JP3867625B2 - 窒化物半導体発光素子 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)等に使用される窒化物半導体(InXAlYGa1-X-YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)よりなる発光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
InXAlYGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y≦1)で示される窒化物半導体はMOVPE(有機金属気相成長法)、MBE(分子線ビーム気相成長法)、HDVPE(ハライド気相成長法)等の気相成長法を用いて基板上にエピタキシャル成長されている。またこの半導体材料は直接遷移型の広ワイドギャップ半導体であるため、紫外から赤色までの発光素子の材料として知られており、最近この材料で高輝度な青色LED、緑色LEDが実現され、次の目標としてレーザダイオード(LD)の実現が望まれている。
【0003】
窒化物半導体を用いた発光素子として、例えば特開平6−21511号公報にLED素子が示されている。この公報ではInGaNよりなる膜厚100オングストロームの井戸層と、GaNよりなる膜厚100オングストローム障壁層とを積層した多重量子井戸構造の活性層を備えるLED素子が示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前記公報によると、InGaNとGaNよりなる多重量子井戸構造の活性層をGaNと、AlGaNよりなるクラッド層で挟んだ分離閉じ込め型のダブルへテロ構造を有するLED素子が示されている。活性層を多重量子井戸構造とすることにより、発光出力に優れたLED素子を得ることができる。しかしながら、LDではLEDよりも、さらに発光出力を高める必要がある。従って本発明はこのような事情を鑑みて成されたものであって、その目的とするところは、窒化物半導体よりなる発光素子の新規な構造を提供することにより、発光出力を高めて半導体レーザを実現することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の発光素子は、窒化物半導体(InxAlYGa1−X−YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)よりなり、ダブルへテロ構造を有する窒化物半導体発光素子であって、
InGaNからなる井戸層と、InGaN又はGaNから成る障壁層とを有する多重量子井戸構造の活性層の上に、AlGaNから成り、前記活性層に接して成長された第1のp型層と、GaN若しくはInを含む窒化物半導体から成る第2のp型層と、Alを含む窒化物半導体から成る第3のp型層とが形成されたことを特徴とする。
【0006】
本発明において、GaNからなるn型コンタクト層と、Inを含むn型の窒化物半導体からなる第一のn型層と、Alを含むn型の窒化物半導体からなる第二のn型層と、GaN若しくはInを含む窒化物半導体からなる第三のn型層とを積層した上に活性層を形成することが望ましい。また、多重量子井戸構造を有する活性層では、井戸層の膜厚が70オングストローム以下であり、障壁層の膜厚が150オングストローム以下であることが望ましい。
【0008】
本発明の発光素子において、多重量子井戸構造(MQW:Multi-quantum-well)を構成するInを含む窒化物半導体よりなる井戸層には、三元混晶のInXGa1-XN(0<X≦1)が好ましく、また障壁層も同様に三元混晶のInYGa1-YN(0<Y<1)が好ましい。三元混晶のInGaNは四元混晶のものに比べて結晶性が良い物が得られるので、発光出力が向上する。また障壁層は井戸層よりもバンドギャップエネルギーを大きくして、井戸+障壁+井戸+・・・+障壁+井戸層となるように積層して多重量子井戸構造を構成する。このように活性層をInGaNを積層したMQWとすると、量子準位間発光で約365nm〜660nm間での高出力なLDを実現することができる。
【0009】
LDを実現する場合、活性層の膜厚、つまり井戸層と障壁層を積層した活性層の総膜厚は200オングストローム以上に調整することが好ましい。200オングストロームよりも薄いと、十分に出力が上がらず、レーザ発振しにくい傾向にある。また活性層の膜厚も厚すぎると出力が低下する傾向にあり、0.5μm以下に調整することが望ましい。
【0010】
さらに井戸層の膜厚は70オングストローム以下、さらに望ましくは50オングストローム以下に調整することが好ましい。図2は井戸層の膜厚と発光出力との関係を示す図であり、発光出力はLED素子について示している。出力に関してはLDでも同様のことが云える。これはこの膜厚がInGaN井戸層の臨界膜厚以下であることを示している。InGaNでは電子のボーア半径が約30オングストロームであり、このためInGaNの量子効果が70オングストローム以下で現れる。
【0011】
また障壁層の厚さも150オングストローム以下、さらに望ましくは100オングストローム以下の厚さに調整することが望ましい。図3は障壁層と膜厚と発光出力との関係を示す図であり、発光出力は図2と同様に、LED素子について示すものであるが、LDに関しても同様のことが云える。
【0012】
次に本発明の発光素子では活性層に接してAlGaNよりなる第1のp型層が形成されている。このAlGaNは1μm以下、さらに好ましくは10オングストローム以上、0.5μm以下に調整する。この第1のp型層を活性層に接して形成することにより、素子の出力が格段に向上する。逆に活性層に接するp型層をGaNとすると素子の出力が約1/3に低下してしまう。これはAlGaNがGaNに比べてp型になりやすく、またp型層成長時に、InGaNが分解するのを抑える作用があるためと推察されるが、詳しいことは不明である。また第1のp型層の膜厚は1μmよりも厚いと、第1のp型層自体にクラックが入りやすくなり素子作製が困難となる傾向にあるからである。
【0013】
【発明の実施の形態】
特に活性層について述べると、本発明の発光素子は、先にも述べたように好ましくは、InGaNよりなる井戸層と、井戸層よりもバンドギャップの大きいInGaNよりなる障壁層を積層した多重量子井戸構造である。特開平6−21511号とは障壁層がGaNである。これは薄膜の井戸層と障壁層とを積層したMQWでは、各層に係るストレスが違う。井戸層の上にInGaNよりなる障壁層を積層すると、InGaNよりなる障壁層はGaN、AlGaN結晶に比べて結晶が柔らかい。そのためクラッド層のAlGaNの厚さを厚くできるのでレーザ発振が実現できる。一方、障壁層をGaNとすると、活性層の上にAlGaNよりなるクラッド層を成長させると、そのクラッド層にクラックが発生しやすい傾向にある。
【0014】
さらにInGaNとGaNとでは結晶の成長温度が異なる。例えばMOVPE法ではInGaNは600℃〜800℃で成長させるのに対して、GaNは800より高い温度で成長させる。従って、InGaNよりなる井戸層を成長させた後、GaNよりなる障壁層を成長させようとすれば、成長温度を上げてやる必要がある。成長温度を上げると、先に成長させたInGaN井戸層が分解してしまうので結晶性の良い井戸層を得ることは難しい。さらに井戸層の膜厚は数十オングストロームしかなく、薄膜の井戸層が分解するとMQWを作製するのが困難となる。それに対し本発明では、障壁層もInGaNであるため、井戸層と障壁層が同一温度で成長できる。従って、先に形成した井戸層が分解することがないので結晶性の良いMQWを形成することができる。
【0015】
【実施例】
以下、MOVPE法によりLD素子を作成する方法を述べるが、本発明の発光素子はMOVPE法だけではなく、例えばMBE、HDVPE等の他の知られている窒化物半導体の気相成長法を用いて成長させることができ、またLDだけでなくLEDにも適用可能である。
【0016】
[実施例1]
よく洗浄されたサファイア基板1(0001面)をMOVPE装置の反応容器内に設置した後、原料ガスにTMG(トリメチルガリウム)と、アンモニアを用い、温度500℃でサファイア基板の表面にGaNよりなるバッファ層2を200オングストロームの膜厚で成長させた。
【0017】
このバッファ層は基板と窒化物半導体との格子不整合を緩和する作用があり、他にAlN、AlGaN等を成長させることも可能である。また基板にはサファイアの他にスピネル111面(MgAl2O4)、SiC、MgO、Si、ZnO等の単結晶よりなる従来より知られている基板が用いられる。このバッファ層を成長させることにより、基板の上に成長させるn型窒化物半導体の結晶性が良くなることが知られているが、成長方法、基板の種類等によりバッファ層が成長されない場合もある。
【0018】
続いて温度を1050℃に上げ、原料ガスにTMG、アンモニア、ドナー不純物としてSiH4(シラン)ガスを用いて、SiドープGaNよりなるn型コンタクト層3を4μmの膜厚で成長させた。n型コンタクト層3はGaNとすることによりキャリア濃度の高い層が得られ、電極材料と好ましいオーミック接触が得られる。
【0019】
次に温度を750℃まで下げ、原料ガスにTMG、TMI(トリメチルインジウム)、アンモニア、不純物ガスにシランガスを用い、SiドープIn0.1Ga0.9Nよりなる第一のn型層4を500オングストロームの膜厚で成長させた。
【0020】
この第一のn型層4はInを含むn型の窒化物半導体、好ましくはInGaNで成長させることにより、次に成長させるAlを含む窒化物半導体を厚膜で成長させることが可能となる。LDの場合は、光閉じ込め層、光ガイド層となる層を、例えば0.1μm以上の膜厚で成長させる必要がある。従来ではGaN、AlGaN層の上に直接厚膜のAlGaNを成長させると、後から成長させたAlGaNにクラックが入るので素子作製が困難であったが、第一のn型層がバッファ層として作用する。つまり、この層がバッファ層となり次に成長させるAlを含む窒化物半導体層にクラックが入るのを防止することができる。しかも次に成長させるAlを含む窒化物半導体層を厚膜で成長させても膜質良く成長できる。なお第一のn型層は100オングストローム以上、0.5μm以下の膜厚で成長させることが好ましい。100オングストロームよりも薄いと前記のようにバッファ層として作用しにくく、0.5μmよりも厚いと、結晶自体が黒変する傾向にある。なお、この第一のn型層4は省略することもできる。
【0021】
次に、温度を1050℃にして、原料ガスにTEG、TMA(トリメチルアルミニウム)、アンモニア、不純物ガスにシランガスを用いて、Siドープn型Al0.3Ga0.7Nよりなる第二のn型層5を0.5μmの膜厚で成長させた。この第二のn型層はLDの場合光閉じ込め層として作用し、通常0.1μm〜1μmの膜厚で成長させることが望ましい。
【0022】
続いて、原料ガスにTMG、アンモニア、不純物ガスにシランガスを用い、Siドープn型GaNよりなる第三のn型層6を500オングストロームの膜厚で成長させた。この第三のn型層6はLDの場合、光ガイド層として作用し、通常100オングストローム〜1μmの膜厚で成長させることが望ましく、GaNの他にInGaN等のInを含むn型窒化物半導体で成長させることもでき、特にInGaN、GaNとすることにより次の活性層を量子井戸構造とすることが可能になる。
【0023】
次に原料ガスにTMG、TMI、アンモニアを用いて活性層7を成長させた。活性層7は温度を750℃に保持して、まずノンドープIn0.2Ga0.8Nよりなる井戸層を25オングストロームの膜厚で成長させる。次にTMIのモル比を変化させるのみで同一温度で、ノンドープIn0.01Ga0.95Nよりなる障壁層を50オングストロームの膜厚で成長させる。この操作を13回繰り返し、最後に井戸層を成長させ総膜厚0.1μmの膜厚の多重量子井戸構造よりなる活性層7を成長させた。井戸層の好ましい膜厚は100オングストローム以下、障壁層は150オングストローム以下の膜厚で成長することにより、井戸層、障壁層が弾性的に変形して結晶欠陥が少なくなり、素子の出力が飛躍的に向上するので、レーザ発振が可能となる。さらに井戸層はInGaN等のInGaNを含む窒化物半導体、障壁層はGaN、InGaN等で構成することが望ましく、特に井戸層、障壁層ともInGaNとすると、成長温度が一定に保持できるので生産技術上非常に好ましい。
【0024】
活性層7成長後、温度を1050℃にしてTMG、TMA、アンモニア、アクセプター不純物源としてCp2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)を用い、Mgドープp型Al0.2Ga0.8Nよりなる第一のp型層8を100オングストロームの膜厚で成長させた。この第一のp型層8は1μm以下、さらに好ましくは0.1μm以下の膜厚で成長させることにより、InGaNよりなる活性層が分解するのを防止するキャップ層としての作用があり、また活性層の上にAlを含むp型窒化物半導体よりなる第一のp型層8を成長させることにより、発光出力が向上する。またp型窒化物半導体層はZn、Mg、Cd、Ca、Be、C等のアクセプター不純物を成長中にドープすることにより得られるが、その中でもMgが最も好ましいp型特性を示す。さらに、アクセプター不純物をドープした後、不活性ガス雰囲気中で400℃以上のアニーリングを行うとさらに好ましいp型が得られる。
【0025】
次に温度を1050℃に保持しながら、TMG、アンモニア、Cp2Mgを用いMgドープp型GaNよりなる第二のp型層9を500オングストロームの膜厚で成長させた。この第二のp型層9はLDの場合、光ガイド層として作用し、通常100オングストローム〜1μmの膜厚で成長させることが望ましく、GaNの他にInGaN等のInを含むp型窒化物半導体で成長させることもでき、特にInGaN、GaNとすることにより次のAlを含む第三のp型層10を結晶性良く成長できる。
【0026】
続いて、TMG、TMA、アンモニア、Cp2Mgを用いてMgドープAl0.3Ga0.7Nよりなる第三のp型層10を0.5μmの膜厚で成長させた。この第三のp型層10はLDの場合、光閉じ込め層として作用し、0.1μm〜1μmの膜厚で成長させることが望ましく、AlGaNのようなAlを含むp型窒化物半導体とすることにより、好ましく光閉じ込め層として作用する。
【0027】
続いて、TMG、アンモニア、Cp2Mgを用い、Mgドープp型GaNよりなるp型コンタクト層11を0.5μmの膜厚で成長させた。このp型コンタクト層はMgを含むGaNとすると、最もキャリア濃度の高いp型層が得られて、正電極の材料と良好なオーミック接触が得られる。
【0028】
以上のようにして窒化物半導体を積層したウェーハを反応容器から取り出し、図1に示すように最上層のp型コンタクト層11より選択エッチングを行い、n型コンタクト層3の表面を露出させ、露出したn型コンタクト層3と、p型コンタクト層11の表面にそれぞれストライプ状の電極を形成した後、ストライプ状の電極に直交する方向から、さらにエッチングを行い垂直なエッチング端面を形成して、そのエッチング面に常法に従って反射鏡を形成して共振面とした。共振面側から見たレーザ素子の断面図が図1に示す断面図である。このレーザ素子をヒートシンクに設置し、LDとしたところ、非常に優れた結晶が積層できていたため、常温において、しきい値電流密度4.0kA/cm2で発光波長410nm、半値幅2nmのレーザ発振を示した。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の発光素子は、InGaNからなる井戸層とInGaN又はGaNから成る障壁層とを有する多重量子井戸構造の活性層の上に、AlGaNから成る第1のp型層と、GaN若しくはInを含む窒化物半導体から成る第2のp型層と、Alを含む窒化物半導体から成る第3のp型層とが形成されたため、発光素子の出力が著しく向上した。これは膜質の良い活性層が成長できていることによる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例に係るLDの構造を示す模式断面図。
【図2】 本発明の一実施例に係る素子の活性層の井戸層と発光出力との関係を示す図。
【図3】 本発明の一実施例に係る素子の活性層の障壁層と発光出力との関係を示す図。
【符号の説明】
1・・・基板
2・・・GaNバッファ層
3・・・n型GaN(n型コンタクト層)
4・・・n型InGaN(第一のn型層)
5・・・n型AlGaN(第二のn型層)
6・・・n型GaN(第三のn型層)
7・・・活性層
8・・・p型AlGaN(第一のp型層)
9・・・p型GaN(第二のp型層)
10・・・p型AlGaN(第三のp型層)
11・・・p型GaN(p型コンタクト層)
Claims (6)
- 窒化物半導体(InxAlYGa1−X−YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)よりなり、ダブルへテロ構造を有する窒化物半導体発光素子であって、
InGaNからなる井戸層とInGaN又はGaNから成る障壁層とを有する多重量子井戸構造の活性層の上に、
AlGaNから成り、前記活性層に接して成長された第1のp型層と、
GaN若しくはInを含む窒化物半導体から成る第2のp型層と、
Alを含む窒化物半導体から成る第3のp型層とが形成されたことを特徴とする窒化物半導体発光素子。 - 前記第1のp型層の膜厚が、0.1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
- 前記井戸層の膜厚が70Å以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
- 前記障壁層の膜厚が、150Å以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
- 前記活性層の総膜厚が、200Å以上、0.5μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
- 前記第3のp型層の上に、GaNから成るp型コンタクト層が形成されたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
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