JP3879290B2 - 芳香族化合物の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は芳香族化合物の製造法に関する。更に詳しくは、異性化触媒および/または吸着分離剤と接触させて目的とする芳香族異性体を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
芳香族化合物は合成原料、医薬・農薬の中間体として有用な化合物であり、特定の異性体を得るために、ゼオライトを含む異性化触媒と接触させてその濃度を高める方法や、ゼオライトを含む吸着分離剤と接触させて吸着分離する方法、またはそれらを組み合わせた方法が知られている。
【0003】
例えば特公昭64−9972にはジハロゲン化ベンゼン、ジハロゲン化トルエン等を異性化する際にZSM−5等の酸型ゼオライトを用いる方法、特公平1−45457には2,6−ジクロロトルエンを吸着分離する際にフォージャサイト型ゼオライトを吸着分離剤として用いる方法、特公平4−46933にはハロゲン化ベンゼン誘導体を異性化する際に生じるHClや水分を蒸留等により除去し、ゼオライト吸着分離剤により特定の異性体を分離するプロセスなどが知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ゼオライトを含む触媒・吸着分離剤を用いて芳香族化合物を製造する際、一般的には触媒・吸着分離剤の性能は経時的に低下するため、適切な時点で新品との交換または燃焼等による再生処理を行う必要がある。従ってこれらの寿命または再生周期を長くすることは工業的に非常に有利である。
【0005】
従来の技術に記載したゼオライト吸着分離剤を用いて芳香族化合物の吸着分離を行う際、異性化反応により副生するHClや水分を予め除去する方法は、吸着分離剤の劣化を抑制するための手段であるが、工業的に望まれる寿命または再生周期を達成するためには不十分である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、芳香族化合物の製造方法について検討した結果、溶存酸素が 15重量ppm以下である芳香族化合物を用いることでゼオライトを含む触媒および吸着分離剤の劣化を抑制し寿命を長くすることができ、効率よく芳香族化合物を製造できることを見出した。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明で製造する化合物はゼオライトを含む触媒を用いた異性化反応および/またはゼオライトを含む吸着分離剤を用いた吸着分離によって製造されるものである。すなわち、本発明はゼオライトを含む芳香族化合物の異性化触媒と、溶存酸素が15重量ppm以下である芳香族化合物を接触させることを特徴とする次の一般式(I)
【化3】
(式中、R 1 およびR 2 は各々塩素原子および臭素原子から選ばれたハロゲン原子、低級アルキル基のいづれかを示し、X 1 およびX 2 は各々塩素原子および臭素原子から選ばれたハロゲン原子、水素原子、低級アルキル基のいづれかを示す。)で表される芳香族化合物の製造法、およびゼオライトを含む芳香族化合物の吸着分離剤と、溶存酸素が15重量ppm以下である芳香族化合物を接触させることを特徴とする次の一般式(I)
【化4】
(式中、R 1 およびR 2 は各々塩素原子および臭素原子から選ばれたハロゲン原子、低級アルキル基のいづれかを示し、X 1 およびX 2 は各々塩素原子および臭素原子から選ばれたハロゲン原子、水素原子、低級アルキル基のいづれかを示し、少なくとも1つの上記ハロゲン原子で核置換されている。)で表される芳香族化合物の製造法である。R1、R2、X1、X2が低級アルキル基の場合は、炭素数1から4の低級アルキル基が好ましく、さらに好ましくはメチル基、エチル基である。
【0008】
また、前記一般式で表される芳香族化合物は少なくとも1つの上記ハロゲン原子で核置換されたものが好ましく、さらに好ましくは、塩素で核置換された芳香族化合物である。
【0009】
前記一般式で表される芳香族化合物の具体例としては、例えばキシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、エチルトルエン、ジエチルベンゼン、トリエチルベンゼン、クロロトルエン、ジクロロトルエン、トリクロロトルエン、クロロエチルベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、テトラクロロベンゼン、ブロムトルエン、ブロムエチルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジブロムトルエン、クロロブロムベンゼン、ジブロムクロロベンゼン、ジクロロブロムベンゼン等が挙げられる。中でもクロロトルエン、ジクロロトルエン、クロロエチルベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン化物の製造に適している。
【0010】
本発明におけるゼオライトを含む異性化触媒としては、特に限定されないが、例えばキシレンの異性化にはペンタシル型ゼオライト等が好ましく、ハロゲン化芳香族の異性化にはペンタシル型、ベータ型、モルデナイト型ゼオライト等が好ましい。これらのゼオライトを含む触媒はイオン交換により酸型体に処理したものが好ましく、さらにレニウム、銀等の金属やその他の元素を含んでいてもよい。また工業的な取り扱いを容易にするためにアルミナ、ベントナイト等のバインダーとともに成形されたものが好ましく使用される。
【0011】
本発明におけるゼオライトを含む吸着剤としては、特に限定されないが、例えばキシレンの吸着分離にはフォージャサイト型ゼオライト等が好ましく、塩素化芳香族の吸着分離にはフォージャサイト型ゼオライトやペンタシル型ゼオライト等が好ましい。これらのゼオライトを含む吸着分離剤は、吸着選択性を調整するためにアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等でイオン交換処理する場合もある。また工業的な取り扱いを容易にするためにアルミナ、ベントナイト等のバインダーとともに成形されたものが好ましく使用される。
【0012】
本発明では芳香族化合物に含まれる溶存酸素を15重量ppm以下とすることが重要である。溶存酸素の量は少ないほど好ましく、5重量ppm以下、さらに好ましくは1重量ppm以下である。
【0013】
芳香族化合物に含まれる溶存酸素はベックマン溶存酸素計や、ポーラロ方式溶存酸素計等で測定できる。
【0014】
芳香族化合物に含まれる溶存酸素を15重量ppm以下にする方法としては、放散、減圧、蒸留、窒素シール法等の処理方法が挙げられる。
【0015】
本発明において、放散処理とは溶存酸素を含有する芳香族化合物の液とN2等のイナートガスを接触させることにより、溶存酸素を芳香族化合物から除去することをいう。放散の方法は、例えば貯そう中の芳香族化合物の液にN2を直接吹き込みバブリングする方法や、棚段塔または充填塔等にて芳香族化合物の液とN2を向流接触させる方法等が挙げられる。操作圧力は常圧、加圧、減圧のいずれでもよい。また操作温度は芳香族化合物が液相を維持できる温度以下で通常は行われる。
【0016】
減圧処理とは、例えば溶存酸素を含有する芳香族化合物の入った貯そうを真空ポンプ等により減圧する方法や、棚段塔または充填塔等にて芳香族化合物の液を減圧処理し、溶存酸素を追い出す方法等が挙げられる。操作圧力は真空〜常圧のいずれでもよいが、低い方が好ましい。また操作温度は芳香族化合物が液相を維持できる温度以下で通常は行われる。
【0017】
また蒸留処理は常法によって実施される。蒸留塔は棚段塔または充填塔等いずれでもよく、操作圧力は常圧、加圧、減圧のいずれでもよい。
【0018】
窒素シール法とは芳香族化合物を異性化あるいは吸着分離工程に供給する前に、窒素でシールされた容器、例えば、タンクに入れ、芳香族化合物中に溶存している酸素を気液平衡により除去する方法をいう。
【0019】
芳香族化合物に溶存酸素が含有されると、異性化反応において芳香族化合物と反応して含酸素化合物を生成し、高分子量化して触媒の活性点を被覆するため触媒活性が低下する。従って溶存酸素を低減することにより、活性酸点減少を防止することができるため、触媒の再生周期を延長できると考えられる。
【0020】
また吸着分離においても、芳香族化合物に溶存酸素が含有されると含酸素化合物を生成する。含酸素化合物は極性が強いため、吸着分離剤に強く吸着し吸着分離性能を低下させる。従って溶存酸素を低減することにより、吸着分離剤の劣化を抑制することができるため、再生周期を延長できると考えられる。
【0021】
本発明における異性化反応、吸着分離は従来知られた方法で実施できる。
【0022】
異性化反応の形式は、固定床、移動床、流動床いずれの形式でも可能であり、また流通式、回分式のいずれも可能である。また反応は気相、液相いずれにおいても可能であるが、高沸点成分が副生する場合には液相反応の方が好ましい。また水分の除去(特公平4−46933)、希釈剤の添加(特公昭62−15051)等を行ってもよい。
【0023】
吸着分離の形式は、固定床、移動床、流動床いずれの形式でも可能であり、また流通式、回分式のいずれも可能である。また吸着分離は気相、液相のいずれにおいても可能である。一般によく知られたプロセスとしては擬似移動床方式、PSA方式等がある。
【0024】
【実施例】
以下に、本発明を実施例を持って具体的に説明する。
【0025】
実施例1
o−ジクロロベンゼンを窒素バブリングにより脱酸素した原料(溶存酸素濃度≒0ppm ポーラロ方式溶存酸素計で測定)を、モレキュラーシーブで脱水処理し、特公昭64−9972の実施例2に従って酸型に処理したペンタシル型ゼオライトを触媒として液相異性化せしめ、ジクロロベンゼン異性体混合物を得た。反応条件を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
得られた異性体化合物の組成はガスクロマトグラフィーで分析した。触媒の劣化速度は反応液であるジクロロベンゼン異性体混合物中のm−ジクロロベンゼン濃度の減少速度で表現する。本実施例における触媒の劣化速度を図1および表2に示す。
【0028】
比較例1
実施例1において、原料にエア飽和したo−ジクロロベンゼン(溶存酸素濃度約40ppm ポーラロ方式溶存酸素計で測定)を使用した他は実施例1と同様の方法で異性化反応を行い、反応液であるジクロロベンゼン異性体混合物の組成を分析した。結果を図1および表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
実施例2
2,4−ジクロロトルエン(以下DCTと略す)分離用ゼオライト吸着分離剤を、特開平5−70383の実施例3に記載の方法により調整した。この吸着分離剤はカチオンとしてナトリウムイオンおよびストロンチウムイオンを含むX型ゼオライトである。この吸着分離剤を500℃で2時間焼成した後、内径4.6mm、長さ1mのステンレス製のカラムに充填した。このカラムに、窒素バブリングにより脱酸素したm−キシレン(溶存酸素濃度≒0ppm ポーラロ方式溶存酸素計で測定)を一定速度で通液しながら、同様の方法で脱酸素した2,4−、2,5−、2,6−DCTおよびn−ノナンの混合物(溶存酸素濃度≒0ppmポーラロ方式溶存酸素計で測定)を瞬時に少量注入し、カラム出口液を一定間隔で採取し、組成をガスクロマトグラフィーで分析した。なお、これらの実験に用いた液は事前にモレキュラーシーブで脱水処理して使用した。分析結果を経時的にプロットすると、各成分の濃度ピークが得られる。吸着分離剤の選択性は下式に示す通り、n−ノナンと、各DCT異性体のリテンションタイム(以下RTと略す)の差の比で表され、一般に値が大きいほど分離がよい。n−ノナンはゼオライトの吸着特性に関し事実上不活性な物質である。
【0031】
【数1】
本測定結果をブランクとした。測定条件を表3に示す。
【0032】
【表3】
【0033】
続いて窒素バブリングにより脱酸素し、モレキュラーシーブにより脱水したm−キシレンとジクロロトルエンの混合物(溶存酸素濃度≒0ppm ポーラロ方式溶存酸素計で測定)を本カラムに通液した。吸着分離剤重量の520倍の量を通液したが、途中で前述の方法により吸着選択率を測定した。本実験における通液条件を表4に、また吸着選択率の推移を図2に示す。
【0034】
【表4】
【0035】
比較例2
実施例2において、ブランクの吸着選択率を測定した後、モレキュラーシーブによる脱水は行ったが、窒素バブリングによる脱酸素を実施しないm−キシレンとジクロロトルエンの混合物(溶存酸素濃度≒40ppm ポーラロ方式溶存酸素計で測定)を通液した以外は、実施例2と同様にして通液および吸着選択率の測定を行った。吸着選択率の推移を図2に示す。
【0036】
【発明の効果】
本発明によれば異性化触媒および/または吸着分離剤と接触させて目的とする芳香族異性体を製造する際、異性化触媒や吸着分離剤の劣化を飛躍的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1および比較例1における反応時間と反応液中のm−DCB濃度を示す図である。
【図2】実施例2および比較例2通液量と吸着選択率の推移を示す図である。
Claims (7)
- ゼオライトが酸型体であることを特徴である請求項1記載の芳香族化合物の製造法。
- ゼオライトが、ペンタシル型、ベータ型、モルデナイト型ゼオライトのいずれかである請求項1または請求項2記載の芳香族化合物の製造法。
- 一般式(I)において、低級アルキル基がメチル基またはエチル基である請求項1〜4のいずれか1項記載の芳香族化合物の製造法。
- 芳香族化合物を、ゼオライトを含む芳香族化合物の異性化触媒および/またはゼオライトを含む芳香族化合物の吸着分離剤と接触させる前に、放散、減圧処理、蒸留処理のいずれかの方法により溶存酸素を除去することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の芳香族化合物の製造法。
- 芳香族化合物を、ゼオライトを含む芳香族化合物の異性化触媒および/またはゼオライトを含む芳香族化合物の吸着分離剤と接触させる前に、窒素シールしてある容器中に入れてから供給することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の芳香族化合物の製造法。
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