JP3850655B2 - 軟磁性合金及び軟磁性合金薄帯 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、軟磁性合金に関するものであり、特に、柱上トランス、磁気ヘッド、チョークコイル、磁気センサ等の磁心に用いて好適な軟磁性合金及び軟磁性合金薄帯に関する。
【0002 】
【従来の技術】
磁気ヘッド、トランス、チョークコイル等に用いられる軟磁性合金において一般的に要求される諸特性は以下の通りである。
▲1▼飽和磁束密度が高いこと。▲2▼透磁率が高いこと。▲3▼低保磁力であること。▲4▼薄い形状が得やすいこと。また、磁気ヘッドに対し、上記▲1▼〜▲4▼に記載の特性の他に製造プロセス上の制約から以下の特性が要求される。▲5▼耐食性が高いこと。
従って軟磁性合金を製造する場合、これらの観点から種々の合金系において材料研究がなされている。従来、上述の用途に対しては、Fe-Al-Si合金、Ni-Fe合金、けい素鋼等の結晶質合金が用いられ、最近ではFe基およびCo基の非晶質合金も使用されるようになってきている。
【0003 】
ところが、上記のFe-Al-Si合金は、軟磁気特性には優れるものの、飽和磁束密度が約1.1T(テスラ)と低い欠点があり、Ni-Fe合金も同様に、軟磁気特性に優れる合金組成においては、飽和磁束密度が約0.8Tと低い欠点があり、けい素鋼は飽和磁束密度は高いものの透磁率等の軟磁気特性に劣る欠点がある。
一方、非晶質合金において、Co基非晶質合金は軟磁気特性に優れるものの飽和磁束密度が1.0T程度と不十分である。また、Fe基非晶質合金は飽和磁束密度が高く、1.5Tあるいはそれ以上のものが得られるが、透磁率等の軟磁気特性が不十分である。
上述のごとく高飽和磁束密度と優れた軟磁気特性を兼備することは難しい。
【0004 】
ところで、トランス用の軟磁性合金として重要な特性は、鉄損が小さいこと、飽和磁束密度が高いことであるが、従来、一部の用途として使用されているトランス用のFe系のアモルファス合金の鉄損は、周波数50Hz、励磁磁界1.3Tで0.2〜0.3W/kg程度であり、鉄損をさらに低くしたいという要望があった。また、トランスの小型化のために飽和磁束密度を更に高めたいという要望もあった。
【0005 】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明者らは、上記合金の発展型の合金として非晶質合金相とbcc−Fe相の微結晶粒を主体とする組織を有し、飽和磁束密度が1.5Tを超える優れた特性のFe系軟磁性合金を提供した。
このFe系軟磁性合金の1つは、次式で示される組成からなることを特徴とする高飽和磁束密度合金であった。
(Fe1-mQm)nBxMy
但し、QはCo、Niのいずれかまたは両方であり、M1はTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wからなる群から選ばれた1種または2種以上の元素であり、且つ、Zr,Hfのいずれか、又は両方を含み、m≦0.05、n≦93原子%、x=5.0〜8原子%、y=4〜9原子%である。
また、Fe系軟磁性合金の他の1つは、次式で示される組成からなることを特徴とする高飽和磁束密度合金であった。
FekBxMy
但し、k≦93原子%、x=5.0〜8原子%、y=4〜9原子%である。
【0006 】
ところが近年、トランス、チョークコイルの場合、電子機器の小型化に伴い、より一層の小型化が必要であるため、より高性能の磁性材料が望まれており、特に柱上トランスの場合は電力エネルギーの節約のために、より低鉄損な軟磁性合金が望まれている。
また磁気ヘッドの場合、磁気記録媒体の高記録密度化が進められるのに伴う磁気記録媒体の高保磁力化に対応するため、より高性能な磁気ヘッド用磁性材料が望まれている。
これらの要望に対応するには上記Fe系軟磁性合金よりも低鉄損で透磁率が高く、しかも上記Fe系軟磁性合金と同等以上の高飽和磁束密度を有する軟磁性合金が望まれているが、このような軟磁性合金は未だ実用化されていなかった。
【0007 】
また、上記のFe系軟磁性合金は、不活性ガス雰囲気とされたチャンバ内に合金溶湯が満たされたるつぼや冷却ロールを配置して合金薄帯を作製し、この合金薄帯に熱処理を施すことにより製造されるので、作業性の点で課題があった。例えば、従来の単ロール法では、1チャージ毎にチャンバを開放して溶融母材を溶解炉またはるつぼに装填し、再度チャンバを密閉した後に不活性ガス雰囲気に置換するという煩雑な作業が必要であり、量産には不向きであった。
また、チャンバ内を不活性ガス雰囲気に保持するための付帯設備のコストが大きくなり、製造コスト面で問題があった。
【0008 】
次に、上記のFe系軟磁性合金を大気中において溶湯から急冷法により製造する場合、通常は、るつぼの下端部に設けたノズルから回転中の冷却ロールの表面に溶湯を噴出させて溶湯を急冷し、合金薄帯を得るのであるが、この系の合金薄帯を製造する場合、溶湯が通過するノズルのスリットが酸化によって徐々に詰まり易くなり、得られる合金薄帯の厚さが製造開始時よりも製造終了時において薄くなってしまう問題を有していた。例えば、急冷法により数10mの長さの合金薄帯を製造する場合、製造開始時に厚さ20μmであった薄帯が製造終了時に10μm程度の厚さの薄帯になってしまう問題があった。また、ノズルのスリットが狭まった状態で製造された薄い薄帯は、表面の粗さ、状態が製造初期のものとは異なり、場合によっては不良品となり得る可能性も有していた。なお、製造時の不良品としてはこの他に、ノズルからの溶湯供給量が低下して合金薄帯に部分的に孔ができてしまうもの、表面が酸化により変色したもの、薄帯の長さ方向に沿う筋状の凹凸を生じるものなどがある。
【0009 】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、低鉄損及び高透磁率で、高飽和磁束密度を有し、軟磁気特性を向上させたと同時に、急冷法で長尺の薄帯状に製造した場合に製造終了時まで厚さの揃ったものを得ることが可能な軟磁性合金を提供することを目的とする。
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、大気雰囲気中で合金溶湯を急冷して製造することができ、低鉄損及び高透磁率で、かつ高飽和磁束密度を有し、軟磁気特性をより一層向上させたと同時に、急冷法で長尺の薄帯状に製造した場合に製造終了時まで厚さの揃ったものを得ることが可能な軟磁性合金薄帯を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の軟磁性合金は、大気中雰囲気にて合金溶湯をノズルを介し噴出し急冷して得られた非晶質相を主体とする合金に熱処理により100nm以下のbcc相を主相とした微細な結晶粒を析出させてなる軟磁性合金であり、下記の組成式で示されることを特徴とする。 T100−a−b−c−d Nb aBbPcLad
但し、TはFe、Co、Niの中から選択される1種以上の元素であり、
組成比を示すa、b、c、dは、原子%で、4≦a≦10、2≦b≦18、0.1≦c≦5、0.01≦d≦2である。
【0011 】
上記の軟磁性合金は、磁性を担う前記元素Tと、微細結晶核の成長速度を小さくする効果と非晶質形成能を有する前記元素Mと、非晶質形成能を高める作用効果、結晶組織の粗大化を防ぐ効果、及び熱処理工程において磁気特性に悪影響を及ぼす化合物相の生成を抑制する効果がある前記元素Xと、非晶質形成能を高め、結晶組織の粗大化を防ぎ、熱処理工程において化合物相の生成を抑制するととともに合金自体の比抵抗を高めるP(リン)とを必須として含むので、熱処理により析出する微細なbcc−Fe(Feを主成分とするbcc相(体心立方晶の相)の結晶粒が多数析出し、結晶磁気異方性がこれらの微細な結晶粒間の磁気相互作用により平均化されるので、みかけの磁気異方性が小さくなって透磁率を高くできる。
【0012】
上記の軟磁性合金は、Pを0.1〜5原子%の範囲で含むので、合金の比抵抗を高めることができ、渦電流の発生が少なくなって鉄損を低減できる。更に、Pに加えて希土類元素のLaを0.01〜2原子%の範囲で含むので、急冷法により製造する場合にノズルに詰まり難くなり、長尺の軟磁性合金薄帯の製造終了時まで均一な厚さの軟磁性合金薄帯を製造可能となる。また、ノズルに溶湯が残り難くなるので、ノズル詰まり等が起こり難くなり、ノズルの寿命も向上する。
【0015 】
係る軟磁性合金によれば、元素T、元素M、B及びPの組成比を上記の組成範囲に限定することにより、微細なbcc−Fe相(体心立方晶の相)の結晶粒をより多く析出させることができ、透磁率を向上できる。
更に、安価なPをB置換で添加することにより、Bの量が低下しても合金の非晶質形成能が低下せず、また透磁率を向上させることができ、合金のコストダウンを図ることができる。
【0016 】
また、上記の軟磁性合金を製造するための合金溶湯においては、Mで示される複数の元素うち、Zr、Ti、Hfといった非常に酸化しやすい元素の濃度を1原子%以下にすれば、不活性ガス雰囲気のみならず、大気雰囲気中で単ロール法などを用いて急冷しても材料が酸化するおそれが少なく、材料の酸化に起因する溶融噴出用のノズルの目詰まりを防止できる。
更に、Pに加えて規定量の希土類元素REを添加しているので、先の優れた軟磁気特性と低コアロスに加え、製造時に急冷した場合に得られる薄帯の板厚を製造開始時から製造終了時に至るまで均一化することができ、製品歩留まりを向上させることができる。
【0017】
次に、本発明の組成において、Pの含有量が0.1原子%以上、2原子%以下であることが好ましい。
更に、本発明の組成において、希土類元素のLaの含有量が0.1原子%以下の範囲であることが好ましい。
本発明の組成において、Laの含有量が0.01原子%以上、0.2原子%以下であることが好ましい。
本発明の組成において、Laの含有量が0 . 1原子%以下であることが好ましい。
本発明において、Laの含有量が0 . 05原子%以上、0 . 1原子%以下であることが好ましい。
【0018 】
また、本発明の軟磁性合金は、先に記載の軟磁性合金であって、前記元素Mのうち50%以上をNbとすることができる。
元素Mの50%以上をNbとすることにより、非晶質形成能が向上するとともに微細結晶核の成長速度が小さくなり、微細な結晶粒が多数析出して軟磁気特性が向上する。また、Nbは比較的酸化しにくい元素であるので、材料の酸化をより効果的に防止し、合金溶湯を大気雰囲気中で急冷した場合でも溶融ノズルのつまりが起きることがない。
【0019 】
また、本発明の軟磁性合金は、大気雰囲気中にて前記合金溶湯を急冷して前記の非晶質相を主体とする合金を形成し、該合金を熱処理して得られたものであることを特徴とする。
【0020 】
本発明の軟磁性合金薄帯は、先のいずれかに記載の軟磁性合金からなり、前記合金溶湯を回転中の金属ロールの表面に大気雰囲気中で噴出させて急冷することによりリボン状に形成されたものである。
先のいずれかの組成の軟磁性合金であるならば、大気雰囲気中において長尺の軟磁性合金薄帯を製造しても製造開始時と製造終了時において厚さのばらつきを生じていないリボン状の軟磁性合金薄帯を得ることができる。
【0021 】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
本発明の軟磁性合金は、合金溶湯を急冷して得られた非晶質相を主体とする合金に熱処理により100nm以下のbcc相を主相とした微細な結晶粒を析出させてなり、Fe、Co、Niの中から選択される1以上の元素Tと、V、Ti、Mn、Zr、Hf、Ta、Nb、Mo、W、Crの中から選択される1以上の元素Mと、BまたはCの中から選択される少なくとも1種以上の元素Xと、Pと、Yまたは希土類元素とを含み、Pが0.1原子%以上、5原子%以下含有され、Yまたは希土類元素が0.01原子%以上、2原子%以下含有されてなることを特徴とする。
【0022 】
特に、本発明の軟磁性合金は、例えば下記の組成式で示されるものである。
T100-a-b-c-dMaBbPcREd
但し、TはFe、Co、Niの中から選択される1種以上の元素であり、MはV、Ti、Mn、Zr、Hf、Ta、Nb、Mo、W、Crの中から選択される少なくとも1種以上の元素であり、REは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの中から選択される少なくとも1種以上の元素であり、組成比を示すa、b、c、dは、原子%で、4≦a≦10、2≦b≦18、0.1≦c≦5、0.01≦d≦2である。
【0023 】
次に本発明の軟磁性合金は、例えば、下記の組成式で示されるものである。
T100-a-b-c-d-eMaBbPcREdM’e
但し、TはFe、Co、Niの中から選択される1種以上の元素であり、MはV、Ti、Mn、Zr、Hf、Ta、Nb、Mo、W、Crの中から選択される少なくとも1種以上の元素であり、REはY、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの中から選択される少なくとも1種以上の元素であり、M’はPt、Au、Pd、Ag、Cuのうち少なくとも1種以上の元素を表し、組成比を示すa、b、c、d、eは、原子%で、4≦a≦10、2≦b≦18、0.1≦c≦5、0.01≦d≦2、0<e≦1.0である。
【0024 】
本発明の軟磁性合金は、(元素T)-(元素M)-(B:ボロン)からなる合金にP(リン)を添加することにより、合金の比抵抗を高めて渦電流の発生を低減し、これにより鉄損(コアロス)を従来の軟磁性合金よりも大幅に少なくしたものである。
特に、BをPで置換する形で添加することにより、Fe量を減らすことなく合金の軟磁気特性を向上させることができ、高飽和磁束密度と低鉄損の両方を実現することができる。
【0025 】
また、本発明の軟磁性合金は、平均結晶粒径100nm以下、好ましくは30nm以下の微細な体心立方構造(bcc構造)の結晶粒からなる微結晶質相を主体とし、該微結晶質相とその粒界に存在する粒界非晶質相とからなる組織から構成されており、1.5T以上の飽和磁束密度を示すと共に優れた透磁率を示す。それは、析出したbcc構造の結晶粒が100nm以下と微細なために、結晶磁気異方性がbcc構造の結晶粒子間の磁気相互作用により平均化され、みかけの結晶磁気異方性が小さくなるためであると考えられる。
【0026 】
また本発明においては、各構成元素の添加量等を調整することによって軟磁性合金の耐酸化性を高め、これにより不活性雰囲気中のみならず大気雰囲気中でも合金溶湯を急冷して非晶質合金を得ることができ、これを熱処理して本発明に係る軟磁性合金を得ることができる。
【0027 】
本発明に用いられる軟磁性合金の組成において、主成分であるFe、Co、Niは、磁性を担う元素であり、高い飽和磁束密度と優れた軟磁気特性を得るために重要である。
上記組成の軟磁性合金においては、磁性を担う元素Tの添加量(組成比)を示す(100−a−b−c−d)の値は95.9原子%以下である。
上記の磁性を担う元素Tの添加量が95.9原子%を超えると単ロール法等の液体急冷法によって非晶質単相の薄帯を得ることが困難になり、この結果、熱処理してから得られる軟磁性合金の組織が不均一になって高い透磁率が得られなくなるので好ましくない。
また、元素Tの添加量は83原子%以上とすることが好ましい。この磁性を担う元素Tが83原子%未満では、飽和磁束密度を1.5T以上とすることが困難となり、また、軟磁気特性が劣化して透磁率が低下してしまうので好ましくない
。
【0028 】
次に、大気雰囲気中にて容易に液体急冷法によって非晶質単相の長尺の薄帯を得ることができ易く、なおかつ、高い飽和磁束密度を得るためには、元素Tの組成範囲を83原子%以上、87原子%以下とすることが好ましい。
また、Feの一部は、磁歪等の調整のためにCo,Niのうち1種または2種以上の元素で置換してもよく、この場合、CoまたはNiの添加量を好ましくはFeの25%以下とするのがよい。この範囲外であると透磁率が劣化する。
上記組成式中の元素Tとしては、少なくともFeを選択し、より好ましくはFeのみとするのが、低コストとできる点、飽和磁束密度を高くできる点で好ましい。また、Feを主成分とした場合、軟磁性合金の結晶質相をbcc構造のFeの結晶粒からなる微細結晶組織とすることができ、飽和磁束密度を高めるとともに、透磁率を向上できる。
【0029 】
また、本発明の軟磁性合金には、微細結晶核の成長速度を小さくするとともに非晶質形成能を向上することにより組織の微細化を図る元素Mとして、V、Ti、Mn、Zr、Hf、Ta、Nb、Mo、W、Crの中から選択される1以上の元素が添加される。
【0030 】
これらの元素の中でも特にNbは、比較的酸化しずらく、α-Feに対してほとんど固溶しないとされるが、合金を急冷して非晶質化することで、Nbを過飽和に固溶させ、この後に施す熱処理によりNbの固溶量を調節して一部結晶化し、微細結晶相として析出させることで、得られる軟磁性合金の軟磁気特性を向上させる作用がある。
また、微細結晶相を析出させ、その微細結晶相の結晶粒の粗大化を抑制するには、結晶粒成長の障害となり得る非晶質相を粒界に残存させることが必要であると考えられる。さらに、この粒界非晶質相は、熱処理温度の上昇によってα−Feから排出されるNbを固溶することで軟磁気特性を劣化させるFe−Nb系化合物の生成を抑制すると考えられる。よって、Fe−Nb系の合金にBを添加することが好ましい。
【0031 】
また、大気雰囲気中で材料を酸化させることなく、非晶質相を得やすくするためにも、酸化しにくく、かつ、非晶質形成能の特に高いNbを含むことが好ましい。Nbは、比較的遅い拡散種であり、Nbの添加は、微細結晶核の成長速度を小さくするとともに、非晶質形成能を高め、組織の微細化に有効である。またNbは、酸化物の生成自由エネルギーの絶対値が比較的小さく、熱的に安定であり、酸化物を生成しにくいため、大気雰囲気中で合金溶湯を急冷する際に材料の酸化を防止するものとして有効である。
また、Mo及びWは、酸化物の生成自由エネルギーの絶対値が小さく、熱的に安定であり、Mo、Wを添加することによっても酸化物が生成しにくくなる。
よって、Nb、Mo、Wを添加して軟磁性合金を製造する場合には、製造時の雰囲気全体を不活性ガス雰囲気ではなく大気中の雰囲気で、もしくは溶湯を急冷する際に使用するるつぼのノズルの先端部に不活性ガスを供給しつつ大気中で製造できるので、製造条件が容易となり、目的とする軟磁性合金を安価に製造できる。
【0032 】
元素Mの組成比aは、4原子%以上10原子%以下、好ましくは4原子%以上9原子%以下、より好ましくは5原子%以上8原子%以下とされる。元素Mの組成比aが4原子%未満では、核成長速度を小さくする効果が失われ、結晶粒径が粗大化して良好な軟磁性が得られない。また、組成比のaが10原子%を越えると、合金溶湯を急冷した際に、M−B系またはFe−M系の化合物の生成傾向が大きくなり、均一な非晶質相ができにくくなって得られる軟磁性合金の軟磁性が低くなってしまうので好ましくない。
また、元素Mの組成比を6原子%以上7原子%以下とすることが、軟磁性合金の磁気特性を最も好ましい範囲とすることができる点で好ましい。
【0033 】
上記組成式中のB(ボロン)には、軟磁性合金の非晶質形成能を高める効果、結晶組織の粗大化を防ぐ効果、および熱処理工程において磁気特性に悪影響を及ぼす化合物相の生成を抑制する効果があると考えられる。
【0034 】
Bの組成比bは、12原子%以下、好ましくは2原子%以上10原子%以下、より好ましくは3原子%以上10原子%以下とすることがよい。
Bの組成比bが12原子%を越えると、B−Nb系、B−M(Ti、Hf)系およびFe−B系において、ホウ化物の生成傾向が強くなり、微細結晶組織を得るための熱処理条件が制約され、良好な軟磁気特性が得られなくなる。
また、組成比bが2原子%未満では、粒界の非晶質相が不安定となるため、十分な添加効果が得られない。このようにBの添加量を適切にすることで、析出する微細結晶相の平均結晶粒径を100nm以下、好ましくは30nm以下に調整できる。
また、組成比bを10原子%以下とすることにより、軟磁性合金の磁気特性をより向上できる。
【0035 】
P(リン)は、本発明の軟磁性合金の必須元素であり、軟磁性合金の非晶質形成能を高める効果、結晶組織の粗大化を防ぐ効果、および熱処理工程において磁気特性に悪影響を及ぼす化合物相の生成を抑制する効果に加えて、合金自体の比抵抗を高める効果、透磁率等の軟磁気特性を向上させる効果があると考えられる。特に比抵抗を高めることにより、渦電流の発生を少なくして鉄損を低減でき、また、低周波領域においても鉄損の低減ができる。
またPは、元素MのうちNb、Ti、Hfとの親和力が強いため、Feを主成分とするbcc相(体心立方の相)に固溶せず、非晶質相に残留し、飽和磁束密度の減少を少なくでき、なおかつ、比抵抗を上げることができ、透磁率等の軟磁気特性の向上が可能である。Pは安価であり、これのPの添加により、Bや元素Mの添加量を少なくしても、飽和磁束密度や磁歪が劣化させることなく、透磁率等の軟磁気特性を向上できるので、コストを低く抑えることができる。
特に、PをB置換で添加することにより、磁性を担う元素Tの添加量を減らすことがなく、飽和磁束密度を高く維持するとともに透磁率を高くできる。
【0036 】
Pの組成比を示すcは、0.1原子%以上5原子%以下の範囲とすることが好ましく、0.1原子%以上2原子%以下の範囲とすることがより好ましい。
Pの組成比cが0.1原子%未満であると、結晶粒界の非晶質相が不安定となるため、充分な添加効果が得られないので好ましくなく、組成比cが5原子%を越えると、特性的には向上するものの、ノズルから溶湯を吹きにくくなるので好ましくない。また、組成比cを0.5原子%以上にすることにより、透磁率、鉄損、保磁力及び飽和磁束密度等の磁気特性を向上できる。
【0037 】
尚、上記の元素以外に必要に応じてZn、Si、Cd、In、Sn、Pb、As、Sb、Bi、Se、Te、Li、Be、Mg、Ca、Sr、Ba等の元素を添加することで軟磁性合金の磁歪を調整することもできる。
その他、上記組成系の軟磁性合金において、H、N、O、S等の不可避的不純物については所望の特性が劣化しない程度に含有していても本発明で用いる軟磁性合金の組成と同一とみなすことができるのは勿論である。
【0038 】
上記組成の軟磁性合金によれば、PをB置換で0.1原子%以上添加することにより、周波数1KHzにおける透磁率を30000以上とし、保磁力を6.4A/m(0.08Oe)以下とし、印加磁場1.33T、周波数50Hzにおける鉄損を0.2W/kg以下とし、飽和磁束密度を1.5T以上にできる。
更に、元素Tの組成比を83原子%以上とすることにより、飽和磁束密度を1.5T以上にできる。
【0039 】
次に、Yを含めた元素として標記したRE(希土類元素)は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの中から選択される少なくとも1種以上の希土類元素またはYを示すが、これらの希土類元素またはYの中でもLa、Ce、Nd、Dy等が好ましく、Laが最も好ましい。Yまたは希土類元素の好ましい添加量は0.01原子%以上、0.5原子%以下、最も好ましい添加量は0.01原子%以上、0.2原子%以下であるが、この範囲内であるならば、大気雰囲気中において溶湯をノズルから噴出させて長尺の薄帯を製造する場合においてもノズルに溶湯が残りにくくならないので、射出時に溶湯をノズルから吹き出し易くなり、ノズルの寿命も向上する。よって、長尺の薄帯を製造した場合、製造初期の薄帯の厚さと製造終了時の薄帯の厚さのばらつきを抑えることができる。より具体的には、数10mの長尺の薄帯を大気雰囲気中において製造した場合、製造初期には厚さ20μmの薄帯を製造していても、製造続行とともに徐々に薄帯の厚さが減少し、製造終了時においては10μm程度の厚さになってしまうという問題を解消し、製造開始時から製造終了時まで均一な厚さの板厚ばらつきの少ない薄帯を製造することができるようになる効果を奏する。よって大気雰囲気中において薄帯を製造する際の歩留まりの向上、品質の安定化を図ることができる。また、希土類元素の添加量は前記範囲の如く少ないので、磁気特性の劣化を生じさせないか、劣化を小さく抑えた上で上記の効果を得ることができる。
【0040 】
また、この軟磁性合金において前記元素に加えて、Pt、Au、Pd、Ag、Cuのうちの少なくとも1種以上の元素M’を上記の組成比の範囲で添加することにより、組成の揺らぎにより元素M’が結晶化の初期段階にクラスターを形成し、相対的にFeリッチな領域が生じ、bcc−Feの核生成頻度を増加させることができ、また、元素M’の添加により結晶化温度を低下させることができ、熱処理により析出する微細なbcc−Fe(Feを主成分とするbcc相(体心立方晶の相)の結晶粒が多くなり、高透磁率及び高飽和磁束密度にできる。
【0041 】
本発明のFe基軟磁性合金を製造するには、以下の組成式、
T100-a-b-c-dMaBbPcREd (但し、TはFe、Co、Niの中から選択される1種以上の元素であり、MはV、Ti、Mn、Zr、Hf、Ta、Nb、Mo、W、Crの中から選択される少なくとも1種以上の元素であり、REはY、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの中から選択される少なくとも1種以上の希土類元素またはYであり、組成比を示すa、b、c、dは、原子%で、4≦a≦10、2≦b≦18、0.1≦c≦5、0.01≦d≦2である。)にて示される組成の非晶質合金あるいは非晶質相を含む結晶質合金を、アーク溶解、高周波誘導溶解等の手段で溶解してから急冷し、非晶質相を主体とする長尺のリボン状の薄帯を作製する。ここで上記の組成からなる薄帯を作製する具体的方法としては、特開平4−323351号公報に記載されているような液体冷却法や、単ロールを用いた急冷法等を採用できる。
また、前述の組成に代えて、例えば下記の組成式で示される合金の溶湯を用いることもできる。
T100-a-b-c-d-eMaBbPcREdM’e
但し、TはFe、Co、Niの中から選択される1種以上の元素であり、MはV、Ti、Mn、Zr、Hf、Ta、Nb、Mo、W、Crの中から選択される少なくとも1種以上の元素であり、REはY、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの中から選択される少なくとも1種以上の希土類元素又はYであり、M’はPt、Au、Pd、Ag、Cuのうち少なくとも1種以上の元素を表し、組成比を示すa、b、c、d、eは、原子%で、4≦a≦10、2≦b≦18、0.1≦c≦5、0.01≦d≦2、0<e≦1.0である。
【0042 】
上記の単ロール法を採用する場合には、合金溶湯の急冷を不活性ガス雰囲気中で行っても良く、大気雰囲気中で行っても良い。
また、大気雰囲気中で行う場合には、溶湯を急冷する際に、使用するるつぼのノズルの先端部にのみ不活性ガスを供給し、ノズルとその近傍における合金溶湯及び薄帯の酸化を防止しつつ、ノズルから冷却ロール等の冷却面に溶湯を噴出させることにより行っても良い。
【0043 】
ついで、作製した薄帯を熱処理することにより、上記薄帯の非晶質相の中の一部が結晶化し、非晶質相と、平均粒径100nm以下の微細なbcc構造の結晶粒からなる微細結晶相とが混合した組織が得られ、目的とする軟磁性合金が得られる。尚、元素Tの主成分をFeとした場合は、平均粒径100nm以下の微細なbcc構造のFeの結晶粒からなる微細結晶相が主に析出する。
【0044 】
熱処理により平均結晶粒径100nm以下の微細なbcc構造の結晶粒(Feの結晶粒)からなる微細結晶組織が析出したのは、急冷状態の非晶質合金薄帯等が非晶質相を主体とする組織となっており、これを加熱すると、ある温度以上で平均結晶粒径が30nm以下のFeを主成分とする体心立方構造の結晶粒からなる微細結晶相が析出するからである。
このbcc構造を有するFeの結晶粒からなる微細結晶相が析出する温度は、合金の組成によるが753K(480℃)〜973K(700℃)、好ましくは753K(480℃)〜948K(675℃)である。
また、このFeの微細結晶相が析出する温度よりも高い温度では、Fe3B等の軟磁気特性を悪化させる化合物相が析出する。このような化合物相が析出する温度は、合金の組成によるが1013K(740℃)〜1083K(810℃)程度である。ただし、軟磁気特性を悪化させる化合物相の析出は、少量であれば影響が少ないので、一部化合物相の析出があっても差し支えない。
【0045 】
したがって、本発明において、非晶質合金薄帯等を熱処理する際の保持温度は753K(480℃)〜1083K(810℃)の範囲で、体心立方構造を有するFeの結晶粒を主成分とする微細結晶相が好ましく析出しかつ上記化合物相が多く析出しないように、合金の組成に応じて適宜設定される。
【0046 】
上記の熱処理温度まで昇温するときの昇温速度は、20〜200K/分の範囲が好ましく、40〜200K/分の範囲とするのがより好ましい。
昇温速度が遅いと製造時間が長くなるので昇温速度は速い方が好ましいが、加熱装置の性能上、200K/分程度が上限とされる。
【0047 】
また、非晶質合金薄帯等を上記保持温度に保持する時間は、0〜180分間とすることができ、合金の組成によっては0分、すなわち、昇温後直ちに降温させて保持時間無しとしても、目的とする効果を得ることができる。また、保持時間は180分より長くしても磁気特性は向上せず、製造時間が長くなり生産性が悪くなるので好ましくない。
【0048 】
以下に、急冷薄帯を製造する一具体例として、大気雰囲気中でるつぼのノズル先端部のみに不活性ガスを供給しながら合金溶湯を急冷する方法について説明する。
図1は、大気中で急冷薄帯を製造する場合に用いて好適な合金薄帯製造装置の一例を示す概略構成図である。
この例の合金薄帯製造装置は、冷却ロール1と、合金溶湯を保持するるつぼ3の下端部に連接される溶湯ノズル2と、溶湯ノズル2及びるつぼ3の外周に捲回されて配置された加熱コイル4と、不活性ガスを溶湯ノズル2の少なくとも先端部にフローするための第1ガスフロー供給手段である第1〜第3のガスフローノズル51、52、53、及び、溶湯ノズル2の先端部周囲に配置された内向き孔付きの環状管からなるガスフローパイプ54と、冷却ロール1の冷却面1aに向けて不活性ガスをフローする第2ガスフロー供給手段である第5のガスフローノズル55から基本的に構成されている。
【0049 】
冷却ロール1は、図示しないモータにより矢印(反時計)方向へ回転駆動される。冷却ロール1の冷却面1aは、炭素鋼、例えばJISS45CなどのFe基合金、または真鍮(Cu−Zn合金)、あるいは純Cuで構成することが望ましい。冷却ロール1の冷却面1aが真鍮あるいは純Cuであると、熱伝導性が高いことから、冷却効果が高く、溶湯の急冷に適している。冷却効果を向上させるためには、内部に水冷構造を設けることが望ましい。
【0050 】
図1において、るつぼ3内で溶解された合金溶湯は、下端部の溶湯ノズル2から冷却ロール1の冷却面1aに向けて噴出される。るつぼ3の上部は、供給管7を介してArガスなどのガス供給源8に接続されると共に、供給管7には、圧力調整弁9と電磁弁10とが組み込まれ、供給管7において圧力調整弁9と電磁弁10との間には圧力計11が組み込まれている。
また、供給管7には補助管12が並列的に接続され、補助管12には圧力調整弁13、流量調整弁14、流量計15が組み込まれている。したがって、ガス供給源8からるつぼ3内にArガスなどのガスを供給して溶湯ノズル2から溶湯を冷却ロール1に向けて噴出できるようになっている。
【0051 】
図1に示す装置を用いて合金薄帯を製造する時には、大気雰囲気中にて冷却ロール1を高速で回転させつつ、その頂部付近、もしくは、頂部よりやや前方に近接配置した溶湯ノズル2から上記のいずれかの組成の合金溶湯を噴出することにより、冷却ロール1の表面で溶湯を急速冷却して固化させつつ冷却ロール1の回転方向に帯状となして引き出す。溶湯ノズル2の溶湯吹き出し口は矩形状を有するが、吹出し幅(冷却ロール1の回転方向の幅)は、0.1〜0.8mmの範囲程度であることが望ましい。吹出し幅が0.8mmを超えると十分な冷却が困難な場合があるからである。
【0052 】
合金薄帯製造時の冷却ロール1と溶湯ノズル2との間隔は、0.1〜0.8mmの範囲で適宜選択すればよい。0.1mm未満では溶湯の噴出が困難となり、溶湯ノズル2の破損を引き起こすおそれがあるからであり、また、0.8mmを超えると良好な性状の薄帯製造が困難となるからである。
冷却ロール1と溶湯ノズル2との間隔が調整できるように、るつぼ3は、図示しない昇降手段により昇降可能とされている。冷却ロール1は、合金薄帯製造開始後から、温度上昇により表面が熱膨張して径が拡大するため、冷却ロール1と溶湯ノズル2との間隔を製造開始後に徐々に大きくしていくことが板厚精度の高い薄帯を製造するためには望ましい。
【0053 】
また、図1に示すように、冷却ロール1の回転方向前下方には、薄帯誘導板70とスクレイパー72とが備えられている。冷却面1aにおいて溶湯が冷却されて形成された合金薄帯は、スクレイパー72により冷却ロール1から剥離されて薄帯誘導板70側に案内される。従って、スクレイパー72の近傍が、冷却面1aから合金薄帯が剥離する位置となる。
【0054 】
第1ガスフロー供給手段による不活性ガスの供給は、溶湯ノズル2を基準として後方側に設置される第1および第2のガスフローノズル51、52、前方側に設置される第3のガスフローノズル53、溶湯ノズル2の先端側をその周囲から囲むように設置される第4のガスフローノズル54からのガスフローによって供給することが望ましい。
【0055 】
図1において、第1のガスフローノズル51は、溶湯ノズル2を基準として後方側に設置されるガスフロー供給を行うための手段のうちの1つである。この第1のガスフローノズル51は、冷却ロール1の後方のほぼ接線方向から溶湯ノズル2の先端近傍(以下、パドル生成部)にガスをフローするためのものである。そして、第1のガスフローノズル51は、例えば幅5mmの比較的細いスリットを有し、ある程度速い流速でガスをフローする。
第2のガスフローノズル52は、後方側に設置されるガスフロー供給を行うための手段のうちのもう1つである。この第2のガスフローノズル52は、第1のガスフローノズル51からのガスフロー上にガスフローし、第1のガスフローノズル51から供給されたガスフローを大気と遮断して、大気が巻き込まれるのを防止するガスフローを供給するために、溶湯ノズル2と第1のガスフローノズル51との間に設置されている。そして、第2のガスフローノズル52は、第1のガスフローノズル51より広い20mmのスリットを有し、第1のガスフローより遅い流速でガスフローを行う。
また、図1に示すように、第1および第2のガスフローノズル51、52を溶湯ノズル2に近傍に設置しているので、パドル生成部付近に不活性ガスフローが供給されることになり、パドル生成部付近の酸素濃度低減効果を向上させる。
【0056 】
第3のガスフローノズル53は、溶湯ノズル2を基準として前方側に設置されるガスフロー供給を行うための手段のうちの1つである。この第3のガスフローノズル53は、冷却ロール1の回転方向前方からの大気の巻き込みを防止することを目的とするものである。第3のガスフローノズル53の形状は、第2のガスフローノズル52と同様であるが、スリットの幅を2.5mmと狭くしている。
第4のガスフローノズル54は、溶湯ノズル2の先端を囲むように設置されるガスフロー供給を行うための手段である。この第4のガスフローノズル54は、溶湯ノズル2の先端を囲むようにガスをフローするためのものである。そして、第4のガスフローノズル54は、外径6mmのパイプを外径57mm内径45mmの環状に形成してなる環状パイプからなる。第4のガスフローノズル54には、その外周位置と内周位置との中心の位置よりも若干内側の位置に、外径1.5mmの多数の孔が3.5mmのピッチで環状に設けられている。
【0057 】
以上の第1〜第4のガスフローノズル51、52、53、54は、単独で用いることは勿論、複数を組み合わせて使用できる。パドル生成部付近の酸素低減効果は、第1および第2のガスフローノズルが最も大きい。
第1〜第4のガスフローノズル51、52、53、54には、第1のガスフローノズル51について例示するように、圧力調整弁16が接続された接続管17を介してガス供給源18に接続される。
【0058 】
また、第2ガスフロー供給手段による不活性ガスの供給は、図1に示すように、冷却ロール1の冷却面1aに向けてなされるものであって、好ましくは冷却面1aから合金薄帯が剥離する位置1bから溶湯ノズル2の近傍に設けられた第1のガスフローノズル51が設けられている位置までの間で行うことが望ましい。図1において、第2ガスフロー供給手段である第5のガスフローノズル55は、冷却面1aと離間して冷却ロール1のほぼ真下に位置しており、冷却面1aを望むように設けられて、冷却面1aに向けてガスをフローできるようになっている。 第5のガスフローノズル55は、幅2.5mmの比較的細いスリットを有し、ある程度大きな流量でガスをフローする。
【0059 】
第5のガスフローノズルから供給された不活性ガスは、冷却ロール1の回転により冷却面1a上を冷却ロール1の回転方向に沿って流れ、第1のガスフローノズルの近傍に達し、さらに溶湯ノズル2の近傍に流れ込み、パドル生成部付近の酸素濃度を低減することが可能となる。
このように、冷却ロール1のほぼ真下に第5のガスフローノズル55を設置し、更に溶湯ノズル2の周囲に、第1〜第4のガスフローノズル51、52、53、54を設置することにより、パドル生成部付近における酸素濃度の低減を行うことが可能になる。
【0060 】
また、第5のガスフローノズルを設置する位置は、冷却ロール1の真下に限られず、合金薄帯が冷却面1aから剥離する位置1bの近傍から第1のガスフローノズル51が設けられている位置の間にあればよい。
また、第4のガスフローノズル54は、その外周位置と内周位置との中心の位置よりも若干内側の位置に、複数の孔を環状に設けてなるものとすることができるが、外周位置と内周位置との中心の位置に複数の孔を環状に設けてなる第4のガスフローノズルとすることや、上記複数の孔に代えて、環状スリットを設けてなる第4のガスフローノズルとすることもできる。また、渦巻状に形成してなる第4のガスフローノズルとし、溶湯ノズル2の先端を2重に取り囲むようにしてもよい。
【0061 】
図1に示した合金薄帯製造装置を用いて薄帯を製造するにあたっては、冷却ロール1を回転させる前から、第1〜第5のガスフローノズル51〜55により不活性ガスを供給することが望ましい。これは、冷却ロール1回転後に不活性ガスを供給する場合に比べて、冷却ロール1回転前からガスフローを行った方が、酸素濃度の低下が速くなるからである。したがって、溶湯ノズル2近傍雰囲気の酸素濃度を測定し、所定の酸素濃度に達した後に冷却ロール1の回転を行うようにすれば生産効率上望ましい。
【0062 】
上記の製造方法において、第1ガスフロー供給手段による不活性ガスの供給条件としては、流量200〜1800l/min.、より好ましくは1760l/min.の条件下で行えばよい。それは、流量が200l/min未満では、溶湯ノズル2近傍雰囲気の酸素量低減に効果がなく、一方、1800l/minを超えても、ガスフローによる周囲からの大気の巻き込みが原因となり、酸素濃度低減効果が減じてしまい、供給量に見合う効果が望めないからである。
【0063 】
上記の製造方法において、第2ガスフロー供給手段による不活性ガスの供給条件としては、流量250〜750l/min.、より好ましくは500l/min.の条件下で行えばよい。それは、流量が250l/min未満では、やはり溶湯ノズル近傍雰囲気の酸素量低減に効果がなく、一方、750l/minを超えても供給量に見合う効果が望めないからである。
従って、第5のガスフローノズル55からのガスフローである第5のガスフローは、流量250〜750l/minとすることが望ましい。
第5のガスフローのより望ましい範囲は、流量400〜600l/min、最も好ましくは500l/minである。
【0064 】
上記の軟磁性合金の製造方法に用いる不活性ガスとしては、N2、He、Ar、Kr、Xe、Rnから選ばれる少なくとも2種類の不活性ガスを使用することができ、N2とArであることが望ましい。
また不活性ガスは、第1のガスフローには、Arを使用することが望ましい。
【0065 】
なお、各ガスフローノズル51、52、53、54、55は、組成により必要に応じてガスフローを行えば、足りるものであり、ガスフローなしでも本発明における軟磁性合金の薄帯は、十分に製造できる。このようにした場合は、さらなる工数とコストの削減が可能となる。
また、図1に示すように、ノズル取り付け板62は、溶湯ノズル2の位置を基準にして、冷却ロール1の回転方向の前方から後方に向けて延在するように設けられている。このノズル取り付け板62には、ノズル取り付け孔621が設けられている。溶湯ノズル2は、このノズル取り付け孔621を貫通して、溶湯ノズル2の溶湯吹き出し部先端部分21が冷却ロール1の冷却面1aを望むように配置される。
るつぼ3は、筒3aに収納されている。この筒3aは、ノズル取り付け孔621を塞いで大気の流入を防止している。
更に、ノズル取り付け板62には、第3のガスフローノズル53が貫通するための孔622が設けられている。第3のガスフローノズル53は、この孔622を貫通してノズルの先端が冷却ロール1の冷却面を望むように配置される。この第3のガスフローノズル53により、不活性ガスフローをロール回転方向前方からパドル生成部付近に向けて供給する。
【0066 】
ノズル取り付け板62が、冷却ロール1の冷却面1aに接近するように設けられるので、パドル生成部付近の空間が狭くなる。このような狭い空間に向けて、第1〜4のガスフローノズル51、52、53、54によって、常に多量の不活性ガスが供給されるので、パドル生成部付近における不活性ガスの濃度が非常に高くなり、逆に酸素濃度は著しく低減される。
図1に示すように、ノズル取り付け板62は、冷却ロール1の回転方向前方から上記冷却面に向けて平坦に延びているが、これに限られず、冷却ロール1の回転方向前方から冷却面1aに向けて湾曲しつつ延びるノズル取り付け板であっても良い。
【0067 】
図1に示した合金薄帯製造装置を用いて本発明の軟磁性合金を製造するには、この合金薄帯製造装置を室温程度の大気雰囲気中に設置し、溶湯ノズル(溶湯射出用ノズル)2の少なくとも溶湯吹き出し部先端部分21に第1〜第4のガスフローノズル51〜54からそれぞれ不活性ガスをフローするとともに冷却ロール1の冷却面1aに向けて第5のガスフローノズル55から不活性ガスをフローしつつ、上記のいずれかで示される組成式を示す合金溶湯を溶湯ノズル2から冷却ロール1の冷却面1aに射出して急冷し、非晶質を主体とする合金薄帯を得る。ついで、作製した合金薄帯を熱処理することにより、上記合金薄帯の非晶質相の中の一部が結晶化し、非晶質相と、平均粒径100nm以下の微細なbcc構造の結晶粒(主にFeの結晶粒)からなる微細結晶相とが混合した組織が得られ、目的とする軟磁性合金が得られる。
【0068 】
図1に示す装置によって本発明組成の軟磁性合金薄帯を製造するのであるが、基本的に大気雰囲気中において製造する限り、先の複数のガスフローノズルから不活性ガスを供給するとしても、溶湯ノズル2の先端側から溶湯が冷却ロール1の表面側に噴出されて凝固するまでの間に微量の酸素と接触することとなる。
ここで本発明合金の組成系であるならば、Co、Niで一部置換したFeと、元素MとBを含む組成系の合金に対し規定量のPと希土類元素を含むので、溶湯ノズル2から溶湯を冷却ロール1の表面に連続的に噴出させて長尺の軟磁性合金薄帯を製造する場合、噴出開始時から噴出終了時まで板厚ムラの無い均一な厚さの軟磁性合金薄帯を製造することができる。
【0069 】
【実施例】
[実験例1]
(試料の製造)
FeとNbとBとPとLaの添加量を変更した原料を調整し、それらをArガス雰囲気中で高周波溶解し、溶けた原料を鋳型に流し込み母合金を得た。
室温で、1.01325×105Paの大気雰囲気中において、図1に示す合金薄帯製造装置の溶湯ノズル2(石英製)内で上記母合金を高周波溶解した合金溶湯を溶湯吹き出し部先端部分21より高速回転している銅ロール1の冷却面1aに吹き出させて急冷する液体急冷法を用いて、各種の合金薄帯を得た。なお、第1〜第4のガスフローノズル51、52、53、54は、本実験例において作動させず、ガスフローなしで合金薄帯の作製を行った。
次に、得られた各種の合金薄帯の製造開示時の先端部と製造終了時の終端部の薄帯を切り出し、昇温速度180K/分に設定し、熱処理温度を923K(650℃)、948K(675℃)、973K(700℃)のいずれかを選択し、これらの熱処理温度での保持時間を各試料とも5分とする熱処理を行い、厚さ約22〜24μm前後、幅15mmの各合金薄帯試料を得た。
【0070 】
(試料の説明)
試料1、2は、組成同一(Fe83.95Nb6.5B9La0.05P0.5)の試料であるが、射出時の圧力を変更したものであり、試料3、4は組成同一(Fe83.9Nb6.5B9La0.1P0.5)の試料であり、試料5、6は組成同一(Fe83.95Nb6.5B8 。 5La0.05P1)の試料であり、試料7、8は組成同一(Fe83.9Nb6.5B8 。 5La0.1P1)の試料であり、試料9、10は組成同一(Fe83.8Nb6.5B9La0.2P0 。 5)の試料である。これらの試料はいずれも、本発明においてより好ましい組成範囲内の合金薄帯である。
【0071 】
(測定)
得られた各種の合金薄帯試料(試料1〜試料10)の1kHzにおける実効透磁率(μ’)、保磁力(Hc)、飽和磁束密度(Bs)及び周波数50Hz、励起磁場1.33Tでの鉄損(W1.33/50)について測定した。その結果を表1に示す。
尚、実効透磁率の測定は、インピーダンスアナライザーを用い、測定条件は5mOe(400mA/m)、1kHzとした。保磁力及び飽和磁束密度は、直流B−Hループトレーサを用いて測定した。鉄損は、周波数50Hz、励磁磁界1.33Tの条件で測定した。表1の良品重量とは、300gの溶湯を急冷処理して得られた軟磁性合金薄帯のうち、良品の重量を示す。軟磁性合金薄帯の良品と不良品の区別は、得られた合金薄帯を目視観察し、薄帯に孔のあいていないもの、表面が酸化による変色を来していないもの、薄帯の長さ方向に沿う筋状の凹凸がないものを良品とし、不良品としては、孔空き部を有する部分、表面が変色した部分、薄帯の長さ方向に筋状の凹凸を有するものとした。
【0072 】
「表1」
【0073 】
「表2」
【0074 】
表1と表2に記載の測定結果から明らかなように、本発明組成範囲のものは、製造初期段階の試料であっても、製造終了時の段階の試料であっても、いずれも板厚が均一であることが判明した。また、板厚の変化率は0.02〜2.6%の範囲内であって、極めて小さく、製造初期段階と製造終了段階のいずれであっても板厚の均一な軟磁性合金薄帯を製造できることが明らかである。
次に、先に記載の軟磁性合金薄帯の磁束密度(B10)はどの試料でも1.49T以上を示している。
次に透磁率については、650℃、675℃で熱処理した試料にあっては23056〜46058の高い値を得ることができた。
また、試料1,3,5,6,7,8の中に透磁率が40000を越える試料が含まれており、極めて高い透磁率を得られることがわかる。
また、上記以外の試料についても、透磁率において30000以上を示すものが多く得られており、いずれの試料も優れた軟磁気特性を示すことがわかる。
【0075 】
次に保磁力については、650℃と675℃で熱処理したいずれの試料であっても8A/m(0.1 Oe)以下を示し、軟磁気特性が優れていることがわかる。 次に、鉄損については、0.1W/kgを下回る試料が多く、極めて低い鉄損を示すことが明らかである。
【0076 】
次にBsについては、650℃〜675℃にて熱処理したいずれの試料であっても、1.57〜1.61Tと非常に高い値を示していることがわかる。
【0077 】
[実験例2]
(試料の製造)
実験例1と同様にして原料を調整し、それをArガス雰囲気中にて高周波溶解し、溶けた原料を鋳型に流し込み母合金を得た。
そして、この母合金を実験例1と同様にして、図1に示す合金薄帯製造装置を用いた液体急冷法により、各種の合金薄帯を得た。なお、実験例1と同様に、第1〜第4のガスフローノズル51、52、53、54は作動させず、ガスフローなしで合金薄帯の作製を行った。
次に得られた各種の合金薄帯に、実験例1と同等の熱処理を施し、各試料を得るとともに、得られた各試料についても先の実験例1と同様に磁気特性を測定した。その結果を以下の表3と表4に示す。
【0078 】
「表3」
【0079 】
「表4」
【0080 】
表3と表4に示す結果から、FeNbB系にPのみを添加した組成系の試料においては、650℃又は675℃にて熱処理することで透磁率と飽和磁束密度の両面で高い特性を得ることはできるが、製造初期の合金薄帯の先端部と終端部の板厚変化率が大きく、コアロス、良品重量もばらつきが大きいことが判明した。
【0081 】
次に、FeMB系の合金にPを添加して製造した母合金の溶湯とPを含まない母合金の溶湯から急冷法によりFeMBP系の合金薄帯を複数製造し、P添加量の変化に伴う磁気特性の変化を測定した例について説明する。
(試料の製造)
FeとNbとBとPの添加量を変更した原料を調整し、それをArガス雰囲気中で高周波溶解し、溶けた原料を鋳型に流し込み母合金を得た。
室温で、1.01325×105Paの大気雰囲気中において、図1に示す合金薄帯製造装置を用いて、各種の合金薄帯を得た。なお、第1〜第4のガスフローノズル51、52、53、54は、本実験例において作動させず、ガスフローなしで合金薄帯の作製を行った。
次に得られた各種の合金薄帯に、昇温速度180K/分、熱処理温度923K(650℃)〜973K(675℃)、この熱処理温度での保持時間を5分として熱処理を行い、厚さ20μm、幅15mmの試料21〜試料37の合金薄帯試料を得た。
【0082 】
(試料の説明)
試料21、24、27、30、35はPと希土類元素が無添加であるので、本発明における必須元素としてのPと希土類元素を具備しない合金薄帯である。
また、これらの試料25、26は、BとPの合計(b+c)が10.5原子%である合金薄帯である。
尚、上記以外の試料はいずれも、本発明においてより好ましい組成範囲内の合金薄帯である。
【0083 】
(測定)
得られた各種の合金薄帯試料(試料21〜試料37)の1kHzにおける実効透磁率(μ’)、保磁力(Hc)、飽和磁束密度(Bs)及び周波数50Hz、励起磁場1.33Tでの鉄損(W1.33/50)について測定した。その結果を表5に示す。
尚、実効透磁率の測定は、インピーダンスアナライザーを用い、測定条件は5mOe(400mA/m)、1kHzとした。保磁力及び飽和磁束密度は、直流B−Hループトレーサを用いて測定した。鉄損は、周波数50Hz、励磁磁界1.33Tの条件で測定した。
【0084 】
【表5】
【0085 】
表5から明らかなように、飽和磁束密度はどの試料でも1.55T以上を示している。特に、試料36及び37は、1.6T以上の高い飽和磁束密度を示した。試料36、37はFeを84.5原子%含むために飽和磁束密度が向上したものと考えられる。
次に透磁率については、試料29、31、33、34、36、37の透磁率が40000を越えており、従来にはない極めて高い透磁率を示している。
また、上記以外の試料についても、透磁率が30000以上を示しており、優れた軟磁気特性を示すことがわかる。
【0086 】
次に保磁力については、どの試料でも8A/m(0.1 Oe)以下を示し、軟磁気特性が優れていることがわかる。
そして、鉄損については、試料24〜27で0.1W/kgを越えている。試料24及び27はPが無添加であり、鉄損が高くなったものと考えられる。
上記以外の試料については、多くのものが鉄損において0.1W/kg以下を示しており、従来にはない極めて低い鉄損を示すことがわかる。
【0087 】
更に表5に示す結果から見て、FeNbB系の合金組成に対しPを規定量添加するならば、磁気特性を向上させることができ、鉄損を減少させることができる効果を得られることがわかった。
これらの表5に示す組成に対し本願発明ではPに加えて希土類元素を添加するが、希土類元素を規定量添加しても磁気特性が劣化しないことは先の表1、表2に示した通りであるので、本願発明では、FeNbB系の合金組成に対しPを規定量添加して向上させた特性(表5参照:高い飽和磁束密度と高い透磁率と低い保磁力に加えて低鉄損であること。)を劣化させることなく希土類元素添加により板厚の均一化という効果を更に得ることができることが明らかになった。
【0088 】
次に先の表5に示す組成系に代えて、Nbの一部をZrにて置換したFeNbBなる組成系に対し、Pを添加した組成系の磁気特性試験結果を表6に示す。
【0089 】
【表6】
【0090 】
表6に示す結果からみれば、先の表5に示したFeNbB系合金の場合と同様にFeZrNbB系の合金組成に対しPを規定量添加するならば、磁気特性を向上させることができ、鉄損を減少させることができることがわかった。
これらの表6に示す組成に対し本願発明ではPに加えて希土類元素を添加するが、希土類元素を規定量添加しても磁気特性が劣化しないことは先の表1、表2に示した通りであるので、本願発明では、FeZrNbB系の合金組成に対しPを規定量添加して向上させた特性(表6参照:高い飽和磁束密度と高い透磁率と低い保磁力に加えて低鉄損であること。)を劣化させることなく希土類元素添加により板厚の均一化という効果を更に得ることができることが明らかになった。
【0091 】
図2はFe84.45Nb6.5B8.5P0.5La0.05の組成を有する軟磁性合金薄帯試料の675℃の熱処理後のX線回折試験結果(40KV、200mAのCoKα線を用いた縦型ゴニオメータの分析結果)を示す。この例の試料は52.3°付近に回折曲線を有し、微細なbcc相を析出しており、化合物相を析出していないことが判明した。
図3はFe83.95Nb6.5B7.5P2La0.05の組成を有する軟磁性合金薄帯試料の675℃の熱処理後のX線回折試験結果(40KV、200mAのCoKα線を用いた縦型ゴニオメータの分析結果)を示す。この例の試料は52.3°付近に回折曲線を有し、化合物相を析出していないbcc相のほぼ単相であることが判明した。
図4はFe83.95Nb6.5B8.5P1La0.05の組成を有する軟磁性合金薄帯試料の675℃の熱処理後のX線回折試験結果(40KV、200mAのCoKα線を用いた縦型ゴニオメータの分析結果)を示す。この例の試料は52.3゜付近の回折曲線のみではなく、回折角2θ=51.5°付近に第2のピークを有し、一部化合物相(Fe3B等)を析出した状態で残りの大部分がbcc相であることが判明した。
【0092 】
図5はFe83.95Nb6.5B7.5P2La0.05の組成を有する軟磁性合金薄帯試料の675℃の熱処理後のX線回折試験結果(40KV、200mAのCoKα線を用いた縦型ゴニオメータの分析結果)を示す。この例の試料は52.3゜付近の回折曲線のみではなく、回折角2θ=51.5°を多少越えた領域付近に第2のピークを有し、一部化合物相(Fe3B等)を析出した状態で残りの大部分がbcc相であることが判明した。
図4と図5に示すようにbcc相のほぼ単相構造ではなく、一部化合物相(Fe3B等)が析出した状態の組織を有する合金薄帯であっても、微結晶を析出させた非晶質軟磁性合金薄帯は、優れた磁気特性を発揮し、板厚均一性を有するので、組織としては非晶質単相ではなくとも良いことが判明した。
【0093 】
図6はFe84-XNb6.5B9P0.5LaXの組成の合金薄帯試料において、希土類元素として選択したLaの含有量を0、0.05、0.1、0.2重量%のいずれかとして製造した各合金薄帯試料の保磁力(Hc)と透磁率μ’(1KHz)と残留磁束密度(Br)とB10のそれぞれの値と熱処理温度依存性を示す。
図6に示す結果から、先の組成の合金薄帯試料においては熱処理温度を650℃〜675℃の範囲とすることで高いB10と高い透磁率μ’(30000〜45000)と低い保磁力(1.6〜2.4 A/m[=0.02〜0.03 Oe])を得ることができる。また、700℃で熱処理した試料においてLaを含有するものはB10の値が低下しない上に透磁率μ’の値の低下も少ないが、Laを含有していない試料は大幅にB10の値が低下している。以上のことから、FeNbBP系にLaを添加することで熱処理温度の選択域を広げることができることが判明した。
【0094 】
図7はFe84-XNb6.5B9P0.5LaXなる組成の合金薄帯試料において、希土類元素としてLaを選択し、675℃で熱処理した場合の磁束密度(B10)、残留磁束密度(Br)、1kHzにおける実効透磁率(μ’)、保磁力(Hc)及び周波数50Hz、励磁磁界1.33Tにおける鉄損(W1.33/50)の各々の組成比La(図7ではxで示す)の依存性について測定した結果を示す。ここでの磁束密度、実効透磁率及び保磁力は実験例1と同様の方法により測定した。また、残留磁束密度及び鉄損は、保磁力の場合と同様に直流B−Hループトレーサにより測定した。なお、鉄損は、周波数50Hz、励磁磁界1.33Tの測定条件にて行っている。
図7から明らかなように、Laを0.2原子%まで添加しても磁束密度の低下は少なく、透磁率μ’は若干の低下が見られるものの、低下したと目される0.2原子%においても35000の高い値を示し、保磁力の上昇も少なく、コアロスの値も上昇してはいるものの0.11と低いレベルに抑えられている。従ってFeをLaで置換する形でLaを添加しても磁気特性には影響が少ないことが分かる。
【0095 】
図8はFe84-XNb6.5B8.5P1.0LaXの組成の合金薄帯試料において、希土類元素として選択したLaの含有量を0、0.05、0.1、0.2重量%のいずれかとして製造した各合金薄帯試料の保磁力(Hc)と透磁率μ’(1KHz)と残留磁束密度(Br)とB10のそれぞれの値と熱処理温度依存性を示す。
図8に示す結果から、先の組成の合金薄帯試料においては熱処理温度を650℃〜675℃の範囲とすることで高いB10と高い透磁率μ’(40000前後)と低い保磁力(1.6〜2.4 A/m[=0.02〜0.03 Oe])を得ることができる。また、700℃で熱処理した試料においてLaを含有するものはB10の値が低下しない上に透磁率μ’の値の低下も少ないが、Laを含有していない試料は大幅にB10の値が低下している。このことから、FeNbBP系にLaを添加することで熱処理温度の選択域を広げることができることが判明した。
【0096】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の軟磁性合金は、大気中雰囲気にて合金溶湯をノズルを介し噴出し急冷して得られた非晶質相を主体とする合金に、熱処理により100nm以下のbcc相を主相とした微細な結晶粒を析出させてなる軟磁性合金であり、T100−a−b−c−d Nb aBbPcLadの組成式で示されることを特徴とする。
但し、TはFe、Co、Niの中から選択される1種以上の元素であり、組成比を示すa、b、c、dは、原子%で、4≦a≦10、2≦b≦18、0.1≦c≦5、0.01≦d≦2である。
これにより、微細なbcc−Fe(Feを主成分とするbcc相(体心立方晶の相)の結晶粒が多数析出して結晶磁気異方性がこれらの微細な結晶粒間の磁気相互作用により平均化されるので、みかけの磁気異方性が小さくなって透磁率を高くした軟磁性合金を提供できる。
【0097】
また、Pを0.1〜5原子%の範囲で含むので、軟磁性合金の非晶質形成能を高め、結晶組織の粗大化を防ぎ、熱処理工程において磁気特性に悪影響を及ぼす化合物相の生成を抑制することができるので、透磁率等、軟磁気特性を向上させることができる。また、合金の比抵抗を高めることができ、渦電流の発生が少なくなって鉄損を低減できる。
更に、Pの添加に加えてLaを0.01原子%以上、2原子%以下含むことで、先の優れた磁気特性を備え、鉄損を低減した上で急冷法により合金薄帯として得た場合に板厚ばらつきの生じない高品質のものを得易くできるという効果も奏する。これは、ノズルから軟磁性合金溶湯を噴出させて急冷する場合、ノズルの目詰まりを防止することができることに起因すると考えらえる。
微細なbcc−Fe(Feを主成分とするbcc相(体心立方晶の相)の結晶粒が多数析出して結晶磁気異方性がこれらの微細な結晶粒間の磁気相互作用により平均化されるので、みかけの磁気異方性が小さくなって透磁率を高くした軟磁性合金を提供できる。
本発明によれば、Laの含有量を0.1原子%以下とすることで、優れた透磁率を示す軟磁気特性の優れた軟磁性合金を得ることができる。
また、本発明によれば、Laの含有量を0.05原子%以上、0.1原子%以下とすることで、優れた透磁率を示す軟磁気特性の優れた軟磁性合金を確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態である軟磁性合金を製造に好適に用いられる合金薄帯製造装置の例を示す概略構成図である。
【図2】 軟磁性合金の実効透磁率(μ’)、保磁力(Hc)、印加磁界10A/mにおける磁束密度(B10)、残留磁化(Br)及び鉄損(W1.33/50)のPの組成依存性を示すグラフである。
【図3】 図3はFe83.95Nb6.5B7.5P2La0.05の組成を有する軟磁性合金薄帯試料のX線回折試験結果を示す図である。
【図4】 図4はFe83.95Nb6.5B8.5P1La0.05の組成を有する軟磁性合金薄帯試料のX線回折試験結果を示す図である。
【図5】 図5はFe83.95Nb6.5B7.5P2La0.05の組成を有する軟磁性合金薄帯試料のX線回折試験結果を示す図である。
【図6】 図6はFe84-XNb6.5B9P0.5LaXの組成の合金薄帯試料において、希土類元素として選択したLaの含有量を0、0.05、0.1、0.2重量%のいずれかとして製造した各合金薄帯試料の保磁力(Hc)と透磁率μ’(1KHz)と残留磁束密度(Br)とB10のそれぞれの値と熱処理温度依存性を示す図である。
【図7】 図7はFe84-XNb6.5B9P0.5LaXなる組成の合金薄帯試料において、675℃で熱処理した場合の磁束密度(B10)、残留磁束密度(Br)、1kHzにおける実効透磁率(μ’)、保磁力(Hc)及び周波数50Hz、励磁磁界1.33Tにおける鉄損(W1.33/50)の各々の組成比Laの依存性について測定した結果を示す図である。
【図8】 図8はFe84-XNb6.5B8.5P1.0LaXの組成の合金薄帯試料において、Laの含有量を0、0.05、0.1、0.2重量%のいずれかとして製造した各合金薄帯試料の保磁力(Hc)と透磁率μ’(1KHz)と残留磁束密度(Br)とB10のそれぞれの値と熱処理温度依存性を示す図である。
【符号の説明】
1…冷却ロール
2…溶湯ノズル
3…るつぼ
21…溶湯吹き出し部先端部分
51…第1のガスフローノズル
52…第2のガスフローノズル
53…第3のガスフローノズル
54…第4のガスフローノズル
Claims (6)
- 大気中雰囲気にて合金溶湯をノズルを介し噴出し急冷して得られた非晶質相を主体とする合金に熱処理により100nm以下のbcc相を主相とした微細な結晶粒を析出させてなる軟磁性合金であり、下記の組成式で示されることを特徴とする軟磁性合金。
T100−a−b−c−d Nb aBbPcLad
但し、TはFe、Co、Niの中から選択される1種以上の元素であり、
組成比を示すa、b、c、dは、原子%で、4≦a≦10、2≦b≦18、0.1≦c≦5、0.01≦d≦2である。 - Pの含有量が0.1原子%以上、2原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性合金。
- Laの含有量が0.01原子%以上、0.2原子%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の軟磁性合金。
- Laの含有量が0.1原子%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の軟磁性合金。
- Laの含有量が0.05原子%以上、0.1原子%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の軟磁性合金。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の軟磁性合金からなり、前記合金溶湯を回転中の金属ロールの表面にノズルを介し噴出させて急冷することによりリボン状に形成されたものであることを特徴とする軟磁性合金薄帯。
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