JP3880072B2 - [s,s]−エチレンジアミン−n,n´−ジコハク酸アルカリ金属塩の製造方法 - Google Patents

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Description

技術分野
本発明は微生物由来のエチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸エチレンジアミンリアーゼの作用により〔S,S〕−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸アルカリ金属塩を製造する方法に関する。また、本発明は、その際に、反応収率を高める目的で反応液に添加する金属イオンを回収し、これを再利用する上記方法に関するものである。
背景技術
本発明者らは、先に、フマル酸とエチレンジアミンとを〔S,S〕−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸(以下、SS−EDDSと略記する)に変換する反応等を触媒する微生物由来の新規なリアーゼ(以下、本リアーゼをエチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸エチレンジアミンリアーゼと呼び、EDDSアーゼと略記する)を見い出し、種々の微生物について本酵素の触媒作用を利用したフマル酸と各種アミンからの効率的な光学活性アミノポリカルボン酸の製造方法を提案している(特開平9−140390号公報参照)。
しかしながら、EDDSアーゼによるSS−EDDS等の光学活性アミノポリカルボン酸の生産反応における副反応は極めて少ないものの、平衡反応であるため原料が残存してしまうことが判明した。そこで、本発明者らは、反応液に多価の金属イオンを共存させることにより反応平衡を生成側へ傾け、反応をほぼ完結させ、大幅な収率向上を達成できることを見い出した(特開平10−52292号公報及び特開平10−271999号明細書参照)。
さらに、本発明者らは、生成したSS−EDDSは、上記反応終了後の反応液(以下、反応終了液という)中では共存する多価金属イオンと錯体を形成して溶解しているが、鉱酸を用いた晶析により金属イオンを含まないSS−EDDSの結晶として容易に回収できることも確認している。しかし、酸析させたSS−EDDSは水に溶解し難く、これを易溶解性として適用場面を拡大していくためには、一価の金属塩とすることが必要とされる。一価の金属塩は、反応後、酸析により回収したSS−EDDSに水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することにより得ることができるが、この方法は工程が多くなり煩雑である。
また、酸析により金属化合物を鉱酸の塩として回収しても、これを再利用する場合にはアルカリによる中和が必要なため高塩濃度となり、リサイクルを繰り返す毎に塩が蓄積してしまうという問題がある。さらに、この高濃度液を金属イオン源として、フマル酸、エチレンジアミン、アルカリ等からなる反応液に添加すると、フマル酸塩と思われる沈殿が生じやすいことを確認しており、実用的な金属塩の再利用法とはなり難い。
その他、前記反応平衡を充分に生成物側に傾け、満足できる収率を得るためには、生成するSS−EDDSと等モルに近い量の金属化合物が必要であるが、これら金属化合物には金属化合物以外の不溶解分を多く含むのが普通であり、その実用化に当たっては精製して使用するか、高価な精製品を使用する必要がある。
しかがって、本発明は、反応速度、収率、操作及びコスト等を考慮し、SS−EDDSのアルカリ金属塩を効率よく生産することを課題とする。
発明の開示
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定の金属イオンの存在下に反応を行うこと、及び反応後、反応終了液にSS−EDDS・金属錯体として存在する金属イオンが水酸化アルカリを添加することにより、不溶性の沈殿として分離回収され、容易にSS−EDDSアルカリ金属塩が得られること、さらに、該沈殿をSS−EDDSアルカリ金属塩の生産反応に利用できることを見い出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、微生物由来のエチレンジアミンジコハク類エチレンジアミンリアーゼの作用により、水性媒体中でフマル酸とエチレンジアミンとを、アルカリ土類金属及び遷移金属から選ばれる少なくとも1種の金属のイオンの存在下に反応させ、反応終了液に水酸化アルカリを添加して前記金属イオンを不溶性の沈殿として分離回収し、S,S−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸アルカリ金属塩を得ることを含む〔S,S〕−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸アルカリ金属塩の製造方法、である。
SS−EDDSは、アルカリ性条件下では、より強固な錯体を形成する性質を示すアミノ基を分子構造の中心に持つにもかかわらず、SS−EDDS・金属錯体の溶液中にアルカリを添加することにより、金属イオンが速やかに脱離し水酸化物又は酸化物と思われる沈殿が生じ、容易にSS−EDDSアルカリ金属塩が生成することは驚くべきことである。この沈殿は容易に高収率で回収することができ、さらに、脱塩や精製を行うことなくSS−EDDS生産反応に再利用することができる。
発明を実施するための最良の形態
本発明に係る微生物及びその培養方法は後述する。
本発明で使用する金属イオンとしては、SS−EDDSに配位し、かつ水酸化アルカリを添加することにより不溶性となり沈殿するものであれば特に制限はなく、アルカリ土類金属及び遷移金属等のイオンが挙げられる。具体的には、Fe(II)、Fe(III)、Mn(II)、Mg(II)等のイオン(錯イオンを含む)を挙げることができる。これらの金属のイオン源としては、これらの金属の水酸化物、酸化物ならびに硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、炭酸及び酢酸等の無機又は有機酸塩、さらにこれら金属化合物を含む鉱物や本発明の基質であるフマル酸やエチレンジアミンとの化合物等を挙げることができる。さらに、これらの化合物は2種以上混合して用いることも可能である。
また、これら金属化合物の中には、水に対して溶解度の低いもの又は難溶性のものもあるが、これらは飽和量以上に、例えば、懸濁状態として存在させた場合でも、SS−EDDSの配位能により相当量が可溶化されるため、使用可能である。
一般に、SS−EDDSは、前記の金属化合物、及びフマル酸とエチレンジアミンを、水性媒体(水、緩衝液等)中で、後述の微生物の菌体又は該菌体処理物(菌体破砕物、菌体抽出液、抽出した粗製又は精製酵素、固定化した菌体又は酵素、薬剤処理(安定化処理等)を施した菌体又は酵素等)と接触させることにより製造されるが、菌体培養液に、金属化合物及びフマル酸とエチレンジアミンとを直接添加しても製造することができる。
なお、本発明に係るEDDSアーゼを反応に供する場合、通常、細胞内に存在するフマラーゼ活性を除去するための処理を行う。処理pHは8〜10.5、好ましくは8.5〜10の範囲、処理温度は通常、氷結温度〜55℃の範囲であり、処理時間に特に制限はない(特開平9−311046号明細書参照)。
反応は、通常、5〜60℃、好ましくは10〜55℃の範囲で行う。反応時のpHは4〜11、好ましくはpH6〜10の範囲である。反応で用いるフマル酸の濃度は反応温度やpHにより異なるが、通常、0.01〜3Mであり、反応液中に飽和溶解度以上の沈殿物として存在させても反応の進行と共に溶解するため差し支えない。エチレンジアミンの濃度は、通常、0.01〜2Mである。反応液中への金属化合物の添加量は生成するSS−EDDSに対して、通常、0.01〜2倍モルである。また、微生物などの使用量は基質に対する乾燥菌体換算で、通常、0.01〜5重量%である。
反応終了後、菌体又は菌体処理物をろ過又は遠心分離等で除去し、これに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリを金属イオンが不溶化するまで添加する。SS−EDDSアルカリ金属塩は、不溶化した沈澱をろ過又は遠心分離などの通常の固液分離手段により、母液として得ることができる。
水酸化アルカリの使用量は、反応に使用した金属イオンの種類によっても異なるが、反応液中に含まれるSS−EDDSに対して、2〜6倍モル、好ましくは3〜4.5倍モル相当量である。水酸化アルカリは単独で若しくは二種類以上のものを混合して使用するか、又は他のアルカリと併用することも可能である。
水酸化アルカリを添加する際、短時間で一度に加えると、析出する不溶化物が微細粒子となり分離し難くなるが、十分に時間をかけて添加すると、沈降性の良い粒子が得られるので好ましい。また、反応終了液にアルカリを添加しても、又はその逆にアルカリに反応終了液を添加しても、添加した液滴が他方の液に接触した瞬間に固化するため、槽内の均一性を保つのは難しく、粒径も不均一となり微細粒子が生じやすい。そのような場合には、反応終了液と水酸化アルカリとを適当な晶析槽内に共に供給し、好ましくは、共に供給及び槽内のスラリー抜き出しを連続的に行えば、分離性の改善された比較的粗大な粒子を得ることができる。
かくして、上記操作により、SS−EDDSのアルカリ金属塩水溶液を得ることができる。本発明で得られるSS−EDDSのアルカリ金属塩水溶液は、その製造のための反応が高収率、高選択的で有機不純物が少ないため、金属の沈澱を除去した後の母液をそのまま工業的に有用なSS−EDDSアルカリ金属塩として利用できるが、必要により、イオン交換樹脂等により精製することもできる。さらに必要に応じ、該水溶液を濃縮、固化、又は噴霧乾燥することによりSS−EDDSのアルカリ金属塩の結晶を、また、鉱酸を添加すればSS−EDDSの結晶を得ることができる。
回収した金属化合物の沈澱は、再びフマル酸とエチレンジアミンを含む反応液に混合して、SS−EDDSの製造のための反応に利用することができる。この際、例えばマグネシウムイオンの存在下で反応を行った場合、反応中pHが低下するが、この場合、上記操作により回収したマグネシウムの沈殿(水酸化物又は酸化物と推定される)は、反応中のpHを一定に保つためのアルカリとして使用することもできる。
これらの反応及び回収操作は、回分又は連続のいずれの方法でも行うことができる。
本発明に係る微生物としてはEDDSアーゼ活性を有する微生物であればいずれも対象となる。
例えば、バークホルデリア(Burkholderia)属、アシドボラックス(Acidovorax)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、パラコッカス(Paracoccus)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属及びブレブンジモナス(Brevundimonas)属に属する細菌、さらに宿主としてのエシェリヒア(Esherichia)属又はロドコッカス(Rhodococcus)属に属する細菌にEDDSアーゼをコードする遺伝子DNAを導入した形質転換体などを挙げることができる。
具体的には、Burkholderia sp.KK−5株(FERM BP−5412)、同KK−9株(FERM BP−5413)、Acidovorax sp.TN−51株(FERM BP−5416)、Pseudomonas sp. TN−131株(FERM BP−5418)、Paracoccus sp.KK−6株(FERM BP−5415)、同TNO−5株(FERM BP−6547)、Sphingomonas sp.TN−28株(FERM BP−5419)、Brevundimonas sp. TN−30株(FERM BP−5417)及び同TN−3株(FERM BP−5886)、さらに、宿主として大腸菌JM109株〔Esherichia coli ATCC53323株〕又はRhodococcus rhodochrous ATCC17895株を用いて得られた形質転換体を挙げることができる。
上記微生物のうち、KK−5株、KK−9株、TN−51株、TN−131株、KK−6株、TN−28株、TN−30株及びTN−3株は、本発明者らにより自然界から新たに分離され、上記受託番号にて通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号(郵便番号305−8566))に、特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約(以下、ブダペスト条約と言う)に基づいて寄託されている。これらの菌株の菌学的性質は、前記特開平9−140390号公報、特開平10−52292号公報等に記載されている。
また、TNO−5株も、本発明者らにより自然界から新たに分離され、上記受託番号にて上記通産省工業技術院生命工学工業技術研究所にブダペスト条約に基づいて寄託されている。その菌学的性質は下記のとおりである。
TNO−5株の菌学的性質
形態 球〜短桿菌
グラム染色性 −
胞子 −
運動性 −
酸素に対する態度 好気性
オキシダーゼ +
カタラーゼ +
OFテスト −
集落の色調 特徴的色素を形成せず
PHBの蓄積 +
硝酸塩還元 −
亜硝酸塩還元 −
キノン系 Q−10
DNAのGC含量(モル%) 65(HPLC法)
上記菌学的性質を、Bergey's Manual of Systematic Bacteriology Vol. 1 (1984)の記載に記載により分類すると、TNO−5株はパラコッカス(Paracoccus)属に属する細菌と同定された。なお、TN−3株はディミヌタ(diminuta)種であることが確認されている。
大腸菌JM109株(Esherichia coli ATCC53323株)及びRhodococcus rhodochrous ATCC17895株は公知であり、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から容易に入手することができる。これらの菌株を宿主として、TN−3株のEDDSアーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子DNAを含むプラスミドpEDS020及びpSE001を導入した形質転換体が、E. coli JM109/pEDS020(FERM BP−6161)及びRhodococcus rhodochrous ATCC17895/pSE001(FERM BP−6548)として、それぞれ上記受託番号にて上記通産省工業技術院生命工学工業技術研究所にブダペスト条約に基づいて寄託されている。これら形質転換体の作製方法は、本出願人の出願に係る特開平10−210984号公報に詳細に記載されている。
本発明で使用される微生物の培地の種類には何ら特別の制限がなく、資化しうる炭素源、窒素源、無機塩、さらに微量の有機栄養物などを適当に含有するものであれば、合成培地又は天然培地のいずれでもよい。また、培養にあたっては、エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸、エチレンジアミン−N−モノコハク酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジンなどのアミノ酸やフマル酸等を培地に添加することは、目的とする活性の高い菌体が得られることがあるので好ましい。培養条件は菌体や培地により異なるが、培地のpHは4〜10、好ましくは6〜9の範囲、培養温度は20〜45℃、好ましくは25〜35℃の範囲で、活性が最大となるまで1〜10日間好気的に培養すればよい。
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1
(1)菌体触媒の調製
Esherichia coli JM109/pEDS020を斜面培地から1白金耳取り、50mg/lアンピシリンを含有するLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、0.5%NaCl)に接種して37℃にて8時間振とう培養した。これを、LB培地(50mg/lアンピシリン、1mM イソプロピル−β−チオガラクトシドを含有)に、2.5%量接種し、37℃、30時間、好気的に振とう培養した。培養液1000mlから、菌体を遠心分離(7,000rpm、20分)により集菌し、100mM 1,4−ジアミノブタンを含む50mMホウ酸緩衝液(pH7.75)500mlで1回洗浄した。500mlの同様の緩衝液に菌体を再懸濁した後、氷中において25%グルタルアルデヒドを25mMとなるように徐々に添加した。pHが低下するので6NNaOHにてpHを7.75に調整した後、液を撹拌しながら2時間放置した。この液にエチレンジアミンを50mMとなるように添加し、6NNaOHでpH9.0とした後、2時間放置した。次に水素化ホウ素ナトリウムを25mMとなるように添加して撹拌しながら、さらに2時間放置した。さらに、6NNaOHにてpH9.2に調整した後、水浴中で45℃、4時間、加熱処理を行い、フマラーゼ活性を除去した菌体懸濁液を調整した。
(2)反応液の調製と反応
反応開始時の各成分の濃度がフマル酸1,027mM、エチレンジアミン513mM及び水酸化マグネシウム770mMとなるように、水に、フマル酸、水酸化マグネシウム及びエチレンジアミンをこの順に、激しく攪拌しながら添加し、透明な反応液を得た。これに対して上記菌体懸濁液を加え、40℃で撹拌しながら反応を行った。
反応の進行に伴いpHが低下するのでpHコントローラーで7.5N NaOH溶液を供給しながらpHを8.5に保持した。反応進行に伴うSS−EDDSの生成量を経時的に測定した。その結果、24時間後のSS−EDDS生成濃度は468mMであった。
なお、SS−EDDS濃度の測定法は、次のとおりである。
液中の不溶物を15,000rpm、5℃、5分間の遠心分離にて除去した後、液体クロマトグラフィーにてSS−EDDSを定量した。定量用カラムとしてはWAKOSIL 5C8(和光純薬)(溶出液:10mM 水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウムと0.4mM CuSO4を含む50mMリン酸、pH2)を、また光学分割カラムとしてMCI GEL CRS 10W(三菱化学社製)(溶出液:10mM CuSO4)を使用した。
(3)マグネシウムイオンの不溶化及び回収
遠心分離(15,000rpm,5分)により菌体を除去した透明な反応終了液に7.5NNaOHをSS−EDDS濃度に対して3倍モル及び4倍モルとなるように添加し、撹拌しながら1時間室温に放置した。生成したマグネシウムイオン由来の沈殿を遠心分離(15,000rpm、5分)により除去したところ、マグネシウムイオンの除去率は各々61%及び95%であり、粒径はいずれも7μm以下、平均粒径はそれぞれ1.3及び1.6μmであった。
(4)回収マグネシウムの再利用
回収したマグネシウムの沈殿を用いて、上記(2)に従って反応液を調製した。反応開始時の各成分の濃度はフマル酸1,027mM、エチレンジアミン513mM、回収マグネシウム770mM(マグネシウムとしての濃度)、SS−EDDS72mM、菌体は乾燥重量換算で10g/l、実測したpHは約8.8であり、上記(2)と同様に反応を行った。
その結果、反応速度に有意差は見られず、24時間後のSS−EDDS濃度は540mMであった。
実施例2
(1)菌体触媒の調製
実施例1と同様にして菌体懸濁液を調製した。
(2)反応液の調製と反応
水酸化マグネシウムの代わりに水酸化鉄(III)を用いて実施例1と同様に反応液を調製し、7.5NNaOHを用いてpH7.5とした。反応開始時のフマル酸、エチレンジアミン、菌体の濃度は実施例1と同様とし、水酸化鉄(III)の濃度は513mMとした。この際、水酸化鉄(III)は反応液に部分的に溶解するのみであった。
反応時は水酸化マグネシウムの場合と異なり反応の進行に伴いpHが上昇したので5N硫酸を用いてpH調整を行った。その結果、24時間後のSS−EDDS生成濃度は449mMであった。
(3)鉄(III)イオンの不溶化及び回収
遠心分離により菌体を除去した透明な遠心上清に対し、実施例1と同様に7.5N NaOHをSS−EDDS濃度に対して4倍モルとなるように添加して鉄(III)イオンを不溶化させ回収した。鉄(III)イオンの除去率は98%であった。
(4)回収鉄(III)の再利用
回収した沈殿を用いて、上記(2)に従って反応液を調製した。反応開始時の各成分の濃度はフマル酸1,027mM、エチレンジアミン513mM、回収鉄(III)513mM(鉄としての濃度)、SS−EDDS86mM、菌体は乾燥重量換算で10g/lとして、上記(2)と同様に反応を行った。
その結果、反応速度に有意差は見られず、24時間後のSS−EDDS濃度は530mMであった。
実施例3
(1)菌体触媒の調製
実施例1と同様にして菌体懸濁液を調製した。
(2)反応液の調製と反応
水酸化鉄(III)の代わりに同モル濃度の水酸化マンガン(II)を用いた他は実施例2と同様に反応液を調製し、反応を行った。その結果、24時間後のSS−EDDS生成濃度は428mMであった。
(3)マンガン(II)の不溶化及び回収
実施例2と同様にマンガン(II)を不溶化させ回収した。マンガン(II)イオンの除去率は97%であった。
(4)回収マンガン(II)の再利用
回収した沈殿を用いて、上記(2)に従って反応液を調製した。反応開始時の各成分の濃度はフマル酸1,027mM、エチレンジアミン513mM、回収マンガン(II)513mM(マンガンとしての濃度)、SS−EDDS52mM、菌体は乾燥重量換算で10g/lとして、上記(2)と同様に反応を行った。
その結果、反応速度に有意差は見られず、24時間後のSS−EDDS濃度は480mMであった。
実施例4
(1)菌体触媒の調製
実施例1と同様にして菌体懸濁液を調製した。
(2)反応液の調製と反応
pHコントロール用のアルカリを7.5N NaOHの代わりに7.5N KOHを用いた他は、実施例1と同様の操作を行った。24時間後のSS−EDDS生成濃度は472mMであった。
(3)マグネシウムイオンの不溶化及び回収
遠心分離(15,000rpm,5分)により菌体を除去した透明な反応終了液に7.5N KOHをSS−EDDS濃度に対して4倍モルとなるように添加し、撹拌しながら1時間室温に放置した。生成したマグネシウムイオン由来の沈殿を遠心分離(15,000rpm、5分)により除去したところ、マグネシウムイオンの除去率は95%であった。
(4)回収マグネシウムの再利用
回収したマグネシウムの沈殿を用いて、上記(2)に従って反応液を調製した。反応開始時の各成分の濃度はフマル酸1,027mM、エチレンジアミン513mM、回収マグネシウム770mM(マグネシウムとしての濃度)、SS−EDDS82mM、菌体は乾燥重量換算で10g/lとし、実測したpHは約8.9であり、上記(2)と同様に反応を行った。
その結果、反応速度に有意差は見られず、24時間後のSS−EDDS濃度は546mMであった。
実施例5
(1)菌体触媒の調製
実施例1と同様にして菌体懸濁液を調製した。
(2)反応液の調製と反応
実施例1と同様にして反応を行った。
(3)マグネシウムイオンの不溶化及び回収
遠心分離(15,000rpm,5分)により菌体を除去した透明な反応終了液(pH8.7)に7.5NNaOHをSS−EDDS濃度に対して2、2.5、3、3.5、及び4倍モルとなるように添加し、それぞれpH10.6、11.7、11.9、12.1及び12.5として、撹拌しながら一晩40°Cで放置した。生成したマグネシウムイオン由来の沈殿を遠心分離(6,000rpm、5分)により除去したところ、マグネシウムイオンの除去率はそれぞれ11%、29%、50、74%、及び96%であった。
実施例6
(1)菌体触媒の調製
実施例1と同様にして菌体懸濁液を調製した。
(2)反応液の調製と反応
実施例1と同様にして反応を行った。
(3)マグネシウムイオンの不溶化及び回収
遠心分離(15,000rpm,5分)により菌体を除去した透明な反応終了液(pH8.9)に7.5NNaOHをSS−EDDS濃度に対して2、2.5、3、3.5、及び4倍モルとなるように添加し、それぞれpH10.9、11.9、12.1、12.3及び12.7として、撹拌しながら一晩20°Cで放置した。生成したマグネシウムイオン由来の沈殿を遠心分離(6,000rpm、5分)により除去したところ、マグネシウムイオンの除去率はそれぞれ8%、29%、49%、74%、及び97%であった。
実施例7
(1)菌体触媒の調製
実施例1と同様にして菌体懸濁液を調製した。
(2)反応液の調製と反応
実施例1と同様にして反応を行った。
(3)マグネシウムイオンの不溶化及び回収
40℃の水680mlに、遠心分離(15,000rpm,5分)により菌体を除去した透明な反応終了液、及びSS−EDDS濃度に対して4.2倍モルとなるように7.5NNaOHを共に供給した。それと同時に、生成した沈殿のスラリーを滞留時間2時間となるように連続的に抜き出した。供給及び抜き出しを始めてから14時間経過した後、スラリーの一部を取り遠心分離(6,000rpm、5分)で沈殿を除去したところ、マグネシウムイオンの除去率は99.3%であった。このときスラリーのpHは13.1であり、スラリー濃度は2.3wt%であった。また、マグネシウム由来の沈殿物の粒径は1μmから130μmの範囲であり、平均粒径は45μmであった。
実施例8
(1)菌体触媒の調製
実施例1と同様にして菌体懸濁液を調製した。
(2)反応液の調製と反応
実施例1と同様にして反応を行った。
(3)マグネシウムイオンの不溶化及び回収
反応液と共供給する7.5NNaOHの量をSS−EDDS濃度に対して3.5倍モルとした以外は実施例7と同様の操作を行った。供給及び抜き出しを始めてから14時間経過した後、スラリーの一部を取り遠心分離(6,000rpm、5分)で沈殿を除去したところ、マグネシウムイオンの除去率は77%であった。このときスラリーのpHは12.1であり、スラリー濃度は1.9wt%であった。また、マグネシウム由来の沈殿物の平均粒径は27μmであった。
産業上の利用可能性
本発明によれば、反応終了液に水酸化アルカリを添加することにより、SS−EDDS金属錯体をSS−EDDSアルカリ金属塩に交換すると共に、反応に使用した金属イオンを沈殿として回収することができ、さらに回収した沈殿を金属イオン源として再利用可能なため、反応速度、収率、操作及びコスト等の面で、SS−EDDSのアルカリ金属塩を効率よく生産することが可能である。S,S−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸は生分解性キレート剤として写真、洗剤及び製紙等の分野へ用途が期待される化合物である。

Claims (5)

  1. 微生物由来のエチレンジアミンジコハク酸エチレンジアミンリアーゼの作用により、水性媒体中でフマル酸とエチレンジアミンとを、アルカリ土類金属及び遷移金属から選ばれる少なくとも1種の金属のイオンの存在下に反応させ、反応終了液に水酸化アルカリを添加して前記金属イオンを不溶性の沈殿として分離回収しS,S−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸アルカリ金属塩を得ることを含む〔S,S〕−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸アルカリ金属塩の製造方法。
  2. 分離回収した不溶性の沈殿を前記金属のイオンの源として前記S,S−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸の製造に再利用する請求項1記載の方法。
  3. 前記反応終了液及び水酸化アルカリを共に供給する請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記反応終了液及び水酸化アルカリを共に供給すると同時にスラリーの抜き出しを行う請求項3記載の方法。
  5. アルカリ土類金属がマグネシウムであり、遷移金属がマンガン及び鉄である請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
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