JP3851397B2 - 塩酸水溶液の電解のための改良法 - Google Patents

塩酸水溶液の電解のための改良法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、塩酸水溶液の電解のための改良法に関し、さらに詳しくは、塩素発生用の電気触媒的塗膜を備えた耐蝕性基板製のアノードを含有する電気化学槽のアノード隔室に塩酸水溶液が供給される塩酸水溶液の電解法に関する。
【0002】
【従来の技術】
現代の工業化学は、原料としての塩素の使用に非常に大きく依存している。実際に重要な反応は、以下のスキームに従い、最終生成物が塩素を含有するかしないかに応じて、2つのファミリーに分けることができる:
A. 塩素を含有する最終生成物
A1. 塩化ビニルモノマー(VCM)の重合によるポリ塩化ビニル(PVC)の製造
VCMは、以下の反応:
CH2=CH2+Cl2 → CH2Cl−CH2Cl(DCE)
CH2Cl−CH2Cl → CHCl=CH2(VCM)+HCl
で、エチレンと塩素とからのジクロロエタン(DCE)の合成およびDCEの塩化ビニルへの熱分解による2工程を経て得られる。
【0003】
反応の副生物であり使用される塩素の50%に相当するる塩酸は、酸素との以下のオキシクロリネーション反応:
CH2=CH2+2HCl+1/2O2 → CH2Cl−CH2Cl+H2
を経て追加のDCEにさらに転化される。逆に、その他の工業プロセスにおいては、塩酸は、リサイクルすることができず、一般にマーケットが微弱であり、また、その塩素化された有機不純物の含量の観点からもその商業性について問題を有する。典型的な方法は、ここで以下に掲示する。
【0004】
A2. クロロベンゼンの製造
66+Cl2 →C65Cl(モノクロロベンゼン)+HCl
66+2Cl2 →C64Cl2(ジクロロベンゼン)+2HCl
A3. クロロメタン類の製造
CH4+Cl2 →CH3Cl(メチルクロライド)+HCl
CH4+2Cl2 →CH2Cl2(塩化メチレン)+2HCl
クロロメタン類は、以下のように:
CH3Cl+HF →CH3F+HCl
フッ酸との交換によってフッ素化された化合物の製造のための出発原料となることができる。
【0005】
B. 塩素を含有しない最終生成物
ポリウレタンの製造が典型的であり、その出発反応体は、イソシアネート類であり、これは、以下のような2工程を経て得られる:
CO+Cl2 →COCl2(ホスゲン)
COCl2+R−NH2(アミン) →RNCO(イソシアネート)+2HClポイント(A)の塩素化法において、塩酸は、使用される塩素の50%を含有するのに対し、イソシアネート類の製造については、全ての塩素が副生物塩酸として排出される。同様のことがポリカーボネート類の製造に適用される。
【0006】
二酸化チタンの製造においても同様の特性が見られる。
【0007】
四塩化チタンを得るために、塩素が使用され、四塩化チタンは、塩酸副生物を伴って、二酸化チタンに転化される。
【0008】
工業化学の発生が、つまりは、ある種の塩素化された化合物以外にイソシアネート類およびフッ素化された化合物の製造のための新規プラントの建設または既存のプラントの拡張をもたらすので、市場の需要は極めて弱いものの、著しく大量の塩酸が入手可能であることが容易に予想される。このような状況においては、塩酸を塩素に転化することのできる方法が極めて重要であるように思われる。
【0009】
塩酸の塩素への転化に関する技術的背景を以下に要約する:
−触媒法
これら方法は、19世紀末に発明された周知のデイーコン法より誘導される。それは、固体触媒(塩化銅)上でのガス状の塩酸の酸化反応に基づく:
2HCl+1/2O2 →Cl2+H2
この方法は、酸化クロムを含有する触媒の最適化と比較的低温での操作によって近年著しく改良された。この方法に影響を及ぼす問題点は、反応の熱力学に存在し、これは、塩酸の部分的な転化のみを許すに過ぎない。したがって、反応の下流域において、この方法は、塩酸よりの塩素の分離と未転化塩酸のリサイクルとを予見する必要がある。また、プラントによって排出される水相(水が反応生成物である。)は、触媒より放出される重金属類を含有する。これら欠点を克服するために、最近、ガス状の塩酸と酸化銅との間の反応で塩化銅を形成し、続く塩化銅と酸素との間の反応で塩素と酸化銅とを形成し、これを第1の反応に改めて賦す、つまりは、2工程で酸化を実施することが提案された(Chemical Engineering News, September 11, 1995)。しかし、この新しい方法は、熱ショックおよび摩耗に耐えることのできる新しい触媒を最適化する必要性を含む。
【0010】
−電気化学法
塩酸、その水溶液の形態が、多孔質のダイヤフラムまたは過フッ素化されたタイプのイオン交換膜によって2つの隔室に仕切られた電気化学槽において電解される。2つの電極、陽極(アノード)および陰極(カソード)において、以下の反応が起こる:
(+)2Cl−2e- →Cl2
(−)2H++2e- →H2
全体の反応: 2HCl →Cl2+H2
この方法は、ある一定数の工業プラントに適用されている。その最適化された変法において、この方法は、エネルギー消費1500kW時/トン塩素を含み、電流密度は、4,000アンペア/m2である。このエネルギー消費は、通常、経済的な興味および資本投下コストの観点から高すぎると考えられる。実際、塩酸溶液および塩素の強い攻撃性は、構成材料としてのグラファイトの選択をもたらし、これは、機械加工するのに高いコストを強いる。さらに、グラファイトが極めて脆弱であるため、プラントの信頼性の問題を含み、特に、製品の品質および電解法の製造プラントとの統合性の点において著しい利点を付与する圧力下での操作ができない。グラファイトは、今日、米国特許4,511,442に記載されているように、グラファイト粉末と耐薬品性の熱可塑性結合剤との熱間圧縮を経て得られるグラファイト複合体によって代替することができる。これら複合体は、特殊な型と非常に強力なプレスとを必要とし、さらに、生成速度が極めて遅い。これら理由により、これら複合体のコストは、高くなり、かくして、純粋なグラファイトより抵抗が大きく、加工性がよいそれらの利点を相殺する。水素発生カソードをカソード消費酸素で代替することが提案されている。これは、より低い槽電圧を提供するという利点を有し、電気エネルギー消費を1,000〜1,100kW時/トンに低下させることに相当する。この低下消費が最終的には電解法をアピールするものである。しかし、このシステムは、実験室規模で試験されているものの、工業的規模での適用は未だ報告されていない。さらなる提案が最近なされた。Du Pont De Nemours and Co.のPCT出願No. WO95/44797において、イソシアネート類またはフッ素化もしくは塩素化化合物の製造用プラントから得られるガス状の塩酸の電解法が実際に記載されている。存在する有機物および固体粒子を除去するための適当な濾過後、塩酸は、過フッ素化されたイオン交換膜によって2つの隔室に仕切られた電解槽に供給される。アノード隔室は、膜に緊密に接触した適当な触媒を含有する多孔質フィルム製のガス拡散電極を含む。ガス状の塩酸は、電極の孔を介して膜触媒界面に拡散され、そこで、それは、塩素に転化される。カソード隔室は、膜に緊密に接触した電極を備え、水素を発生することができる。水流が生成した水素を気泡の形態で除き、槽の温度を調節する働きをなす。しかし、一定の操作条件下、特に、運転停止および始動の間に、アノード隔室において、塩酸を高濃度、30〜40%で含有する水相が生成する。したがって、この方法も、また、高抵抗性の材料を必要とし、グラファイトのみが適当であると考えられ、かくして、前述したように、高い資本投下コストを含む。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、特に、酸素供給ガス拡散カソードの使用を含み、高い機械的信頼性と低い資本投下コストとを特徴とする槽で塩酸の水溶液を電解するための新しい方法を開示することによって、従来技術の欠点を克服することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、塩素発生用の電気触媒的塗膜を備えた耐蝕性基板製のアノードを含有する電気化学槽のアノード隔室に塩酸水溶液が供給される塩酸水溶液の電解法に関する。適当な基板は、グラファイト化した炭素の多孔質ラミネート、例えば、PWB-3 ZoltecまたはTGH Toray、チタン、チタン合金、ニオブまたはタンタル製の多孔質ラミネート、メッシュまたはエキスパンデッドメタルである。電気触媒的塗膜は、白金族金属そのままの酸化物製、または、安定化酸化物類、例えば、チタンオキシドまたはタンタルオキシドを任意添加した混合物の酸化物製である。カソード隔室は、カチオンタイプの過フッ素化されたイオン交換膜によってアノード隔室と仕切られる。適当な膜は、Du Pontによって商標NafionRの下に市販されており、特に、Nafion 115およびNafion 117膜である。使用することのできる同様の製品は、日本国の旭ガラス株式会社および旭化学株式会社によって市販されている。カソード隔室は、空気、酸素富化空気または純粋の酸素を供給されるガス拡散カソードを含む。ガス拡散カソードは、少なくとも1つの面に多孔質電気触媒塗膜を含む不活性多孔質基板製である。カソードは、酸素とアノード隔室より膜を介して移動するプロトンとの間の反応によって形成される水の放出を促進するために、例えば、触媒層、および、場合によっては、多孔質基板全体の内部にポリテトラエチレン粒子を埋め込むことによって疎水性とされる。基板は、一般に、多孔質ラミネート、または、グラファイト化されたカーボンクロス、例えば、TGH TorayまたはPWB-3 Zoltec製である。電気触媒層は、白金族の金属またはそれらの酸化物をそれ自体または混合物で触媒として含む。最良の組成物の選択は、酸素反応用の好ましい動力学およびアノード隔室より膜を介しての塩酸の拡散により電気触媒塗膜内部で優勢な酸性条件に対する良好な抵抗性ならびに酸素ガスに典型的な高い電位を同時に有することが必要であることを考慮したものである。適当な触媒は、白金、イリジウム、ルテニウムオキシド、それ自体か、または、場合によっては、高い表面比を有する炭素粉末、例えば、Vulcan XC-72に担持されたものである。ガス拡散カソードは、膜に面する側面にイオノメリック物質のフィルムを備えていてもよい。イオノメリック物質は、好ましくは、イオン交換膜を形成する物質の組成と同様の組成を有する。ガス拡散カソードは、槽の内部に位置決めする前に、例えば、制御された温度、圧力下、適当な時間、カソードを膜にプレスすることによって、イオン交換膜に緊密に接触保持される。好ましくは、より低いコストの観点から、カソードおよび膜は、単一片として槽の内部に設置され、アノード隔室とカソード隔室との間の適当な圧力差(カソード隔室のそれより高いアノード隔室の圧力)によって接触保持される。満足する結果は、圧力差0.1〜1バールで得られることが判明した。値が低い程、性能は実質的に減衰し、他方、値が高い程、限界利点に近くとも使用することができる。圧力差は、第1の変法において教示したように、酸素反応によって生ずる水によって孔の内部に発現する毛管圧力によりカソードと膜との間の剥離が生ずるかも知れないので、カソードが予め膜にプレスされている時もとにかく有効である。この場合、圧力差は、剥離領域においてさえカソードと膜との間の適当な緊密な接触を保障する。圧力差は、カソード隔室が膜カソードアセンブリを均一に支持するのに適した硬質構造物を備えている時にのみ適用することができる。この構造物は、例えば、適当な厚さと良好な平面性とを有する多孔質ラミネート製である。本発明の好ましい実施態様において、多孔質ラミネートは、大きなメッシュ寸法と必要とされる剛性を付与するための必要とされる厚さとを有するメッシュまたはエキスパンデッドメタルシート製の第1の層と、ガス拡散電極と非常に多数の接触点を生ずるのに適した第1の層よりも薄い厚さと小さいメッシュ寸法とを有するメッシュまたはエキスパンデッドメタルシート製の第2の層とからなる。このようにして、カソード構造物の対照的な要件、すなわち、実質的な厚さを意味する、剛性、および、小さな孔またはメッシュ寸法を意味する、非常に多数の接触点、薄い厚さによってのみその目標を達成することのできる、酸素への接近容易性および酸素の反応によって形成される水の迅速な除去容易性という問題を容易に、かつ、安価に、解決することができる。
【0013】
電気化学槽のアノード隔室およびカソード隔室は、一方の側において、イオン交換膜によって、他方の側において、適当な耐薬品性を有する電気伝導壁によって境界を定められる。この特性は、塩酸を供給されるアノード隔室については自明であるが、カソード隔室についても必要とされる。事実、前述の過フッ素化された膜では、酸素反応によって形成される水、すなわち、カソード隔室の底部に収集される液相は、5〜7重量%の範囲の量、塩酸を含有する。
【0014】
さて、図1を参照しつつ、本発明を説明する。図1は、本発明の電気化学槽の簡略化した長手方向の断面図である。槽は、イオン交換膜1、それぞれ、カソード隔室およびアノード隔室2および3、アノード4、酸供給ノズル5、排出される酸および生成した塩素を取り出すためのノズル6、アノード隔室の境界を定める壁7、ガス拡散カソード8、厚いエキスパンデッドメタルシートまたはメッシュ10および薄いエキスパンデッドメタルシートまたはメッシュ11を含むカソード支持機素9、空気または酸素富化空気もしくは純粋な酸素を供給するためのノズル12、酸素反応の酸性水および可能な過剰の酸素を取り出すためのノズル13、カソード隔室境界壁14、および、周辺ガスケット15および16を含む。
【0015】
工業的な実施において、電気化学槽は、図1に概略したものであるが、一般に、いわゆる“フィルター−プレス(filter-press)”配置の構成スキームに従い、ある一定数組み立てられ、電解槽を形成し、これは、化学反応器と等価な電気化学反応器である。電解槽においては、多数の槽が並列または直列に電気的に接続される。並列配置において、各槽のカソードは、整流器の陰極に電気的に接触されて母線に接続され、他方、各アノードは、同様に、整流器の陽極に電気的に接触されて母線に接続される。逆に、直列配置では、各槽のアノードは、続く槽のカソードに接続され、並列配置のためのように電気的な母線を必要としない。この電気的な接続は、1つの槽のアノードと隣接する槽のカソードとの間の必要とされる電気的な接続を提供する適当なコネクタによってなすことができる。アノード物質およびカソード物質が同一である時、接続は、1つの槽のアノード隔室と隣接する槽のカソード隔室との境界を定める機能を果たす単一壁を使用して簡単になすことができる。この特に単純化された構成溶液は、塩酸水溶液の電解のための変流技術(current technology)を使用して電解槽内で使用される。前記技術において、実際、グラファイトは、アノード隔室用およびカソード隔室用としての唯一の構成材料として使用される。しかし、この物質は、その固有の脆性により信頼性に乏しい以外に、困難、かつ、時間のかかる機械加工により非常に高価である。
【0016】
既に記載したように、純粋なグラファイトは、グラファイトと、ポリマー類、特に、フッ素化ポリマー類とからなる複合体によって代替することができ、これは、脆性が低いが、純粋なグラファイトよりもさらに高価である。従来技術において、その他の物質は、使用されていない。チタンは、許容可能なコストを特徴とし、薄いシートに製造することができ、容易に2次加工され、溶接され、運転下の典型的なアノード環境である塩素を含有する塩酸水溶液に耐性であるので、その使用は、特に興味深い。しかし、チタンは、始動時の初期相および電流の異常な突然の遮断が発生する全ての場合に典型的な状況である、塩素と電流との不在において容易に攻撃される。さらに、従来技術では、電解は、空気または酸素を供給されるガス拡散カソードなしで実施されている。したがって、カソード反応は、水素発生であり、水素の存在で、チタンは、カソード隔室用の材料として使用される時、脆化される。
【0017】
従来技術の電解法にある種の改良を導入することによって、チタンおよびその合金、例えば、チタン−パラジウム(0.2%)をアノード隔室およびカソード隔室用の構成物質として使用することが可能であり、かくして、完全に金属製の単純、かつ、安価な電解槽構成を提供することができることは驚くべき発見であった。
【0018】
本発明によって開示される改良を、ここで、以下に掲示する:
● 塩酸水溶液への酸化性化合物の添加
前記化合物は、塩素によって酸化された状態に常時保たれる必要があり、それをガス拡散カソードと接触させる時に、有意に還元されてはならない。これら要件は、酸化性化合物のレドックス電位が水素放電電位より高い時に合致し、これは、強い異常状態でガス拡散電極において発生する。ガス拡散カソードの孔に存在する酸性液体の電位のこの限界値は、NHEスケール(標準水素電極)0ボルトである。レドックス電位に対する許容可能な値は、0.3〜0.6ボルトNHEの範囲を占める。典型的な3価の鉄および2価の銅を酸に加えることができるが、本発明は、これに限定されるものではない。3価の鉄は、膜を介して移動した後到着するガス拡散カソードを毒さないので、特に好ましい。3価の鉄の最も好ましい濃度は、100〜10,000ppmの範囲内に入り、好ましくは、1,000〜3,000ppmの範囲内に入る。
【0019】
● 空気、酸素富化空気または純粋な酸素を供給するガス拡散カソードの使用
● 電解槽内部の塩酸の最高濃度を20%に維持すること
● 温度を約60℃に制限すること
● アルカリ塩、好ましくは、アルカリ塩化物、例えば、最も単純な場合、塩化ナトリウムの塩酸水溶液への任意のさらなる添加
前記改良に対する理由は、以下のように説明することができる:
−3価の鉄または同様のレドックス電位を有するその他の酸化性化合物の添加
チタンは、不動態状態に維持され、電流または塩素の不在においてさえ酸化性化合物によって誘導される保護酸化物フィルムの形成により耐蝕性である。これは、電流の突然の遮断に対する緊急的な理由により槽の始動および運転停止の典型的な状況である。運転中、電流および塩酸溶液に溶解した塩素は、酸化性化合物のそれに対してそれらの効果を及ぼし、不動態化作用を強いる。酸化性化合物は、主としてそのレドックス電位が十分に高い、少なくとも0ボルトNHE(標準水素電極)、好ましくは、0.3〜0.6ボルトNHEであり、その濃度が一定の限界値を上回る時、保護酸化物を形成することができる。3価の鉄の具体的な場合において、この最小濃度は、100ppmである。しかし、この濃度は、以下の説明において考察するように、より高い信頼性を獲得し、カソード隔室を効果的に保護するために、好ましくは、1,000〜3,000ppmの範囲内に維持される。槽のアノード隔室内で循環する塩酸溶液中の酸化性化合物の必要とされる濃度は、容易に入手することのできるプローブおよび市販機器を介する電気分析技術で周知のように、レドックス電位値を測定するかまたは電流計測定によって調節することができる。
【0020】
−ガス拡散カソードの使用
このタイプのカソードでは、酸素と膜を介してアノード隔室より移動するプロトンとの間でカソード反応が起こり、水を生成する。既に記載したように、この水は、液体相としてカソード隔室の壁を濡らし、膜を介しての塩酸の移動により強酸性である。この酸度は、操作条件に応じ、4〜7%の間を占める。したがって、カソード隔室も、また、アノード隔室の典型的なそれよりも低い場合でさえ、強い攻撃作用を受ける。酸性液相は、また、アノード隔室内部を循環する塩酸水溶液に添加される酸化性化合物も含有する。酸化性化合物が、3価の鉄の場合のように特にカチオンの形態の場合には、電界により膜を通して移動したり、ガス拡散カソードの孔内部の反応水に集積したりする。酸性反応水中の酸化性化合物の濃度は、操作条件と同時に、アノード隔室を循環する塩酸水溶液中の酸化性化合物の濃度に依存する。前述したように、後者が十分に高い値に維持される場合、例えば、1,000〜3,000ppmの範囲内の3価の鉄の場合、カソード反応水中の濃度も、また、酸度が値4〜7%に到達する時でさえ、チタンを安全に不動態化して保持するに十分な値に到達する。他方、ガス拡散カソードを使用すると、脆化の可能性および保護耐蝕性酸化物の破壊の可能性に対するチタンとの極めて危険な水素発生のカソード反応が除外される。
【0021】
−アノード隔室内部で循環する塩酸溶液中およびカソード隔室の酸性水中の両者における酸化性化合物の適当な濃度によってチタン保護酸化物の形成に必要とされる条件が一度達成されると、その他の操作条件がその溶解を生じさせることを回避することが必要となる。操作温度が60℃を上回ることがなく、アノード隔室内部を循環する溶液中の塩酸の最高濃度が20重量%である時、適度に安全な条件が得られることが判明している。アノード隔室内の塩酸溶液の循環が溶液中および膜内のジュール効果と電気化学反応の両者によって発生する熱を有効に除去することも、また、観測されている。温度を予め決めた60℃の限度内に維持し、また、電流密度3,000〜4,000アンペア/m2、塩酸溶液の中間流速、例えば、100リットル/時/m2膜に維持することが可能であった。
【0022】
―アノード隔室内部を循環する塩酸溶液へのアルカリ塩、特に塩化ナトリウムの添加
この添加は、プロトンによって行われる電流の輸送をアルカリカチオン、特に、ナトリウムカチオンによって行われるそれと合わせるためになされる。この合わされた電流輸送は、適度に均衡している場合、カソード隔室内のカソード反応水中に存在する大部分の酸度を中和する。かくして、酸度は、アルカリ塩の添加なしの操作条件を特性づける4〜7%に関して、好ましくは0.1〜1%の範囲内の値に低下させることができる。塩化ナトリウムの具体的な場合において、20%塩酸溶液への20〜50g/lの添加がカソード反応水の酸度を実質的に低下させ、チタンについて一定の追加の安定化効果を有することが認められた。これら温和な条件は、また、ガス拡散カソード内に組み込まれるある種の触媒の浸出速度も低下させる。
【0023】
図1に示した電気化学槽で試験する間、上記条件、すなわち、酸化性化合物の添加、温度の制御、循環する塩酸溶液についての最高濃度の維持およびガス拡散電極の使用は、腐蝕に関して十分な長期間の信頼性を有するアノード隔室およびカソード隔室の構成用にチタンの使用を許容する。唯一の弱点は、時によって、隙間領域、すなわち、チタンが酸化性化合物を含有する液相と自由に接触しない箇所において見られる。典型的な例は、アノード隔室およびカソード隔室の周辺フランジであり、ガスケット領域と一致する。この問題は、隙間領域、主として周辺フランジおよび種々のノズルに、白金族そのままの金属またはそれらの酸化物もしくはそれらの混合物、ならびに、場合によっては、安定化酸化物類、例えば、チタンオキシド、ニオブオキシド、ジルコニウムオキシド、および、タンタルオキシドとさらに混合した金属を含む塗膜を適用することによって克服される。典型的な例は、ルテニウムとチタンとの等モル比混合酸化物である。
【0024】
さらに、より信頼することのできる解決法は、純粋なチタンの代わりに、チタン合金を使用することを含む。コストおよび入手性の観点の下では、チタン−パラジウム0.2%合金が特に重要である。この合金は、当分野公知であるように、隙間領域で特に抵抗性であり、先に示したように、酸化性化合物を含有する酸性溶液と自由に接触する領域で完全に腐蝕不感受性である。
【0025】
【実施例】
実施例
上記電気化学槽の性能に関して、図2は、槽電圧と、本発明の教示に従い得られる電流密度との間の相関(1)、および、従来技術の教示に従い得られる電流密度との間の相関(2)を示す。チタン−パラジウム0.2%合金製のアノード隔室およびカソード隔室(図1における参照符号2および3、7および14)は、EPDMエラストマー製の周辺ガスケット(図1における参照符号15および16)を具備する。アノード隔室は、それぞれ、5 e 10mmの対角線を有する長斜方形の開口を有する平坦でないメッシュ1.5mm厚さを形成するエキスパンデッドチタン−パラジウム0.2%合金シート製のアノードを具備し、ルテニウム、イリジウムおよびチタンの混合酸化物製の電気触媒塗膜を具備する(図1の参照符号4)。カソード隔室は、それぞれ、5および10mmの対角線を有する長斜方形の開口を有する荒目の0.2%チタン−パラジウムメッシュ1.5mm厚さを具備し、それにスポット溶接された0.2%チタン−パラジウム(厚さ0.5mm、それぞれ、対角線2および4mmを有する長斜方形開口)の薄いメッシュを具備していた。薄いメッシュは、白金−インジウム合金製の電気伝導性塗膜を備えていた。ダブルメッシュ構造は、ダブルメッシュ構造(図1における参照符号8)と接触するそれと反対の側の過フッ素化されたイオノメリック物質製のフィルムを備えた、E-TEK-USA(Vulcan XC-72活性炭上30%白金、貴金属の合計20g/m2)によって市販されているELAT電極からなるガス拡散カソードを担持していた。2つの隔室は、Du Pont-USAによって供給されているNafionR117膜(図1の参照符号1)によって仕切られていた。アノードには、20%塩酸の水溶液を供給し、カソード隔室には、化学量論的に20%過剰に相当する流速で大気圧より幾分高い圧力で純粋な酸素を供給した。2つの隔室間で、圧力差0.7バールを維持した。温度は、55℃に保持した。3価の鉄濃度3,500ppmに到達するために、塩酸に塩化第2鉄を加えた。カソード隔室の底部より取り出した液体は、約700ppmの3価の鉄を含有する6%塩酸の水溶液からなった。
【0026】
槽の運転は、350時間継続し、よどんだ酸(stagnant acid)の存在で、種々の中間運転停止と延長された不活性期間とを設けた。周辺ガスケット下のフランジ領域においてさえ、性能の減衰および腐蝕のいずれも検知されなかった。導出口液体を分析することによってさらにチェックをしたが、認められるだけのチタンの痕跡も検知されなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電気化学槽の簡略化した長手方向の断面図である。
【図2】槽電圧と本発明の教示に従い得られる電流密度との間の相関、および、槽電圧と従来技術の教示に従い得られる電流密度との間の相関を示すグラフである。
【符号の説明】
1 イオン交換膜
2 カソード隔室
3 アノード隔室
4 アノード
5 酸供給ノズル
6 排出される酸および生成した塩素を取り出すためのノズル
7 アノード隔室の境界を定める壁
8 ガス拡散カソード
9 カソード支持機素
10 厚いエキスパンデッドメタルシートまたはメッシュ
11 薄いエキスパンデッドメタルシートまたはメッシュ
12 空気または酸素富化空気もしくは純粋な酸素を供給するためのノズル
13 酸素反応の酸性水および可能な過剰の酸素を取り出すためのノズル
14 カソード境界壁
15,16 周辺ガスケット

Claims (21)

  1. 耐食性カチオン交換膜によって仕切られたカソード隔室とアノード隔室とを含み、カソード隔室及びアノード隔室がガス拡散カソード及び塩素発生のための電気触媒的塗膜を備えた不活性基板製のアノードを備え、少なくともガス拡散カソード及び膜が相互に緊密に接触し、カソード隔室がさらに酸素含有ガスを供給するための導入口と反応水を排出するための導出口とを備え、アノード隔室が電解される塩酸水溶液のための導入口と排出される塩酸溶液及び生成した塩素を取り出すための導出口とを含む、少なくとも1つの電気化学槽からなる電解槽で実施される塩素を製造するための塩酸水溶液の電解法において、
    該方法が、アノード隔室及びカソード隔室がチタン及びチタン合金の群より選択される同一の構成材料製である槽中で実施され、電解される塩酸水溶液に、0ボルト NHE (標準水素電極)に少なくとも等しいレドックス電位を有し、塩素によって酸化された状態に常時保たれ、且つそれをガス拡散カソードと接触させる時に有意に還元されない、酸化性化合物を添加することを特徴とする方法。
  2. レドックス電位が0.3〜0.6ボルトNHEを占めることを特徴とする、請求項1記載の方法。
  3. 前記酸化性化合物が3価の鉄であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
  4. 3価の鉄の濃度が100〜10,000ppmの範囲に維持されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
  5. 前記濃度が好ましくは1,000〜3,000ppmの範囲内に維持されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
  6. 濃度が電気化学的プローブ又は電流計測定によって調節されることを特徴とする、請求項4又は請求項5に記載の方法。
  7. 電解される塩酸水溶液の濃度が最大値20%を有し、排出される塩酸水溶液の温度が60℃を上回らないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  8. 排出される塩酸水溶液の温度が電解される塩酸水溶液の流速を調節することによって規制以下に保たれることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
  9. 流速が100リットル/時/m2膜を有し、電流密度が3,000〜4,000アンペア/m2膜を有することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
  10. 電解される塩酸水溶液がさらにアルカリ塩を添加されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  11. 前記アルカリ塩が塩化ナトリウムであり、その濃度が20〜50グラム/リットルに範囲を占めることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
  12. アノード隔室及びカソード隔室のための構成材料として使用されるチタン又はチタン合金が両隔室の周辺ガスケット領域に保護電気触媒的塗膜を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  13. 前記保護塗膜が、そのまま使用される白金族の金属又はそれらの酸化物製であるか、又はチタンキキシド、ニオブオキシド、ジルコニウムオキシド、タンタルオキシドの群より選択される安定化酸化物類を任意に更に添加したそれらの混合物製であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
  14. 前記保護塗膜が等モル比のルテニウムとチタンとの混合酸化物製であることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
  15. 前記構成材料が0.2重量%のチタンーパラジウム合金であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  16. イオン交換膜と緊密に接触したガス拡散カソードの表面が膜を形成する物質と相溶性であり、且つイオン交換膜を形成する物質の組成と同様の組成を有するフィルムを備えていることを特徴とする、請求項1記載の方法。
  17. ガス拡散カソードとイオン交換膜との間の前記緊密な接触が加熱及び加圧下の接着によって前記電解槽内に設置する前に得られることを特徴とする、請求項1記載の方法。
  18. アノード隔室がカソード隔室よりも高い圧力に賦されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
  19. アノード隔室とカソード隔室との間の圧力差が0.1〜1.0バールの範囲に維持されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
  20. 前記ガス拡散カソードとイオン交換膜とが、膜と緊密に接着したそれと対向するガス拡散カソード表面と多数の接点を有する硬質多孔質構造物によって支持され、前記構造物がカソード隔室内に位置決めされていることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
  21. 前記構造物が相互に溶接された硬質粗目のエキスパンデットメタルシート又はメッシュ及び薄いエキスパンデットメタルシート又はメッシュ製であり、前記粗目且つ微細なエキスパンデットメタルシート又はメッシュがチタン又はチタン合金製であり、前記薄いエキスパンデットメタルシート又はメッシュが耐食性の電気伝導性塗膜を備えていることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
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