JP3893839B2 - 無段変速機のライン圧制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両に搭載されたベルト式無段変速機等に用いて好適の、無段変速機のライン圧制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、無段変速機が、変速比を連続的に制御することで変速ショックを回避できる点や燃料消費効率の優れた点に着目され、特に車両用の開発が盛んに行なわれている。このような無段変速機では、一般に油圧制御により変速比の制御を行なうようになっている。
【0003】
例えばベルト式無段変速機の場合、機関(エンジン)で発生した動力がベルトを介してプライマリプーリからセカンダリプーリへ伝達される。この際、通常はセカンダリプーリの油圧ピストンには伝達トルクなどの基本特性に合わせて設定された油圧(ライン圧)を作用させてベルトへのクランプ力を与えておき、プライマリプーリの油圧ピストンに作用させる油圧(プライマリ圧)を調整することで変速〔変速比(プライマリプーリとセカンダリプーリとの各有効半径比)の制御〕を行なうようになっている。
【0004】
このようなベルト式無段変速機では、特に、ライン圧が不足するとベルトのスリップを招いて動力伝達に支障をきたしてしまい、逆にライン圧が過剰であれば油圧源側の負担増を招くので、ベルトのスリップを招くことなく且つ過剰でない程度のライン圧になるようにライン圧制御を行なう必要がある。
そして、このようなベルトのスリップを招かず且つ過剰にならない適切なライン圧は、ベルトにより伝達するトルクの大きさに対応したものになるので、無段変速機に入力されるトルク(トランスミッション入力トルク)と無段変速機の変速比(トランスミッション変速比)とに応じて目標ライン圧を設定して、実ライン圧がこの目標ライン圧となるようにPID補正〔比例補正(P補正),積分補正(I補正),微分補正(D補正)〕によるフィードバック制御を行なうようにしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、このようなベルト式無段変速機の油圧回路として、プライマリプーリの油圧ピストン(プライマリピストン)を駆動する油室とセカンダリプーリの油圧ピストン(セカンダリピストン)を駆動する油室とが流量制御弁を介して連通するように構成されるものがある。
【0006】
しかしながら、このような油圧回路の場合、変速時において、ベルトへ所定のクランプ力を与えるライン圧確保のための作動油に加えて、変速制御を行なうべく両ピストンを移動させるための作動油も必要となるため、オイルポンプから吐出される作動油が不足してライン圧が過渡的に低下し、ベルトに所定のクランプ力を与えることができない場合がある。
【0007】
この時、上述したようにフィードバック制御により補正がかけられるものの、変速速度が大きい場合には、プライマリピストン及びセカンダリピストンの移動速度も大きくなって両ピストンの移動に必要な作動油量が過渡的に急増する。また、かかる作動油不足に対する実ライン圧の立ち上がり応答遅れがあるため、実ライン圧と目標ライン圧との差が過大となってフィードバック制御による補正が追いつかなくなる。即ち、過渡的に作動油の消費流量が大きくなり再度ライン圧を立ち上げるためのレスポンスが遅くなってしまうのである。そして、最悪の場合、ベルトスリップに至る虞もある。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、変速過渡時においても、最適なライン圧を確保できるようにした、無段変速機のライン圧制御装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1記載の本発明の無段変速機のライン圧制御装置では、変速過渡時に消費される作動流体の消費流量に相関する消費流量相関値を消費流量相関値導出手段により導出し、この消費流量相関値に基づいてライン圧補正量決定手段によりライン圧補正量を決定する。そして、運転状態に応じて設定された作動流体の目標ライン圧を、このライン圧補正量により補正し、この補正後の目標ライン圧となるように作動流体の実ライン圧を制御する。
【0010】
請求項2記載の本発明の無段変速機のライン圧制御装置では、消費流量相関値導出手段が、変速比変化量に基づいて消費流量相関値を導出する。
なお、消費流量相関値導出手段は、変速比の実変化量に基づいて消費流量相関値を導出することが好ましい。この場合、作動流体の実消費流量を導出することができ、この実消費流量に基づいて車両の運転状態にそくした目標ライン圧を設定することができる。
【0011】
また、消費流量相関値導出手段は、目標変速比の変化量に基づいて消費流量相関値を導出するようにしてもよい。この場合、変速比の実変化量に基づいて消費流量相関値を導出するのに比べて、ライン圧制御の応答性を向上させることができる。
該無段変速機は、プライマリプーリとセカンダリプーリとベルトとから構成されるベルト式無段変速機であって、該消費流量相関値は、アップシフト時には、該プライマリプーリの可動シーブを駆動する油圧ピストンに供給される作動油量から該セカンダリプーリの可動シーブを駆動する油圧ピストンに供給される作動油量を減算した値とされ、ダウンシフト時には、該セカンダリプーリの可動シーブを駆動する油圧ピストンに供給される作動油量の値とされ、該ライン圧補正量は、該消費流量相関値,該セカンダリプーリの油圧ピストンに加えられるライン圧を調整するレギュレータバルブの通過流量,該レギュレータバルブの排出ポートの入口における油圧,該排出ポートの出口における油圧から求められるライン圧低下量に基づいて設定されることが好ましい。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明すると、図1〜図3は本発明の一実施形態としての無段変速機のライン圧制御装置について示す図であり、これらの図に基づいて説明する。
まず、本実施形態にかかる無段変速機の搭載される車両の動力伝達機構について説明すると、図2(a),(b)に示すように、本動力伝達機構では、エンジン(内燃機関)1から出力された回転は、トルクコンバータ(トルコン)2を介してベルト式無段変速機(CVT,以下、単に無段変速機という)20に伝達され、さらに図示しないカウンタシャフトからフロントデフ31へ伝達されるようになっている。
【0013】
そして、トルコン2の出力軸7と無段変速機20の入力軸24との間には、正転反転切換機構4が配設されており、エンジン1からトルコン2を介して入力される回転は、この正転反転切換機構4を介して無段変速機構20に入力されるようになっている。無段変速機20は、変速制御等を後述の油圧制御により行なう油圧式無段変速機となっている。
【0014】
この無段変速機構20についてさらに詳述すると、無段変速機構20は、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22とベルト23とから構成されており、正転反転切換機構4からプライマリシャフト24に入力された回転は、プライマリシャフト24と同軸一体のプライマリプーリ21からベルト23を介してセカンダリプーリ22へ入力されるようになっている。
【0015】
プライマリプーリ21,セカンダリプーリ22はそれぞれ一体に回転する2つのシーブ21a,21b,22a,22bから構成されている。それぞれ一方のシーブ21a,22aは軸方向に固定された固定シーブであり、他方のシーブ21b,22bは油圧ピストン21c,22cによって軸方向に移動可能な可動シーブになっている。
【0016】
油圧ピストン21c,22cには、オイルタンク61内の作動油(作動流体)をオイルポンプ62で加圧して得られる制御油圧が供給され、これに応じて可動シーブ21b,22bの固定シーブ21a,22a側への押圧力が調整されるようになっている。セカンダリプーリ22の油圧ピストン22cには、レギュレータバルブ(調圧弁)63により調圧されたライン圧PLが加えられ、プライマリプーリ21の油圧ピストン21cには、レギュレータバルブ63により調圧された上でシフトコントロールバルブ(流量制御弁)64により流量調整された作動油が供給され、この作動油が変速比調整用油圧(プライマリ圧)PPとして作用するようになっている。
【0017】
また、レギュレータバルブ63は、ライン圧制御用ソレノイド63Aを電気信号によりデューティ制御することにより制御され、同様に、流量制御弁64は、変速制御用ソレノイド64Aを電気信号によりデューティ制御することにより制御されようになっている。なお、レギュレータバルブ63の排出ポート71から排出された作動油は、潤滑油の供給に用いる図示しない潤滑弁に送られて所定圧力PLUBに調整された後、潤滑油として無段変速機20内の所定の部位に送られ、その後、オイルタンク61に戻されるようになっている。また、流量制御弁64の排出ポート72から排出された油は、オイルタンク61に戻されるようになっている。
【0018】
なお、ライン圧PLは、ベルト23の滑りを回避して動力伝達性を確保できる範囲で可能な限り低い圧力にすることが、オイルポンプ62によるエネルギ損失の低減や変速機自体の耐久性を高める上で重要である。ベルト23のスリップは、ベルト23により伝達するトルクの大きさに応じて生じるので、スリップが生じないようにすべく、目標ライン圧PLAを後述するように無段変速機に入力されるトルク(トランスミッション入力トルク)と無段変速機の変速比(トランスミッション変速比)とに応じて設定し、これに基づいてライン圧制御を行なうようにしている。
【0019】
また、変速比(プライマリ圧PP) は、プライマリプーリ21の実回転数に基づいたフィードバック制御により制御されるようになっている。ここでは、車速に対応するセカンダリプーリ22の回転数(セカンダリ回転数)と車両に搭載されたエンジンの負荷(例えば、アクセル開度)とからプライマリプーリ21の目標回転数を設定して、プライマリプーリ21の実回転数NPと目標回転数NPTとの偏差ΔNP(=NPT−NP)を算出し、この偏差ΔNPにPID補正を施した制御量(変速デューティ)に基づいて、プライマリプーリ21の実回転数NPが目標回転数NPTになるように流量制御弁64をフィードバック制御するようになっている。
【0020】
そして、セカンダリプーリ22の油圧ピストン22cに与えられるライン圧PL及びプライマリプーリ21の油圧ピストン21cに与えられるプライマリ圧PPは、コントローラ(電子制御コントロールユニット=ECU)50の指令信号により、それぞれ制御されるようになっている。
つまり、図2(b)に示すように、ECU50には、エンジン回転速度センサ(クランク角センサ又はカム角センサ)41,スロットル開度センサ46,プライマリプーリ21の回転速度を検出する第1回転速度センサ43,セカンダリプーリ22の回転速度を検出する第2回転速度センサ44,ライン圧PLを検出するライン圧センサ45,変速比調整用油圧(プライマリ圧)PPを検出するプライマリ圧センサ47等の各検出信号が入力されるようになっており、ECU50では、これらの検出信号に基づいて各プーリ21,22への油圧供給系(油圧回路)にそなえられたレギュレータバルブ63や流量制御弁64を制御するようになっている。
【0021】
ECU50には、上述の流量制御弁64の制御(変速比制御)を行なう機能(変速制御手段又はプライマリ圧制御手段)52とレギュレータバルブ63の制御(ライン圧制御)を行なう機能(ライン圧制御手段)53とが設けられており、本実施形態のライン圧制御装置は、図1に示すように、ライン圧制御手段53と、上述のレギュレータバルブ63,ライン圧制御用ソレノイド63A,ライン圧センサ45とをそなえて構成される。
【0022】
ライン圧制御手段53は、目標ライン圧設定手段54,上下限リミッタ55A,一次フィルタ55B,減算器55C,基本デューティ設定手段56A,回転・油温補正手段56B,加算器56C,56D,56E,PID補正手段57,変速過渡時補正量算出手段58,上下限リミッタ59をそなえて構成されている。これにより、目標ライン圧設定手段54により設定された目標ライン圧PLAは、まず、上下限リミッタ55Aにより上下限を規定された後、一次フィルタ55Bにより急変動を抑えるようにフィルタリングされる。その後、このフィルタリング処理された目標ライン圧PLAとエンジン回転数(回転速度)Neとに基づいて、基本デューティ設定手段56Aでライン圧制御量の基本値(基本デューティ)DLBが設定される。この基本デューティDLBには、加算器56Cで、回転・油温補正手段56Bに基づきエンジン回転速度Ne及び図示しない油温センサにより検出された油温に応じて決定される補正量が加算され、さらに加算器56Dでオイルポンプ62の個々の性能のばらつきを補正すべくエンジン回転速度Ne及び油温に応じて決定される学習値が加算され、ライン圧制御量(制御デューティ)DLが算出されるようになっている。
【0023】
一方、減算器55Cでは、フィルタリング後の目標ライン圧PLAとライン圧センサ45により検出された実ライン圧PLとの偏差ΔPLが算出され、PID補正手段57により、この偏差ΔPLにPID補正を施されてライン圧制御量の補正量(制御デューティの補正量)ΔDLが算出されるようになっている。本装置では、ライン圧制御量DLに、加算器56Eにおいて、補正量ΔDL及び変速過渡時補正量算出手段58により算出された補正量ΔDLSFTが加算され、その後、上下限リミッタ59により上下限を規定された後、ライン圧制御用ソレノイド63Aに出力され、これにより、レギュレータバルブ63が所定開度に制御されるようになっている。
【0024】
以下、目標ライン圧設定手段54及び変速過渡時補正量算出手段58についてさらに説明する。
まず、目標ライン圧設定手段54について説明すると、目標ライン圧設定手段54では、無段変速機20への入力トルク(トランスミッション入力トルク)と、無段変速機の変速比(トランスミッション変速比)ratioとに応じて目標ライン圧PLAを設定するようになっている。
【0025】
なお、トランスミッション入力トルクは、エンジン出力トルクTeと、トルコントルク比t(e)とに基づいて演算されるようになっている。エンジン出力トルクTeはエンジン回転速度センサ41で検出されるエンジン回転速度Neとスロットル開度センサ46で検出されるスロットル開度θthとから算出(又は推定)され、トルコントルク比t(e)は、予め記憶されたマップに基づいて、トルコン2における速度比〔トルコンの出力回転速度(タービン回転速度、即ち、第1回転速度センサ43により検出されたプライマリプーリ21の回転速度)NPとトルコン2の入力回転速度(エンジン回転速度)Neとの比〕NP/Neから算出される。
【0026】
また、トランスミッション変速比ratioは、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22との各有効半径(ベルト巻掛半径)比であるが、例えば、第1回転速度センサ43により検出されたプライマリプーリ21の回転速度NPと第2回転速度センサ44により検出されたセカンダリプーリ22の回転速度NSとから算出(NP/NS)できる。
【0027】
次に、変速過渡時補正量算出手段58について説明すると、変速過渡時補正量算出手段58は、変速制御中(変速過渡時)に各プーリ21,22の油圧ピストン21c,22cにより消費される作動油量(作動流体の消費流量)QRを演算する消費流量演算手段(消費流量相関値導出手段)58Aと、消費流量演算手段58Aにより演算された作動油の消費流量QRに基づいてライン圧制御量の補正量ΔDLSFTを決定するライン圧補正量決定手段58Bとをそなえて構成されている。
【0028】
消費流量演算手段58Aは、無段変速機の変速比変化量に基づき、変速制御中に油圧ピストン21c,22cにより消費される作動油量QRを演算するものである。無段変速機20では、アップシフトするとき、プライマリプーリ21において、油圧ピストン21cに作用する油圧(プライマリ圧)を高めることにより、油圧ピストン21cの油室に作動油を供給して可動シーブ21bを固定シーブ21a側に近接させて固定シーブ21aと可動シーブ21bとの間隔を狭め、これにより、固定シーブ21aと可動シーブ21bとの間に形成されるV字型の溝(V溝)内でベルト23をシーブ21a,21bの外周側に移動させてベルト巻掛半径rPを増加させるようになっている。
【0029】
一方、セカンダリプーリ22においては、シーブ22a,22bとにより形成されるV溝内でベルト23はシーブ22a,22bの軸心側に引き込められベルト巻掛半径rSは減少する。このため、油圧ピストン22cの油室から作動油が強制的に排出されるとともに、可動シーブ22bが固定シーブ22aから離隔され固定シーブ22aと可動シーブ22bとの間隔が広がる。
【0030】
ここで、セカンダリプーリ22から強制排出された作動油は、再び油圧回路に戻されてライン圧PLを確保するのに使用される。したがって、アップシフト時において、ライン圧PLを確保するための作動油量とは別に変速制御のために消費される作動油量(消費流量)QRは、油圧ピストン21cに供給される作動油量(プライマリオイル流量)QP,油圧ピストン22cから排出される作動油量(セカンダリオイル流量)QSから以下の式(1)で演算することができる。
【0031】
QR=QP−QS …(1)
一方、ダウンシフトするとき、プライマリプーリ21において、油圧ピストン21cに作用する油圧(プライマリ圧)PPを下げる(流量制御弁64を介して作動油を排出する)ことにより、油圧ピストン21cの油室から作動油を排出させて可動シーブ21bを固定シーブ21aから離隔させてベルト巻掛半径rPを減少させる。一方、セカンダリプーリ22においては、油圧ピストン22cの油室に供給されているライン圧PLにより可動シーブ22bが固定シーブ22aに近接しベルト巻掛半径rSが増加するようになっている。このとき、プライマリプーリ21から排出される作動油は、流量制御弁64の排出ポート72から排出されるため、ライン圧の確保には寄与しない。したがって、ダウンシフト時において変速制御に必要とされる作動油量QRは油圧ピストン22cに供給される作動油量(セカンダリオイル流量)QSのみとなり、以下の式(2)で演算することができる。
【0032】
QR=QS …(2)
ここで、プライマリプーリ21側の作動油量QPは、下式(3)に示すように、油圧ピストン21cの油圧室のピストン移動方向と直交する断面積APと、可動シーブ21bの前制御周期からの移動量XPとの積として算出するようになっている。
【0033】
QP=AP×XP …(3)
同様に、セカンダリプーリ22側の作動油量QSは、下式(4)に示すように、油圧ピストン22cの油圧室のピストン移動方向と直交する断面積ASと可動シーブ22bの移動量XSとの積として算出するようになっている。
QS=AS×XS …(4)
各移動量XP,XSはいずれも前制御周期に対する可動シーブ21b,22bの移動量であり、下式(5),(6)により演算することができる。
【0034】
XP=(rP(n)−rP(n-1))×tanθP …(5)
XS=(rS(n)−rS(n-1))×tanθS …(6)
なお、上式(5),(6)中のθP,θSは、図2(b)に示すように可動シーブ21bの傾斜角(コーン角),可動シーブ21bの傾斜角(コーン角)である。また、rP(n)は特に現制御周期におけるプライマリプーリ21のベルト巻掛半径rPを示し、rP(n-1)は特に前制御周期におけるプライマリプーリ21のベルト巻掛半径rPを示す。同様に、rS(n)は現制御周期におけるセカンダリプーリ22のベルト巻掛半径rSを、rS(n-1)は前制御周期におけるセカンダリプーリ22のベルト巻掛半径rSをそれぞれ示す。ベルト巻掛半径rP,rSは、下式(7),(8)に示すようにトランスミッション変速比ratioの関数としてそれぞれ演算されるようになっている。
【0035】
rP=fP(ratio) …(7)
rS=fS(ratio) …(8)
ここで、上式(3),(4)に上式(5),(6)を代入し整理すると、上式(3)は下式(9)に示すように、上式(4)は下式(10)に示すように整理することができる。
【0036】
QP=(rP(n)−rP(n-1))×CP(なお、CP=AP×tanθP) …(9)
QS=(rS(n)−rS(n-1))×CS(なお、CS=AS×tanθS)…(10)
上式(9),(10)のCPは、油圧ピストン21cの断面積APと可動シーブ21bの傾斜角θPとから求まる定数であり、同様に、CSは、油圧ピストン22cの断面積ASと可動シーブ22bの傾斜角θSとから求まる定数であり、CP,CSはいずれも予めECU50に記憶されている。したがって、プライマリプーリ21側の作動油量QPはベルト巻掛半径rPの変化量より一義的に演算され、セカンダリプーリ22側の作動油量QSはベルト巻掛半径rSの変化量から一義的に演算される。そして、ベルト巻掛半径rP,rSは、式(7),(8)に示すように何れもトランスミッション変速比ratioの関数であり、したがって、作動油量QP,QSひいては変速制御に必要な作動油量QRを、トランスミッション変速比ratioの変化量(変速比変化量)の関数として演算するようになっている。
【0037】
さて、ライン圧補正量決定手段58Bは、上述の消費流量演算手段58Aにより演算された変速制御に必要な作動油量QRに基づき、変速制御中のライン圧PLの圧力低下量(ライン圧低下量)ΔPLSFTを演算し、このライン圧低下量ΔPLSFT分を補うべく、ライン圧低下量ΔPLSFTに応じてライン圧制御デューティの補正量ΔDLSFTを決定するものである。
【0038】
ライン圧低下量ΔPLSFTの算出方法について説明すると、変速制御が行なわれていない定常時において、レギュレータバルブ63の排出ポート71から潤滑系統に排出されるレギュレータバルブ通過流量Qvは、流量係数c,レギュレータバルブ開口面積AR,排出ポート71の入口における油圧(即ちレギュレータバルブ63により調圧されたライン圧)PL,排出ポート71の出口における油圧(図示しない潤滑弁により調整された圧力)PLUB,作動油の密度ρを用いて以下の式(11)で表すことができる。
【0039】
【数1】
【0040】
一方、変速制御中のレギュレータバルブ通過流量Qv´は、同様に以下の式(12)で表すことができる。なお、PL´は、変速制御中のライン圧を示す。
【0041】
【数2】
【0042】
ここで、変速制御中は、上述したように油圧ピストン21c,22cにより可動シーブ21b,22bを駆動するので油圧ピストン21c,22cを作動させるための作動油量QRが必要となり、このため、レギュレータバルブ通過流量Qv´は、定常時のレギュレータバルブ通過流量Qvよりも作動油量QRだけ減少し(Qv´=Qv−QR)、この作動油量減少分、ライン圧PL´は、定常時のライン圧PLよりもΔPLSFTだけ減少する(PL´=PL−ΔPLSFT)。したがって、上式(12)は、以下の式(13)のように表すことができる。
【0043】
【数3】
【0044】
ここで、上式(11),(13)より、以下の関係式(14)を導くことができる。
【0045】
【数4】
【0046】
そして、上式(14)の両辺を二乗し、整理すると、下式(15)が得られる。
【0047】
【数5】
【0048】
なお、レギュレータバルブ通過流量Qvは、下式(16)に示すように、オイルポンプ62の吐出量QPUMPより、トランスミッションからのオイル漏洩量QLを減算して算出される。
Qv=QPUMP−QL …(16)
なお、オイル漏洩量QLはライン圧PLの関数fL(PL)であり〔QL=fL(PL)〕、関数fL(PL)は予めECU50に記憶されている。また、オイルポンプ62の吐出量QPUMPは、下式(17),(18)に示すようにポンプ理論吐出量Vth,エンジン回転速度Neの関数fOPE(Ne),オイルポンプ容積効率ηOPV,ライン圧PL等から演算されるようになっている。なお、関数fOPE(Ne)は、予めECU50に記憶されている。
【0049】
ηOPV=1−〔fOPE(Ne)×PL 〕 …(17)
QPUMP=Vth×(Ne/1000)×ηOPV …(18)
また、上式(17)により演算されたオイルポンプ容積効率ηOPVが、所定の下限値ηMINよりも小さい場合は、オイルポンプ容積効率ηOPVはこの下限値ηMINとして設定されるようになっている(ηOPV=ηMIN)。
【0050】
そして、ライン圧制御デューティの補正量ΔDLSFTは、以下の式(19)に示すように、ライン圧PLの関数fD(PL)にライン圧低下量ΔPLSFTを乗じることにより演算される。なお、関数fD(PL)は予めECU50に記憶されている。
ΔDLSFT=fD(PL)×ΔPLSFT …(19)
また、かかる補正量ΔDLSFTが、所定の上限値ΔDLSFTMAXよりも大きい場合には、補正量ΔDLSFTはこの上限値ΔDLSFTMAXで設定され(ΔDLSFT=ΔDLSFTMAX)、一方、かかる補正量ΔDLSFTが、所定の下限値ΔDLSFTMINよりも小さい場合には、補正量ΔDLSFTは0(零)で設定されるようになっている(ΔDLSFT=0)。
【0051】
本発明の一実施形態としての無段変速機のライン圧制御装置は上述のように構成されているので、例えば図3のフロチャートに示すように補正量ΔDLSFTが決定される。つまり、ステップS10で、第1回転速度センサ43により検出されたプライマリプーリ21の回転速度NP と第2回転速度センサ44により検出されたセカンダリプーリ22の回転速度NS とからトランスミッション変速比ratioが計算され、ステップS20で、このトランスミッション変速比ratioの関数としてプライマリプーリ21側のベルト巻掛半径rP(n)が計算される〔rP(n)=fP(ratio)〕。
【0052】
ステップS30で、このベルト巻掛半径rP(n)と前制御周期でのプライマリプーリ21側のベルト巻掛半径rP(n-1)との差及び可動シーブ21bの傾斜角θPより、可動シーブ21bの前制御周期からの移動量XPが計算され〔XP=(rP(n)−rP(n-1))×tanθP〕、さらに、ステップS40で、この移動量XPと油圧ピストン21cの油圧室の断面積APとの積としてプライマリプーリ21側の作動油量QPが計算される(QP=AP×XP)。
【0053】
そして、同様に、ステップS50で、トランスミッション変速比ratioからセカンダリプーリ22側のベルト巻掛半径rS(n)が計算され〔rS(n)=fs(ratio)〕、ステップS60で、ベルト巻掛半径rsの前制御周期からの変動分及び可動シーブ22bの傾斜角θSより、可動シーブ22bの前制御周期からの移動量XSが計算され〔XS=(rS(n)−rS(n-1))×tanθS〕、さらに、ステップS70で、この移動量XSと油圧ピストン22cの油圧室の断面積ASからセカンダリプーリ22側の作動油量QSが計算される(QS=AS×XS)。
【0054】
そして、ステップS80で、トランスミッション変速比ratioの前制御周期からの差分Δratio(=ration−ration-1,ration:現制御周期のトランスミッション変速比, ration-1:前制御周期のトランスミッション変速比)に基づき、アップシフト中であるか又はダウンシフト中であるかが判定され、かかる差分Δratioが正の数であればダウンシフト中であるとしてステップS90に進み、セカンダリプーリ22側の作動油量QSが変速制御に必要な作動油量QRとされる(QR=QS)。
【0055】
一方、かかる差分Δratioが負の数であればアップシフト中であるとしてステップS100に進み、変速制御に必要な作動油量QRは、プライマリプーリ21側の作動油量QPからセカンダリプーリ22側の作動油量QSを減じた量として算出される(QR=QP−QS)。
そして、ステップS110でオイルポンプ容積効率ηOPVが算出され〔上式(17)参照〕、ステップS120でライン圧PLの関数としてオイル漏洩量QLが推定され、ステップS130で上式(16),(18)によりこれらのオイルポンプ容積効率ηOPV及びオイル漏洩量QLからレギュレータバルブ通過流量Qvが算出される。
【0056】
さらに、ステップS140で上式(15)により、変速制御に必要な作動油量QRやレギュレータバルブ通過流量Qv等からライン圧低下量ΔPLSFTが算出され、ステップS150で上式(19)により、ライン圧低下量ΔPLSFT及びライン圧PLからライン圧制御デューティの補正量ΔDLSFTが算出される。そして、この補正量ΔDLSFTによりライン圧制御デューティが補正され、この補正後のライン圧制御デューティでレギュレータバルブ63が制御される。
【0057】
したがって、変速制御中、ライン圧PLを確保するための作動油量とは別に変速制御のための作動油量QRが必要となるのに対して、本ライン圧制御装置によれば、この作動油量QRによるライン圧低下量ΔPLSFTを補うべくライン圧制御デューティが補正されるので、変速制御中において、ベルト23のクランプ力を確保することができ、ベルトスリップを防止できるという利点がある。また、これにより、ベルトスリップによって生じるベルト23の劣化を抑制してベルト耐久性を向上させることができるという利点もある。
【0058】
また、変速制御に必要な作動油量QRをトランスミッション変速比ratioの変化量に基づいて算出するので、特別なセンサ類を設ける必要がなく、したがってコストアップすることなく上記の効果を得ることができるという利点もある。さらに、トランスミッション変速比ratioの変化量を、第1回転速度センサ43により検出されたプライマリプーリ21の回転速度NPと第2回転速度センサ44により検出されたセカンダリプーリ22の回転速度NSとに基づく実変化量として検出することができるので、この変化量に基づいて実際に変速制御のために消費された作動油量QRを算出することができ、ひいてはこの作動油量QRに基づき、実運転状態にそくしたライン圧制御を行なうことができるという利点がある。
【0059】
なお、本発明の無段変速機のライン圧制御装置は上述の実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態では、消費流量相関値導出手段として、トランスミッション変速比ratioの変化量から作動油量QRを演算する消費流量演算手段58Aを用いているが、消費流量演算手段58Aの代わりに消費流量相関値導出手段として油圧ピストン21c,22cに流量計を設け、この流量計により作動油量QRを直接検出するように構成しても良い。いずれにしても、消費流量相関値導出手段は、消費流量(作動油量)QR又はその相関値を導出するものであればよく、その導出方法は、演算,算出,検出等の何れであっても良い。
【0060】
また、本発明では、変速制御のために消費される作動油量QRをトランスミッション変速比ratioの変化量から算出し、上述の実施形態では、かかる変化量として、プライマリプーリ21の回転速度NPとセカンダリプーリ22の回転速度NSとに基づく実変化量を使用するようになっているが、かかる変化量を、目標変速比から算出するようにしても良い。この場合、実変化量を用いる場合に比べ、制御応答性を向上させることができるという利点がある。
【0061】
さらに、上述の実施形態では、図3に示すフロチャートにしたがい、トランスミッション変速比ratioの変化量からライン圧制御デューティのライン圧補正量ΔDLSFTを算出しているが、例えば予めECU50にマップを記憶させておき、このマップにしたがい、トランスミッション変速比ratioの変化量から直接にライン圧補正量ΔDLSFTを決定するように構成しても良い。
【0062】
つまり、上述の実施形態では、ライン圧補正量ΔDLSFTを算出する過程で、例えば、上式(17)に示すように、オイルポンプ容積効率ηOPVをエンジン回転速度Neやライン圧PLの変数として算出するようにしているが、これに対し、マップを用いてトランスミッション変速比ratioの変化量から直接にライン圧補正量ΔDLSFTを決定する場合、エンジン回転速度Neやライン圧PLがライン圧補正量ΔDLSFTの算出に考慮されないため、制御精度が若干ながら低下するが、制御系を大幅に簡略化することができる。
【0063】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1記載の本発明の無段変速機のライン圧制御装置によれば、変速過渡時の作動流体の消費流量に相関する消費流量相関値を消費流量相関値導出手段により導出し、この消費流量相関値に基づいてライン圧補正量決定手段によりライン圧補正量を決定し、そして、このライン圧補正量により目標ライン圧を補正して実ライン圧を制御するので、かかる作動流体の消費流量に伴うライン圧の変動分を考慮してライン圧が制御されて、変速過渡時においても最適なライン圧を確保することができるという利点がある。また、これにより、ベルト式無段変速機であれば、変速過渡時においても、ベルトのクランプ力を確保してベルトスリップを防止できるという利点もある。さらに、ベルト耐久性を向上させることができるという利点もある。
【0064】
請求項2記載の本発明の無段変速機のライン圧制御装置によれば、変速過渡時の作動流体の消費流量相関値を変速比変化量に基づいて算出するので、特別なセンサ類を設ける必要がなく、したがってコストアップすることなく請求項1記載の無段変速機のライン圧制御装置と同様の効果を得ることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態としての無段変速機のライン圧制御装置の要部構成を示す制御ブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる無段変速機付き車両の動力伝達系を説明するための模式図であり、(a)はその無段変速機を含んだ動力伝達系の模式的構成図、(b)はその無段変速機の構成図である。
【図3】本発明の一実施形態としての無段変速機のライン圧制御装置によるライン圧制御の内容を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
20 ベルト式無段変速機(CVT)
45 ライン圧センサ
53 ライン圧制御手段
54 目標ライン圧設定手段
58 変速過渡時補正量算出手段
58A 消費流量演算手段(消費流量相関値導出手段)
58B ライン圧補正量決定手段
63 レギュレータバルブ(調圧弁)
63A ライン圧制御用ソレノイド
Claims (3)
- 車両に搭載された無段変速機のライン圧を制御すべく、該無段変速機に供給される作動流体の目標ライン圧を該車両の運転状態に応じて設定し、該目標ライン圧となるように該作動流体の実ライン圧を制御する無段変速機のライン圧制御装置において、
変速過渡時に消費される該作動流体の消費流量に相関する消費流量相関値を導出する消費流量相関値導出手段と、
該消費流量相関値導出手段により導出された該消費流量相関値に基づいてライン圧補正量を決定するライン圧補正量決定手段とをそなえ、
該ライン圧補正量決定手段により決定された該ライン圧補正量に応じて該目標ライン圧を補正するように構成されている
ことを特徴とする、無段変速機のライン圧制御装置。 - 該消費流量相関値導出手段が、変速比変化量に基づいて該消費流量相関値を導出するように構成されている
ことを特徴とする、請求項1記載の無段変速機のライン圧制御装置。 - 該無段変速機は、プライマリプーリとセカンダリプーリとベルトとから構成されるベルト式無段変速機であって、
該消費流量相関値は、アップシフト時には、該プライマリプーリの可動シーブを駆動する油圧ピストンに供給される作動油量から該セカンダリプーリの可動シーブを駆動する油圧ピストンに供給される作動油量を減算した値とされ、ダウンシフト時には、該セカンダリプーリの可動シーブを駆動する油圧ピストンに供給される作動油量の値とされ、
該ライン圧補正量は、該消費流量相関値,該セカンダリプーリの油圧ピストンに加えられるライン圧を調整するレギュレータバルブの通過流量,該レギュレータバルブの排出ポートの入口における油圧,該排出ポートの出口における油圧から求められるライン圧低下量に基づいて設定される
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の無段変速機のライン圧制御装置。
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