JP3838026B2 - 電圧依存性非直線抵抗体磁器の製造方法 - Google Patents

電圧依存性非直線抵抗体磁器の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電圧依存性非直線抵抗体(バリスタ)磁器の製造方法に関し、特に、(Sr、Ba、Ca)TiOの組成を有するバリスタ磁器の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
バリスタは、印加電圧の変化に応じて抵抗値が非直線的に変わる抵抗素子であり、具体的には、ある電圧値以上の電圧が印加されるとその抵抗値が急激に低下する抵抗素子である。
【0003】
バリスタを主に構成する磁器としては種々の組成系のものが存在しているが、(Sr、Ba、Ca)TiOの組成を有する複合ペロブスカイト系磁器は、その抵抗値の非直線性と静電容量性との両機能を併せ備えているため、電子機器で発生するサージ電圧を吸収したり、ノイズを除去したりするのに非常に好適である。例えば、DCマイクロモータ用のリングバリスタ等に適用されている。
【0004】
この複合ペロブスカイト系磁器を備えたバリスタは、Sr、Ba及びCaのモル比を選ぶことにより、バリスタ電圧の温度依存性を制御することができる。即ち、動作中の温度上昇に伴なってバリスタ電圧(抵抗値が急激に低下する電圧)が低下し、バリスタに過大電流が流れたり熱暴走を起こすことを防止するため、温度依存性をゼロ又は正に調整することができる。特公平8−28287号公報(特開平2−146702号公報)、特開平3−45559号公報及び特許第2944697号公報(特開平3−237057号公報)には、このようにバリスタ電圧の温度依存性を調整したバリスタが記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
近年、バリスタ等の電子機器を実装するにあたって、半田付け作業の迅速化が図られていること及び高温半田や鉛フリー半田を使用することから、半田付け温度の高温化が進んでいる。このため、バリスタは、過酷な半田付け条件にされされることとなり、局所的なサーマルショックに基づくサーマルクラックが発生し易くなってきている。
【0006】
このようなサーマルショックに強いバリスタを得ることを目的として、特開昭63−276201号公報には、TiO系磁器によるリングバリスタが記載されているが、具体的なデータは何等記載されていない。しかも、このようなTiO系バリスタ磁器は、静電容量に関する電気的特性及びバリスタ電圧制御性の点で複合ペロブスカイト系バリスタ磁器に比してかなり劣るため、採用することはできない。
【0007】
このように、電気的特性が優れており、かつ高温の半田付けが行われてもその機能が損なわれない複合ペロブスカイト系のバリスタ磁器の要求が高まっている。また、作業の効率アップを行えるべく、曲げ応力に対してより強度の優れたバリスタ磁器が望まれている。
【0008】
従って本発明の目的は、電気的特性が優れておりかつ高い撓み強度と耐サーマルショック性に優れたバリスタ磁器の製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、還元焼成処理によって得られたSr、Ba及びCaのうちの少なくとも1種とTiからなる酸化物を含む磁器を再酸化処理してバリスタ磁器を製造する方法であって、再酸化処理の温度が850℃以上900℃以下でありかつその時間が0.25時間以上32時間以下であるか、又は再酸化処理の温度が900℃より高く1050℃以下でありかつその時間が0.1時間以上32時間以下であり、再酸化処理の時間を調整してバリスタ電圧値を制御するバリスタ磁器の製造方法が提供される。
【0010】
本発明によれば、さらに、還元焼成処理によって得られたSr、Ba及びCaのうちの少なくとも1種とTiからなる酸化物を含む磁器を再酸化処理してバリスタ磁器を製造する方法であって、再酸化処理の温度が900℃以上950℃未満でありかつその時間が0.5時間以上16時間以下であるか、又は再酸化処理の温度が950℃以上1000℃以下でありかつその時間が0.25時間以上16時間以下であり、再酸化処理の時間を調整してバリスタ電圧値を制御するバリスタ磁器の製造方法が提供される。
【0011】
バリスタ電圧を制御するための再酸化処理における温度及び時間を適切にすることで、組成を変えなくとも磁器自体の強度を高いレベルで維持し、半田付け時の曲げ応力に対して十分な撓み強度と局所的なサーマルショックに対する十分な耐性を得ることができる。もちろん、広範囲のバリスタ電圧において十分な非直線係数αが確保できると共に、熱処理温度の変化に対するバリスタ電圧の依存性をも小さくすることが可能である。このように、単一の組成であっても広範囲のバリスタ電圧において実用的な非直線係数α及び十分な強度が得られるため、多数種類の材料を用意する必要がなくなり、材料管理を簡素化することが可能となる。
【0012】
リスタ電圧に対する再酸化処理条件の変動による影響を考えると、再酸化処理温度よりも再酸化処理時間の方が影響が少ない。従って、最終的に再酸化処理時間を調整してバリスタ電圧値を設定するように制御すれば、再酸化処理条件の変動によるバリスタ電圧のずれが小さくなり、歩留まりが向上すると共に再酸化処理条件の管理が容易となる。
【0013】
原料粉末を所定組成となるように秤量して混合し、仮焼成した後、粉砕して成型し、成型体を還元焼成し、再酸化することが好ましい。
【0014】
原料粉末を秤量して混合し、仮焼成した後、成分の一部を添加し、所定組成となるように調整し、粉砕して成型し、該成型体を還元焼成し、再酸化することも好ましい。
【0015】
再酸化処理が、図3に示すように1回の昇降温過程を伴う単一の熱処理工程によって行われるか、又は図4に示すように独立した複数の昇降温過程を伴う熱処理工程によって行われることが好ましい。
【0016】
Sr、Ba、Ca及びTiの酸化物からなる第1成分と、R(Y及びランタノイド)の酸化物から選択される少なくとも1種からなる第2成分と、M(Nb及びTa)の酸化物から選択される少なくとも1種からなる第3成分と、Siの酸化物からなる第4成分とを含有する磁器の組成が、0.30≦a/(a+b+c)≦0.40、0.30≦b/(a+b+c)≦0.40、0.25<c/(a+b+c)≦0.35、0.84≦(a+b+c+e)/(d+f)≦1.16、0.75≦(e+f)/d×100≦10.0、g/d×100≦0.6であることが好ましい。ただし、aは第1成分のSrをSrOに換算したモル数、bは第1成分のBaをBaOに換算したモル数、cは第1成分のCaをCaOに換算したモル数、dは第1成分のTiをTiOに換算したモル数、eは第2成分のRをYO3/2、CeO、PrO11/6、TbO7/4、RO3/2(その他のランタノイド)にそれぞれ換算したモル数、fは第3成分のMをNbO5/2、TaO5/2にそれぞれ換算したモル数、gは第4成分のSiをSiOに換算したモル数である。
【0017】
焼結助剤として用いられるSiOの量をできるだけ小さくすることにより、バリスタの耐サーマルショック性を高め、過酷な半田付け条件による局所的なサーマルショックに基づくサーマルクラックの発生を抑制すると共に、SiO量の減少によって生じる焼結性の低下を(a+b+c+e)/(d+f)で表されるトータルA/B(イオン半径の関係からAサイト成分の格子内に入り得る他の元素を含めたAサイト成分のトータルモル数とBサイト成分の格子内に入り得る他の元素を含めたBサイト成分のトータルモル数との比)を調整して補償している。さらに、これらとAサイトモル比及び半導体化剤の量及び種類をバランスよく適切に選ぶことによって、バリスタの強度及び電気的特性の向上を図ることができる。
【0018】
なお、本発明では、Sr、Ba及びCaのみによるAサイト成分のモル数とTiのみによるBサイト成分のモル数との比である単純なA/Bではなく、添加物をも含めたペロブスカイト構成イオンのモル比であるトータルA/Bなるパラメータを導入している。即ち、本当に焼結性に寄与するのは、単純なA/Bではなく、このようなトータルA/Bであると考えられるためである。特に、添加物のうち半導体化剤は重要な固溶イオンであり、その添加量が多い本発明のような場合、単純なA/Bを用いると誤差が大きくなり、トータルA/Bを用いることによって初めて正確な制御が可能となり、特性ばらつきのないバリスタを提供できるのである。
【0019】
第1成分〜第3成分の組成が、0.96≦(a+b+c+e)/(d+f)≦1.01であることが好ましい。さらに第2成分及び第3成分の組成が、0.75≦(e+f)/d×100≦4.0であることが好ましい。さらにまた第4成分の組成が、g/d×100≦0.3であることも好ましい。
【0020】
磁器が、Li、Na、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Fe、Ga、In、Mo及びWの酸化物から選択される少なくとも1種からなる第5成分をさらに含有しており、0<h/d×100≦1.000であることも好ましい。ただし、hは第5成分のLi、Na、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Fe、Ga、In、Mo、WをLiO1/2、NaO1/2、MnO、CoO4/3、NiO、CuO、ZnO、ScO3/2、FeO3/2、GaO3/2、InO3/2、MoO、WOに換算したモル数である。この第5成分は、非直線係数αを向上させる等、電気的特性を向上させる効果がある。
【0021】
【発明の実施の形態】
図1は本発明によって製造されたバリスタの一実施形態であるリングバリスタの構造を示す平面図及びそのA−A線断面図である。
【0022】
同図において、10はリング形状に形成されたバリスタ磁器、11はその一方の面上に形成された電極である。電極11はこの実施形態では、等角度を隔てて3つ設けられている。同図(B)に示すように、バリスタ磁器10は内部の半導体部分10aと、その全表面近傍に形成されたを絶縁層10bとから構成されている。
【0023】
以下このバリスタ磁器10の組成について説明する。
【0024】
バリスタ磁器10は、Sr、Ba、Ca及びTiの酸化物からなる複合ペロブスカイトの第1成分と、R(Y及びランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLu))の酸化物から選択される少なくとも1種からなる第2成分と、M(Nb及びTa)の酸化物から選択される少なくとも1種からなる第3成分と、Siの酸化物からなる第4成分とを含有しており、Mgを実質的に含まない。aは第1成分のSrをSrOに換算したモル数、bは第1成分のBaをBaOに換算したモル数、cは第1成分のCaをCaOに換算したモル数、dは第1成分のTiをTiOに換算したモル数、eは第2成分のRをYO3/2、CeO、PrO11/6、TbO7/4、RO3/2(その他のランタノイド)にそれぞれ換算したモル数、fは第3成分のMをNbO5/2、TaO5/2にそれぞれ換算したモル数、gは第4成分のSiをSiOに換算したモル数であるとすると、このバリスタ磁器の組成は、0.30≦a/(a+b+c)≦0.40、0.30≦b/(a+b+c)≦0.40、0.25≦c/(a+b+c)≦0.35、0.84≦(a+b+c+e)/(d+f)≦1.16、0.75≦(e+f)/d×100≦10.0、g/d×100≦0.6である。この組成は、より好ましくは、0.96≦(a+b+c+e)/(d+f)≦1.01、0.75≦(e+f)/d×100≦4.0、g/d×100≦0.3である。
【0025】
第1成分はバリスタ磁器10の主たる成分であり、複合ペロブスカイトにおいては、Sr、Ba及びCaからなるAサイト成分とTiからなるBサイト成分とから構成される。第2成分及び第3成分は半導体化に寄与する金属酸化物であり、第4成分は主に焼結性の改善のために添加されるものである。
【0026】
バリスタとしての電気的特性は、主にバリスタ電圧E10の温度特性及び非直線係数αで表わされる。バリスタ電圧E10はバリスタに10mAの電流が流れる際の印加電圧値を表しており、非直線係数αは一般にα=1/log(E10/E)で表わされる。ただし、Eはバリスタに1mAの電流が流れる際の印加電圧値である。
【0027】
Aサイト成分であるSr、Ba及びCaのモル比を、Srが0.30以上かつ0.40以下、Baが0.30以上かつ0.40以下、Caが0.25以上かつ0.35以下となるように設定することによって、バリスタ電圧E10の制御性、E10温度特性及び非直線係数α等の電気的特性を向上させかつバリスタの耐サーマルショック性を高めることができる。即ち、Srが多すぎるとE10温度特性が負となってしまい、少なすぎると強度が低下してしまう。また、Baが多すぎるとE10温度特性の正となる傾向が強くなりすぎてしまい、少なすぎるとE10温度特性が負となってしまう。さらに、Caが多すぎても少なすぎてもバリスタ電圧E10に対する非直線係数αが小さくなってしまう。加えて、Caが多すぎるとバリスタ電圧E10が極端に大きくなって制御が困難となり、また、再酸化で素地が絶縁化してしまうためである。
【0028】
主成分(TiO)に対する半導体化剤(第2及び第3成分)のモル%(金属イオンモル数で計算)が0.75以上かつ10.0以下となるように、より好ましくは0.75以上かつ4.0以下となるように、設定することによって、バリスタの耐サーマルショック性を高めることができる。即ち、半導体化剤が多すぎても少なすぎてもサーマルクラックが発生し易くなってしまうためである。
【0029】
トータルA/Bが、0.84以上かつ1.16以下となるように、より好ましくは0.96以上かつ1.01以下となるように、設定することによって、後述するように第4成分(SiO)の量を減らした場合にも焼結性を改善することができる。即ち、トータルA/Bが大きすぎても小さすぎても焼結が阻害され、再酸素化で素地が絶縁化してしまうためである。また、トータルA/Bが大きすぎても小さすぎてもサーマルクラックが発生し易くなってしまうためでもある。SiOの量が少なくかつ半導体化剤が上述したように多く添加される領域においては、耐サーマルクラック性を維持するために、トータルA/Bの上限を1.16以下、より好ましくは1.01以下に制御することが不可欠となる。
【0030】
主成分(TiO)に対する第4成分(SiO)のモル%が0.6以下となるように、より好ましくは0.3以下となるように、設定することによって、バリスタの耐サーマルショック性を大幅に高めることができる。即ち、SiOは焼結助剤として添加され、これが含まれると組成が変動しても安定に焼成することができるが、その量が増えると、サーマルクラックが発生し易くなるためである。
【0031】
バリスタ磁器10が、Li、Na、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Fe、Ga、In、Mo及びWの酸化物から選択される少なくとも1種からなる第5成分(付加添加物)をさらに含有していてもよい。その含有量は、Li、Na、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Fe、Ga、In、Mo、WをLiO1/2、NaO1/2、MnO、CoO4/3、NiO、CuO、ZnO、ScO3/2、FeO3/2、GaO3/2、InO3/2、MoO、WOに換算したモル数であるとすると、0<h/d×100≦1.000であることが好ましい。これにより、非直線係数αが向上する等の効果がある。
【0032】
なお、バリスタ磁器10中には、このような添加物の他に不可避的不純物として他の元素、例えばP、S、K、Al、Zr等が含まれていてもよい。このような元素は、通常、酸化物として存在する。
【0033】
前述したように、バリスタ磁器10はペロブスカイト型結晶から構成される多結晶体である。各成分は、一部は結晶粒に固溶してペロブスカイト型結晶に入っており、また、一部は結晶粒界に酸化物又は複合酸化物として存在している。例えば、Ba、Ca、Sr、Ti、Nb、Ta、Y、ランタノイド等は結晶粒内に多く存在しており、Mo、W、Mn、Si、Co等は結晶粒界に多く存在している。
【0034】
バリスタ磁器10の平均結晶粒径は、通常、0.5〜10μm、特に1〜6μm程度である。
【0035】
電極11は、Cu又はCuを主成分とする材料で形成されており、このような材料による電極11は高温下でも溶食されにくく、高温の半田作業に耐え得る。
【0036】
次にこのバリスタ磁器10の製造方法について説明する。
【0037】
バリスタ磁器10は、原料粉末を、混合、仮焼、粉砕、成型、脱バインダ、還元焼成、再酸化の順に処理することにより得られる。
【0038】
原料粉末には、通常、磁器の構成元素それぞれの化合物の粉末を用いる。原料粉末は、酸化物又は焼成によって酸化物となる化合物、例えば、炭酸塩、水酸化物等を用いることができる。例えば、Baについて例をあげると、その原料としては、BaCO、BaSiO、BaO、BaCl、Ba(OH)、Ba(NO、アルコキシド(例えば(CHO)Ba)等のバリウム化合物の少なくとも1種を用いることができる。原料粉末の平均粒径は、通常、0.2〜5μm程度とする。
【0039】
まず、原料粉末を、最終組成が前述した組成となるように秤量し、通常、湿式混合する。次いで、脱水処理した後、乾燥し、1080〜1250℃程度で2〜4時間程度仮焼成する。次いで、仮焼成物を粉砕した後、有機バインダを加え、さらに水、pH調整剤、保湿剤等を加えて混合する。次いで、混合物を成型し、脱バインダ処理した後、還元雰囲気中で1250〜1400℃程度で2〜4時間程度焼成して半導体磁器を得る。
【0040】
なお、Nb、Ta、Y、ランタノイド、Mo、W、Mn、Si、Co等の各原料粉末については、仮焼成後の混合の際に添加してもよい。
【0041】
このようにして得られた半導体磁器に対し、目的に応じた適当なバリスタ電圧が得られるように、空気等の酸化性雰囲気中において熱処理(再酸化処理)を施す。この再酸化処理における温度TEMrox及び時間TIMroxが、
(1)850℃≦TEMrox≦900℃、0.25時間≦TIMrox≦32時間、
(2)900℃<TEMrox≦1050℃、0.1時間≦TIMrox≦32時間、
(3)900℃≦TEMrox<950℃、0.5時間≦TIMrox≦16時間、又は
(4)950℃≦TEMrox≦1000℃、0.25時間≦TIMrox≦16時間に制御される。
【0042】
この再酸化処理により、表層部分に絶縁層10bが形成される。バリスタ特性は、この絶縁層の存在により発現する。一般に、この絶縁層が厚いと非直線係数α及びバリスタ電圧が大きくなり、薄いと非直線係数α及びバリスタ電圧が小さくなる。
【0043】
このような再酸化処理における温度TEMrox及び時間TIMroxの制御によって、広範囲のバリスタ電圧において、十分な非直線係数α、十分な撓み強度及び十分な耐サーマルショック性が確保できると共に、熱処理温度の変化に対するバリスタ電圧の依存性をも小さくすることが可能である。このように、単一の組成であっても広範囲のバリスタ電圧において実用的な非直線係数α及び十分な強度が得られるため、多数種類の材料を用意する必要がなくなり、材料管理を簡素化することが可能となる。また、バリスタ電圧に対する再酸化処理条件の変動による影響を考えると、再酸化処理温度TEMroxよりも再酸化処理時間TIMroxの方が影響が少ない。従って、最終的に再酸化処理時間TIMroxを調整してバリスタ電圧値を設定するように制御すれば、再酸化処理条件の変動によるバリスタ電圧のずれが小さくなり、歩留まりが向上すると共に再酸化処理条件の管理が容易となる。
【0044】
再酸化処理後、バリスタ磁器の一方の表面にCu又はCuを主成分とする材料で電極を形成し、バリスタとする。以上述べた実施形態においては、バリスタ磁器の一方の表面に電極を設けているが、バリスタ磁器の両面又は側面に電極を設けることもある。
【0045】
なお、微量成分等を後添加することによってバリスタ磁器を製造しても良い。即ち、原料粉末を秤量して混合し、仮焼成した後、成分の一部を添加し、所定組成となるように調整し、粉砕して成型し、該成型体を還元焼成し、再酸化する製造方法も適用可能である。
【0046】
【実施例】
以下、具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0047】
実施例1
この実施例1は、再酸化処理条件、半導体化剤のモル%及び種類、トータルA/B並びにSiOのモル%等の他のパラメータを一定にし、Aサイト成分のモル比を変えた試料による比較である。
【0048】
まず、原料としてSrCO、BaCO、CaCO、TiO、NbO /2、SiOを、表1に示す組成となるようにそれぞれ換算して秤量し、配合した後、湿式メディアミルを用いて10〜20時間混合し、脱水、乾燥した。
【0049】
得られた混合物を1150℃で仮焼成した後、粗粉砕し、再度、湿式メディアミルにより10〜20時間混合した後、脱水、乾燥した。次いで、混合物に対し1.0〜1.5重量%のポリビニルアルコールを有機バインダとして混合して造粒し、成型圧力2t/cmで成型して、外径12mm、内径9mm、厚さ1.0mmの成型体を作製した。
【0050】
この成型体を600℃程度の空気雰囲気中で脱バインダ処理した後、N(95容積%)+H(5容積%)の還元雰囲気中において、約1350℃で2時間の焼成を行い、半導体磁器を得た。次いで、半導体磁器を空気中、950℃で2時間、昇降温速度は100℃/h〜600℃/hにて再酸化処理を行い、バリスタ磁器を得た。
【0051】
次いで、図1に示すように、バリスタ磁器10の一方の表面にCuペーストを塗布し、中性雰囲気下、750℃で焼き付けることによって同図に示すごとき3極のCu電極11を形成し、測定用のバリスタ試料とした。
【0052】
次いで、各試料の20℃におけるE及びE10を測定すると共に、測定したE及びE10を用いて、α=1/log(E10/E)から非直線係数αを求めた。さらに、バリスタ電圧E10の温度特性(温度係数)をも求めた。さらにまた、各試料の抗折強度を測定すると共に、各試料のサーマルクラック試験を行った。
【0053】
及びE10の測定は、図2に示す測定回路を用いて測定した。この測定回路では、電流計20がバリスタ21と直流定電流源22との間に直列に接続され、電圧計23がバリスタ21に並列に接続されている。E及びE10は、バリスタ21にそれぞれ1mA及び10mAの電流が流れたときのバリスタ21の両端子間の電圧値を電流計20及び電圧計23を用いて測定した。
【0054】
バリスタ電圧E10の温度特性(温度係数)ΔE10Tは、各試料について、ΔE10T={E10(85)−E10(20)}/{E10(20)×(85−20)}×100 [%/℃]から求めた。なお、E10(20)及びE10(85)は、それぞれ20℃及び85℃の温度におけるバリスタ電圧E10である。これらは恒温槽を用いて測定した。
【0055】
抗折強度は、例えば、AIKOH ENGINEERING社 MODEL−1311D等の抗折強度試験機によって測定した。
【0056】
サーマルクラック試験は、室温に放置した試料の電極面にあらかじめ温度を設定した半田コテを共晶半田を供給しながら3秒間接触させて行った。半田コテの温度としては、360℃及び400℃の2つの温度を用いた。試料の数は30個とし、クラック発生の有無をアルコールを用いて目視で判別した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
Figure 0003838026
【0058】
Aサイト成分のモル比は、バリスタの電気的特性、特にバリスタ電圧E10の温度特性に大きな影響を与える。E10温度特性が負の場合は動作中の温度上昇に伴なってバリスタ電圧が低下し、バリスタに過大電流が流れたり熱暴走を起こす恐れがあるので採用できない。従って、試料15〜17、26〜29及び31はバリスタとして使用できない範囲のものである。
【0059】
10温度特性がゼロ又は正であっても、0.06を越えることは望ましくないため、試料18〜23及び30は好ましい範囲ではない。
【0060】
試料25は再酸化処理により全体が絶縁化されてしまったためバリスタとして動作しない。また、試料24及び26はCaが多すぎるためバリスタ電圧E10が極端に高く、制御が難しい。
【0061】
試料13、14及び32はE10温度特性が0.06以下であるが、Caが少なすぎるか多すぎるため、バリスタ電圧E10に対するαが低く、好ましくない。
【0062】
10温度特性が0.06以下でありかつバリスタ電圧E10に対するαがあまり低くない試料1〜12がある程度は好ましいが、E10温度特性が0.02以下である試料1〜7がより好ましく、これが本発明の好ましい範囲である。これは、請求項8に規定したAサイトモル比に対応する。この範囲では、半田コテ温度が360℃のサーマルクラック試験でクラックの発生がなく、さらに、半田コテ温度が400℃のサーマルクラック試験でもクラックが発生しなかった。特に、試料4は、E10温度特性及び非直線係数αのバランスが最良であり、この周辺のAサイト成分のモル比が本発明の最も好ましい範囲である。
【0063】
実施例2
この実施例2は、半導体化剤の量を変えた試料による比較である。
【0064】
再酸化処理条件、Aサイトモル比、半導体化剤の種類、トータルA/B並びにSiOのモル%等の他のパラメータを一定にし、半導体化剤のモル%を表2に示されるものとしたこと以外は実施例1の場合と同様にして試料を作製し、これらについても実施例1の場合と同様な測定を行った。結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
Figure 0003838026
【0066】
半導体化剤の量は、バリスタ磁器の耐サーマルクラック性に影響を与える。試料33及び39は、半導体化剤がそれぞれ少なすぎる及び多すぎるため、半田コテ温度が360℃の試験でサーマルクラックが発生するため、好ましくない。従って、半田コテ温度が360℃の試験でサーマルクラックが発生せずかつ抗折強度が18kgf/mm以上である試料4及び34〜38が本発明の好ましい範囲である。これは、請求項8に規定した半導体化剤のモル%に対応する。
【0067】
さらに、試料38は半田コテ温度が400℃の試験においてサーマルクラックが発生するため、この400℃のサーマルクラック試験でクラックが発生しない試料4及び34〜37が本発明のより好ましい範囲となる。これは、請求項10に規定した半導体化剤のモル%に対応する。なお、試料4の周辺の半導体化剤のモル%が本発明の最も好ましい範囲である。
【0068】
実施例3
この実施例3は、半導体化剤の種類を変えた試料による比較である。
【0069】
再酸化処理条件、Aサイトモル比、半導体化剤のモル%、トータルA/B並びにSiOのモル%等の他のパラメータを一定にし、半導体化剤の種類を表3に示されるものとしたこと以外は実施例1の場合と同様にして試料を作製し、これらについても実施例1の場合と同様な測定を行った。結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
Figure 0003838026
【0071】
試料4及び40〜56のいずれも半田コテ温度が360℃の試験及び400℃の試験においてサーマルクラックが発生せずかつ抗折強度が18kgf/mm以上であるため、半導体化剤としてNbO5/2、TaO5/2、YO3/2、LaO3/2、CeO、PrO11/6、NdO3/2、SmO3/2、EuO3/2、GdO3/2、TbO7/4、DyO3/2、HoO3/2、ErO3/2、TmO3/2、YbO3/2、LuO3/2又はNbO5/2+YO3/2(等モル数)を用いることは本発明の好ましい範囲である。これは、請求項8に規定した半導体化剤の種類に対応する。
【0072】
実施例4
この実施例4は、トータルA/Bを変えた試料による比較である。
【0073】
再酸化処理条件、Aサイトモル比、半導体化剤のモル%及び種類並びにSiOのモル%等の他のパラメータを一定にし、トータルA/Bを表4に示されるものとしたこと以外は実施例1の場合と同様にして試料を作製し、これらについても実施例1の場合と同様な測定を行った。結果を表4に示す。
【0074】
【表4】
Figure 0003838026
【0075】
トータルA/Bの値は、磁器の焼結性に影響を与える。試料57及び63は、トータルA/Bがそれぞれ小さすぎる及び大きすぎるため、緻密な磁器を焼結することができず、再酸化処理により全体が絶縁化されてしまったためバリスタとして動作しない。さらに、サーマルクラックも半田コテ温度が360℃で発生している。
【0076】
表4から分かるように、SiOの量が少なくかつ半導体化剤が多く添加される領域においては、耐サーマルクラック性を維持するために、トータルA/Bの特に上限を制御することが不可欠となる。トータルA/Bが1.16を越えると360℃でサーマルクラックが発生するようになり、トータルA/Bが1.01を越えると400℃でサーマルクラックが発生するようになる。
【0077】
即ち、試料4及び58〜62は、半田コテ温度が360℃の試験においてサーマルクラックが発生せずかつ抗折強度が18kgf/mm以上であるため、本発明の好ましい範囲である。これは、請求項8に規定したトータルA/Bの範囲に対応する。
【0078】
さらに、試料4及び59〜61は、半田コテ温度が400℃の試験においてもサーマルクラックが発生しないため、本発明のより好ましい範囲となる。これは、請求項9に規定したトータルA/Bの範囲に対応する。なお、試料4のごとくBサイト成分がややリッチなトータルA/B近辺が本発明の最も好ましい範囲である。
【0079】
実施例5
この実施例5は、SiOのモル%を変えた試料による比較である。
【0080】
再酸化処理条件、Aサイトモル比、半導体化剤のモル%及び種類並びにトータルA/B等の他のパラメータを一定にし、SiOのモル%を表5に示されるものとしたこと以外は実施例1の場合と同様にして試料を作製し、これらについて、サーマルクラック試験の温度以外は実施例1の場合と同様な測定を行った。サーマルクラック試験は、半田コテの温度として、360℃、400℃及び450℃の3つの温度を用いた。結果を表5に示す。
【0081】
【表5】
Figure 0003838026
【0082】
SiOは焼結助剤として添加され、これが含まれると組成が変動しても安定に焼成することができるが、その量が増えると、サーマルクラックが発生し易くなる。
【0083】
試料68及び69は、SiOが多すぎるため、半田コテ温度が360℃の試験でもサーマルクラックが発生するため、好ましくない。従って、半田コテ温度が360℃の試験及び400℃の試験においてもサーマルクラックが発生せずかつ抗折強度が18kgf/mm以上である試料4及び64〜67が本発明の好ましい範囲である。これは、請求項8に規定したSiOのモル%に対応する。
【0084】
さらに、試料67は半田コテ温度が450℃の試験においてサーマルクラックが発生するため、半田コテ温度が450℃の試験においてもサーマルクラックが発生しない試料4及び64〜66が本発明のより好ましい範囲となる。これは、請求項11に規定したSiOのモル%に対応する。なお、試料4の周辺のSiOのモル%が本発明の最も好ましい範囲である。
【0085】
実施例6
この実施例6は、付加添加物の種類及び量を変えた試料による比較である。
【0086】
再酸化処理条件、Aサイトモル比、半導体化剤のモル%及び種類、トータルA/B並びにSiOのモル%等の他のパラメータを一定にし、付加添加物の種類及び量を表6に示されるものとしたこと以外は実施例1の場合と同様にして試料を作製し、これらについても実施例1の場合と同様な測定を行った。結果を表6に示す。
【0087】
【表6】
Figure 0003838026
【0088】
付加添加物はバリスタ電圧E10及び非直線係数α等の電気的特性を調整する作用がある。Mnはバリスタ電圧E10及び非直線係数αを大きくし、Coはバリスタ電圧E10を大きくする。また、MoやWは非直線係数αを大きくする作用が認められる。表6には示されていないが、その他のLi、Na、Ni、Cu、Zn、Sc、Fe、Ga及びInにも同様の作用が認められる。
【0089】
試料74及び78は、添加量が多すぎたため、焼結性が阻害され再酸化処理で磁器が絶縁化している。従って主成分に対するモル%が1.00以下でありかつ抗折強度が18kgf/mm以上である試料70〜73、75〜77及び79〜80が本発明の好ましい範囲である。これは、請求項12に規定した付加添加物の種類及びモル%に含まれている。
【0090】
実施例7
この実施例7は、再酸化処理条件のうちの温度TEMrox及び時間TIMroxを変えた試料による比較である。
【0091】
Aサイトモル比、半導体化剤のモル%及び種類、トータルA/B並びにSiOのモル%等の他のパラメータを一定にし、再酸化処理条件を表7及び表8に示されるものとしたこと以外は実施例1の場合と同様にして試料を作製し、これらについても実施例1の場合と同様な測定を行った。結果を表7及び表8に示す。
【0092】
【表7】
Figure 0003838026
【0093】
【表8】
Figure 0003838026
【0094】
各試料の組成は、SrOをaモル、BaOをbモル、CaOをcモル、TiOをdモル、NbO5/2をfモル、SiOをgモルと表し、a/(a+b+c)=0.35、b/(a+b+c)=0.35、c/(a+b+c)=0.30、f/d×100=3.00、(a+b+c)/(d+f)=0.98、g/d×100=0.20と一定にしている。また、処理雰囲気は大気中(酸素分圧が0.2気圧)として試料を作製した。
【0095】
バリスタ電圧E10はこの再酸化処理条件によって制御される。バリスタ電圧E10を再酸化処理温度TEMroxをパラメータとして制御した場合、例えば、試料85、95、105、115、125、135及び145のように再酸化処理時間TIMroxを2時間で固定し、温度TEMroxを800℃から1100℃まで変化させた場合、得られるバリスタ電圧E10は約2.5〜122Vである。ここで、半田コテ温度が400℃の試験でもサーマルクラックが発生せずかつ撓み応力に対する抗折強度が18kgf/mm以上である条件に限定すると、得られるバリスタ電圧E10は9.3〜14.5Vとなる。
【0096】
しかしながら、バリスタ電圧E10を時間TIMroxをパラメータとして制御した場合、例えば、試料111〜120のように温度TEMroxを950℃で固定し、時間TIMroxを0.1時間から64時間まで変化させた場合、得られるバリスタ電圧E10は約3.1〜81.9Vである。ここで、半田コテ温度が400℃の試験でもサーマルクラックが発生せずかつ撓み応力に対する抗折強度が18kgf/mm以上である条件に限定すると、得られるバリスタ電圧E10はより広範囲の4.9〜40.6Vとなる。
【0097】
即ち、再酸化処理時間TIMroxをパラメータとして制御することにより、半田付け時の応力に対して十分な強度を保持したままバリスタ電圧E10の取得範囲が広い磁器を得ることができる。これは請求項3に対応している。
【0098】
試料81〜91、100、101、110、120、130及び140〜150は撓み応力に対する抗折強度が18kgf/mm未満であるため、強度の点で望ましくない。
【0099】
これらの試料を除く試料92〜99、102〜109、111〜119、121〜129及び131〜139においては、抗折強度が18kgf/mm以上でありかつ半田コテ温度が360℃の試験でサーマルクラックが発生しなかった。従ってこれら試料に対応する850℃≦TEMrox≦900℃かつ0.25時間≦TIMrox≦32時間、及び900℃<TEMrox≦1050℃かつ0.1時間≦TIMrox≦32時間が本発明の好ましい範囲である。これは、請求項1に対応している。
【0100】
さらに、試料103〜108、112〜118及び122〜128においては、半田コテ温度が400℃の試験でサーマルクラックが発生しなかった。従って、これら試料に対応する900℃≦TEMrox<950℃かつ0.5時間≦TIMrox≦16時間、及び950℃≦TEMrox≦1000℃かつ0.25時間≦TIMrox≦16時間が本発明のより好ましい範囲である。これは、請求項2に対応している。
【0101】
このように組成を変えずに再酸化処理条件を変えることによってバリスタ電圧値を制御すれば、磁器自体の強度を高いレベルで維持し、半田付け時の曲げ応力に対して十分な撓み強度と局所的なサーマルショックに対する十分な耐性を得ることができる。もちろん、広範囲のバリスタ電圧において十分な非直線係数αが確保できると共に、熱処理温度の変化に対するバリスタ電圧の依存性をも小さくすることが可能である。このように、単一の組成であっても広範囲のバリスタ電圧において実用的な非直線係数α及び十分な強度が得られるため、多数種類の材料を用意する必要がなくなり、材料管理を簡素化することが可能となる。
【0102】
実施例8
この実施例8は、再酸化処理における熱処理工程の繰返し回数を変えた試料による比較である。
【0103】
Aサイトモル比、半導体化剤のモル%及び種類、トータルA/B並びにSiOのモル%等の他のパラメータを一定にし、再酸化処理条件を表9に示されるものとしたこと以外は実施例1の場合と同様にして試料を作製し、これらについても実施例1の場合と同様な測定を行った。各試料の組成は実施例7の場合と同じである。結果を表9に示す。
【0104】
【表9】
Figure 0003838026
【0105】
バリスタ電圧E10を再酸化処理温度TEMroxを950℃に固定し、積算時間TIMroxを12時間とした場合、これが連続する単一の熱処理工程によって行われた試料164と、各4時間の独立した3回の熱処理工程によって行われた試料169とを比較してみると、得られたバリスタ電圧E10、抗折強度及びサーマルクラック試験結果がほぼ同一であった。また、温度TEMroxを900℃に固定し積算時間TIMroxを12時間とした場合の試料153及び158の比較においても、同様である。
【0106】
従って、バリスタ電圧E10を再酸化処理時間TIMroxをパラメータとして制御する際に、撓み応力に対する抗折強度が18kgf/mm以上となる時間を設定するにあたり、その積算時間が同じであれば、熱処理工程の繰返し回数に無関係に、半田付け時の応力に対して十分な強度を保持したままバリスタ電圧E10の取得範囲が広い磁器を得ることができる。これは請求項7に対応している。
【0107】
以上の各表から、各成分の組成及び含有量並びに再酸化処理条件が本発明の範囲内であれば、上述した好ましい範囲内の抗折強度が得られ、高い撓み強度を有しかつ耐サーマルショック性に優れたバリスタ磁器が得られる製造方法を提供することができる。
【0108】
以上述べた実施形態及び実施例は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【0109】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように本発明では、還元焼成処理によって得られたSr、Ba及びCaのうちの少なくとも1種とTiからなる酸化物を含む磁器を再酸化処理してバリスタ磁器を製造する方法であって、再酸化処理の温度が850℃以上900℃以下でありかつその時間が0.25時間以上32時間以下であるか、又は再酸化処理の温度が900℃より高く1050℃以下でありかつその時間が0.1時間以上32時間以下である。バリスタ電圧を制御するための再酸化処理における温度及び時間を適切にすることで、組成を変えなくとも磁器自体の強度を高いレベルで維持し、半田付け時の曲げ応力に対して十分な撓み強度と局所的なサーマルショックに対する十分な耐性を得ることができる。もちろん、広範囲のバリスタ電圧において十分な非直線係数αが確保できると共に、熱処理温度の変化に対するバリスタ電圧の依存性をも小さくすることが可能である。このように、単一の組成であっても広範囲のバリスタ電圧において実用的な非直線係数α及び十分な強度が得られるため、多数種類の材料を用意する必要がなくなり、材料管理を簡素化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によって製造されたバリスタの一実施形態であるリングバリスタの構造を示す平面図及びそのA−A線断面図である。
【図2】E及びE10の測定回路を示す回路図である。
【図3】再酸化処理における熱処理工程の一例を説明する図である。
【図4】再酸化処理における熱処理工程の一例を説明する図である。
【符号の説明】
10 バリスタ磁器
10a 半導体部分
10b 絶縁層
11 電極
20 電流計
21 バリスタ
22 直流定電流源
23 電圧計

Claims (11)

  1. 還元焼成処理によって得られたSr、Ba及びCaのうちの少なくとも1種とTiからなる酸化物を含む磁器を再酸化処理して電圧依存性非直線抵抗体磁器を製造する方法であって、該再酸化処理の温度が850℃以上900℃以下でありかつ該再酸化処理の時間が0.25時間以上32時間以下であるか、又は該再酸化処理の温度が900℃より高く1050℃以下でありかつ該再酸化処理の時間が0.1時間以上32時間以下であり、前記再酸化処理の時間を調整してバリスタ電圧値を制御することを特徴とする電圧依存性非直線抵抗体磁器の製造方法。
  2. 還元焼成処理によって得られたSr、Ba及びCaのうちの少なくとも1種とTiからなる酸化物を含む磁器を再酸化処理して電圧依存性非直線抵抗体磁器を製造する方法であって、該再酸化処理の温度が900℃以上950℃未満でありかつ該再酸化処理の時間が0.5時間以上16時間以下であるか、又は該再酸化処理の温度が950℃以上1000℃以下でありかつ該再酸化処理の時間が0.25時間以上16時間以下であり、前記再酸化処理の時間を調整してバリスタ電圧値を制御することを特徴とする電圧依存性非直線抵抗体磁器の製造方法。
  3. 原料粉末を所定組成となるように秤量して混合し、仮焼成した後、粉砕して成型し、該成型体を還元焼成し、再酸化することを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 原料粉末を秤量して混合し、仮焼成した後、成分の一部を添加し、所定組成となるように調整し、粉砕して成型し、該成型体を還元焼成し、再酸化することを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
  5. 前記再酸化処理が、連続する単一の熱処理工程によって行われることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の製造方法。
  6. 前記再酸化処理が、独立した複数の熱処理工程によって行われることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の製造方法。
  7. Sr、Ba、Ca及びTiの酸化物からなる第1成分と、R(Y及びランタノイド)の酸化物から選択される少なくとも1種からなる第2成分と、M(Nb及びTa)の酸化物から選択される少なくとも1種からなる第3成分と、Siの酸化物からなる第4成分とを含有する磁器の組成が、0.30≦a/(a+b+c)≦0.40、0.30≦b/(a+b+c)≦0.40、0.25<c/(a+b+c)≦0.35、0.84≦(a+b+c+e)/(d+f)≦1.16、0.75≦(e+f)/d×100≦10.0、g/d×100≦0.6(ただし、aは第1成分のSrをSrOに換算したモル数、bは第1成分のBaをBaOに換算したモル数、cは第1成分のCaをCaOに換算したモル数、dは第1成分のTiをTiOに換算したモル数、eは第2成分のRをYO3/2、CeO、PrO11/6、TbO7/4、RO3/2(その他のランタノイド)にそれぞれ換算したモル数、fは第3成分のMをNbO5/2、TaO5/2にそれぞれ換算したモル数、gは第4成分のSiをSiOに換算したモル数である)であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の製造方法。
  8. 前記第1成分から前記第3成分の組成が、0.96≦(a+b+c+e)/(d+f)≦1.01であることを特徴とする請求項に記載の製造方法。
  9. 前記第2成分及び前記第3成分の組成が、0.75≦(e+f)/d×100≦4.0であることを特徴とする請求項又はに記載の製造方法。
  10. 前記第4成分の組成が、g/d×100≦0.3であることを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の製造方法。
  11. 前記磁器が、Li、Na、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Fe、Ga、In、Mo及びWの酸化物から選択される少なくとも1種からなる第5成分をさらに含有しており、0<h/d×100≦1.000(ただし、hは第5成分のLi、Na、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Fe、Ga、In、Mo、WをLiO1/2、NaO1/2、MnO、CoO4/3、NiO、CuO、ZnO、ScO3/2、FeO3/2、GaO3/2、InO3/2、MoO、WOに換算したモル数である)であることを特徴とする請求項から10のいずれか1項に記載の製造方法。
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