JP3871313B2 - ビスマス置換型希土類鉄系ガーネット単結晶の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ファラデー回転効果を有する光学用ガーネットの製造方法に関し、詳しくは、液相エピタキシャル成長法にて育成した、希土類元素としてTbを主成分とする、ビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、光通信や光情報処理において、ファラデー回転を応用したデバイスが開発、実用化されている。半導体レーザー発振器を使用した光通信装置では、光ファイバーケーブルやコネクタなどの端部からの反射光がレーザー発振器に戻ると、ノイズが増加し、発振が不安定になる。このような戻り光を遮断し、安定した発振状態を確保するために、ファラデー回転の非相反性を利用した光アイソレータが使用されている。
【0003】
現在、光ファイバーケーブルを用いた通信システムにおいては、波長が1.31μmや1.55μmの帯域が利用されており、このような帯域で用いられる近赤外用ファラデー回転素子材料として、厚膜状の希土類-鉄系ガーネット単結晶があり、厚膜単結晶として希土類元素にビスマスBiを置換したビスマス置換希土類-鉄系ガーネットが実用化されており、(Tb,Bi)−鉄系ガーネットや(Gd,Bi)−鉄系ガーネットが主に用いられている。これらの厚膜単結晶を一般にビスマス置換希土類鉄系ガーネットもしくは磁性ガーネットと呼んでいる(以下、磁性ガーネットと記す)。
【0004】
これらの磁性ガーネットはフラックス法により製造され、現在ではフラックス法の一種で、生産性に優れた液相エピタキシャル成長法(以下、LPE法と記す)により、ほとんどが製造されている。
【0005】
ところで、LPE法で育成された、Tbを主成分として、かつYを含む希土類元素によるビスマス置換希土類-鉄系ガーネット(以下、TbBi系ガーネットと記す)においては、Tbイオンが+2価と+3価の価数を有することから、LPE法の育成条件により、+2価と+3価の価数が存在する。これらの価数の比率に連動して磁性ガーネット中のもう一つの正イオンであるFeイオンの価数も+3価以外に+2価と+4価が生じる。Feイオンにおいて+3価以外の価数のイオンの存在比率が上昇すると、上記光通信の波長帯域でFeイオンによる光吸収が生じる。
【0006】
従って、Feイオンを+3価に制御する価数制御が、光通信波長帯での光吸収を抑止することのポイントとなる。
【0007】
本発明者は、Feイオンの+3価以外の価数の存在比率が上昇することにより、光通信波長帯での光吸収が生じたTbBi系ガーネット(例えば、両面に無反射コート膜を施した状態で1.31μmの挿入損失が0.25dB)に対し、少量(例えば0.5vol%)のH2を含む不活性ガス(例えばN2ガス)雰囲気での熱処理(例えば480℃10時間保持)により、光吸収が低減する現象(例えば、挿入損失が0.25dBから0.05〜0.15dBにまで減少)を確認した。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
現在の光アイソレータに求められる光学特性として、光信号の減衰を抑えることができる低い挿入損失が挙げられる。このことから、光アイソレータを構成するガーネットにも同様の光学特性が求められる。
【0009】
ところで、前述した熱処理により挿入損失を低減できることが分かったが、熱処理後の挿入損失が0.05〜0.15dBと大きくばらついており、均一に光吸収が低減されない状態であった。
【0010】
このことから、上記問題に鑑み、本発明は、光吸収の低減が均一となる、挿入損失0.05dB以下の、Yを含む希土類元素としてTbを主成分とするビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶を得ることができる製造方法を提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者による種々の検討の結果、LPE法により育成したTbBi系ガーネットを、Pt、Pdを含まない板材により挟んだ状態で、0.2〜2.0vol%のH2を含む不活性ガス雰囲気での、460〜540℃、保持時間5時間以上の熱処理により、光通信波長帯域(例えば1.3〜1.5μm)における+3価以外のFeイオンによる光吸収を均一に抑制した、すなわち0.05dB以下の挿入損失を均一に有するTbBi系ガーネットを得るに至った。
【0012】
TbBi系ガーネットを挟む板材は、石英、アルミナ、Gd3Ga5O12(以下、GGGと記す)、Nd3Ga5O12(以下、NGGと記す)やSUS304ステンレス、Tiを検討したがいずれの場合においても、上記熱処理条件において、波長1.31μmにおける挿入損失が0.05dB以下を示した。
【0013】
なお、Pt、Pdでは挿入損失が5〜6dBと悪化することから、本発明の熱処理には不適応であることが分かった。
【0014】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0015】
(実施例1)純度99.99%の酸化テルビウムTb2O3、酸化第二鉄Fe2O3、酸化アルミニウムAl2O3、及び酸化鉛PbO、酸化ビスマスBi2O3、酸化硼素B2O3の粉末を使用し、PbO−Bi2O3−B2O3系をフラックスとして、LPE法にて、格子定数a=12.496Åの置換型Gd3Ga5O12(以下、SGGGと記す)基板に、一般式Tb2.1Bi0.9Fe4.98Al0.02O12のTbBi系ガーネットを500μm育成した。
【0016】
育成後、11mm×11mm角に切断した後、SGGG基板を研磨により除去し、試料を得た。
【0017】
ここで、本発明の実施例と比較例に関する図面の説明を行う。図1は、本発明の実施例及び比較例のTbBi系ガーネットの熱処理における試料の配置を示す図ある。図1(a)は、試料をガラス板で挟み込んだ状態を示す図、図1(b)は、ガラス板上に試料を置いた状態を示す図、図1(c)は半円管状のガラス管に試料を置いた状態を示す図、そして、図1(d)は図1(c)の半円管状のガラス管上にガラス板を置いた状態を示す図である。
【0018】
図1において、1はTbBi系ガーネット試料、2はガラス板、そして、3は半円管状ガラス管を示す。
【0019】
また、図2は、本発明の実施例における電気管状炉と電気管状炉内の試料の配置を示す図であり、電気管状炉の中心線を通る断面の切り口が示されている。
【0020】
図2おいて、4は電気管状炉内に配置した試料、5は石英管、6は石英管端部蓋(ガス導入口付き)、7はガス導入口、8は石英管端部蓋(ガス排出口付き)、9はガス排出口、そして、10は無誘導巻きヒーター部を示す。
【0021】
図1及び図2を参照して熱処理の説明を行う。11mm×11mm角に切断した試料について、図1(a)に示すように試料をガラス板に挟み、不活性ガスとしてN2を用い、N2に配合するH2を0.6vol%、480℃、10時間保持の熱処理を行った。
【0022】
熱処理は、図2に示すような電気管状炉により行った。熱処理の後、1.31μmでファラデー回転角が45deg.となる厚さ350μmに研磨により両面を鏡面に仕上げ、波長1.31μm用の無反射コート膜を両面に施し、挿入損失を測定した。
【0023】
比較例として、図1(b)〜図1(d)に示すように、比較例1として試料をガラス板上に配置した場合、比較例2として試料を半円管状のガラス管に配置した場合、比較例3として比較例2の半円管状ガラス管の上にガラス板を配置した場合、各々について実施例と同様に挿入損失測定を行った。
【0024】
なお、挿入損失の測定は、図3に示すように1枚の試料について9点で行い、実施例及び比較例の各々について各2枚で、挿入損失のバラツキを評価した。ここで、図3は11mm×11mm角のTbBi系ガーネット試料の挿入損失の測定個所を示す概念図であり、符号▲1▼〜▲9▼で示した点が挿入損失の測定箇所である。
【0025】
その挿入損失の測定結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
表1に示すように、本実施例による挿入損失が0.02〜0.03dBであったのに対し、比較例1が0.05〜0.20dB、比較例2及び3が0.08〜0.25dBであった。
【0028】
以上のように、本発明によれば、TbBi系ガーネットをガラス板で挟むことにより、0.05dB以下の挿入損失が安定して得られる。
【0029】
(実施例2)実施例1と同様に得たTbBi系ガーネットについて、試料をガラス板に挟み、N2に配合するH2濃度を0〜3.0vol%、熱処理温度を350〜650℃、熱処理温度における保持時間(以下、保持時間と記す)を1〜50時間の熱処理を行った。
【0030】
なお、試料は実施例1と同様に各々2枚の挿入損失を測定し、平均値を評価した。図4〜図6に、その結果を示す。
【0031】
図4は、本実施例2における、挿入損失I.L.の熱処理温度の依存性を示す図である。
【0032】
図4に示すように、熱処理温度350〜650℃、H2濃度0.6vol%、保持時間10時間の条件において、熱処理温度を440〜560℃とすることにより、0.05dB以下の挿入損失が安定して得られることが分かった。
【0033】
図5は、本実施例2における挿入損失I.L.の保持時間の依存性を示す図である。図5に示すように、保持時間1〜50時間、H2濃度0.6vol%、熱処理温度500℃の条件において、保持時間を5時間以上とすることにより、0.05dB以下の挿入損失が安定して得られることが分かった。
【0034】
図6は、本実施例2における、挿入損失I.L.の水素濃度の依存性を示す図である。図6に示すように、熱処理温度480℃、10時間において、H2を0.2〜2.0vol%とすることにより、0.05dBの挿入損失が安定して得られることが分かった。
【0035】
以上のように、本発明によれば、H2濃度は0.2〜2.0vol%、熱処理温度は440〜560℃、保持時間は5時間以上が適している。
【0036】
(実施例3)実施例1と同様に得たTbBi系ガーネットについて、試料を挟む材質として、ガラス板、アルミナ板、GGG板、NGG板、SUS304板、Ti板、Pt板、及びPd板を用い、N2に配合するH2濃度を0.6vol%、熱処理温度500℃、保持時間10時間の熱処理を行った。
【0037】
なお、試料は実施例1と同様に各々2枚の挿入損失を測定し、平均値を評価した。この結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示すように、ガラス板、アルミナ板、GGG板、NGG板、SUS304板、及びTi板では、挿入損失0.02〜0.03dBが得られた。また、Pt板、Pd板では挿入損失が4.9〜6.2dBであった。
【0040】
以上の結果から、本発明によれば、TbBi系ガーネットを挟む材質として、Pt、Pd以外の材質が適している。
【0041】
(実施例4)純度99.99%の酸化テルビウムTb2O3、酸化イットリウムY2O3、酸化第二鉄Fe2O3、酸化アルミニウムAl2O3、及び酸化鉛PbO、酸化ビスマスBi2O3、酸化硼素B2O3の粉末を使用し、PbO−Bi2O3−B2O3系をフラックスとして、LPE法にて、格子定数a=12.496ÅのSGGG基板に、一般式Tb1.8Y0.2Bi1.0Fe5O12である希土類元素にTbを主成分とするガーネットを500μm育成した。
【0042】
また、純度99.99%の酸化テルビウムTb2O3、酸化イッテルビウムYb2O3、酸化第二鉄Fe2O3、酸化アルミニウムAl2O3、及び酸化鉛PbO、酸化ビスマスBi2O3、酸化硼素B2O3の粉末を使用し、PbO−Bi2O3−B2O3系をフラックスとして、LPE法にて、格子定数a=12.496AのSGGG基板に、一般式Tb1.8Yb0.2Bi1.0Fe5O12である希土類元素にTbを主成分とするガーネットを500μm育成した。
【0043】
さらに、純度99.99%の酸化テルビウムTb2O3、酸化ガドリニウムGd2O3、酸化第二鉄Fe2O3、酸化ガリウムGa2O3、及び酸化鉛PbO、酸化ビスマスBi2O3、酸化硼素B2O3の粉末を使用し、PbO−Bi2O3−B2O3系をフラックスとして、LPE法にて、格子定数a=12.509AのNGGに、一般式Tb1.8Gd0.2Bi1.0Fe4.9Ga0.1O12である希土類元素にTbを主成分とするガーネットを500μm育成した。
【0044】
次に、実施例1と同様に試料を取得し、ガラス板に挟みN2に配合するH2濃度を0.6vol%、500℃、10時間保持の熱処理を行い、熱処理の後、1.31μmでファラデー回転角が45deg.となる厚さ340μmの研磨により両面を鏡面に仕上げ、波長1.31μm用の無反射コート膜を両面に施し、挿入損失を測定した。
【0045】
なお、試料は実施例1と同様に各々2枚の挿入損失を測定し、平均値を評価した。その結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表3に示すように、各々のガーネットの挿入損は0.02〜0.04dBで、希土類元素としてTbを用いた実施例1と同等の挿入損失が得られた。
【0048】
以上のように、本発明によれば、Tbを主成分として、Yを含む希土類元素からなるビスマス置換希土類-鉄ガーネットでも、0.05dB以下の挿入損失が得られる。
【0049】
ところで、格子定数を合わせるためにFeサイトをGaだけでなく、Alを加えて置換したビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶においても、上記の実施例と同様の熱処理効果が得られることは容易に分かる。
【0050】
また、熱処理雰囲気のベースになる不活性ガスとして、N2に換えてArを用いてもよい。
【0051】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明によれば、一般式(R,Bi)3(Fe,M)5O12(但し、RはTbを主成分とする、Yを含む希土類元素を示す。また、MはAl、Ga又はその両方を示すが、その量はゼロであってもよい)で表されるビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶において、0.05dB以下の挿入損失が安定して得られる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における実施例及び比較例のTbBi系ガーネットの熱処理における試料の配置を示す図。図1(a)は、試料をガラス板で挟み込んだ状態を示す図。図1(b)は、ガラス板上に試料を置いた状態を示す図。図1(c)は半円管状のガラス管に試料を置いた状態を示す図。図1(d)は図1(c)の半円管状のガラス管上にガラス板を置いた状態を示す図。
【図2】本発明の実施例における電気管状炉と電気管状炉内の試料の配置を示す図。
【図3】11mm×11mm角のTbBi系ガーネットの挿入損失の測定個所を示す概念図。
【図4】本発明の実施例2における挿入損失I.L.の熱処理温度の依存性を示す図。
【図5】本発明の実施例2における挿入損失I.L.の保持時間の依存性を示す図。
【図6】本発明の実施例2における挿入損失I.L.の水素濃度の依存性を示す図。
【符号の説明】
1 TbBi系ガーネット試料
2 ガラス板
3 半円管状ガラス管
4 電気管状炉内に配置した試料
5 石英管
6 石英管端部蓋(ガス導入口付き)
7 ガス導入口
8 石英管端部蓋(ガス排出口付き)
9 ガス排出口
10 無誘導巻きヒーター部
▲1▼〜▲9▼ 挿入損失の測定箇所
Claims (2)
- 一般式(R,Bi)3(Fe,M)5O12(但し、RはTbを主成分とする、Yを含む希土類元素を示す。また、MはAl、Gaまたはその両方を示すが、その量はゼロでもよい)で表され、単結晶基板上に液相エピタキシャル成長法により育成されたビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶の熱処理において、前記ビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶を、PtおよびPdを含まない材質の板で挟み込んで、0 . 2〜2 . 0vol%のH 2 を含むN 2 もしくはArガス雰囲気で、460〜540℃に、5時間以上保持することを特徴とするビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶の製造方法。
- 前記板は、ガラス、石英、アルミナ、Gd3Ga5O12、Nd3Ga5O12、SUS304ステンレス、またはTiの板であることを特徴とする請求項1に記載のビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶の製造方法。
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