本発明において、好適には、前記入力側可変プーリや出力側可変プーリに作用させるプーリ圧をそれぞれ独立に制御するように油圧制御回路を構成することで、前記入力側推力及び出力側推力が各々直接的に或いは間接的に制御される。
図1は、本発明が適用される車両10を構成するエンジン12から駆動輪24までの動力伝達経路の概略構成を説明する図である。図1において、例えば走行用の駆動力源として用いられるエンジン12により発生させられた動力は、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14、前後進切換装置16、車両用無段変速機としてのベルト式無段変速機(以下、無段変速機(CVT)という)18、減速歯車装置20、差動歯車装置22などを順次介して、左右の駆動輪24へ伝達される。
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸13に連結されたポンプ翼車14p、及びトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸30を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14p及びタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、このロックアップクラッチ26が完全係合させられることによってポンプ翼車14p及びタービン翼車14tは一体回転させられる。ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したり、無段変速機18におけるベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26のトルク容量を制御したり、前後進切換装置16における動力伝達経路を切り換えたり、車両10の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給したりする為の作動油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
前後進切換装置16は、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸30はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸32はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sとは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介して非回転部材としてのハウジング34に選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
このように構成された前後進切換装置16では、前進用クラッチC1が係合されると共に後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸30が入力軸32に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合されると共に前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸32はタービン軸30に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)とされる。
エンジン12は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関にて構成されている。このエンジン12の吸気配管36には、スロットルアクチュエータ38を用いてエンジン12の吸入空気量QAIRを電気的に制御する為の電子スロットル弁40が備えられている。
無段変速機18は、入力軸32に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側可変プーリ(プライマリプーリ、プライマリシーブ)42及び出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側可変プーリ(セカンダリプーリ、セカンダリシーブ)46の一対の可変プーリ42,46と、その一対の可変プーリ42,46の間に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、一対の可変プーリ42,46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
プライマリプーリ42は、入力軸32に固定された入力側固定回転体としての固定回転体(固定シーブ)42aと、入力軸32に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた入力側可動回転体としての可動回転体(可動シーブ)42bと、それらの間のV溝幅を変更する為のプライマリプーリ42における入力側推力(プライマリ推力)Win(=プライマリ圧Pin×受圧面積)を付与する油圧アクチュエータとしての入力側油圧シリンダ(プライマリ側油圧シリンダ)42cとを備えて構成されている。また、セカンダリプーリ46は、出力軸44に固定された出力側固定回転体としての固定回転体(固定シーブ)46aと、出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた出力側可動回転体としての可動回転体(可動シーブ)46bと、それらの間のV溝幅を変更する為のセカンダリプーリ46における出力側推力(セカンダリ推力)Wout(=セカンダリ圧Pout×受圧面積)を付与する油圧アクチュエータとしての出力側油圧シリンダ(セカンダリ側油圧シリンダ)46cとを備えて構成されている。
そして、プライマリ側油圧シリンダ42cへの油圧であるプライマリ圧Pin及びセカンダリ側油圧シリンダ46cへの油圧であるセカンダリ圧Poutが油圧制御回路100(図3参照)によって各々独立に調圧制御されることにより、プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutが各々直接的に或いは間接的に制御される。これにより、一対の可変プーリ42,46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比(ギヤ比)γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられると共に、伝動ベルト48が滑りを生じないように一対の可変プーリ42,46と伝動ベルト48との間の摩擦力(ベルト挟圧力)が制御される。このように、プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutが各々制御されることで伝動ベルト48の滑りが防止されつつ実際の変速比(実変速比)γが目標変速比γ*とされる。尚、入力軸回転速度NINは入力軸32の回転速度であり、出力軸回転速度NOUTは出力軸44の回転速度である。また、本実施例では図1から判るように、入力軸回転速度NINはプライマリプーリ42の回転速度と同一であり、出力軸回転速度NOUTはセカンダリプーリ46の回転速度と同一である。
無段変速機18では、例えばプライマリ圧Pinが高められると、プライマリプーリ42のV溝幅が狭くされて変速比γが小さくされるすなわち無段変速機18がアップシフトされる。また、プライマリ圧Pinが低められると、プライマリプーリ42のV溝幅が広くされて変速比γが大きくされるすなわち無段変速機18がダウンシフトされる。従って、プライマリプーリ42のV溝幅が最小とされるところで、無段変速機18の変速比γとして最小変速比γmin(最高速側変速比、最Hi)が形成される。また、プライマリプーリ42のV溝幅が最大とされるところで、無段変速機18の変速比γとして最大変速比γmax(最低速側変速比、最Low)が形成される。尚、プライマリ圧Pin(プライマリ推力Winも同意)とセカンダリ圧Pout(セカンダリ推力Woutも同意)とにより伝動ベルト48の滑り(ベルト滑り)が防止されつつ、それらプライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとの相互関係にて目標変速比γ*が実現されるものであり、一方のプーリ圧(推力も同意)のみで目標の変速が実現されるものではない。
図2は、エンジン12や無段変速機18などを制御する為に車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図2において、車両10には、例えば無段変速機18の変速制御などに関連する車両用無段変速機の制御装置を含む電子制御装置50が備えられている。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置50は、エンジン12の出力制御、無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力制御、ロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、無段変速機18及びロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置50には、エンジン回転速度センサ52により検出されたクランク軸13の回転角度(位置)ACR及びエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEを表す信号、タービン回転速度センサ54により検出されたタービン軸30の回転速度(タービン回転速度)NTを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された無段変速機18の入力回転速度である入力軸回転速度NINを表す信号、出力軸回転速度センサ58により検出された車速Vに対応する無段変速機18の出力回転速度である出力軸回転速度NOUTを表す信号、スロットルセンサ60により検出された電子スロットル弁40のスロットル弁開度θTHを表す信号、冷却水温センサ62により検出されたエンジン12の冷却水温THWを表す信号、吸入空気量センサ64により検出されたエンジン12の吸入空気量QAIRを表す信号、アクセル開度センサ66により検出された運転者の加速要求量としてのアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、フットブレーキスイッチ68により検出された常用ブレーキであるフットブレーキが操作された状態を示すブレーキオンBONを表す信号、CVT油温センサ70により検出された無段変速機18等の作動油の油温THOILを表す信号、レバーポジションセンサ72により検出されたシフトレバーのレバーポジション(操作位置)PSHを表す信号、バッテリセンサ76により検出されたバッテリ温度THBATやバッテリ入出力電流(バッテリ充放電電流)IBATやバッテリ電圧VBATを表す信号、セカンダリ圧センサ78により検出されたセカンダリプーリ46への供給油圧であるセカンダリ圧Poutを表す信号等が、それぞれ供給される。尚、電子制御装置50は、例えば上記バッテリ温度THBAT、バッテリ充放電電流IBAT、及びバッテリ電圧VBATなどに基づいてバッテリ(蓄電装置)の充電状態(充電容量)SOCを逐次算出する。また、電子制御装置50は、例えば出力軸回転速度NOUTと入力軸回転速度NINとに基づいて無段変速機18の実変速比γ(=NIN/NOUT)を逐次算出する。
また、電子制御装置50からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SE、無段変速機18の変速に関する油圧制御の為の油圧制御指令信号SCVT等が、それぞれ出力される。具体的には、上記エンジン出力制御指令信号SEとして、スロットルアクチュエータ38を駆動して電子スロットル弁40の開閉を制御する為のスロットル信号や燃料噴射装置80から噴射される燃料の量を制御する為の噴射信号や点火装置82によるエンジン12の点火時期を制御する為の点火時期信号などが出力される。また、上記油圧制御指令信号SCVTとして、プライマリ圧Pinを調圧するリニアソレノイド弁SLPを駆動する為の指令信号、セカンダリ圧Poutを調圧するリニアソレノイド弁SLSを駆動する為の指令信号、ライン油圧PLを制御するリニアソレノイド弁SLTを駆動する為の指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
図3は、油圧制御回路100のうち無段変速機18の変速に関する油圧制御に関する要部を示す油圧回路図である。図3において、油圧制御回路100は、例えばオイルポンプ28、プライマリ圧Pinを調圧するプライマリ圧コントロールバルブ110、セカンダリ圧Poutを調圧するセカンダリ圧コントロールバルブ112、プライマリレギュレータバルブ(ライン油圧調圧弁)114、モジュレータバルブ116、リニアソレノイド弁SLT、リニアソレノイド弁SLP、リニアソレノイド弁SLS等を備えている。
ライン油圧PLは、例えばオイルポンプ28から出力(発生)される作動油圧を元圧として、リリーフ型のプライマリレギュレータバルブ114によりリニアソレノイド弁SLTの出力油圧である制御油圧PSLTに基づいてエンジン負荷等に応じた値に調圧される。具体的には、ライン油圧PLは、プライマリ圧Pin及びセカンダリ圧Poutの高い方の油圧に所定の余裕分(マージン)を加えた油圧が得られるように設定された制御油圧PSLTに基づいて調圧される。従って、プライマリ圧コントロールバルブ110及びセカンダリ圧コントロールバルブ112の調圧動作において元圧であるライン油圧PLが不足するということが回避されると共に、ライン油圧PLが不必要に高くされないようにすることが可能である。また、モジュレータ油圧PMは、電子制御装置50によって制御される制御油圧PSLT、リニアソレノイド弁SLPの出力油圧である制御油圧PSLP、及びリニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLSの各元圧となるものであって、ライン油圧PLを元圧としてモジュレータバルブ116により一定圧に調圧される。
プライマリ圧コントロールバルブ110は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート110iを開閉してライン油圧PLを入力ポート110iから出力ポート110tを経てプライマリプーリ42へ供給可能にするスプール弁子110aと、そのスプール弁子110aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング110bと、そのスプリング110bを収容し且つスプール弁子110aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLPを受け入れる油室110cと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与する為に出力ポート110tから出力されたライン油圧PLを受け入れるフィードバック油室110dと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧PMを受け入れる油室110eとを備えている。このように構成されたプライマリ圧コントロールバルブ110は、例えば制御油圧PSLPをパイロット圧としてライン油圧PLを調圧制御してプライマリプーリ42のプライマリ側油圧シリンダ42cに供給する。これにより、そのプライマリ側油圧シリンダ42cに供給されるプライマリ圧Pinが制御される。例えば、プライマリ側油圧シリンダ42cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧PSLPが増大すると、プライマリ圧コントロールバルブ110のスプール弁子110aが図3の上側に移動する。これにより、プライマリ側油圧シリンダ42cへのプライマリ圧Pinが増大する。一方で、プライマリ側油圧シリンダ42cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧PSLPが低下すると、プライマリ圧コントロールバルブ110のスプール弁子110aが図3の下側に移動する。これにより、プライマリ側油圧シリンダ42cへのプライマリ圧Pinが低下する。
また、プライマリ側油圧シリンダ42cとプライマリ圧コントロールバルブ110との間の油路118には、フェールセーフ等を目的として、オリフィス120が設けられている。このオリフィス120が設けられていることにより、例えばリニアソレノイド弁SLPが故障してもプライマリ側油圧シリンダ42cの内圧が急減しないようにされている。これにより、例えばリニアソレノイド弁SLPの故障に起因した車両10の急減速が抑制される。
セカンダリ圧コントロールバルブ112は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート112iを開閉してライン油圧PLを入力ポート112iから出力ポート112tを経てセカンダリプーリ46へセカンダリ圧Poutとして供給可能にするスプール弁子112aと、そのスプール弁子112aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング112bと、そのスプリング112bを収容し且つスプール弁子112aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLSを受け入れる油室112cと、スプール弁子112aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート112tから出力されたセカンダリ圧Poutを受け入れるフィードバック油室112dと、スプール弁子112aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧PMを受け入れる油室112eとを備えている。このように構成されたセカンダリ圧コントロールバルブ112は、例えば制御油圧PSLSをパイロット圧としてライン油圧PLを調圧制御してセカンダリプーリ46のセカンダリ側油圧シリンダ46cに供給する。これにより、そのセカンダリ側油圧シリンダ46cに供給されるセカンダリ圧Poutが制御される。例えば、セカンダリ側油圧シリンダ46cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧PSLSが増大すると、セカンダリ圧コントロールバルブ112のスプール弁子112aが図3の上側に移動する。これにより、セカンダリ側油圧シリンダ46cへのセカンダリ圧Poutが増大する。一方で、セカンダリ側油圧シリンダ46cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧PSLSが低下すると、セカンダリ圧コントロールバルブ112のスプール弁子112aが図3の下側に移動する。これにより、セカンダリ側油圧シリンダ46cへのセカンダリ圧Poutが低下する。
また、セカンダリ側油圧シリンダ46cとセカンダリ圧コントロールバルブ112との間の油路122には、フェールセーフ等を目的として、オリフィス124が設けられている。このオリフィス124が設けられていることにより、例えばリニアソレノイド弁SLSが故障してもセカンダリ側油圧シリンダ46cの内圧が急減しないようにされている。これにより、例えばリニアソレノイド弁SLSの故障に起因したベルト滑りが防止される。
このように構成された油圧制御回路100において、例えばリニアソレノイド弁SLPにより調圧されるプライマリ圧Pin及びリニアソレノイド弁SLSにより調圧されるセカンダリ圧Poutは、ベルト滑りを発生させず且つ不必要に大きくならないベルト挟圧力を一対の可変プーリ42,46に発生させるように制御される。また、後述するように、プライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとの相互関係で、一対の可変プーリの42,46の推力比τ(=Wout/Win)が変更されることにより無段変速機18の変速比γが変更される。例えば、その推力比τが大きくされるほど変速比γが大きくされる(すなわち無段変速機18はダウンシフトされる)。
図4は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図4において、エンジン出力制御部すなわちエンジン出力制御手段130は、例えばエンジン12の出力制御の為にスロットル信号や噴射信号や点火時期信号などのエンジン出力制御指令信号SEをそれぞれスロットルアクチュエータ38や燃料噴射装置80や点火装置82へ出力する。例えば、エンジン出力制御手段130は、アクセル開度Accに応じた駆動力(駆動トルク)が得られる為の目標エンジントルクTE *を設定し、その目標エンジントルクTE *が得られるようにスロットルアクチュエータ38により電子スロットル弁40を開閉制御する他、燃料噴射装置80により燃料噴射量を制御したり、点火装置82により点火時期を制御する。
無段変速機制御部すなわち無段変速機制御手段132は、例えば無段変速機18のベルト滑りが発生しないようにしつつ無段変速機18の目標変速比γ*を達成するように、プライマリ圧Pinの指令値(又は目標プライマリ圧Pin*)としてのプライマリ指示圧Pintgtとセカンダリ圧Poutの指令値(又は目標セカンダリ圧Pout*)としてのセカンダリ指示圧Pouttgtとを決定し、プライマリ指示圧Pintgtとセカンダリ指示圧Pouttgtとを油圧制御回路100へ出力する。
ところで、本実施例の油圧制御回路100は、一対の可変プーリの42,46の一方の側であるセカンダリプーリ46側のみに、そのセカンダリプーリ46(セカンダリ側油圧シリンダ46c)に作用する実セカンダリ圧Poutを検出する為の油圧センサとしてのセカンダリ圧センサ78を備えている。その為、無段変速機制御手段132は、例えばセカンダリ圧センサ78の検出値(実セカンダリ圧Poutを表す信号)を目標セカンダリ推力Wout*に対応する目標セカンダリ圧Pout*とするフィードバック制御を実行することができる。これによって、セカンダリプーリ46側では、油圧センサが備えられていないプライマリプーリ42側と比較して、精度良く推力(プーリ圧)を制御することができる。つまり、本実施例では、プライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46の一方であるセカンダリプーリ46を、他方であるプライマリプーリ42と比較して、精度良く推力(プーリ圧)を制御することができる油圧制御回路100が備えられている。
従って、必要最小限の推力でベルト滑りを防止する為に必要な推力(必要推力)すなわちベルト滑りが発生する直前の推力であるベルト滑り限界推力(以下、滑り限界推力)を目標推力として設定する場合、比較的油圧制御精度が劣る(すなわち油圧センサの検出値と目標値との偏差に基づくフィードバック制御できない)プライマリプーリ42側では、確実に滑り限界推力を確保する為に、油圧指令値(プライマリ指示圧Pintgt)と実油圧(実プライマリ圧Pin)とのずれである油圧ばらつきに相当する推力分をその滑り限界推力に上乗せする必要がある。そうすると、目標の変速を実現する為の推力比τ(=Wout/Win)に基づくプライマリ圧Pin(プライマリ推力Win)とセカンダリ圧Pout(セカンダリ推力Wout)との相互関係から、プライマリプーリ42側油圧ばらつきに相当する推力分に対応して目標セカンダリ推力Wout*も増大させなければならず、燃費が悪化する可能性がある。尚、油圧センサを備えなくとも、目標変速比γ*と実変速比γとの変速比偏差Δγ(=γ*−γ)に基づくフィードバック制御により推力を補正することは可能であるので、目標の変速を実現することに関しては、必ずしも油圧制御精度が良い必要はない。
そこで、本実施例では、例えば油圧制御精度が比較的良いセカンダリプーリ46側で、セカンダリプーリ46側の滑り限界推力を確保することはもちろんのこと、プライマリプーリ42側の滑り限界推力も確保する、すなわち両プーリ42,46のベルトトルク容量保証を実現する。また、油圧制御精度が比較的劣るプライマリプーリ42側では、上記ベルト滑りの防止を保証する為の目標セカンダリ推力Wout*に対応した目標プライマリ推力Win*を設定し、目標の変速を実現する。この際、プライマリプーリ42側の油圧ばらつき分による燃費悪化を避ける為、変速比偏差Δγに基づいたフィードバック制御を実行する。
具体的には、無段変速機制御手段132は、例えばセカンダリプーリ46側の滑り限界推力であるセカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmtと、プライマリプーリ42側の滑り限界推力であるプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに基づいて算出される変速制御の為に必要なセカンダリプーリ46側の推力であるセカンダリプーリ側変速制御推力Woutshとのうちの大きい方を、目標セカンダリ推力Wout*として選択する。また、無段変速機制御手段132は、例えば上記選択した目標セカンダリ推力Wout*に基づいて算出される変速制御の為に必要なプライマリプーリ42側の推力であるプライマリプーリ側変速制御推力Winshを、目標プライマリ推力Win*として設定する。また、無段変速機制御手段132は、例えば目標変速比γ*と実変速比γとの変速比偏差Δγに基づいたプライマリ推力Winのフィードバック制御により、目標プライマリ推力Win*(すなわちプライマリプーリ側変速制御推力Winsh)を補正する。
尚、この変速比偏差Δγは、変速比γと1対1に対応するパラメータにおける目標値と実際値との偏差であれば良い。例えば、変速比偏差Δγに替えて、プライマリプーリ42側の目標プーリ位置Xin*と実プーリ位置Xin(図3参照)との偏差ΔXin(=Xin*−Xin)、セカンダリプーリ46側の目標プーリ位置Xout*と実プーリ位置Xout(図3参照)との偏差ΔXout(=Xout*−Xout)、プライマリプーリ42側の目標ベルト掛かり径Rin*と実ベルト掛かり径Rin(図3参照)との偏差ΔRin(=Rin*−Rin)、セカンダリプーリ46側の目標ベルト掛かり径Rout*と実ベルト掛かり径Rout(図3参照)との偏差ΔRout(=Rout*−Rout)、目標入力軸回転速度NIN *と実入力軸回転速度NINとの偏差ΔNIN(=NIN *−NIN)などを用いることができる。
また、前記変速制御の為に必要な推力は、例えば目標の変速を実現する為に必要な推力であって、目標変速比γ*及び目標変速速度を実現する為に必要な推力である。変速速度は、例えば単位時間当たりの変速比γの変化量dγ(=dγ/dt)であるが、本実施例では、ベルトエレメント(ブロック)1個当たりのプーリ位置移動量(dX/dNelm)として定義する(dX:単位時間当たりのプーリの軸方向変位量[mm/ms]、dNelm:単位時間当たりにプーリに噛み込むエレメント(ブロック)数[個/ms])。よって、変速速度(dX/dNelm)としては、プライマリ変速速度(dXin/dNelmin)と、セカンダリ変速速度(dXout/dNelmout)とで表される。具体的には、定常状態(変速比γが一定の状態)でのプライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとをバランス推力(定常推力)Wbl(例えばプライマリバランス推力Winblとセカンダリバランス推力Woutbl)と称し、これらの比が推力比τ(=Woutbl/Winbl)である。また、プライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとが一定の変速比γを保つ定常状態にあるとき、一対の可変プーリ42,46の何れかの推力に、ある推力を加算又は減算すると、定常状態が崩れて変速比γが変化し、加算又は減算した推力の大きさに応じた変速速度(dX/dNelm)が生じる。この加算又は減算した推力のことを変速差推力(過渡推力)ΔW(例えばプライマリ変速差推力ΔWinとセカンダリ変速差推力ΔWout)と称す。従って、前記変速制御の為に必要な推力は、一方の推力が設定された場合、目標変速比γ*を維持する為の推力比τに基づいて一方の推力に対応する目標変速比γ*を実現する為の他方のバランス推力Wblと、目標変速比γ*が変化させられるときの目標変速速度(例えばプライマリ目標変速速度(dXin/dNelmin)*とセカンダリ目標変速速度(dXout/dNelmout)*)を実現する為の変速差推力ΔWとの和となる。また、プライマリプーリ42側にて目標の変速を実現する場合の差推力ΔWは、すなわちプライマリプーリ側換算のプライマリ変速差推力ΔWinは、アップシフト状態であれば(ΔWin>0)となり、ダウンシフト状態であれば(ΔWin<0)となり、変速比一定の定常状態であれば(ΔWin=0)となる。また、セカンダリプーリ46側にて目標の変速を実現する場合の差推力ΔWは、すなわちセカンダリプーリ側換算のセカンダリ変速差推力ΔWoutは、アップシフト状態であれば(ΔWout<0)となり、ダウンシフト状態であれば(ΔWout>0)となり、変速比一定の定常状態であれば(ΔWout=0)となる。
図5は、前記変速制御の為に必要な推力を説明する為の図である。この図5は、例えばセカンダリプーリ46側にてベルト滑り防止を実現するようにセカンダリ推力Woutを設定した場合に、プライマリプーリ42側にて目標のアップシフトを実現するときに設定されるプライマリ推力Winの一例を示している。図5(a)において、t1時点以前或いはt3時点以降では、目標変速比γ*が一定の定常状態にありΔWin=0とされるので、プライマリ推力Winはプライマリバランス推力Winbl(=Wout/τ)のみとなる。また、t1時点乃至t3時点では、目標変速比γ*が小さくされるアップシフト状態にあるので、図5(b)に示した図5(a)のt2時点における推力関係図で表されるように、プライマリ推力Winはプライマリバランス推力Winblとプライマリ変速差推力ΔWinとの和となる。図5(b)に示した各推力の斜線部分は、図5(a)のt2時点の目標変速比γ*を維持する為の各々のバランス推力Wblに相当する。
図6は、セカンダリプーリ46側にのみセカンダリ圧センサ78が備えられている場合に、必要最小限の推力で目標の変速とベルト滑り防止とを両立する為の制御構造を示すブロック図である。図6において、目標変速比γ*及び無段変速機18の入力トルクTINが、例えば無段変速機制御手段132により逐次算出される。
具体的には、無段変速機制御手段132は、無段変速機18の変速後に達成すべき変速比γである変速後目標変速比γ*lを決定する。無段変速機制御手段132は、例えば図7に示すようなアクセル開度Accをパラメータとして出力軸回転速度NOUTと目標入力軸回転速度NIN *との予め求められて記憶された関係(変速マップ)から実際の出力軸回転速度NOUT及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて目標入力軸回転速度NIN *を設定する。そして、無段変速機制御手段132は、目標入力軸回転速度NIN *に基づいて変速後目標変速比γ*l(=NIN */NOUT)を算出する。図7の変速マップは変速条件に相当するもので、出力軸回転速度NOUTが小さくアクセル開度Accが大きい程大きな変速比γになる目標入力軸回転速度NIN *が設定されるようになっている。この変速後目標変速比γ*lは、無段変速機18の最小変速比γmin(最高速ギヤ比、最Hi)と最大変速比γmax(最低速ギヤ比、最Low)の範囲内で定められる。そして、無段変速機制御手段132は、例えば迅速且つ滑らかな変速が実現されるように予め実験的に求められて記憶された関係から、変速開始前の変速比γと変速後目標変速比γ*lとそれらの差とに基づいて、変速中の過渡的な変速比γの目標値として目標変速比γ*を決定する。例えば、無段変速機制御手段132は、変速中に逐次変化させる目標変速比γ*を、変速開始時から変速後目標変速比γ*lに向かって変化する滑らかな曲線(例えば1次遅れ曲線や2次遅れ曲線)に沿って変化する経過時間の関数として決定する。すなわち、無段変速機制御手段132は、無段変速機18の変速中において、変速開始時からの時間経過に従って変速開始前の変速比γから変速後目標変速比γ*lに近付くように逐次目標変速比γ*を変化させる。また、無段変速機制御手段132は、上記経過時間の関数として目標変速比γ*を決定する際、その目標変速比γ*から変速中における目標変速速度(プライマリ目標変速速度(dXin/dNelmin)*とセカンダリ目標変速速度(dXout/dNelmout)*)を算出する。例えば変速が完了して目標変速比γ*が一定の定常状態となれば、目標変速速度は零になる。
また、無段変速機制御手段132は、例えばエンジントルクTEにトルクコンバータ14のトルク比t(=トルクコンバータ14の出力トルクであるタービントルクTT/トルクコンバータ14の入力トルクであるポンプトルクTP)を乗じたトルク(=TE×t)として、無段変速機18の入力トルクTINを算出する。また、無段変速機制御手段132は、例えばエンジン12に対する要求負荷としての吸入空気量QAIR(或いはそれに相当するスロットル弁開度θTH等)をパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとの予め実験的に求められて記憶された図8に示すような関係(マップ、エンジントルク特性図)から、吸入空気量QAIR及びエンジン回転速度NEに基づいて推定エンジントルクTEesとして、エンジントルクTEを算出する。或いは、このエンジントルクTEは、例えばトルクセンサなどにより検出されるエンジン12の実出力トルク(実エンジントルク)TEなどが用いられても良い。また、トルクコンバータ14のトルク比tは、トルクコンバータ14の速度比e(=トルクコンバータ14の出力回転速度であるタービン回転速度NT/トルクコンバータ14の入力回転速度であるポンプ回転速度NP(エンジン回転速度NE))の関数であり、例えば速度比eとトルク比t、効率η、及び容量係数Cとのそれぞれの予め実験的に求められて記憶された図9に示すような関係(マップ、トルクコンバータ14の所定の作動特性図)から、実際の速度比eに基づいて無段変速機制御手段132により算出される。尚、推定エンジントルクTEesは、実エンジントルクTEそのものを表すように算出されるものであり、特に実エンジントルクTEと区別する場合を除き、推定エンジントルクTEesを実エンジントルクTEとして取り扱うものとする。従って、推定エンジントルクTEesには実エンジントルクTEも含むものとする。
また、無段変速機制御手段132は、例えば滑り限界推力Wlmtを算出する限界推力算出部すなわち限界推力算出手段134と、バランス推力Wblを算出する定常推力算出部すなわち定常推力算出手段136と、変速差推力ΔWを算出する差推力算出部すなわち差推力算出手段138と、フィードバック制御量Winfbを算出するFB制御量算出部すなわちFB制御量算出手段140とを備えている。
図6のブロックB1及びブロックB2において、限界推力算出手段134は、例えば実変速比γと無段変速機18の入力トルクTINとに基づいて滑り限界推力Wlmtを算出する。具体的には、限界推力算出手段134は、次式(1)及び次式(2)からプライマリプーリ42の入力トルクとしての無段変速機18の入力トルクTIN、セカンダリプーリ46の入力トルクとしての無段変速機18の出力トルクTOUT、可変プーリ42,46のシーブ角α、プライマリプーリ42側の所定のエレメント・プーリ間摩擦係数μin、セカンダリプーリ46側の所定のエレメント・プーリ間摩擦係数μout、実変速比γから一意的に算出されるプライマリプーリ42側のベルト掛かり径Rin、実変速比γから一意的に算出されるセカンダリプーリ46側のベルト掛かり径Rout(以上、図3参照)に基づいて、セカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmt及びプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtをそれぞれ算出する。尚、TOUT=γ×Tin=(Rout/Rin)×Tinとしている。
Woutlmt=(TOUT×cosα)/(2×μout×Rout)
=(Tin ×cosα)/(2×μout×Rin ) ・・・(1)
Winlmt =(Tin ×cosα)/(2×μin ×Rin ) ・・・(2)
図6のブロックB3及びブロックB6において、定常推力算出手段136は、例えばプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに対応するセカンダリバランス推力Woutbl、及び目標セカンダリ推力Wout*に対応するプライマリバランス推力Winblをそれぞれ算出する。具体的には、定常推力算出手段136は、目標変速比γ*をパラメータとしてプライマリ側安全率SFin(=Win/Winlmt)の逆数SFin−1(=Winlmt/Win)とプライマリプーリ42側に対応するセカンダリプーリ46側の推力を算出するときの推力比τinとの予め実験的に求められて記憶された例えば図10(a)に示すような関係(推力比マップ)から、逐次算出される目標変速比γ*及びプライマリ側安全率の逆数SFin−1に基づいて推力比τinを算出する。そして、定常推力算出手段136は、次式(3)からプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt及び推力比τinに基づいてセカンダリバランス推力Woutblを算出する。また、定常推力算出手段136は、目標変速比γ*をパラメータとしてセカンダリ側安全率SFout(=Wout/Woutlmt)の逆数SFout−1(=Woutlmt/Wout)とセカンダリプーリ46側に対応するプライマリプーリ42側の推力を算出するときの推力比τoutとの予め実験的に求められて記憶された例えば図10(b)に示すような関係(推力比マップ)から、逐次算出される目標変速比γ*及びセカンダリ側安全率の逆数SFout−1に基づいて推力比τoutを算出する。そして、定常推力算出手段136は、次式(4)から目標セカンダリ推力Wout*及び推力比τoutに基づいてプライマリバランス推力Winblを算出する。尚、被駆動時には入力トルクTINや出力トルクTOUTが負の値となることから、上記各安全率の逆数SFin−1,SFout−1も被駆動時には負の値となる。また、この逆数SFin−1,SFout−1は、逐次算出されても良いが、安全率SFin、SFoutに所定の値(例えば1−1.5程度)を各々設定するならばその逆数を設定しても良い。
Woutbl=Winlmt×τin ・・・(3)
Winbl=Wout*/τout ・・・(4)
図6のブロックB4及びブロックB7において、差推力算出手段138は、例えばセカンダリプーリ46側にて目標の変速を実現する場合のセカンダリプーリ側換算の差推力ΔWとしてのセカンダリ変速差推力ΔWout、及びプライマリプーリ42側にて目標の変速を実現する場合のプライマリプーリ側換算の差推力ΔWとしてのプライマリ変速差推力ΔWinを算出する。具体的には、差推力算出手段138は、セカンダリ変速速度(dXout/dNelmout)とセカンダリ変速差推力ΔWoutとの予め実験的に求められて記憶された例えば図11(b)に示すような関係(差推力マップ)から、逐次算出されるセカンダリ目標変速速度(dXout/dNelmout)*に基づいてセカンダリ変速差推力ΔWoutを算出する。また、差推力算出手段138は、プライマリ変速速度(dXin/dNelmin)とプライマリ変速差推力ΔWinとの予め実験的に求められて記憶された例えば図11(a)に示すような関係(差推力マップ)から、逐次算出されるプライマリ目標変速速度(dXin/dNelmin)*に基づいてプライマリ変速差推力ΔWinを算出する。
ここで、上記ブロックB3,B4における演算では、推力比マップ(図10参照)や差推力マップ(図11参照)等の予め実験的に求められて記憶された物理特性図を用いる。その為、油圧制御回路100等の個体差によりセカンダリバランス推力Woutblやセカンダリ変速差推力ΔWoutの算出結果には物理特性に対するばらつきが存在する。そこで、このような物理特性に対するばらつきを考慮する場合には、限界推力算出手段134は、例えばプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに基づくセカンダリプーリ46側の推力(セカンダリバランス推力Woutblやセカンダリ変速差推力ΔWout)の算出に関わる物理特性に対するばらつき分に対応する所定推力(制御マージン)Wmgnを、上記セカンダリプーリ46側の推力の算出に先立って、プライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに加算する。従って、上記物理特性に対するばらつきを考慮する場合には、前記ブロックB3において、定常推力算出手段136は、例えば前記式(3)に替えて、次式(3)’から上記制御マージンWmgnが加算されたプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt及び推力比τinに基づいてセカンダリバランス推力Woutblを算出する。
Woutbl=(Winlmt+Wmgn)×τin ・・・(3)’
尚、上記制御マージンWmgnは、例えば予め実験的に求められて記憶された一定値(設計値)であるが、定常状態(変速比一定状態)よりも過渡状態(変速中)の方がばらつき要因(推力比マップや差推力マップの物理特性図)を多く用いるので、大きい値に設定されている。また、上記算出に関わる物理特性に対するばらつき分は、例えばリニアソレノイド弁SLP,SLSへの各制御電流に対する制御油圧PSLP,PSLSのばらつき、その制御電流を出力する駆動回路のばらつき、制御油圧PSLP,PSLSに対する実プーリ圧Pin,Poutのばらつき等のプーリ圧の油圧指令値に対する実油圧のずれ分(油圧ばらつき分、油圧制御上のばらつき分)とは異なるものである。この油圧ばらつき分は、ユニット(油圧制御回路100等のハードユニット)によっては比較的大きな値となるが、上記算出に関わる物理特性に対するばらつき分は、上記油圧ばらつき分と比べて極めて小さな値である。その為、制御マージンWmgnをプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに加算することは、プーリ圧の油圧指令値に対して実プーリ圧がどんなにばらついても目標のプーリ圧が得られるようにその油圧指令値に制御上のばらつき分を上乗せすることに比べ、燃費の悪化が抑制される。また、上記ブロックB6,B7における演算では、目標セカンダリ推力Wout*を基にするので、ここでは演算に先立って上記制御マージンWmgnを目標セカンダリ推力Wout*に加算することについては実行しない。
また、無段変速機制御手段132は、例えばプライマリプーリ42側のベルト滑りを防止する為に必要なセカンダリ推力として、セカンダリバランス推力Woutblにセカンダリ変速差推力ΔWoutを加算したセカンダリプーリ側変速制御推力Woutsh(=Woutbl+ΔWout)を算出する。そして、図6のブロックB5において、無段変速機制御手段132は、セカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmtとセカンダリプーリ側変速制御推力Woutshとのうちの大きい方を、目標セカンダリ推力Wout*として選択する。
また、無段変速機制御手段132は、例えばプライマリバランス推力Winblにプライマリ変速差推力ΔWinを加算してプライマリプーリ側変速制御推力Winsh(=Winbl+ΔWin)を算出する。また、図6のブロックB8において、FB制御量算出手段140は、例えば次式(5)に示すような予め求められて記憶されたフィードバック制御式を用いて、実変速比γを目標変速比γ*と一致させる為のフィードバック制御量(FB制御補正量)Winfbを算出する。この式(5)において、Δγは目標変速比γ*と実変速比γとの変速比偏差(=γ*−γ)、KPは所定の比例定数、KIは所定の積分定数、KDは所定の微分定数である。そして、無段変速機制御手段132は、例えばプライマリプーリ側変速制御推力Winshに対して、変速比偏差Δγに基づいたフィードバック制御により補正した値(=Winsh+Winfb)を目標プライマリ推力Win*として設定する。
Winfb=KP×Δγ+KI×(∫Δγdt)+KD×(dΔγ/dt) ・・・(5)
このように、前記ブロックB1乃至B5は、目標セカンダリ推力Wout*を設定するセカンダリ側目標推力演算部すなわちセカンダリ側目標推力演算手段150として機能する。また、前記ブロックB6乃至B8は、目標プライマリ推力Win*を設定するプライマリ側目標推力演算部すなわちプライマリ側目標推力演算手段152として機能する。
図6のブロックB9及びブロックB10において、無段変速機制御手段132は、例えば目標推力を目標プーリ圧に変換する。具体的には、無段変速機制御手段132は、目標セカンダリ推力Wout*及び目標プライマリ推力Win*を、各可動シーブ46b,42bの各受圧面積に基づいて目標セカンダリ圧Pout*(=Wout*/46bの受圧面積)及び目標プライマリ圧Pin*(=Win*/42bの受圧面積)に各々変換する。そして、無段変速機制御手段132は、その目標セカンダリ圧Pout*及び目標プライマリ圧Pin*をセカンダリ指示圧Pouttgt及びプライマリ指示圧Pintgtとして設定する。
無段変速機制御手段132は、例えば目標プライマリ圧Pin*及び目標セカンダリ圧Pout*が得られるように、油圧制御指令信号SCVTとしてプライマリ指示圧Pintgt及びセカンダリ指示圧Pouttgtを油圧制御回路100へ出力する。油圧制御回路100は、その油圧制御指令信号SCVTに従って、リニアソレノイド弁SLPを作動させてプライマリ圧Pinを調圧すると共に、リニアソレノイド弁SLSを作動させてセカンダリ圧Poutを調圧する。
また、無段変速機制御手段132は、例えばセカンダリプーリ46側の油圧ばらつき分(油圧制御上のばらつき分)を補償する為に、セカンダリ圧センサ78によるセカンダリ圧Poutの検出値が目標セカンダリ圧Pout*と一致するように、セカンダリ圧Poutの検出値と目標セカンダリ圧Pout*との偏差ΔPout(=Pout*−Pout検出値)に基づくフィードバック制御によりセカンダリ指示圧Pouttgtを補正する。尚、本実施例の油圧制御回路100ではプライマリプーリ42側に油圧センサが設けられていないので、プーリ圧の検出値と実際値との偏差に基づく上記セカンダリプーリ46側のようなフィードバック制御によりプライマリ指示圧Pintgtを補正することはできない。しかしながら、本実施例では、例えば前記ブロックB8において実変速比γが目標変速比γ*と一致するようにフィードバック制御により補正された値(=Winsh+Winfb)が目標プライマリ推力Win*として設定されるので、プライマリプーリ42側の油圧ばらつき分を補償することができる。
図12は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち油圧制御精度が良くないプライマリプーリ42側の油圧マージン(油圧ばらつきを補償する為の油圧)分を削って燃費向上を図る為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
図12において、先ず、限界推力算出手段134に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えば前記式(1)から無段変速機18の入力トルクTIN、可変プーリ42,46のシーブ角α、セカンダリプーリ46側の所定のエレメント・プーリ間摩擦係数μout、実変速比γから一意的に算出されるプライマリプーリ42側のベルト掛かり径Rinに基づいて、セカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmtが算出される。次いで、同じく限界推力算出手段134に対応するS20において、例えば前記式(2)から無段変速機18の入力トルクTIN、可変プーリ42,46のシーブ角α、プライマリプーリ42側の所定のエレメント・プーリ間摩擦係数μin、実変速比γから一意的に算出されるプライマリプーリ42側のベルト掛かり径Rinに基づいて、プライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtが算出される。このS20では、例えば前記物理特性に対するばらつきを考慮する場合には、制御マージンWmgnがプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに加算されても良い。次いで、定常推力算出手段136に対応するS30において、例えば図10(a)に示すような推力比マップから、逐次算出される目標変速比γ*及びプライマリ側安全率の逆数SFin−1に基づいて推力比τinが算出される。そして、前記式(3)から上記プライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt及び推力比τinに基づいてセカンダリバランス推力(セカンダリ定常推力)Woutblが算出される。上記S20にて制御マージンWmgnがプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに加算された場合には、このS30では、前記式(3)に替えて、前記式(3)’からセカンダリバランス推力Woutblが算出される。次いで、差推力算出手段138に対応するS40において、例えば図11(b)に示すような差推力マップから、逐次算出されるセカンダリ目標変速速度(dXout/dNelmout)*に基づいてセカンダリ変速差推力ΔWoutが算出される。次いで、無段変速機制御手段132に対応するS50において、例えば上記セカンダリバランス推力Woutblにセカンダリ変速差推力ΔWoutが加算されてセカンダリプーリ側変速制御推力Woutsh(=Woutbl+ΔWout)が算出される。そして、上記セカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmtとセカンダリプーリ側変速制御推力Woutshとのうちの大きい方が目標セカンダリ推力Wout*として選択される。尚、上記S10乃至S50はセカンダリ側目標推力演算手段150に対応する。
次いで、定常推力算出手段136に対応するS60において、例えば図10(b)に示すような推力比マップから、逐次算出される目標変速比γ*及びセカンダリ側安全率の逆数SFout−1に基づいて推力比τoutが算出される。そして、前記式(4)から前記目標セカンダリ推力Wout*及び推力比τoutに基づいてプライマリバランス推力(プライマリ定常推力)Winblが算出される。次いで、差推力算出手段138に対応するS70において、例えば図11(a)に示すような差推力マップから、逐次算出されるプライマリ目標変速速度(dXin/dNelmin)*に基づいてプライマリ変速差推力ΔWinが算出される。次いで、FB制御量算出手段140に対応するS80において、例えば前記式(5)に示すような所定のフィードバック制御式から変速比偏差Δγに基づいてフィードバック制御量(FB制御補正量)Winfbが算出される。次いで、無段変速機制御手段132に対応するS90において、例えば上記プライマリバランス推力Winblにプライマリ変速差推力ΔWinが加算されてプライマリプーリ側変速制御推力Winsh(=Winbl+ΔWin)が算出される。そして、上記プライマリプーリ側変速制御推力Winshに上記フィードバック制御量Winfbが加算されて目標プライマリ推力Win*(=Winsh+Winfb)が設定される。尚、上記S60乃至S90はプライマリ側目標推力演算手段152に対応する。
次いで、無段変速機制御手段132に対応するS100において、例えば前記目標セカンダリ推力Wout*が可動シーブ46bの受圧面積に基づいて目標セカンダリ圧Pout*(=Wout*/受圧面積)に変換される。そして、上記目標セカンダリ圧Pout*がセカンダリ指示圧Pouttgtとして設定される。このセカンダリ指示圧Pouttgtは油圧制御指令信号SCVTとして油圧制御回路100へ出力され、この油圧制御指令信号SCVTに従ってリニアソレノイド弁SLSが作動させられてセカンダリ圧Poutが調圧される。この際、例えばセカンダリ圧センサ78によるセカンダリ圧Poutの検出値が目標セカンダリ圧Pout*と一致するように、偏差ΔPout(=Pout*−Pout検出値)に基づくフィードバック制御によりセカンダリ指示圧Pouttgtが補正されて、セカンダリプーリ46側の油圧ばらつき分が補償される。
次いで、無段変速機制御手段132に対応するS110において、例えば前記目標プライマリ推力Win*が可動シーブ42bの受圧面積に基づいて目標プライマリ圧Pin*(=Win*/受圧面積)に変換される。そして、上記目標プライマリ圧Pin*がプライマリ指示圧Pintgtとして設定される。このプライマリ指示圧Pintgtは油圧制御指令信号SCVTとして油圧制御回路100へ出力され、この油圧制御指令信号SCVTに従ってリニアソレノイド弁SLPが作動させられてプライマリ圧Pinが調圧される。この際、例えば前記S80,90にて、実変速比γが目標変速比γ*と一致するようにフィードバック制御により補正された値(=Winsh+Winfb)が目標プライマリ推力Win*として設定されるので、プライマリプーリ42側の油圧ばらつき分が補償される。
このように、本実施例では、ベルト滑り防止と変速制御との為に必要なプライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutに基づいて、目標プライマリ推力Win*及び目標セカンダリ推力Wout*が設定される。従って、無段変速機18の変速制御では、滑り限界推力Wlmtすなわちプライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46において必要とされる最低限の推力である下限推力Wmin(プライマリ下限推力Winmin及びセカンダリ下限推力Woutmin)が確保された推力範囲内で実プライマリ推力Win及び実セカンダリ推力Woutが制御される。
ところで、実プライマリ推力Win及び実セカンダリ推力Woutを制御できる推力範囲としては、下限推力Wminを確保することはもちろんのことであるが、例えば各プーリ42,46においてベルト耐久等のハード的な制約から決まる最大限かけられる推力である上限推力Wmax(プライマリ上限推力Winmax及びセカンダリ上限推力Woutmax)を超えることはできない。そうすると、例えばフィードフォワード制御(FF制御)にて設定される目標プライマリ推力Win*及び目標セカンダリ推力Wout*のうちの少なくとも一方が、各プーリ42,46にて各々設定される下限推力Wminと上限推力Wmaxとの間の推力範囲(上下限推力範囲Wmin-maxと称す)から外れる場合には、狙いの変速差推力ΔWを出せず、実変速比γが目標変速比γ*に近づき難くなる可能性がある。更に、フィードフォワード制御上は、実変速比γが変速後目標変速比γ*lに近づかなくとも、過渡的な目標変速比γ*を変速後目標変速比γ*lに到達させるまでの予め求められた所定時間Tff以降は、変速差推力ΔW分が除かれるか或いは極めて小さくされるので、変速差推力ΔWが不足して変速が持続しない可能性がある。尚、この上限推力Wmaxは、少なくともベルト耐久に基づいて定められるものであって、プライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46において各々ベルト耐久等のハード的な要因に対して実現することができる上限の限界推力である。
そこで、本実施例では、目標プライマリ推力Win*及び目標セカンダリ推力Wout*のうちの少なくとも一方が、各プーリ42,46にて各々設定される上下限推力範囲Wmin-maxから外れる変速となる場合には、実変速比γが変速後目標変速比γ*lに対して所定変速比差γsyn以内に近づくまで、目標プライマリ推力Win*をプライマリプーリ42における上限推力Wmax及び下限推力Wminの一方に設定すると共に、目標セカンダリ推力Wout*をセカンダリプーリ46における上限推力Wmax及び下限推力Wminの他方に設定して、変速を実行する。つまり、上下限推力範囲Wmin-maxから外れる変速となる場合には、実変速比γが変速後目標変速比γ*lに対して所定変速比差γsyn以内に近づくまで、現在の車両状態で実現できる最大の変速速度(最大変速速度)による変速制御(最大変速制御と称す)を実行する。尚、上記所定変速比差γsynは、例えば実変速比γが変速後目標変速比γ*lに到達する直前であると(或いは実変速比γが変速後目標変速比γ*lに到達したと)判断できる為の予め求められて記憶された最大変速制御終了判定値である。
また、上下限推力範囲Wmin-maxから外れる変速となる場合とは、狙い通りに変速差推力ΔWを出せない変速限界状態である。見方を換えれば、上下限推力範囲Wmin-maxから外れる変速となる場合とは、例えば変速を進行させる為に上下限推力範囲Wmin-maxにおいて実際に変速差推力ΔWとして用いることができる推力分に基づいて算出される変速比変化分では実変速比γを変速後目標変速比γ*lに到達させられない場合である。つまり、上下限推力範囲Wmin-maxから外れる変速となる場合とは、現在の車両状態で実現できる最大変速速度をもってしても前記所定時間Tff後に実変速比γを変速後目標変速比γ*lに到達させられない場合である。
また、前述したように、本実施例の無段変速機18では、例えばプライマリプーリ42のV溝幅を広くすることでダウンシフトとなる一方で、プライマリプーリ42のV溝幅を狭くすることでアップシフトとなる。従って、最大変速速度を出す為に、無段変速機18の変速がダウンシフトである場合には、目標プライマリ推力Win*をプライマリ下限推力Winminに設定すると共に、目標セカンダリ推力Wout*をセカンダリ上限推力Woutmaxに設定する一方で、無段変速機18の変速がアップシフトである場合には、目標プライマリ推力Win*をプライマリ上限推力Winmaxに設定すると共に、目標セカンダリ推力Wout*をセカンダリ下限推力Woutminに設定する。
より具体的には、図4に戻り、限界推力算出手段134は、例えば前記式(1),(2)からセカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmt(すなわちセカンダリ下限推力Woutmin)及びプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(すなわちプライマリ下限推力Winmin)をそれぞれ算出することに加え、セカンダリ上限推力Woutmax及びプライマリ上限推力Winmaxをそれぞれ算出する。限界推力算出手段134は、例えばセカンダリ下限推力Woutmin及びプライマリ下限推力Winminに対して予め求められて記憶された一定値である所定の値をそれぞれ掛けた値を、セカンダリ上限推力Woutmax及びプライマリ上限推力Winmaxとしてそれぞれ算出する。或いは、限界推力算出手段134は、例えば変速比γと上限推力Wmaxとの予め求められて記憶された図13に示すような関係(上限推力マップ)から実変速比γに基づいて上限推力Wmaxを算出しても良い。尚、前記式(1),(2)において、プライマリプーリ42側の摩擦係数μinとセカンダリプーリ46側の摩擦係数μoutとが等しければ、セカンダリ下限推力Woutminとプライマリ下限推力Winminとは等しくなる。この場合、セカンダリ上限推力Woutmaxとプライマリ上限推力Winmaxとも等しくなる。
最大到達変速比演算部すなわち最大到達変速比演算手段142は、最大変速速度にて変速制御した場合に到達可能な最大到達変速比γaを演算する。例えば、最大到達変速比演算手段142は、最大変速速度を出す為に目標プライマリ推力Win*及び目標セカンダリ推力Wout*を上限推力Wmax及び下限推力Wminの一方と他方とにそれぞれ設定した場合に、そのときの実変速比γにおいて変速に用いることができる変速差推力ΔWを算出し、その変速差推力ΔWにて実現可能な変速速度(最大変速速度)を算出し、その最大変速速度にて変速したときに所定時間Tff経過後に到達可能な最大到達変速比γaを算出する。以下に、最大到達変速比演算手段142による最大到達変速比γaの演算を、無段変速機18の変速がダウンシフトであるときとアップシフトであるときとに分けて説明する。尚、以下の説明中における推力比τinは、例えば図10(a)に示すような推力比マップから実変速比γ及びプライマリ側安全率の逆数SFin−1に基づいて算出され、また、推力比τoutは、例えば図10(b)に示すような推力比マップから実変速比γ及びセカンダリ側安全率の逆数SFout−1に基づいて算出される。
具体的には、無段変速機18の変速がダウンシフトであるときには、目標プライマリ推力Win*及び目標セカンダリ推力Wout*としてプライマリ下限推力Winmin及びセカンダリ上限推力Woutmaxをそれぞれ設定した場合に変速に用いることができる変速差推力ΔWとして、次式(6)から、セカンダリ上限推力Woutmax、及びプライマリ下限推力Winminに対応するセカンダリバランス推力Woutbl(=Winmin×τin)に基づいて、セカンダリプーリ46側におけるセカンダリ最大変速差推力Woutsftを算出する。或いは、変速に用いることができる変速差推力ΔWとして、プライマリ下限推力Winmin、及びセカンダリ上限推力Woutmaxに対応するプライマリバランス推力Winbl(=Woutmax/τout)に基づいて、プライマリプーリ42側におけるプライマリ最大変速差推力Winsft(=Woutmax/τout−Winmin)を算出しても良い。
Woutsft=Woutmax−Winmin×τin ・・・(6)
次に、次式(7)に示すように、例えば図11に示すような差推力マップ(mapA)から、セカンダリ最大変速差推力Woutsftに基づいてセカンダリ最大変速速度(dXout/dNelmout)maxを算出する。また、次式(8)に示すように、単位時間当たりのセカンダリプーリ46側の軸方向最大変位量(dXout)maxを算出する。尚、変速に用いることができる変速差推力ΔWとしてプライマリ最大変速差推力Winsftを算出する場合には、軸方向最大変位量(dXout)maxの算出と同様の方法で、プライマリ最大変速差推力Winsftに基づいて単位時間当たりのプライマリプーリ42側の軸方向最大変位量(dXin)maxを算出する。
(dXout/dNelmout)max=mapA(Woutsft) ・・・(7)
(dXout)max=mapA(Woutsft)×(dNelmout) ・・・(8)
次に、現在のセカンダリプーリ46側の実プーリ位置Xoutから所定時間Tff経過後に到達可能な最大到達プーリ位置Xoutaを、次式(9)から軸方向最大変位量(dXout)max及び所定時間Tffに基づいて算出する。そして、プーリ位置Xoutと変速比γとの予め求められて記憶された不図示の関係(変速比変換マップ)から、その最大到達プーリ位置Xoutaに基づいて最大到達変速比γaを算出する。尚、軸方向最大変位量(dXin)maxに基づいて最大到達変速比γaを算出しても良いことは言うまでもないことである。
Xouta=Xout+(dXout)max×Tff ・・・(9)
一方、無段変速機18の変速がアップシフトであるときには、目標プライマリ推力Win*及び目標セカンダリ推力Wout*としてプライマリ上限推力Winmax及びセカンダリ下限推力Woutminをそれぞれ設定した場合に変速に用いることができる変速差推力ΔWとして、次式(6)’から、プライマリ上限推力Winmax、及びセカンダリ下限推力Woutminに対応するプライマリバランス推力Winbl(=Woutmin/τout)に基づいて、プライマリプーリ42側におけるプライマリ最大変速差推力Winsftを算出する。或いは、変速に用いることができる変速差推力ΔWとして、セカンダリ下限推力Woutmin、及びプライマリ上限推力Winmaxに対応するセカンダリバランス推力Woutbl(=Winmax×τin)に基づいて、セカンダリプーリ46側におけるセカンダリ最大変速差推力Woutsft(=Winmax×τin−Woutmin)を算出しても良い。
Winsft=Winmax−Woutmin/τout ・・・(6)’
次に、次式(7)’に示すように、例えば図11に示すような差推力マップ(mapA)から、プライマリ最大変速差推力Winsftに基づいてプライマリ最大変速速度(dXin/dNelmin)maxを算出する。また、次式(8)’に示すように、単位時間当たりのプライマリプーリ42側の軸方向最大変位量(dXin)maxを算出する。尚、変速に用いることができる変速差推力ΔWとしてセカンダリ最大変速差推力Woutsftを算出する場合には、軸方向最大変位量(dXin)maxの算出と同様の方法で、セカンダリ最大変速差推力Woutsftに基づいて単位時間当たりのセカンダリプーリ46側の軸方向最大変位量(dXout)maxを算出する。
(dXin/dNelmin)max=mapA(Winsft) ・・・(7)’
(dXin)max=mapA(Winsft)×(dNelmin) ・・・(8)’
次に、現在のプライマリプーリ42側の実プーリ位置Xinから所定時間Tff経過後に到達可能な最大到達プーリ位置Xinaを、次式(9)’から軸方向最大変位量(dXin)max及び所定時間Tffに基づいて算出する。そして、プーリ位置Xinと変速比γとの予め求められて記憶された不図示の関係(変速比変換マップ)から、その最大到達プーリ位置Xinaに基づいて最大到達変速比γaを算出する。尚、軸方向最大変位量(dXout)maxに基づいて最大到達変速比γaを算出しても良いことは言うまでもないことである。
Xina=Xin+(dXin)max×Tff ・・・(9)’
変速限界状態判定部すなわち変速限界状態判定手段144は、変速限界状態であるか否かを、目標プライマリ推力Win*及び目標セカンダリ推力Wout*のうちの少なくとも一方が各プーリ42,46にて各々設定される上下限推力範囲Wmin-maxから外れる変速となるか否か、すなわち狙い通りに変速差推力ΔWを出せない状態であるか否かに基づいて判定する。つまり、変速限界状態判定手段144は、最大変速速度にて変速を実行したとしても所定時間Tff後に実変速比γを変速後目標変速比γ*lに到達させられないか否かに基づいて変速限界状態であるか否かを判定する。具体的には、変速限界状態判定手段144は、無段変速機18の変速がダウンシフトであるときには、変速後目標変速比γ*lの方が最大到達変速比γaよりも大きいか否かに基づいて変速限界状態であるか否かを判定する。また、具体的には、変速限界状態判定手段144は、無段変速機18の変速がアップシフトであるときには、変速後目標変速比γ*lの方が最大到達変速比γaよりも小さいか否かに基づいて変速限界状態であるか否かを判定する。
無段変速機制御手段132は、無段変速機18の変速がダウンシフトであるときに変速限界状態判定手段144により変速限界状態であると判定された場合には、目標プライマリ推力Win*をプライマリ下限推力Winminに設定すると共に、目標セカンダリ推力Wout*をセカンダリ上限推力Woutmaxに設定して、最大変速速度にて変速制御を実行する最大変速制御手段146を備えている。また、最大変速制御手段146は、無段変速機18の変速がアップシフトであるときに変速限界状態判定手段144により変速限界状態であると判定された場合には、目標プライマリ推力Win*をプライマリ上限推力Winmaxに設定すると共に、目標セカンダリ推力Wout*をセカンダリ下限推力Woutminに設定して、最大変速速度にて変速制御を実行する。
一方で、無段変速機制御手段132は、変速限界状態判定手段144により変速限界状態でないと判定された場合には、目標プライマリ推力Win*及び目標セカンダリ推力Wout*が共に上下限推力範囲Wmin-max内に入る変速となることから、最大変速速度による変速制御ではない通常制御(例えば図12のフローチャートにおける制御作動に従った変速制御)を実行する。
また、無段変速機制御手段132は、最大変速制御手段146による最大変速制御の実行中には、実変速比γが変速後目標変速比γ*lに対して所定変速比差γsyn以内に近づいたか否かを判定し、所定変速比差γsyn以内に近づいたと判定した場合には、最大変速制御手段146による最大変速制御を終了する。
ここで、例えば変速後目標変速比γ*lがステップ的に変化した変速開始時において、実変速比γと変速後目標変速比γ*lとの乖離が比較的大きいと急変速となり、反対にその乖離が比較的小さいと緩変速となる。そして、緩変速となる場合には、元々変速の進行が遅いので、最大変速制御手段146による最大変速制御を実行しなくても良いという考え方もある。そこで、変速限界状態判定手段144は、変速限界状態であるか否かを判定する際、更に、実変速比γと変速後目標変速比γ*lとの乖離が所定値を超えているか否かを判定しても良い。具体的には、変速限界状態判定手段144は、無段変速機18の変速がダウンシフトであるときには、変速後目標変速比γ*lの方が最大到達変速比γaよりも大きく、且つ変速後目標変速比γ*lと実変速比γとの差(=γ*l−γ)が所定値(>0)を超えているか否かに基づいて変速限界状態であるか否かを判定する。また、具体的には、変速限界状態判定手段144は、無段変速機18の変速がアップシフトであるときには、変速後目標変速比γ*lの方が最大到達変速比γaよりも小さく、且つ実変速比γと変速後目標変速比γ*lとの差(=γ−γ*l)が所定値(>0)を超えているか否かに基づいて変速限界状態であるか否かを判定する。尚、上記所定値(正値)は、緩変速のときに最大変速制御手段146による最大変速制御を実行させないようにする為の予め求められて記憶された急変速判定値である。
図14は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち目標推力(Win*,Wout*)が上下限推力範囲Wmin-maxから外れる変速となる場合に変速持続性の悪化を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図14は、無段変速機18の変速がダウンシフトである場合の実施例である。
図14において、先ず、無段変速機制御手段132に対応するS210において、例えば図7に示すような変速マップから実際の出力軸回転速度NOUT及びアクセル開度Accに基づいて目標入力軸回転速度NIN *が設定され、その目標入力軸回転速度NIN *に基づいて変速後目標変速比γ*l(=NIN */NOUT)が算出される。また、変速開始前の実変速比γと変速後目標変速比γ*lとそれらの差とに基づいて変速中の過渡的な目標変速比γ*が決定される。次いで、限界推力算出手段134に対応するS220において、例えば前記式(2)からプライマリ下限推力Winmin(プライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt)が算出され、例えば図13に示すような上限推力マップから実変速比γに基づいてセカンダリ上限推力Woutmaxが算出される。次いで、最大到達変速比演算手段142に対応するS230において、例えば前記式(6)から上記S220にて算出されたセカンダリ上限推力Woutmax及びプライマリ下限推力Winminに基づいてセカンダリ最大変速差推力Woutsftが算出され、前記式(7),(8)に示すように、例えば図11に示すような差推力マップ(mapA)からセカンダリ最大変速差推力Woutsftに基づいてセカンダリ最大変速速度(dXout/dNelmout)max延いてはセカンダリプーリ46側の軸方向最大変位量(dXout)maxが算出され、前記式(9)から軸方向最大変位量(dXout)max及び所定時間Tffに基づいて最大到達プーリ位置Xoutaが算出され、例えば不図示の変速比変換マップから最大到達プーリ位置Xoutaに基づいて最大到達変速比γaが算出される。次いで、変速限界状態判定手段144に対応するS240において、変速後目標変速比γ*lと実変速比γとの差(=γ*l−γ)が所定値(>0)を超えているか否かが判定される。このS240の判断が肯定される場合は同じく変速限界状態判定手段144に対応するS250において、変速後目標変速比γ*lの方が最大到達変速比γaよりも大きいか否かが判定される。このS250の判断が肯定される場合は最大変速制御手段146に対応するS260において、目標プライマリ推力Win*がプライマリ下限推力Winminに設定されると共に、目標セカンダリ推力Wout*がセカンダリ上限推力Woutmaxに設定されて、最大変速速度による変速制御が実行される。次いで、無段変速機制御手段132に対応するS270において、実変速比γが変速後目標変速比γ*lに対して所定変速比差γsyn以内に近づいたか否かが判定される。このS270の判断が否定される場合は前記S260に戻されるが肯定される場合は同じく無段変速機制御手段132に対応するS280において、最大変速速度による変速制御が終了させられる。一方で、前記S240の判断が否定されるか或いは前記S250の判断が否定される場合は無段変速機制御手段132に対応するS290において、最大変速制御ではない通常制御(例えば図12のフローチャートにおける制御作動に従った変速制御)が実行される。
図15は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち目標推力(Win*,Wout*)が上下限推力範囲Wmin-maxから外れる変速となる場合に変速持続性の悪化を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図15は、前記図14の実施例とは別の実施例であり、無段変速機18の変速がアップシフトである場合の実施例である。
図15において、先ず、無段変速機制御手段132に対応するS310において、例えば図14のS210と同様に、変速後目標変速比γ*lが算出され、その変速後目標変速比γ*lに基づいて過渡的な目標変速比γ*が決定される。次いで、限界推力算出手段134に対応するS320において、例えば図13に示すような上限推力マップから実変速比γに基づいてプライマリ上限推力Winmaxが算出され、例えば前記式(1)からセカンダリ下限推力Woutmin(セカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmt)が算出される。次いで、最大到達変速比演算手段142に対応するS330において、例えば前記式(6)’から上記S320にて算出されたプライマリ上限推力Winmax及びセカンダリ下限推力Woutminに基づいてプライマリ最大変速差推力Winsftが算出され、前記式(7)’,(8)’に示すように、例えば図11に示すような差推力マップ(mapA)からプライマリ最大変速差推力Winsftに基づいてプライマリ最大変速速度(dXin/dNelmin)max延いてはプライマリプーリ42側の軸方向最大変位量(dXin)maxが算出され、前記式(9)’から軸方向最大変位量(dXin)max及び所定時間Tffに基づいて最大到達プーリ位置Xinaが算出され、例えば不図示の変速比変換マップから最大到達プーリ位置Xinaに基づいて最大到達変速比γaが算出される。次いで、変速限界状態判定手段144に対応するS340において、実変速比γと変速後目標変速比γ*lとの差(=γ−γ*l)が所定値(>0)を超えているか否かが判定される。このS340の判断が肯定される場合は同じく変速限界状態判定手段144に対応するS350において、変速後目標変速比γ*lの方が最大到達変速比γaよりも小さいか否かが判定される。このS350の判断が肯定される場合は最大変速制御手段146に対応するS360において、目標プライマリ推力Win*がプライマリ上限推力Winmaxに設定されると共に、目標セカンダリ推力Wout*がセカンダリ下限推力Woutminに設定されて、最大変速速度による変速制御が実行される。次いで、無段変速機制御手段132に対応するS370において、実変速比γが変速後目標変速比γ*lに対して所定変速比差γsyn以内に近づいたか否かが判定される。このS370の判断が否定される場合は前記S360に戻されるが肯定される場合は同じく無段変速機制御手段132に対応するS380において、最大変速速度による変速制御が終了させられる。一方で、前記S340の判断が否定されるか或いは前記S350の判断が否定される場合は無段変速機制御手段132に対応するS390において、最大変速制御ではない通常制御(例えば図12のフローチャートにおける制御作動に従った変速制御)が実行される。
図16は、図14の実施例に対応するタイムチャートであり、無段変速機18がダウンシフトされるときに目標プライマリ推力Win*がプライマリ下限推力Winminを下回る場合の実施例である。図16において、破線で示す従来例においては、目標プライマリ推力Win*がプライマリ下限推力Winminを下回る期間では、実プライマリ推力Win(或いはプライマリ推力の指示値)はプライマリ下限推力Winminに阻まれて狙い通りのプライマリ変速差推力ΔWinが出せず、実変速比γ(実NIN)が過渡的な目標変速比γ*(過渡目標NIN *)に近づき難くされている。そして、FF制御においては、そのような状態でも当初の目標プライマリ推力Win*に従ってプライマリ変速差推力ΔWinが除かれていくので、変速差推力ΔWが不足して変速の持続性が低下してしまう。これに対して、実線で示す本実施例においては、目標プライマリ推力Win*がプライマリ下限推力Winminを下回る変速となったことで、実変速比γ(実NIN)が変速後目標変速比γ*l(変速後目標NIN *)に対して所定変速比差γsyn(所定回転差)以内に近づくまでは、目標プライマリ推力Win*がプライマリ下限推力Winminに設定されると共に、目標セカンダリ推力Wout*がセカンダリ上限推力Woutmaxに設定されて、最大変速速度による変速制御が実行される。よって、変速初期において実変速比γ(実NIN)が過渡的な目標変速比γ*(過渡目標NIN *)に近づき難くされることは、従来例と同様であるが、その後のFF制御においては、従来例と比較して、変速の持続性が改善されている。
上述のように、本実施例によれば、目標プライマリ推力Win*及び目標セカンダリ推力Wout*のうちの少なくとも一方が、各プーリ42,46にて各々設定される上下限推力範囲Wmin-maxから外れる変速となる場合には、実変速比γが変速後目標変速比γ*lに対して所定変速比差γsyn以内に近づくまで、目標プライマリ推力Win*がプライマリプーリ42における上限推力Wmax及び下限推力Wminの一方に設定されると共に、目標セカンダリ推力Wout*がセカンダリプーリ46における上限推力Wmax及び下限推力Wminの他方に設定されて、変速が実行されるので、実際に変速を実行できる限界或いは限界付近の最大変速性能を引き出すことができる。つまり、現在出来うる最大変速速度にて変速を実行することができる。また、実変速比γが変速後目標変速比γ*lに対して所定変速比差γsyn以内に近づくまで、最大変速速度にて変速を実行することで、例えばフィードフォワード制御による変速の持続を担保することができる。よって、目標推力(Win*,Wout*)が上下限推力範囲Wmin-maxから外れる変速となる場合に、変速持続性の悪化を抑制することができる。
また、本実施例によれば、上下限推力範囲Wmin-maxから外れる変速となる場合とは、変速を進行させる為に上下限推力範囲Wmin-maxにおいて実際に変速差推力ΔWとして用いることができる推力分に基づいて算出される変速比変化分では実変速比γを変速後目標変速比γ*lに到達させられない場合であるので、実際に用いることができる推力分では変速後目標変速比γ*lに到達させられない場合に、変速持続性の悪化を抑制することができる。
また、本実施例によれば、無段変速機18がダウンシフトされる場合には、目標プライマリ推力Win*をプライマリ下限推力Winminに設定すると共に、目標セカンダリ推力Wout*をセカンダリ上限推力Woutmaxに設定する一方で、無段変速機18がアップシフトされる場合には、目標プライマリ推力Win*をプライマリ上限推力Winmaxに設定すると共に、目標セカンダリ推力Wout*をセカンダリ下限推力Woutminに設定するので、実際に変速を実行できる限界或いは限界付近の最大変速性能を適切に引き出すことができる。つまり、現在出来うる最大の変速速度にて変速を適切に実行することができる。
また、本実施例によれば、下限推力Wminは、実変速比γと無段変速機18の入力トルクTINとに基づいて算出される滑り限界推力Wlmtであり、上限推力Wmaxは、少なくともベルト耐久に基づいて定められる上限の限界推力であるので、下限推力Wminが適切に算出されてベルト滑りが適切に防止されると共に、上限推力Wmaxが適切に定められてベルト耐久等が適切に確保される。
また、本実施例によれば、セカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmtと、プライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに基づいて算出される変速制御の為に必要なセカンダリプーリ46側のセカンダリプーリ側変速制御推力Woutshとのうちの大きい方が目標セカンダリ推力Wout*として選択されるので、例えば推力制御精度(油圧制御精度)が比較的良いセカンダリプーリ46側にて、セカンダリプーリ46におけるベルト滑り防止の為の必要推力が確保されることはもちろんのこと、推力制御精度が比較的劣るプライマリプーリ42におけるベルト滑り防止の為の必要推力も確保される。また、ベルト滑り防止の為の推力は推力制御精度が比較的良いセカンダリプーリ46側にて制御されることから、目標セカンダリ推力Wout*の設定時に、推力制御精度が比較的劣るプライマリプーリ42における油圧ばらつき分を加える必要が無い。つまり、油圧ばらつき分を加えることなく、セカンダリプーリ46側にて両可変プーリ42,46におけるベルト滑り防止の為の必要推力が確保される。よって、油圧制御精度が良くない方のプライマリプーリ42側の油圧マージン分を削って燃費向上を図ることができる。また、セカンダリプーリ46側の推力制御精度(油圧制御精度)のみが比較的良くされるので、コストアップが抑制される。
また、本実施例によれば、目標セカンダリ推力Wout*に基づいて算出される変速制御の為に必要なプライマリプーリ側変速制御推力Winshを目標プライマリ推力Win*として設定するので、例えば推力制御精度が比較的劣るプライマリプーリ42における油圧ばらつき分を加えることなくプライマリプーリ42におけるベルト滑りを防止しつつ、目標の変速を実現することができる。
また、本実施例によれば、前記変速制御の為に必要な推力(セカンダリプーリ側変速制御推力Woutsh、プライマリプーリ側変速制御推力Winsh)は、目標変速比γ*及び目標変速速度(プライマリ目標変速速度(dXin/dNelmin)*とセカンダリ目標変速速度(dXout/dNelmout)*)を実現する為に必要な推力であるので、変速制御の為に必要な推力が適切に算出される。
また、本実施例によれば、目標変速比γ*と実変速比γとの変速比偏差Δγ或いは目標プーリ位置Xin*と実プーリ位置Xinとの偏差ΔXinなどに基づいたプライマリ推力Winのフィードバック制御により目標プライマリ推力Win*が補正されるので、例えば推力制御精度が比較的劣るプライマリプーリ42における油圧ばらつき分を補償することができる。従って、油圧ばらつき分による燃費悪化を抑制でき、必要最小限のプーリ推力で目標の変速とベルト滑り防止とを適切に実現することができる。
また、本実施例によれば、油圧制御回路100はセカンダリプーリ46側のみに、そのセカンダリプーリ46に作用する実セカンダリ圧Poutを検出する為のセカンダリ圧センサ78を備え、セカンダリ圧センサ78の検出値を目標セカンダリ推力Wout*に対応する目標セカンダリ圧Pout*とするフィードバック制御を実行するので、例えばセカンダリプーリ46側では、油圧センサが備えられていないプライマリプーリ42側と比較して、精度良く推力(プーリ圧)を制御することができる。
また、本実施例によれば、プライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに基づくセカンダリプーリ46側の推力(セカンダリバランス推力Woutblやセカンダリ変速差推力ΔWout)の算出に関わる物理特性に対するばらつき分に対応する所定推力(制御マージン)Wmgnを、そのセカンダリプーリ46側の推力の算出に先立って、プライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに加算するので、例えば推力制御精度が比較的劣るプライマリプーリ42におけるベルト滑りを確実に防止する為の必要推力が適切に確保される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、目標推力(Win*,Wout*)が上下限推力範囲Wmin-maxから外れる変速となるか否かを、最大変速速度にて変速を実行したとしても所定時間Tff後に実変速比γを変速後目標変速比γ*lに到達させられないか否かに基づいて判定した。これは、目標プライマリ推力Win*及び目標セカンダリ推力Wout*を算出することなく、目標推力(Win*,Wout*)が上下限推力範囲Wmin-maxから外れる変速となるか否かを判定できるものであるが、必ずしもこれに限らない。例えば、通常制御(例えば図12のフローチャートにおける制御作動に従った変速制御)を実行する中で、目標推力(Win*,Wout*)そのものが上下限推力範囲Wmin-maxから外れるか否かを判定するようにしても良い。
また、前述の実施例では、実変速比γが変速後目標変速比γ*lに対して所定変速比差γsyn以内に近づいたことで、最大変速速度による変速制御を終了したが、必ずしもこれに限らない。例えば、実変速比γと変速後目標変速比γ*lとが比較的大きく乖離している状態から、実変速比γが変速後目標変速比γ*lにあとどれだけの時間で到達するかを算出し、その時間が所定値以下になったら最大変速速度による変速制御を終了するようにしても良い。
また、前述の実施例では、通常制御として例えば図12のフローチャートにおける制御作動に従った変速制御を例示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、図7に示すような変速マップから目標変速比(或いは目標入力軸回転速度,目標プーリ(シーブ)位置など)を算出し、不図示のベルト挟圧力マップから目標ベルト挟圧を算出して、各プーリにおける目標推力を算出するような変速制御を通常制御として実行する車両10であっても、本発明は適用され得る。
また、前述の実施例では、変速制御の際には実変速比γを変速後目標変速比γ*l(或いは過渡的な目標変速比γ*)とするものであったが、変速比γを用いたのは飽くまで一例であって、ここでの変速比γは、例えば変速比γと1対1に対応するプーリ位置Xや入力軸回転速度(プライマリプーリ42の回転速度)NINなどと同意である。
また、前述の実施例では、上限推力Wmaxは、ベルト耐久に基づいて定められるものであったが、ベルト耐久の他に例えばオイルポンプ容量等のハード的な要因に基づいて定められるものであっても良い。
また、前述の実施例では、セカンダリプーリ46を、プライマリプーリ42と比較して、精度良く推力(プーリ圧)を制御することができる油圧制御回路100が備えられていたが、これに限らず、例えばプライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46側の何れにも油圧センサを備えて、それらプライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46の何れをも精度良く推力を制御することができる油圧制御回路100であっても良いし、また、プライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46側の何れにも油圧センサを備えていない油圧制御回路100であっても良い。
また、前述の実施例において、流体式伝動装置としてロックアップクラッチ26を有するトルクコンバータ14が用いられていたが、ロックアップクラッチ26は必ずしも設けられなくても良く、またトルクコンバータ14に替えて、トルク増幅作用のない流体継手(フルードカップリング)などの他の流体式伝動装置が用いられてもよい。また、前後進切換装置がその発進機構として機能するか、発進クラッチ等の発進機構が備えられるか、或いは動力伝達経路を断接可能な係合装置等が備えられる場合には、流体式伝動装置は備えられなくとも良い。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。