アルデヒドの製造方法も本発明の一つである。
【0020】
【実施例】
以下実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお反応における転化率、選択率及び単流収率は、それぞれ以下のように定義される。
転化率(モル%)=(反応した原料のモル数/供給した原料のモル数)×100
選択率(モル%)=(生成した各化合物のモル数/反応した原料のモル数)×100
単流収率(モル%)=(生成した各化合物のモル数/供給した原料のモル数)×100
【0021】
実施例1
アンチモン原料として酒石酸アンチモン水溶液をまず調製した。L−酒石酸150.0gを310mlの水に溶解し、これに三酸化アンチモン36.5gを添加し、加熱還流を行い溶解させた。これに少量の水を加え、全体の質量を500gに合わせ、Sb濃度0.5mmol/gの酒石酸アンチモン水溶液を得た。この酒石酸アンチモン水溶液11.25gに、メタタングステン酸アンモニウム水溶液(WO3として50質量%含有)10.42gを加え均一含浸液を得た。
酸化ニオブ粉末(BET比表面積4.9m2/g)10.0gを上記含浸液に加え、加熱攪拌を行い、約2時間かけて蒸発乾固を行った。これをN2流通中260℃で16時間加熱乾燥処理を行ったあと破砕し、16〜30メッシュに分級したものを、大気中580℃で2時間焼成処理を行った。得られた触媒の組成は39質量%W1Sb0.25OX/Nb2O5であった。
【0022】
この触媒0.5gを通常の流通式反応装置に充填し、下記の条件下で反応を行った。反応時の空間速度(SV)及び反応結果を表1に示す。
【0023】
反応圧:常圧
反応ガス組成:p−キシレン/Air(空気)=0.8/99.2
(p−キシレン/O2=1/25.8)
反応ガス供給速度:180ml(標準状態)/min
反応温度:560℃
【0024】
実施例2〜4
酸化ニオブの代わりにそれぞれ酸化タンタル粉末(BET比表面積2.5m2/g)、酸化ジルコニウム粉末(BET比表面積8.8m2/g)、酸化チタン粉末(アナターゼ型、BET比表面積20.0m2/g)10.0gを使用した以外は実施例1と同様に触媒調製を行った。
【0025】
これらの触媒各0.2g(実施例2、実施例3)、0.3g(実施例4)を使用した以外は、実施例1と全く同じ反応条件で、反応を行った。SV及び反応結果を表1に示す。
【0026】
比較例1
酸化ニオブを使用しなかった以外は実施例1と同様に触媒調製を行った。得られた触媒の組成はW1Sb0.25OXであった。この触媒0.5gを使用し、実施例1と全く同じ反応条件で、反応を行った。SV及び反応結果を表1に示す。
【0027】
比較例2〜5
酸化ニオブの代わりにそれぞれ酸化アルミニウム粉末(BET比表面積0.8m2/g)10.0g、シリカゾル(日産化学スノーテックスーO、SiO2として20.5質量%含有)48.8g、酸化亜鉛粉末(BET比表面積3.9m2/g)10.0 g、酸化スズ(BET比表面積2.5m2/g)10.0gを使用した以外は実施例1と同様に触媒調製を行った。
【0028】
この触媒各0.5gを使用し、実施例1と全く同じ反応条件で、反応を行った。SV及び反応結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例5
焼成温度を640℃に変更した以外は実施例4と同様に触媒調製を行った。この触蝶1.0gを使用し、反応温度を550℃とした以外は実施例1と同様に反応を行った。SVは12000h-1であった。反応結果は、p−キシレン転化率90.2モル%、テレフタルアルデヒド選択率68.7モル%、トルアルデヒド選択率5.1モル%、テレフタルアルデヒド単流収率62.0モル%、トルアルデヒド単流収率4.6モル%であった。
【0031】
比較例6
Sbを加えなかった以外は、実施例5と同様に触媒調製を行った。この触媒1.0gを使用し、実施例5と同じ反応条件で反応を行った。反応結果は、p−キシレン転化率100モル%で、テレフタルアルデヒド、トルアルデヒドの生成はなく、CO及びCO2のみが生成した。
【0032】
実施例6
酸化チタン粉末をアナターゼ型からルチル型(BET比表面積1.0m2/g)に変更した以外は実施例5と同様に触媒調製を行った。この触媒1.0gを用い、反応温度を570℃とした以外は実施例5と同様の反応条件で反応を行った。この時SVは10500h-1であった。反応結果を表2に示す。
【0033】
実施例7〜11
実施例6の触媒において、酒石酸アンチモン水溶液及びメタタングステン酸アンモニウム水溶液に更に硝酸亜鉛水溶液(実施例7)、硝酸コバルト水溶液(実施例8)、硝酸ニッケル水溶液(実施例9)、硝酸カルシウム水溶液(実施例10)、硝酸カリウム水溶液(実施例11)をそれぞれ加えて含浸液を調製した以外は実施例6と同様に触蝶を調製し、各触媒について、1.0gの触媒を用い、実施例6と同じ反応条件で反応を行った。W1Sb0.25に加えた添加金属の組成と、反応結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
【発明の効果】
本発明のアルキルベンゼン類酸化用触媒は部分酸化性能に優れ、アルキルベンゼンから対応する芳香族アルデヒドを高収率で製造することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明はアルキルベンゼン類の酸化用触媒及びこの触媒を用いた芳香族アルデヒドの製造方法に関する。詳しくは、本発明は、アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して、対応する芳香族アルデヒドを高収率で製造するに好適な触媒、及びこの触媒を用いてアルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して、対応する芳香族アルデヒドを高収率で製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
芳香族アルデヒドは反応性の高いアルデヒド基を有しており、芳香族化合物の中でも、幅広い用途がある。中でも、アルデヒド基を2つ有するテレフタルアルデヒド(TPAL)は、医薬、農薬、染料、液晶ポリマー、導電性ポリマー、耐熱性プラスチック等への利用が期待され安価な工業的製造法が求められている。
【0003】
p−キシレンの気相酸化により、TPALを製造しようという試みは、かなり古くから行われている。特公昭47−2086号公報には、WとMoとの比が1:1ないし20:1の範囲にある酸化物をアルミナに担持した触媒が開示されている。特開昭48−97830号公報には、VとRb又はCsを含み炭化ケイ素に担持した触媒が開示きれている。米国特許第3,845,137号明細書には、W及びMoの2元素に、Ca、Ba、Ti、Zr、Hf、Tl、Nb、Zn及びSnからなる群より選ばれた少なくとも1元素を加えた酸化物をアルミナに担持した触媒が開示されている。米国特許第4,017,547号明細書には、Mo酸化物とW酸化物又はケイタングステン酸、及び、Bi酸化物からなる成分を炭化ケイ素に担持した触媒が開示されている。米国特許第5,324,702号明細書には、脱ホウ素化したボロシリケート結晶モレキュラーシーブにFe、Zn等とV、Mo、W等を化学蒸着(CVD)で担持した特殊な触媒が開示されている。
【0004】
しかし、これらの触媒はいずれも目的とするTPALの収率及び生産性が低く、工業的に実用化されるには至っていない。
また、本発明者らも、W、Sb及びFe等の酸化物からなる触媒を提案したが(特開2001−198464号公報)、実用化にはまだ充分な性能とは言えなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して、対応する芳香族アルデヒドを高収率で製造できる新規な触媒、及びこの触媒を用いてアルキルベンゼン類から高収率で対応する芳香族アルデヒドを製造する方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手投】
本発明者らは、アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して、対応する芳香族アルデヒドを高収率で製造できる新規な触媒について鋭意研究の結果、以下に述べる触媒がすぐれた部分酸化性能を示し、この触媒を用いる事により、高い収率かつ高い生産性で芳香族アルデヒドを製造できる事を見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して対応する芳香族アルデヒドを製造するための触媒であって、タングステン及びアンチモンを含み、更に、ニオブ、タンタル、ジルコニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物又は2種以上の金属の複合酸化物を含むことを特徴とするアルキルベンゼン類酸化用触媒である。
【0008】
また、本発明は、アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して、対応する芳香族アルデヒドを製造する方法であって、上記触媒を使用することを特徴とする芳香族アルデヒドの製造方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のアルキルベンゼン類とは、1ないし複数個のアルキル基が直接ベンゼン環に結合した化合物を表し、その代表例としては、トルエン、p−キシレン、o−キシレン、m−キシレン、プソイドキュメン、メジチレン及びデュレン等のメチルベンゼン類、エチルベンゼン、クメン及びp−シメン、p−tert−ブチルトルエン、p−ジイソプロピルベンゼン等を挙げることができる。
【0010】
本発明の触媒はこれらアルキルベンゼン類を気相酸化して、対応するアルデヒドを製造するものである。具体的には、例えば、トルエンからベンズアルデヒド;p−キシレンからテレフタルアルデヒド、p−トルアルデヒド;o−キシレンからフタルアルデヒド、o−トルアルデヒド;m−キシレンからイソフタルアルデヒド、m−トルアルデヒド;プソイドキュメンから2−メチルテレフタルアルデヒド、2,4−ジメチルベンズアルデヒド、2,5−ジメチルベンズアルデヒド、3,4−ジメチルベンズアルデヒド;メシチレンから3,5−ジメチルベンズアルデヒド、5−メチルイソフクルアルデヒド、1,3,5−トリホルミルベンゼン;デュレンから2,5−ジメチルテレフタルアルデヒド、4,5−ジメチルフタルアルデヒド、2,4,5−トリメチルベンズアルデヒド、2,4,5−トリホルミルトルエン、1,2,4,5−テトラホルミルベンゼン;エチルベンゼン、クメンからベンズアルデヒド;p−シメンからテレフタルアルデヒド、クミンアルデヒド、p−トルアルデヒド;p−tert−ブチルトルエンからp−tert−ブチルベンズアルデヒド;p−ジイソプロピルベンゼンからテレフタルアルデヒド、クミンアルデヒド等をそれぞれ製造するものである。なかでも本発明の酸化用触媒は炭素数8〜10のメチルベンゼン類から対応する芳香族アルデヒドを製造するのに好適に用いられ、特にp−キシレンからテレフタルアルデヒドを製造するに最も好適に用いられる。
【0011】
本発明の酸化用触媒は、タングステン及びアンチモンを含み、更にニオブ、タンタル、ジルコニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物又は2種以上の金属の複合酸化物を含むことを特徴とする。また、更にZn、Co、Ni、Mn、Mg、Ca、Sr、Li、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。これらの中でもZnを含むことが好ましい。
従来特許で、アルキルベンゼン類を気相酸化して対応する芳香族アルデヒドを製造する触媒に使用されていたα−アルミナ、炭化ケイ素等と、タングステン及びアンチモンを含む触媒成分とを組み合わせた場合、本発明の触媒に比べ著しく活性が低い。また一般的に担体として広く使用されているシリカや活性アルミナの場合には、著しく選択性が低い。一方、本発明の特徴であるニオブ、タンタル、ジルコニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物又は2種以上の金属の複合酸化物を使用しない場合は物理的耐久性に問題があるだけでなく、活性、選択性とも充分でない。これに対し、本発明においてはニオブ、タンタル、ジルコニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物又は2種以上の金属の複合酸化物を使用することにより、高活性でありかつ高選択性を示す。なかでもチタンの酸化物が好ましく、特にルチル型のチタン酸化物が最も好適に使用される。
【0012】
本発明の触媒を製造するにあたり、ニオブ、タンタル、ジルコニウム及びチタンの金属酸化物又はそれらの複合酸化物の形態は特に問わない。例えば、成型体であっても、また粉体であっても良い。また、これら金属酸化物あるいは複合酸化物の前駆体となる水酸化物等の塩や、ゲル、ゾル等の形で触媒の調製時に使用することもできる。
【0013】
本発明で用いるニオブ、タンタル、ジルコニウム及びチタンの金属酸化物又は複合酸化物のBET比表面積には特に制限はないが、副反応を抑え、目的物を高収率で得る点で30m2/g以下が好ましく、特に10m2/g以下が好ましい。また、前駆体を使用する場合も、酸化物に転換後、30m2/g以下、好ましくは10m2/g以下となる焼成処理条件が目安となる。尚、Nb、Ta、Zr及びTiの酸化物又はそれらの複合酸化物の量は通常、質量基準で、触媒を100としたとき、10〜95である。また触媒の形状についても特に制約はなく、反応管のサイズ、形状により、顆粒状、球状、ペレット状、リング状等のほかハニカム状でも使用が可能である。
【0014】
本発明の酸化用触媒の調製法には特に制限はなく、この種の触媒の調製に一般的に用いられている方法によって調製することができる。例えば、メタタングステン酸アンモニウム水溶液に酒石酸アンチモン水溶液あるいは三酸化アンチモン粉末を加え均一溶液あるいは懸濁液を調製し、金属酸化物成型体に含浸してから蒸発乾固し、あるいは金属酸化物粉末、ゾル等と混合して加熱攪拌、濃縮、蒸発乾固を行い、80〜230℃で乾燥処理し、必要により、破砕あるいは成型してサイズ調整し、300〜700℃で焼成することにより得られる。この乾燥及び焼成を行う際の雰囲気には特に制限はなく、大気中でも、高酸素濃度又は低酸素濃度雰囲気中でも、また還元性ガス雰囲気中でも、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中でも、更には真空中でも行うことができる。これらは上記触媒調製時に使用した原料の特性等に応じて適宜選択できる。
【0015】
上記触媒の調製に用いられる原料には特に制限はないが、タングステンとしてはメタタングステン酸アンモニウム水溶液、パラタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン等が好適に用いられ、アンチモンとしては三酸化アンチモン、アンチモン酸ゾル、酒石酸アンチモン水溶液等が好適に用いられる。これらの中でもタングステンとしてはメタタングステン酸アンモニウム水溶液が、アンチモンとしては三酸化アンチモン、及び、酒石酸アンチモン水溶液が好ましい。
上記タングステンの触媒中での含有割合としては、質量基準で触媒を100としたとき、10以上とすることが好ましく、また、60以下とすることが好ましい。より好ましくは、15以上であり、また、40以下である。上記アンチモンの触媒中での含有割合としては、質量基準で触媒を100としたとき、1以上とすることが好ましく、また、20以下とすることが好ましい。より好ましくは、2以上であり、また、10以下である。
また、これら以外に触媒成分として任意に添加する元素についても、硝酸塩、硫酸塩、酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩、有機酸塩、金属酸素酸、金属酸素酸アンモニウム塩、ヘテロポリ酸など特に制限なく原料を選択できる。
【0016】
本発明の気相酸化反応を行う際の原料としては、アルキルベンゼン類及び分子状酸素のほかに、必要に応じて、希釈ガスを用いる事ができる。分子状酸素源としては、空気又は純酸素が使用される。分子状酸素は通常、アルキルベンゼン類1モルに対して、5〜100モルの割合で用いる。希釈ガスとしては、窒素、ヘリウム、炭酸ガス等の不活性ガスや水蒸気等が好適に用いられる。
【0017】
本発明の気相酸化反応を実施する際の反応条件には特に制限はなく、例えば、空間速度1000〜200000h-1、反応温度350〜650℃の条件下に上記原料ガスを本発明の酸化用触媒に接触させればよい。好ましくは空間速度10000〜100000h-1、反応温度は450〜600℃である。上記反応は通常常圧かやや加圧で行うが、高圧下、減圧下いずれでも実施することができる。反応方式についても特に制限はなく、固定床式、移動床式又は流動床式のいずれでもよい。また単流方式でもリサイクル方式でもよい。
【0018】
本発明のアルキルベンゼン類酸化用触媒は、アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して、対応する芳香族アルデヒドを高収率で製造できるものであるが、好ましい実施形態としては、空間速度10000〜100000h-1、かつ、反応温度520〜580℃の条件下での反応で使用される場合に、芳香族アルデヒドの収率が50モル%以上となるようにすることである。50モル%未満であると、テレフタルアルデヒド(TPAL)等の有用な芳香族アルデヒドを工業的に廉価に製造することができなくなるおそれがある。より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは65モル%以上、特に好ましくは70モル%以上である。
【0019】
本発明のアルキルベンゼン類酸化用触媒は、アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して対応する芳香族アルデヒドを製造する際に用いられるものであるが、このような触媒を使用する芳香族アルデヒドの製造方法も本発明の一つである。
【0020】
【実施例】
以下実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお反応における転化率、選択率及び単流収率は、それぞれ以下のように定義される。
転化率(モル%)=(反応した原料のモル数/供給した原料のモル数)×100
選択率(モル%)=(生成した各化合物のモル数/反応した原料のモル数)×100
単流収率(モル%)=(生成した各化合物のモル数/供給した原料のモル数)×100
【0021】
実施例1
アンチモン原料として酒石酸アンチモン水溶液をまず調製した。L−酒石酸150.0gを310mlの水に溶解し、これに三酸化アンチモン36.5gを添加し、加熱還流を行い溶解させた。これに少量の水を加え、全体の質量を500gに合わせ、Sb濃度0.5mmol/gの酒石酸アンチモン水溶液を得た。この酒石酸アンチモン水溶液11.25gに、メタタングステン酸アンモニウム水溶液(WO3として50質量%含有)10.42gを加え均一含浸液を得た。
酸化ニオブ粉末(BET比表面積4.9m2/g)10.0gを上記含浸液に加え、加熱攪拌を行い、約2時間かけて蒸発乾固を行った。これをN2流通中260℃で16時間加熱乾燥処理を行ったあと破砕し、16〜30メッシュに分級したものを、大気中580℃で2時間焼成処理を行った。得られた触媒の組成は39質量%W1Sb0.25OX/Nb2O5であった。
【0022】
この触媒0.5gを通常の流通式反応装置に充填し、下記の条件下で反応を行った。反応時の空間速度(SV)及び反応結果を表1に示す。
【0023】
反応圧:常圧
反応ガス組成:p−キシレン/Air(空気)=0.8/99.2
(p−キシレン/O2=1/25.8)
反応ガス供給速度:180ml(標準状態)/min
反応温度:560℃
【0024】
実施例2〜4
酸化ニオブの代わりにそれぞれ酸化タンタル粉末(BET比表面積2.5m2/g)、酸化ジルコニウム粉末(BET比表面積8.8m2/g)、酸化チタン粉末(アナターゼ型、BET比表面積20.0m2/g)10.0gを使用した以外は実施例1と同様に触媒調製を行った。
【0025】
これらの触媒各0.2g(実施例2、実施例3)、0.3g(実施例4)を使用した以外は、実施例1と全く同じ反応条件で、反応を行った。SV及び反応結果を表1に示す。
【0026】
比較例1
酸化ニオブを使用しなかった以外は実施例1と同様に触媒調製を行った。得られた触媒の組成はW1Sb0.25OXであった。この触媒0.5gを使用し、実施例1と全く同じ反応条件で、反応を行った。SV及び反応結果を表1に示す。
【0027】
比較例2〜5
酸化ニオブの代わりにそれぞれ酸化アルミニウム粉末(BET比表面積0.8m2/g)10.0g、シリカゾル(日産化学スノーテックスーO、SiO2として20.5質量%含有)48.8g、酸化亜鉛粉末(BET比表面積3.9m2/g)10.0 g、酸化スズ(BET比表面積2.5m2/g)10.0gを使用した以外は実施例1と同様に触媒調製を行った。
【0028】
この触媒各0.5gを使用し、実施例1と全く同じ反応条件で、反応を行った。SV及び反応結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例5
焼成温度を640℃に変更した以外は実施例4と同様に触媒調製を行った。この触蝶1.0gを使用し、反応温度を550℃とした以外は実施例1と同様に反応を行った。SVは12000h-1であった。反応結果は、p−キシレン転化率90.2モル%、テレフタルアルデヒド選択率68.7モル%、トルアルデヒド選択率5.1モル%、テレフタルアルデヒド単流収率62.0モル%、トルアルデヒド単流収率4.6モル%であった。
【0031】
比較例6
Sbを加えなかった以外は、実施例5と同様に触媒調製を行った。この触媒1.0gを使用し、実施例5と同じ反応条件で反応を行った。反応結果は、p−キシレン転化率100モル%で、テレフタルアルデヒド、トルアルデヒドの生成はなく、CO及びCO2のみが生成した。
【0032】
実施例6
酸化チタン粉末をアナターゼ型からルチル型(BET比表面積1.0m2/g)に変更した以外は実施例5と同様に触媒調製を行った。この触媒1.0gを用い、反応温度を570℃とした以外は実施例5と同様の反応条件で反応を行った。この時SVは10500h-1であった。反応結果を表2に示す。
【0033】
実施例7〜11
実施例6の触媒において、酒石酸アンチモン水溶液及びメタタングステン酸アンモニウム水溶液に更に硝酸亜鉛水溶液(実施例7)、硝酸コバルト水溶液(実施例8)、硝酸ニッケル水溶液(実施例9)、硝酸カルシウム水溶液(実施例10)、硝酸カリウム水溶液(実施例11)をそれぞれ加えて含浸液を調製した以外は実施例6と同様に触蝶を調製し、各触媒について、1.0gの触媒を用い、実施例6と同じ反応条件で反応を行った。W1Sb0.25に加えた添加金属の組成と、反応結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
【発明の効果】
本発明のアルキルベンゼン類酸化用触媒は部分酸化性能に優れ、アルキルベンゼンから対応する芳香族アルデヒドを高収率で製造することができる。
Claims (2)
- アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して対応する芳香族アルデヒドを製造するための触媒であって、タングステン及びアンチモンを含み、更にニオブ、タンタル、ジルコニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物又は2種以上の金属の複合酸化物を含む
ことを特徴とするアルキルベンゼン類酸化用触媒。 - アルキルベンゼン類を分子状酸素の存在下に気相酸化して対応する芳香族アルデヒドを製造する方法であって、請求項1に記載の触媒を使用することを特徴とする芳香族アルデヒドの製造方法。
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