JP3850623B2 - 微細結晶組織を有する軟磁性合金の製造方法 - Google Patents

微細結晶組織を有する軟磁性合金の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気ヘッド、トランス、チョークコイル等に使用される微細結晶組織を有する軟磁性合金製造方法に係わり、特に、高透磁率で、かつ低保磁力である微細結晶組織を有する軟磁性合金製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気ヘッド、トランス 、チョークコイル等に用いられる軟磁性合金において 一般的に要求される諸特性は以下の通りである。
▲1▼飽和磁束密度が高いこと。▲2▼透磁率が高いこと。▲3▼低保磁力であること。
従って軟磁性合金あるいは磁気ヘッドを製造する場合、これらの観点から種々の合金系において材料研究がなされている。従来、前述の用途に対しては、センダスト、パーマロイ、けい素鋼等の結晶質合金が用いられ、最近ではFe基およびCo基の非晶質合金も使用されるようになってきている。
【0003】
ところが、前記のセンダストは、軟磁気特性には優れるものの、飽和磁束密度が約1.1T(テスラ)と低い欠点があり、パーマロイも同様に、軟磁気特性に 優れる合金組成においては、飽和磁束密度が約0.8Tと低い欠点があり、けい 素鋼は飽和磁束密度は高いものの軟磁気特性に劣る欠点がある。
一方、非晶質合金において、Co基合金は軟磁気特性に優れるものの飽和磁束密度が1.0T程度と不十分である。また、Fe基合金は飽和磁束密度が高く、1.5Tあるいはそれ以上のものが得られるが、軟磁気特性が不十分である。
前述のごとく高飽和磁束密度と優れた軟磁気特性を兼備することは難しい。
【0004】
ところで、トランス用の軟磁性合金として重要な特性は、鉄損が小さいことと、飽和磁束密度が高いことであるが、従来、一部の用途として使用されているトランス用のFe系のアモルファス合金の飽和磁束密度は1.56Tであるので、飽和磁束密度をさらに高くしたいという要望があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明者らは、上記合金の発展型の合金として非晶質合金相とbcc−Fe相の微結晶粒を主体とする組織を有し、飽和磁束密度が1.5Tを超えるとともに 、透磁率が10000を超える優れた特性のFe系軟磁性合金を提供した。
このFe系軟磁性合金の1つは、次式で示される組成からなることを特徴とする高飽和磁束密度合金であった。
(Fe1-mmnx1y
但し、QはCo、Niのいずれかまたは両方であり、M1はTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wからなる群から選ばれた1種または2種以上の元素 であり、且つ、Zr,Hfのいずれか、又は両方を含み、m≦0.05、n≦93原子%、x=5.0〜8原子 %、 y=4〜9原子%である。
また、Fe系軟磁性合金の他の1つは、次式で示される組成からなることを特徴とする高飽和磁束密度合金であった。
Fekx1y
但し、 k≦93原子%、x=5.0〜8原子%、y=4〜9原子%である。
【0006】
また、これらのFe系軟磁性合金の製造方法としては、合金溶湯を高速に回転する冷却体に吹付けることにより急冷して得られた非晶質合金薄帯に熱処理を施して、急冷時には非晶質相から構成されていた合金薄帯にbcc−Fe相の微細結晶粒を生成させることが行われており、これに優れた軟磁気特性を示す軟磁性合金を得ていた。
【0007】
ところが、近年、磁気ヘッドの場合、磁気記録媒体の高記録密度化が進められるのに伴う磁気記録媒体の高保磁力化に対応するため、より好適な高性能磁気ヘッド用の磁性材料が望まれており、またトランス、チョークコイルの場合は、電子機器の小型化に伴い、より一層の小型化が必要であるため、より高性能の磁性材料が望まれているが、これらの要望に対応するには上記Fe系軟磁性合金よりも高透磁率で、低保磁力の軟磁性合金が要望されている。
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、高透磁率で、かつ低保磁力であり、軟磁気特性をより一層向上させた微細結晶組織を有する軟磁性合金製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金の製造方法は、36.1以上37.7m/s以下のロール周速度で回転駆動する単ロールの冷却面に向けて、溶湯ノズルから下記組成式で示される合金溶湯を1190℃以上1200℃以下の射出温度で射出して前記合金溶湯を急冷することにより、非晶質相とFeとBの化合物相あるいは非晶質相とFeとBの化合物相とbcc−Fe相から構成される複相組織からなる合金を形成した後、この合金に熱処理を施して微細なbcc−Fe相の結晶粒を析出させることを特徴とする。
100-b-c-e b Nb c e
但し、TはFe、Co、Niのうち少なくともFeを含む1種以上の元素を表し、Zは希土類元素であり、組成比を示すb、c、eは原子%で2≦b≦18、4≦c≦8、0≦e≦3である。
【0010】
上記希土類元素としては、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちから選択して用いられ、この中でもNd、La、Ceが特に好ましい。また、安価な希土類元素からなるミッシュメタルも好ましい。
【0012】
また、本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金の製造方法は、38m/s以下のロール周速度で回転駆動する単ロールの冷却面に向けて、溶湯ノズルから下記組成式で示される合金溶湯を1200℃以下の射出温度で射出して前記合金溶湯を急冷することにより、非晶質相とFeとBの化合物相あるいは非晶質相とFeとBの化合物相とbcc−Fe相から構成される複相組織からなる合金を形成した後、この合金に熱処理を施して微細なbcc−Fe相の結晶粒を析出させることを特徴とする。
100-a-b-c-d-e-f a b Nb c M’ d e Ga f
但し、TはFe、Co、Niのうち少なくともFeを含む1種以上の元素を表し、MはV、Mn、Mo、Ta、W、Crのうち少なくとも1種以上の元素を表し、XはB、P、Cのうちの少なくともBを含む1種以上の元素を表し、M’はPt、Au、Pd、Ag、Cuのうちの少なくとも1種以上の元素を表し、ZはZr、Ti、Hf、Al、Y及び希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を表し、組成比を示すa、b、c、d、e、fは原子%で、0≦a≦3、2≦b≦18、4≦c≦8、0<d≦3、0≦e≦3、0<f≦3である。
【0014】
また、上記のいずれかの組成式で示される本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金において、上記組成式中、組成比を示すb、cは原子%で8≦b≦13、5≦c≦7であることがより好ましい。また、組成比を示すeは原子%で、0<e≦2であることがより好ましい
【0015】
上記の製造方法によれば、合金溶湯を急冷した後の合金組織が非晶質相以外にFeとBの化合物相あるいはFeとBの化合物相とbcc−Fe相が析出した複相組織とすることができ、このFeとBの化合物がbcc−Feの結晶の核の生成を促進させて、bcc−Feの結晶粒を微細化するために、結晶析出温度が下がるので、熱処理により析出する微細なbcc−Feの結晶粒が多くなる。よって、高透磁率で、かつ低保磁力な優れた軟磁気特性を有する軟磁性合金を製造できる。
こうして得られた軟磁性合金は、1kHzの実効透磁率が33000以上を示すことができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金とその製造方法の実施形態について説明する。
まず、本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金について説明する。
本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金は、合金溶湯を急冷した後の組織が非晶質相とFeとBの化合物相あるいは非晶質相とFeとBの化合物相とbcc−Fe相から構成される複相組織からなる合金に熱処理が施され、微細なbcc−Fe相の結晶粒を析出させてなるものである。
なお、以下に示す組成は、分析値を元にした組成式である。
【0018】
本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金は、下記組成式で示すことができる。
100-a-b-cabNbc
但し、TはFe、Co、Niのうち少なくともFeを含む1種以上の元素を表し、MはV、Mn、Mo、Ta、W、Crのうち少なくとも1種以上の元素を表し、XはB、P、Cのうちの少なくともBを含む1種以上の元素を表し、組成比を示すa、b、cは原子%(at%)で、0≦a≦3、2≦b≦18、4≦c≦8である。
【0019】
また、本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金は、上記のT100-a-b-cabNbcなる組成の合金溶湯に、非晶質形成能を向上させるために、Pt、Au、Pd、Ag、Cuのうちの少なくとも1種以上の元素M’や、Zr、Ti、Hf、Al、Y及び希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素Zを添加した下記組成式で示されるものであってもよい。
100-a-b-c-d-eabNbcM’de
但し、TはFe、Co、Niのうち少なくともFeを含む1種以上の元素を表し、MはV、Mn、Mo、Ta、W、Crのうち少なくとも1種以上の元素を表し、XはB、P、Cのうちの少なくともBを含む1種以上の元素を表し、M’はPt、Au、Pd、Ag、Cuのうちの少なくとも1種以上の元素を表し、ZはZr、Ti、Hf、Al、Y及び希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を表し、組成比を示すa、b、c、d、eは原子%(at%)で、0≦a≦3、2≦b≦18、4≦c≦8、0<d≦3、0≦e≦3である。
【0020】
また、本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金は、上記のT100-a-b-cabNbcなる組成の合金溶湯に、非晶質形成能を向上させるためにZr、Ti、Hf、Al、Y及び希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素Zを添加し、
Feを主成分とするbcc相(体心立方晶の相)の結晶粒径を微細化させるためにGaを添加した下記組成式で示されるものであってもよい。
100-a-b-c-e-fabNbceGaf
但し、TはFe、Co、Niのうち少なくともFeを含む1種以上の元素を表し、MはV、Mn、Mo、Ta、W、Crのうち少なくとも1種以上の元素を表し、XはB、P、Cのうちの少なくともBを含む1種以上の元素を表し、ZはZr、Ti、Hf、Al、Y及び希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を表し、組成比を示すa、b、c、e、fは原子%(at%)で、0≦a≦3、2≦b≦18、4≦c≦8、0≦e≦3、0<f≦3である。
【0021】
また、本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金は、上記のT100-a-b-cabNbcなる組成の合金溶湯に、非晶質形成能を向上させるためにPt、Au、Pd、Ag、Cuのうちの少なくとも1種以上の元素M’や、Zr、Ti、Hf、Al、Y及び希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素Zを添加し、bcc−Fe相の結晶粒径を微細化させるためにGaを添加した下記組成式で示されるものであってもよい。
100-a-b-c-d-e-fabNbcM’deGaf
但し、TはFe、Co、Niのうち少なくともFeを含む1種以上の元素を表し、MはV、Mn、Mo、Ta、W、Crのうち少なくとも1種以上の元素を表し、XはB、P、Cのうちの少なくともBを含む1種以上の元素を表し、M’はPt、Au、Pd、Ag、Cuのうちの少なくとも1種以上の元素を表し、ZはZr、Ti、Hf、Al、Y及び希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素を表し、組成比を示すa、b、c、d、e、fは原子%(at%)で、0≦a≦3、2≦b≦18、4≦c≦8、0<d≦3、0≦e≦3、0<f≦3である。
【0022】
上記のいずれかの組成式で示される本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金において、上記組成式中、組成比を示すa、b、cは原子%で、0.1≦a≦1、8≦b≦13、5≦c≦7であることがより好ましい。
また、上記のT100-a-b-c-d-eabNbcM’de 、又はT100-a-b-c-d-e-fabNbcM’deGaf なる組成式中、組成比を示すdは原子%で、0<d≦0.1であることがより好ましい。
また、上記のT100-a-b-c-d-eabNbcM’de 、又はT100-a-b-c-e-fabNbceGaf 、又はT100-a-b-c-d-e-fabNbcM’deGaf なる組成式中、組成比を示すeは原子%で、0<e≦2であることがより好ましい。
また、上記のT100-a-b-c-e-fabNbceGaf 、又はT100-a-b-c-d-e-fabNbcM’deGaf なる組成式中、組成比を示すfは原子%で、0<f≦1であることがより好ましい。
【0023】
本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金は、平均結晶粒径が100nm以下、好ましくは30nm以下の微細なbcc−Fe相からなる微結晶質相を主体とし、該微結晶質相とその粒界に存在する粒界非晶質相とからなる組織から構成されており、高い飽和磁束密度と優れた透磁率を示すうえ、低保磁力を示す。
それは、合金溶湯を急冷した後の合金組織が非晶質相以外にFeとBの化合物相あるいはFeとBの化合物相とbcc−Fe相が析出した複相組織となっており、このFeとBの化合物がbcc−Feの結晶の核の生成を促進させて、bcc−Feの結晶粒を微細化するために、結晶析出温度が下がるので、熱処理により析出する微細なbcc−Feの結晶粒が多くなり、また、析出したbcc−Feの結晶粒が100nm以下と微細なために、結晶磁気異方性がbcc構造の結晶粒子間の磁気相互作用により平均化され、みかけの結晶磁気異方性が小さくなるためであると考えられる。
【0024】
また、本発明の軟磁性合金は、合金溶湯を急冷することにより非晶質相とFeとBの化合物相あるいは非晶質相とFeとBの化合物相とbcc−Fe相から構成される複相組織からなる合金を形成した後、この合金に熱処理を施して微細なbcc−Fe相の結晶粒を析出させて得られたものであるので、1kHzの実効透磁率が10000以上の値を示すことができる。
【0025】
上記の組成系の本発明の軟磁性合金において、主成分であるFe、Co、Niは、磁性を担う元素であり、高い飽和磁束密度と優れた軟磁気特性を得るために重要である。
上記T100-a-b-cabNbcなる組成の合金においては、磁性を担う元素Tの添加量(組成比)を示す100−a−b−cの値は、71原子%以上94原子%以下であり、また、上記元素M’や元素Zを含む場合、磁性を担う元素Tの添加量(組成比)を示す100−a−b−c−d−eの値は65原子%以上94原子%より小さく、また、上記元素Zや元素Gaを含む場合、磁性を担う元素Tの添加量(組成比)を示す100−a−b−c−e−fの値は65原子%以上94原子%より小さく、また、上記元素M’や元素Zや元素Gaを含む場合、磁性を担う元素Tの添加量(組成比)を示す100−a−b−c−d−e−fの値は62原子%以上94原子%より小さい。
上記の磁性を担う元素Tの添加量が94原子%を超えると合金溶湯を単ロール法等の液体急冷法によって急冷したときに、急冷後の合金の組織が良好な非晶質相を有することが困難になり、この結果、熱処理してから得られる軟磁性合金の組織が不均一になって高い透磁率が得られないので好ましくない。
【0026】
また、飽和磁束密度(Bs)が1.5T以上を得るためには、上記元素Tの添加量は75原子%以上とすることが好ましいので、この磁性を担う元素Tの添加量(組成比)を75原子%以上94原子%とした。
【0027】
また、Feの一部は、磁歪等の調整のためにCo,Niのうち1種または2種以上の元素で置換してもよく、この場合、好ましくはFeの25%以下とするのがよい。この範囲外であると透磁率が劣化する。
上記組成式中の元素Tとしては、少なくともFeを選択するのが、低コストとできる点、飽和磁束密度を高くできる点で好ましい。
【0028】
上記組成式中の元素XのうちのBには、軟磁性合金の非晶質形成能を高める効果、結晶組織の粗大化を防ぐ効果、および熱処理工程において磁気特性に悪影響を及ぼす化合物相の生成を抑制する効果があると考えられる。
また、上記元素XのうちのPやCは、Nbや上記元素ZのうちZr、Ti、Hfとの親和力、特に、Zrとの親和力が強いため、Feを主成分とするbcc相(体心立方の相)に固溶せず、非晶質相に残留し、Bと同様の役目をし、飽和磁束密度の減少を少なくでき、なおかつ、比抵抗を上げることができ、透磁率等の軟磁気特性の向上が可能である。PやCは安価であり、これらP及び/又はCの添加することにより、BやNbや元素Zの添加量を少なくしても、飽和磁束密度や磁歪を劣化させることなく、透磁率等の軟磁気特性を上げることができるので、コストを低く抑えることができる。
元素XとしてBを必須として含むようにすると、軟磁気特性を向上できる点で好ましい。
【0029】
元素Xの添加量を示すbが、2原子%未満では、粒界の非晶質相が不安定となるため、十分な添加効果が得られない。また、bが18原子%を越えると、熱処理後においてB−Nb系、B−M(Zr、Ti、Hf)系およびFe−B系において、ホウ化物の生成傾向が強くなり、微細結晶組織を得るための熱処理条件が制約され、良好な軟磁気特性が得られなくなる。このように元素Xの添加量を適切にすることで、析出する微細結晶相の平均結晶粒径を100nm以下、好ましくは30nm以下に調整することができる。従って、上記元素Xの添加量を示すbは、2原子%以上18原子%以下とされる。
また、元素Xの添加量を示すbは、8原子%以上13原子以下とすることが好ましい。元素Xの添加量を示すbが13原子%を越えると、飽和磁束密度が低下するために好ましくない。また、bが8原子%未満では、急冷後の合金において比較的粗大な結晶相が存在するようになり、この合金を熱処理後に微細組織が得られにくいために好ましくない。
【0030】
上記組成式中のNbは、α-Feに対してほとんど固溶しないとされるが 、合金溶湯を急冷して合金の組織が非晶質相を有するようにすることで、Nbを過飽和に固溶させ、この後に施す熱処理によりNbの固溶量を調節して一部結晶化し、微細結晶相として析出させることで、得られる軟磁性合金の軟磁気特性を向上させる作用がある。また、微細結晶相を析出させ、その微細結晶相の結晶粒の粗大化を抑制するには、結晶粒成長の障害となり得る非晶質相を粒界に残存させることが必要であると考えられる。
さらに、この粒界非晶質相は、熱処理温度の上昇によってα−Feから排出されるNbを固溶することで軟磁気特性を劣化させるFe−Nb系化合物の生成を抑制すると考えられる。
よって、Fe−Nb系の合金に元素XとしてBを添加することが好ましい。
また、本発明の軟磁性合金では、材料を酸化させることなく、非晶質相を得やすくするためには、酸化しにくく、かつ非晶質形成能の特に高いNbを含むようにすることが好ましい。Nbは、比較的遅い拡散種であり、Nbの添加は、微細結晶核の成長速度を小さくする効果、非晶質形成能を持つと考えられ、組織の微細化に有効である。また、Nbは、酸化物の生成自由エネルギーの絶対値が小さく、熱的に安定であり、酸化物を生成しにくいため、合金溶湯を急冷する際に材料の酸化を防止するものとして有効である。
【0031】
Nbの添加量を示すcが4原子%未満では、核成長速度を小さくする効果が小さくなり、結晶粒径が粗大化して軟磁性が低下する。
Nbの添加量を示すcが8原子%を越えると、Nb−B系またはFe−Nb系の化合物の生成傾向が大きくなり、特性が低下してしまう。従って、Nbの添加量としては、4原子%以上8原子%以下とすることが好ましい。
また、Nbの添加量を示すcは、5原子%以上7原子%以下とすることが、得られる微細結晶組織を有する軟磁性合金の磁気的特性を最も好ましい範囲にすることができる点で好ましい。
【0032】
また、本発明の軟磁性合金には、微細結晶核の成長速度を小さくする効果と、非晶質形成能を有し、かつ酸化しにくい元素Mとして、V、Mn、Mo、Ta、W、Crのいずれか1種または2種以上が添加されていてもよい。こららの中でも特にMoは、酸化物の生成自由エネルギーの絶対値が小さく、熱的に安定であり、酸化物を生成しにくい。
元素Mの添加量を示すaは、0原子%以上3原子%以下、好ましくは0原子%以上1原子%以下とされる。元素Mの添加量を示すaが3原子%を越えると、合金溶湯を急冷直後の合金の組織が有する非晶質相が均一とすることができす、得られる軟磁性合金の軟磁性が低くなってしまう。
また、元素Mの添加量を示すaは、0.1原子%以上1原子%以下とすることが、合金溶湯を急冷直後の合金の組織が有する非晶質相が均一になり易い点でより好ましい。
【0033】
また、本発明の軟磁性合金には、非晶質形成能を向上させるために元素Zとして、Zr、Ti、Hf、Al、Y及び希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素が添加されていてもよい。ここでの希土類元素としては、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)のうちから選択して用いられる。
上記元素ZのうちZr、Hfは非晶質形成能が特に高く、Zr、Hfの一部はTiと置換することができる。上記元素ZのうちのZr、Hfは、α-Feに対して ほとんど固溶しないとされるが 、合金溶湯を急冷して合金の組織が非晶質相を有するようにすることで、Zrと Hfを過飽和に固溶させ、この後に施す熱処理によりこれら元素の固溶量を調節して一部結晶化し、微細結晶相として析出させることで、得られる軟磁性合金の軟磁気特性を向上させる作用がある。
また、微細結晶相を析出させ、その微細結晶相の結晶粒の粗大化を抑制するには、結晶粒成長の障害となり得る非晶質相を粒界に残存させることが必要であると考えられる。さらに、この粒界非晶質相は、熱処理温度の上昇によってα−Feから排出されるZr、Hf等の元素Mを固溶することで軟磁気特性を劣化させるFe−Z系化合物の生成を抑制すると考えられる。
また、Zr、Hfのうち、Hfは非常に高価な元素であるため、原料コストを考慮すると、Zrを含むことがより好ましい。こうした元素Zは、比較的遅い拡散種であり、元素Zの添加は、微細結晶核の成長速度を小さくする効果、非晶質形成能を持つと考えられ、組織の微細化に有効である。
【0034】
上記元素ZのうちAlは半金属元素として知られており、Feを主成分とする体心立方晶の相(bcc−Fe相)に固溶する。また、Alには、軟磁性合金の電気抵抗を上昇させ、鉄損を低下させる効果があるが、Alはその効果が特に大きい。
上記元素ZのうちY、希土類元素(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、
Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)は非晶質形成能を有する元素であり、また、選択する元素の種類は添加量を調整することにより、軟磁性合金中の非晶質相の体積分率をコントロールできる。それは、Yや上記希土類元素は、Feを主成分とするbcc相(体心立方の相)に固溶せず、非晶質相に残留し、また、用いる元素を変更することにより、磁歪を制御して、磁気特性を向上させることができる。
【0035】
元素Zの添加量を示すeが3原子%を越えると、これらの元素は酸化しやすいために、上記合金溶湯を急冷するときに材料が酸化し易く、急冷後の合金の組織が有する非晶質相を均一に形成するのが困難となってしまう。
また、元素ZとしてY、希土類元素のうち少なくとも1種以上の元素が添加される場合、元素Zの添加量を示すeは、2原子%以下とすることが、少量の添加で実効透磁率を向上でき、しかも保磁力を低くして、軟磁気特性を向上でき、高価な上記元素M、NbまたはBの添加量を減らすことができる点で好ましい。
また、本発明の軟磁性合金に、特に、元素Zとして希土類元素が添加されている場合には、合金溶湯を急冷した後の合金組織が非晶質相以外にFeとBの化合物相が析出し易く、このFeとBの化合物はbcc−Feの結晶の核の生成を促進させて、bcc−Feの結晶粒を微細化するために、結晶析出温度が下がるので、熱処理により析出する微細なbcc−Feの結晶粒が多くなり、高透磁率で、かつ低保磁力とすることができ、軟磁気特性を向上できる。
【0036】
また、本発明の軟磁性合金には、Cu,Ag,Au,Pd,Ptの1種または2種以上の元素を3原子%以下、好ましくは2原子%以下含有させると、軟磁気特性が改善される。Cu等のように、Feと固溶しない元素を微量添加することにより、組成が揺らぎ、Cuが結晶化の初期段階にクラスターを形成し、相対的にFeリッチな領域が生じ、α−Feの核生成頻度を増加させることができる。また、結晶化温度を示差熱分析法により測定したところ、上記Cu,Ag等の元素の添加は結晶化温度をやや低めるようである。これは、これらの添加により非晶質が不均一となり、その結果、非晶質の安定性が低下したことに起因すると考えられる。不均一な非晶質相が結晶化する場合、部分的に結晶化しやすい領域が多数でき不均一核生成するため、得られる組成が微細結晶粒組織となると考えられる。以上の観点からこれらの元素以外の元素でも結晶化温度を低下させる元素には、同様の効果が期待できる。
【0037】
また、本発明の軟磁性合金には、Gaを3原子%以下、好ましくは1原子%以下含有することが好ましい。Gaは半金属元素として知られるものであるが、このGaはFeを主成分とするbcc相(体心立方晶の相)に固溶する。Gaの含有量が3原子%を超えると磁歪が大きくなるか、飽和磁束密度が低下するか、透磁率が低下するので好ましくない。
Gaは、軟磁性合金の電気抵抗を上昇させ、鉄損を低下させる効果がある。またGaは結晶粒径を微細化させる効果がある。従ってGaは添加した効果が特に大きい。
【0038】
尚、上記の元素以外に必要に応じてZn、Si、Cd、In、Sn、Pb、As、Sb、Bi、Se、Te、Li、Be、Mg、Ca、Sr、Ba等の元素を添加することで軟磁性合金の磁歪を調整することもできる。
その他、上記組成系の軟磁性合金において、H、N、O、S等の不可避的不 純物については所望の特性が劣化しない程度に含有していても本発明で用いる軟磁性合金の組成と同一とみなすことができるのは勿論である。
【0039】
本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金は、合金溶湯を急冷した後の合金組織が非晶質相以外にFeとBの化合物相あるいはFeとBの化合物相とbcc−Fe相が析出した複相組織とすることができ、このFeとBの化合物がbcc−Feの結晶の核の生成を促進させて、bcc−Feの結晶粒を微細化するために、結晶析出温度が下がるので、熱処理により析出する微細なbcc−Feの結晶粒が多くなり、高透磁率で、かつ低保磁力とすることができ、優れた軟磁気特性を有することができる。
【0040】
上記のような本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金を製造するには、例えば、T100-a-b-c-d-eabNbcM’de 、又はT100-a-b-c-e-fabNbceGaf 、又はT100-a-b-c-d-e-fabNbcM’deGaf系の非晶質合金あるいは非晶質相を含む結晶質合金(ただし、TはFe、Co、Niのうち少なくともFeを含む1種以上の元素を表し、MはV、Mn、Mo、Ta、W、Crのうち少なくとも1種以上の元素を表し、XはB、P、Cのうちの少なくともBを含む1種以上の元素を表し、M’はPt、Au、Pd、Ag、Cuのうちの少なくとも1種以上の元素を表し、ZはZr、Ti、Hf、Al、Y及び希土類元素のうちの少なくとも1種以上の元素)をアーク溶解、高周波誘導溶解等の手段で溶解した合金溶湯を流体冷却法や単ロールを用いた急冷法等により急冷し合金薄帯を作製するが、このとき液体急冷条件を制御することにより合金溶湯を急冷した後の合金組織が非晶質相以外にFeとBの化合物相あるいはFeとBの化合物相とbcc−Fe相が析出した複相組織とする。
【0041】
ついで、上記複相組織からなる合金薄帯を熱処理することにより、非晶質相と、平均粒径100nm以下のbcc−Fe相の結晶粒からなる微細結晶相とが混合した組織が得られ、目的とするFe基軟磁性合金が得られる。
熱処理により平均結晶粒径100nm以下の微細なbcc構造のFeの結晶粒からなる微細結晶組織が析出したのは、急冷状態の合金薄帯が非晶質相とFeとBの化合物相あるいは非晶質相とFeとBの化合物相とbcc−Fe相(体心立方構造の主にFeの結晶粒)から構成される複相組織となっており、FeとBの化合物がbcc−Feの結晶の核の生成を促進させて、bcc−Feの結晶粒を微細化するために、結晶析出温度が下がるので、ある温度以上で微細なbcc−Feの結晶粒が多く析出できる。
【0042】
このbcc−Feからなる微細結晶相が析出する温度は、合金の組成によるが450℃(723K)〜550℃(823K)程度である。またこのbcc−Feの微細結晶相が析出する温度よりも高い温度では、熱処理後においてFe3B、あるいは合金にZrが含まれる場合にはFe3Zr等の軟磁気特性を悪化させる化合物相が析出する。
したがって、本発明において、上記複相組織からなる合金薄帯を熱処理する際の保持温度は500℃(773K)〜700℃(973K)の範囲で、体心立方構造を有するFeの結晶粒を主成分とする微細結晶相が好ましく析出し、かつFe3Zr等の軟磁気特性を悪化させる化合物相が析出しないように、合金の組成に応じて好ましく設定される。
【0043】
上記の熱処理温度まで昇温するときの昇温速度は、10〜180℃/分(10〜180K/分)の範囲が好ましく、40〜180℃/分(40〜180K/分)の範囲とするのがより好ましい。
また、上記複相組織からなる合金薄帯を上記保持温度に保持する時間は、5〜60分間とすることができ、合金の組成によっては0分、すなわち昇温後直ちに降温させて保持時間無しとしても、目的とする効果を得ることができる。また、保持時間は60分より長くしても磁気特性は向上せず、製造時間が長くなり生産性が悪くなるので好ましくない。
【0044】
【実施例】
以下、実施例により更に具体的に説明する。
[実験例1]
(合金薄帯の作製1)
Fe84Nb7-e9Nde なる組成(e=0〜0.4原子%)になるように原料を調整し、それをN2ガス雰囲気中で高周波溶解し、溶けた原料を鋳型に流し込み母合金を得た。
ついで、N2ガス雰囲気において、合金薄帯製造装置の溶湯ノズル内で上記母合金を高周波溶解し、得られた合金溶湯を溶湯吹き出し部先端部分より高速回転している銅ロールの冷却面に射出して急冷する液体急冷法により合金薄帯を作製する際、以下の液体急冷条件1〜2に変更して各種の合金薄帯を得た。これら合金薄帯の組成は、Fe84Nb6.859Nd0.15であった。なお、薄帯中のNd(微量元素)はエネルギー分散型分光法(EDS)にて分析したものである。以降、薄帯の組成中のNd量は、EDSで分析した結果のものである。
【0045】
ここでの液体急冷条件1は、溶湯ノズルの溶湯吹き出し部先端部分のギャップ幅0.2mm、射出温度1190℃(1463K)、射出圧力39200Pa(0.4kgf/cm2)、背圧−53200Pa(−40cmHg)、銅ロール外径20cm、ロール回転数3600rpm、ロール周速度37.7m/sである。
液体急冷条件2は、溶湯ノズルの溶湯吹き出し部先端部分のギャップ幅0.25mm、射出温度1350℃(1623K)、射出圧力83300Pa(0.85kgf/cm2)、背圧−79800Pa(−60cmHg)、銅ロール外径60cm、ロール回転数1400rpm、ロール周速度44.0m/sとしたものである。
次に得られた各種の合金薄帯に、昇温速度180゜C/分(180K/分)、熱処理温度650゜C(923K)、この熱処理温度での保持時間は5分で熱処理を行い、厚さ20μm、幅15mmの各種の合金薄帯を得た。液体急冷条件1で得られたものが実施例1の合金薄帯であり、液体急冷条件2で得られたものが比較例1の合金薄帯である。これら薄帯合金の組成は、ともにFe84Nb6.859Nd0.15であった。
【0046】
(合金薄帯の物性)
図1に、上記の各液体急冷条件で得られた急冷直後のFe84Nb6.859Nd0.15なる組成の合金薄帯(熱処理前の合金薄帯)のX線回折測定の結果を示す。図1から明らかなように液体急冷条件2で製造した比較例1の合金薄帯は、非晶質に特有のハローな回折図形と、体心立方晶のFeを主成分とするbcc相(bcc−Fe)の(110)面のピークと、(200)面のピークが認められることから、非晶質相中にbcc−Fe相が析出したものであることがわかる。
これに対して液体急冷条件1で製造した実施例1の合金薄帯は、非晶質に特有のハローな回折図形と、FeとBの化合物相に独特の回折図形が認められ、また、体心立方晶に独特の回折図形が僅かに認められることから、非晶質相中にFe3Bの結晶あるいはFe3.5Bの結晶が析出し、bcc−Fe相が僅かに析出したものであることがわかる。これらのことから急冷直後の合金薄帯は、組成が同じものであっても、液体急冷条件が異なれば、非晶質相中に析出する結晶が異なることがわかる。
【0047】
(合金薄帯の磁気特性)
次に、実施例1と比較例1の合金薄帯(熱処理後の合金薄帯)の保磁力(Hc)と1kHzにおける実効透磁率(μ)を測定した結果を図1に合わせて示す。図1に示した結果から実施例1の合金薄帯は、比較例1の合金薄帯に比べて実効透磁率が高く、保磁力が低いことがわかる。このことから急冷により非晶質相中にFe3BあるいはFe3.5BのようにFeとBの化合物の結晶が析出した複相組織の合金薄帯を熱処理した実施例1の合金薄帯は、急冷後にFeとBの化合物の結晶が非晶質相中に析出していない合金薄帯を熱処理した比較例1の合金薄帯に比べて軟磁気特性が優れることがわかる。
【0048】
[実験例2]
(合金薄帯の作製2)
Fe84Nb7-e9Ndeなる組成(e=0〜0.4at%)になるように原料を調整し、それをN2ガス雰囲気中で高周波溶解し、溶けた原料を鋳型に流し込み母合金を得た。
ついで、N2ガス雰囲気において、合金薄帯製造装置の溶湯ノズル内で上記母合金を高周波溶解し、得られた合金溶湯を溶湯吹き出し部先端部分より高速回転している銅ロールの冷却面に射出して急冷する液体急冷法により合金薄帯を作製する際、以下の液体急冷条件3〜5に変更して各種の合金薄帯試料を得た。これら合金薄帯試料の組成はFe84Nb6.929Nd0.08 であった。
【0049】
ここでの液体急冷条件3は、溶湯ノズルの溶湯吹き出し部先端部分のギャップ幅0.2mm、射出温度1190℃(1463K)、射出圧力39200Pa(0.4kgf/cm2)、背圧−53200Pa(−40cmHg)、銅ロール外径20cm、ロール回転数3600rpm、ロール周速度37.7m/sとしたものである。
液体急冷条件4は、溶湯ノズルの溶湯吹き出し部先端部分のギャップ幅0.25mm、射出温度1375℃(1468K)、射出圧力83300Pa(0.85kgf/cm2)、背圧−79800Pa(−60cmHg)、銅ロール外径60cm、ロール回転数1400rpm、ロール周速度44.0m/sとしたものである。
液体急冷条件5は、溶湯ノズルの溶湯吹き出し部先端部分のギャップ幅0.25mm、射出温度1350℃(1623K)、射出圧力83300Pa(0.85kgf/cm2)、背圧−79800Pa(−60cmHg)、銅ロール外径60cm、ロール回転数1400rpm、ロール周速度44.0m/sとしたものである。
【0050】
次に得られた各種の合金薄帯に、昇温速度180゜C/分(180K/分)、熱処理温度650゜C(923K)、この熱処理温度での保持時間は5分で熱処理を行い、厚さ20μm、幅15mmの各種の合金薄帯を得た。液体急冷条件3で得られたものが実施例2の合金薄帯であり、液体急冷条件4で得られたものが比較例2の合金薄帯であり、液体急冷条件▲5▼で得られたものが比較例3の合金薄帯である。これら合金薄帯の組成はFe84Nb6.929Nd0.08 であった。
【0051】
(合金薄帯の物性)
図2に、上記の各液体急冷条件で得られた急冷直後のFe84Nb6.929Nd0.08なる組成の合金薄帯(熱処理前の合金薄帯)のX線回折測定の結果を示す。
図2から明らかなように液体急冷条件4、5で製造した比較例2、3の合金薄帯は、非晶質に特有のハローな回折図形と、体心立方晶のFeを主成分とするbcc相(bcc−Fe)の(110)面のピークと、(200)面のピークが認められることから、非晶質相中にbcc−Fe相が析出したものであることがわかる。
これに対して液体急冷条件3で製造した実施例2の合金薄帯は、非晶質に特有のハローな回折図形と、FeとBの化合物相に独特の回折図形が認められ、また、体心立方晶に独特の回折図形が僅かに認められることから、非晶質相中にFe3Bの結晶あるいはFe3.5Bの結晶が析出したものであることがわかる。これらのことから急冷直後の合金薄帯は、組成が同じものであっても、液体急冷条件が異なれば、非晶質相中に析出する結晶が異なることがわかる。
【0052】
(合金薄帯の磁気特性)
次に、実施例2と比較例2、3の合金薄帯(熱処理後の合金薄帯)の保磁力(Hc)と1kHzにおける実効透磁率(μ)を測定した結果を図2に合わせて示す。
図2に示した結果から実施例2の合金薄帯は、比較例2、3の合金薄帯に比べて実効透磁率が高く、保磁力が低いことがわかる。このことから急冷により非晶質相中にFe3BあるいはFe3.5BのようにFeとBの化合物の結晶が析出した複相組織の合金薄帯を熱処理した実施例2の合金薄帯は、急冷後にFeとBの化合物の結晶が非晶質相中に析出していない合金薄帯を熱処理した比較例2、3の合金薄帯に比べて軟磁気特性が優れることがわかる。
また、実施例2の合金薄帯は、Ndの添加量を増加させたことにより、実施例1の合金薄帯より1kHzにおける実効透磁率を高くでき、保磁力を低くできることがわかる。
【0053】
[実験例3]
(合金薄帯の作製3)
Fe84Nb6.90.19(R=Y,La,Ce,Nd,Sm,Gd,Dy)なる組成(投入組成)になるように調製した原料、または、Fe84Nb6.80.29(R=La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd)なる組成になるように調製した原料をN2ガス雰囲気中で高周波溶解し、溶けた原料を鋳型に流し込み母合金を得た。
ついで、N2ガス雰囲気において、合金薄帯製造装置の溶湯ノズル内で上記母合金を高周波溶解し、得られた合金溶湯を溶湯吹き出し部先端部分より高速回転している銅ロールの冷却面に射出して急冷する液体急冷法により合金薄帯を作製する際、下記表1に示す液体急冷条件で作製することにより実施例3〜14の合金薄帯(Fe84Nb6.90.19(R=Y,La,Ce,Nd,Sm,Gd,Dy)なる組成、Fe84Nb6.80.29(R=La,Ce,Pr,Nd,Gd)を得た。これらの合金薄については、EDSにより分析をしておらず、投入組成で記している。なお、ここで各種の合金溶湯を急冷する際は、溶湯ノズルの溶湯吹き出し部先端部分のギャップ幅0.2mm、射出圧力39200Pa(0.4kgf/cm2)、背圧−53200Pa(−40cmHg)とし、銅ロールとしては外径20cmのものを用いた。
【0054】
【表1】
Figure 0003850623
【0055】
【表2】
Figure 0003850623
【0056】
表2中、amor.は非晶質相を示し、bcc(200)はbcc−Fe相の(200)面を示す。
次に得られた各種の合金薄帯に、表2に示す熱処理温度Taまでの昇温速度180゜C/分(180K/分)、上記熱処理温度Taでの保持時間5分で熱処理を行い、厚さ20μm、幅15mmの各種の合金薄帯(実施例3〜14)を得た。
【0057】
また、比較のためにFe84Nb79なる組成になるように調製した原料を用いる以外は、実施例3と同様の液体急冷条件で合金薄帯を得、熱処理温度Taの675℃(948K)までの昇温速度180゜C/分(180K/分)、上記熱処理温度Taでの保持時間5分で熱処理を行い、厚さ20μm、幅15mmの比較例4の合金薄帯(Fe84Nb79なる組成)を得た。
【0058】
(合金薄帯の物性)
図3に、上記の各液体急冷条件で得られた急冷直後のFe84Nb6.90.19(R=Y,La,Ce,Nd,Sm)なる組成の合金薄帯(熱処理前の合金薄帯)、Fe84Nb6.80.29(R=Pr)なる組成の合金薄帯(熱処理前の合金薄帯)と、Fe84Nb79なる組成の合金薄帯(熱処理前)のX線回折測定の結果を示す。
また、表2に、Fe84Nb79なる組成の比較例4の合金薄帯およびFe84Nb79なる組成の合金にNb置換でYまたは希土類元素(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy)を添加した実施例3〜14の合金薄帯の組成と、急冷直後の合金薄帯の構造をX線回折により調べた結果を示す。
【0059】
図3から明らかなようにFe84Nb79なる組成の比較例4の急冷直後の合金薄帯は、非晶質に特有のハローな回折図形と、体心立方晶のFeを主成分とするbcc相(bcc−Fe)の(200)面のピークが認められることから、非晶質相中にbcc−Fe相が析出したものであることがわかる。
これに対してFe84Nb79なる組成の合金にNb置換でYまたは希土類元素(La,Ce,Pr,Nd,Sm)を添加した実施例3、4、6、8、9、10の急冷直後の合金薄帯は、非晶質に特有のハローな回折図形と、FeとBの化合物相に独特の回折図形(47.5°から57.5付近にできたピーク形状が左右非対称)が認められ、非晶質相中にFe3Bの結晶あるいはFe3.5Bの結晶が析出したものであることがわかる。また、実施例10の急冷直後の合金薄帯は、体心立方晶に独特の回折図形が僅かに認められ、非晶質相中にFe3Bの結晶あるいはFe3.5Bの結晶以外にbcc−Fe相も析出していることがわかる。
さらに、表2から明らかなようにFe84Nb79なる組成の比較例4の急冷直後の合金薄帯は、Fe3Bの結晶の析出は認められないが、Fe84Nb79なる組成の合金にNb置換でYまたは希土類元素(La,Ce,Pr,Nd,Sm)を添加した実施例3乃至14の急冷直後の合金薄帯は、いずれもFe3Bの結晶の析出が認められ、非晶質相とFe3Bの結晶の複相組織から構成されていることがわかる。
これらのことからFe−Nb−B系の合金にNb置換でYまたは希土類元素を添加した合金溶湯は、急冷によりFe3Bの結晶が析出し易いことがわかる。
【0060】
(合金薄帯の磁気特性)
次に、実施例3、4、6、8、9、10の熱処理後の合金薄帯と比較例4の熱処理後の合金薄帯の保磁力(Hc)と1kHzにおける実効透磁率(μ)を測定した結果を図3に合わせて示す。
また、実施例3〜14の熱処理後の合金薄帯と、比較例4の熱処理後の合金薄帯の保磁力(Hc)と1kHzにおける実効透磁率(μ)を測定した結果と、B10と残留磁束密度Brを測定した結果を表2に合わせて示す。ここでのB10は、10 Oe(800A/m)の印加磁場中での磁束密度である。
【0061】
図3と表2に示した結果から比較例4の合金薄帯の実効透磁率は、34600であり、保磁力は6.4A/mであることがわかる。これに対して実施例3〜13の合金薄帯は、いずれも実効透磁率が37300以上であり、保磁力は5.04A/m以下であり、比較例4のものに比べて実効透磁率が高く、保磁力が低いことがわかる。また、実施例14の合金薄帯の保磁力は、4.32A/mであり、比較例4のものに比べて保磁力が低いことがわかる。また、実施例3〜14の合金薄帯のB10は、1.53〜1.56の範囲であり、十分大きい飽和磁束密度が得られている。このことからFe−Nb−B系の合金にNb置換でYまたは希土類元素を添加した合金溶湯を用いた実施例3〜14のものは、急冷により非晶質相中にFe3BのようにFeとBの化合物の結晶が析出した複相組織の合金となっており、これを熱処理することにより、軟磁気特性が優れたものが得られることがわかる。
【0062】
[実験例4]
(合金薄帯の作製4)
Fe84Nb7-e9Ndeなる組成(e=0〜0.4at%(原子%))になるように調製した原料をN2ガス雰囲気中で高周波溶解し、溶けた原料を鋳型に流し込み母合金を得た。
ついで、N2ガス雰囲気において、合金薄帯製造装置の溶湯ノズル内で上記母合金を高周波溶解し、得られた合金溶湯を溶湯吹き出し部先端部分より高速回転している銅ロールの冷却面に射出して急冷する液体急冷法により合金薄帯を作製する際、下記の液体急冷条件6〜13で作製することにより各種の合金薄帯を得た。これら合金薄帯の組成は、Fe84Nb7-e9Nde(e=0、0.04、0.08、0.15、0.19原子%)であった。なお、薄帯中のNd(微量元素)はEDSにて分析したものである。
【0063】
液体急冷条件6〜9においては、溶湯ノズルの溶湯吹き出し部先端部分のギャップ幅0.2mm、銅ロール外径20cmとした。また、液体急冷条件6では射出温度1200℃(1473K)、射出圧力39200Pa(0.4kgf/cm2)、背圧−53200Pa(−40cmHg)、ロール回転数3600rpm、ロール周速度38m/sとし、液体急冷条件7では射出温度1200℃(1473K)、射出圧力39200Pa(0.4kgf/cm2)、背圧−53200Pa(−40cmHg)、ロール回転数3600rpm、ロール周速度37.7m/sとし、液体急冷条件8では射出温度1200℃(1473K)、射出圧力39200Pa(0.4kgf/cm2)、背圧−53200Pa(−40cmHg)、ロール回転数3600rpm、ロール周速度37.7m/sとし、液体急冷条件9では射出温度1200℃(1473K)、射出圧力39200Pa(0.4kgf/cm2)、背圧−53200Pa(−40cmHg)、ロール回転数3600rpm、ロール周速度37.7m/sとしたものである。
【0064】
液体急冷条件10〜13においては、溶湯ノズルの溶湯吹き出し部先端部分のギャップ幅0.25mm、銅ロール外径60cmとした。また、液体急冷条件10では射出温度1350℃(1623K)、 射出圧力68600Pa(0.7kgf/cm2)、背圧−79800Pa(−60cmHg)、ロール回転数1200rpm、ロール周速度37.7m/sとし、液体急冷条件11では射出温度1300℃(1573K)、射出圧力83300Pa(0.85kgf/cm2)、背圧−79800Pa(−60cmHg)、ロール回転数1250rpm、ロール周速度39.3m/sとし、液体急冷条件12では射出温度1350℃(1623K)、射出圧力73500Pa(0.75kgf/cm2)、背圧−79800Pa(−60cmHg)、ロール回転数1300rpm、ロール周速度40.8とし、液体急冷条件13では射出温度1350℃(1623K)、射出圧力83300Pa(0.85kgf/cm2)、背圧−79800Pa(−60cmHg)ロール回転数1400rpm、ロール周速度44.0m/sとしたものである。
【0065】
次に得られた各種の合金薄帯に、下記の熱処理温度Taまでの昇温速度180゜C/分(180K/分)、下記の熱処理温度Taでの保持時間5分で熱処理を行い、厚さ20μm、幅15mmの各種の合金薄帯(Fe84Nb7-e9Ndeなる組成(e=0、0.04、0.08、0.15原子%)を得た。ここでの熱処理温度Taとしては、Ndの添加量が0at%のものは、675℃(948K)、Ndの添加量が0.04at%のものは、700℃(973K)、Ndの添加量が0.08at%のものは、700℃(973K)、Ndの添加量が0.15at%のものは、700℃(973K)とした。
【0066】
(合金薄帯の物性)
図4に、液体急冷条件6〜9で得られた急冷直後のFe84Nb7-e9Ndeなる組成(e=0、0.04、0.08、0.15原子%)の合金薄帯(熱処理前の合金薄帯)のX線回折測定の結果を示す。また、図4に合金溶湯を上記急冷条件で急冷したときに結晶が析出したときの結晶化温度Tx1を合わせてしめす。
図5に、液体急冷条件10〜13で得られた急冷直後のFe84Nb7-e9Ndeなる組成(e=0、0.04、0.08、0.15原子%)の合金薄帯(熱処理前の合金薄帯)のX線回折測定の結果を示す。また、図5に合金溶湯を上記急冷条件で急冷したときに結晶が析出したときの結晶化温度Tx1を合わせて示す。
【0067】
図5から明らかなように液体急冷条件10〜13で得られた合金薄帯は、非晶質に特有のハローな回折図形と、体心立方晶のFeを主成分とするbcc相(bcc−Fe)の(110)面のピークと(200)面のピークが認められることから、非晶質相中にbcc−Fe相が析出したものであることがわかる。また、液体急冷条件10〜13で得られた合金薄帯は、Fe84Nb79なる組成の合金にNb置換で添加するNdの添加量を増加させると、bcc−Fe相の(110)面と(200)面のピークが大となっている。また、液体急冷条件10〜13で得られた合金薄帯は、いずれも結晶析出温度Tx1が503℃(776K)と同じ値である。
【0068】
一方、図4から明らかなように液体急冷条件8〜9で得られた合金薄帯は、非晶質に特有のハローな回折図形と、FeとBの化合物相に独特の回折図形(47.5°から57.5付近にできたピーク形状が左右非対称)が認められ、非晶質相中にFe3Bの結晶が析出したものであることがわかる。また、急冷条件8、9の合金薄帯は、体心立方晶に独特の回折図形が僅かに認められ、非晶質相中にFe3Bの結晶以外にbcc−Fe相の(110)面のピークや(200)面のピークも析出していることがわかる。また、液体急冷条件6〜9で得られた合金薄帯は、Fe84Nb79なる組成の合金にNb置換で添加するNdの添加量を増加させると、Fe3Bの結晶の析出を示すのピークが大となっており、また、Ndの添加量の増加に伴って結晶析出温度Tx1が低くなっていることがわかる。これらのことから合金薄帯は、組成が同じものであっても、液体急冷条件が異なれば、非晶質相中に析出する結晶が異なり、また、結晶化温度も異なることがわかる。
【0069】
(合金薄帯の磁気特性)
次に、液体急冷条件6〜9で得られたFe84Nb7-e9Ndeなる組成(e=0、0.04、0.08、0.15原子%)の合金薄帯の熱処理後の保磁力(Hc)と1kHzにおける実効透磁率(μ)を測定した結果を図4に合わせて示す。
また、液体急冷条件10〜13で得られたFe84Nb7-e9Ndeなる組成(e=0、0.04、0.08、0.15原子%)の合金薄帯の熱処理後の保磁力(Hc)と1kHzにおける実効透磁率(μ)を測定した結果を図5に合わせて示す。
【0070】
図4、5に示した結果から液体急冷条件10〜13で得られた合金薄帯に熱処理を施したものは、Ndの添加量が増えると、実効透磁率が低下し、保磁力が高くなっていることがわかる。これに対して急冷条件6〜9で得られた合金薄帯に熱処理を施したものは、Ndの添加量が増えると実効透磁率を高くでき、保磁力を低くでき、急冷条件10〜13で得られた合金薄帯に熱処理を施したものより、軟磁気特性が優れていることがわかる。このように急冷条件8、9の合金薄帯に熱処理を施したものが軟磁気特性が優れるのは、Fe−Nb−B系の合金にNb置換で添加するNdが増加すると、急冷条件によっては非晶質相中にFe3BのようにFeとBの化合物の結晶が析出し、このFeとBの化合物がbcc−Feの結晶の核の生成を促進させて、bcc−Feの結晶粒を微細化するために、結晶析出温度Tx1 が下がり、熱処理により析出する微細なbcc−Feの結晶が多くなり、軟磁気特性を向上できると考えられる。
【0071】
(合金薄帯の磁気特性の熱処理温度依存性)
次に、液体急冷条件6〜9で得られたFe84Nb7-e9Ndeなる組成(e=0、0.04、0.08、0.15、0.19原子%)の合金薄帯に施す熱処理温度を625℃(898K)〜750℃(1023K)の範囲で変更したときの磁気特性を測定した結果を図6に示す。これらの合金薄帯の組成中のNdは、EDS分析値で表している。
また、液体急冷条件10〜13で得られたFe84Nb7-e9Ndeなる組成(e=0、0.04、0.08、0.15原子%)の合金薄帯に施す熱処理温度を625℃(898K)〜700℃(973K)の範囲で変更したときの磁気特性を調べた結果を図7に示す。これらの合金薄帯の組成中のNdは、EDS分析値で表している。
ここでの磁気特性は、保磁力(Hc)、実効透磁率(μ)、B10(10 Oe(800A/m)の印加磁場中での磁束密度)を測定したものである。実効透磁率の測定は、インピーダンスアナライザーを用い、測定条件は5mOe(400mA/m)、1kHzとした。保磁力及びB10は、直流B−Hループトレーサを用いて測定した。
【0072】
図6と図7に示した結果から液体急冷条件10〜13で得られた合金薄帯は、熱処理温度625℃(898K)〜675℃(948K)までは、Ndの添加量がいずれのものも熱処理温度の増加に伴ってB10および1kHzにおける実効透磁率が増加し、保磁力は殆ど変化せず、また、Ndの添加量が0at%以外のもの保磁力は8A/mを超えているが、熱処理温度が675℃(948K)を超えると、Ndの添加量が0.04at%と、0.08at%のものは、B10および実効透磁率が低下し、保磁力が増大している。
【0073】
これに対して液体急冷条件6〜9で得られた合金薄帯は、熱処理温度625℃(898K)〜700℃(973K)までは、Ndの添加量がいずれのものも熱処理温度の増加に伴ってB10および1kHzにおける実効透磁率が増加し、保磁力は減少しており、特に、Ndの添加量が0.08at%と、0.15at%のものは熱処理温度650℃(923K)〜700℃(973K)の保磁力が8A/m以下と小さくなっている。また、液体急冷条件6〜9で得られた合金薄帯は、熱処理温度が700℃(973K)を超えると、B10および実効透磁率が低下し、保磁力が増大している。
また、液体急冷条件8で急冷したNdの添加量が0.08at%のものは、熱処理温度が625℃(898K)においても約20000以上の実効透磁率が得られ、熱処理温度675℃(948K)においては約27500以上の実効透磁率が得られている。液体急冷条件9で急冷したNdの添加量が0.15at%のものは、熱処理温度が625℃(898K)においても30000に近い実効透磁率が得られ、熱処理温度675℃(948K)においては30000を超える実効透磁率が得られている。
これらのことからNdを添加した場合には液体急冷条件によってはFeとBの化合物を析出し、熱処理温度が低い範囲においても透磁率を高くできることがわかる。
【0074】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金は、合金溶湯を急冷した後の組織が非晶質相とFeとBの化合物相あるいは非晶質相とFeとBの化合物相とbcc−Fe相(体心立方構造の主にFeの結晶粒)から構成される複相組織からなる合金に熱処理が施され、微細なbcc−Fe相の結晶粒を析出させてなるものであるので、合金溶湯を急冷した後の合金組織が非晶質相以外にFeとBの化合物相あるいはFeとBの化合物相とbcc−Fe相が析出した複相組織とすることができ、このFeとBの化合物がbcc−Feの結晶の核の生成を促進させて、bcc−Feの結晶粒を微細化するために、結晶析出温度が下がるので、熱処理により析出する微細なbcc−Feの結晶粒が多くなり、高透磁率で、かつ低保磁力とすることができ、軟磁気特性を向上できる。
また、本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金の製造方法は、合金溶湯を急冷することにより非晶質相とFeとBの化合物相あるいは非晶質相とFeとBの化合物相とbcc−Fe相から構成される複相組織からなる合金を形成した後、この合金に熱処理を施して微細なbcc−Fe相の結晶粒を析出させる方法であるので、本発明の微細結晶組織を有する軟磁性合金の製造に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 液体急冷条件1〜2で得られた急冷直後のFe84Nb6.859Nd0.15なる組成(EDS分析値)の合金薄帯のX線回折結果と、これらの合金薄帯の熱処理後の磁気特性を示す図である。
【図2】 各液体急冷条件で得られた急冷直後のFe84Nb6.929Nd0.08なる組成(EDS分析値)の合金薄帯のX線回折測定の結果と、これらの合金薄帯の熱処理後の磁気特性を示す図である。
【図3】 各液体急冷条件で得られた急冷直後のFe84Nb6.90.19(R=Y,La,Ce,Nd,Sm)なる組成(投入組成)の合金薄帯、急冷直後のFe84Nb6.80.29(R=Pr)なる組成(投入組成)の合金薄帯と、急冷直後のFe84Nb79なる組成の合金薄帯のX線回折結果と、こらの合金薄帯の熱処理後の磁気特性を示す図である。
【図4】 液体急冷条件6〜9で得られた急冷直後のFe84Nb7-e9Ndeなる組成(e=0、0.04、0.08、0.15原子%)(EDS分析値)の合金薄帯(熱処理前の合金薄帯)のX線回折測定の結果と、これらの合金薄帯の熱処理後の磁気特性を示す図である。
【図5】 液体急冷条件10〜13で得られた急冷直後のFe84Nb7-e9Ndeなる組成(e=0、0.04、0.08、0.15原子%)(EDS分析値)の合金薄帯(熱処理前の合金薄帯)のX線回折測定の結果と、これらの合金薄帯の熱処理後の磁気特性を示す図である。
【図6】 液体急冷条件6〜9で得られたFe84Nb7-e9Ndeなる組成(e=0、0.04、0.08、0.15、0.19原子%)(EDS分析値)の合金薄帯に施す熱処理温度を625℃(898K)〜750℃(1023K)の範囲で変更したときの磁気特性を示す図である。
【図7】 液体急冷条件10〜13で得られたFe84Nb7-e9Ndeなる組成(e=0、0.04、0.08、0.15原子%)(EDS分析値)の合金薄帯に施す熱処理温度を625℃(898K)〜700℃(973K)の範囲で変更したときの磁気特性を示す図である。

Claims (3)

  1. 36.1以上37.7m/s以下のロール周速度で回転駆動する単ロールの冷却面に向けて、溶湯ノズルから下記組成式で示される合金溶湯を1190℃以上1200℃以下の射出温度で射出して前記合金溶湯を急冷することにより、非晶質相とFeとBの化合物相あるいは非晶質相とFeとBの化合物相とbcc−Fe相から構成される複相組織からなる合金を形成した後、この合金に熱処理を施して微細なbcc−Fe相の結晶粒を析出させることを特徴とする微細結晶組織を有する軟磁性合金の製造方法。
    100-b-c-e b Nb c e
    但し、TはFe、Co、Niのうち少なくともFeを含む1種以上の元素を表し、Zは希土類元素であり、組成比を示すb、c、eは原子%で2≦b≦18、4≦c≦8、0≦e≦3である。
  2. 前記組成式中、組成比を示すb、cは原子%で8≦b≦13、5≦c≦7であることを特徴とする請求項1に記載の微細結晶組織を有する軟磁性合金の製造方法。
  3. 前記組成式中、組成比を示すeは原子%で、0<e≦2であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微細結晶組織を有する軟磁性合金の製造方法。
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