JP3848744B2 - 孔版印刷機及び印刷方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、版胴を備える孔版印刷機及び印刷方法に関わり、特に、版胴内のインクを版胴に巻回してある孔版原紙になじませる機構に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の孔版印刷機は特公平5-76433号公報に記載されている。同公報に記載の孔版印刷機においては、インク供給ローラが版胴の内面に常接され、印刷前に、その接触圧を印刷時の圧力よりも一時的に増大させ、給紙を行わずに版胴を回転させることで、版胴の孔内に含むインキの通りを良くさせることが開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の従来の孔版印刷機においては、版胴の孔内に含むインキの通りを良くさせる際、インク供給ローラを版胴の内周面に強く押し付けているため、インクが版胴の外周面に山盛り状態まで過剰に出たり、内周面においても、インク供給ローラの端部にインクが片寄りすぎたりして、印刷濃度が濃くなりすぎたり、これらのインクが孔版原紙の隅から漏れたり、又、版胴が膨張収縮する変形で、着版されている孔版原紙にしわが発生したりしてしまう不具合が生じる場合があった。
【0004】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、印刷前の孔版原紙のインク濃度を適切に設定可能な孔版印刷機及び印刷方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る孔版印刷機は、孔版原紙が巻かれる外周面及びインクが供給される内周面を有する可撓性の版胴を所定の軸回りに回転させるとともに、版胴の外周面に受けローラの外周面が所定の間隙だけ離隔して配置され、印刷時には、この間隙内に用紙搬送装置によって被印刷体を搬送すると共に、版胴の内側に配置されたスキージ部材を第1圧力で内周面に押し当てて孔版原紙を被印刷体に接触させることで印刷を行う孔版印刷機において、印刷の前に、被印刷体が用紙搬送装置によって版胴と受けローラとの間に搬送されないようにし、スキージ部材と版胴の内周面との間に、0以上0.5mm以下の距離を設けて、版胴を所定の軸回りに回転させつつ、スキージ部材によって、第1圧力よりも小さい第2圧力が内周面に加えられるようにスキージ部材を制御する制御手段を備え、第2圧力はスキージ部材をこの第2圧力で版胴に当てた場合に版胴が変形しない程度の圧力であることを特徴とする
【0006】
本孔版印刷機によれば、印刷の前にスキージ部材が第1圧力よりも小さい第2圧力で内周面に当たるように制御されるため、スキージ部材によって版胴に摺り込まれるインキ量を適切にすることができる。
【0007】
版胴に摺り込まれるインキ量をさらに好適にするためには、第2圧力がスキージ部材をこの第2圧力で版胴に当てた場合に版胴が変形しない程度の圧力であることが好ましい。
【0008】
上述のようにスキージ部材を制御可能な孔版印刷機は、可撓性の版胴と、版胴の内周面に離接可能なスキージ部材と、スキージ部材の内周面に対する位置を少なくとも3段階に決めれるように版胴内に配置されたカムとを備える。カムはスキージ部材の位置を3段階に決めることができる。
【0009】
なお、上述の機能を達成するためには、非印刷時にはスキージ部材を版胴の内周面から最も離隔させる位置に、印刷前のインキ摺り込み量調整時にはスキージ部材が版胴の内周面に僅かに接触する位置に、印刷時にはスキージ部材が版胴の内周面に強く接触する位置に、カムがスキージ部材の位置を決めればよい。
【0010】
また、本発明に係る印刷方法は、印刷時に、孔版原紙が巻かれる可撓性の版胴の外周面に受けローラの外周面が所定の間隙だけ離隔して配置され、この間隙内に用紙搬送装置によって被印刷体を搬送すると共に、版胴を所定の軸回りに回転させつつ、版胴に第1圧力をかけて孔版原紙を被印刷体に接触させて印刷を行う工程と、印刷の前に、被印刷体が用紙搬送装置によって版胴と受けローラとの間に搬送されないようにし、スキージ部材と版胴の内周面との間に、0以上0.5mm以下の距離を設けて、版胴を前記所定の軸回りに回転させつつ、版胴に第1圧力よりも小さい第2圧力をかける工程とを備え、第2圧力はスキージ部材をこの第2圧力で版胴に当てた場合に版胴が変形しない程度の圧力であることを特徴とする。
【0011】
本方法によれば、印刷の前に印刷時の第1圧力よりも小さい第2圧力を版胴にかけて版胴を回転させるため、版胴に摺り込まれるインキ量を適切化することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、実施の形態に係る孔版印刷機及び印刷方法について説明する。同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いるものとし、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は本発明の実施形態に係る孔版印刷機のシステム構成図である。本印刷機は、孔版原紙が巻かれる外周面及びインクが供給される内周面を有する可撓性の版胴10を有する。円筒形の版胴10はその軸回りに回転することができる。本印刷機は、版胴10内に配置されたスキージ部材24及びスキージ部材24を支持する支持部材28を有する。スキージ部材24は版胴10の内周面に対して離接可能であって、支持部材28を移動させることによって同図中の矢印Zの方向に移動することができる。
【0014】
また、本印刷機は版胴10内に配置されたカム64を有する。カム64とスキージ部材24とは支持部材28を介して機械的に接続されている。支持部材28の一部分はカム64の外周面に当接して支持されることができる。カム64は版胴10の軸に平行な軸回りに回転することができる。カム64の外周面とカム64の回転軸との間の距離は回転位置に応じて段階的に3つ値をとることができる。したがって、カム64を回転させるとカム64の回転に連動して、この外周面で一部分が支えられた支持部材28が移動し、スキージ部材24が矢印Z方向に沿って段階的に離接移動する。詳説すれば、カム64の外周面とカム64の回転軸との間の距離は回転位置に応じて段階的に3つ値をとることができるため、カム64はスキージ部材24と版胴10の内周面との間の最短距離Xを3段階に決めることができる。なお、距離Xは、無負荷状態(スキージ部材24が当接していない状態)の版胴10の内周面からスキージ部材24に向かう方向を正とし、これを逆向きの方向を負とする。
【0015】
カム64の回転位置が第1位置(以下、印刷位置とする)のときの最短距離Xは0よりも僅かに小さく、カム64が支持部材28を支えていない状態である。したがって、スキージ部材24はその自重及び/又はスキージ部材24に対して版胴10の内側から外側に働く外力によって距離Xの負方向に第1圧力で付勢される。
【0016】
カム64の回転位置が第2位置(以下、非印刷位置とする)のときの最短距離Xは1mm以上であって、カム64が支持部材28を支えている状態であり、したがって、版胴10の内周面は無負荷状態にある。
【0017】
カム64の回転位置が第3位置(以下、印刷準備位置とする)のときの最短距離Xは0以上0.5mm以下であって、カム64が支持部材28を支えているものの、スキージ部材24又はスキージ部材24と版胴10の内周面との間に介在するインク層の当接による第2圧力が、版胴10の内周面に加えられる。第2圧力は第1圧力よりも小さく、また、スキージ部材24をこの第2圧力で版胴10に当てた場合に版胴10が変形しない程度の圧力である。
【0018】
上述の3段階カム64はカム駆動用モータ72によって回転させられる。また、版胴10は版胴回転用モータ101によって回転させられる。版胴10の外周面には受けローラ22の外周面が所定の間隙Yだけ離隔して配置されている。この間隙Y内には用紙搬送装置102によって印刷用紙(被印刷体)26が搬送される。これらのカム駆動用モータ72、版胴回転用モータ101及び用紙搬送装置102は制御装置100によって制御される。
【0019】
制御装置100は、印刷時にカム駆動用モータ72を駆動してカム64を印刷位置まで回転させるとともに、版胴回転用モータ101を駆動して版胴10を回転させ、さらに、用紙搬送装置102を駆動して印刷用紙26を版胴20と受けローラ22との間に搬送するように、モータ72,101及び搬送装置102を制御する。したがって、版胴10の内周面には第1圧力がかかり、版胴10の外周面の孔版原紙が印刷用紙26に接触する。
【0020】
制御装置100は、非印刷時にカム駆動用モータ72を駆動してカム64を非印刷位置まで回転させるとともに、版胴回転用モータ101を停止させて版胴10を静止させ、さらに、用紙搬送装置102を停止させて印刷用紙26が版胴10と受けローラ22との間に搬送されないように、モータ72,101及び搬送装置102を制御する。
【0021】
制御装置100は、印刷時の前の印刷準備時にカム駆動用モータ72を駆動してカム64を印刷準備位置まで回転させるとともに、版胴回転用モータ101を駆動して版胴10を回転させ、さらに、用紙搬送装置102を停止させて印刷用紙26が版胴10と受けローラ22との間に搬送されないように、モータ72,101及び搬送装置102を制御する。したがって、版胴10の内周面には第2圧力がかかり、版胴10の外周面の孔版原紙をしわにすることなく、版胴10内面に供給されるインクを版胴10内に十分に浸透させ、かつ、版胴に過剰なインクを浸透させないようにすることができる。
【0022】
なお、第1圧力は版胴10のニップ巾変形量に換算して10mm±2mm、第2の圧力は0〜5mmであることが好ましい。
【0023】
以上、説明したように本孔版印刷装置は、孔版原紙が巻かれる外周面及びインクが供給される内周面を有する可撓性の版胴10を所定の軸回りに回転させるとともに、印刷時には版胴10の内側に配置されたスキージ部材24を第1圧力で内周面に押し当てて孔版原紙を被印刷体26に接触させる孔版印刷機において、印刷の前にスキージ部材24によって第1圧力よりも小さい第2圧力が内周面に加えられるようにスキージ部材24を制御する制御手段64,10,100を備える。本装置には種々の構成が考えられる。好適には上述のように、可撓性の版胴10と、版胴10の内周面に離接可能なスキージ部材24と、スキージ部材24の内周面に対する位置を少なくとも3段階に決めれるように版胴10内に配置されたカム64とを備える。例えば、偏心カムによってスキージローラの版胴への接触圧を制御する特公平5−76433号公報記載の孔版印刷機において、偏心カムを上述の3段階カムに換えることによっても、このような装置を実現できる。
【0024】
また、上述の印刷方法は、印刷時に孔版原紙が巻かれる可撓性の版胴10を所定の軸回りに回転させつつ、版胴10に第1圧力をかけて孔版原紙を被印刷体26に接触させる工程と、印刷の前に版胴10を所定の軸回りに回転させつつ、版胴10に第1圧力よりも小さい第2圧力をかける工程とを備える。
【0025】
以下、上記孔版印刷機の好適な機械構成について更に説明する。
【0026】
図2は、版胴10の長手方向に沿って本孔版印刷機を切った断面図である。なお、この孔版印刷機の主要構成以外は簡単のため省略する。本印刷機は、外部フレーム12に固定支持された固定版胴軸14と、版胴軸14を回転の中心とするように固定版胴軸14にボールベアリング105を介して回転可能に取付けられた回転板104と、回転板104に巻きつけられた版胴10とを備える。版胴10内には、固定版胴軸14に固定された内部フレーム30が配置されている。版胴10は、固定版胴軸14及び内外フレーム30,12に対して相対的に回転することができる。
【0027】
また、本印刷機は、内部フレーム30に回転可能に取付けられた外周円筒状のドクタローラ34と、ドクタローラ34の回転軸32を部材中程の支点として揺動する概略L字形のレバー部材(支持部材)28とを備えている。レバー部材28の支点から所定距離の位置にはインク供給ローラ(スキージ部材)24が回転可能に取付けられている。ドクタローラ34とインク供給ローラ24とは隣接し、且つ、共に版胴回転軸14に沿って延びている。このドクタローラ34とインク供給ローラ24との境界上方には複数の孔が側壁に穿設されたインク供給パイプ36が版胴回転軸14に沿って延びており、インク供給パイプ36から滴下されたインクは、この境界に供給される。
【0028】
図3は、図2に示した孔版印刷機を版胴長手方向に垂直に切った断面図(図中II-II矢印断面図)である。なお、同図は印刷時の印刷機断面を示す。円筒状の版胴10は、円筒状の版胴周壁16及び版胴周壁16の外周面に巻きつけられた孔版原紙18を有する。版胴周壁16は内部に供給されるインクを外部に向けて透過させて孔版原紙18に供給するための複数のインク孔16aを有する。なお、孔版原紙18の円周方向に沿った端部は、版胴10に設けられたクランプ20によって版胴周壁16に固定されている。
【0029】
インク供給ローラ24は、回転軸32を中心として揺動可能な概略L字形のレバー部材28の所定位置に設けられている。レバー部材28の回転軸32に対してインク供給ローラ24と反対側のレバー部材28の一端部に、版胴10の外側から内側に向かう力を加えると、回転軸32を中心としてレバー部材28の該所定位置がインク供給ローラ24とともに版胴10の内側から外側へ移動する。なお、本印刷機においては、インク供給ローラ24と反対側のレバー部材28の一端部にバネ40の張力を加える。このように、版胴10内に配置されたインク供給ローラ24が版胴10の内側から外側に移動することによって、インク供給ローラ24は受けローラ22とともに版胴10を挟持することができる。
【0030】
バネ40は、レバー部材28の上記一端とアーム46の一端46aとの間に設けられている。版胴回転軸14に垂直な断面内において断面コの字形のアーム46は、バネ40の張設方向に穿設されたスリット46bを有している。ベース板44に回動可能に配置された調整ナット54に螺合するネジ56は、スリット46bの伸延方向に対して平行に延びており、このネジ56の両端がアーム46の両端部にそれぞれ固定されている。ベース板44は、図2に示した内部フレーム30に固定されており、スリット46b内にはベース板44に設けられたT字形突起44aが位置している。したがって、アーム46の移動は、内部フレーム30に対して固定されたT字形突起44aによってスリット46bの伸延方向に規制され、バネ40の張設方向にのみ移動する。
【0031】
調整ナット54を回転させることにより、ネジ56及びこれに固定されたアーム46がバネ40の張設方向に沿って移動すると、バネ40を介してレバー部材28の上記一端に加わる張力が調整される。なお、調整ナット54は歯車50,48に噛合しており、したがって、歯車48を回転させるモータ52を駆動することにより、上記張力を調整することができる。
【0032】
レバー部材28の回転軸32に対してインク供給ローラ24と同じ側の一端部には、カムフォロア62が設けられている。カムフォロア62は、上述の3段階カム64の回転位置によってはカム64の外周面と接触することができる。なお、カム64に固定された回転軸66は図2に示した内部フレーム30に対して回転可能に支持されている。回転軸66には歯車68が固定されている。歯車68は内部フレーム30に固定されたモータ72の歯車70に噛合している。したがって、モータ72を駆動することにより、カム64は回転軸66を中心として回転することができる。本印刷機の印刷時においては、カム64の回転位置が上記印刷位置にあり、カムフォロア62とカム64の外周面とは接触しておらず、したがって、インク供給ローラ24は自重及びバネ40の張力によって版胴10の内周面に押し付けられている。
【0033】
このとき、インク供給パイプ36からのインクが、インク供給ローラ24とドクタローラ34との間に供給されると、これらの境界により形成される溝にインク38が溜まる。ドクタローラ34が回転すると、境界溝に溜められたインク38がインク供給ローラ24の外周をつたって版胴10の内周面に供給される。なお、インクの供給量はローラ34,24間のギャップにより規制されており、常に一定厚のインクがインク供給ローラ24上に供給される。インク供給ローラ24を版胴10の内周面に押し当てて、受けローラ22とともに印刷用紙26を挟持したまま、版胴10を回転させると、版胴10内に浸透したインクがインク孔16aを介して孔版原紙18に供給され、孔版原紙18に書込まれた文字や図形が印刷用紙26に印刷されつつ、受けローラ22との間の印刷用紙26が版胴10の回転方向と同方向に排出される。
【0034】
図4は、印刷時のインク供給ローラ24周辺部を抜出して本印刷機の動作をさらに詳しく説明するための説明図である。なお、版胴10について若干の説明をしておく。版胴10は、薄い金属板、樹脂フィルムなどのうえに多数の穿孔を設けた円筒体16aと、その外周面に巻き付けられたスクリーンメッシュ16bと、サーマルヘッド等により穿孔処理されインクの通過孔が形成される孔版原紙18とよりなる積層構造をしており、インクはこれらの間をしみ出して印刷用紙26に供給される。
【0035】
印刷時には、インク供給ローラ24及び受けローラ22がそれぞれ図中左及び右回転し、版胴10が図中下方向に押し出される。インク供給ローラ24が受けローラ22とともに版胴10及び印刷用紙26を第1圧力で挟むと、積層構造の版胴10が若干変形し、予め版胴10の層内に保持されたインクが版胴10外部へ滲み出て印刷用紙26に供給される。なお、インク供給ローラ24と版胴10の接点部には、インク供給ローラ24と版胴10の図矢示方向への回転に伴い,微少なインク溜まり38xが形成されている。
【0036】
図5は、図2に示した孔版印刷機を版胴長手方向に垂直に切った断面図(図中II-II矢印断面図)であるが、同図は非印刷時の印刷機断面を示す。
【0037】
本印刷機の非印刷時においては、カム64の回転位置が上記非印刷位置にあり、カムフォロア62とカム64の外周面とは接触しており、したがって、インク供給ローラ24は回転軸32を揺動中心とし、バネ40の張力に抗して版胴10の内周面から遠ざかるように持ち上げられる。このとき、インク供給パイプ36からのインクの供給は停止する。
【0038】
図6は、非印刷時のインク供給ローラ24周辺部を抜出して本印刷機の動作をさらに詳しく説明するための説明図である。非印刷時には、インク供給ローラ24と版胴10の内周面との間には大きな隙間X=1mm以上があり版胴10上にインクが供給されないため、初期設定や版胴10の回転立ち上がり時などの版胴の非定常回転時に過剰なインクが版胴10に供給されず、印刷濃度が濃くなりすぎたり、孔版原紙のすみからインクが漏れだしたりすることがない。また版胴10と受けローラ22との間隙Yも本印刷機においては1mm以上であり、孔版原紙上のインクがこの状態で受けローラ22に付着することもない。
【0039】
図7は、図2に示した孔版印刷機を版胴長手方向に垂直に切った断面図(図中II-II矢印断面図)であるが、同図は印刷準備時の印刷機断面を示す。この印刷準備時の工程は、上述の印刷時前に行われ、版胴10内へのインク供給の適性化を行う。
【0040】
本印刷機の印刷準備時においては、カム64の回転位置が上記印刷準備位置にあり、カムフォロア62とカム64の外周面とは接触しており、したがって、インク供給ローラ24は回転軸32を揺動中心とし、バネ40の張力に抗して版胴10の内周面から遠ざかるように持ち上げられる。このとき、インク供給パイプ36からはインクが供給されるが、印刷用紙は版胴10と受けローラ22との間には介在しない。
【0041】
図8は、印刷準備時のインク供給ローラ24周辺部を抜出して本印刷機の動作をさらに詳しく説明するための説明図である。印刷準備時には、インク供給ローラ24と版胴10の内周面との間には僅かな隙間X=0〜0.5mmがあるが版胴10の内周面にはインクが供給される。この状態ではインク供給ローラ24は版胴10を押し出さない程度に版胴10に当接している。隙間X=0〜0.5mmの時、インク供給ローラ24から版胴10の内周面上にインクは供給されるが、過剰にインクが押し出されることにより孔版原紙にしわが発生したり、孔版原紙のすみからインクが漏れだしたりすることのない状態になっている。また、隙間Yは1mm以上に設定される。この状態で版胴10を最低一回転させることにより、印刷前に版胴10のインクのつまりを防止したり、適切な量のインク供給を行って、一枚目からの印刷を適切な濃度に保つ機能を達成しつつ、同時にインクの過剰による不具合の発生も防止できる。
【0042】
また、版胴10は所定のテンションが発生するような構造となっており(例えば、版胴10中の金属円筒体16aを所定の張力を発生する弾性体で構成する等)、本実施形態においてはその張力は約900gである。従って,インク供給ローラ24が版胴10に接触する場合でも、その押圧力が版胴10に与えられた張力以下であれば版の変形は発生せず、孔版原紙のしわ等が防止できる。
【0043】
なお、本実施形態の受けローラ22は、印刷用紙をクランプして搬送する大径のローラ(転写ローラ)であるが、版との間で印刷用紙を挟んで搬送する機能だけを持った小径のプレスローラでもよい。また、本実施形態の印刷機はインナープレス型であるが、本印刷方法はアウタープレス型の印刷機にも適用できる。
【0044】
また、インク供給ローラ24にかわるスキージ部材として、スキージ片24’を用いることもできる。図9、図10及び図11は、それぞれ、非印刷時、印刷準備時及び印刷時の印刷機概略構成を示す。非印刷時においては、スキージ片24’が版胴10の内周面から離れており、版胴10の外周面は受けローラ22に接触していない。印刷準備時においては、スキージ片24’が版胴10の内周面には僅かに接しているものの、版胴10の外周面は受けローラ22には接していない。さらに、印刷時には、スキージ片24’が版胴10の内周面に押しつけられており、版胴10の外周面は印刷用紙26を介して受けローラ22を付勢している。
【0045】
以上説明したように、上記実施形態に係る孔版印刷機は、可撓性を有する外周面には孔版原紙18を巻回し、内周面にはインクを供給されて回転する版胴10と、版胴10の回転軸方向の所定の幅に渡って版胴10の内周面と離接可能に配置され、回転する版胴10の内周面に接触する時には内周面のインクを版胴の外周面方向に摺り込ますスキージ部材24と、非印刷時に、スキージ部材を回転する版胴10の内周面に対して印刷時よりも小さな力で当接させる制御をする第1の制御手段とを有する。
【0046】
また、上記実施形態に係る孔版印刷機において、スキージ部材24は、自身の中心軸線の周りに回転可能に軸支され、且つ版胴10の内周面にインクを供給するインク供給ローラ24である。
【0047】
また、上記実施形態に係る孔版印刷機は、版胴10の回転軸14と一定距離離れた中心軸線の周りに回転可能に軸支され、版胴10の外にあってインク供給ローラ24と対向する位置にあり、版胴10と非接触状態で同期回転される受けローラ22と、インク供給ローラ24が回転する版胴10の内周面に対して当接後、更に版胴10の内周面を押接させ、版胴10と受けローラ22を押圧状態にさせる制御をする第2の制御手段とを有する。
【0048】
また、上記実施形態に係る孔版印刷機は、孔版印刷機の内部フレーム30に回転軸32を支持され、一端にはカムフォロワー62を枢支し、このカムフォロワー62と回転軸32との間に、インク供給ローラ24を枢支するレバー28と、さらに上記カムフォロワー62を連動させ、インク供給ローラ24を版胴10の内周面から離間した位置と、版胴10を突出させずにこの版胴10の内周面に当接させる位置と、版胴10を変形させてこの版胴10と受けローラ22を押圧状態にさせる位置とにレバー28を変位させるカム部材64とを有する。
【0049】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明に係る本孔版印刷機及び印刷方法によれば、印刷の前にスキージ部材が第1圧力よりも小さい第2圧力で内周面に当たるように制御されるため、スキージ部材によって版胴に摺り込まれるインキ量を適切にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態に係る孔版印刷機のシステム構成図。
【図2】版胴の長手方向に沿って本孔版印刷機を切った断面図。
【図3】図2に示した孔版印刷機を版胴長手方向に垂直に切った断面図。
【図4】印刷時のインク供給ローラ周辺部の説明図。
【図5】図2に示した孔版印刷機を版胴長手方向に垂直に切った断面図。
【図6】非印刷時のインク供給ローラ周辺部の説明図。
【図7】図2に示した孔版印刷機を版胴長手方向に垂直に切った断面図。
【図8】印刷準備時のインク供給ローラ周辺部の説明図。
【図9】非印刷時の別の実施形態の孔版印刷機の説明図。
【図10】印刷準備時の別の実施形態の孔版印刷機の説明図。
【図11】印刷時の別の実施形態の孔版印刷機の説明図。
【符号の説明】
10…版胴、24…スキージ部材、64…カム、64,72,100…制御手段。
Claims (3)
- 孔版原紙が巻かれる外周面及びインクが供給される内周面を有する可撓性の版胴を所定の軸回りに回転させるとともに、前記版胴の外周面に受けローラの外周面が所定の間隙だけ離隔して配置され、印刷時には、この間隙内に用紙搬送装置によって被印刷体を搬送すると共に、前記版胴の内側に配置されたスキージ部材を第1圧力で前記内周面に押し当てて前記孔版原紙を被印刷体に接触させることで印刷を行う孔版印刷機において、
前記印刷の前に、被印刷体が前記用紙搬送装置によって前記版胴と前記受けローラとの間に搬送されないようにし、前記スキージ部材と前記版胴の内周面との間に、0以上0.5mm以下の距離を設けて、前記版胴を前記所定の軸回りに回転させつつ、前記スキージ部材によって、前記第1圧力よりも小さい第2圧力が前記内周面に加えられるように前記スキージ部材を制御する制御手段を備え、前記第2圧力は前記スキージ部材をこの第2圧力で前記版胴に当てた場合に前記版胴が変形しない程度の圧力であることを特徴とする孔版印刷機。 - 前記スキージ部材の前記内周面に対する位置を少なくとも3段階に決めれるように前記版胴内に配置されたカムとを備えることを特徴とする請求項1に記載の孔版印刷機。
- 印刷時に、孔版原紙が巻かれる可撓性の版胴の外周面に受けローラの外周面が所定の間隙だけ離隔して配置され、この間隙内に用紙搬送装置によって被印刷体を搬送すると共に、前記版胴を所定の軸回りに回転させつつ、前記版胴に第1圧力をかけて前記孔版原紙を被印刷体に接触させて印刷を行う工程と、
前記印刷の前に、被印刷体が前記用紙搬送装置によって前記版胴と前記受けローラとの間に搬送されないようにし、前記スキージ部材と前記版胴の内周面との間に、0以上0.5mm以下の距離を設けて、前記版胴を前記所定の軸回りに回転させつつ、前記版胴に前記第1圧力よりも小さい第2圧力をかける工程とを備え、前記第2圧力は前記スキージ部材をこの第2圧力で前記版胴に当てた場合に前記版胴が変形しない程度の圧力であることを特徴とする印刷方法。
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