JP4021794B2 - 織物用複合繊維及びその製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は織物用途に適したポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維及びその製造法に関する。更に詳しくは、カバーファクターが小さな薄地織物の経糸及び/又は緯糸に使用した際に、バンド状斑やスジ状欠点を発生することなく、優れた品位とソフトな風合い及びストレッチ特性を発現するポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維及びそれを工業的に安定に製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、編織物なかでもストレッチ性能を付与したストレッチ編織物が、その着用感から強く要望されている。
かかる要望を満足するために、例えば、ポリウレタン系の繊維を混繊することにより、ストレッチ性を付与した編織物が多数用いられている。
しかし、ポリウレタン系繊維は、ポリエステル系染料に染まり難いため染色工程が煩雑になることや、長期間の使用時に脆化し、性能が低下するなどの問題がある。
こうした欠点を回避する目的で、ポリウレタン系繊維の代わりに、ポリエステル系繊維の捲縮糸の応用が検討されている。
近年、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと称す)の伸長回復性に着目して、PTT系捲縮糸が提案されている。
特に、2種類のポリマーをサイド−バイ−サイド型または、偏芯的に貼合わせて、熱処理後に捲縮を発現させる潜在捲縮繊維が多数提案されている。
【0003】
特許文献1、2には、少なくとも一方の成分にPTTを用いるか、両方の成分に固有粘度の異なるPTTを用いたサイド−バイ−サイド型2成分系複合繊維、および偏芯鞘芯型複合繊維(以下、両者を含めて、PTT系複合繊維と呼称する)が開示されている。このPTT系複合繊維はソフトな風合いと、良好な捲縮発現特性を有することが特徴である。これらの先行技術には、伸縮性と伸長回復性を有し、この特性を活かして種々のストレッチ編織物、或いは嵩高性編織物への応用が可能であることが記載されている。
特に特許文献2には、沸水処理以前にも高い捲縮を有し、嵩高性に優れるPTT系複合繊維が開示されているが、しかし、該公報に開示される複合繊維は、タフタなど薄地織物に使用すると嵩高性が過度であるために織物が地厚感を呈し、カバーファクターが約2000以下の婦人服裏地など、平坦性や軽量性が要求される分野への展開が制約される問題があった。
【0004】
一方、特許文献3にはPTT系複合繊維のウースター斑を2.0%以下とすることにより、美しい布帛表面を得ることが開示されている。しかし、単にウースター斑が2.0%以下であっても、薄地織物にバンド状の染め斑が発生する場合がある。ウースター斑の測定において、該特許文献に開示されるようなノーマルモードで糸長50〜100mについての斑を測定するだけでは、薄地織物の染め品位と一致しないことが本発明者らの研究で明らかになった。即ち、PTT系複合繊維は、溶融粘性が異なる2つの成分を接合させるために、糸長方向で不規則な繊度変動が生じる場合があり、これらのさらなる改良が求められていた。
こうした糸長方向の不規則な繊度変動は、少なくとも糸長約2000mにわたってイナートモードでウースター斑を測定しなければ判明しないことが明らかになった。
【0005】
更に、特許文献4には雪だるま型や楕円型などの扁平断面を有するPTT系複合繊維が開示されている。しかし、該特許文献に開示されるような雪だるま型や楕円型の断面は、接合面が糸長方向に不均一となり易く、その結果、複合繊維を構成する単糸の断面積が不揃いになる。このような不均一性のために、繊度変動値U%が1.2%を越えたり、糸長方向に繊度が変動し、バンド状の欠点が生じることが明らかになった。
従って、薄地織物に使用してバンド状斑や、スジ状欠点の発生がなく、良好な表面平坦性と表面品位を有し、しかも適度なストレッチ性を呈することができるPTT系複合繊維の出現が強く求められていた。
【0006】
【特許文献1】
特公昭43−019108号公報
【特許文献2】
特開2002−061031号公報
【特許文献3】
特開2001−055634号公報
【特許文献4】
特開2002−180332号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、良好なストレッチ性を有するPTT系複合繊維において、それを用いたカバーファクターが小さい薄地織物を織成する際、バンド状斑やスジ状欠点の発生による表面品位欠点のない複合繊維を提供することにある。
更に、薄地織物で良好な表面平坦性、表面品位を有し、しかも適度なストレッチ性を呈することができるPTT系複合繊維及びその製造法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、PTT系複合繊維の製造において、ポリマー吐出条件と冷却条件を特定することにより、前記繊度変動値U%が飛躍的に改良されることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、次の通りのものである。
1.2つのポリエステル成分がサイド−バイ−サイド型、または偏芯鞘芯型に貼り合わされた単糸群からなり、単糸を構成する少なくとも一方の成分がポリトリメチレンテレフタレートであり、下記(1)〜(3)の要件を満足することを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維。
(1)構成する単糸の断面積比が、最大と最小で2.0以下
(2)ノーマル法で測定される繊度変動値U%が1.2%以下
(3)イナート法で測定される繊度変動値U%チャートにおいて、糸長方向に連続した波形の山と谷の差が平均デシテックスに対して8%以下
(但し、繊度変動値U%の測定は、糸長2000mにわたり測定する)
【0009】
2.繊度変動周波数解析による30〜80mの周期におけるCV値が0.5%以下であることを特徴とする1.に記載のポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維。
3.乾熱収縮応力値が0.05〜0.24cN/dtexであることを特徴とする、1.又は2.に記載のポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維。
4.単糸の断面形状が、扁平度1.2未満の実質的に円形であることを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載のポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維。
5.沸水処理前の複合繊維が螺旋捲縮を有することを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載のポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維。
6.単糸を構成する両方の成分が、ポリトリメチレンテレフタレートであることを特徴とする1.〜5.のいずれかに記載のポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維。
【0010】
7.2つのポリエステル成分がサイド−バイ−サイド型、または偏芯鞘芯型に貼り合わされた単糸群からなり、単糸を構成する少なくとも一方の成分がポリトリメチレンテレフタレートである複合繊維を製造するに際し、以下の(A)〜(D)の要件を満足することを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維の製造方法。
(A)2つのポリエステル成分の固有粘度差が、0.1〜0.9で溶融し、
(B)吐出孔あたりのポリマー吐出線速度を、4〜9m/分で吐出し、
(C)紡口面から冷却開始までの保温領域を50〜150mmとし、
(D)冷却風の時間変化を0.05m/秒以内とし、
(E)紡口から集束位置までの距離を50〜200cmとする。
8.冷却固化した繊維を、一旦巻き取ることなく、連続して延伸する直接紡糸延伸法であることを特徴とする、7.に記載のポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維の製造方法。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明においては、2つのポリエステル成分がサイド−バイ−サイド型、または偏芯鞘芯型に貼り合された単糸群からなる複合繊維で、単糸を構成する少なくとも一方の成分がPTTであり、他方の成分が他のポリエステルからなるPTT系複合繊維を対象とする。
即ち、PTTと他のポリエステルの組み合わせや、PTTどうしの組み合わせを対象とする。
本発明におけるPTT系複合繊維を構成する単糸の少なくとも一方は、PTTホモポリマー、または10モル%以下のその他のエステル繰り返し単位を含む共重合ポリトリメチレンテレフタレートである。
【0012】
共重合成分の代表例は、以下のようなものが挙げられる。
酸性分としては、イソフタール酸や5−ナトリウムスルホイソフタル酸に代表される芳香族ジカルボン酸、アジピン酸やイタコン酸に代表される脂肪族ジカルボン酸等々である。グリコール成分としては、エチレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等々である。また、ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸もその例に含まれる。これらの複数が共重合されていても良い。
PTT系複合繊維を構成する単糸の他のポリエステル成分としては、PTTの他、ポリエチレンテレフタレート(以下PETと称す)、ポリブチレンテレフタレート(以下PBTと称す)、またはこれらに第3成分を共重合させたものを用いられる。
【0013】
共重合成分の代表例は、以下のごときものが挙げられる。
第3成分としては、酸性分としてイソフタール酸や5−ナトリウムスルホイソフタル酸に代表される芳香族ジカルボン酸、アジピン酸やイタコン酸に代表される脂肪族ジカルボン酸等々である。グリコール成分としては、エチレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等々である。また、ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸もその例に含まれる。これらの複数が共重合されていても良い。
本発明に使用するPTTポリマーの製造方法は、公知のもので良い。溶融重合のみで所定の固有粘度に相当する重合度とする1段階法や、一定の固有粘度までは溶融重合で重合度を上げ、続いて固相重合で所定の固有粘度に相当する重合度まで上げる2段階法などである。後者の固相重合を組み合わせる2段階法であることが、環状ダイマーの含有率を減少させる目的から、好ましい。
1段階法で重合度を所定の固有粘度とする場合には、紡糸に供給する以前に抽出処理などにより環状ダイマーを減少させておくことが望ましい。
【0014】
本発明に使用するPTTポリマーは、トリメチレンテレフタレート環状ダイマーの含有率が2.5重量%以下であることが好ましい。トリメチレンテレフタレート環状ダイマーの含有率は、1.1重量%より少ないことが更に好ましい。更に好ましいトリメチレンテレフタレート環状ダイマー含有率は、1.0重量%以下である。
本発明においては、単糸を構成する成分が2成分ともにPTTであることが好ましい。成分の両方がPTTであると、優れたストレッチバック性が発現できる。両方の成分がPTTである場合には、トリメチレンテレフタレート環状ダイマーの含有率が、いずれも1.1重量%以下のものを使用することが、複合繊維中の環状ダイマー含有率を低減させる目的から望ましい。
【0015】
本発明におけるPTT系複合繊維の平均固有粘度は、0.7〜1.2dl/gの範囲であることが好ましい。平均固有粘度が0.7dl/g未満では、得られる複合繊維の強度が低く、布帛の機械的強度が低下し強度を要求されるスポーツ用途などへの使用が制約される。平均固有粘度が1.2dl/gを越えると、複合繊維の製造段階で糸切れが生じ、安定した製造が困難となる。好ましい平均固有粘度は0.8〜1.2dl/gの範囲である。また、そのときの両成分の固有粘度差が0.1〜0.9dl/gで、且つ、平均固有粘度が0.8〜1.2dl/gの範囲であることが更に好ましい。
【0016】
本発明において、2つのポリエステル成分の単糸断面における配合比率は、高粘度成分と低粘度成分の比率が40/60〜70/30であることが好ましい。高粘度成分の比率が40%未満になると、糸の強度が2cN/dtex未満となり、布帛の引き裂き強度が不十分となる。また、高粘度成分の比率が70%より大きいと捲縮性能が低下する。更に好ましい配合比率は、45/55〜65/35である。
本発明において、複合繊維を構成する単糸の断面積比が、最大最小で2.0以下であることが必要である。断面積比が2.0より大きいと糸長方向の捲縮ばらつきが大きくなり、布帛の表面品位が低下する。好ましい断面積比は1.5以下である。
【0017】
本発明において、ノーマル法で測定される繊度変動値U%が1.2%以下であることが必要である。繊度変動値U%が1.2%を超えると織物にした際、表面の斑が目立ち品位欠点となる。
本発明において、イナート法で測定される繊度変動値U%チャートにおいて、糸長方向に連続した波形の山と谷のデシテックスの差が8%以下であることが必要である。糸長方向に連続した山と谷のデシテックスの差が8%より大きいと織物にした際、その部分がバンド状の斑となり、品位欠点となる。
また、繊度変動周波数解析による30〜80mの周期におけるCV値が0.5%以下であることが好ましい。CV値が0.5%より大きいと織物にした際バンド状の斑になることがある。
【0018】
図1に、イナートモードで測定した糸長方向に繊度変動が発生した従来技術によるチャートを示す。図2には、同様の測定で繊度変動が解消された本発明のチャートを示す。図2に示すような、長い糸長にわたってイナートモードで測定された繊度変動が解消されたPTT系複合繊維とすることにより初めて、薄地織物にバンド状の染め斑が発生することがなく、織物品位が良好とすることが出来る。
本発明において、乾熱収縮応力値が0.05〜0.24cN/dtexであることが好ましい。乾熱収縮応力値が0.24cN/dtexを越えると、巻き取られたPTT系複合繊維が、経時的に収縮して巻締りを生じ、解舒張力の変動をきたし、織物にシボやパッカリングが発生し、品位が低下することがある。乾熱収縮応力値が0.05cN/dtex未満では、PTT系複合繊維の製造時に、安定した巻取が困難となる。更に好ましい乾熱収縮応力値は、0.05〜0.20cN/dtexである。
【0019】
本発明において、単糸の断面形状は偏平度1.2未満であることが好ましい。単糸の断面形状が偏平度1.2以上であると織物にした際、表面の滑らかさ、光沢等の品位が低下することがある。
本発明において、沸水処理前の複合繊維が螺旋捲縮を有することが好ましい。沸水処理前の複合繊維が螺旋捲縮を有せずランダムな捲縮であると、織物にした際、表面の滑らかさが低下すると共に厚み感のあるものになってしまい、薄地織物にしたとき品位の劣るものになりやすい。
好ましい乾熱収縮応力値は、0.05〜0.20cN/dtex、更に好ましくは0.05〜0.15cN/dtexである。
【0020】
本発明のPTT系複合繊維は、3.5×10-3cN/dtexの荷重を掛けて沸水処理した後に測定される伸縮伸長率(CE3.5 )が2〜15%であることが好ましい。伸縮伸長率(CE3.5 )が15%を越えると、織物表面に楊柳調シワが発生し、商品価値を損なう。伸縮伸長率(CE3.5 )が5%未満では、裏地織物のストレッチ率が小さくなる。好ましい伸縮伸長率(CE3.5 )は7〜13%である。
本発明のPTT系複合繊維は、破断伸度が30〜45%であることが好ましい。破断伸度が30%未満では、延伸切れが発生し工業的に安定した製造が困難となる。また、破断伸度が45%を越えると、破断強度が約2cN/dtex以下となり、裏地織物の引き裂き強度が低下する。更に好ましい破断伸度は36〜45%である。
【0021】
本発明のPTT系複合繊維の繊度や単糸繊度は、特に限定されないが、繊度は20〜300dtex、単糸繊度は0.5〜20dtexが使用される。
また、単糸断面形状は特に限定されるものではなく、丸、Y、W字状の異型断面や、中空断面形状などであってもよい。
本発明のPTT系複合繊維には、本発明の効果を妨げない範囲で酸化チタン等のつや消し剤や、熱安定剤、酸化防止剤、制電剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、種々の顔料等の添加剤を含有または共重合成分として含んでいても良い。
【0022】
以下、本発明の第2の発明である製造方法について説明する。
本発明の製造方法においては、2つのポリエステル成分の固有粘度差が0.1〜0.9dl/gで溶融紡糸することが必要である。
固有粘度差が0.1より小さいと、織物とした場合に、十分なストレッチ性や回復性が得られない。また、固有粘度差が0.9dl/gを越えると、紡口設計や吐出条件を変更しても、吐出時の糸曲がりや孔汚染が十分に解消されず、PTT系複合繊維の繊度変動が大きくなり好ましくない。好ましい固有粘度差は0.2〜0.6dl/gである。両方の成分がPTTである場合には、固有粘度差は0.1〜0.4であることが好ましい。
【0023】
本発明の製造方法においては、紡口面から冷却開始までの保温領域を50〜150mmとすることが必要である。
保温領域が50mmより短いとU%が1.2%より大きくなると共に、破断強度が低下する。保温領域が150mmより長いとU%波形の高低差が8%より大きくなる。保温領域の好ましい長さは70〜130mmである。
本発明の製造方法では、紡口吐出線速度が4〜9m/分であることが必要である。線速度が4m/分未満となるとU%の波形が大きくなり、連続した波形の山と谷の差が8%を超える。また、線速度が9m/分を超えると糸曲がりが大きくなると共に紡口孔周辺が汚れるため、安定した紡糸ができなくなる。好ましい吐出線速度範囲は4〜8m/分である。
【0024】
本発明の製造方法においては、冷却風の風速時間変化が0.05m/秒以下であることが必要である。風速時間変化が0.05m/秒を超えるとU%が悪化し、U%が1.2%より大きくなるかまたは連続した波形の山と谷の差が8%より大きくなる。
本発明の製造方法においては、紡口から吐出した糸条の集束位置を紡口面より50〜200cmにすることが必要である。集束位置が50cm未満だと糸条の固化が不十分であるため、融着や糸切れが生じる。また、200cmを超えると糸揺れが激しくなり、U%不良、糸切れが生じる。好ましい集束位置は紡口面より80〜160cmである。
【0025】
本発明の製造に用いる紡糸口金の吐出孔は、鉛直方向に対し20〜60度の傾斜を有していることが好ましい。吐出孔の鉛直方向に対する傾斜角とは、図4中でθ(度)を指す。鉛直方向に対して孔が傾斜していることは、組成または固有粘度の異なる2種のポリエステルを吐出する際に、溶融粘性差に起因する糸曲りを解消する重要な要件である。吐出孔が傾斜を有していない場合には、例えばPTTどうしの組み合わせで固有粘度差が拡大する程、吐出直後のフィラメントが固有粘度の高い方向へ曲がる、いわゆるベンディング現象が発生し、安定した紡糸が困難となる。
【0026】
図4においては、固有粘度の高いPTTポリマーをA側に、固有粘度の低い他のポリエステルまたはPTTポリマーをB側に供給して吐出することが好ましい。例えば、PTTポリマー同士で、固有粘度差が約0.2以上においては、ベンディングを解消し安定した紡糸を実現するには、吐出孔が鉛直方向に対して20度以上傾斜していることが好ましい。極限粘度差を拡大する場合には、傾斜角度は更に大きくすることが好ましい。しかし、傾斜角度が60度を越えると、吐出部が楕円形となり安定した紡糸が困難となる。また、孔の製作そのものにも困難を伴う。更に好ましい傾斜角度は30〜50度である。
本発明の製造方法においては、紡糸、冷却した後、未延伸糸を一旦巻き取り、別工程で延伸する2段階紡糸法でも紡糸、延伸を連続して行なう連続紡糸延伸法のどちらでも良いが、2段階法では経時変化により未延伸糸パッケージの端面に延伸斑が生じる場合があるため連続紡糸延伸法が好ましい。
【0027】
本発明の製造方法において、連続紡糸延伸法を用いる場合、巻取速度を4000m/分以下で巻取ることが好ましい。巻取速度が4000m/分を越えると、巻取後のパッケージが経時的に収縮し、パッケージの端部に起因する周期的斑が発生し、織物の品位が低下することがある。更に好ましい巻取速度は2500〜3800m/分である。
本発明の製造方法においては、紡糸速度を1000〜3000m/分で紡糸し、延伸後、熱処理することが好ましい。紡糸速度が1000m/分未満では、織物の染め品位が低下することがある。紡糸速度が3000m/分を越えると、延伸後のPTT系複合繊維の破断強度が約2cN/dtex以下となり、強度を要求される分野への展開が制約されることがある。更に好ましい紡糸速度は、1600〜2500m/分である。
【0028】
本発明の製造方法に用いる複合紡糸設備の模式図を図5に示す。
まず、一方の成分を乾燥機1で20ppm以下の水分率までに乾燥されたPTTペレットを250〜280℃の温度に設定された押出機2に供給し溶融する。他方の成分を同様にして、乾燥機3および押出機4により溶融する。
溶融PTTは、その後ベンド5及び6を経て250〜285℃に設定されたスピンヘッド7に送液され、ギヤポンプで別々に計量される。その後、スピンパック8に装着された複数の孔を有する紡糸口金9で2種類の成分が合流し、サイド−バイ−サイド貼り合わせた後、マルチフィラメント10として紡糸チャンバー内に押し出される。
押出機及びスピンヘッドの温度は、PTTペレットの極限粘度や形状によって上記範囲から最適なものを選ぶ。
【0029】
紡糸チャンバー内に押し出されたPTTマルチフィラメント10は、保温領域11を経た後、冷却風12によって室温まで冷却固化され、集束を兼ねた仕上げ剤ノズルを通った後、所定の速度で回転する第1ゴデットロール14によって引き取られ、一旦巻取ることなく、次いで第2ゴデットロール(本図では、加熱ゴデットロール)15との間で連続的に延伸した後、第3ゴデットロール16で緊張され熱処理された後、巻取機によって所定の繊度の複合繊維パッケージ17として巻き取られる。
固化したマルチフィラメント10には、引取ゴデットロール14に接する前に、仕上げ剤付与装置13によって仕上げ剤が付与される。付与する仕上げ剤は、水系エマルジョンタイプが使用される。
仕上げ剤の水系エマルジョンの濃度は、10重量%以上好ましくは15〜30重量%が採用される。
ゴデットロールの数は、2対以上が用いられる。例えば図5において、引取ゴデットロールの前に1対のプレテンションロールを設けても良い。
【0030】
2対のゴデットロール間では、ゴデットロールの周速度を異ならせることにより1.2〜3倍の延伸が行われる。
延伸に際しては、第1ゴデットロールの温度を50〜90℃、好ましくは55〜70℃が採用される。延伸後の糸は第2ゴデットロールで必要な熱処理を施される。熱処理の温度は80〜160℃、好ましくは100〜140℃が採用される。第2ゴデットロールと第3ゴデットロール間は、緊張状態で熱処理される。第3ゴデットロールは加熱ゴデットロールであっても、非加熱であってもよい。PTT系複合繊維の乾熱収縮応力値を0.05〜0.24cN/dtexとして、PTT系複合繊維の走行安定性を維持するには、第3ゴデットロールは非加熱ゴデットロールであることが好ましい。
【0031】
本発明において、延伸張力を0.3〜0.5cN/dtexとすることが好ましい。延伸張力は、引取ゴデットロール14と延伸ゴデットロール15(図5では加熱ゴデットロールと同じ)間の張力である。延伸張力が0.3cN/dtex未満では、PTT系複合繊維の強度が約2cN/dtex未満となり機械的強度が不足する。延伸張力が0.5cN/dtexを越えると、破断伸度が30%未満となり安定した紡糸が困難となる。好ましい延伸張力は0.3〜0.4cN/dtexである。延伸張力は、引取ゴデットロールと延伸ゴデットロールの周速度比、即ち延伸比と、引取ゴデットロールの温度を選定することにより決定することができる。
【0032】
本発明のPTT系複合繊維を用いた織物は、裏地用途に適性がある。例えば、婦人服や紳士服の裏地として用いると、屈曲時の圧迫感がなく、優れた衣服着用感が得られる。また、衣服に伸長応力がかかっても、縫い目などの滑落がなく優れた耐久性が得られる。
本発明のPTT系複合繊維を織物に用いる際は、無撚のままでもよく、または収束性を高める目的で、交絡もしくは撚りを付与しても良い。撚りを付与する場合には、仮撚方向と同方向もしくは異方向に撚りを付与することが採用される。この場合、撚係数を5000以下にすることが好ましい。
撚係数は次式で表される。
撚係数k=撚数T(回/m)×(仮撚加工糸の繊度;dtex)1/2
【0033】
本発明のPTT系複合繊維は、単独で使用しても良く、または、他の繊維と複合して使用しても本発明の効果を発揮できる。複合は、長繊維のままでも、あるいは短繊維として使用してもよい。複合する他の繊維としては、例えば他のポリエステル繊維やナイロン、アクリル、キュプラ、レーヨン、アセテート、ポリウレタン弾性繊維などの化合繊や、綿、麻、絹、ウールなどの天然繊維が選ばれるが、これらに限られるものではない。また、複合は長繊維でも短繊維であっても良い。
または複合繊維と他の繊維とを混繊複合した織物とするには、混繊複合糸は、他の繊維をインターレース混繊、インターレース混繊後延伸仮撚、どちらか一方のみ仮撚しその後インターレース混繊、両方別々に仮撚後インターレース混繊、どちらか一方をタスラン加工後インターレース混繊、インターレース混繊後タスラン加工、タスラン混繊、等の種々の混繊方法によって製造することができる。かかる方法によって得た混繊複合糸には、交絡度が10個/m以上、好ましくは15〜50個/m付与することが好ましい。
【0034】
以下に実施例をもって本発明を更に詳細に説明する。
なお、実施例において行った物性の測定方法及び測定条件を説明する。
(1)固有粘度
固有粘度[η]は、次式の定義に基づいて求められる値である。
[η]=lim(ηrー1)/C
C→0
定義式中のηrは、純度98%以上のo−クロロフェノール溶媒で溶解したPTTポリマーの稀釈溶液の35℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶媒の粘度で除した値であり、相対粘度と定義されているものである。Cは、g/100mlで現されるポリマー濃度である。
【0035】
(2)繊度変動値U%・U%波形高低差・繊度変動周波数解析
以下の方法で繊度変動値チャート(グラフ;Diagram Mass)を求めると同時にU%を測定する。
測定器 イブネステスター(ツエルベガーウースター社製 ウースターテスター UT−4)
測定条件
測定法 ノーマル
糸速度 100m/分
ディスクテンション強さ(Tension force) 10%
撚り(Twist) S 8000回/min
測定糸長 2000m
スケール ±10%
【0036】
・繊度変動値U%
変動チャート及び表示される変動値を直読した。
・U%波形高低差
測定法をイナートにし、糸長2000mとする以外は(2)と同条件で測定し、チャートを取る。その後、糸長方向に連続した山と谷の高低差で最大のものを読み取る。
・繊度変動周波数解析
イヴネステスターに付属の繊度変動周波数解析ソフトを用い上記条件で2000m測定し、周期とCV値を読む。
【0037】
(3)冷風速度時間変動
冷風吹き出し板の中央部を風速計クリモマスター6543(日本カノマックス製)で5分間測定し、チャートを書かせる。この間の風速最大値と最小値を読み、その差を冷風速度時間変動とする。
(4)乾熱収縮応力値
熱応力測定装置(カネボウエンジニアリング社製、商品名KE−2)を用いて測定した。
【0038】
繊維を約20cm長の長さに切り取り、これの両端を結んで輪をつくり測定器に装填する。初荷重0.05cN/dtex、昇温速度100℃/分の条件で測定し、熱応力の温度変化をチャートに書く。熱収縮応力は、高温域で山型の曲線を描く。このピーク値の読み取り値(cN)から、下記式で求められる値を乾熱収縮応力値とした。
乾熱収縮応力値(cN/dtex)=(ピーク値の読み取り値 cN)/(dtex×2)−初荷重(cN/dtex)
【0039】
(5)負荷時の伸縮伸長率(CE3.5 )
糸を周長1.125mの検尺機で10回かせ取りし、3.5×10-3cN/dtexの荷重を掛けた状態で、沸騰水中で30分間熱処理する。ついで、同荷重を掛けたまま乾熱180℃で15分間乾熱処理する。処理後、JIS−L−1013に定められた恒温恒湿室に一昼夜静置した。次いで、かせに以下に示す荷重を掛けてかせ長を測定し、以下の式から伸縮伸長率を測定する。
但し、L1=1×10-3cN/dtex荷重付加時のかせ長
L2=0.18cN/dtex荷重付加時のかせ長
【0040】
(6)捲縮の形態
糸を周長1.125mの検尺機で10回かせ取りし、無荷重で沸騰水中で30分間熱処理する。ついで風乾した後、マイクロスコープを用い倍率150倍で捲縮の形態を観察する。
(7)紡糸安定性
1錘当たり8エンドの紡口を装着した溶融紡糸―連続延伸機を用いて、各実施例ごとに2日間の溶融紡糸―連続延伸を行った。この期間中の糸切れの発生回数と、得られた複合繊維パッケージに存在する毛羽の発生頻度(毛羽発生パッケージの数の比率)から、以下のように判定した。
◎ ; 糸切れ0回、毛羽発生パッケージ比率 5%以下
○ ; 糸切れ2回以内、毛羽発生パッケージ比率 10%未満
× ; 糸切れ3回以上、毛羽発生パッケージ比率 10%以上
【0041】
(8)織物の緯斑評価
織物の作成は以下のように行った。
経糸に56dtex/24fのPTT単一の繊維(旭化成「ソロ」)の無撚糊付け糸を用い、緯糸に本発明の各実施例および比較例の56dtex/24f複合繊維を用いて平織物を作成した。
経密度 110本/2.54cm
緯密度 98本/2.54cm
織機 津田駒工業社製 ウオータージェットルームZW−303
製織速度 450回転/分
得られた生機を、オープンソーパーにて95℃で連続精練後、120℃でシリンダー乾燥した後、液流染色機にて120℃で染色を行った。次いで、175℃で仕上、幅だし熱セットの一連の処理を行った。得られた織物を、熟練した検査技術者が検査し、緯の染め品位を以下のように判定した。
◎ ;楊柳調シワやヒケ、斑などの欠点なく、極めて良好
○ ;楊柳調シワやヒケ、斑などの欠点なく、良好
× ;楊柳調シワやヒケ、斑のいずれかの欠点があり、不良
【0042】
【実施例1〜4、比較例1〜3】
本実施例では、紡口面から冷却開始までの保温領域の長さ及び冷風速度の時間変動の効果について説明する。
一方の成分として、酸化チタンを0.4重量%含む極限粘度1.3のPTTと、他方の成分として酸化チタンを0.4重量%含む極限粘度0.9のPTTペレットを図1のような紡糸機及び3対のゴデットロールを有する巻取機を用いて、56dtex/24フィラメントPTT複合繊維パッケージを製造した。
【0043】
本実施例における紡糸条件は、以下の如くである。
【0044】
紡糸時の非送風領域長、冷風経時変動、得られた繊維の物性、評価などを表1に示す。表1から明らかなように、保温領域の長さ、冷風速の時間変動が本発明の範囲であれば、得られる繊維は本発明の要件を満たし、それを緯糸に用いた織物は良好な品位を有す。
【0045】
【表1】
【0046】
【実施例5〜6、比較例4〜5】
本実施例では、PTT系複合繊維の吐出線速度と繊維のU%の効果について説明する。
紡口孔径を変えた以外は実施例1と同じ条件で複合繊維を巻取った。
得られた複合繊維及び織物の物性を、表2に示す。
表2から明らかなように、吐出線速度が本発明の範囲であれば、良好なU%及び織物品位を示す。
【0047】
【表2】
【0048】
【実施例7〜9、比較例6〜7】
本実施例においては、ポリマー固有粘度差の効果について説明する。
ポリマーの種類及び極限粘度を変更しした以外は実施例1と同じ条件で複合繊維を巻き取った。
得られた複合繊維及び織物の物性を、表3に示す。
表3から明らかなように、ポリマー固有粘度差が本発明の範囲であれば、良好な紡糸性と織物ストレッチ性能を有する。
【0049】
【表3】
【0050】
【実施例10〜11、比較例8〜9】
本実施例においては、単糸断面形状の効果について説明する。
紡口形状を変更した以外は実施例1と同じれ条件で複合繊維を巻き取った。
得られた複合繊維及び織物の物性を、表4に示す。
表4から明らかなように、単糸断面形状が本発明の範囲である実施例10〜11は良好な織物品位を示すが、2種の孔径を混在させた紡口で紡糸した断面積比が2より大きい比較例8と2つの円を接合した紡口孔形状で紡糸した偏平度が1.2より大きい比較例9は織物品位が悪いものとなった。
【0051】
【表4】
【0052】
【実施例12、比較例10〜11】
本実施例においては、紡糸口金から集束位置までの距離の効果について説明する。
集束位置までの距離を変更した以外は実施例1と同じ条件で複合繊維を巻き取った。
得られた複合繊維及び織物の物性を表5に示す。
表5から明らかなように、集束位置の距離が本発明の範囲である実施例12は良好な紡糸性を示すが、本発明の範囲外である比較例10〜11は糸切れが多く、またU%も悪い値を示した。
【0053】
【表5】
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、良好な表面品位と適度なストレッチ性を有する裏地織物に最適なPTT系複合繊維及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】イナート法で測定したU%チャートの一例を示す。(本発明範囲外の悪い例)
【図2】イナート法で測定したU%チャートの一例を示す。(本発明の例)
【図3】イヴネステスターで周波数解析を行なったチャートの一例を示す。
【図4】本発明の複合繊維を紡糸する際に使用する吐出孔の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の複合繊維を製造する紡糸―延伸設備の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
1:ポリマーチップ乾燥機
2:押出機
3:ポリマーチップ乾燥機
4:押出機
5:ベンド
6:ベンド
7:スピンヘッド
8:スピンパック
9:紡糸口金
10:マルチフィラメント
11:保温領域
12:冷却風
13:仕上げ剤付与装置
14:第1ゴデットロール
15:第2ゴデットロール
16:第3ゴデットロール
17:複合繊維パッケージ
Claims (5)
- 2つのポリエステル成分がサイド−バイ−サイド型、または偏心鞘芯型に貼り合わされた単糸群からなり、単糸を構成する少なくとも一方の成分がポリトリメチレンテレフタレートであり、下記(1)〜(4)の要件を満足することを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート系織物用複合繊維。
(1)構成する単糸の断面積比が、最大と最小で2.0以下
(2)ノーマル法で測定される繊度変動値U%が1.2以下
(3)イナート法で測定される繊度変動値U%チャートにおいて、糸長方向に連続した 波形の山と谷の差が平均デシテックスに対して8%以下
(但し、繊度変動値U%の測定は、糸長2000mにわたり測定する)
(4)繊度変動周波数解析による30〜80mの周期におけるCV値が0.5%以下 - 乾熱収縮応力値が0.05〜0.24cN/dtexであることを特徴とする請求項1に記載のポリトリメチレンテレフタレート系織物用複合繊維。
- 単糸の断面形状が、扁平度1.2未満の実質的に円形であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリトリメチレンテレフタレート系織物用複合繊維。
- 沸水処理前の複合繊維が螺旋捲縮を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリトリメチレンテレフタレート系織物用複合繊維。
- 単糸を構成する両方の成分がポリトリメチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリトリメチレンテレフタレート系織物用複合繊維。
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