JP3909383B2 - 低アルコール飲料の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低アルコール飲料の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
アルコール度数の低い飲料、即ち、低アルコール飲料を製造する方法は、大別して三通りの方法がある。即ち、高アルコール度数の原酒若しくは原もろみに加水する第一の方法、高アルコール度数の原酒若しくは原もろみを逆浸透や減圧蒸留により低アルコール化する第二の方法、もろみ発酵を制御してのアルコールの生成を低い段階で終える第三の方法である。
【0003】
第一の方法は、清酒を始めとしたデンプン質原料を用いた低アルコール飲料の製造として最も一般的に用いられる方法で、加水するだけである為、工程が簡単で任意のアルコール度数を容易に実現できる。しかし、この加水によって成分が希釈されてしまう為、加水に伴う香味の変化が大きく、香味のうすいコクのない酒質になりやすいという欠点がある。
【0004】
第二の方法は、第一の方法の欠点を解決できる方法で、例えば原酒の逆浸透膜装置による処理((1)特開昭59-183686号や(2)特開昭62-61579号)、減圧蒸留による処理((3)特開昭61-100183号)、多孔性疎水膜処理((4)特開昭58-78578号)が提案されているが、いずれも特殊な装置に係る多額の設備投資を必要とし、中小企業では採算に合わないという欠点がある。
【0005】
第三の方法は、上記加水による香味変化の恐れや多額の設備投資の問題はないが、例えば常法の仕込みにおいてもろみの発酵を途中で終了させ、低アルコール度数とする場合、いわゆる未熟もろみとなり、製品にジアセチルやアセトアルデヒド等の異臭成分の生成の危険性があるなど、アルコール生成の低い段階での発酵終了に由来する異臭の発生や、発酵制御に伴う成分が香味劣化の危険性を孕んでおり、品質の安定性に問題がある。
【0006】
このように従来の低アルコール飲料の製造方法は何らかの問題点を抱えており、実用性が乏しかった。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するもので、高額な設備投資を必要とせず、簡単な工程でありながら、低アルコールでコクがあり、品質の安定したアルコール飲料を製造することができる実用性に秀れた低アルコール飲料の製造方法を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨を説明する。
【0009】
米,麦,ヒエ,アワなどの穀類を原料として低アルコール飲料を製造する方法であって、通常の仕込み配合より麹歩合を小さくし、この麹歩合の減少分の代わりにデンプン分解酵素剤としてα−アミラーゼを採用し、このデンプン分解酵素剤α−アミラーゼと麹との混合物を使用することでもろみ中の糖組成を前記α−アミラーゼの作用によってマルトース及びマルトオリゴ糖を主体とすると共にグルコースを少量とし、この少量のグルコースを酵母により発酵させて多数のマルトオリゴ糖を含み且つピルビン酸含量が少ない低アルコール飲料を製造することを特徴とする低アルコール飲料の製造方法に係るものである。
【0010】
また、請求項1記載の低アルコール飲料の製造方法において、酵母として、Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス セレビシェ)に属し、主としてグルコースを発酵させ、マルトース及びマルトオリゴ糖を発酵させ無いか若しくは微弱に発酵させる酵母を使用したことを特徴とする低アルコール飲料の製造方法に係るものである。
【0011】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の低アルコール飲料の製造方法において、酵母による発酵は、発酵を途中で終了させることなく常法で完全に発酵させる方法を採用したことを特徴とする低アルコール飲料の製造方法に係るものである。
【0012】
【発明の作用及び効果】
仕込み時に、α−アミラーゼと麹を使用し、もろみ中のデンプンから主にマルトースやマルトオリゴ糖を生成させ、グルコースの生成を少量にすると、もろみ中の糖組成はマルトース及びマルトオリゴ糖が主体となり、グルコースは少量となる。
【0013】
この少量のグルコースを酵母により発酵してアルコールとすることで、発酵を途中で終了させることなく低アルコール飲料を得ることができる。
【0014】
また、この際に使用する酵母として、デンプン分解によって生成される前記マルトースやマルトオリゴ糖を発酵する能力が可及的に弱い酵母(例えば、Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス セレビシェ)に属する協会1001号酵母。)を使用すると、マルトースやマルトオリゴ糖から生成されるアルコールが可及的に少なくなり、よって、より一層低アルコールとすることができる。更に、もろみ中にオリゴ糖が発酵せずに残留するから、低アルコール飲料にコクを与え、水っぽさを感じさせなくなる。
【0015】
また、酵母による発酵を途中で終了させることなく常法で完全に行なう方法を採用すれば、発酵途中で生成されるジアセチル臭等の問題も全くない。
【0016】
本発明は上述のようにするから、加水による酒質の希薄化がなく、実施に専用設備が必要でなく通常のアルコール飲料と同様に仕込むことが可能であり、発酵を途中終了しないから異臭発生の危険性もなく、従来の問題点を全て解決することができ、高額な設備投資を必要とせず、簡単な工程でありながら、低アルコールでコクがあり、品質の安定したアルコール飲料を製造することができる実用性に秀れた低アルコール飲料の製造方法となる。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の実施例について、以下に説明する。
【0018】
本実施例は、米,麦,ヒエ,アワなどの穀類を原料としてアルコール飲料を製造する方法であって、通常の仕込み配合より麹歩合を小さくし、この麹歩合の減少分の代わりにデンプン分解酵素剤を使用することで、もろみ中の糖組成を、マルトース及びマルトオリゴ糖主体で且つグルコースを少量とし、このわずかに生成されるグルコースを酵母により発酵して低アルコール飲料を製造するものである。
【0019】
デンプン分解酵素剤としては、α−アミラーゼを使用する。
【0020】
このデンプン分解酵素剤は、もろみ中の穀類が有するデンプンを、主にマルトースとマルトオリゴ糖(マルトース,マルトトリオース,マルトテトラオースなど。)に分解する性質を有する為、仕込み時、即ち、穀類の発酵の際、もろみ中の糖組成は、マルトース及びマルトオリゴ糖が主体となり、グルコースが少量となる。
【0021】
また、このデンプン分解酵素剤は、単体で使用しても麹と一緒に使用しても良い。
【0022】
この糖組成がマルトース及びマルトオリゴ糖主体で且つグルコースが少量のもろみを酵母により発酵すると、アルコールに誘導されるグルコースが少量の為、発酵を途中で終了させることなく、常法で完全に発酵させても、生成されるアルコール量は少なく、低アルコール度数のアルコール飲料が得られる。
【0023】
また、酵母として、グルコース以外のデンプン分解産物、即ち、前記主に生成されたマルトースやマルトオリゴ糖を発酵しないか、僅かしか発酵しない性質を有する酵母、例えば、協会1001号酵母を併用することにより、より一層低アルコール度数のアルコール飲料が得られる。また、もろみ中にマルトースやマルトオリゴ糖が発酵せずに残留する為、この低アルコール飲料にコクが与えられ、且つ、水っぽさも感じられなくなる。
【0024】
尚、グルコースを発酵する能力とマルトースやマルトオリゴ糖を発酵する能力とを有する酵母(例えば、協会9号酵母。)を使用しても、アルコール濃度にバラツキはあるものの、低アルコール飲料を得ることができた。
【0025】
以下、具体的な実験例について詳述する。
【0026】
1.仕込み方法
【0027】
下記表1に示す仕込み配合及び仕込み温度に従い、総米2Kgの小仕込み試験を実施した。
【0028】
酵素剤は、市販食品添加用のα−アミラーゼ(アミラーゼK・アマノ、天野製薬製)を用いた。
【0029】
本実施例に使用する酵母には、マルトースやマルトオリゴ糖の発酵性がないか若しくは当該発酵性が非常に弱い性質を有する方がベターな為、この条件に見合う酵母の検索を試みたところ、協会1001号酵母(参考文献:稲橋,吉田、醸協,87,858(1992))がその性質を有していることが判明した。従って、試験醸造には協会1001号酵母を用いた。
【0030】
温度は、冷却機能つきインキュベーター(三洋電気製)を用いて制御し、留後1日1℃庫内温度を上昇させ最高品温を15℃とし、経時的に生成する二酸化炭素の放出による減量を測定し、減量が600gを越えた時点を上槽(しぼり)の目安として実施した。上槽は、遠心分離(6000rpm、15分)により行った。また、経時的にもろみ約10mlを採取し、分析試料とした。なお、常法どおりの仕込み配合のものを対照とした。
【0031】
【表1】
【0032】
2.結果
【0033】
(1)小仕込みの発酵経過及び生成酒の特性
前記1.の方法に従い、仕込み試験を行った。仕込みの温度及び重量減量の経時的変化を下記表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
この表2に示す通り、本実施例による仕込みのもろみと対照仕込みのもろみとで重量減量に大きな差が生じていることが判明した。一般に、二酸化炭素の放出による重量減量とアルコール生成量とは比例関係にあるので、本実施例による仕込みでは、アルコールの生成が少ないことが示された。
【0036】
また、発酵終了後の製成酒の分析結果を下記表3に示す。分析は、「国税庁所定分析法」(第4回改正国税庁所定分析法注解)により行った。
【0037】
【表3】
【0038】
この表3に示す通り、対照酒と比較して、本実施例は、日本酒度,アルコール分,アミノ酸度に差がみられた。特に、アルコール分は対照の約55%、アミノ酸度は約32%と、大きく減少していた。このことから、本実施例を用いることによって、簡便に低アルコール飲料が製造可能であることが判明した。
【0039】
また、発酵途中及び製成酒中に含まれる糖類について、薄層クロマトグラフィーを用いて定性を行った。その結果を表4及び表5に示す。
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
この表4及び表5に示す通り、対照酒中における主要糖組成はグルコースであるのに対して、本実施例により生成された清酒中には、多数のマルトオリゴ糖の存在が確認された。本実施例では、マルトオリゴ糖により味の薄さを補うことを特徴としており、この結果は、これを裏付けるものである。
【0043】
なお、6名のきき酒パネラーによる官能検査の結果、「甘く口当たりよい」、「清酒様の風味少なく軽い」など良好な評価が得られた。
【0044】
(2)仕込み経過におけるもろみ及び生成酒中のピルビン酸量の変化
【0045】
これまでの低アルコール化技術では、未熟なもろみを上槽することによる弊害として不快臭(ジアセチル臭)が発生する危険性を孕んでいた。この原因は、未熟もろみ中に存在するピルビン酸を前駆体として発生する、ジアセチルによるものである。そこで、本仕込におけるピルビン酸量の経時的変化を、酵素法(ピルビン酸定量キット、ナカライテスク社製)により定量した。
【0046】
【表6】
【0047】
この表6に示す通り、上槽時のピルビン酸含量は対照とほとんど差が無く、この値は、ジアセチル臭発生の目安とされる100mg/lを大きく下回っていた。よって、本実施例の製造方法を用いることにより、従来技術において問題となっていた、「不快臭の発生」を防ぎつつ、低アルコール飲料を製造することが可能であることが判明した。
【0048】
以下、得られた知見をまとめる。
【0049】
ア 通常の仕込み配合より麹歩合を小さくし、それを補う目的で使用する酵素剤として、α−アミラーゼなどの液化酵素剤を主体とした酵素剤又は当該酵素剤と麹を使用して仕込みを行い、マルトース及びマルトオリゴ糖の発酵性がないか、あるいは微弱である酵母(例えば、前記協会1001号酵母。)を組み合わせて発酵させることにより、アルコールが低濃度で、且つ、コクがあり、味の薄さを感じさせないアルコール飲料が製造可能であることが明らかとなった。
【0050】
イ 本実施例ではもろみを未熟なまま上槽することがないため、未熟なもろみを強制的に上槽した場合に問題となる、不快臭(例えば、ジアセチル臭。)の発生を防止することができる。
【0051】
ウ 製造工程において特殊装置を必要としないため、新規設備投資の必要がない。
【0052】
尚、本実施例のように酵素剤を使用した低アルコール酒製造に関しては、α−アミラーゼ,トランスグルコシダーゼ及び酸性プロテアーゼを用いた方法(特公昭62-10635)があるが、この方法はトランスグルコシダーゼによるグルコース転移により発酵性の糖生成を抑制して通常の酵母で発酵させること、酸性プロテアーゼの使用などで本実施例と本質的に異なる。
Claims (3)
- 米,麦,ヒエ,アワなどの穀類を原料として低アルコール飲料を製造する方法であって、通常の仕込み配合より麹歩合を小さくし、この麹歩合の減少分の代わりにデンプン分解酵素剤としてα−アミラーゼを採用し、このデンプン分解酵素剤α−アミラーゼと麹との混合物を使用することでもろみ中の糖組成を前記α−アミラーゼの作用によってマルトース及びマルトオリゴ糖を主体とすると共にグルコースを少量とし、この少量のグルコースを酵母により発酵させて多数のマルトオリゴ糖を含み且つピルビン酸含量が少ない低アルコール飲料を製造することを特徴とする低アルコール飲料の製造方法。
- 請求項1記載の低アルコール飲料の製造方法において、酵母として、Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス セレビシェ)に属し、主としてグルコースを発酵させ、マルトース及びマルトオリゴ糖を発酵させ無いか若しくは微弱に発酵させる酵母を使用したことを特徴とする低アルコール飲料の製造方法。
- 請求項1,2いずれか1項に記載の低アルコール飲料の製造方法において、酵母による発酵は、発酵を途中で終了させることなく常法で完全に発酵させる方法を採用したことを特徴とする低アルコール飲料の製造方法。
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JP21706399A JP3909383B2 (ja) | 1999-07-30 | 1999-07-30 | 低アルコール飲料の製造方法 |
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JP3707615B2 (ja) * | 2003-03-25 | 2005-10-19 | 独立行政法人酒類総合研究所 | 低アルコール清酒の製造法 |
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1999
- 1999-07-30 JP JP21706399A patent/JP3909383B2/ja not_active Expired - Lifetime
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