JP3867934B2 - 紫外線透過弗ホウ酸塩ガラス - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高い紫外線透過性を有し、かつ紫外線照射損傷のない弗ホウ酸塩ガラスに関する。特に、本発明のガラスは、約250〜400nm範囲の紫外線光及び紫外線レーザに使用されるレンズ、窓部材、ミラー、プリズム、フィルター、光ファイバ用母材ガラス等に好適に用いることができる。
【0002】
【従来の技術】
従来の光学ガラスにおいては、紫外線光による誘起欠陥吸収、いわゆるソーラリゼージョンが強く生じ、透過率が低下するという問題がある。これはエキシマレーザ(波長248nm)のような強力な単色光を用いる場合、特に顕著であり、長時間の使用ができない。このため、石英ガラスが用いられるが、コストが高く、また、単一の屈折率のためレンズ系を組んだ時に色収差の補正ができないという問題がある。また、他の材料としては、アルカリハロゲン化物結晶やアルカリ土類ハロゲン化物結晶がある。これらは、その物質の特性上、非常によい透過性を有する。しかし、単結晶は光学均質性が低く、化学的耐久性が十分ではないので、高性能高精度な光学系においてはレンズなどの光学部品としては使用できない。また、半導体工業などの分野に樹脂硬化に用いる波長250〜400nm範囲の紫外線光を伝送するライトガイドとして、周知のように石英ガラスファイバーバンドルがよく使用されている。しかし、石英ガラスファイバでは開口数が大きくできないため、新規な高開口数ガラスファイバが求められる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
光学的均質性をもち、かつ紫外線透過性のよいガラスとしては、従来の光学ガラスの中では弗燐酸系ガラスが比較的優れている。しかし、このガラスは、失透に対する安定性が低く、工業的規模で光学的均質性をもつガラスの製造は非常に難しい。その上、強力な紫外線(例えば、UVライトガイドによく用いる800mW/cm2 のHg−Xeランプ)を照射する場合、波長250〜360nmの範囲における光誘起欠陥による吸収が急速に増大するので、紫外線伝送用光学材料としては好ましくない。
【0004】
そこで本発明の目的は、波長250〜400nm範囲の紫外線領域で十分に高い透過性を示し、光学的均質性を有し、かつ強力な紫外線光を長時間にわたって照射されても光誘起欠陥による吸収がほとんど起こらないガラスを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
B 2 0 3 、 AlF 3 、 YF 3 、 MgF 2 、 CaF 2 、 LiF 、 NaF 及び KF から選択される成分からなり、ガラスを構成する成分として B 2 0 3 並びに MgF 2 及び CaF 2 の少なくとも一方の成分を含み、前記成分の割合がモル%で表示して、 B 2 O 3 が35〜75%の範囲であり、かつ MgF 2 及び CaF 2 の合計が15%〜55%の範囲であること、 AlF 3 及び YF 3 の少なくとも一方の成分をさらに含み、その割合がモル%で表示して、 AlF 3 が0〜30%の範囲であり、 YF 3 が0〜15%の範囲であり、かつ LiF 及び NaF の少なくとも一方の成分を更に含むことを特徴とする弗ホウ酸塩ガラス;
La 2 O 3 、 LaF 3 、 Gd 2 O 3 及び GdF 3 を含有せず、ガラスを構成する成分として B 2 0 3 並びに MgF 2 及び CaF 2 の少なくとも一方の成分を含み、前記成分の割合がモル%で表示して、 B 2 O 3 が35〜75%の範囲であり、かつ MgF 2 及び CaF 2 の合計が15%〜55%の範囲であること、 AlF 3 及び YF 3 の少なくとも一方の成分をさらに含み、その割合がモル%で表示して、 AlF 3 が0〜30%の範囲であり、 YF 3 が0〜15%の範囲であり、かつ LiF 及び NaF の少なくとも一方の成分を更に含むことを特徴とする弗ホウ酸塩ガラス(第1の態様のガラス)に関する。
さらに本発明は、
B 2 0 3 、 AlF 3 、 YF 3 、 MgF 2 、 CaF 2 、 SrF 2 、 BaF 2 、 LiF 、 NaF 及び KF から選択される成分からなり、ガラスを構成する成分として MgF 2 及び CaF 2 の少なくとも一方の成分、 SrF 2 及び BaF 2 の少なくとも一方の成分並びに B 2 0 3 を含み、前記成分の割合がモル%で表示して、 B 2 O 3 が35〜75%の範囲であり、かつ MgF 2 、 CaF 2 、 SrF 2 及び BaF 2 の合計が15%〜55%の範囲であること、 AlF 3 及び YF 3 の少なくとも一方の成分をさらに含み、その割合がモル%で表示して、 AlF 3 が0〜30%の範囲であり、 YF 3 が0〜15%の範囲であることを特徴とする弗ホウ酸塩ガラス;
La 2 O 3 、 LaF 3 、 Gd 2 O 3 及び GdF 3 を含有せず、ガラスを構成する成分として MgF 2 及び CaF 2 の少なくとも一方の成分、 SrF 2 及び BaF 2 の少なくとも一方の成分並びに B 2 0 3 を含み、前記成分の割合がモル%で表示して、 B 2 O 3 が35〜75%の範囲であり、かつ MgF 2 、 CaF 2 、 SrF 2 及び BaF 2 の合計が15%〜55%の範囲であること、 AlF 3 及び YF 3 の少なくとも一方の成分をさらに含み、その割合がモル%で表示して、 AlF 3 が0〜30%の範囲であり、 YF 3 が0〜15%の範囲であることを特徴とする弗ホウ酸塩ガラス(第2の態様のガラス)に関する。
【0006】
本発明者らは、上記従来の弗燐酸系ガラスの諸欠点を分析し、紫外線照射によるガラスの損傷(光誘起欠陥による吸収)は燐酸系ガラスと同様に、下記化1のような結合がガラス構造中に存在するからであると考えた。
【0007】
【化1】
【0008】
【化2】
【0009】
さらに、弗燐酸系ガラスに強力な紫外線光を照射すると、化1の構造が化2に示すようなホールセンター又は電子センターをもつ欠陥構造となる。そして、これらが200〜300nmの波長領域に吸収を示すため(D.L. Griscom, E.J. Friebele and K.J. Long, J. Appl. Phys.,54(7)(1983)3743−3762)、ガラスの紫外線透過率は著しく低下する。ところが、ガラスに燐酸塩が存在するかぎりこのような欠陥構造を除去することが難しい。
【0010】
そこで本発明者らは、上記のような欠陥構造の形成を防止するには燐酸塩をガラス組成から除くことが不可欠であると推察し、種々検討行った。その結果、燐酸塩の代わりにホウ酸塩を成分としてガラスに導入することで、上記のような欠陥構造を持たない弗ホウ酸塩ガラスが、優れた紫外線透過性を有し、紫外線光の照射に対して強い耐久性をもち、かつ光学的均質性を有することを見出して本発明を完成した。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のガラスの各成分の役割について以下に説明する。
B203は、ガラス形成酸化物として働き、ガラス構造の安定化即ち失透に対する安定性を増す成分である。しかし、35%未満となるとガラスの失透に対する安定性が悪化する。また、75%を超えるとガラスの紫外線透過率が悪くなる。従って、B203の組成範囲は35〜75%の範囲であることが適当である。好ましくは40〜70%の範囲、より好ましくは42〜65%の範囲である。
【0012】
MgF2及びCaF2は紫外線透過率を高めるのに有用な成分であり、かついずれか一方または両方を必ず含有する。
第1の態様のガラスにおいては、MgF2及びCaF2の合計は、高い紫外線透過率を有するガラスを得るという観点から、15%以上であることが適当である。MgF2及びCaF2の合計は、好ましくは15〜55%の範囲、より好ましくは20〜50%の範囲である。
第2の態様のガラスは、MgF2及び/又はCaF2に加えてSrF2及び/又はBaF2を含み、SrF2とBaF2はガラスの高温粘性、屈折率などの光学的物性を調整する成分である。この場合、MgF2、CaF2、SrF2及びBaF2の合計は15%以上であることが適当であり、MgF2、CaF2、SrF2及びBaF2の合計は、好ましくは15〜55%の範囲、より好ましくは15〜50%の範囲である。さらに、MgF2及びCaF2の合計は、5%以上、好ましくは10%以上である。
【0013】
以下のMgF2及びCaF2については、第1の態様のガラス及び第2の態様のガラスにおいて共通する。
MgF2はガラスの紫外線透過率を高めるのに有用な成分である。30%を超えるとガラスの失透に対する安定性が低くなり、溶解温度も高くなる。好ましくは25%以下であり、より好ましくは2〜20%の範囲である。
CaF2もガラスに高紫外線透過率を付与する成分であり、さらに失透に対して安定なガラス化範囲を広げるのに有利な成分である。但し、40%を超えるとガラスの安定性が低下するので、40%以下であることが適当である。特に5〜35%の範囲であることが好ましい。
【0014】
第2の態様のガラスにおいては、SrF2とBaF2はガラスの高温粘性、屈折率などの光学的物性を調整するため、またはガラス化範囲を広げるために導入された成分である。但し、SrF2とBaF2の導入量はそれぞれ40%を超えるとガラスが失透する傾向がある。従って、その導入量は40%以下であることが適当である。好ましくは35%以下であり、さらに好ましくは、いずれの成分も2〜25%の範囲である。
【0015】
以下のAlF3、YF3 並びにLiF 、NaF 及びKFなどのアルカリ金属弗化物については、第1の態様のガラス及び第2の態様のガラスにおいて共通する。
AlF3はガラスの高紫外線透過率の性質を付与する成分であるとともに、B203とともにガラス構造の安定化およびガラス融液の粘性を高め化学的耐久性の向上に寄与する成分でもある。しかし、30%を超えるとガラスの溶解温度が急激に上昇するとともに、ガラスの失透に対する安定性も悪化する。従って、その導入量は30%以下に抑えることが適当である。AlF3の組成範囲は、好ましくは、2〜25%の範囲であり、より好ましくは、5〜20%の範囲である。
【0016】
YF3 は、ガラスの失透に対する安定性、屈折率及び化学的耐久性の向上に寄与する成分である。但し、15%を超えるとガラスが失透しやすくなるので、15%以下であることが適当であり、特に12%以下であることが好ましい。また、AlF3を併用する系では、YF3 の添加量はより少量であることが好ましく、AlF3の量を考慮してYF3 量を決定することが適当である。
【0017】
LiF 、NaF 及びKFなどのアルカリ金属弗化物は、必須の成分ではないが、ガラスの溶融性及び転移温度を調整する時に非常に有用な成分である。但し、15%を超えるとガラスの化学的耐久性が著しく低下するので、その合計量を15%以下にすることが適当である。好ましくは、12%以下、より好ましくは10%以下である。
尚、ガラスの紫外線透過率を向上させる傾向があり、かつガラスの耐久性を高める傾向もあることから、陽イオン半径の大きいKFよりは、陽イオン半径の小さいLiF を用いることが好ましい。
【0018】
本発明の弗ホウ酸塩ガラスは、ガラス原料を、大気中の酸素との反応を防ぐために不活性ガスを溶解雰囲気として溶解することで製造することが適当である。不活性ガスとしては、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどのガスを用いることができる。特に溶解雰囲気を大気圧以上に保つことが好ましい。
ガラスを製造する際に用いるるつぼとしては、白金るつぼが好ましいが、グラシーカーボンるつぼを用いることも可能である。但し、グラシーカーボンるつぼを用いる場合にはガラスに炭素インクルージョンの混入を避ける注意が必要である。
【0019】
【発明の効果】
本発明の弗ホウ酸塩ガラスは、優れた紫外線透過性をもち、強力な紫外線照射に対しても光誘起吸収による紫外線透過率の低下がほとんどない。また、ガラスとしても比較的安定に得ることができるため、工業的規模での生産及び2重るつぼ法でのファイバ線引きが可能である。光学機器に用いられる光学部品としても、紫外線光伝送用ファイバの母材としても有望である。特に0.2以上に大きい開口数を有する紫外線伝送用ファイバの作成に非常に有用である。
【0020】
【実施例】
以下、本発明を実施例でさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。表1〜3には実施例のガラス組成をモル%で示した。これらのガラスを溶解する際の出発原料としては、B203、AlF3、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、LiF、NaF及びKFなどを用いた。これらの原料を表1〜3に示した所定の割合に100g秤取し、十分に混合して調合原料と成した。得られた調合原料を白金るつぼに入れ、1100〜1200℃でアルゴン或いは窒素雰囲気で1〜2時間ガラスの溶解を行った。溶融後、ガラス融液をカーボン金型に流し、ガラスのTg温度まで冷却してから直ちにアニール炉に入れ、1時間保持した後、室温まで徐冷してガラスを得た。得られたガラスは無色透明であった。尚、実施例1〜3及び23は、第1の態様のガラスであり、実施例4〜22及び24、27〜32は、第2の態様のガラスである。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【0024】
ガラスの紫外線透過スペクトルの測定は、日立−330分光光度計で厚さ10mmのサンプルガラスを用いて行った。即ち、ガラスを20×10×10mmのサイズに光学研磨して、十分に洗浄した後、紫外線透過スペクトルを測定した。
図1には実施例14ガラスの紫外線透過スペクトルを示す。波長250nmから波長400nmの紫外線領域では高い紫外線透過率を示したことが図1から分かる。ガラスの紫外線による損傷の測定は出力1kWのHg−Xe紫外線ランプを用いて行った。
【0025】
図2には未照射及び1kWのHg−Xe紫外線ランプで30時間、80時間、150時間、300時間照射した後の実施例4ガラスの紫外線透過スペクトルを示す。図3には、同様に測定した、実施例23ガラスの紫外線透過スペクトルを示す。紫外線を30時間照射した後のガラスサンプルは、波長220〜260nm範囲の透過率がやや低下したが、その後照射時間をいくら延長してもガラスの紫外線透過率は全く変わらなかった。これらの結果は、本発明の弗ホウ酸塩ガラスが紫外線照射に対して大きな損傷を受けずに高い紫外線透過率を長時間保つことができることを示すものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例14ガラスの紫外線透過スペクトル。
【図2】 所定時間紫外線ランプ照射後の実施例4のガラスの紫外線透過スペクトル。
【図3】 所定時間紫外線ランプ照射後の実施例23のガラスの紫外線透過スペクトル。
Claims (10)
- B203、AlF3、YF 3 、MgF2、CaF2、LiF 、NaF 及びKFから選択される成分からなり、
ガラスを構成する成分としてB203並びにMgF2及びCaF2の少なくとも一方の成分を含み、前記成分の割合がモル%で表示して、B2O3が35〜75%の範囲であり、かつMgF2及びCaF2の合計が15%〜55%の範囲であること、AlF3及びYF3の少なくとも一方の成分をさらに含み、その割合がモル%で表示して、AlF3が0〜30%の範囲であり、YF3 が0〜15%の範囲であり、かつ LiF 及び NaF の少なくとも一方の成分を更に含むことを特徴とする弗ホウ酸塩ガラス。 - La2O3 、 LaF 3 、Gd2O3 及び GdF 3 を含有せず、
ガラスを構成する成分としてB203並びにMgF2及びCaF2の少なくとも一方の成分を含み、前記成分の割合がモル%で表示して、B2O3が35〜75%の範囲であり、かつMgF2及びCaF2の合計が15%〜55%の範囲であること、AlF3及びYF3 の少なくとも一方の成分をさらに含み、その割合がモル%で表示して、AlF3が0〜30%の範囲であり、YF3 が0〜15%の範囲であり、かつ LiF 及び NaF の少なくとも一方の成分を更に含むことを特徴とする弗ホウ酸塩ガラス。 - B203、AlF3、YF3、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、LiF、NaF及びKFから選択される成分からなり、
ガラスを構成する成分としてMgF2及びCaF2の少なくとも一方の成分、SrF2及びBaF2の少なくとも一方の成分並びにB203を含み、前記成分の割合がモル%で表示して、B2O3が35〜75%の範囲であり、かつMgF2、CaF2、SrF2及びBaF2の合計が15%〜55%の範囲であること、AlF3及びYF3の少なくとも一方の成分をさらに含み、その割合がモル%で表示して、AlF3が0〜30%の範囲であり、YF3が0〜15%の範囲であることを特徴とする弗ホウ酸塩ガラス。 - La2O3 、 LaF 3 、Gd2O3 及び GdF 3 を含有せず、
ガラスを構成する成分としてMgF2及びCaF2の少なくとも一方の成分、SrF2及びBaF2の少なくとも一方の成分並びにB203を含み、前記成分の割合がモル%で表示して、B2O3が35〜75%の範囲であり、かつMgF2、CaF2、SrF2及びBaF2の合計が15%〜55%の範囲であること、AlF3及びYF3の少なくとも一方の成分をさらに含み、その割合がモル%で表示して、AlF3が0〜30%の範囲であり、YF3が0〜15%の範囲であることを特徴とする弗ホウ酸塩ガラス。 - モル%で表示して、MgF2及びCaF2の合計が5%以上である請求項3又は4記載のガラス。
- モル%で表示して、MgF2が0〜30%の範囲であり、CaF2が0〜40%の範囲である請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラス。
- モル%で表示して、SrF2が0〜40%の範囲であり、BaF2が0〜40%の範囲である請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラス。
- LiF、NaF及びKFからなる群から選ばれる少なくとも一種の成分を含み、その割合の合計が15%以下である請求項3〜7のいずれか1項に記載のガラス。
- KF を更に含むことができ、 LiF 、 NaF 及び KF の合計が15%以下である請求項1または2に記載のガラス。
- 紫外線透過性である請求項1〜9のいずれか1項に記載のガラス。
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