JP3864185B2 - ファラデー回転子の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ファラデー回転効果を有する光学用ガーネットからなるファラデー回転子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、光通信や光情報処理において、ファラデー回転効果を応用したデバイスが開発、実用化されている。半導体レーザーを使用した光通信装置では、光ファイバーケーブルやコネクタなどの端部からの反射光がレーザー発振器に戻ると、ノイズが増加し、発振が不安定になる。このような戻り光を遮断し、安定した発振状態を確保するために、ファラデー回転の非相反性を利用した光アイソレータが使用されている。
【0003】
現在、光ファイバーケーブルを用いた通信システムにおいては、波長が1.31μmや1.55μmの帯域がよく利用されている。このような帯域で用いられる近赤外用ファラデー回転素子材料として、厚膜状の希土類-鉄系ガーネット単結晶があり、厚膜単結晶として希土類元素にビスマス(Bi)を置換したビスマス置換希土類-鉄系ガーネットが実用化されており、(Tb,Bi)-鉄系ガーネットや(Gd,Bi)-鉄系ガーネットが主に用いられている。これらの厚膜単結晶を一般にビスマス置換希土類鉄系ガーネットもしくは磁性ガーネットと呼んでいる(以下、磁性ガーネットと記す)。
【0004】
これらの磁性ガーネットはフラックス法により製造され、現在ではフラックス法の一種で、生産性に優れた液相エピタキシャル成長法(以下、LPE法と記す)により、ほとんどが製造されている。
【0005】
ところで、LPE法で育成された、Tbを主成分として、Yを含む希土類元素によるビスマス置換希土類-鉄系ガーネット(以下、TbBi系ガーネットと記す)は、Tbイオンが+2価と+3価の価数を有することから、LPE法の育成条件により、+2価と+3価の価数が存在する。これらの価数の比率に連動して磁性ガーネット中のもう一つの正イオンであるFeイオンの価数も+3価以外に+2価と+4価が生じる。Feイオンに+3価以外の価数のイオンの存在比率が上昇すると、上記光通信の波長帯域でFeイオンによる光吸収が増加する。したがって、Feイオンを+3価に制御する価数制御が、光通信波長帯での光吸収を抑止するポイントとなる。
【0006】
TbBi系ガーネットでは光吸収抑止すなわち挿入損失低減のため、水素を微量に含んだ窒素やアルゴン雰囲気での熱処理を導入している。
【0007】
ところで、TbBi系ガーネットにおいては、他のファラデー回転効果を有する磁気光学素子でも同様であるが、光信号を透過させる面を鏡面加工した後、その両面に蒸着法やスパッタ法にて無反射コート膜を形成した後で、ファラデー回転子としての挿入損失の値を確認することができる。言い換えると、無反射コート膜がない状態では、反射による損失が1dB以上もあり、TbBi系ガーネット自体の挿入損失を正確に測定することができない。
【0008】
したがって、十分に吟味された製造条件下で育成されたTbBi系ガーネットであって、製造条件のばらつき等により特性が劣化したとしても、挿入損失を確認できる工程は、ファラデー回転子として製品化された無反射コート膜形成後となる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
現在の光アイソレータに求められる光学特性として、光信号の減衰を抑えた低挿入損失が上げられる。このことから、光アイソレータを構成するファラデー回転子にも同様の光学特性が求められる。
【0010】
しかし、前述のようにファラデー回転子の挿入損失は無反射コート膜形成後でしか確認できない。そこで、本発明者らは、TbBi系ガーネットにおいて挿入損失が大きい場合、無反射コート膜を研磨により除去し、熱処理を追加し挿入損失低減を図ってきたが、実質、無反射コート膜形成工程を2回行うこととなり、コスト上昇を招く結果となった。
【0011】
このことから、上記問題に鑑み、本発明では製造工程を繰り返すことなく、低挿入損失のファラデー回転子を得ることのできる製造方法を提供することにある。
【0012】
なお、市販されている磁性ガーネットを用いたファラデー回転子は、一般に挿入損失0.1dB以下であることから、課題とする挿入損失を0.05dB以下とした。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者による種々の検討の結果、LPE法により育成したTbBi系ガーネットに、無反射コート膜を形成することにより得たファラデー回転子を、2.0〜3.5vol%のH2を含むN2ガスもしくはArガスの雰囲気、保持温度が460〜540℃、保持時間3時間以上にて熱処理することにより、挿入損失が低減することを見いだした。
【0014】
同時に、1回の熱処理では、中央部に挿入損失の低減しない領域が残存するが、これを2回もしくは3回の熱処理の操り返しにより、ウェーハの全領域で挿入損失が低減することを見いだした。
即ち、本発明によれば、一般式(R,Bi ) 3 (Fe,M ) 5 O 12 (ただし、Rは主成分であるTbと、Yまたは他の希土類元素とから成る少なくとも1種以上の希土類元素を示し、また、MはAl、Gaまたは両方の元素を示し、Mの量はゼロでもよい)によって表され、ガーネット単結晶基板上に液相エピタキシャル成長法により育成されたビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶に、両面の鏡面加工を行い、無反射コート膜を形成して作製したファラデー回転子について、雰囲気が2 . 0〜3 . 5vol%のH 2 を含むN 2 ガスもしくはArガス、保持温度が460〜540℃、保持時間は3時間以上である熱処理を2回以上繰り返し、かつ、各熱処理の間において250℃以下に冷却することを特徴とするファラデー回転子の製造方法が得られる。
【0015】
その様子を図面で説明する。図1は本発明における熱処理の繰り返しによる挿入損失低減の効果を示す概念図である。図1(a)は熱処理1回、図1(b)は熱処理2回、図1(c)は熱処理3回の場合を示す。挿入損失が0.05dB以下の領域が、熱処理の回数とともに、ウェーハの外周部から中央部に向かって拡がっていく様子が示されている。
【0016】
また、繰り返しの熱処理の間において、温度を250℃以下にすることにより、ウェーハの全領域で0.05dB以下の挿入が得られることも分かった。
【0017】
なお、この熱処理では蒸着法、スパッタ法により形成した無反射コート膜双方において、挿入損失の低減および無反射コート膜の変化が無いことを確認した。
【0018】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0019】
(実施例1)純度99.99%の酸化テルビウムTb2O3、酸化第二鉄Fe2O3、酸化アルミニウムAl2O3、および酸化鉛PbO、酸化ビスマスBi2O3、酸化硼素B2O3の粉末を使用し、PbO−Bi2O3−B2O3系をフラックスとして、LPE法にて、格子定数a=12.496Åの置換型Gd3Ga5O12(以下、SGGGと記す)基板に、一般式Tb2.1Bi0.9Fe4.98Al0.02O12のTbBi系ガーネットを500μm育成した。
【0020】
育成後、11mm×11mmに切断した後、SGGG基板を研磨により除去した。
【0021】
次に、波長1.31μmでファラデー回転角が45deg.となる厚さ350μmに研磨により両面を鏡面に仕上げ、スパッタ法により波長1.31μm用の無反射コート膜を両面に施した。
【0022】
次に、この試料を2.5vol%のH2を混合したN2ガスの雰囲気において、熱処理温度500℃、保持時間5時間の熱処理を5回繰り返した。
【0023】
挿入損失測定は、各熱処理終了後、室温(25℃)まで降温して行った。測定は2枚の試料A,Bについて、図2において、符号▲1▼および▲2▼で示した2箇所で行い、熱処理の繰り返しによる変化を評価した。なお、図2は、11mm×11mmのTbBi系ガーネットの挿入損失の測定個所を示す概略図である。
【0024】
図3にその結果を示す。すなわち、図3は、挿入損失I.L.の熱処理の繰り返し回数への依存性を示す図である。なお、比較例として、熱処理前の挿入損失を示した。
【0025】
図3に示すように、試料Aでは繰り返し回数3回で、全領域で0.03dBが得られた。一方、試料Bでは繰り返し回数2回で、全領域で0.03dBが得られた。2試料とも、全領域で0.03dBが得られた繰り返し回数以降での、挿入損失の変化は見られない。
【0026】
以上のように、少量のH2を含む、不活性ガスとしてのN2ガス雰囲気において、熱処理を繰り返すことにより、挿入損失0.05dB以下のファラデー回転子を得ることができる。
【0027】
(実施例2)実施例1で用いた、TbBi系ガーネットからなるファラデー回転子を、熱処理温度400〜600℃、不活性ガスとしてのN2ガスに混合するH2濃度を1〜5vol%、熱処理温度での保持時間1〜30時間、繰り返し回数を3回、各熱処理間の冷却温度を室温とする熱処理を行った。
【0028】
なお、実施例2以降、挿入損失は試料中央部(図2の▲1▼)における測定で評価した。これは、試料中央部が熱処理による挿入損失の低減において最も遅いためである。
【0029】
図4に熱処理温度400〜600℃、H2濃度2.5vol%、保持時間5時間における、熱処理を3回繰り返した後の挿入損失の変化を示す。
【0030】
図4に示すように、熱処理温度460〜540℃において、挿入損失0.05dB以下が得られることが分かった。
【0031】
次に、図5にH2濃度1〜5vol%、熱処理温度480℃、保持時間5時間における、熱処理を3回繰り返した後の挿入損失の変化を示す。
【0032】
図5に示すように、H2濃度2.0〜3.5vol%において、挿入損失0.05dB以下が得られることが分かった。
【0033】
次に、図6に熱処理温度での保持時間0〜30時間、熱処理温度480℃、H2濃度2.5vol%、熱処理を3回繰り返した後の挿入損失の変化を示す。
【0034】
図6に示すように、熱処理温度での保持時間3時間以上において、挿入損失0.05dB以下が得られることが分かった。
【0035】
以上のように、熱処理温度460〜540℃、不活性ガスに混合するH2濃度2.0〜3.5vol%、保持時間3時間以上において、熱処理を繰り返すことにより、挿入損失0.05dB以下のファラデー回転子を得ることができる。
【0036】
(実施例3)実施例1で用いた、TbBi系ガーネットからなるファラデー回転子を、熱処理温度500℃、不活性ガスとしてのN2ガスに混合するH2濃度3vol%、保持時間5時間、繰り返し回数を3回、各熱処理間の冷却温度を室温ないし350℃とする熱処理を行った。
【0037】
図7に各熱処理間の冷却温度を室温ないし350℃、熱処理温度500℃、H2濃度3vol%、保持時間5時間、熱処理を3回繰り返した後の挿入損失の変化を示す。
【0038】
図7に示すように、各熱処理間の冷却温度を250℃以下において、挿入損失0.05dB以下が得られことが分かった。
【0039】
以上のように、各熱処理間の冷却温度を250℃以下において、熱処理を繰り返すことにより、挿入損失0.05dB以下のファラデー回転子を得ることができる。
【0040】
(実施例4)実施例1で用いたTbBi系ガーネットに、本例では、蒸着法により1.31μm用の無反射コート膜を形成し、ファラデー回転子を得た。
【0041】
このファラデー回転子に、熱処理温度500℃、不活性ガスとしてのN2ガスに混合するH2濃度を3vol%、保持時間5時間、繰り返し回数を3回、各熱処理間の冷却温度を200℃とする熱処理を行った。
【0042】
その結果、挿入損失0.03dBのファラデー回転子が得られた。
【0043】
以上のように、本発明によれば、無反射コート膜の形成方法(蒸着法、スパッタ法)を問わず、0.05dB以下のファラデー回転子を得ることができる。
【0044】
(実施例5)純度99.99%の酸化テルビウムTb2O3、酸化イットリウムY2O3、酸化イッテルビウムYb2O3、酸化第二鉄Fe2O3、酸化アルミニウムAl2O3、および酸化鉛PbO、酸化ビスマスBi2O3、酸化硼素B2O3の粉末を使用し、PbO−Bi2O3−B2O3系をフラックスとして、LPE法にて、格子定数a=12.496ÅのSGGG基板に、一般式Tb1.8Y0.2Bi1.0Fe5O12およびTb1.8Yb0.2Bi1.0Fe5O12である希土類元素にTbを主成分とする2つの組成のガーネットを500μm育成した。
【0045】
また、純度99.99%の酸化テルビウムTb2O3、酸化ガドリニウムGd2O3、酸化第二鉄Fe2O3、酸化ガリウムGa2O3、および酸化鉛PbO、酸化ビスマスBi2O3、酸化硼素B2O3の粉末を使用し、PbO−Bi2O3−B2O3系をフラックスとして、LPE法にて、格子定数a=12.509ÅのNGGに、一般式Tb1.8Gd0.2Bi1.0Fe4.9Ga0.1O12の希土類元素にTbを主成分とするガーネットを500μm育成した。
【0046】
次に、実施例1と同様の工程により、波長1.31μmでファラデー回転角が45deg.となる厚さ340μmに研磨により両面を鏡面に仕上げ、スパッタ法により波長1.31μm用の無反射コート膜を両面に施しファラデー回転子を得た。
【0047】
これらのファラデー回転子に、熱処理温度500℃、不活性ガスとしてのN2ガスに混合するH2濃度を3vol%、保持時間5時間、繰り返し回数を3回、各熱処理間の冷却温度を200℃とする熱処理を行い、挿入損失を評価した。
【0048】
その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、3種のファラデー回転子において、挿入損失0.03dBが得られた。
【0051】
以上のように、本発明によれば、Tb以外の希土類元素(Yを含む)を構成元素に含み、かつ、Tbを主成分とするビスマス置換希土類-鉄ガーネットからなるファラデー回転子において、0.05dB以下の挿入損失が得られる。
【0052】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明によれば、一般式(R,Bi)3(Fe,M)5O12(ただし、Rは主成分であるTbと、Yまたは他の希土類元素から成る少なくとも1種以上の希土類元素を示し、また、MはAl、Gaまたは両方の元素を示し、Mの量はゼロでもよい)で表されるビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶に、無反射コート膜を形成したファラデー回転子を、雰囲気が2.0〜3.5vol%のH2を含むN2ガスもしくはArガス、保持温度が460〜540℃、保持時間3時間以上にて熱処理すること、更に該熱処理の繰り返し、および該熱処理間の冷却温度を250℃以下とすることにより、挿入損失0.05dB以下のファラデー回転子が得られる。
【0053】
したがって、本発明によれば、無反射コート膜を形成した状態で挿入損失を低減する熱処理を可能とするファラデー回転子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における熱処理の繰り返しによる挿入損失低減の効果を示す概念図。図1(a)は熱処理1回、図1(b)は熱処理2回、図1(c)は熱処理3回の場合を示す図。
【図2】11mm×11mmのTbBi系ガーネットの挿入損失の測定個所を示す概略図。
【図3】本発明の実施例1における、挿入損失I.L.の熱処理の繰り返し回数への依存性を示す図。
【図4】本発明の実施例2における、挿入損失I.L.の熱処理温度への依存性を示す図。
【図5】本発明の実施例2における、挿入損失I.L.の水素濃度への依存性を示す図。
【図6】本発明の実施例2における、挿入損失I.L.の保持時間への依存性を示す図。
【図7】本発明の実施例3における、挿入損失I.L.の各熱処理間での冷却温度への依存性を示す図。
【符号の説明】
▲1▼,▲2▼ 挿入損失測定箇所
Claims (1)
- 一般式(R,Bi ) 3 (Fe,M ) 5 O 12 (ただし、Rは主成分であるTbと、Yまたは他の希土類元素とから成る少なくとも1種以上の希土類元素を示し、また、MはAl、Gaまたは両方の元素を示し、Mの量はゼロでもよい)によって表され、ガーネット単結晶基板上に液相エピタキシャル成長法により育成されたビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶に、両面の鏡面加工を行い、無反射コート膜を形成して作製したファラデー回転子について、雰囲気が2 . 0〜3 . 5vol%のH 2 を含むN 2 ガスもしくはArガス、保持温度が460〜540℃、保持時間は3時間以上である熱処理を2回以上繰り返し、かつ、各熱処理の間において250℃以下に冷却することを特徴とするファラデー回転子の製造方法。
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