JP3842517B2 - 等速ジョイント - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、等速ジョイントに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車のディファレンシャルに取り付ける等速ジョイントでは、等速ジョイントの外方継手部材の外周に圧入治具を係合させる係合溝を設けたものが知られている。係合溝は圧入治具を係合し、外方継手部材の軸を自動車のデファレンシャルの取付孔にセレーション結合により連結するためのものである。
【0003】
上記の等速ジョイントを、図6〜図8を参照にして説明する。等速ジョイント51は、駆動軸52と、外方継手部材53と、被動軸54と、内方継手部材55と、トラニオン56と、球面ローラ57とを備えている。前記外方継手部材53は、有底筒状に形成され、その側部には、膨出側面が円弧状をなす3つの膨出部53aを有している。前記外方継手部材53の一端には、駆動軸52が一体に連結されている。
【0004】
前記各膨出部53aの内周には、軸方向に延びるとともに膨出側の内面が円弧状の案内溝58を有しており、図8に示すように、同案内溝58の最奥部58aは、平面状をなしている。前記外方継手部材53の底部は係合溝59の溝幅よりも厚肉に形成され、同底部の外周となる前記膨出部53aの一端付近に対して、係合溝59が周方向に沿って一様な深さで形成されている。
【0005】
又、等速ジョイントとして図9〜図12に示すものも知られている。等速ジョイント71は、駆動軸72と、外方継手部材73と、被動軸74と、内方継手部材75と、トラニオン76と、ニードルベアリング80と、内方ローラ81と、外方ローラ77とを備えている。
【0006】
前記外方継手部材73は、有底筒状に形成され、その側部には、膨出側面が略平面状をなす3つの膨出部を有している。前記外方継手部材73の一端には、駆動軸72が一体に連結されている。前記各膨出部73aの内周には、軸方向に延びる案内溝78を有しており、図11に示すように、同案内溝78の最奥部78aは平面状をなしている。前記案内溝78は、中央部に段部78b、両側にショルダー部78cとを備え、最奥部78a及びショルダー部78cは、いずれも略平面に形成されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、例えば、等速ジョイント71の底部を前記等速ジョイント51と同様の厚みにし、前記等速ジョイント51の係合溝59と同様に膨出部73aの外周に係合溝を設けようとすると、外方継手部材73における係合溝79の底部に対応する部位では、肉薄となってしまい外方継手部材73の強度が落ちてしまう。
【0008】
そこで、図9に示すように、外方継手部材73の底部を前記図8に示す外方継手部材53の底部、及び係合溝79の溝幅よりも厚肉に形成し、同底部に対して係合溝79を周方向に沿って一様な深さで形成することが考えられる。即ち、図11に示すように、最奥部78aは、係合溝79より反底部側に設けるようにする。このようにすると、図9に示すように、係合溝79の底部付近では外方継手部材73が肉薄になることがない。又、図10におけるZ−Z線矢視断面図、即ち、図12に示すように、係合溝79と最奥部78aとのなす部位、即ち、ショルダー部78cにおいて反最奥部78a側の部位の肉厚は薄くならない。
【0009】
しかし、前述のように外方継手部材73の底部を厚肉にすると、厚肉にした分だけ等速ジョイント71全体の重量が重くなるとともに、等速ジョイント71を全体的にホイール側に寄せる必要があることからジョイントとホイールとの間の距離が短くなる。すると、角度変位に伴うジョイント角が大きくなり寿命の低下、異音や振動の発生の原因ともなる。
【0010】
従って、本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、外方継手部材の底部を厚肉にすることなく圧入治具係合用の係合溝を形成できるようにした等速ジョイントを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、一端に軸を有し他端が開口した有底筒状であって、その軸心から放射方向に複数の膨出部を形成し、各膨出部の内周に軸方向に延びる案内溝を形成し、前記案内溝の溝幅方向に略平面状をなす一対のショルダー部を有するとともに、膨出部の外周に周方向に沿って形成され前記軸を他部品の取付孔に圧入する際に圧入治具を係合させる係合溝を有する外方継手部材と、該外方継手部材の内側に同軸的に配設され前記案内溝内に突出する複数の軸部を有する内方継手部材と、前記各軸部に回転可能に設けられ前記案内溝を転動するローラとを備えた等速ジョイントにおいて、前記外方継手部材の底部における前記案内溝の前記軸側の底面を、前記ローラの回転軸と直交する断面において前記ローラ形状に沿うように形成し、前記底部における前記膨出部の外周であって、前記各ショルダー部の外側部位毎に前記係合溝を形成したことを要旨とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記各係合溝は、外方継手部材の軸心を中心とした共通の円上の周りで断続的に配置していることを要旨とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2において、軸部はトリポード軸であることを要旨とする。
(作用)
従って、請求項1に記載の発明においては、案内溝の最奥部をローラ形状に沿うように形成すると、各ショルダー部に対応する背側部位付近では、外方継手部材が厚肉となる。そして、この厚肉部分を利用して係合溝を形成すると、外方継手部材の底部自体は、係合溝を形成するために厚肉にする必要がない。
【0014】
請求項2に記載の発明においては、請求項1に記載の作用に加えて、係合溝を切削形成する際に、外方継手部材の軸心を旋盤の回転軸と同位置になるように旋盤にセットし、切削加工すると、各係合溝は一度に形成される。
【0015】
請求項3に記載の発明においては、請求項1又は請求項2に記載の作用に加えて、等速ジョイントをトリポード軸を有する等速ジョイントとして実現される。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を等速ジョイントに具体化した一実施形態を図1〜4に従って説明する。
【0017】
図1に示すように、等速ジョイント11は、外方継手部材12と、内方継手部材13と、内方ローラ23と、ローラとしての外方ローラ14を備えている。
前記外方継手部材12は、略有底筒形状をなしており、その一端には、軸としての駆動軸15が一体に連結されている。図2に示すように、前記外方継手部材12の側壁部において、前記外方継手部材12の軸心O1に対して等角度間隔で放射方向へ向け突出する3つの膨出部12aが形成され、外方継手部材12は、断面略六角形状をなしている。前記各膨出部12aは軸方向に延びるように形成されている。前記各膨出部12aの内周は、前記各外方ローラ14を案内する各案内溝16となっている。前記各案内溝16の両側壁は、一対のローラ案内面16aとなっており、それぞれ凹状をなす曲面を有している。
【0018】
図1,2に示すように、前記外方継手部材12の内部には、被動軸17が挿入されている。前記被動軸17の先端部には、嵌挿孔を有する略三角柱状の内方継手部材13が嵌挿固定されている。前記内方継手部材13の外周には、略円柱状をなす3本の軸部としてのトラニオン18が、その軸心O2に対して放射方向で且つそれぞれ等角度間隔をなすように延設されている。前記3本のトラニオン18にてトリポード軸が構成されている。
【0019】
各トラニオン18の外周には、ニードルベアリング18aを介して、外周が凸球状をなす内方ローラ23が軸支されている。同内方ローラ23の外周には、内周が凹球状をなす外方ローラ14が転動自在に球面嵌合されている。前記各外方ローラ14は、外周に凸球状の転動面14aを有しており、同転動面14aは、前記一対の凹状をなす曲面を有するローラ案内面16aに対向するように配置されている。
【0020】
前記外方ローラ14は、トラニオン18に対して回転し、且つローラ案内面16aに対して軸心O1方向へ向けスライド自在とされている。一方、内方ローラ23は、外方ローラ14に対して首振り自在とされている。その結果、被動軸17は、内方継手部材13、ニードルベアリング18a、トラニオン18、及び内方ローラ23を伴って、外方継手部材12に対してジョイント角がとれるようになっている。
【0021】
次に、等速ジョイント11の細部について説明する。
図2に示すように、前記外方継手部材12の前記膨出部12aの膨出側面は略平面状に形成されている。前記各膨出部12aの幅方向両端は、面取りが施されている。前記案内溝16の内頂面の中央部には、トラニオン18の先端部と同案内溝16との当接を防ぐ凹部16bが軸方向に延び、且つ凹部16bの内頂面は平面状に形成されている。同凹部16bの両側には、幅方向に略平面状をなす一対のショルダー部16cが形成されている。
【0022】
案内溝16の底部であって、前記膨出部12aの外周において、前記各ショルダー部16cに対応する背側部位には、圧入治具を係合させるための係合溝19が形成されている。係合溝19は、膨出部12aの幅方向両端に設けられている。前記各係合溝19の底面は、軸心O1を中心として共通の円上に沿うように形成されている。図1に示すように、外方継手部材12の底部は、前記従来技術における外方継手部材73の底部より肉薄に形成されている。図3に示すように、案内溝16の最奥部16dの全域は、前記外方ローラ14の転動面14aの形状に沿うように形成されている。前記最奥部16dにおける最も駆動軸15側の点を最奥点Pとすると、軸方向における最奥点Pの位置は、係合溝19の溝幅内に位置するようになっている。
【0023】
このように、案内溝16の最奥部16d全域を、外方ローラ14の転動面14aの形状に沿うように形成すると、駆動軸15側における膨出部12aの幅方向両端部は、従来技術の等速ジョイント71の同部位に比べて厚肉となる。そして、この厚肉部分を利用して係合溝19を形成するため、外方継手部材12の底部は、従来技術の外方継手部材73の底部よりも薄肉にできる。
【0024】
次に、前記係合溝19付近における外方継手部材12の肉厚について説明する。
図2におけるB−B線断面矢視図、即ち、図4(a)に示すように、係合溝19と案内溝16とのなす肉厚は、等速ジョイント11が使用されるのに充分な強度に形成されている。そして、図2におけるC−C線断面矢視図、即ち、図4(b)に示す係合溝19と案内溝16とは、上記図4(a)の場合と比べ、案内溝16が駆動軸15側に寄った分、係合溝19の底部が浅く形成されている。この結果、係合溝19と案内溝16とのなす肉厚においても、等速ジョイント11が使用されるのに充分な強度に形成されている。
【0025】
加えて、図2におけるD−D線断面矢視図、即ち、図1に示すように、凹部16bに背向する膨出部12aの外面には係合溝19は形成されていない。即ち、凹部16bの部位の肉厚は、凹部16bと膨出部12aの外面とのなす肉厚であり、この肉厚においても等速ジョイント11が使用されるのに充分な強度に形成されている。
【0026】
次に、本実施形態のように構成された等速ジョイント11の作用について説明する。
等速ジョイント11の駆動軸15を図示しない自動車のディファレンシャルの取付孔に結合する際に、等速ジョイント11の係合溝19に図示しない圧入治具を係合させ、等速ジョイント11の駆動軸15を前記取付孔に結合できる。
【0027】
等速ジョイント11における外方継手部材12の底部は、等速ジョイント71の外方継手部材73の底部に比べて、肉薄に形成されているため、肉薄の分だけ、等速ジョイント71を全体的にディファレンシャル側に寄せられる。すると、等速ジョイント11と、被動軸17の他端側の図示しないホイールとの距離が長くなり、角度変位に伴うジョイント角が小さくなる。又、肉薄の分だけ、等速ジョイント11は等速ジョイント71に比べ重量が軽減される。
【0028】
従って、本実施形態の等速ジョイント11によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、案内溝16の最奥部16dを、外方ローラ14の転動面14aの形状に沿うように形成し、一端側における膨出部12aの幅方向両端部を厚肉にし、この厚肉部分を利用して係合溝19を形成している。この結果、外方継手部材12の底部を薄肉に形成できる。従って、等速ジョイント11の重量を等速ジョイント71に比べ軽減できる。
【0029】
(2)本実施形態では、前記(1)の効果に加えて、等速ジョイント11を全体的にディファレンシャル側に寄せることができ、その結果、等速ジョイント11と、被動軸17の他端側の図示しないホイールとの距離が長くなり、角度変位に伴うジョイント角が小さくなる。従って、等速ジョイント11は、等速ジョイント71に比べ、角度変位に伴うジョイント角が小さくなり、寿命が延びるとともに、異音や振動の発生を抑制できる。
【0030】
(3)本実施形態の前記各係合溝19を切削形成する際に、外方継手部材12の軸心O1を旋盤の回転軸に合わせるように旋盤にセットし、外方継手部材12の軸心O1を中心とした切削加工すると、各係合溝は一度に形成できる。従って、旋盤により各係合溝19を効率よく切削加工できる。
【0031】
なお、上記各実施形態は以下のような他の実施形態 に変更して具体化してもよい。
・前記実施形態の構成中、凹部16b、ショルダー部16cを省略してもよい。
【0032】
・前記実施形態の係合溝19と最奥部16dは、3つの膨出部12aを有する等速ジョイント11に形成していた。この代わりに、前記係合溝19と前記最奥部16dを、4つの膨出部を有する等速ジョイント、即ち、内方継手部材に4本の軸部としてのトラニオンを有し、各トラニオンにローラを軸支し、外方継手部材12に膨出部を4つ備えた等速ジョイントに採用してもよい。又、上記のような係合溝19と最奥部16dの採用を、5以上の膨出部を有する等速ジョイントに行ってもよい。
【0033】
・前記実施形態の係合溝19と、最奥部16dとを従来技術における等速ジョイント51に採用してもよい。
・前記実施形態では、最奥部16d全域を外方ローラ14の転動面14aの形状に沿うようにしたが、最奥部16dを部分的に前記転動面14aの形状に沿うようにしてもよい。例えば、図5に示すように、前記案内溝16の最奥部16dの形状を略平面状に形成し、同最奥部16dの両側に、最奥部16dに向かうにつれ、案内溝16の溝幅が狭くなるテーパー部20を形成し、同テーパー部20を外方ローラ14の転動面14aに沿わせるようにする。このように最奥部16dの形状を転動面14aに対して部分的に沿うような形状に形成してもよい。もちろん、前記テーパー部20のテーパー部分を円弧状の曲面にしてもよい。
【0034】
・前記実施形態では、外方ローラ14の外周を凸球状、ローラ案内面16aを凹状の曲面としていたが、外方ローラ14の外周を円筒状、ローラ案内面16aを平坦面としてもよい。
【0035】
次に、上記実施形態及び他の実施形態から把握できる請求項に記載した発明以外の技術的思想について、それらの効果と共に以下に記載する。
(イ) 前記最奥部がローラ形状に沿う形状は、最奥部にテーパー部を有し、最奥部をローラ形状に対して部分的に沿うように形成したことを含む請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項に記載の等速ジョイント。このように構成すると、外方継手部材の底部を厚肉にすることなく圧入治具係合用の係合溝を形成できる。
【0036】
【発明の効果】
請求項1〜3に記載の発明によれば、係合溝を設けるために外方継手部材の底部の肉厚を確保する必要がないため、質量低減が量れる。又、ジョイント全体をディファレンシャル側に寄せることができるようになり、ジョイントとホイールとの間の距離を長く取れるようになる。その結果、常時使用時のジョイント角を小さくでき、ジョイント性能低下や振動・騒音の発生を抑制できる。
【0037】
請求項2に記載の発明によれば、旋盤により、各係合溝を効率よく切削加工できる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載の等速ジョイントをトリポード軸を有する等速ジョイントとして実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本実施形態における等速ジョイントの正面断面図であり、図2におけるD−D線矢視図。
【図2】 本実施形態における等速ジョイントの側面図。
【図3】 図2におけるA−A線矢視断面図。
【図4】 (a)は、図2におけるB−B線矢視断面図。(b)は、図2におけるC−C線矢視断面図。
【図5】 他の実施形態における膨出部の説明図。
【図6】 従来技術における等速ジョイントの正面断面図。
【図7】 従来技術における等速ジョイントの側面図。
【図8】 図7におけるX−X線矢視断面図。
【図9】 従来技術における等速ジョイントの正面断面図。
【図10】 従来技術における等速ジョイントの側面図。
【図11】 図10におけるY−Y線矢視断面図。
【図12】 図10におけるZ−Z線矢視断面図。
【符号の説明】
11…等速ジョイント、12…外方継手部材、12a…膨出部、
13…内方継手部材、14…ローラ、15…軸としての駆動軸、
16…案内溝、16c…ショルダー部、16d…最奥部、
18…軸部としてのトラニオン、19…係合溝、O1…外方継手部材の軸心。
Claims (3)
- 一端に軸を有し他端が開口した有底筒状であって、その軸心から放射方向に複数の膨出部を形成し、各膨出部の内周に軸方向に延びる案内溝を形成し、前記案内溝の溝幅方向に略平面状をなす一対のショルダー部を有するとともに、膨出部の外周に周方向に沿って形成され前記軸を他部品の取付孔に圧入する際に圧入治具を係合させる係合溝を有する外方継手部材と、
該外方継手部材の内側に同軸的に配設され前記案内溝内に突出する複数の軸部を有する内方継手部材と、前記各軸部に回転可能に設けられ前記案内溝を転動するローラとを備えた等速ジョイントにおいて、
前記外方継手部材の底部における前記案内溝の前記軸側の底面を、前記ローラの回転軸と直交する断面において前記ローラ形状に沿うように形成し、前記底部における前記膨出部の外周であって、前記各ショルダー部の外側部位毎に前記係合溝を形成したことを特徴とする等速ジョイント。 - 前記各係合溝は、外方継手部材の軸心を中心とした共通の円上の周りで断続的に配置していることを特徴とする請求項1に記載の等速ジョイント。
- 軸部はトリポード軸であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速ジョイント。
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