JP3842027B2 - 酸化鉄粒子及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸化鉄粒子及びその製造方法に関し、詳しくはSiとAlとFeの複合酸化鉄を粒子表面に存在させることにより、流動性、分散性、ハンドリング性、環境変化に対する吸湿安定性等の諸特性をバランスよく向上させた、特に静電複写磁性トナー用材料粉、静電潜像現像用キャリア用材料粉、塗料用黒色顔料粉等の用途に用いられる酸化鉄粒子及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
最近、電子複写機、プリンター等の磁性トナー用材料として、水溶液反応によるマグネタイト粒子が広く利用されている。磁性トナーとしては各種の一般的現像特性が要求されるが、近年、電子写真技術の発達により、特にデジタル技術を用いた複写機、プリンターが急速に発達し、要求特性がより高度なものになってきた。
【0003】
すなわち、従来の文字以外にもグラフィックや写真等の出力も要求されており、複写機、プリンターの中には1インチ当たり1200ドット以上の能力のものも現れ、感光体上の潜像はより緻密になってきている。そのため、現像での細線再現性の高さ、各環境下でも問題なく使用できること等が強く要求されている。
【0004】
例えば、特開平5−71801号公報には、磁性トナーについて開示されている。それによると磁性粉として抵抗は高く、流動性の良いものが望まれているとされている。特開平8−101529号公報には磁性トナーについて開示され、磁性粉として流動性が良く、抵抗が高くないものが望まれているとされている。それは、低湿下におけるトナーの帯電過剰を防止するためである。また、低湿下における、かぶりを防止するために残留磁化や保磁力の高めのものを使用している。また、特開平7−239571号公報においても、上記と同様に磁性粉の耐環境性、特に高温高湿下における問題点が有ることを指摘している。さらに、特開平3−1160号公報の磁性トナーについて開示されている記載において、多様な環境下において満足させるには、高抵抗化や低吸湿が必要となる旨が記載されている。
【0005】
特開平8−6303号公報の樹脂被覆キャリアについて開示されている記載において、キャリアコアに求められるものは抵抗に関しては1010〜1012Ω・cmであると記載されている。つまり、キャリアコアとして使用される磁性粉の抵抗値が高いことが要求されている。特開平8−76519号公報の樹脂被覆キャリアについて開示においては、混練機にて総量の約90重量%前後のマグネタイト粒子を使用して樹脂被覆キャリアが製造されることが示されている。つまり非常に分散しやすい磁性粉が必要であることが伺える。
【0006】
また、トナーには負帯電性、正帯電性のトナーがあり、また、マグネタイトを用いたキャリア等においても負帯電性又は正荷電性のものがある。そして、黒色顔料としての黒味や分散性が必要であり、粉体としての取り扱い性が要求される。
【0007】
つまり、これらの要求を満足させるためには、通常磁性粉に要求される特性のみならず、流動性、ハンドリング性、分散性、耐環境性に優れ、抵抗が任意に調整できる磁性粉を提供する必要があり、例えば次のような提案がなされている。
【0008】
特開平5−286723号公報には、Si及び/又はAlの酸化物が含有されているマグネタイト粒子が開示されている。これにより、黒色度、分散性、耐熱性に優れたマグネタイト粒子が得られるものの、Si及び/又はAlの混合物を共沈させるだけなので(Siの中和処理)、Siの吸湿性により耐環境性は劣り、流動性、抵抗制御、ハンドリング性の面でも不充分であった。
【0009】
特開平7−110598号公報には、粒子内部にSiを含有させ、その表面にシリカやアルミナの共沈物で処理したマグネタイト粒子について開示されている。これにより、繰り返し測定の時に帯電安定性に優れたマグネタイト粒子が得られるものの、環境の変化に対する吸湿安定性、流動性、ハンドリング性、黒味については不充分である。
【0010】
また、特開平7−240306号公報には、粒子内部にSiを含有させ、その表面にシリカやアルミナの共沈物で処理し、さらに非磁性粒子を固着させたマグネタイト粒子について開示されている。これにより、繰り返し測定の時に帯電安定性に優れ、流動性、初期分散性に優れているものの、非磁性粒子を固着させるためにはコストがかかる上、剥離の可能性、均一かつ完全な表面処理は困難である上に、環境変化に対する吸湿安定性に対し不充分であり、黒色度の低下を招くことになる。
【0011】
ここでいう環境変化に対する吸湿安定性とは、一般に酸化鉄粒子の比表面積が大きいと空気と接触する面積が大きく吸湿率は比例して大きくなる。よって、同じ面積当たりに吸湿する量が低温低湿、高温高湿において変化の少ないもののことをいう。
【0012】
特開平8−133745号公報には、下層にZnx Fe2+y Oz 、上層にSi、Al、Tiの共沈物で表面処理されたマグネタイト粒子について開示されている。これにより、耐熱性と着色力に優れ、帯電量が制御されるものの、流動性、ハンドリング性、環境変化に対する吸湿安定性、抵抗制御に対し不充分である。
【0013】
特開平10−182163号公報には、ケイ素を含んだ金平糖状のマグネタイト粒子の表面にSi等を被着させたマグネタイト粒子について開示されている。これにより、トナー粒子からの脱落がなく、流動性に優れたマグネタイト粒子が得られるものの、トナー粒子から露出した粒子の凹凸により、ドラムの表面に傷をつけ寿命を短くする恐れがあり、また環境変化に対する吸湿安定性において不充分である。
【0014】
つまり、従来の技術においては、通常磁性粉に要求される特性はもとより、流動性、分散性、ハンドリング性、耐環境性に優れ、用途に応じて抵抗の調整可能な酸化鉄粒子、特にマグネタイト粒子は未だ提供されていない。
従って、本発明の目的は、流動性、分散性、ハンドリング性、環境の変化に対する吸湿安定性等に優れ、用途に応じて抵抗の調整可能な酸化鉄粒子及びその製造方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、検討の結果、酸化鉄粒子の表面に、SiとAlとFeの複合酸化鉄を存在させることにより、上記目的が達成し得ることを知見した。
【0016】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、SiとAlとFeの複合酸化鉄が粒子表面に存在することを特徴とする酸化鉄粒子を提供するものである。
【0017】
また、本発明の酸化鉄粒子の好ましい製造方法として、本発明は、湿式法にて生成した酸化鉄粒子を含むスラリーに、水可溶性ケイ素塩、水可溶性アルミニウム塩、第一鉄塩及びアルカリの水溶液を添加混合し、pH5〜10、温度60〜98℃にて酸化し、SiとAlとFeの複合酸化鉄を粒子表面に存在させることを特徴とする酸化鉄粒子の製造方法を提供するものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明でいう酸化鉄粒子とは、好ましくはマグネタイトを主成分とするものであり、コアとなるマグネタイトを主成分とする酸化鉄粒子にはケイ素、アルミニウム等の各種の有効元素を含有するものも包含される。以下の説明では、酸化鉄粒子としてその代表的なものであるマグネタイト粒子について説明する。また、酸化鉄粒子又はマグネタイト粒子という時には、その内容によって個々の粒子またはその集合のいずれも意味する。
【0019】
本発明のマグネタイト粒子は、その表面にSi(ケイ素)とAl(アルミニウム)とFe(鉄)の複合酸化鉄が存在する。ここでSiとAlとFeの複合酸化鉄が存在するとは、芯材(コア材)となるマグネタイトコア粒子の表面にSiとAlとFeの複合酸化鉄の微粒子が分散又は被覆している状態をいう。さらに、被覆している状態は、緻密な形成層でも、多量の微粒子による固着や付着による形成層のどちらも意味する。本発明では、マグネタイトコア粒子の表面にSiとAlとFeの複合酸化鉄の微粒子が層状に被覆している状態が最も好ましい。また、ここでいうSiとAlとFeの複合酸化鉄とは、鉄成分がケイ素成分及びアルミニウム成分存在下で酸化することにより、ケイ素及びアルミニウムを取り込む又は結合した酸化鉄をいう。マグネタイトコア粒子は、通常は湿式法で製造されるが、乾式法で製造されたものでもよい。また、このマグネタイトコア粒子中には、上記のように、粒子内部にケイ素、アルミニウム等の各種の有効元素を含有していてもよい。
【0020】
マグネタイトコア粒子の表面にSi及びAlの中和処理のみを行ったものでは、そのSi及びAl、特にSi自体の吸湿性が著しい上、流動性、抵抗、ハンドリング等の諸特性が得られない。また、マグネタイトコア粒子の表面をFe成分のみで中和及び酸化することは表面を何ら被覆しないマグネタイト粒子そのものを製造するに過ぎず、要求される諸特性が得られない。
【0021】
複合酸化鉄中のSi成分の存在量は、マグネタイト粒子全体に対してSiに換算して好ましくは0.05〜2重量%、さらに好ましくは0.5〜2重量%である。Siの存在量が0.05重量%未満の場合には目的とする効果が少なく、2重量%を超えるとマグネタイト粒子に通常要求される磁気特性の低下を招く。飽和磁化(測定磁場796kA/m)は70Am2/kg以上が好ましく、さらには75Am2/kg以上が好ましい。また、複合酸化鉄を形成するSiとFeのモル比は、好ましくはSi:Fe=1〜100〜100:1、さらに好ましくは5:100〜75:25である。
【0022】
複合酸化鉄中のAl成分の存在量は、マグネタイト粒子全体に対してAlに換算して好ましくは0. 05〜2重量%、さらに好ましくは0.5〜2重量%である。Alの存在量が0. 05重量%未満の場合には目的とする効果が少なく、2重量%を超えるとマグネタイト粒子に通常要求される磁気特性の低下を招く。飽和磁化(測定磁場796kA/m)は70Am2/kg以上が好ましく、さらには75Am2/kg以上が好ましい。複合酸化鉄層を形成するAlとFeのモル比は、好ましくはAl:Fe=1: 100〜100: 1、さらに好ましくは5:100〜75:25である。
【0023】
この複合酸化鉄中にはヘルシナイトを含有することが望ましい。ヘルシナイトを含有することによりマグネタイト粒子の色味が黒味を帯びる。その作用は不明であるが、本発明者等がAlとFeについて種々検討した際に、Feのみで製造したマグネタイト粒子に対し、AlとFeで製造したマグネタイト粒子の色が黒いことを発見した。条件は、第一鉄塩の水溶液(Fe濃度;0.28mol/lを10リットル)、水可溶性アルミニウム塩の水溶液(Al:Feのモル比=15:100)とアルカリ溶液を混合し、pH12、総液量20リットルとし、80℃で100リットル/minのエアーで反応し、反応終了後、常法の濾過、洗浄、乾燥してサンプルを得た。その時のX線分析結果を図1に示す。図1に示されるように通常のマグネタイトでは得られないヘルシナイトのピークが見られる。つまり、表面層の改質にAlとFeの複合酸化鉄を使用することにより、表面改質時に黒みを劣化させることなく、さらに黒みを付与しているのではないかと推測される。
【0024】
本発明のマグネタイト粒子は、10℃、20%RHと35℃、85%RHの各環境下で4Hr曝露された後の各吸湿率と比表面積とが下記式(1)を満足することが望ましい。トナーや樹脂被覆キャリアを製造した場合、表面に露出する磁性粉の存在が考えられる。つまり、各環境下での吸湿変化に対し、下記式(1)の範囲外ではトナー及びキャリアの流動性、帯電性、抵抗の安定性に悪影響を生じる恐れがある。
【0025】
(ΔWHH−ΔWLL)/A≦0.05・・・・(1)
ΔWHH;35℃、85%での吸湿率(重量%)
ΔWLL;10℃、20%での吸湿率(重量%)
A ;比表面積(m2 /g)
【0026】
本発明のマグネタイト粒子は、凝集度が40以下であることが望ましい。凝集度が40を超えると取り扱い性、樹脂への混合性、トナー製造設備への供給安定性が悪く、ひいてはトナー自身の流動性に影響を及ぼす恐れがある。
【0027】
本発明のマグネタイト粒子は、付着力が5×10-5dyne/contact以下であることが望ましい。付着力がこれを超えると粉体同士の付着が強く、トナー製造時の粉体取り扱いのハンドリング性、つまり粉体同士が付着することによる搬送設備の負荷、及びトナー製造時の樹脂と磁性体の混合状態が悪くなり、分散性に劣るものとなる。
【0028】
本発明のマグネタイト粒子は、複合酸化鉄中のSi成分が、マグネタイト粒子全体に対してSiに換算して0.5〜2重量%存在し、電気抵抗が1×104 Ω・cm以上であることが望ましい。Si成分が0.5重量%未満の時は抵抗は1×104 Ω・cm未満となり、抵抗が高いことが望まれるトナー、キャリアについてはSiを0.5重量%以上にする必要がある。Si成分が2重量%を超えると飽和磁化が低下し望ましくない。
【0029】
本発明のマグネタイト粒子は、複合酸化鉄層中のAl成分が、マグネタイト粒子全体に対してAlに換算して0. 3〜2重量%含有され、電気抵抗が1×104 Ω・cm以上であることが望ましい。Al成分が0. 3重量%未満の時は抵抗は1×104 Ω・cm未満となり、抵抗が高いことが望まれるトナーについてはAlを0. 3重量%以上にする必要がある。Al成分が2重量%を超えると飽和磁化が低下し望ましくない。
【0030】
本発明のマグネタイト粒子は、SUS容器内で解砕した時の容器内の残存率が20重量%以内であることが望ましい。この容器内の残量率が20重量%を超える場合には、粉体を取り扱うホッパー、搬送設備への残存が増え、樹脂との混合時の配合量のずれ、練り機への供給を考えると不都合であり、取り扱いにくい。
【0031】
本発明のマグネタイト粒子は、色差計による黒色度(L)が18.5以下、反射率(60度)が80%以上であることが望ましい。L値は高い方が黒みが弱い方向にあり、反射率は高いと樹脂への分散性が良好となる。粉体として樹脂への分散性がよく、黒色度も凝集体ではなく、分散した上で、黒色度の高いものが顔料として最も適している。近年のトナー小径化に伴い、高解像度の上での黒色のためには、使用される磁性体も黒色度が高いものが要求される。
【0032】
本発明のマグネタイト粒子は、SiとAlとFeの複合酸化鉄の微粒子が表面に強固に存在することにより、SiやAlの化合物が単体で存在するのではなく、複合酸化鉄中に存在し、しかも粒子表面層に制御されたことにより、SiやAlの化合物が単体で表面に存在することによる吸湿が抑えられ、また、複合酸化鉄内に存在するSi及びAl成分が適度の水分を安定的に保有することにより、外部の環境変化に対する応答が少ないため、上記目的が達成されるものと推測される。
【0033】
また、SiとAlとFeの複合酸化鉄の微粒子の存在により、電気伝導を妨げ、少量のSi及びAlの添加にて高抵抗であり、表面の磁気凝集が抑えられたこと、SiやAl単体の化合物ではないこと等により個々粉体の付着低下、良好な分散性等の効果が得られたのでないかと推測される。また、ヘルシナイトの存在により、粉体そのものの黒色度が向上し、適度なAlが表面層に制御されているため、樹脂へのなじみ、複合酸化鉄内部でのFeの価数変化の抑制が抑えられていることも推測される。
【0034】
なお、発明者等は本発明以前に、特願平11−41816号や特願2000−92766号にて、マグネタイト粒子表面にSiとFeの複合酸化鉄が存在するマグネタイト粒子やAlとFeの複合酸化鉄が存在するマグネタイト粒子に関する発明を出願している。
上記発明に比べ、本発明のマグネタイト粒子は構成もさることながら、SiとAlを複合酸化鉄中に共存させることにより、各種用途に用いられる樹脂等の有機成分中での分散性をさらに改善することができることを見出した。
【0035】
各種用途に用いられる樹脂等の有機成分の内、とりわけ静電複写磁性トナー成分においては、熱定着時の離型性改善のために添加されるワックス等の分散性を良くするために、共用する樹脂も高酸価とする傾向にある。従って、静電複写磁性トナー用材料粉としてのマグネタイト粒子も粒子表面が高酸価である方が好ましいと考えられる。
本発明のマグネタイト粒子は、その表面にSiとAlとFeの複合酸化鉄が存在するが、このようなマグネタイト粒子表面の複合酸化鉄部分においては、SiとAlによる固体酸であるルイスの酸が生じていると考えられ、高酸価な表面状態が得られていることが推測され、このようなマグネタイト粒子を静電複写磁性トナー用材料粉として用いた磁性トナーにおいては、マグネタイト粒子の分散性に優れ、かつ他トナー成分の機能を有効に引き出せ、特に磁性トナーの定着性を向上させることができる。
【0036】
次に、本発明のマグネタイト粒子の製造方法について述べる。
本発明のマグネタイト粒子の好適な製造方法は、湿式法にて生成したマグネタイトを含むスラリーに、水可溶性ケイ素塩、水可溶性アルミニウム塩、第一鉄塩及びアルカリ水溶液を添加混合し、pH5〜10、温度60〜98℃にて酸化することにより、コアとなるマグネタイト粒子(以下マグネタイトコア粒子ともいう)の表面にSiとAlとFeの複合酸化鉄を存在させるものである。
【0037】
この時に使用されるマグネタイトコア粒子は、その形状が八面体、六面体、球形等であり、何ら限定されるものではない。水可溶性ケイ素塩としては、ケイ酸ナトリウム等の水溶性のケイ素塩であれば何れでもよい。水可溶性アルミニウム塩としてはアルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウムなどの水溶性であれば何れでも良い。第一鉄塩としては硫酸第一鉄、塩化第一鉄等が挙げられる。アルカリとしては水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム等が用いられる。
【0038】
この際の溶液のpHは5〜10である。pHが5未満だと、酸化する工程において反応スピードが遅く工業的ではなく、pHが10を超えるとコストがかかり、経済的ではない。また、溶液の温度は60〜98℃であり、温度が60℃未満だとFeOOH等が混在し、色味、飽和磁化、粒子の均一性等の問題点が生じる。温度が98℃超では工業的ではない。酸化する方法としては、酸素を含有するガスを通気すればよく、経済的にも好ましくは空気を使用する。また、液体の酸化剤を使用してもよい。
【0039】
【実施例】
以下、実施例等に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0040】
〔実施例1〕
表1に示されるように、Fe2+2.0mol/lを含む硫酸第一鉄水溶液50リットルと、3.60mol/lの水酸化ナトリウム水溶液50リットルを混合撹拌した。この時のpHは6.5であった。そのスラリーを85℃に維持しながら65リットル/minの空気を吹き込み反応を終了させた(マグネタイトコア粒子の製造)。
【0041】
このスラリー中のマグネタイトコア粒子に対し、ケイ酸ナトリウム水溶液(Si1.1mol/l)を3リットル、硫酸アルミニウム水溶液(Al1.1mol/l)を3リットル、硫酸第一鉄水溶液(Fe2+1.3mol/l)を5リットル、及び水酸化ナトリウム水溶液を混合し、pHを9に調整した。そのスラリーを80℃に維持しながら65リットル/minの空気を吹き込み再度酸化し反応を終了させた(複合酸化鉄の形成)。
【0042】
得られた生成粒子は、通常の濾過洗浄、乾燥、粉砕工程により処理しマグネタイト粒子を得た。
また、下記に示す方法にて、Si及びAlの含有量、比表面積、磁気特性(飽和磁化)、各環境下において得られた吸湿率、面積当たりの吸湿率変化、凝集度、付着力、黒色度、反射率、電気抵抗、SUS容器残存率について評価した。結果を表2に示す。
【0043】
〔測定方法〕
(1)Si及びAl含有量分析
サンプルを溶解し、ICPにて測定した。
(2)比表面積
島津−マイクロメリティックス製2200型BET計にて測定した。
(3)磁気特性
東英工業製振動試料型磁力計VSM−P7を使用し、外部磁場795.8kA/mにて測定した。
(4)吸湿率
乾燥機で105℃、1Hrにて予め乾燥(乾燥重量W1)させ、環境室内にて10℃、20%RHと35℃、85%RHの環境下に各々4Hr曝露し(吸湿後の重量W2)、各々の重量測定を以下の式にて吸湿率(重量%)を算出した(ΔWLL;10℃、20%、ΔWHH;35℃、85%)。
吸湿率(重量%)=(W2−W1)/W1×100
また、面積当たりの吸湿率変化は、以下の式にて表される。
(ΔWHH−ΔWLL)/A(比表面積)
(5)凝集度
Hosokawa Micron製「Powder Tester TypePT−E」(商品名)を用いて、振動時間65secにて測定した。測定結果を所定の計算式にて凝集度を求めた。
(6)付着力
島津粉体付着力測定装置(EB−3300CH)を用いて、試料をセル容器の縁いっぱいに入れる(粉重量を測定)。セル内の切断面より1cmまで、プレス後、上記測定器により測定し、所定の計算式にて算出した。
(7)電気抵抗
試料10gをホルダーに入れ600kg/cm2 の圧力を加えて、25mmφの錠剤型に成形後、電極を取り付け、150kg/cm2 の加圧状態で測定した。測定に使用した試料の厚さ、及び断面積と抵抗値から算出してマグネタイト粒子の電気抵抗値を求めた。
(8)黒色度、反射率
スチレンアクリル系樹脂(TB−1000F)をトルエン(樹脂:トルエン=1:2)にて溶解した液を60g、試料10g、直径1mmのガラスビーズ90gを内容積140mlのビンに入れ、蓋をした後、ペイントシェーカー(トウヨウセイキ社製)にて30分混合した。これをガラス板上に4milのアプリケーターを用いて塗布し、乾燥後、色差計にて黒色度、ムラカミ式GLOSS METER(GM−3M)にて60度の反射率を測定した。
(9)SUS容器残存率
サンプルミル(Matsusita Electric Industrial製 SSC612CA)に専用のSUS容器内に試料を10g入れ、ミルにて5秒撹拌した後、静かに容器を取り外し、容器を逆さまにして試料を取り出した。取り出した試料の重量B(g)を測定し下記式にて容器内の残存量を求めた。
SUS容器内残存量(重量%)=[(10−B)/10]×100
【0044】
〔実施例2〜8〕
マグネタイトコア粒子製造の反応条件、表面の複合酸化鉄層の被覆条件を変えた以外は、実施例1と同様にマグネタイト粒子を製造した。このマグネタイト粒子の製造条件を表1に示す。また、実施例1と同様に各種性状及び特性を評価した結果を表2に示す。
【0045】
〔比較例1〕
複合酸化鉄層の被覆処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にマグネタイト粒子を製造した。このマグネタイト粒子の製造条件を表1に示す。また、実施例1と同様に各種性状及び特性を評価した結果を表2に示す。
〔比較例2〕
複合酸化鉄層の被覆処理を行わなかった以外は、実施例2と同様にマグネタイト粒子を製造した。このマグネタイト粒子の製造条件を表1に示す。また、実施例1と同様に各種性状及び特性を評価した結果を表2に示す。
〔比較例3〕
複合酸化鉄層の被覆処理を行わなかった以外は、実施例3と同様にマグネタイト粒子を製造した。このマグネタイト粒子の製造条件を表1に示す。また、実施例1と同様に各種性状及び特性を評価した結果を表2に示す。
【0046】
〔比較例4及び5〕
マグネタイトコア粒子製造の反応条件、表面の複合酸化鉄層の被覆条件を変えた以外は、実施例1と同様にマグネタイト粒子を製造した。このマグネタイト粒子の製造条件を表1に示す。また、実施例1と同様に各種性状及び特性を評価した結果を表2に示す。なお、比較例5は、マグネタイトコア粒子作成後のスラリーにケイ酸ナトリウム水溶液、硫酸アルミニウム水溶液、及び水酸化ナトリウムを表1の条件で添加(添加後のpH10)し、硫酸にてpH6まで中和した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表2からも明らかなように、実施例1〜8のマグネタイト粒子は、飽和磁化を大きく劣化させることなく、各環境下における吸湿性が安定であり、流動性、ハンドリング性、分散性、黒色度に優れ、かつ高抵抗化が可能である。実施例8から判るように、Si存在量の多いものは、分散性、黒色度は良好であり、抵抗は高いものの、飽和磁化が低く、高温高湿下における吸湿率が大きい。すなわち、Si存在量が多く、電気抵抗値は高いが、存在量のわりに電気抵抗上昇に対する効果が低い。また、Al存在量が多いため、特に飽和磁化が低かった。
【0050】
比較例1〜3は、複合酸化鉄層を有しないため、飽和磁化は高いものの、各環境下における面積あたりの吸湿変化、流動性、ハンドリング性、分散性、黒色度に劣ったものである。
【0051】
比較例4は、Fe処理を行ったものであるが、比較例1〜3と同様な結果が得られた。比較例5は、Si及びAlの中和処理を行ったものであり、分散性、黒色度、SUS容器の残存率は良好であるが、中和処理を行ったにも拘わらず、各環境下における面積当たりの吸湿率が大きく、さらに凝集度、付着力が大きいので、流動性、ハンドリング性に乏しい。また、中和処理したにも拘わらず電気抵抗値が低い。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の酸化鉄粒子は、酸化鉄コア粒子の表面にSiとAlとFeの複合酸化鉄を存在させるものであり、通常磁性粉に要求される特性はもとより、流動性、分散性、ハンドリング性、環境の変化に対する吸湿安定性に優れ、かつ抵抗を任意に調整が可能であることから、静電複写磁性トナー用材料粉、静電潜像現像用キャリア用材料粉、塗料用黒色顔料粉等の用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、コア粒子なしに複合酸化鉄層の処理方法のみで作成し得られた粒子のX線分析図である。
Claims (13)
- SiとAlとFeの複合酸化鉄が粒子表面に存在することを特徴とする酸化鉄粒子。
- 上記複合酸化鉄で表面が被覆されている請求項1記載の酸化鉄粒子。
- 上記複合酸化鉄中のSi成分の存在量が、酸化鉄粒子全体に対してSiに換算して0.05〜2重量%である請求項1又は2記載の酸化鉄粒子。
- 上記複合酸化鉄中のAl成分の存在量が、酸化鉄粒子全体に対してAlに換算して0. 05〜2重量%含有される請求項1、2又は3に記載の酸化鉄粒子。
- 上記複合酸化鉄中にヘルシナイトを有する請求項1〜4いずれかに記載の酸化鉄粒子。
- 10℃、20%RHと35℃、85%RHの各環境下で4Hr曝露された後の吸湿率(重量%)をそれぞれΔWLL、ΔWHHとし、比表面積(m2 /g)をAとしたときに下記式(1)を満足する請求項1〜5のいずれかに記載の酸化鉄粒子。
(ΔWHH−ΔWLL)/A≦0.05・・・・(1) - 凝集度が40以下である請求項1〜6いずれかに記載の酸化鉄粒子。
- 付着力が5×10-5dyne/contact以下である請求項1〜7のいずれかに記載の酸化鉄粒子。
- 上記複合酸化鉄中のSi成分の存在量が、酸化鉄粒子全体に対してSiに換算して0.5〜2重量%であり、電気抵抗が1×104 Ω・cm以上である請求項1〜8のいずれかに記載の酸化鉄粒子。
- 上記複合酸化鉄中のAl成分の存在量が、酸化鉄粒子全体に対してAlに換算して0. 3〜2重量%含有され、電気抵抗が1×104 Ω・cm以上である請求項1〜9のいずれかに記載の酸化鉄粒子。
- SUS容器内で解砕した時の容器内の残存率が20重量%以内である請求項1〜10のいずれかに記載の酸化鉄粒子。
- 色差計による黒色度(L)が18.5以下、反射率(60度)が80%以上である請求項1〜11のいずれかに記載の酸化鉄粒子。
- 請求項1記載の酸化鉄粒子の製造方法であって、湿式法にて生成した酸化鉄粒子を含むスラリーに、水可溶性ケイ素塩、水可溶性アルミニウム塩、第一鉄塩及びアルカリの水溶液を添加混合し、pH5〜10、温度60〜98℃にて酸化し、SiとAlとFeの複合酸化鉄を酸化鉄粒子表面に存在させることを特徴とする酸化鉄粒子の製造方法。
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