JP3833622B2 - ポリエステル複合繊維の製造方法及び同製造方法により得られるポリエステル複合繊維 - Google Patents

ポリエステル複合繊維の製造方法及び同製造方法により得られるポリエステル複合繊維 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱収縮特性の異なる2種類のポリエステル重合体が並列に接合した潜在捲縮性の複合繊維であって、ソフトな膨らみ感、ストレッチ性及び仕立て映えのある独特な表面感を有する織編物を提供することを可能とするポリエステル複合繊維の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、ポリエステル繊維は、多くの優れた性能を有することから合成繊維の主流として用いられている。一方、衣料用途では、近年、着用時の快適性を追求するために織編物にストレッチ性を付与する試みがされている。織編物にストレッチ性を付与する手段としては、ポリウレタン系弾性糸を使用する方法が一般的であるが、非常にコストが高く、ポリウレタン系弾性糸の耐熱性に起因する染色条件の制約がある。一方、衣料用途における快適性を得るためには、ポリウレタン系弾性糸ほどの弾性性能は必要でなく、ポリブチレンテレフタレート繊維の仮撚加工糸や溶融粘度の異なる2種類のポリエステルポリマーからなる複合繊維を収縮成分として使用した織編物が提案されている。特開平11−81069号公報には、熱収縮特性の異なる2種類のポリエステルポリマーからなる複合繊維をリラックス熱処理して捲縮を顕在化した後、織編物に使用することが提案されている。しかし、このような織編物においては、複合繊維が織編物を構成する複合糸条の収縮成分として使用される場合が多く、複合繊維の構成比率が低く、織編物にストレッチ性能を十分付与することは難しい。また、織編物に張り・腰感を付与するため、比較的単繊維繊度の大きな原糸設計となっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち本発明は、織編物としてソフトな膨らみ感、ストレッチ性及び仕立て映えのある独特な表面感を付与することを可能とするポリエステル複合繊維の製造方法を提供するものである。
【0004】
【問題を解決するための手段】
本発明の第1の要旨は、第3成分としてイソフタル酸を5〜15モル%共重合したエチレンテレフタレート単位主体の共重合ポリエステル(A)と、実質的にエチレンテレフタレート単位よりなるポリエステル(B)について、(A)と(B)の固有粘度差が0.15以上であり、(A)と(B)とを紡糸口金の上流部で複合流とした後、該複合流を先端部が円錐状に吐出部に向かって開口した形状を有する紡糸吐出孔より吐出して、800以上3000以下の紡糸ドラフト比で引き取った後、0.6以上、1.55以下の単繊維繊度(dtex)の延伸糸とすることを特徴とするポリエステル複合繊維の製造方法に関する。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0008】
本発明では、第3成分としてイソフタル酸を5〜15モル%共重合したエチレンテレフタレート単位主体の共重合ポリエステル(A)と、実質的にエチレンテレフタレート単位よりなるポリエステル(B)について、(A)と(B)の固有粘度差が0.15以上であり、(A)と(B)とを紡糸口金の上流部で複合流とした後、該複合流を先端部が円錐状に吐出部に向かって開口した形状を有する紡糸吐出孔より吐出して、800以上3000以下の紡糸ドラフト比で引き取った後、0.6以上、1.55以下の単繊維繊度(dtex)の延伸糸とする
【0009】
本発明の製造方法により得られるポリエステル複合繊維は、共重合ポリエステル(A)と実質的にエチレンテレフタレート単位よりなるポリエステル(B)を並列に接合した複合繊維であり、該ポリエステル(A)、(B)の熱収縮特性の違いにより捲縮を発現するが、本発明のように大きな粘度差を有するポリマー2成分の複合流を紡出する場合には、大きなニーリングが発生する。
【0010】
ニーリングを防止する手段は、複合流の溶融粘度を低くして高粘度側の表面張力を低下することと、吐出線速度を通常の速度よりも小さくすることが有効である。前者については、複合流の固有粘度を0.590以下とすることで、該ポリエステル(A)、(B)両成分の固有粘度差が大きくても紡糸可能となる。後者の吐出線速度低減手段については、吐出線速度を10cm/秒以下とすることでニーリングを効果的に防止できる。
【0011】
吐出線速度を上記のように小さくするには、紡糸口金の吐出孔面積を大きくすることにより達成できるが、吐出線速度を低下させる目的でただ単に吐出孔径を大きくした場合、紡糸口金の圧力損失が小さくなり、各吐出孔への溶融ポリマーの分配が不均一となるだけでなく、吐出圧力が極度に低下し、吐出線速度の変動が生じる。その結果、糸長方向に脈動が起こり繊維の太さ斑が発生する。また、引取り速度とのドラフト比が大きくなり糸切れが発生する。
【0012】
本発明ではこれらの対策として、図1に示すように、各吐出孔間への溶融ポリマーの均一分配を可能とするに十分な圧力損失が得られる細孔部を吐出孔内に確保し、その細孔部から吐出開口部に向けて円錐状に孔径が拡大する吐出孔形状とするとともに、紡糸ドラフト比が800以上3000以下の範囲で吐出開口部の外径と引取り速度を決定することで安定した紡出状態を確保することができる。ドラフト比が800未満の場合は十分なストレッチ性能が得られず、ドラフト比が3000を越えると紡糸口金直下での糸切れが発生し安定な製糸性が確保できない。
【0013】
さらに、図1に示す吐出孔内の円錐状孔径拡大部のテーパー角(θ)は10〜25°が好ましく、テーパー角が10°未満ではオリフィス長が長くなり紡糸口金の製造コストが大きくなりやすく、テーパー角が25°より大きい場合はオリフィス内の圧力変化が大きくなり糸切れが発生しやすく品質にも影響がでやすい。
【0014】
また、本発明における共重合ポリエステル(A)は、第3成分としてイソフタル酸が5〜15モル%共重合されていることが重要である。共重合成分が5モル%未満の場合には、得れる捲縮発言力が不十分であり、15モル%を超える場合には、該共重合ポリエステル(A)の融点が低下し、該ポリエステル(B)との融点温度差が拡大し、溶融複合紡糸の際、該共重合ポリエステル(A)の溶融温度が低下し、該ポリエステル(B)との溶融温度差が確保できなくなるばかりか逆転することにもなり、得られるポリエステル複合繊維の捲縮発現力が不十分となる。
【0015】
また本発明では、該共重合ポリエステル(A)を該ポリエステル(B)に比べ高粘度とすることで得られる複合繊維の捲縮発現力を向上させることが可能となり、該共重合ポリエステル(A)の紡糸時の固有粘度と該ポリエステル(B)の紡糸時の固有粘度の差が0.1より大きいことが好ましい。
【0017】
本発明における共重合ポリエステル(A)の第三成分としては、収縮性向上の点からイソフタル酸が好ましい。
【0019】
また本発明の、実質的にエチレンテレフタレート単位よりなるポリエステル(B)は、第3成分を共重合していないポリエステルホモポリマーであり、無機粒子、アルキルスルホン酸、PEG等の添加剤、改質剤を含有していても構わない。
【0020】
さらに本発明の製造方法により得られるポリエステル複合繊維を構成する2種類のポリマーの複合比率、すなわちA成分/B成分の接合時の重量比率が4/6以上6/4以下であることが必要であり、この範囲を外れる場合には捲縮発現力が不足した複合繊維となる。
【0021】
さらに、本発明の製造方法により得られる複合繊維を使用する織編物のストレッチ性能を高くするためには、該複合繊維を単独で使用するか、または該複合繊維の使用混率を高くする必要がある。このため、織編物のストレッチ性能を維持しつつ風合をソフトにするためには、該複合繊維の単繊維繊度が0.6dtex以上1.55dtex以下が必要であり、単繊維繊度が0.6dtex未満の場合は、該複合繊維から得られる織編物がストレッチ性能に劣るだけでなく、風合的にも張り・腰感の不足したものとなる。また、単繊維繊度が1.55dtexを越える場合は、該複合繊維から得られる織編物が風合的に硬く、ソフト感に欠けるものとなる。
【0022】
さらに該複合繊維の沸水収縮率は、10%以下である必要がある。ここで定義する沸水収縮率は沸水処理により発現する捲縮による収縮を除いた繊維自体の収縮率であり、10%を越える場合には該複合繊維から得られる織編物の収縮が大きく風合的に硬く、ソフト感に欠けるものとなる。
【0023】
さらに、本発明の製造方法により得られる複合繊維の熱収縮応力は、0.222cN/dtex以上である必要がある。熱収縮応力が0.222cN/dtex未満の場合は、該複合繊維から得られる織編物がストレッチ性及び張り・腰感に欠けるものとなる。
【0024】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例中の各特性値の測定、判定は、以下の方法に従った。
【0025】
(固有粘度)
試料をフェノール/テトラクロロエタン(重量比で50/50)の混合溶媒に溶解し、ウベローデ粘度計を使用して25℃で測定した。
【0026】
(繊度)
1周1mのラップリールを使用して、表示デシテックスの1/33gの張力を掛けながら250mの糸条を採取し、天秤で重量を測りデシテックス換算した。
【0027】
(沸水収縮率)
1周1mのラップリールを使用して、10回巻カセを採取し、表示デシテックスの2/11gの荷重を掛けて原糸長(L0)を測定した。荷重を除去した後、ガーゼに軽く包んだカセを沸騰水中に入れて30分間処理した。処理したカセを自然乾燥した後、沸水処理前と同様に、表示デシテックスの2/11gの荷重を掛けて原糸長(L1)を測定し、次の式により沸水収縮率を算出した。
【0028】
沸水収縮率(%)=((L0−L1)/L0)×100
(熱収縮応力)
カネボウエンジニアリング(株)製熱応力試験機「KET−1型」を使用して測定した。常温から200℃まで加熱した時の収縮応力変化をUゲージで検出し、YEW製X−Yレコーダーで記録した。測定条件は、試長100mm、昇温速度1.67℃/SEC、初荷重は表示デシテックスの1/33gとした。チャートから最大応力値(g)とピーク温度(℃)を読みとり次式から熱収縮応力を求めた。
【0029】
熱収縮応力(g)=最大応力値/2
(製糸安定性)
各実施例の条件で紡糸を行った際のニ−リング現象の程度を評価した。
【0030】
○:ニーリング現象は発生するが、紡糸口金の洗浄をすることなく48時間以上の安定製糸が可能。
【0031】
△:ニーリング現象が発生し、24時間毎の紡糸口金の洗浄を実施することで、安定製糸が可能。
【0032】
×:ニーリング現象がひどく、紡出糸がノズル面に付着し、製糸が不可能。
【0033】
○ または△を合格レベルとする。
【0034】
(織物収縮率)
原糸に撚係数100の条件で撚糸を施し、70℃90%RHの雰囲気下で40分間撚止セットした後、WJLで該サンプル糸を緯糸に使用した平織物を作成した。織物上に緯糸方向に1mの間隔で印を付けた後、経糸方向に10cm幅のサンプル布帛を切り出し130℃で30分間湿熱処理する。湿熱処理したサンプル布帛を風乾後、経糸方向の10cm幅の部分を緯糸が垂直になるように固定し、下方の他端に0.55g/dtexの荷重を付与して、先に付けた印の間隔(Lcm)を測定し、次式により織物収縮率を算出した。
【0035】
織物収縮率(%)=100−L
(織物の風合)
織物収縮率の測定に使用したサンプル布帛の引っ張り弾性を触感で評価した。
【0036】
○:ソフト感とストレッチ性があり、非常に良好である。
【0037】
△:ソフト感及びストレッチ性があり、良好である。
【0038】
×:ソフト感またはストレッチ性のいずれかが不十分である。
【0039】
○または△を合格レベルとした。
【0040】
(実施例1)
イソフタル酸(IPA)を8モル%共重合した固有粘度が0.685の共重合ポリエチレンテレフタレートをA成分とし、第3成分を共重合していない固有粘度が0.516のポリエチレンテレフタレートをB成分として使用した。紡糸温度を290℃とし、紡糸吐出孔上流側でA、B成分が面対称に合流する吐出孔を36孔有し細孔部が直径0.5mm長さ1.5mmの細孔に引き続いてテーパー角度15°で円錐状に開口し吐出出口となる先端部の直径が0.7mmとなっている複合紡糸口金より、5:5の吐出量比率でA、B成分の接合型複合流を形成した。
【0041】
該紡出糸条を冷却・給油後、2100m/分の引取り速度で巻取り95デシテックス36フィラメントの複合ポリエステル繊維の未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を1.7倍程度に延伸・熱処理して、55デシテックス36フィラメントの複合ポリエステル繊維を得た。主な製糸条件、製糸性、評価結果を表1に示した。得られた複合繊維からなる布帛はストレッチ性、ソフト感共に非常に優れたものであった。
【0042】
(実施例2、3、比較例1〜3)
A、B成分の吐出量と紡糸口金の仕様を変更した以外は実施例1と同様にして、複合ポリエステル繊維を得た。主な製糸条件、製糸性、評価結果を表1に示した。実施例2、3で得られた複合繊維からなる布帛はストレッチ性、ソフト感共に優れたものであった。比較例1では単繊維繊度が大きくソフト感に欠けるものとなった。比較例2では単繊維繊度が大きく熱収縮応力が小さいため、ストレッチ性、ソフト感に欠けるものとなった。比較例3ではドラフト比が3000を超えるため糸切れが多発し製糸安定性が不良で十分なサンプリングが困難となり布帛での評価はできなかった。
【0043】
(実施例4)
アジピン酸(ADE)10モル%を共重合した固有粘度が0.675の共重合ポリエチレンテレフタレートをA成分とする以外は実施例1と同様にして、55デシテックス36フィラメントの複合ポリエステル繊維を得た。主な製糸条件、製糸性、評価結果を表1に示した。得られた複合繊維からなる布帛はストレッチ性、ソフト感共に優れたものであった。
【0044】
(実施例5)
5−ナトリウムスルホイソフタル酸(DMS)を1.5モル%、アジピン酸(ADE)を10モル%共重合した固有粘度が0.670の共重合ポリエチレンテレフタレートをA成分とし、第3成分を共重合していない固有粘度が0.520のポリエチレンテレフタレートをB成分として使用した。紡糸温度を285℃とし、紡糸吐出孔上流側でA、B成分が面対称に合流する吐出孔を36孔有し細孔部が直径0.5mm長さ1.5mmの細孔に引き続いてテーパー角度15°で円錐状に開口し吐出出口となる先端部の直径が0.7mmとなっている複合紡糸口金より、5:5の吐出量比率でA、B成分の接合型複合流を形成した。該紡出糸条を冷却、給油後、2100m/分の引き取り速度で巻取り90デシテックス36フィラメントの複合ポリエステル繊維の未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を1.6倍程度に延伸、熱処理して、55デシテックス36フィラメントの複合ポリエステル繊維を得た。主な製糸条件、製糸性、評価結果を表1に示した。得られた複合繊維からなる布帛はストレッチ性、ソフト感共に優れたものであった。またカチオン染料に対しても良好な染色性を示した。
【0045】
【表1】
Figure 0003833622
【0046】
【発明の効果】
本発明のポリエステル複合繊維の製造方法は、複合流の吐出線速度を10cm/秒以下としてニーリングを効果的に防止し、さらに紡糸ドラフト比を800以上3000以下とすることにより、十分なストレッチ性を有するポリエステル複合繊維を安定に製造することができる。また、紡糸吐出孔の先端部を、テーパー角度(θ)10〜25°で円錐状に末広に開口した形状とすることで、吐出線速度を安定して10cm/秒以下の範囲とすることができる。このため、吐出線速度の変動により引き起こされる繊維の太さ斑の発生、糸切れ等のトラブルを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で使用する複合紡糸口金の吐出孔の概略図である。
【符号の説明】
θ テーパー角度

Claims (2)

  1. 第3成分としてイソフタル酸を5〜15モル%共重合したエチレンテレフタレート単位主体の共重合ポリエステル(A)と、実質的にエチレンテレフタレート単位よりなるポリエステル(B)について、(A)と(B)の固有粘度差が0.15以上であり、(A)と(B)とを紡糸口金の上流部で複合流とした後、該複合流を先端部が円錐状に吐出部に向かって開口した形状を有する紡糸吐出孔より吐出して、800以上3000以下の紡糸ドラフト比で引き取った後、0.6以上、1.55以下の単繊維繊度(dtex)の延伸糸とすることを特徴とするポリエステル複合繊維の製造方法。
  2. 前記紡糸吐出孔の先端部が、テーパー角度(θ)10〜25°で円錐状に吐出部に向かって開口した形状を有する請求項1記載のポリエステル複合繊維の製造方法。
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