JP3885416B2 - 防振装置 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は、防振連結される部材間に介装されて、それら両部材間での振動伝達を低減する防振装置に係り、特に、極めて簡単な構造によって、広い周波数域に亘って振動伝達率を抑えることの出来る新規な構造の防振装置に関するものである。
【0002】
【背景技術】
従来から、自動車用のエンジンマウントやサスペンションブッシュ等の他、自動車以外の各種機械装置における防振装置や住宅のフロア下の支持体等のように、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振連結体や防振支持体等としての防振装置として、ゴム弾性体を用いた防振装置が広く採用されている。
【0003】
ところで、このような防振装置には、それが採用される部位に応じて各種の特性が要求されることとなり、例えば自動車用エンジンマウントにおいては、パワーユニットをボデーに対して支持せしめるための静的ばね剛性の他、10Hz前後の低周波振動に対する高減衰性能と、80〜500Hz付近の中乃至高周波の広い周波数域に亘る低動ばね性能(振動絶縁性能)が要求されると共に、大荷重入力時のパワーユニットの変位量制限作用も要求される。
【0004】
ところが、従来構造の防振装置では、これらの各種の要求特性を総合的に達成することが極めて難しかった。例えば、自動車用のエンジンマウントにおいて、車室内こもり音等を改善するためには、80〜500Hz付近の中乃至高周波の広い周波数域に亘って低動ばね化する必要があるが、実際には、パワーユニットの支持剛性(静的ばね定数)を確保するために、ゴム弾性体の静動比の関係から動的ばね定数の低下が制限されてしまい、目的とする程の低動ばね化が実現できない状況にある。また、低周波数域の防振のために高減衰特性を有するゴム弾性体を採用した場合には、ゴム弾性体における静動比が一層大きくなる傾向にあるために、目的とする中乃至高周波数域での低動ばね化がより難しくなる。
【0005】
なお、このような問題に対処するために、防振装置の内部に非圧縮性流体を封入し、封入流体の共振作用等の流動作用を利用することにより、静的ばね剛性を確保しつつ、低周波数域の高減衰特性や中乃至高周波数域の低動ばね特性を向上せしめた流体封入式の防振装置も提案されているが、このような防振装置では、流体を封入するために構造が複雑化するだけでなく、製造が非常に難しくなり、コスト的にも3〜5倍のアップとなることが避けられないという問題があった。
【0006】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、静的ばね剛性を十分に確保しつつ、中乃至高周波数の広い周波数域に亘って低動ばね特性を実現することの出来る、構造が簡単で且つ製造が容易な新規な構造の防振装置を提供することにある。
【0007】
【解決手段】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載され、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0008】
本発明の第一の態様は、互いに防振連結される部材に取り付けられる第一の取付部材と第二の取付部材を離間配置せしめて、本体ゴム弾性体で相互に連結した防振装置において、前記防振連結される部材間での振動伝達経路上の部材である前記第一の取付部材と前記第二の取付部材と前記本体ゴム弾性体の何れからも独立して変位可能とされたマス部材を、該マス部材から独立して変位可能とされた弾性支持部材を介して、該振動伝達経路上の部材に対して該マス部材の自重により接触させて支持せしめると共に、前記マス部材を、前記本体ゴム弾性体で支持せしめることにより、該本体ゴム弾性体によって前記弾性支持部材を構成したことを、特徴とする。
【0009】
このような本態様に従う構造とされた防振装置においては、マス部材と弾性支持部材によって一つの振動系が構成されており、この振動系に対して、振動伝達経路上の部材から加振力が及ぼされるようになっている。そこにおいて、マス部材は、振動伝達経路上の部材から独立して変位し得ることから、加振力の周波数が、マス部材の質量と支持弾性部材のばねによって定まる固有の振動周波数を超えて大きくなると、共振状態を呈してマス部材の振幅が大きくなり、マス部材が振動伝達経路上の部材から離間して振動するようになる。かかる振動状態下では、マス部材が、振動伝達経路上の部材に対して打ち当たるように断続的に接触することとなり、マス部材が、振動伝達経路上の部材に対して、ある位相差をもって接触することとなる。特に、マス部材と弾性支持部材からなる振動系が共振状態となるよりも高い周波数域では、マス部材が、支持せしめられた振動伝達経路上の部材に対して略180度だけ位相がずれた状態で動く結果、該マス部材が振動伝達経路上の部材に接触することによって、マス部材の運動エネルギが振動伝達経路上の部材に対して振動を打ち消す方向に伝達,作用せしめられることとなる。
【0010】
従って、本態様に従う構造とされた防振装置においては、マス部材の質量と、弾性支持部材のばね定数を適当にチューニングすることにより、振動伝達経路上の部材の振動を、防振を目的とする周波数域で低減し、振動伝達率を下げることが出来るのであり、特に、マス部材と弾性支持部材からなる振動系の固有の振動周波数よりも高周波域において、マス部材の位相が振動伝達経路上の部材に対して略180度ずれる広い周波数範囲に亘って、低動ばね効果に基づく防振性能の向上が、有効に達成され得るのである。
【0011】
また、かかる防振装置においては、マス部材の質量等を変更するだけで、防振特性を調節することが出来るのであり、それ故、防振特性のチューニングが容易であると共に、基本構造が同じ防振装置を用いて、マス部材だけを変更することにより、各種の異なる防振特性の要求にも容易に対応することが可能となるといった利点もある。
【0012】
しかも、かかる防振装置においては、振動伝達経路上の部材に対して、マス部材を弾性支持部材によって弾性支持せしめただけの極めて簡単な構造をもって、優れた防振性能の向上が達成されるのであり、優れた製造性およびコスト性が実現され得るのである。
また、本態様においては、本体ゴム弾性体を有効に利用して弾性支持部材を構成せしめたことにより、構造の更なる簡略化と製造性の向上が達成され得る。
【0013】
また、本発明の第二の態様は、前記第一の態様に従う構造とされた防振装置において、前記マス部材の外周面を緩衝ゴム層で被覆したことを、特徴とする。このような本態様においては、第一の取付部材や第二の取付部材等に対してマス部材が当接した場合でも、当接時の衝撃が緩衝ゴム層で吸収,緩和される。それ故、例えばマス部材や第一及び第二の取付部材等が金属等で形成される場合でも、当接時における打音や衝撃が軽減乃至は防止され得るのである。
【0015】
また、本発明の第三の態様は、前記第一の態様に従う構造とされた防振装置において、前記第一の取付部材と前記第二の取付部材の間における振動伝達系が、実質的に前記本体ゴム弾性体だけで構成されていることを、特徴とする。このような本態様においては、防振連結される部材間での振動伝達が、実質的に本体ゴム弾性体のみによって為されることから、この本体ゴム弾性体に対してマス部材を当接させることにより、振動伝達経路上の振幅を直接に抑えて、振動伝達力をより効率的に下げることが出来るのである。
【0016】
更にまた、本発明の第四の態様は、前記第一又は第三の態様に従う構造とされた防振装置において、前記第二の取付部材に円筒状部を設けて、該円筒状部の軸方向一方の開口部側に前記第一の取付部材を離間して対向配置せしめると共に、前記本体ゴム弾性体を、該第一の取付部材から該第二の取付部材の開口周縁部に向かって次第に拡径しながら延びる略テーパ筒形状とする一方、前記マス部材を環状として、該マス部材を、該本体ゴム弾性体における略テーパ筒形状とされた径方向中間部分によって弾性支持せしめたことを、特徴とする。このような本態様においては、第二の取付部材の軸方向で対向配置せしめられた第一の取付部材と第二の取付部材の対向方向への入力振動に対して有効な防振効果を発揮せしめ得る防振装置が有利に実現されるのでのあり、また、そこにおいて、テーパ面を利用してマス部材を安定して弾性支持させることが出来ることから、マス部材が安定して変位せしめられて、目的とする防振効果を安定して得ることが可能となる。更に、環状のマス部材を採用したことにより、マス部材の防振装置からの離脱を防止するフェイルセーフ機構も有利に実現可能となる。
【0017】
また、本発明の第五の態様は、前記第一又は第三の態様に従う構造とされた防振装置において、前記第一の取付部材を軸部材とすると共に、前記第二の取付部材を外筒部材とし、該外筒部材を該軸部材の径方向外方に離間して配設すると共に、前記本体ゴム弾性体を、該軸部材と該外筒部材の径方向対向面間に跨がって径方向に延びる複数の弾性連結腕部として、それら複数の弾性連結腕部の径方向中間部分によって、前記マス部材を弾性支持せしめたことを、特徴とする。このような本態様においては、全体として円筒形状を呈し、軸直角方向への入力振動に対して有効な防振効果を発揮せしめ得る防振装置が有利に実現されるのであり、また、そこにおいて、マス部材を外筒部材の内部に略収容状態で配設することによって、防止装置のコンパクト化も有利に達成可能となる。
【0018】
また、本発明の第六の態様は、前記第一乃至第五の何れかの態様に従う構造とされた防振装置において、前記マス部材を、互いに独立して複数個設けると共に、それらのマス部材と前記弾性支持部材に対して、互いに異なるチューニングを施したことを、特徴とする。このような本態様においては、複数の振動系を構成する各マス部材が異なる周波数域で固有の振動周波数を有することから、それら各マス部材と弾性支持部材によってそれぞれ構成される各振動系における固有の振動周波数を適当に調節することによって、複数の周波数域や一層広い周波数域の振動に対しても、有効な防振効果を得ることが可能となるのである。
【0019】
また、本発明の第七の態様は、前記第一乃至第六の何れかの態様に従う構造とされた防振装置において、前記マス部材が、前記第一の取付部材と前記第二の取付部材の相対的変位量を制限するストッパ機構を構成していることを、特徴とする。このような本態様においては、マス部材を利用して構成されたストッパ機構によって、大きな荷重入力時における本体ゴム弾性体の変形量が制限されて耐久性が有利に確保されると共に、防振連結される部材間における過大な相対変位も防止することが出来るのであり、特に、かかるストッパ機構が、少ない部品点数と簡単な構造によって有利に実現され得るのである。
【0020】
また、本発明の第八の態様は、前記第一乃至第七の何れかの態様に従う構造とされた防振装置において、前記振動伝達経路上の部材に対する前記マス部材の相対的変位量を制限する変位量制限手段を設けたことを、特徴とする。このような本態様においては、変位量制限手段を利用して、マス部材の他部材への不必要な当接による異音発生等の防止が容易に実現可能とされる。或いはまた、かかる変位量制限手段を利用して、振動伝達経路上の部材に対するマス部材の接触位置を安定化させることにより、目的とする防振性能の向上効果をより安定して得ることも可能となる。
【0021】
また、本発明の第九の態様は、前記第一乃至第八の何れかの態様に従う構造とされた防振装置において、前記振動伝達経路上の部材に対する前記マス部材の離脱を防止する離脱防止手段を設けたことを、特徴とする。このような本態様においては、マス部材の離脱に起因する他部材の損傷等が防止されると共に、フェイルセーフ機能も発揮される。
【0022】
また、本発明の第十の態様は、前記第一乃至第九の何れかの態様に従う構造とされた防振装置において、前記振動伝達経路上の部材による前記マス部材の支持面を、少なくとも一方向で対称となる傾斜面を含んで構成して、該支持面により該マス部材を位置決めしたことを、特徴とする。このような本態様においては、特別な位置決め部材等を用いることなく、マス部材を略一定位置に有利に位置決めすることが出来るのであり、それによって、マス部材の当接による、前述の如き目的とする防振効果の安定化が、簡単な構造によって達成され得るのである。なお、傾斜面としては、例えば、一軸回りの全周で軸対称な傾斜面が与えられたテーパ付の円筒状面(円錐状面)や、面対称な一対の傾斜平面が与えられた屋根形の傾斜面等が、好適に採用され得る。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0024】
先ず、図1には、本発明の第一の実施形態としての自動車用エンジンマウント10が、概略的に示されている。かかるエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と第二の取付部材としての第二の取付金具14が、所定距離を隔てて対向配置されていると共に、それら第一の取付金具12と第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16によって弾性的に連結されている。そして、図面上に明示はされていないが、第一の取付金具12が自動車のボデーに取り付けられると共に、第二の取付金具14がパワーユニットに取り付けられることにより、パワーユニットをボデーに対して防振支持するようになっている。なお、そのような装着状態下では、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間にパワーユニット荷重による静的な初期荷重が及ぼされることにより、本体ゴム弾性体16が弾性変形して、それら第一の取付金具12と第二の取付金具14が互いに接近方向に所定量だけ変位せしめられると共に、それら第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に、防振すべき主たる振動が、かかる静的初期荷重と略同じ方向に入力されることとなる。なお、以下の説明中、上下方向とは、原則として、図1中の上下方向をいう。
【0025】
より詳細には、第一の取付金具12は、鉄等の剛性を有する材質で形成されており、略円形の平板形状を有している。また、その中央部分には、軸方向下方に突出する第一の取付ボルト18が固設されており、この第一の取付ボルト18によって、第一の取付金具12が、図示しない自動車のボデーに取り付けられるようになっている。
【0026】
また一方、第二の取付金具14は、全体として大径の略円筒形状を有する筒金具20と、全体として大径の略有底円筒形状を有する底金具22から構成されており、鉛直上下方向で開口するように配設された筒金具20の上側開口部に、鉛直下方に向かって開口するように配設された底金具22の開口部が重ね合わされて、該底金具22の開口周縁部に一体形成されたフランジ部24に対して、筒金具20の上側開口周縁部に一体形成されたかしめ部26がかしめ固定されることによって、第二の取付金具14が、全体として深底の逆カップ形状をもって形成されている。なお、筒金具20の下側開口部には、軸方向下方に向かって次第に拡開するテーパ筒状部28が一体形成されている。また、底金具22の上底部の中央には、軸方向上方に突出する第二の取付ボルト30が固設されており、この第二の取付ボルト30によって、第二の取付金具14が、図示しない自動車のパワーユニットに取り付けられるようになっている。
【0027】
そして、第二の取付金具14の開口部側に離間して、第一の取付金具12が配設されており、これら第一の取付金具12と第二の取付金具14が、鉛直方向に延びる一つの中心軸上で離間して対向配置されている。
【0028】
また、これら第一の取付金具12と第二の取付金具14を弾性連結する本体ゴム弾性体16は、全体として逆向きの円錐台形状を有していると共に、大径側端面に向かって開口するすり鉢状の中央凹所31が形成されている。そして、その小径側端面が、第一の取付金具12の中央上面に加硫接着されている一方、大径側端部の外周面が、第二の取付金具14を構成する筒金具20の内周面に対して加硫接着されている。これにより、本体ゴム弾性体16は、第一の取付金具12の中央部分から第二の取付金具14の開口部に向かって、鉛直上方に次第に大径化しながら延び出す厚肉のテーパ付円筒形状とされており、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に跨がって延びる部分の内周面32と外周面34が、何れも、略一定の角度で広がるテーパ付の円筒状面とされている。
【0029】
更にまた、本体ゴム弾性体16の大径側端部は、筒金具20の内周面を略全面に亘って覆う円筒形状の被覆ゴム部36とされている。また、この被覆ゴム部36の上端部は、径方向内方に向かって延び出しており、以て、筒金具20の上側開口部においてオーバハング形状をもって径方向内方に延び出す、変位量制限手段としての円環形状の弾性規制片38が、本体ゴム弾性体16に一体形成されている。要するに、この弾性規制片38は、被覆ゴム部36の内周面よりも径方向内方にまで達する突出高さで、第二の取付金具14の中空内部に突出せしめられているのである。
【0030】
そして、このように第一の取付金具12と第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で弾性連結されることにより、第二の取付金具14の軸方向下方の開口部が本体ゴム弾性体16によって覆蓋されており、以て、第二の取付金具14と本体ゴム弾性体16の間には、第二の取付金具14の中空内部と本体ゴム弾性体16の中央凹所31によって協働して中空状の内部空所40が形成されている。
【0031】
さらに、この内部空所40には、内部空所40の内周面形状よりも一回り小さな外周面形状を有するマス部材42が、何れの部材からも独立して変位可能な状態で収容配置されている。かかるマス部材42は、例えば鉄等の金属のように比重の大きい材質で形成されることが望ましく、中実のブロック構造のものがより好適に採用される。また、このマス部材42は、内部空所40の内周面形状に略対応した外周面形状を備えており、エンジンマウント10の装着状態下において、本体ゴム弾性体16が弾性変形せしめられた際、マス部材42が他の何れの部材によっても拘束されることなく、何れの部材からも離間して独立した位置への変位が許容され得るようにされている。特に、本実施形態のマス部材42は、図示されているように、略円形ブロック形状を有していると共に、下部外周面が、軸方向下方に行くに従って小径化するテーパ状外周面44とされている。そして、このテーパ状外周面44が、本体ゴム弾性体16のテーパ状内周面32と略対応した形状とされて、該テーパ状内周面32の中間部分に対して略密接状態で接触せしめられている。また、マス部材42の上部は、被覆ゴム部36の内径寸法よりも小さな外径寸法とされている。更に、マス部材42のテーパ状外周面44が本体ゴム弾性体16のテーパ状内周面32に接触,支持せしめられた状態下で、該マス部材42が、弾性規制片38までは達しない軸方向長さとされている。
【0032】
要するに、マス部材42は、エンジンマウント10の自動車への装着状態下において、それ自体の自重によって、本体ゴム弾性体16における第一の取付金具12と第二の取付金具14の連結部分のテーパ状内周面32だけに当接されて、かかる連結部分の径方向中央部分のみによって支持された状態で、内部空所40に収容配置されている。特に、本実施形態では、マス部材42が、本体ゴム弾性体16によって直接に当接,支持されており、本体ゴム弾性体16によって、マス部材42が、振動伝達経路上に配された第一及び第二の取付金具12,14や本体ゴム弾性体16に対して相対変位可能に弾性支持されているのであり、このことから明らかなように、本実施形態では、本体ゴム弾性体16によって、マス部材42の弾性支持部材が構成されている。そして、マス部材42は、弾性支持部材としての本体ゴム弾性体16と協働して、第一及び第二の取付金具12,14や本体ゴム弾性体16から構成されたパワーユニットとボデーの間での振動伝達経路とは異なる一つの振動系を構成している。
【0033】
また、そのようなマス部材42の配設状態下では、マス部材42のテーパ状外周面44が本体ゴム弾性体16のテーパ状内周面32に対して、周方向の全周で重ね合わされて支持されていることにより、両テーパ面44,32による位置決め作用が発揮されて、マス部材42が、第一及び第二の取付金具12,14や本体ゴム弾性体16と同じ中心軸上に有利に位置決めされて保持され得るようになっている。
【0034】
なお、弾性規制片38の内径寸法は、マス部材42の外径寸法よりも小さくされており、マス部材42の上方において、弾性規制片38が、マス部材42の上面にまで延び出して位置せしめられ、マス部材42の外周部分の軸方向上方に離間して配設されている。また、マス部材42の径方向外方には、周方向全周に亘って、筒金具20に被着された被覆ゴム部36が、径方向外方に離間して配設されている。
【0035】
上述の如き構造とされたエンジンマウント10においては、前述の如き自動車への装着状態下、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に振動が入力されると、本体ゴム弾性体16が弾性変形せしめられ、この本体ゴム弾性体16の作用に基づいて防振効果が発揮されることとなる。要するに、本実施形態では、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間での力の伝達が、本体ゴム弾性体16のみによって行なわれるのである。
【0036】
そこにおいて、本体ゴム弾性体16は、入力振動に応じた周波数で弾性変形を繰り返すこととなり、この本体ゴム弾性体16の弾性変形による運動エネルギが、該本体ゴム弾性体16によって弾性的に支持されたマス部材42にも、加振力として伝達される。そして、入力振動の周波数が低い場合には、マス部材42によって構成された振動系も、第一及び第二の取付金具12,14や本体ゴム弾性体16によって構成された振動伝達経路と同じ周波数で加振されることとなり、マス部材42が、本体ゴム弾性体16から離れることなく、本体ゴム弾性体16のテーパ状内周面32に略接触したままの状態で、本体ゴム弾性体16と一体的に変位せしめられるが、入力振動の周波数が、マス部材42の質量と本体ゴム弾性体16によるマス部材42の支持ばねに基づいて定まる固有の周波数近くに達すると、マス部材42によって構成された振動系が共振状態となり、マス部材42の振幅が大きくなると共に、本体ゴム弾性体16からマス部材42が離間して振動せしめられる。その結果、マス部材42の位相が、パワーユニットとボデーの間での振動伝達経路を構成する本体ゴム弾性体16に対して略180度だけずれて、本体ゴム弾性体16の支持面(テーパ状内周面32)に対して、打ち当たるようにして繰り返し当接せしめられることとなる。
【0037】
その結果、本体ゴム弾性体16の振動変位乃至は振動エネルギが、マス部材42の振動変位乃至は振動エネルギによって、相殺的に低減されるのであり、本体ゴム弾性体16の振動振幅が抑えられることにより、振動伝達経路としての本体ゴム弾性体16の動的ばね定数が実質的に低減されるのであり、以て、振動伝達率の低下、ひいては防振性能の向上が有利に達成され得るのである。
【0038】
しかも、本体ゴム弾性体16に対するマス部材42の位相は、上述の固有の周波数よりも高周波側で相当に広い範囲に亘って略180度に維持されることから、マス部材42の本体ゴム弾性体16への当接によるエンジンマウント10の低動ばね効果は、十分に広い周波数域に亘って発揮され得ることとなる。
【0039】
また、マス部材42は、振動伝達経路上の部材に対して完全に独立配置されていることから、主振動系に対してマスを弾性連結して副振動系を構成した公知の動的吸振器を付加する場合に比して、構造が簡単で製造が容易であるだけでなく、温度変化に伴う支持ばね特性の変化に起因するチューニングのずれが有利に抑えられるのであり、それ故、本実施形態の如くエンジンの熱が及ぼされて温度変化が激しい場合でも、目的とする防振効果を安定して得ることが可能となるのである。
【0040】
さらに、本実施形態においては、マス部材42が、本体ゴム弾性体16による支持面(内周面32)に付されたテーパの作用で位置決めされることに加えて、マス部材42の第一の取付金具12への当接が、本体ゴム弾性体16にて防止されると共に、筒金具20や底金具22への当接も、被覆ゴム部36や弾性規制片38によって防止されることから、マス部材42の変位乃至は作動の安定化が達成されると共に、マス部材42の不必要な変位も防止され、また、マス部部材42の他部材への当接に起因する打音や振動も低減乃至は防止され得ることとなり、防振性能の安定化と更なる向上が達成され得る。
【0041】
また、本実施形態においては、マス部材42が、エンジンマウント10の内部に略閉鎖空間として形成された内部空所40に収容配置されていることによって有効な離脱防止手段が構成されており、マス部材42の飛び出し等が有利に防止されて、有効なフェイルセーフ機能が発揮されるのである。
【0042】
因みに、本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント10について、その防振特性を実測した結果を図2及び図3に示す。なお、かかる測定に際しては、第一及び第二の取付金具12,14や本体ゴム弾性体16を同一として、マス部材42の質量だけを368gと470gの2種類に設定した場合について、それぞれ、低周波数域および高周波数域における絶対ばね定数の周波数特性を実測した。そこにおいて、低周波数域の測定は、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に±0.05mmの振幅の振動を入力することによって行う一方、高周波数域の測定は、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に±3Gの加振力を及ぼすことによって行なった。そして、マス部材42の質量を368gとした前者を実施例1とすると共に、470gとした後者を実施例2とし、更に、マス部材を除いたエンジンマウントについて同様な測定を行なった結果を比較例として、図2及び図3に併せ示した。
【0043】
これら図2及び図3に示された結果からも、マス部材42を設けたことで低動ばね効果が有効に発揮されて、中乃至高周波数域の広い範囲に亘って防振性能の向上が達成されることが明らかに認められる。また、マス部材42の質量を調節して、マス部材42を含んで構成された振動系のチューニングを変化させることにより、防振特性を調節することが出来ることも、明らかである。
【0044】
以上、本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウント10について詳述してきたが、本発明は、その他、各種の態様において実施可能である。以下にその代表例を挙げて説明を加えるが、以下に示す実施形態において、第一の実施形態と同様な構造とされた部材および部材については、第一の実施形態と同一の符号を図中に付することにより、それらの詳細な説明を省略する。
【0045】
先ず、図4には、本発明の第二の実施形態としてのエンジンマウント46が示されている。かかるエンジンマウント46においては、前記第一の実施形態で採用されていた、筒金具20の内周面を覆う被覆ゴム部(36)や、マス部材42の上方に延び出す弾性規制片(38)が、何れも形成されておらず、マス部材42の外周面および上面が、第二の取付金具14に対して実質的に直接に対向せしめられている。
【0046】
一方、その代わりに、本実施形態のエンジンマウント46においては、マス部材42に対して、その表面に薄肉の緩衝ゴム層48が接着されており、かかる緩衝ゴム層48によって、マス部材42の表面が全体に亘って被覆されている。なお、この緩衝ゴム層48は、本体ゴム弾性体16とは別体形成されており、第一及び第二の取付金具12,14や本体ゴム弾性体16から独立して、マス部材42と共に相対変位可能とされている。
【0047】
このような構造とされたエンジンマウント46においても、前記第一の実施形態と同様な効果が、何れも有効に発揮されるのであり、マス部材42が第二の取付金具14に当接する場合にも、マス部材42の表面に被着された緩衝ゴム層48によって、当接時の衝撃や異音が軽減乃至が有利に防止され得る。
【0048】
また、図5には、本発明の第三の実施形態としてのエンジンマウント50が示されている。かかるエンジンマウント50においては、上述の第二の実施形態のエンジンマウント46に比して、本体ゴム弾性体16に対し、その中央凹所31の底面中央から弾性突起52が、一体的に突設されている。この弾性突起52は、中実でストレートな円形ロッド形状を有しており、中央凹所31の底面から内部空所40内を軸方向上方に突出し、第二の取付金具14までは達しない高さで延び出している。
【0049】
また一方、マス部材42には、その中央を軸方向に貫通して延びる挿通孔54が形成されている。この挿通孔54は、弾性突起52の外径寸法よりも僅かに大きな内径寸法の円形断面を有している。そして、マス部材42が、内部空所40に収容配置されて、本体ゴム弾性体16上に載置されてセットされた状態下、該マス部材42の挿通孔54に対して、弾性突起52が下方から遊挿状態で挿入されている。なお、この弾性突起52は、マス部材42の挿通孔54を貫通するだけの長さを有していても良い。
【0050】
このような構造とされたエンジンマウント50においても、前記第一の実施形態と同様な効果が、何れも有効に発揮されるのであり、また、マス部材42の軸直角方向における変位量が、マス部材42の弾性突起52への弾性的な当接によって制限されることから、第二の取付金具14の内周面に緩衝用の被覆ゴム部等も形成したり、マス部材42の外周面に緩衝ゴム層48等を形成したりしなくても、マス部材42の当接による衝撃や異音の発生が有効に防止され得るのである。
【0051】
さらに、図6には、本発明の第四の実施形態としてのエンジンマウント56が示されている。かかるエンジンマウント56においては、前記第一の実施形態におけるエンジンマウント10に比して、本体ゴム弾性体16における中央凹所31の内周面32の深さ方向中間部分、換言すればテーパ状内周面32の径方向中間部分において、軸方向上方に向かって突出する弾性突状部58が、周方向に連続して環状に、若しくは不連続に複数個、一体形成されている。
【0052】
また一方、マス部材42は、本体ゴム弾性体16に突設された弾性突状部58に対応する径方向中間部分で分断されて、中央の円形ブロック形状を有する第一のマス部材62と、外周の円環ブロック形状を有する第二のマス部材64との、二つの独立したマス部材によって構成されている。なお、第一のマス部材62は、弾性突状部58の内径寸法よりも僅かに小さな外径寸法を有している。また、第二のマス部材64は、弾性突状部58の外径寸法よりも僅かに大きな内径寸法と、第二の取付金具14に形成された被覆ゴム部36の内径寸法よりも僅かに小さな外径寸法を有している。そして、これら第一及び第二のマス部材62、64は、何れも、本体ゴム弾性体16におけるテーパ状の内周面32の径方向中間部分に対して、それぞれの自重で接触せしめられて、本体ゴム弾性体16から独立して変位可能な状態で支持されている。
【0053】
このような構造とされたエンジンマウント56においては、第一のマス部材62と本体ゴム弾性体16で構成された第一の弾性支持部材からなる第一の振動系と、第二のマス部材64と本体ゴム弾性体16で構成された第二の弾性支持部材からなる第二の振動系とが、互いに独立して、且つそれぞれ振動伝達経路から独立して形成されている。しかも、第一のマス部材62と第二のマス部材64の質量を異ならせたり、第一の弾性支持部材と第二の弾性支持部材のばね特性を異ならせることによって、それら第一の振動系と第二の振動系が、互いに異なる固有の振動周波数を持つようにチューニングされている。
【0054】
これによって、本実施形態のエンジンマウント56によれば、第一のマス部材62を含んで構成された第一の振動系による低動ばね効果と、第二のマス部材64を含んで構成された第二の振動系による低動ばね効果とが、互いに異なる周波数域で発揮されることとなり、その結果、前記第一の実施形態のエンジンマウントよりも一層広い周波数域において優れた防振効果を得ることも可能となり、大きなチューニング自由度が実現され得るのである。
【0055】
さらに、図7には、本発明の第五の実施形態としてのエンジンマウント66が示されている。かかるエンジンマウント66においては、上述の第二の実施形態のエンジンマウント46に比して、鉛直上下方向で反対に配設されるようになっており、第二の取付金具14が鉛直上方に向かって開口せしめられていると共に、該第二の取付金具14の開口側に離間して第一の取付金具12が対向配置されている。これにより、本体ゴム弾性体16は、第一の取付金具12の下面中央から第二の取付金具14の開口部に向かって次第に拡径するテーパ付きの円筒形状を有しており、その外周面34が、鉛直下方に向かって末広がり状に次第に拡径するテーパ状面とされている。
【0056】
また一方、本実施形態では、略円環形状のマス部材68が採用されており、本体ゴム弾性体16に外挿された状態で、第一の取付金具12と第二の取付金具14の軸方向対向面間に配設されている。このマス部材68は、前記実施形態におけるマス部材と同様、金属等の高比重材で形成されており、その内周面が、本体ゴム弾性体16におけるテーパ付の外周面34に対応して、鉛直下方に向かって次第に大径化するテーパ状内周面70とされている。そして、このテーパ状内周面70が本体ゴム弾性体16の外周面34に接触されることにより、マス部材68が、本体ゴム弾性体16の外周面34における径方向中間部分に載置された状態で、該本体ゴム弾性体16のみによって支持されて配設されている。また、マス部材68の上端部の最小内径寸法は、本体ゴム弾性体16の上端部の最小外径寸法よりも大きくされていると共に、マス部材68の上面と第一の取付金具12の下面との間には、マウント装着状態下で所定の間隙が形成されるように、マス部材68の大きさが設定されている。
【0057】
このような構造とされたエンジンマウント66においても、前記実施形態のエンジンマウント等と同様に、マス部材68と本体ゴム弾性体16で構成された弾性支持部材とによって一つの振動系が構成されるのであり、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間への振動入力によって本体ゴム弾性体16が弾性変形することにより、かかる振動系に固有の振動周波数以上で、マス部材68が、本体ゴム弾性体16の外周面34から離れ、本体ゴム弾性体16に対して位相差をもって振動することとなり、該マス部材68が本体ゴム弾性体16の外周面34に繰り返し打ち当たるように当接することによって、エンジンマウント66の低動ばね化が実現されるのである。
【0058】
なお、第一の取付金具12の下面は、略全面に亘って薄肉の緩衝ゴム層72で覆われており、マス部材68の第一の取付金具12への当接に起因する異音や衝撃が軽減乃至は防止されるようになっている。また、マス部材68が、本体ゴム弾性体16に外挿状態で組み付けられることによって離脱防止手段が構成されており、マス部材68だけが分離して飛び出すことが防止されて、有効なフェイルセーフ機能が発揮され得る。
【0070】
さらに、図8〜9には、本発明の第六の実施形態としての筒形のエンジンマウント90が示されている。かかるエンジンマウント90においては、第一の取付部材としての軸部材である内筒金具92の径方向外方に離間して、第二の取付部材としての外筒部材である外筒金具94が配設されており、それら内筒金具92と外筒金具94が、両筒金具92,94の径方向対向面間に配設された本体ゴム弾性体96で相互に連結されている。そして、内筒金具92が、パワーユニットのボデーの何れか一方に取り付けられると共に、外筒金具94がそれらの他方に取り付けられることにより、パワーユニットをボデーに対して防振支持せしめるようになっている。なお、そのような装着状態下、かかるエンジンマウント90には、内外筒金具92,94間において、パワーユニット荷重が、図8中の上下方向に相当する径方向一方向に及ぼされると共に、防振すべき主たる振動も、それと略同じ径方向に入力されるようになっている。
【0071】
より詳細には、内筒金具92と外筒金具94は、何れも、鉄等の剛性材で形成されており、ストレートな直管形状を有している。そして、外筒金具94の内径寸法が、内筒金具92の外径寸法よりも十分に大きく設定されており、それら内筒金具92と外筒金具94が、互いに径方向に離間して、それぞれの中心軸が互いに略平行となる状態で、同一の中心軸上に、若しくは相互に所定量だけ偏心して配設されている。
【0072】
また、本体ゴム弾性体96は、内筒金具92の外周面に接着されて、該内筒金具92から外筒金具94に向かって、水平よりも僅かに下方に傾斜しつつ径方向両側に延びる一対の弾性連結腕部98,98によって構成されており、それぞれの弾性連結腕部98,98の径方向先端面が外筒金具94の内周面に加硫接着されている。そして、これら両弾性連結腕部98,98の上面は、内筒金具92から径方向外方に行くに従って、次第に鉛直下方に傾斜して広がっており、内筒金具92の中心軸を含む鉛直平面に対して対称な一対の傾斜面104,104とされている。換言すれば、内筒金具92と外筒金具94の径方向対向面間に配設された厚肉円筒形状の本体ゴム弾性体96に対して、主たる振動入力方向となる径方向一方向で内筒金具92を挟んで位置する上側と下側において、周方向に半周強の長さで延びて軸方向に貫通する上側貫通空所100と、周方向に半周弱の長さで延びて軸方向に貫通する下側貫通空所102とが形成されている。
【0073】
なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体96が、内外筒金具92,94を備えた一体加硫成形品として形成されている。また、外筒金具94の内周面には、主たる振動入力方向で対向位置する部分、換言すれば、上側貫通空所100の周方向中央部分と、下側貫通空所102の周方向中央部分において、それぞれ径方向内方に突出する上下の緩衝ゴム103,105が形成されている。更に、内筒金具92は、その外周面が略全面に亘って本体ゴム弾性体96で被覆されている。
【0074】
さらに、本実施形態のエンジンマウント90には、一つのマス部材106が、一対の弾性連結腕部98,98で弾性支持されることによって組み付けられている。このマス部材106は、上側貫通空所100に挿通配置された上側マス部108と、下側貫通空所102に挿通配置された下側マス部110を含んで構成されており、それら上下マス部108,110の軸方向両端部が、それぞれ、上下貫通空所100,102から軸方向両側に突出せしめられて、突出した軸方向両側端部の周方向両端部同士を連結部112,112によって互いに連結固定することにより、全体として一つの一体的なマス部材106とされている。
【0075】
なお、かかるマス部材106は、前記各実施形態におけるマス部材と同様、金属材等の高比重材によって形成されたものが好適に用いられ、適当に分割形成したものを上下貫通空所100,102に挿通して組み付けて接着剤や溶着等による接着、或いはボルト等によって相互に固定することによって、一つの剛体として有利に形成され得る。
【0076】
また、上側マス部108と下側マス部110は、何れも、上側貫通空所100と下側貫通空所102の内周面形状に略対応し、且つ一回り小さな外周面形状を有している。そして、これら上下マス部108,110は、4つの連結部112で一体的に連結された状態で、それぞれ、上下の貫通空所100,102内で、内外筒金具92,94や本体ゴム弾性体96から離間して独立的に所定量だけ自由に変位可能とされている。
【0077】
そして、かかるマス部材106は、マウントの配設状態下、その自重によって、上側マス部108の周方向両端面114,114が、弾性連結腕部98,98の傾斜面104,104の径方向中間部分に重ね合わされて支持されることにより、下側マス部110が下側貫通空所102内の略中央に位置せしめられた状態で位置せしめられるようになっている。要するに、マス部材106は、一対の弾性連結腕部98,98に対してだけ当接せしめられて、かかる一対の弾性連結腕部98,98だけで支持されて配設されるようになっているのである。
【0078】
なお、かかる配設状態下、上側マス部108の周方向中間部分の内周面が、内筒金具92を被覆する本体ゴム弾性体96に接触しないように、上側マス部108の内周面には、円弧状断面で軸方向全長に亘って延びる溝状の凹部116が形成されていると共に、下側マス部110の周方向中間部分の内周面が、内筒金具92を被覆する本体ゴム弾性体96に当接しないように、内筒金具92を被覆する本体ゴム弾性体96の下面中央には、円弧状断面で軸方向全長に亘って延びる溝状の凹部118が形成されている。
【0079】
このような構造とされたエンジンマウント90においては、その装着状態下において、内筒金具92と外筒金具94の間での力の伝達が、本体ゴム弾性体96のみによって行なわれる。そして、かかるエンジンマウント90の装着状態下では、マス部材106が、本体ゴム弾性体96のみによって弾性的に支持されているのであり、それによって、マス部材106と本体ゴム弾性体96で構成された弾性支持部材とによって、内外筒金具92,94と本体ゴム弾性体96によって構成される振動伝達経路から独立した一つの振動系が構成されている。
【0080】
そこにおいて、本体ゴム弾性体96は、入力振動に応じた周波数で弾性変形を繰り返すこととなり、この本体ゴム弾性体96の弾性変形による運動エネルギが、該本体ゴム弾性体96によって弾性的に支持されたマス部材106にも、加振力として伝達される。そして、前記第一の実施形態におけるエンジンマウント等と同様に、内筒金具92と外筒金具94の間への振動入力によって本体ゴム弾性体96が弾性変形することにより、マス部材106と本体ゴム弾性体96で構成された振動系に固有の振動周波数以上で、マス部材106(上側マス部108)が、本体ゴム弾性体96の上面(傾斜面104,104)から離れ、本体ゴム弾性体96に対して位相差をもって振動することとなり、該マス部材106が本体ゴム弾性体96の傾斜面104,104に繰り返し打ち当たるように当接することによって、エンジンマウント90の実質的な低動ばね化が実現されるのである。
【0081】
特に、本実施形態のエンジンマウント90においては、マス部材106が本体ゴム弾性体96から離間して大きく変位せしめられた際、下側マス部110の周方向両端面も、それぞれ、本体ゴム弾性体96における各弾性連結腕部98,98の下面に対して当接するように設定することが可能である。即ち、本実施形態のエンジンマウント90では、マス部材106と本体ゴム弾性体96で構成された振動系に固有の振動周波数以上で、マス部材106の全体が、本体ゴム弾性体96の弾性振動に対して逆位相で変位せしめられることから、このような設定を施すことにより、上側マス部108だけでなく、下側マス部110の本体ゴム弾性体96への当接も利用して、本体ゴム弾性体96の弾性振動を相殺的に抑えることが出来るのであり、それによって、より優れた低動ばね化を得ることも可能となるのである。
【0082】
また、本実施形態のエンジンマウント90においては、内外筒金具92,94の径方向での相対変位量が、上側マス部108または下側マス部110を介しての内外筒金具92,94が当接せしめられることによって制限されてストッパ機能が発揮されることから、内外筒金具92,94間に大きな荷重が入力された際にも、本体ゴム弾性体96の過大な変形が防止されて耐久性の向上が図られると共に、パワーユニットの過大な変位も抑えられ得る。なお、上下マス部108,110の内外筒金具92,94への当接による衝撃は、内筒金具92を被覆する本体ゴム弾性体96や外筒金具94の内周面に被着された緩衝ゴム103,105によって緩衝されることにより、打音の発生も抑えられ得る。
【0083】
更にまた、本実施形態のエンジンマウント90においては、マス部材106が内筒金具92に外挿状態で配設されていることから、マス部材106の飛び出しが有利に防止されて、有効なフェイルセーフ機能も発揮され得る。
【0084】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、上述の実施形態における具体的に記載によって、何等、限定的に解釈されるものでない。
【0085】
例えば、前記実施形態で示されたマス部材は、可能な範囲において、組み合わせて複数同時に採用することも可能である。
【0086】
また、前記実施形態においては、何れも、第一の取付部材と第二の取付部材の間での振動の伝達が、実質的に本体ゴム弾性体のみによって為される構造とされていたが、その他、例えば、非圧縮性流体が封入された流体室を形成し、振動入力時にこの流体室に生ぜしめられる流体の共振作用等の流動作用を利用して防振効果を得るようにした流体封入式の防振装置に対して、本発明を適用することも可能である。
【0087】
更にまた、本発明においては、互いに異なるチューニングが施された三つ以上の振動系を採用することも可能であり、それら各振動系によって、より広い周波数域での低動ばね化を得ることも出来る。
【0088】
加えて、前記実施形態では、何れも、本発明を自動車用エンジンマウントに適用したものの具体例を示したが、本発明は、その他、自動車用のボデーマウントやデフマウント、サスペンションブッシュ等、或いは自動車以外の各種装置における防振装置に対しても、同様に適用可能であることは、勿論である。
【0089】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【0090】
【発明の効果】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされた防振装置においては、マス部材を非連結状態で組み付ける極めて簡単な構造によって、十分に広い周波数範囲に亘って振動伝達率を下げることが出来るのであり、それ故、本発明によれば、優れた防振効果を発揮し得る防振装置を、容易に且つ低コストで提供することが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第一の実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面図である。
【図2】 図1に示された構造のエンジンマウントについて、低周波数域における絶対ばね定数の周波数特性を測定した結果を、比較例と共に示すグラフである。
【図3】 図1に示された構造のエンジンマウントについて、高周波数域における絶対ばね定数の周波数特性を測定した結果を、比較例と共に示すグラフである。
【図4】 本発明の第二の実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面図である。
【図5】 本発明の第三の実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面図である。
【図6】 本発明の第四の実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面図である。
【図7】 本発明の第五の実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面図である。
【図8】 本発明の第六の実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す横断面図である。
【図9】 図8に示された自動車用エンジンマウントの縦断面図である。
【符号の説明】
10,46,50,56,66,90 エンジンマウント
12 第一の取付金具
14 第二の取付金具
16 本体ゴム弾性体
36 被覆ゴム部
38 弾性規制片
42,62,64,68,106 マス部材
92 内筒金具
94 外筒金具
96 本体ゴム弾性体
Claims (10)
- 互いに防振連結される部材に取り付けられる第一の取付部材と第二の取付部材を離間配置せしめて、本体ゴム弾性体で相互に連結した防振装置において、
前記防振連結される部材間での振動伝達経路上の部材である前記第一の取付部材と前記第二の取付部材と前記本体ゴム弾性体の何れからも独立して変位可能とされたマス部材を、該マス部材から独立して変位可能とされた弾性支持部材を介して、該振動伝達経路上の部材に対して該マス部材の自重により接触させて支持せしめると共に、
前記マス部材を、前記本体ゴム弾性体で支持せしめることにより、該本体ゴム弾性体によって前記弾性支持部材を構成した
ことを特徴とする防振装置。 - 前記マス部材の外周面を緩衝ゴム層で被覆した請求項1に記載の防振装置。
- 前記第一の取付部材と前記第二の取付部材の間における振動伝達系が、実質的に前記本体ゴム弾性体だけで構成されている請求項1に記載の防振装置。
- 前記第二の取付部材に円筒状部を設けて、該円筒状部の軸方向一方の開口部側に前記第一の取付部材を離間して対向配置せしめると共に、前記本体ゴム弾性体を、該第一の取付部材から該第二の取付部材の開口周縁部に向かって次第に拡径しながら延びる略テーパ筒形状とする一方、前記マス部材を環状として、該マス部材を、該本体ゴム弾性体における略テーパ筒形状とされた径方向中間部分によって弾性支持せしめた請求項1又は3に記載の防振装置。
- 前記第一の取付部材を軸部材とすると共に、前記第二の取付部材を外筒部材とし、該外筒部材を該軸部材の径方向外方に離間して配設すると共に、前記本体ゴム弾性体を、該軸部材と該外筒部材の径方向対向面間に跨がって径方向に延びる複数の弾性連結腕部として、それら複数の弾性連結腕部の径方向中間部分によって、前記マス部材を弾性支持せしめた請求項1又は3に記載の防振装置。
- 前記マス部材を、互いに独立して複数個設けると共に、それらのマス部材と前記弾性支持部材に対して、互いに異なるチューニングを施した請求項1乃至5の何れかに記載の防振装置。
- 前記マス部材が、前記第一の取付部材と前記第二の取付部材の相対的変位量を制限するストッパ機構を構成している請求項1乃至6の何れかに記載の防振装置。
- 前記振動伝達経路上の部材に対する前記マス部材の相対的変位量を制限する変位量制限手段を設けた請求項1乃至7の何れかに記載の防振装置。
- 前記振動伝達経路上の部材に対する前記マス部材の離脱を防止する離脱防止手段を設けた請求項1乃至8の何れかに記載の防振装置。
- 前記振動伝達経路上の部材による前記マス部材の支持面を、少なくとも一方向で対称となる傾斜面を含んで構成して、該支持面により該マス部材を位置決めした請求項1乃至9の何れかに記載の防振装置。
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