JP3897366B2 - ビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類、そのエポキシ樹脂、およびそれらの製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明はビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン異性体混合物またはビス(ヒドロキシ−メチル−ベンジル)ベンゼン異性体混合物、そのエポキシ樹脂、およびそれらの製造方法に関する。本発明のビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類は、ポリエステル、ポリカーボネート、フェノール樹脂、ウレタン、ゴム添加剤、顕色剤、酸化防止剤、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂の硬化剤等巾広く利用可能であり、これから誘導されたエポキシ樹脂は、耐熱性、機械的物性、成形性に優れ、注型用、積層用、塗料用、半導体封止用等、多方面に利用可能である。
【0002】
【従来の技術】
従来、ビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類を製造する例は、ケミカルアブストラクツ、66巻、1858頁;19106 y(1967年)に、p−ビス(p−ヒドロキシベンゾイル)ベンゼンを還元してp−ビス(p−ヒドロキシベンジル)ベンゼンを得る方法が、また、ケミカルアプストラクツ、72巻、34頁;32610 b(1970年)に、p−ビス(クロロメチル)ベンゼンとフェノールからp−ビス(p−ヒドロキシベンジル)ベンゼンを得る方法が記載されている。
前者の還元により製造する方法は、アニソールとテレフタロイルクロリドを出発原料とし、縮合、加水分解、還元反応と三段階の反応を経て製造されるので工業的に不利である。
後者のビス(クロロメチル)ベンゼンとフェノールを原料として製造する方法は工程的に有利である。しかしながら、フェノールまたはクレゾール類と、ビス(クロロメチル)ベンゼンのようなアラルキル化合物の反応では、2官能または3官能の原料化合物によるフリーデルクラフツ縮合反応であるため、フェノール類の過剰で実施したとしても、樹脂となることが知られている(特公昭47−15111号公報)。一方、高分子化を抑制する目的で、フェノールの大過剰で行う方法も開示されているが、この方法で実施したとしても、オリゴマー組成物が得られている(特開昭63−238129号公報)。
【0003】
また、フェノールは水酸基に対するオルソ、パラ位が反応点であり、反応性はオルソ位がパラ位よりも高いことが一般的である。このため、特殊な例を除き、単一化合物を得ることは、はなはだ困難である。
従って、フェノールまたはクレゾール類とアラルキル化合物から有用なビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類を得る方法は、樹脂ないしオリゴマー組成物から単離する方法が考えられる。しかしながら、このような組成物から単離する方法はかなり厄介な問題を有する。即ち、抽出や再結晶方法では目的物が得られたとしても、極めて低収量であり、現実的でない。また、蒸留による方法では、高温、高真空下で行う必要があり、このような条件下では、結合の解裂が生じ、目的物の収量減や残査の高分子化が生じ好ましくない。
【0004】
一方、このようなビスフェノール化合物の重要な用途のひとつとして、エポキシ樹脂の原料がある。従来、ビスフェノールのエポキシ化物としては、ビスフェノールAやビスフェノールFのようなフェノールをケトンやアルデヒドで縮合させたもののエポキシ樹脂が典型的である。しかしながら、これら、従来用いられてきたようなエポキシ樹脂の性能は、近年の高度な要求性能に対応できなくなっているのが実情である。即ち、複合材マトリックス樹脂として、前記のエポキシ樹脂を用いた場合、耐熱性、接着性、作業性等に優れる反面、複合材に求められる重要な性能では不十分であり、改良が求められている。これらは、例えば、複合材では外部応力として、応力集中等の瞬間的な衝撃に耐えることが重要である。このため、理想的にはゴムのような弾性変形することが要素として注目されている。このような弾性変形を判断する基準としては、特にマトリックス樹脂の破断時の伸びが重要である。マトリックス樹脂の伸びが大きい程、複合材で要求されるガラス繊維、カーボン繊維、シリカ等の補強剤の欠点を補うことができる。すなわち、複合材全体として強度向上になる。また、これらの複合材のマトリックス樹脂においては、長期間の保存安定性や熱安定性も重要であり、このような要素としては、マトリックス樹脂の耐酸化安定性や耐水性(低吸湿性)がある。
【0005】
前記、エポキシ樹脂では、これらの求められている要素に対して性能が不十分なため、使用に制限を受けることが多い。このような要素の改良は、主として構造に由来することが一般的であり、近年、この改良のためには、キシリレン結合によるフェノール樹脂構造が有効であると提案されている(特開昭63−238122号公報、特開平5−148333号公報)。
しかしながら、これらのエポキシ樹脂では、油状の物が含まれるものの、常温での流動性がまだ不十分であり、改良が求められている。これはエポキシ樹脂の原体が樹脂状物であるため、エポキシ化時に更なる分子量の増大や三次元化が起こり、この結果として流動性が低下することによる。
一方、1,4−ビス(4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンのエポキシ化物については、前記ケミカルアブストラクツ、72巻、34頁,32610 b(1970年)に記載されている。これは、単一化合物のエポキシ化物であり、このような単一化合物を得る方法は、前述したように簡単ではなく、又、得られるエポキシ樹脂も粘稠、または、軟かい樹脂状であることが記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、耐熱性、機械的物性、成形性等に優れる液状のエポキシ樹脂を提供するため、このようなエポキシ樹脂の原料となるビスフェノール類を工業的に安価に製造することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、本発明を完成したものである。即ち、本発明はフェノールまたは、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾールおよび混合クレゾールから選ばれるクレゾール類と一般式(I)(化4)で表されるアラルキル化合物を酸触媒の存在下で反応させて得られる一般式(II)(化4)で表されるフェノールアラルキル樹脂組成物から、酸触媒成分を除去または失活させた後、真空蒸留して得られる一般式(III)(化4)で表されるビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン異性体混合物またはビス(ヒドロキシ−メチル−ベンジル)ベンゼン異性体混合物、および、これをエピクロルヒドリンと反応させて得られる液状エポキシ樹脂、並びに、それらの製造方法に関するものである。
【0008】
【化4】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を、Xはハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基を示し、nは0〜50の整数を示す)
【0009】
本発明の方法によれば、従来、製造の困難なビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類が、高純度、高収率で得られる。また、この方法で得られたビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類のほとんどが、異性体混合物として得られるため、これらから導かれるエポキシ樹脂は、液状で、低粘度であることも特徴のひとつである。このようなエポキシ樹脂を用いて先端材料用のマトリックス樹脂に利用する場合、その良好な含浸性から、無機または有機繊維やシリカのようなフィラーとのなじみがよいため、作業性が良好となるばかりか、機械強度等の性能面で高い水準を保ったバラツキの少ない複合材が得られる。
一方、このエポキシ樹脂の構造自体は、特開昭63−238122号公報に記載のように可撓性に富む構造であるため、マトリックスレジンとして低吸水性はもちろん、伸び率も大きいことが特徴である。又、このような有用なエポキシ樹脂を工業的に提供するうえで、その原料となるビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類が、安定的に、かつ、安価に供給できることが重要であるが、本発明の方法では、薄膜蒸留機を用いて連続的に製造できることも特徴として挙げられる。
【0010】
本発明の方法を具体的に詳述する。本発明のビス(ヒドロキシベンジル)ベンセン異性体混合物またはビス(ヒドロキシ−メチル−ベンジル)ベンゼン異性体混合物(本明細書においては、ビス(ヒドロキシベンジル)ベンセン異性体混合物またはビス(ヒドロキシ−メチル−ベンジル)ベンゼン異性体混合物を、ビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類とする)を得るための原料となるフェノールアラルキル樹脂組成物は、フェノールまたはo−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾールおよび混合クレゾールから選ばれるクレゾール類と、一般式(I)で表されるアラルキル化合物を、フリーデルクラフツ反応させることにより製造される。一般式(I)で表されるアラルキル化合物において、Xはハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基を示す。これらは、例えば、α,α’−ジクロロ−p−キシレン、α,α’−ジクロロ−m−キシレン、α,α’−ジクロロ−o−キシレン、α,α’−ジブロモ−p−キシレン、α,α’−ジブロモ−m−キシレン、α,α’−ジフルオロ−p−キシレン、α,α’−ジヒドロキシ−p−キシレン、α,α’−ジヒドロキシ−m−キシレン、α,α’−ジヒドロキシ−o−キシレン、α,α’−ジメトキシ−p−キシレン、α,α’−ジメトキシ−m−キシレン、α,α’−ジメトキシ−o−キシレン、α,α’−ジエトキシ−p−キシレン、α,α’−ジエトキシ−m−キシレン、α,α’−ジ−n−プロポキシ−p−キシレン、α,α’−ジ−n−ブトキシ−p−キシレン等が挙げられる。工業的には、α,α’−ジクロロキシレン類、α,α’−ジヒドロキシキシレン類およびα,α’−ジメトキシキシレン類が多用される。
【0011】
これらのアラルキル化合物1モルに対し、フェノール類は、通常1.2〜20モルの範囲、好ましくは2〜10、より好ましくは、3〜8モルの範囲で反応させた樹脂組成物が好ましく多用される。特開昭63−238129号公報には、樹脂組成物中のビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類の含量は、フェノール類を20倍モル使用した場合86モル%であり、10倍モルでは76モル%であると開示されており、樹脂組成物を得るための反応モル比は、目的物の収率と反応の容積効率を考慮して前記範囲から適宜選択すれば良い。
【0012】
このフリーデルクラフツ縮合反応では、通常、酸触媒が使用される。これらは無機または有機の酸であり、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、ギ酸、蓚酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ジエチル硫酸、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化鉄、スルホン酸型イオン交換樹脂、トリフルオロメタンスルホン酸、テヘロポリ酸等が挙げられる。これらの触媒の使用量は、通常、全原料に対し、0.001 〜5wt%である。
【0013】
本発明者らの検討の結果、これらの触媒の全量〜一部分が、樹脂組成物中に残存することにより、未反応フェノール類の蒸留回収および/または本願発明の目的であるビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類を蒸留取得する際に、結合の解裂や高分子化が生じ、得られる目的物の純度や収率の低下が生じることが判明した。例えば、含金属触媒を使用した場合、樹脂中にほぼ全量残存するので、このまま、高温で蒸留すれば、殆ど目的物は得られない。又、スルホン酸型のイオン交換樹脂の使用や有機スルホン酸類もスルホン酸残基が少量残存し、収率の低下の原因となる。更に、塩酸のような揮発性の触媒や蓚酸のような分解性の触媒でも、微量残存すると、場合によっては好ましい結果が得られない。
一般式(I)のアラルキル化合物で、Xが塩素原子のようなハロゲン原子の場合、無触媒でも縮合反応が進行することが判っている。このようなケースでは塩化水素等のハロゲン化水素ガスが多量に生成するため、完全に除去できない場合が多く、良好な結果が得られ難い。
本発明は、このような酸触媒に起因する問題を解明し、根本的な解決方法を検討した結果、樹脂中の酸残基を除去または失活させることによって、蒸留操作も問題なく行うことが出来、得られるビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類の品質や収量も全く問題ないことが判明したことに基づくものである。
【0014】
次に、本発明の方法を具体的に説明する。縮合反応で得られた樹脂組成物中の触媒成分を除去または失活させる方法としては、
(1)水洗分液による除去方法
(2)中和により失活させる方法
(3)減圧下で除去する方法
(4)不活性ガス等で置換除去させる方法
(5)熱分解により除去する方法
等があり、本発明の方法は、これらの少なくとも一種以上の方法を包含するものである。
(1)の水洗分液による方法は、縮合反応の触媒が塩化亜鉛、塩化錫等の重金属触媒や、比較的多量の触媒を用いた時に多用される。水洗分液は、樹脂組成物に対して、0.1〜10重量倍程度の水〜熱水により1回〜数回行い、酸成分を完全に除去させる。このとき、樹脂の軟化点が低いものは、加温下で無溶媒でも実施できるが、通常は水と混和しないような溶媒を用いる方が好都合である。このような溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、1,2−ジクロロエタン、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類が挙げられる。これら溶媒の使用量は樹脂組成物に対して、0.1〜10vol倍程度である。このような方法で水洗分液後、溶媒溶液を蒸留装置に装入し、溶媒の留去にひきつづき目的物を蒸留すれば良い。
【0015】
(2)の中和により失活させる方法では、主として縮合反応の触媒が微量〜少量残存する場合に多用される。これは、例えば、超強酸触媒であるトリフルオロメタンスルホン酸のような少量で縮合反応が行える場合、スルホン酸型イオン交換樹脂から遊離した微量のスルホン酸イオンが残存している場合、塩酸や蓚酸触媒が(3)、(4)および(5)の方法でも残存する場合、および硫酸やジエチル硫酸のように樹脂骨格中のフェノール核に結合する場合に多用される。殊に、現在工業的に製造されているフェノールアラルキル樹脂では、スルホン酸残基が骨格中に幾分結合している関係から、この市販グレードを原料とする場合は、この方法が適している。
中和に使用する塩基としては、無機および有機の塩基が使用できるが、好ましくは無機塩基であり、これらは、例えば、アンモニウム、リチウム、カリウム、ナトリウム、バリウム、カルシウム、マグネシウム等の炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等が使用される。これらは、樹脂中に残存する酸の量に対応して添加すれば良いが、通常は小過剰、例えば、1.1 〜1.5 当量程度加えるのが一般的である。又、これらはそのまま直接添加してもよく、水溶液として加えてもよい。この方法では蒸留の前処理として行った後、そのまま蒸留工程に移行することができる。
【0016】
(3)または(4)の方法では、塩酸触媒や生成するハロゲン化水素類を除去するのに適する。この方法では、例えば、減圧下で行う(3)の方法が、通常未反応フェノール類を回収留去させる操作と同時に行われるが、あまり高温では結合の解裂が生じ樹脂の組成変化を生じるので、少なくとも180℃以下で実施することが望ましい。減圧度は通常300〜2mmHg程度である。
(4)の不活性ガス等で置換除去させる方法では、窒素、アルゴン、ヘリウム、場合によっては、空気が使用されるが、好ましくは窒素ガスが多用される。この不活性ガスで置換させる方法は、通常、樹脂の溶融状態で行われ、導入管により液中に導びかれた管口より吐出する不活性ガスとともに置換除去させることができる。しかしながら、この(4)の方法は、一般的には長時間の処理が必要であり、効率が低いので、通常は(3)の方法と併用して実施されることが多い。また、この(3)および/または(4)の方法で完全に酸残基を除去しえない場合は、(2)の方法を併用することもやむを得ない。即ち、極微量の酸成分を塩基で中和することは蒸留成果に影響がでるので十分配慮しなければならないことである。
(5)の熱分解によって除去する方法は、触媒に蓚酸のような熱分解性のものを使用する場合に限られ、これは多くの場合、蒸留の過程で実行されるが、完全分解に至るまでに組成変化が生じることもあり、より確実な方法を求めるならば(2)の方法と併用するのが好ましい。
【0017】
本発明のビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類を蒸留する場合、留出温度は、目的物や残査の樹脂の安定性を考慮すれば低い方が好ましく、工業的に実施可能な範囲を強いて挙げるとすれば、200〜260℃の範囲であり、このときの真空度は0.1〜5torrの範囲である。
この蒸留方法は、バッチ法または薄膜蒸留機による連続法のいずれでも可能であるが、工業的には、薄膜蒸留機を使用する連続的なプロセスが能率的である。また、これは全体的な熱履歴の低減にも効果的であり、目的物への着色の抑制や残査の樹脂の利用に対して好ましい。
【0018】
本発明の方法によって得られるビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類は、樹脂組成物中の含量の80%以上が回収可能であり、純度95%〜99.8%程度の高純度なものが得られる。また、p−クレゾールを除くフェノール種を原料としたものは、三種の異性体混合物である。例えば、フェノールを原料としたビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼンは、下記式(化7)で表される(o-,o'-)体、(o-,p'-)体および(p-,p'-)体の三種の異性体混合物である。
(o-,o'-)体、(o-,p'-)体および(p-,p'-)体の割合は、20〜40/40〜60/10〜30(モル%)であり、NMR分析により求めた(o−体/p−体)比は、触媒の種類や蒸留による留出割合によって若干変動するものの、o−体の方が多い。
【0019】
【化7】
又、o−クレゾールを原料としたビス(ヒドロキシ−メチル−ベンジル)ベンゼンは、下記式(化8)で表される三種の異性体混合物である。
(o-,o'-)体、(o-,p'-)体および(p-,p'-)体の割合は、 5〜15/35〜50/35〜50(モル%)であり、(o-,p'-)体および(p-,p'-)体が主成分であり、(o-,o'-)体は比較的少なく、したがって、(o−体/p−体)比は、p−体の方が多い。
【0020】
【化8】
【0021】
このようにして得られたビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類をエポキシ化する方法は、公知の方法が適用できる。すなわち、ビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類とエピクロルヒドリンにより、通常、40〜120℃の温度範囲内でハロゲン化水素アクセプターの存在下で行われる。
本発明のハロゲン化水素アクセプターとして、特に適当なものは、アルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムである。ハロゲン化水素アクセプターは、前記ビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類とエピハロヒドリンとの加熱された混合物に、徐々に添加され、反応混合物のpHを、約6.5〜10に維持するようにするのが好適である。
反応に使用されるエピハロヒドリンは、原料の水酸基に対して、通常、2.0〜30倍当量、好ましくは、経済性を考慮すれば、10倍当量以下の過剰量のエピハロヒドリンが使用される。反応生成物からの過剰のアクセプター物質および副生する塩の除去は、真空蒸留や水洗等の手段によって行われる。
【0022】
また、本発明の方法によって製造されたエポキシ樹脂は、慣用の硬化剤で硬化させることができる。硬化剤の典型的な例は、エポキシ樹脂のための慣用硬化剤で、ビス(4−アミノフェニル)メタン、アニリン/ホルムアルデヒド樹脂、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、プロパン−1,3−ジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、2,2,4−トリメチルヘキサミン−1,6−ジアミン、m−キシリレンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパンおよび3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン(イソホロンジアミン)のような脂肪族、脂環族、芳香族および複素環式アミン、脂肪族ポリアミンと二量化又は三量化脂肪酸から得られるようなポリアミノアミド、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのフェノール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等を、酸性触媒下で縮合反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂、ナフトール、フェニルフェノール等のキシリレン結合によるアラルキル樹脂、フェノール−ジシクロペンタジエン樹脂などがあり、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸無水物、ヘキサクロロエンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、ピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、前記無水物の酸並びにイソフタル酸およびテレフタル酸のようなポリカルボン酸およびその無水物を含む。硬化剤がポリカルボン酸またはそれらの無水物であるなら、通常、0.4〜1.1当量のカルボキシル基または無水物基が1当量のエポキシ基に対して用いられる。硬化剤がポリフェノールであるなら、1当量のエポキシ基につき、0.75〜1.25のフェノール性水酸基を使用することが都合よい。触媒的硬化剤は、重量で、エポキシ100部につき、1〜40部が一般に用いられる。
【0023】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれにより、なんら制限されるものではない。
実施例1
攪拌器、温度計および凝縮器を備えた反応器に、フェノール658g(7モル)と、触媒のジエチル硫酸0.82gを装入し、攪拌しながら、140℃まで昇温した。次いで、α,α’−ジメトキシ−p−キシレン166g(1モル)を、2時間かけて滴下装入した。反応で生成するメタノールは凝縮器でトラップし、系外へ除去した。滴下後、140〜145℃の温度範囲で2時間熟成を行って反応を終了した。この反応液をGPCで分析したところ、フェノールを除外した樹脂組成は、一般式(II)〔R=水素〕のn=0が64.4%、n=1が22.3%、n=2が8.6%およびn≧3が4.7%であった。
この反応液を2分割し、各々378gの溶液が得られた。
このうち、一方は水酸化バリウム8水和物の5%メタノール溶液20gを加え、中和(A)を行い、他方は中和することなくそのままとした(B)。
(蒸留工程)
中和した反応液(A)を、スミス式薄膜蒸留機〔(株)ULVAC製、型式2−03型〕で、2回蒸留操作を行い、未反応フェノールとビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼンを分離した。
第1回目の蒸留は、設定温度190〜200℃、設定圧力4.2〜4.6Torrで(A)の反応液を2.4g/min で滴下させ、未反応フェノールを留去させた。フェノールの回収量は235gであり、残査の樹脂は131gであった。この樹脂の組成は蒸留前の組成と全く同じであった。
第2回目の蒸留は、設定温度280〜290℃、設定圧力1.7〜2Torrで、第1回目の残査の樹脂を1.1g/min で滴下させ、ビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼンを留出させ取得した。このビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼンの収量は77.2gであった。第1回目の残査の樹脂中に含まれるビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼンの含有量に対する回収率は83.8%であった。取得したビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼンのNMR分析結果を下記(化9)に示した。
【0024】
【化9】
【0025】
NMR分析の結果から求めたフェノールに対するメチレン基の置換比はオルソ/パラ=0.581/0.419であった。
融点は152〜156℃
又、HLC分析から求めた3種の異性体比およびそれらの合計による純度は以下のとおりであった。
【0026】
比較例1実施例1の2分割した反応液(B)を、実施例1と同様に、スミス式薄膜蒸留機で2回蒸留操作を行った。第1回目の蒸留では、フェノールを241gを得、残査の樹脂を121g得た。この第1回目の残査の樹脂をGPC分析した結果、一般式(II)〔R=水素〕でn=0が60.6%、n=1が21.2%、n=2が10.4%およびn≧3の7.8%であった。第2回目の蒸留では、上記第1回目の残査の樹脂から、ビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼンとフェノールの混合物が53.2g得られ、これは分析の結果、ビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼンを62.1%含むものであり、当初の含有量に対する回収率は35.8%であった。残査の樹脂をGPC分析したところ一般式(II)でn=1が11.9%、n=2が7.4%およびn≧3が80.7%であった。
【0027】
実施例2
ビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼンを34.3%含み、スルホン酸根を1.66mmol/100g含む市販のザイロック樹脂(商品名;ミレックスXL−225−4L、(株)三井東圧化学製)350gを、加熱溶融後、水酸化カルシウム0.7gを加え、140〜150℃で2時間攪拌中和を行った。この後、溶融樹脂を、クライゼン型蒸留フラスコに移液し、真空度2〜2.5Torrで蒸留を行った。留出温度は238℃で目的物のビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼンを96.2g得た。含有量に対する回収率は80.2%であり、純度は99.2%であった。また、o/p比は0.51/0.49であった。
【0028】
比較例2
実施例2のザイロック樹脂を中和せずに、そのまま、実施例2と同様の条件で蒸留を行った。その結果、目的物は得られずに、フェノールが留出し、フェノールを44g回収したところで終了した。残査の樹脂はもとの樹脂より高分子化しており、ビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼンの含量は11.2%であった。
【0029】
実施例3
反応器にo−クレゾール324g(3モル)を装入し、100〜110℃に保ちつつ、α,α’−ジクロロ−p−キシレン124g(0.7086モル)を2時間かけて添加した。途中、発生する塩化水素ガスを水に吸収させて除去しながら行った。添加終了後、直ちに昇温を始め、145〜150℃で1時間熟成を行って反応を終了した。この反応液を2分割して、各々195gの蒸留用原液を得た。このものをGPC分析したところ、未反応のo−クレゾールを除く組成は、一般式(II)〔R=CH3 〕でn=0が47.8%、n=1が23.7%、n=2が12.0%、n≧3が16.5%であった。
(蒸留工程)一方の反応液を窒素ガスに接続したキャピラリーを装着したクライゼン型蒸留フラスコに装入し、140〜150℃でアスピレーターの減圧下で、脱塩化水素ガス処理を行いながら、未反応のo−クレゾールを回収した。真空度は、26Torrまでであり、回収量は95.5gであった。残査の樹脂は、o−クレゾールを除いたときの原料組成と全く同じであった。次に、このまま、真空系を真空ポンプに換えて昇温し、ビス(ヒドロキシ−メチル−ベンジル)ベンゼンを239〜240℃/2Torrで蒸留し、42.5gの目的物を得た。含有量に対する回収率は88.0%であり、HLC分析の結果、o-,o'-体/o-,p'- 体/p-,p'-体=10.6/45.3/43.0(モル%)の三種の異性体混合物であった。
【0030】
比較例3
実施例3の他方の分割溶液をそのまま昇温して、未反応のo−クレゾールを常圧下で蒸留回収し、内温201〜230℃で92gのo−クレゾールを得た。
残査の樹脂はo−クレゾール3.5%を含み、n=0の成分が減少した組成であった。ひきつづき、目的物のビス(ヒドロキシ−メチル−ベンジル)ベンゼンを蒸留するため、真空ポンプによる真空下、実施例3と同様に蒸留を行った。
得られた留出物は36.9gで、HLC分析の結果、o−クレゾール9.9%を含む目的物であった。蒸留原液の含有量に対する回収率は69.6%であった。
【0031】
実施例4
攪拌器、温度計およびディーンスターク共沸蒸留トラップを装着した反応容器に、実施例1で得られたビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン72.5g(0.25モル)とエピクロルヒドリン370g(4モル)を装入した。
この混合物を攪拌しながら、110〜115℃に昇温した後、同温度範囲で40%水酸化ナトリウム水溶液52gを4時間で滴下した。共沸により留出した水は連続的に分離回収し、エピクロルヒドリンは反応器に還流させた。滴下終了後、1時間で完全に留出水が認められなくなり、反応を終了した。
この後、過剰のエピクロルヒドリンをアスピレーターの減圧下で留去させ、残査にメチルイソブチルケトン250mlを加え溶解させた。
不溶の無機塩を濾過して除き、この濾液に水を加えて洗浄分液を行った。
この後、溶剤を減圧蒸留により蒸留回収し、淡黄色透明な液状のエポキシ樹脂83.5gを得た。エポキシ当量は213g/eqで粘度(東京計器製、E型粘度計による)は72g/cm・sec(35℃)であった。
【0032】
実施例5
実施例3で得られたビス(ヒドロキシメチル−ベンジル)ベンゼン31.8g(0.1モル)に対しエピクロルヒドリン185g(2モル)を用い、実施例4と同様にして、淡黄色透明な液状エポキシ樹脂を得た。収量42.5gでエポキシ当量220.6g/eqであり、粘度は56g/cm・sec(35℃)であった。
【0033】
使用例1〜2および比較使用例1
実施例4、5のエポキシ樹脂および比較として、ビスフェノールAから導かれたエピコート828(油化シェル化学製)の各々のエポキシ樹脂に対し、硬化剤として酸無水物(エピキュアYH−306:油化シェル化学製)、促進剤として2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(TAP)を表−1(表1)に示す条件で配合し、その硬化樹脂の物性を測定した。その結果を表−1に示す。
【0034】
【表1】
・硬化条件80℃/3hr+120℃/6hr
・配合 ……………重量比。
・ゲル化時間………JIS K−6910による。
・熱変形温度………JIS K−7207による。
・煮沸時吸水率……煮沸 100℃/2時間。
・引張強度…………JIS K−7113による。
【0035】
【発明の効果】
以上、詳述したように、本発明のビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類を樹脂組成物から蒸留により得る場合、微量の触媒成分または副生する酸成分により解裂し、目的物の収率や純度が低下する。又、残査の樹脂も再配列により高分子化するため、その利用も制限される。
このような問題に対し、本発明の方法では、この微量の触媒成分や酸成分を失活または除去させることで、蒸留時の解裂を防止し、高純度のビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類を高収率で得ることができる。
又、工業的に実施するうえで有利な薄膜蒸留による方法でも、フェノール類の混入もなく、高純度、高収率でビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン類が得られ、有用なビスフェノール化合物が安価に提供できる。
Claims (7)
- フェノールまたは、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾールおよび混合クレゾールから選ばれるクレゾール類と、一般式(I)(化1)で表されるアラルキル化合物を、酸触媒の存在下で反応させて得られる一般式(II)(化2)で表されるフェノールアラルキル樹脂組成物から、温度180℃以下、減圧度300〜2mmHgで酸触媒成分を除去した後、温度200〜260℃、真空度0.1〜5Torrで真空蒸留することで得られる、純度95〜99.8%であることを特徴とする、一般式(III)(化3)で表されるビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン異性体混合物またはビス(ヒドロキシ−メチル−ベンジル)ベンゼン異性体混合物の製造方法。
- フェノールまたは、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾールおよび混合クレゾールから選ばれるクレゾール類と、請求項1に記載の一般式(I)(化1)で表されるアラルキル化合物を、酸触媒の存在下で反応させて得られる請求項1に記載の一般式(II)(化2)で表されるフェノールアラルキル樹脂組成物から、酸触媒成分を無機塩基で中和して失活させた後、温度200〜260℃、真空度0.1〜5Torrで真空蒸留することで得られる、純度95〜99.8%であることを特徴とする、請求項1に記載の一般式(III)(化3)で表されるビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン異性体混合物またはビス(ヒドロキシ−メチル−ベンジル)ベンゼン異性体混合物の製造方法。
- 薄膜蒸留装置を用いて真空蒸留する請求項1または2記載のビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン異性体混合物またはビス(ヒドロキシ−メチル−ベンジル)ベンゼン異性体混合物の製造方法。
- 請求項1に記載の製造方法によることで得られる、純度95%〜99.8%であることを特徴とする、請求項1に記載の一般式(III)(化3)で表されるビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン異性体混合物またはビス(ヒドロキシ−メチル−ベンジル)ベンゼン異性体混合物。
- 請求項4に記載のビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン異性体混合物またはビス(ヒドロキシ−メチル−ベンジル)ベンゼン異性体混合物を、エピハロヒドリンと反応させることを特徴とする液状エポキシ樹脂の製造方法。
- 請求項2に記載の製造方法によることで得られる、純度95〜99.8%であることを特徴とする、請求項1に記載の一般式(III)(化3)で表されるビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン異性体混合物またはビス(ヒドロキシ−メチル−ベンジル)ベンゼン異性体混合物。
- 請求項6に記載のビス(ヒドロキシベンジル)ベンゼン異性体混合物またはビス(ヒドロキシ−メチル−ベンジル)ベンゼン異性体混合物を、エピハロヒドリンと反応させることを特徴とする液状エポキシ樹脂の製造方法。
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