JP3904175B2 - ローラベアリング用リテーナ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ローラ(径の小さいニードルを含む)ベアリングにおいて各ローラ(ニードル)をそれぞれ回転自在に保持するための保持器であるリテーナに関し、特に、船外機用エンジンに使用されるローラベアリングで、全体として環状となるように半円アーチ状に二分割されているローラベアリング用リテーナに関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジンのクランク軸(クランクピンの部分)とコンロッド(大端部の部分)の間に介装されるローラ(ニードル)ベアリングでは、クランクピンとクランクアームが一体的に形成されたクランク軸の場合、各ローラを保持するリテーナ(保持器)の部分が環状に一体化されているとクランクピンに装着することができないことから、そのようなクランク軸に対しては、リテーナの部分を全体としては環状となるように半円アーチ状に二分割したようなローラベアリングが従来から一般的に使用されている。
【0003】
そのような二分割したリテーナによる従来のローラベアリングでは、分割された各部分同士を合わせたリテーナ全体の外周形状が、リテーナを分割していないローラベアリングの場合と同様に、略真円形となるように形成されており、そのように形成されたリテーナの金属表面に対して、リテーナの金属材料と馴染み性の良い銀メッキ等により、摩擦抵抗を減らすためのコーティング処理が施されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記のような従来のローラベアリングでは、リテーナが二分割されていることから、エンジンの運転時には、分割されたリテーナの各部分は、分割面が外方に開くようにそれぞれ変形して、リテーナの外周が分割部の付近で局部的にコンロッドの内面に強く当たって線接触する形となり、その結果、当該部分でリテーナの摩擦摩耗が早められることとなる。
【0005】
特に、船外機用のエンジンでは、ケロシンを燃料として使用した場合に、ケロシンがオイル分を洗い流した無潤滑の状態で、上記のようなリテーナの摩擦摩耗が起きると、リテーナの金属表面に摩擦抵抗を減らすためにコーティングされている銀メッキが短時間(50〜100時間位)で磨滅してリテーナが焼き付き、リテーナの柱折れからベアリング全体の焼き付きとなることがある。
【0006】
本発明は、上記のような問題の解消を課題とするものであり、具体的には、リテーナを二分割したローラベアリングにおいて、分割されたリテーナの運転時における外周形状の変形に起因する焼き付きを防止できるようにすることを課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記のような課題を解決するために、所定の間隔を置いて各ローラをそれぞれ回転自在に保持するためのリテーナが、全体としては環状となるように半円アーチ状に二分割されているようなローラベアリングにおいて、リテーナの外周形状を、二分割された各部分の分割部の付近で、分割部に近づくに従って徐々に外径が小さくなって、全体として僅かに楕円形となるように形成すると共に、そのように形成したリテーナの金属表面に対して摩擦抵抗を減らすためのコーティング処理を施すことを特徴とするものである。
【0008】
上記のような構成によれば、(エンジンの)運転時に、分割されたリテーナの各部分が、分割面が外方に開くようにそれぞれ変形しても、変形して外方に膨出する分だけ予め外径が小さくなるように形成されていることで、(コンロッドの内面に対して)リテーナの外周が分割部の付近で局部的に強く当たるようなことなく、リテーナの外周全体で略均等に面接触することとなるため、コーティング層が短時間に磨滅してリテーナの焼き付きが起きるようなことはない。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のローラベアリング用リテーナの実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るリテーナを備えたローラベアリングを示すもので、図1(A)は、その回転軸線方向から見た全体の外観を示し、図1(B)は、図1(A)のB−B線に沿った断面を示すものである。
【0011】
ローラベアリング1は、回転軸線が互いに平行となるように配置される複数のローラ2と、各ローラ2を円周方向に沿って所定の間隔を保った状態でそれぞれ回転自在に保持するためのリテーナ3とからなるものであって、リテーナ3は、全体としては環状(長さの短い円筒状)となるように、半円アーチ状の各部分3a,3bに二分割されている。
【0012】
二分割された各部分3a,3bからなるリテーナ3の全体の外周形状について、本実施形態では、各部分3a,3bの分割部の付近で、分割部に近づくに従って徐々に外径が小さくなるように滑らかに削られた状態で、全体としては僅かに楕円形となるように形成されており、そのように形成されたリテーナ3の金属表面に対して摩擦抵抗を減らすためのコーティング処理が施されている。
なお、リテーナ3の全体の外周形状の楕円は真円と比べて僅かなものであり、図1(A)では明瞭ではないが、極端な形で示すと図2(A)のようになる。
【0013】
図2は、上記のような本実施形態のリテーナ3について、(A)使用する前の状態(エンジン停止時の状態)と(B)使用中の状態(エンジン運転時の状態)とをそれぞれ極端な形で比較して示すものであり、また、図3は、従来のリテーナ31について、図2と同様に各状態をそれぞれ示すものである。
【0014】
本実施形態のリテーナ3では、使用する前(エンジン停止時)には、図2(A)に示すように、その全体としての外周形状が僅かに楕円形となっているが、使用中(エンジン運転時)には、図2(B)に示すように、分割されたリテーナの各部分3a,3bが、分割面が外方に開くようにそれぞれ変形することで、(変形して外方に膨出する分だけリテーナ3の外周が予め滑らかに削られていることから)リテーナ3の外周形状が略真円形となって、(コンロッドの内面に対して)リテーナ3の外周が分割部の付近で局部的に強く当たるようなことはない。
【0015】
また、外周形状が楕円形に削られた状態で、リテーナ3の金属表面には摩擦抵抗を減らすためのコーティング処理が施されていることから、変形して略真円形となったリテーナ3の外周全体が(コンロッドの内面に対して)コーティング層を介して略均等に面接触することとなり、そのため、コーティング層が短時間で急速に摩擦摩耗することはなく、長時間使用してもリテーナ3の焼き付きが起きることはない。
【0016】
これに対して、従来のリテーナ31では、図3(A)に示すように、分割された各部分31a,31b同士を合わせたリテーナ31全体の外周形状が、リテーナを分割していないローラベアリングの場合と同様に、略真円形となるように形成されており、そのように形成されたリテーナ31の金属表面に対して摩擦抵抗を減らすためのコーティング処理が施されている。
【0017】
そのような従来のリテーナ31では、使用中(エンジン運転時)には、図3(B)に示すように、分割されたリテーナの各部分31a,31bが、分割面が外方に開くようにそれぞれ変形することで、(コンロッドの内面に対して)変形して外方に膨出した部分でリテーナ31の外周が局部的に強く当たることとなり、その結果、当該部分での線接触による摩擦摩耗によりコーティング層が短時間に磨滅してリテーナ31が焼き付き、そのような焼き付きによるリテーナの柱折れによってベアリング全体の焼き付きが起きることとなる。
【0018】
ところで、本実施形態では、リテーナ3の金属表面に施されるコーティング処理が、テフロン加工等による樹脂製コーティングであって、そのようなリテーナ3を備えたローラベアリング1は、船外機に搭載されている船外機用エンジンに使用されている。
【0019】
図4は、そのようなローラベアリング1が使用されているエンジンを搭載した船外機の一例を示すもので、トップカウル6とアッパーケース7とロアーケース8とからなるハウジング部分を有する船外機5には、そのトップカウル6内にエンジン9が収納され、ロアーケース8にスクリュー10が軸支されていて、船外機5の操舵軸11を水平方向で回動可能に支持するスイベルブラケット12と、船体の後尾板13に着脱可能に固定されるクランプブラケット14とが、その上部でチルト軸15により上下方向で回動可能に連結されていることで、船外機5は上下方向と水平方向でそれぞれ回動可能なように船体の後尾板13に対して取り付けられている。
【0020】
そのような船外機5のトップカウル6内には、図5に示すように、クランク軸17の軸線が機体の上下方向となるように、縦方向に各気筒が配列された多気筒のエンジン9が設置されており、そのようなエンジン9の各気筒において、クランク軸17のクランクピン部分とコンロッド18の大端部との間に、本実施形態のリテーナを備えたローラベアリング1がそれぞれ介装されている。
【0021】
上記のように船外機用エンジンに使用され、且つ、金属表面に施すコーティング処理を、テフロン加工等による樹脂製コーティングとしているような本実施形態のローラベアリング用リテーナ3によれば、既に述べたような従来のリテーナ31との外周形状の違いによる効果を奏するだけでなく、更に、以下に述べるような船外機用としての格別の効果を奏することとなる。
【0022】
すなわち、従来、船外機用のエンジンにおいて、クランク軸のクランクピンとコンロッドの大端部との間に介装されているローラベアリング(ニードルベアリング)に使用されるリテーナついては、通常、その金属表面に施されるコーティング処理が、リテーナの金属材料と馴染みのよい銀メッキであった。
【0023】
ところが、そのような銀メッキによるコーティングでは、船外機内に海水が入ってベアリングの部分に塩水が付着すると、リテーナの銀メッキとローラ(ニードル)の鉄との電位差により、塩水による電蝕でクランク軸の軸受面を腐食させてその耐久性を著しく損なうと共に、クランク軸の軸受面の腐食により、結果的にはベアリング自体の耐久性も低下することとなる。
【0024】
また、ケロシンを燃料として使用することのある船外機用のエンジンでは、燃料のケロシンがクランク軸の軸受部に流れて、ケロシンが軸受部のオイル分を洗い流してしまうことがあり、そうなるとクランク軸の軸受部が無潤滑に近い状態となって、銀メッキによるコーティング処理のようなものでは、短時間にコーティングが摩擦摩耗して焼き付きを起こすこととなる。
【0025】
そのような船外機に特有の問題に対して、リテーナの金属表面に施すコーティング処理を、テフロン加工等による樹脂製コーティングとすることにより、上記のような塩水による電蝕の問題や、ケロシンによる無潤滑の問題を解消することができると共に、既に述べたような従来のリテーナとの外周形状の違いによる効果が加わることで、船外機におけるローラベアリング(ニードルベアリング)の寿命を大幅に延ばすことができるようになる。
【0027】
【発明の効果】
以上説明したような本発明のローラベアリング用リテーナによれば、分割されたリテーナの各部分が運転時に変形しても、リテーナの外周は、局部的に強く当たるようなことなく全体がコーティング層を介して略均等に面接触するため、運転時の外周形状の変形に起因するリテーナの焼き付きを防止することができて、ローラベアリングの寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のリテーナを備えたローラベアリングについて、(A)回転軸線方向から見たベアリングの外観全体を示す平面図、および(B)図1(A)のB−B線に沿った断面図。
【図2】本発明のリテーナについて、(A)使用する前の状態(エンジン停止時の状態)、および(B)使用中の状態(エンジン運転時の状態)のそれぞれを極端な形で比較して示す説明図。
【図3】従来の(二分割した)リテーナについて、(A)使用する前の状態(エンジン停止時の状態)、および(B)使用中の状態(エンジン運転時の状態)のそれぞれを極端な形で比較して示す説明図。
【図4】本発明のリテーナを備えたローラベアリングが使用されているエンジンを搭載した船外機の外観を示す側面図。
【図5】図5に示した船外機のエンジンにおけるローラベアリングの使用部分を示す部分断面側面図。
【符号の説明】
1 ローラベアリング
2 ローラ
3 リテーナ
3a,3b 二分割されたリテーナの各部分
Claims (1)
- 所定の間隔を置いて各ローラをそれぞれ回転自在に保持するためのリテーナが、全体としては環状となるように半円アーチ状に二分割されている、船外機用エンジンに使用されるローラベアリングにおいて、リテーナの外周形状が、二分割された各部分の分割部の付近で、分割部に近づくに従って徐々に外径が小さくなって、全体としての外周形状が僅かに楕円形となるように形成されていると共に、そのように形成されたリテーナの金属表面に対して、摩擦抵抗を減らすために、樹脂製コーティング材によるコーティング処理が施されていることを特徴とするローラベアリング用リテーナ。
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