JP3857372B2 - 耐酸セメント組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、廃棄物溶融スラグ等を利用でき、耐酸性に優れたセメント組成物及びコンクリート製品に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、耐酸コンクリートとしては、アルカリスラグコンクリート及び水ガラスコンクリートが知られている。このうち、アルカリスラグコンクリートは普通セメントを全く用いず、高炉水滓スラグ粉末にアルカリ金属塩等を刺激剤として加えて硬化させた水硬性コンクリートである。このアルカリスラグコンクリートに用いるスラグは、銑鉄製造工程で得られた高炉水滓スラグであり、通常、化学成分としてCaO38〜45重量%、SiO233〜35重量%、Al2314〜18重量%、MgO4〜8重量%、Fe230.5〜2重量%を有し、CaO/SiO2のモル比が1.3以上であるといわれている。このCaO/SiO2のモル比が1.3以上の高炉水滓スラグ粉末と水ガラスを用いたコンクリートは、硬化体中酸に弱い遊離のCa(OH)2が全く生成されないために、普通セメントコンクリートに比べて耐酸性が強いと言われている。
【0003】
一方、水ガラスコンクリートは、結合材とする水ガラスにケイフッ化ナトリウムや縮合リン酸アルミニウム等を硬化剤として加えて硬化させたコンクリートである。
ケイフッ化ナトリウムや縮合リン酸アルミニウム等の硬化剤を用いた水ガラスコンクリートはシリカゲルが生成し硬化する。
【0004】
このシリカゲルは耐酸性に優れていることから水ガラスコンクリートも耐酸性に優れている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、耐酸セメント用として水ガラスと高炉スラグを用いると、高炉スラグはCaOの含有量が多いため硬化体中にはシリカゲルの他にC−S−H(CaO−SiO2−H2O)ゲルも多量に生成する。このC−S−Hゲルは、酸には弱いため結果とし耐酸性は小さくなる。また、硫酸はC−S−Hゲルと反応し、石膏のような膨張性物質を生成するため、硬化体が膨張応力によって破壊されることがある。従って、CaO分の多い通常の高炉スラグと水ガラスを用いたスラグコンクリートは、普通セメントコンクリートに比べれば耐酸性は強いが、耐酸コンクリート構造物や耐酸コンクリート製品等の特殊用途に用いるには耐酸性は十分とはいえない。
【0006】
また、水ガラスコンクリートにおいて、シリカゲルは耐酸性が強いが、耐水性に劣り、また脱水に伴う収縮が大きいという問題点を有している。また、上記反応式に示した反応が完全に最後まで進行することは難しい。そのため未反応の水ガラスと可溶性の金属塩が生じたままとなり、これらが水や希酸に溶ける結果、硬化体がポーラスとなり、耐浸透性が悪くなるという問題点も有している。従って、水ガラスコンクリートは、耐水性及び耐浸透性に劣るという欠点を有している。
【0007】
一方、特に大都市においては、下水汚泥や都市ゴミの処理をはじめ、建設廃材等の各種産業廃棄物は、その最終処分場の確保など種々の問題があり、そのリサイクルを含めた再資源化に関する調査研究が盛んに行われている。
また、下水汚泥や都市ゴミを減容化のため焼却した下水汚泥焼却灰や都市ゴミ焼却灰、更にはそれらのいっそうの減容化のため溶融処理したスラグ等についても、各自治体や装置メーカーは有効利用技術の開発を行っている。しかし、その用途は、路盤材やブロックの骨材やタイルや煉瓦等の原料として利用され始めているが、その量は微々たるものであり、技術的、価格的な制約、流通の問題等から、未だに有効活用はまだまだ少なく、かつ、積極的に有効活用されている段階でもなく、その処理に悩んでいるのが実状である。
【0008】
例えば、下水汚泥に関しては、建設省は、昭和50年度以降、下水汚泥の資源化に関する調査研究を行っている。又、下水汚泥の有効利用を促進する為、汚泥の有効利用施設を補助対象にしている。更に、昭和63年度より、下水道の建設事業に汚泥製品(路盤材や土質改良材等)を積極的に用いることを内容とする下水汚泥資源利用モデル事業を実施している。
しかし、このように長年その有効利用について検討しているにもかかわらず、未だに下水汚泥焼却灰やゴミ焼却灰はもちろん、それらを溶融スラグ化した溶融スラグも含めて大きな有効活用は図られていない。
【0009】
従って本発明の目的は、廃棄物溶融スラグも有効利用でき、上記の如き欠点のない、耐酸性に優れたセメント組成物及びコンクリート製品を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
斯かる実情に鑑み本発明者らは鋭意研究を行った結果、下水汚泥や都市ゴミを溶融スラグ化した廃棄物溶融スラグ等のCaO/SiO2のモル比が0.1〜1.2である非晶質カルシウムシリケートアルミネート系スラグ粉末と水ガラス及び必要な骨材を特定量含有するセメント組成物が優れた耐酸性を有するコンクリート製品となり得ることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、(A)CaO/SiO2のモル比が0.1〜1.2の非晶質カルシウムシリケートアルミネート系スラグ粉末であって、その一部又は全部が廃棄物溶融スラグである該スラグ粉末10〜95重量%、(B)水ガラスを固形分で1〜20重量%及び(C)粒状又は塊状の廃棄物溶融スラグである骨材85重量%以下を含有し、且つ(B)/(A)の重量比が0.05〜0.40である耐酸セメント組成物を提供するものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明で用いる非晶質カルシウムシリケートアルミネート系スラグ粉末はCaO、SiO2及びAl23を主成分とするものであり、粘土、石灰石、下水汚泥焼却物、ゴミ焼却物、産業廃棄物等の種々の原料を上記の化学成分となるように調整したものを高温で溶融し、急冷して得られるスラグを粉砕したものである。ここで、各種の原料は、市販の材料を混合して用いてもよいが、下水汚泥焼却物、ゴミ焼却物及び産業廃棄物は、これを直接用いても化学組成が上記の範囲にあるものがほとんどであり、経済性及び未利用資源の有効利用の点からこれを用いるのがより好ましい。すなわち下水汚泥焼却溶融スラグ、ゴミ焼却溶融スラグ及び産業廃棄物焼却溶融スラグ等の廃棄物溶融スラグを用いることが好ましい。因に下水汚泥や都市ゴミを溶融した廃棄物溶融スラグの化学成分はCaOが5〜35%、SiO2 が30〜70重量%、Al23が5〜25重量%、Fe23が2〜20重量%、アルカリ分が1〜15重量%、リン分が0.5〜23重量%、MgOが2〜6重量%等であり、ほとんどの場合CaO/SiO2のモル比が1.2以下である。
【0014】
本発明に用いるスラグ粉末(A)のCaO/SiO2のモル比は、0.1〜1.2であるが、好ましくは0.2〜1.0であり、特に好ましくは0.3〜0.8である。このCaO/SiO2のモル比が0.1未満であるとスラグの水和活性が極端に小さくなり、水ガラスを多量に使用しても、実用化できる程の強度を持つ硬化体が得られないことがある。一方、このモル比が1.2を超えるとCaOの含有量が相対的に高くなるためアルカリスラグコンクリートと同様な問題点を生じることがある。すなわち耐酸性が弱くなり、硫酸存在下では、石膏の生成にともなう膨張によりクラックや表面剥離が発生しやすくなる。
【0015】
また、スラグ粉末(A)は、上記成分以外に、酸化鉄、アルカリ分、リン分、酸化チタン、酸化マンガン、酸化マグネシウム及びハロゲン分から選ばれる1種又は2種以上が含まれていることが好ましい。これら成分の含有量は、酸化鉄(Fe23換算)、アルカリ分(Na2O及びK2Oの合計換算)、リン分(P25換算)、酸化チタン(TiO2換算)、酸化マンガン(MnO換算)及び酸化マグネシウム(MgO換算)から選ばれる1種又は2種以上が合計量で0.1〜50重量%、又は/及びハロゲン分0.1〜10重量%程度であることが好ましい。
【0016】
スラグ粉末(A)の粉末度は細かいほど粉末の比表面積が大きくなるため水和反応が速く進行し、コンクリートの強度が高まり好ましいが、比表面積が15000cm2 /gを超えるものとすると、粉砕にかかるエネルギーや時間が膨大となり経済性に欠ける。一方、比表面積が1000cm2 /g未満のものでは、水和活性が乏しく脱型強度が得られず、また耐酸性にも乏しくなることがあり好ましくない。従って、スラグ粉末(A)の比表面積は1000〜15000cm2 /g、特に2000〜8000cm2 /gが好ましい。
【0017】
本発明で使用される水ガラス(B)としては、一般に市販されているものすなわち、無水水ガラス、液体水ガラス、K2Oを含んだ水ガラス等であればいずれも使用できるが、刺激剤としての効果を考えるとアルカリ量の多いもの、すなわちSiO2/Na2Oのモル比が小さいものが好ましい。具体的には市販の水ガラス1〜3号のうち1号水ガラスが好ましい。水ガラスの使用量は、耐酸セメント組成物中1〜20重量%、好ましくは2〜15重量%(固形分換算)である。この量が2重量%未満であるとアルカリ刺激剤としての量が少なすぎるため、十分な強度が得られず、20重量%を超えるとフレッシュ状態の混合物の粘性が大きくなりすぎ、成形又は作業が困難となることがある。また水ガラス(B)/スラグ粉末(A)の重量比は0.05〜0.40、特に0.10〜0.30とすることが好ましい。
【0018】
本発明において使用される骨材(C)としては耐酸性を有する骨材であれば何れでもよく、石英質岩石、安山岩、玄武岩、陶磁器破砕物等が挙げられる。また、粒状又は塊状の上記廃棄物溶融スラグも骨材として用いることができる。骨材の使用量は用途に応じて耐酸セメント組成物中0〜85重量%、好ましくは0〜80重量%とすることが好ましい。この量が85重量%を超えると他の結合材の量が少なくなりすぎ、フレッシュ状態の混合物の粘性が不足し、パサパサして成形ができなくなることがある。
【0019】
本発明の耐酸セメント組成物と水とを混合し、成形すれば耐酸性に優れたコンクリート製品が得られる。ここで、セメント組成物と水との混合比は、通常のコンクリート製造時と同様であり、所望のコンクリート製品の成形手段によって適宜決定される。
【0020】
この混合物の成形方法としては、流し込み法、押し出し法、遠心力法、加圧法等の何れを用いてもよい。
また、養生方法としては、常温養生、蒸気養生、オートクレーブ養生等の何れを用いてもよい。
本発明のコンクリート製品としては、耐酸性構造物、例えば酸類を使用する工場、酸性水温泉地区の槽、床面、壁等の組成材料、耐酸性裏込め材、耐酸性コンクリート製品、例えば化学工場排水管、下水道管等が挙げられる。
【0021】
本発明においては、CaO/SiO2のモル比が0.1〜1.2の非晶質カルシウムシリケートアルミネート系スラグ粉末を用いることによって、硬化体中に生成されるC−S−Hゲルの量を減らすことにより耐酸性を向上させている。
また、水ガラスの水和により生成されたNaOH等のアルカリが本発明のスラグ粉末の刺激剤となり消費され、このNaOHの消費により、更に水ガラスの硬化は促進されることになる。換言すれば、水ガラスは本発明の非晶質カルシウムシリケートアルミネート系スラグ粉末の刺激剤となり、非晶質カルシウムシリケートアルミネート系スラグ粉末は水ガラスの硬化剤となる。よって、CaO/SiO2のモル比が0.1〜1.2の非晶質カルシウムシリケートアルミネート系スラグ粉末を用いることにより、従来のアルカリスラグコンクリートでもなく、水ガラスコンクリートでもなく、両者の長所を兼ねそなえ、耐酸性、耐水性、耐浸透性が強く、かつ収縮が小さい耐酸セメント組成物が得られる。
【0022】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
【0023】
参考例
CaO/SiO2のモル比が1.11の大阪市の下水汚泥溶融スラグ(表1)を用いて内径が150mm、厚みが26mmの無筋コンクリート管を作製し、その外圧強さ及び圧縮強度を測定した。その場合の配合組成、成形方式及び養生条件は以下の通りである。すなわち、配合組成は、粉末度が4500cm2 /gの溶融スラグ粉末を343kg/m3、1号水ガラスを86kg/m3、砂を781kg/m3、砂利を1059kg/m3、水を150kg/m3とした。成形方式は、遠心力成形とし、重力加速度が3gの低速で3分間、12gの中速で2分間、30gの高速で6分間回した。養生条件は蒸気養生を用いて、80℃まで20℃/時間の昇温速度で昇温し、その後80℃で8時間保持した後、自然放冷とした。その結果、外圧強さは30.2kN/mであり、圧縮強度は366kgf/cm2 であった。その数値は、呼び径が150の無筋コンクリート管の外圧強さのJIS基準値25kN/mと比べて十分に高くなっており、実用化に支障のない値であった。
【0024】
実施例1
試験方法について表2及び表3(表1)に示すような配合の耐酸セメント組成物(配合No1〜17は参考品、No18は本発明品、A〜Cは比較品)をISOセメントモルタルの作製方法に準じ、寸法2×2×8cmに成型し、次に示すような条件の蒸気養生を行った後、脱型し、曲げ、圧縮強度、耐酸性試験用の試験体とした。耐酸性試験は試験体体積の10倍に相当する20℃の10%硫酸中に10日間浸漬した後、その重量測定と外観観察を行った。なお、酸液の交換は2日ごとに行うこととした。結果を表4〜8に示す。
【0025】
Figure 0003857372
【0026】
【表1】
Figure 0003857372
【0027】
【表2】
Figure 0003857372
【0028】
【表3】
Figure 0003857372
【0029】
【表4】
Figure 0003857372
【0030】
【表5】
Figure 0003857372
【0031】
【表6】
Figure 0003857372
【0032】
【表7】
Figure 0003857372
【0033】
【表8】
Figure 0003857372
【0034】
【発明の効果】
本発明の耐酸セメント組成物から得られる耐酸コンクリート製品は、耐酸性に優れることはもちろん、耐水性・耐浸透性にも優れ、かつ収縮が少ない。また下水汚泥や都市ゴミを溶融した廃棄物溶融スラグを原料とすることができるので、これらの有効利用を図ることができる。

Claims (1)

  1. (A)CaO/SiO2のモル比が0.1〜1.2の非晶質カルシウムシリケートアルミネート系スラグ粉末であって、その一部又は全部が廃棄物溶融スラグである該スラグ粉末10〜95重量%、(B)水ガラスを固形分で1〜20重量%及び(C)粒状又は塊状の廃棄物溶融スラグである骨材85重量%以下を含有し、且つ(B)/(A)の重量比が0.05〜0.40である耐酸セメント組成物。
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