JP4099956B2 - 電圧依存性非直線抵抗体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電圧依存性非直線抵抗体(バリスタ)に関し、特に、(Sr、Ba、Ca)TiO3の組成を有する複合ペロブスカイト系磁器を備えたバリスタに関する。
【0002】
【従来の技術】
バリスタは、印加電圧の変化に応じて抵抗値が非直線的に変わる抵抗素子であり、具体的には、ある電圧値以上の電圧が印加されるとその抵抗値が急激に低下する抵抗素子である。
【0003】
バリスタを主に構成する磁器としては種々の組成系のものが存在しているが、(Sr、Ba、Ca)TiO3の組成を有する複合ペロブスカイト系磁器は、その抵抗値の非直線性と静電容量性との両機能を併せ備えているため、電子機器で発生するサージ電圧を吸収したり、ノイズを除去したりするのに非常に好適である。例えば、DCマイクロモータ用のリングバリスタ等に適用されている。
【0004】
この複合ペロブスカイト系磁器を備えたバリスタは、Sr、Ba及びCaのモル比を選ぶことにより、バリスタ電圧の温度依存性を制御することができる。即ち、動作中の温度上昇に伴なってバリスタ電圧(抵抗値が急激に低下する電圧)が低下し、バリスタに過大電流が流れたり熱暴走を起こすことを防止するため、温度依存性をゼロ又は正に調整することができる。特公平8−28287号公報(特開平2−146702号公報)、特開平3−45559号公報及び特許第2944697号公報(特開平3−237057号公報)には、このようにバリスタ電圧の温度依存性を調整したバリスタが記載されている。
【0005】
近年、バリスタ等の電子機器を実装するにあたって、半田付け作業の迅速化が図られていること及び高温半田や鉛フリー半田を使用することから、半田付け温度の高温化が進んでいる。このため、バリスタは、過酷な半田付け条件にさらされることとなり、局所的なサーマルショックに基づくサーマルクラックが発生し易くなってきている。さらに、バリスタの電極としては、Ag(銀)電極が一般的に用いられているが、半田付けの高温化によってこの電極のAg成分が半田内に溶出してしまい、電極の少なくとも一部が消失してバリスタとしての機能が損なわれてしまう恐れがある。
【0006】
このような従来のバリスタの問題点を解消するため、本出願人は、Sr、Ba、Ca及びTiの酸化物からなる第1成分と、R(Y及びランタノイド)の酸化物から選択される少なくとも1種からなる第2成分と、M(Nb及びTa)の酸化物から選択される少なくとも1種からなる第3成分と、Siの酸化物からなる第4成分とを含有する複合ペロブスカイト系半導体磁器の組成が、0.10≦a/(a+b+c)≦0.40、0.30≦b/(a+b+c)≦0.50、0.20<c/(a+b+c)≦0.50、0.84≦(a+b+c+e)/(d+f)≦1.16、1.0≦(e+f)/d×100≦10.0、g/d×100≦0.6(ただし、aは第1成分のSrをSrOに換算したモル数、bは第1成分のBaをBaOに換算したモル数、cは第1成分のCaをCaOに換算したモル数、dは第1成分のTiをTiO2に換算したモル数、eは第2成分のRをYO3/2、CeO2、PrO11/6、TbO7/4、RO3/2(その他のランタノイド)にそれぞれ換算したモル数、fは第3成分のMをNbO5/2、TaO5/2にそれぞれ換算したモル数、gは第4成分のSiをSiO2に換算したモル数である)であり、Mgを実質的に含まないバリスタを先に提案している(特願2000−347896)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
リングバリスタにおいては、電気的特性が優れており、かつ高温の半田付けが行われてもその機能が損なわれないこともさることながら、400kHz付近の比較的高周波帯域において、誘電損失(tanδ)が大きいことを要求される場合がある。これは、この帯域において、損失を大きくしてノイズ除去効果を最適化すること及びモータ制御回路とのマッチングを良好にすることを目的としたものである。
【0008】
複合ペロブスカイト系磁器バリスタにおいては、従来より、比較的低周波の帯域のtanδを小さくすること、例えば1kHzにおけるtanδを小さくすることは行われていた。特公平3−80325公報には、Ga2O3やSiO2の添加量を制御して1kHzにおけるtanδの増大を抑える方法が開示されている。しかし、高周波帯域のtanδの制御方法、特に400kHzのtanδを大きくする方法は全く確立されていなかった。tanδの値は、測定周波数に応じて大きく変化するするので、一般的な1kHzにおける測定値から400kHz付近の値を予測することは不可能である。
【0009】
従って本発明の目的は、400kHzのtanδが大きく、電気的特性が優れており、かつ高温の半田付けが行われてもその機能が損なわれない複合ペロブスカイト系のバリスタを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、Sr、Ba、Ca及びTiの酸化物からなる第1成分と、Tm、Yb及びLuの酸化物から選択される少なくとも1種からなる第2成分と、Siの酸化物からなる第3成分とを含有する複合ペロブスカイト系半導体磁器であり、各成分の組成が、0.10≦a/(a+b+c)≦0.40、0.30≦b/(a+b+c)≦0.50、0.20<c/(a+b+c)≦0.50、0.94≦(a+b+c+e)/d≦1.00、0.3≦e/d×100≦2.0、g/d×100≦0.3(ただし、aは第1成分のSrをSrOに換算したモル数、bは第1成分のBaをBaOに換算したモル数、cは第1成分のCaをCaOに換算したモル数、dは第1成分のTiをTiO2に換算したモル数、eは第2成分のランタノイドRをRO3/2にそれぞれ換算したモル数、gは第3成分のSiをSiO2に換算したモル数である)であるバリスタが提供される。
【0011】
半導体化剤である第2成分として、Nb、Ta及びランタノイドのLa〜Tbに代えて、Tm、Yb及びLuの酸化物から選択される少なくとも1種を用いると、400kHzにおけるtanδが大きなバリスタが得られる。
【0012】
焼結助剤として用いられるSiO2の量をできるだけ小さくすることにより、バリスタの耐サーマルショック性を高め、過酷な半田付け条件による局所的なサーマルショックに基づくサーマルクラックの発生を抑制すると共に、SiO2量の減少によって生じる焼結性の低下を(a+b+c+e)/dで表されるトータルA/B(イオン半径の関係からAサイト成分の格子内に入り得る他の元素を含めたAサイト成分のトータルモル数とBサイト成分の格子内に入り得る他の元素を含めたBサイト成分のトータルモル数との比)を調整して補償している。さらに、これらとAサイトモル比及び半導体化剤の量及び種類をバランスよく適切に選ぶことによって、バリスタの電気的特性の向上を図ることができる。
【0013】
なお、本発明では、Sr、Ba及びCaのみによるAサイト成分のモル数とTiのみによるBサイト成分のモル数との比である単純なA/Bではなく、添加物をも含めたペロブスカイト構成イオンのモル比であるトータルA/Bなるパラメータを導入している。即ち、本当に焼結性に寄与するのは、単純なA/Bではなく、このようなトータルA/Bであると考えられるためである。特に、添加物のうち半導体化剤は重要な固溶イオンであり、その添加量が多い本発明のような場合、単純なA/Bを用いると誤差が大きくなり、トータルA/Bを用いることによって初めて正確な制御が可能となり、特性ばらつきのないバリスタを提供できるのである。本発明における第2成分がペロブスカイトのAサイト、Bサイトのどちら側に固溶しているのか厳密には明確でないが、磁器としての性質、電気的特性及び耐サーマルショック性は、(a+b+c+e)/dで表される指標値で制御できることが分かった。
【0015】
第1成分の組成が、0.30≦a/(a+b+c)≦0.40、0.30≦b/(a+b+c)≦0.40、0.25≦c/(a+b+c)≦0.35であることが好ましい。
【0016】
磁器が、Li、Na、Mn、Ni、Cu、Zn、Sc、Fe、Ga、In、Mo及びWの酸化物から選択される少なくとも1種からなる第4成分をさらに含有しており、0<h/d×100≦1.00(ただし、hは第4成分のLi、Na、Mn、Ni、Cu、Zn、Sc、Fe、Ga、In、Mo、WをLiO1/2、NaO1/2、MnO、NiO、CuO、ZnO、ScO3/2、FeO3/2、GaO3/2、InO3/2、MoO3、WO3に換算したモル数である)であることも好ましい。
【0017】
この第4成分は、非直線係数αを向上させる等、電気的特性を向上させる効果がある。
【0018】
磁器の表面に形成された電極を備えており、この電極がCu又はCuを主成分とする材料からなることが好ましい。後者の場合、電極がCu合金又はガラスフリットを含むCuからなることがより好ましい。
【0019】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の一実施形態として、リングバリスタの構造を示す平面図及びそのA−A線断面図である。
【0020】
同図において、10はリング形状に形成されたバリスタ磁器、11はその一方の面上に形成された電極である。電極11はこの実施形態では、等角度を隔てて5つ設けられている。同図(B)に示すように、バリスタ磁器10は内部の半導体部分10aと、その全表面近傍に形成されたを絶縁層10bとから構成されている。
【0021】
以下このバリスタ磁器10の組成について説明する。
【0022】
バリスタ磁器10は、Sr、Ba、Ca及びTiの酸化物からなる複合ペロブスカイトの第1成分と、Y、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの酸化物から選択される少なくとも1種からなる第2成分と、Siの酸化物からなる第3成分とを含有している。aは第1成分のSrをSrOに換算したモル数、bは第1成分のBaをBaOに換算したモル数、cは第1成分のCaをCaOに換算したモル数、dは第1成分のTiをTiO2に換算したモル数、eは第2成分のYをYO3/2、ランタノイドRをRO3/2にそれぞれ換算したモル数、gは第3成分のSiをSiO2に換算したモル数であるとすると、このバリスタ磁器の組成は、0.10≦a/(a+b+c)≦0.40、0.30≦b/(a+b+c)≦0.50、0.20<c/(a+b+c)≦0.50、0.84≦(a+b+c+e)/d≦1.16、0.2≦e/d×100≦3.0、g/d×100≦0.6である。この組成は、より好ましくは、0.30≦a/(a+b+c)≦0.40、0.30≦b/(a+b+c)≦0.40、0.25≦c/(a+b+c)≦0.35、0.94≦(a+b+c+e)/d≦1.00、0.3≦e/d×100≦2.0、g/d×100≦0.3である。
【0023】
第1成分はバリスタ磁器10の主たる成分であり、複合ペロブスカイトにおいては、Sr、Ba及びCaからなるAサイト成分とTiからなるBサイト成分とから構成される。第2成分は半導体化に寄与する金属酸化物であり、第3成分は主に焼結性の改善のために添加されるものである。
【0024】
バリスタとしての電気的特性は、主にバリスタ電圧E10、その温度特性及び非直線係数αで表わされる。バリスタ電圧E10はバリスタに10mAの電流が流れる際の印加電圧値を表しており、非直線係数αは一般にα=1/log(E10/E1)で表わされる。ただし、E1はバリスタに1mAの電流が流れる際の印加電圧値である。
【0025】
Aサイト成分であるSr、Ba及びCaのモル比を、Srが0.10以上かつ0.40以下、Baが0.30以上かつ0.50以下、Caが0.20より多くかつ0.50以下となるように、より好ましくは、Srが0.30以上かつ0.40以下、Baが0.30以上かつ0.40以下、Caが0.25以上かつ0.35以下となるように、設定することによって、バリスタ電圧E10の制御性、E10温度特性及び非直線係数α等の電気的特性を向上させかつバリスタの耐サーマルショック性を高めることができる。即ち、Srが多すぎるとE10温度特性が負となってしまい、少なすぎると強度が低下してしまう。また、Baが多すぎるとE10温度特性の正となる傾向が強くなりすぎてしまい、少なすぎるとE10温度特性が負となってしまう。さらに、Caが多すぎても少なすぎてもバリスタ電圧E10に対する非直線係数αが小さくなってしまう。加えて、Caが多すぎるとバリスタ電圧E10が極端に大きくなって制御が困難となり、また、再酸化で素地が絶縁化してしまうためである。
【0026】
バリスタとしての電気的特性として、本発明では特に、400kHzにおけるtanδを大きくすることを狙っている。このため、半導体化剤として、Y、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの酸化物から選択される少なくとも1種を、より好ましくはTm、Yb及びLuの酸化物から選択される少なくとも1種を用いており、その主成分(TiO2)に対するモル%(金属イオンモル数で計算)が0.2以上かつ3.0以下となるように設定している。添加量が3.0モル%を超えるとtanδが小さくなる。添加量が0.2モル%を下回るとサーマルクラックが発生し易くなってしまう。添加量は、より好ましくは0.3以上かつ2.0以下となるように設定する。
【0027】
トータルA/Bが、0.84以上かつ1.16以下となるように、より好ましくは0.96以上かつ1.00以下となるように、設定することによって、後述するように第3成分(SiO2)の量を減らした場合にも焼結性を改善することができる。即ち、トータルA/Bが大きすぎても小さすぎても焼結が阻害され、再酸素化で素地が絶縁化してしまうためである。また、トータルA/Bが大きすぎても小さすぎてもサーマルクラックが発生し易くなってしまうためでもある。SiO2の量が少なくかつ半導体化剤が上述したように多く添加される領域においては、耐サーマルクラック性を維持するために、トータルA/Bの上限を1.16以下、より好ましくは1.00以下に制御することが必要である。
【0028】
主成分(TiO2)に対する第3成分(SiO2)のモル%が0.6以下となるように、より好ましくは0.3以下となるように、設定することによって、バリスタの耐サーマルショック性を大幅に高めることができる。即ち、SiO2は焼結助剤として添加され、これが含まれると組成が変動しても安定に焼成することができるが、その量が増えると、サーマルクラックが発生し易くなるためである。
【0029】
なお、Mgを実質的に含ませないことによって、バリスタの耐サーマルショック性を高めることができる。即ち、磁器にMgが含まれるとサーマルクラックが発生し易くなるためである。実質的に含まないとは、含有量が概ね0.001モル%未満を示している。
【0030】
バリスタ磁器10が、Li、Na、Mn、Ni、Cu、Zn、Sc、Fe、Ga、In、Mo及びWの酸化物から選択される少なくとも1種からなる第4成分(付加添加物)をさらに含有していてもよい。その含有量は、Li、Na、Mn、Ni、Cu、Zn、Sc、Fe、Ga、In、Mo、WをLiO1/2、NaO1/2、MnO、NiO、CuO、ZnO、ScO3/2、FeO3/2、GaO3/2、InO3/2、MoO3、WO3に換算したモル数であるとすると、0<h/d×100≦1.00であることが好ましい。これにより、非直線係数αが向上する等の効果がある。
【0031】
なお、バリスタ磁気10中には、このような添加物の他に不可避的不純物として他の元素、例えばP、S、K、Al、Zr等が含まれていてもよい。このような元素は、通常、酸化物として存在する。
【0032】
前述したように、バリスタ磁器10はペロブスカイト型結晶から構成される多結晶体である。各成分は、一部は結晶粒に固溶してペロブスカイト型結晶に入っており、また、一部は結晶粒界に酸化物又は複合酸化物として存在している。例えば、Ba、Ca、Sr、Ti、Y、ランタノイド等は結晶粒内に多く存在しており、Mo、W、Mn、Si等は結晶粒界に多く存在している。
【0033】
バリスタ磁器10の平均結晶粒径は、通常、0.5〜10μm、特に1〜6μm程度である。
【0034】
電極11は、Cu又はCuを主成分とする材料で形成される。電極がAgで形成されていると、半田付けの高温化によってこの電極のAg成分が半田内に溶出してしまい、電極の少なくとも一部が消失しまうが、Cu又はCuを主成分とする材料による電極11は高温下でも溶食されにくく、高温の半田作業に耐え得る。
【0035】
Cuを主成分とする材料とは、Cr、Zr、Ag、Ti、Be、Zn、Sn、Ni、Al若しくはSi等のCu合金、又はLi、Na、K、Sr、Ba、Mn、Cu、Zn、B、Si、Al、Bi若しくはPb等の酸化物によるガラスフリットを含むCuである。また、電極11の表面に、電極保護、半田濡れ性改善などの目的で、Sn、Ni、半田などをめっきしたり、防錆剤やフラックスなどを塗る場合もある。
【0036】
図2は、電極材料にCu及びAgをそれぞれ使用した場合の半田温度に対する残存電極面積の割合を示す特性図である。
【0037】
試料であるリングバリスタにフラックスを塗布して予熱した後、それぞれの温度の共晶半田による半田槽に5秒間浸漬している。
【0038】
同図から明らかのように、半田温度が400℃となると、Ag電極では溶食が進んで残存電極面積が約55.5%となっているのに対し、Cu電極では全く溶食が行われず残存電極面積が100%となっている。
【0039】
次にこのバリスタ磁器10の製造方法について簡単に説明する。
【0040】
バリスタ磁器10は、原料粉末を、混合、仮焼、粉砕、成型、脱バインダ、還元焼成、再酸化の順に処理することにより得られる。
【0041】
原料粉末には、通常、磁器の構成元素それぞれの化合物の粉末を用いる。原料粉末は、酸化物又は焼成によって酸化物となる化合物、例えば、炭酸塩、水酸化物等を用いることができる。例えば、Baについて例をあげると、その原料としては、BaCO3、BaSiO3、BaO、BaCl2、Ba(OH)2、Ba(NO3)2、アルコキシド(例えば(CH3O)2Ba)等のバリウム化合物の少なくとも1種を用いることができる。原料粉末の平均粒径は、通常、0.2〜5μm程度とする。
【0042】
まず、原料粉末を、最終組成が前述した組成となるように秤量し、通常、湿式混合する。次いで、脱水処理した後、乾燥し、1080〜1250℃程度で2〜4時間程度仮焼成する。次いで、仮焼成物を粉砕した後、有機バインダを加え、さらに水、pH調整剤、保湿剤等を加えて混合する。次いで、混合物を成型し、脱バインダ処理した後、還元雰囲気中で1250〜1400℃程度で2〜4時間程度焼成して半導体磁器を得る。
【0043】
なお、Y、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mo、W、Mn、Si、Co等の各原料粉末については、仮焼成後の混合の際に添加してもよい。
【0044】
このようにして得られた半導体磁器に対し、目的に応じた適当なバリスタ電圧が得られるように、空気等の酸化性雰囲気中において例えば800〜1000℃程度の温度で熱処理(再酸化処理)を施す。この熱処理により、表層部分に絶縁層10bが形成される。バリスタ特性は、この絶縁層の存在により発現する。この絶縁層が厚いと非直線係数α及びバリスタ電圧が大きくなり、薄いと非直線係数α及びバリスタ電圧が小さくなるので、製品として要求される特性に応じ、絶縁層が適当な厚さとなるように熱処理条件を適宜選択すればよい。
【0045】
再酸化処理後、バリスタ磁器の一方の表面にCu又はCuを主成分とする材料で電極を形成し、バリスタとする。
【0046】
【実施例】
以下、具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0047】
実施例1
この実施例1は、Aサイト成分のモル比、半導体化剤のモル%、トータルA/B並びにSiO2のモル%等の他のパラメータを一定にし、半導体化剤の種類を変えた試料による比較である。
【0048】
まず、原料としてSrCO3、BaCO3、CaCO3、TiO2、NbO5/2、SiO2を、表1に示す組成となるようにそれぞれ換算して秤量し、配合した後、湿式メディアミルを用いて10〜20時間混合し、脱水、乾燥した。
【0049】
得られた混合物をトンネル炉を用いて1150℃で仮焼成した後、粗粉砕し、再度、湿式メディアミルにより10〜20時間混合した後、脱水、乾燥した。次いで、混合物に対し1.0〜1.5重量%のポリビニルアルコールを有機バインダとして混合して造粒し、成型圧力2t/cm2で成型して、外径12mm、内径9mm、厚さ1.0mmの成型体を作製した。
【0050】
この成型体を1000℃程度の空気雰囲気中で脱バインダ処理した後、N2(95容積%)+H2(5容積%)の還元雰囲気中において、約1350℃で2時間の焼成を行い、半導体磁器を得た。次いで、半導体磁器を空気中、950℃で2時間の再酸化処理を行い、バリスタ磁器を得た。
【0051】
次いで、図1に示すように、バリスタ磁器10の一方の表面にCuペーストを塗布し、中性雰囲気下、750℃で焼き付けることによって同図に示すごとき5極のCu電極11を形成し、測定用のバリスタ試料とした。
【0052】
次いで、各試料の20℃におけるE1及びE10を測定すると共に、測定したE1及びE10を用いて、α=1/log(E10/E1)から非直線係数αを求めた。さらに、各試料の400kHzにおけるtanδを求めた。さらにまた、各試料のサーマルクラック試験を行った。
【0053】
E1及びE10の測定は、図3に示す測定回路を用いて測定した。この測定回路では、電流計30がバリスタ31と直流定電流源32との間に直列に接続され、電圧計33がバリスタ31に並列に接続されている。E1及びE10は、バリスタ31にそれぞれ1mA及び10mAの電流が流れたときのバリスタ31の両端子間の電圧値を電流計30及び電圧計33を用いて測定した。tanδは、LCRメータを用いて、測定周波数400kHz、交流振幅(発振器レベル)1Vにおける値を測定した。
【0054】
サーマルクラック試験は、室温に放置した試料の電極面にあらかじめ温度を設定した半田コテを共晶半田を供給しながら3秒間接触させて行った。半田コテの温度としては、360℃及び400℃の2つの温度を用いた。試料の数は100個とし、クラック発生の有無をアルコールを用いて目視で判別した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
試料1〜12のいずれも半田コテ温度が360℃の試験及び400℃の試験においてサーマルクラックが発生しないが、試料1、2、4、5及び6は、400kHzにおけるtanδが、たかだか47%程度と小さい。このため、半導体化剤としてNbO5/2、TaO5/2、LaO3/2、NdO3/2及びGdO3/2を用いることは、400kHzにおいて良好なtanδ特性を得るためには好ましくない。これに対して、試料3及び7〜12は、400kHzにおけるtanδが70%以上と充分大きい。従って、半導体化剤としてYO3/2、DyO3/2、HoO3/2、ErO3/2、TmO3/2、YbO3/2又はLuO3/2を用いることは本発明の好ましい範囲である。これは、請求項1に規定した半導体化剤の種類に対応する。
【0057】
さらに、試料10〜12は、400kHzにおけるtanδが100%以上とかなり大きい。従って、半導体化剤としてTmO3/2、YbO3/2又はLuO3/2を用いることは本発明のより好ましい範囲である。これは、請求項2に規定した半導体化剤の種類に対応する。特に、試料11は、400kHzにおけるtanδ及びその他の電気的特性のバランスが最良であり、このYbO3/2を半導体化剤として用いることが本発明の最も好ましい例である。
【0058】
実施例2
この実施例2は、半導体化剤の量を変えた試料による比較である。
【0059】
Aサイトモル比、半導体化剤の種類、トータルA/B並びにSiO2のモル%等の他のパラメータを一定にし、半導体化剤のモル%を表2に示されるものとしたこと以外は実施例1の場合と同様にして試料を作製し、これらについても実施例1の場合と同様な測定を行った。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
半導体化剤の量は、バリスタ磁器の耐サーマルクラック性及び400kHzにおけるtanδ特性に影響を与える。試料13は、半導体化剤が少なすぎるので、半田コテ温度が360℃の試験でサーマルクラックが発生するため好ましくない。また、試料19は、半導体化剤が多すぎるため400kHzにおけるtanδが小さくなり好ましくない。従って、半田コテ温度が360℃の試験でサーマルクラックが発生せず、かつ、400kHzにおけるtanδが70%以上である試料11及び14〜18の示す0.2〜3.0モル%が本発明の好ましい範囲である。これは、請求項1に規定した半導体化剤のモル%に対応する。
【0062】
さらに、試料14は半田コテ温度が400℃の試験においてサーマルクラックが発生するため、400℃のサーマルクラック試験でもクラックが発生せずかつ400kHzにおけるtanδが100%以上と大きい試料11及び15〜17の示す0.3〜2.0モル%が本発明のより好ましい範囲となる。これは、請求項3に規定した半導体化剤のモル%に対応する。なお、試料11の周辺の半導体化剤のモル%が本発明の最も好ましい範囲である。
【0063】
実施例3
この実施例3は、トータルA/Bを変えた試料による比較である。
【0064】
Aサイトモル比、半導体化剤のモル%及び種類並びにSiO2のモル%等の他のパラメータを一定にし、トータルA/Bを表3に示されるものとしたこと以外は実施例1の場合と同様にして試料を作製し、これらについても実施例1の場合と同様な測定を行った。結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
トータルA/Bの値は、主に磁器の焼結性に影響を与える。試料20及び25は、トータルA/Bがそれぞれ小さすぎる及び大きすぎるため、緻密な磁器を焼結することができず、再酸化処理により全体が絶縁化されてしまったためバリスタとして動作しない。さらに、サーマルクラックも半田コテ温度が360℃で発生している。
【0067】
表3から分かるように、SiO2の量が少なくかつ半導体化剤が多く添加される領域においては、耐サーマルクラック性を維持するために、トータルA/Bの特に上限を制御することが必要となる。トータルA/Bが1.16を越えると360℃でサーマルクラックが発生するようになり、トータルA/Bが1.00を越えると400℃でサーマルクラックが発生するようになる。
【0068】
また、トータルA/Bが0.84を下回ると360℃でサーマルクラックが発生するようになり、トータルA/Bが0.94を下回ると400℃でサーマルクラックが発生するようになる。
【0069】
即ち、試料11及び21〜24は、半田コテ温度が360℃の試験においてサーマルクラックが発生しないため、これら試料11及び21〜24に対応する0.84〜1.16が本発明の好ましい範囲である。これは、請求項1に規定したトータルA/Bの範囲に対応する。
【0070】
さらに、試料11及び22〜23は、半田コテ温度が400℃の試験においてもサーマルクラックが発生しないため、これら試料11及び22〜23に対応する0.94〜1.00が本発明のより好ましい範囲となる。これは、請求項4に規定したトータルA/Bの範囲に対応する。なお、試料11のごとくBサイト成分がややリッチなトータルA/B近辺が本発明の最も好ましい範囲である。
【0071】
実施例4
この実施例4は、SiO2のモル%を変えた試料による比較である。
【0072】
Aサイトモル比、半導体化剤のモル%及び種類並びにトータルA/B等の他のパラメータを一定にし、SiO2のモル%を表4に示されるものとしたこと以外は実施例1の場合と同様にして試料を作製し、これらについて、サーマルクラック試験の温度以外は実施例1の場合と同様な測定を行った。サーマルクラック試験は、半田コテの温度として、360℃、400℃及び450℃の3つの温度を用いた。結果を表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
SiO2は焼結助剤として添加され、これが含まれると組成が変動しても安定に焼成することができるが、その量が増えると、サーマルクラックが発生し易くなる。
【0075】
試料30及び31は、SiO2が多すぎるため、半田コテ温度が360℃の試験でもサーマルクラックが発生するため、好ましくない。従って、半田コテ温度が360℃の試験及び400℃の試験においてもサーマルクラックが発生しない試料11及び26〜29に対応する0.60以下が本発明の好ましい範囲である。これは、請求項1に規定したSiO2のモル%に対応する。
【0076】
さらに、試料29は半田コテ温度が450℃の試験においてサーマルクラックが発生するため、半田コテ温度が450℃の試験においてもサーマルクラックが発生しない試料11及び26〜28に対応する0.30以下が本発明のより好ましい範囲となる。これは、請求項5に規定したSiO2のモル%に対応する。なお、試料11の周辺のSiO2のモル%が本発明の最も好ましい範囲である。
【0077】
実施例5
この実施例5は、Aサイトモル比を変えた試料による比較である。
【0078】
半導体化剤のモル%及び種類、トータルA/B並びにSiO2のモル%等の他のパラメータを一定にし、Aサイトモル比を表5に示されるものとしたこと以外は実施例1の場合と同様にして試料を作製し、これらについて、バリスタ電圧E10の温度特性(温度係数)を求めた以外は実施例1の場合と同様な測定を行った。
【0079】
バリスタ電圧E10の温度特性(温度係数)ΔE10Tは、各試料について、ΔE10T={E10(85)−E10(20)}/{E10(20)×(85−20)}×100 [%/℃]から求めた。なお、E10(20)及びE10(85)は、それぞれ20℃及び85℃の温度におけるバリスタ電圧E10である。これらは恒温槽を用いて測定した。結果を表5に示す。
【0080】
【表5】
【0081】
Aサイト成分のモル比は、バリスタの電気的特性、特にバリスタ電圧E10の温度特性に大きな影響を与える。E10温度特性が負の場合は動作中の温度上昇に伴なってバリスタ電圧が低下し、バリスタに過大電流が流れたり熱暴走を起こす恐れがあるので採用できない。従って、試料44及び47はバリスタとして使用できない範囲のものである。
【0082】
E10温度特性がゼロ又は正であっても、0.06を越えることは望ましくないため、試料45及び46は好ましい範囲ではない。
【0083】
試料48はCaが多すぎるためバリスタ電圧E10が極端に高く、制御が難しい。試料43はE10温度特性が0.06以下であるが、Caが少なすぎるため、バリスタ電圧E10に対するαが低く、好ましくない。
【0084】
従って、E10温度特性が0.06以下でありかつバリスタ電圧E10に対するαがあまり低くない試料32〜42が、本発明の好ましい範囲といえる。これは、請求項1に規定したAサイトモル比に対応する。この範囲では、半田コテ温度が360℃のサーマルクラック試験でクラックの発生がなく、さらに、半田コテ温度が400℃のサーマルクラック試験でもクラックが発生しなかった。
【0085】
さらに、E10温度特性が0.02以下である試料32〜37が、本発明のより好ましい範囲である。これは、請求項6に規定したAサイトモル比に対応する。特に、試料11は、E10温度特性及び非直線係数αのバランスが最良であり、この周辺のAサイト成分のモル比が本発明の最も好ましい範囲である。
【0086】
実施例6
この実施例6は、付加添加物の種類及び量を変えた試料による比較である。
【0087】
Aサイトモル比、半導体化剤のモル%及び種類、トータルA/B並びにSiO2のモル%等の他のパラメータを一定にし、付加添加物の種類及び量を表6に示されるものとしたこと以外は実施例1の場合と同様にして試料を作製し、これらについても実施例1の場合と同様な測定を行った。結果を表6に示す。
【0088】
【表6】
【0089】
付加添加物はバリスタ電圧E10及び非直線係数α等の電気的特性を調整する作用がある。Mnはバリスタ電圧E10及び非直線係数αを大きくする。また、MoやWは非直線係数αを大きくする作用が認められる。表6には示されていないが、その他のLi、Na、Ni、Cu、Zn、Sc、Fe、Ga及びInにも同様の作用が認められる。ただし、添加量が多すぎると、焼結性が阻害され再酸化処理で磁器が絶縁化する。
【0090】
従って主成分に対するモル%が1.00以下である試料11及び49〜52が本発明の好ましい範囲である。これは、請求項7に規定した付加添加物の種類及びモル%に含まれている。
【0091】
以上述べた実施形態及び実施例は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【0092】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように本発明によれば、半導体化剤である第2成分として、Nb、Ta及びランタノイドのLa〜Tbに代えて、Y、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの酸化物から選択される少なくとも1種を用いているため、400kHzにおけるtanδが大きなバリスタが得られる。加えて、焼結助剤として用いられるSiO2の量をできるだけ小さくすることにより、バリスタの耐サーマルショック性を高め、過酷な半田付け条件による局所的なサーマルショックに基づくサーマルクラックの発生を抑制すると共に、SiO2量の減少によって生じる焼結性の低下をトータルA/Bを調整して補償している。さらに、これらとAサイトモル比及び半導体化剤の量及び種類をバランスよく適切に選ぶことによって、バリスタの電気的特性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態として、リングバリスタの構造を示す平面図及びそのA−A線断面図である。
【図2】電極材料にCu及びAgをそれぞれ使用した場合の半田温度に対する残存電極面積の割合を示す特性図である。
【図3】E1及びE10の測定回路を示す回路図である。
【符号の説明】
10 バリスタ磁器
10a 半導体部分
10b 絶縁層
11 電極
30 電流計
31 バリスタ
32 直流定電流源
33 電圧計
Claims (6)
- Sr、Ba、Ca及びTiの酸化物からなる第1成分と、Tm、Yb及びLuの酸化物から選択される少なくとも1種からなる第2成分と、Siの酸化物からなる第3成分とを含有する複合ペロブスカイト系半導体磁器であり、各成分の組成が、0.10≦a/(a+b+c)≦0.40、0.30≦b/(a+b+c)≦0.50、0.20<c/(a+b+c)≦0.50、0.94≦(a+b+c+e)/d≦1.00、0.3≦e/d×100≦2.0、g/d×100≦0.3(ただし、aは第1成分のSrをSrOに換算したモル数、bは第1成分のBaをBaOに換算したモル数、cは第1成分のCaをCaOに換算したモル数、dは第1成分のTiをTiO2に換算したモル数、eは第2成分のランタノイドRをRO3/2にそれぞれ換算したモル数、gは第3成分のSiをSiO2に換算したモル数である)であることを特徴とする電圧依存性非直線抵抗体。
- 前記第1成分の組成が、0.30≦a/(a+b+c)≦0.40、0.30≦b/(a+b+c)≦0.40、0.25≦c/(a+b+c)≦0.35であることを特徴とする請求項1に記載の電圧依存性非直線抵抗体。
- 前記磁器が、Li、Na、Mn、Ni、Cu、Zn、Sc、Fe、Ga、In、Mo及びWの酸化物から選択される少なくとも1種からなる第4成分をさらに含有しており、0<h/d×100≦1.00(ただし、hは第4成分のLi、Na、Mn、Ni、Cu、Zn、Sc、Fe、Ga、In、Mo、WをLiO1/2、NaO1/2、MnO、NiO、CuO、ZnO、ScO3/2、FeO3/2、GaO3/2、InO3/2、MoO3、WO3に換算したモル数である)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電圧依存性非直線抵抗体。
- 前記磁器の表面に形成された電極を備えており、該電極がCu又はCuを主成分とする材料からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電圧依存性非直線抵抗体。
- 前記電極がCu合金からなることを特徴とする請求項4に記載の電圧依存性非直線抵抗体。
- 前記電極がガラスフリットを含むCuからなることを特徴とする請求項4に記載の電圧依存性非直線抵抗体。
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