JP3833279B2 - アンチスキッド制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、車両における制動時の車輪ロックを防止するアンチスキッド制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のアンチスキッド制御装置としては、例えば、本出願人が先に提案した特開平1−275251号公報に記載されているものが知られている。
この従来例は、各車輪に設けた車輪速検出手段の車輪速検出値のうち最も高い車輪速度検出値が実際の車体速度に最も近いことから、これをセレクトハイ車輪速として選択すると共に、前後加速度センサで検出した車体前後加速度に所定のオフセット値を加算した前後加速度補正値を積分回路に供給して、セレクトハイ車輪速を初期値としてこれから前後加速度補正値の積分値を減算することにより、推定車体速度を算出し、且つ各車輪速度検出値を微分して車輪加減速度を算出し、推定車体速度と目標スリップ率とから目標車輪速度を算出し、これらに基づいて、制動状態となったときに、先ず急増圧モードを設定し、これによって車輪速度が低下して、車輪加減速度が予め設定した減速度閾値以下となったときに保持モードとし、その後、車輪加減速度が減速度閾値を越えたときに、保持時間が短いときには急増圧モードを、長いときに緩増圧モードを夫々選択することにより、ホイールシリンダ圧を制御して制動開始時の制動圧を制御するようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来例のアンチスキッド制御装置にあっては、低圧側の保持モードとするための条件として、車輪加減速度が予め設定した減速度閾値以下となるなるか否かによって設定するようにしているので、例えば乾燥した舗装路等の高摩擦係数路を高速で走行している状態から制動状態に移行したときに、制動開始時点t0 で急増圧モードが設定されているため、車輪速度Vwが図9(a)に示すように急激に低下し、車輪加減速度Vw′が早い時点t1 で減速度閾値−α2 以下となることにより、図9(c)に示すように、保持信号が出力されて保持モードとなりホイールシリンダ圧は図9(d)に示すように、ロック圧力よりかなり下回ることになり、これによって車輪速度Vwの低下が抑制されるため、車輪速度Vwが推定車体速度VX の80%程度に設定される目標車輪速度Vw* を下回ることがなく、したがって、車輪加減速度Vw′が減速度閾値−α2 以上に回復した時点t2 まで保持モードが継続され、この保持時間が長いことにより、時点t2 で、図9(c)に示すように、保持信号と増圧信号が繰り返されて緩増圧モードが設定され、これによってホイールシリンダ圧が図9(d)に示すように、ステップ状に増加することになり、ホイールシリンダ圧が制動開始時からロック圧力に達するまでの時間が長くなって、運転者に制動初期の車両減速度不足やブレーキペダルが引っ掛かっているような違和感を与えるという未解決の課題がある。
【0004】
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、制動初期時に運転者に車両減速度不足やブレーキペダルの引っ掛かりによる違和感を与えることなく良好な制動圧制御を行うことができるアンチスキッド制御装置を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係るアンチスキッド制御装置は、図1の基本構成図に示すように、複数の車輪の速度を検出する車輪速度検出手段と、該車輪速検出手段の車輪速検出値から車輪加減速度を演算する車輪加減速度演算手段と、少なくとも前記車輪速度検出手段の車輪速度に基づいて推定車体速度を演算する推定車体速度演算手段と、前記車輪速度検出手段の車輪速度、前記車輪加減速度演算手段の車輪加減速度及び前記推定車体速度演算手段の推定車体速度に基づいて各車輪に配設された制動用シリンダの流体圧を少なくとも減圧、保持及び増圧状態の何れかに制御する制動圧制御手段とを備えたアンチスキッド制御装置において、前記制動圧制御手段は、前記推定車体速度演算手段の推定車体速度に基づいて目標車輪速度を算出する目標車輪速度算出手段と、該目標車輪速度算出手段の目標車輪速度と前記車輪速度検出手段の車輪速度との偏差及び前記車輪加減速度演算手段の車輪加減速度と減速度閾値との偏差に基づいて目標増減圧量を算出する目標増減圧量算出手段と、最初の減圧モードとなる前の制動開始時に、前記目標増減圧量算出手段の目標増減圧量が設定値以下であるときには保持モードを選択し、当該目標増減圧量が設定値を越えているときには、最初の減圧モードの前の増圧状態では少なくとも前記目標増減圧量が設定値以下となるまでは急増圧モードを選択し、最初の減圧モードの後の増圧状態では緩増圧モードを選択するモード選択手段とを備えていることを特徴としている。
【0006】
また、請求項2に係るアンチスキッド制御装置は、請求項1の発明において、前記モード選択手段は、最初の減圧モードの前の増圧状態において、目標増減圧量が設定値を越えているときに、保持モード前であるときには急増圧モードを、保持モード後であるときには緩増圧モードを選択するように構成されていることを特徴としている。
【0007】
【作用】
請求項1に係るアンチスキッド制御装置においては、車輪速度と例えば推定車体速度と目標スリップ率とを乗算して算出される目標車輪速度との偏差と、車輪加減速度と減速度閾値との偏差とに基づいて車輪スリップ率に対応した目標増減圧量を算出し、この目標増減圧量に基づいてモード選択手段で、最初の減圧モードとなる前の制動開始時に、目標増減圧量が設定値以下であるときには、保持モードを選択し、設定値を越えているときには、制動初期時の減圧モードの前の増圧状態では少なくとも目標増減圧量が設定値以下となるまでは急増圧モードを選択し、最初の減圧モード後の増圧状態では緩増圧モードを選択することにより、高摩擦係数路を高速走行中に制動状態としたときに、制動初期時には目標増減圧量が設定値を越えている状態から設定値以下となるまでは、車輪加減速度が減速度閾値に達した場合でも急増圧モードに維持して、ホイールシリンダ圧をロック圧力に近づけ、これによって車両減速度不足やブレーキペダルの引っ掛かりによる違和感の発生を防止し、その後の減圧モード後では目標増減圧量が設定値を越えたときに緩増圧モードとして通常のアンチスキッド制御を実行する。
【0008】
請求項2に係るアンチスキッド制御装置においては、制動初期時の減圧モードの前の増圧状態で保持モードが設定される前は目標増減圧量が設定値を越えているときに急増圧モードを選択し、一旦保持モードに設定された後は、目標増減圧量が設定値を越えているときに緩増圧モードとして通常のアンチスキッド制御に移行することにより、ロック圧力を大幅に越える過剰増圧を抑制し、良好な制動圧制御を行う。
【0009】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図2は本発明の一実施例を示すブロック図である。
図中、1FL,1FRは前輪、1RL,1RRは後輪であって、後輪1RL,1RRにエンジンEGからの回転駆動力が変速機T、プロペラシャフトPS及びディファレンシャルギヤDGを介して伝達され、各車輪1FL〜1RRには、それぞれ制動用シリンダとしてのホイールシリンダ2FL〜2RRが取付けられ、さらに前輪1FL,1FRにこれらの車輪回転数に応じたパルス信号PFL,PFRを出力する車輪速度検出手段としての車輪速センサ3FL,3FRが取付けられ、プロペラシャフトPSに後輪の平均回転数に応じたパルス信号PR を出力する車輪速度検出手段としての車輪速センサ3Rが取付けられている。
【0010】
各前輪側ホイールシリンダ2FL,2FRには、ブレーキペダル4の踏込みに応じて前輪側及び後輪側の2系統のマスタシリンダ圧を発生するマスタシリンダ5からのマスタシリンダ圧が前輪側アクチュエータ6FL,6FRを介して個別に供給されると共に、後輪側ホイールシリンダ2RL,2RRには、マスタシリンダ5からのマスタシリンダ圧が共通の後輪側アクチュエータ6Rを介して供給され、全体として3センサ3チャンネルシステムに構成されている。
【0011】
アクチュエータ6FL〜6Rのそれぞれは、図3に示すように、マスタシリンダ5に接続される油圧配管7とホイールシリンダ2FL〜2RRとの間に介装された電磁流入弁8と、この電磁流入弁8と並列に接続された電磁流出弁9、油圧ポンプ10及び逆止弁11の直列回路と、流出弁9及び油圧ポンプ10間の油圧配管に接続されたアキュムレータ12とを備えている。
【0012】
そして、各アクチュエータ6FL〜6Rの電磁流入弁8、電磁流出弁9及び油圧ポンプ10は、車輪速センサ3FL〜3Rからの車輪速パルス信号PFL〜PR が入力されるコントローラCRからの液圧制御信号EV、AV及びMRによって制御される。
コントローラCRは、車輪速センサ3FL〜3Rからの車輪速パルス信号PFL〜PR が入力され、これらと各車輪1FL〜1RRの回転半径とから車輪の周速度でなる車輪速度VwFL〜VwR を演算する車輪速演算回路15FL〜15Rと、これら車輪速演算回路15FL〜15Rの車輪速度VwFL〜VwR が入力され、これらに対して時間制限フィルタ処理を行う車輪速フィルタ16FL〜16Rと、これら車輪速フィルタ16FL〜16Rのフィルタ出力がこれらの内最も高い車輪速度をセレクトハイ車輪速度VwH として選択するセレクトハイスイッチ18を介して供給され、これに基づいて推定車体速度VX を演算する推定車体速度演算回路19と、車輪速演算回路15FL〜15Rの車輪速度VwFL〜VwR と車体速度演算回路19の推定車体速度VX とが入力されてこれらに基づいてアクチュエータ6FL〜6Rに対する制御信号EV,AV,MRを出力する制動圧制御手段としてのマイクロコンピュータ20とを備えており、マイクロコンピュータ20から出力される制御信号AVFL〜AVR 、EVFL〜EVR 及びMRFL〜MRR が駆動回路22aFL〜22aR 、22bFL〜22bR 及び22cFL〜22cR を介してアクチュエータ6FL〜6Rに供給される。
【0013】
そして、車輪速フィルタ16FL〜16Rの夫々は、図4に示すように、車輪速演算回路15i(i=FL,FR,R)からの車輪速度Vwi を車輪速サンプリング値VS として保持するサンプルホールド回路161と、オペアンプで構成され入力電圧Eを積分する積分回路162と、この積分回路162の積分出力Ve とサンプルホールド回路161の車輪速サンプリング値VS とを加算してフィルタ出力Vfi を算出する加算回路163と、車輪速度Vwi がフィルタ出力Vfi に対して予め設定した所定の不感帯幅内即ちVfi −1km/h<Vwi <Vfi +1km/hであるか否かを検出し、Vfi −1km/h<Vwi <Vfi +1km/hであるときに出力C1及びC2を共に低レベルとし、Vwi ≧Vfi +1km/hであるときに、出力C1を高レベルとし、Vwi ≦Vfi −1km/hであるときに出力C2を高レベルとする不感帯検出回路164と、この不感帯検出回路164で車輪速度Vwi が不感帯内となったとき及びイグニッションスイッチのオン信号IGが入力されたときに、前記サンプルホールド回路161で車輪速度Vwi を保持させると共に、積分回路162をリセットするリセット信号SRを出力するリセット回路165と、車体速度Vwi が不感帯幅内にあるとき及び不感帯幅外となってからオフディレータイマ166で設定された所定時間T3 の間積分入力電圧Eとして零電圧を積分回路162に供給し、Vwi >Vfi +1km/hとなってから所定時間T3 経過後に非アンチスキッド制御中は+0.4Gに対応する負の電圧を、アンチスキッド制御中は+10Gに対応する負の電圧をそれぞれ積分入力電圧Eとして積分回路162に供給し、さらにVwi <Vfi −1km/hとなってから所定時間T3 経過後に−1.2Gに対応する正の電圧を積分入力電圧Eとして積分回路162に供給する選択回路167とを備えている。
【0014】
この車輪速フィルタ15iによれば、図6に示すように、時点t0 で定速走行しているものとすると、この状態では、図6(a)に示すように、車輪速度Vwi の変動が殆どないので、不感帯検出回路164で加算回路163から出力されるフィルタ出力Vfi に対して設けられた不感帯内に車輪速度Vwi が収まることになり、この不感帯検出回路164からの出力C1及びC2が共に低レベルとなり、これによってリセット回路165のNORゲートO1 の出力S5が高レベルとなっており、選択回路167で“0”の電圧が選択されてこれが積分回路162に供給されることにより、その積分出力Veが“0”となって、加算回路163から前回のサンプルホールド回路161で保持されたサンプル車輪速度VSがフィルタ出力Vfi として出力されることになり、フィルタ出力Vfi も一定値となっている。
【0015】
この状態から時点t1 でブレーキペダル4を踏込んで制動状態とし、これによってホイールシリンダ2iの圧力が高くなって車輪速度Vwi が減少して、その直前のフィルタ出力Vfi に対して1km/h分低下すると、不感帯検出回路164の出力C2が高レベルとなり、これによってリセット回路165のNORゲートの出力S5が低レベルとなるが、選択回路167のオフディレータイマ166が所定時間T3 分オン状態を継続するので、この選択回路167の出力電圧Eは“0”の状態を維持し、フィルタ出力Vfi も図6(a)で破線図示のように前回値を維持する。
【0016】
そして、時点t2 でオフディレータイマ166の遅延時間T3 が経過することにより、オフディレータイマ166の出力が低レベルに反転すると、選択回路167でANDゲートA1 の出力S4が高レベルとなって、減速度−1.2Gに相当する電圧Eが積分回路162に出力されることにより、負の積分出力Veが加算回路163に出力され、これによってフィルタ出力Vfi が図6(a)で示すように減速度−1.2Gに対応する勾配で減少する。
【0017】
その後、車輪速度Vwi が回復して、時点t3 で車輪速度Vwi がフィルタ出力Vfi の不感帯内となると、不感帯検出回路164の出力C1及びC2が共に“0”となり、これによって選択回路167で“0”の出力電圧Eが選択されることにより保持状態となり、その直後に車輪速度Vwi がフィルタ力Vfi に対して1km/h以上増加すると不感帯保持回路164の出力C1が高レベルに反転し、これによってNORゲートO1 の出力S5が低レベルとなるが、オフディレータイマ166の出力が高レベルを継続するので、フィルタ出力Vfi は保持状態を継続する。
【0018】
その後、時点t4 で、オフディレータイマ166の遅延時間T3 が経過すると、ORゲートO2 の出力S3が低レベルとなることにより、ANDゲートA2 の出力が高レベルとなり、この状態では、後述するようにアンチスキッド制御が開始されて、車輪速度Vwi が目標車輪速度Vwi 以下となった時点t2 ′でモータ制御信号MRがオン状態となるので、選択スイッチSWで+10Gに対応する電圧が選択され、これが出力電圧Eとして積分回路162に出力される。このため、フィルタ出力Vfi が図6(a)に示すように急激に上昇し、このフィルタ出力Vf1 の不感帯内に車輪速度Vwi が入る時点t5 でフィルタ出力Vfi が保持状態となる。
【0019】
その後、上記動作を繰り返してフィルタ車輪速度Vfi が増加し、その後車輪速度Vwi が減少を開始すると、フィルタ出力Vfi は時点t6 、t7 及びt8 で時点t2 と同様に所定勾配でフィルタ出力が減少し、その後時点t9 で時点t3 と同様に保持状態となり、時点t10で減少状態となる。
また、推定車体速度演算回路19は、図5に示すように、セレクトハイスイッチ18から出力されるセレクトハイ車輪速度VwH をサンプルホールドするサンプルホールド回路191a,191bと、所定周期でインクリメントされるタイマカウンタ192のカウント値をサンプルホールドするサンプルホールド回路191c,191dとを有する。
【0020】
これらサンプルホールド回路191a,191b及び191c,191dは、ホールド信号形成回路193からのホールド信号H1 及びH2 がハイレベルとなったときにサンプル値をホールドする。ホールド信号形成回路193は、セレクトハイ車輪速度VwH を微分してセレクトハイ車輪加減速度VwH ′を算出する微分回路193aと、この微分回路193aから出力されるセレクトハイ車輪加減速度VwH ′と予め設定された減速度閾値−b2 とを比較し、VwH ′<−b2 であるときにハイレベルの比較出力をホールド信号H2 として出力する比較回路193bと、後述するマイクロコンピュータ20から出力されるモータ駆動信号MRFL〜MRR が入力されるリトリガブルタイマ193cと、比較回路193bのホールド信号H2 とリトリガブルタイマ193cの出力がインバータ193dで反転された反転信号とが入力され、これらの論理積でなるホールド信号H1 を出力するANDゲート193eとを備えている。
【0021】
また、推定車体速度演算回路19は、サンプルホール回路191aから出力されるサンプリング車輪速度V0 からサンプルホールド回路191bから出力されるサンプリング車輪速度Vb を減算する減算回路195と、サンプルホールド回路191cから出力されるサンプリング値T0 からサンプルホールド回路191dから出力されるサンプリング値Tb を減算する減算回路196と、減算回路195の減算出力(V0 −Vb )を減算回路196の減算出力(T0 −Tb )で除算して車体速度勾配VXK〔=(V0 −Vb )/T0 −Tb )〕を出力する除算回路197と、この除算回路197の車体速度勾配と勾配発生回路198から出力される予め設定された車体速度勾配VXK0 とを選択する選択回路199と、タイマカウンタ192のカウント値Tからサンプルホールド回路191dのサンプリング値Tb を減算する減算回路200と、選択回路199から出力される選択出力と減算回路200から出力される減算出力(T−Tb )を乗算する乗算回路201と、前記サンプホールド回路191bのサンプリング車輪速度Vb から乗算回路201の乗算出力を減算する減算回路202と、この減算回路202の減算出力とセレクトハイ車輪速度VwH との何れかを選択する選択回路205と、この選択回路205の選択出力とセレクトハイ車輪速度VwH との何れか大きい方を選択しこれを推定車体速度VX としてマイクロコンピュータ20に出力するセレクトハイスイッチ206とを備えている。
【0022】
ここで、選択回路199は、ホールド信号形成回路193のホールド信号H2 とリトリガブルマルチバイブレータ193cの出力信号とが入力されるANDゲート207の出力信号によってセットされ、リトリガブルマルチバイブレータ193cの出力信号のハイレベルの反転によってリセットされるRS型フリップフロップ208の肯定出力がハイレベルであるときに除算回路197の出力を選択し、ローレベルであるときに勾配発生回路198の出力を選択するように構成されている。
【0023】
一方、選択回路205は、ホールド信号形成回路193の比較回路193bから出力されるホールド信号H2 が入力されてその立ち上がりから所定時間ΔT(例えば2秒程度)だけハイレベルを維持するリトリガブルタイマ209の出力がハイレベルにあるときに減算回路202の出力を選択し、ローレベルにあるときにセレクトハイ車輪速度VwH を選択するように構成されている。
【0024】
この推定車体速度演算回路19によると、説明を簡単にするために、車輪速フィルタ15iのセレクトハイ車輪速度Vwi が図6(a)に示すものであるとすると、時点t2 でフィルタ出力Vfi の勾配が−1.2Gに対応した値となることにより、比較回路193bのホールド信号H2 が高レベルに反転する。このとき、マイクロコンピュータ20から出力されるモータ駆動信号MRi が図6(c)に示すように、論理値“0”を維持しているため、リトリガブルタイマ193cの出力も低レベルを維持しており、これがインバータ193dで反転されてアンドANDゲート193eに供給されるので、このANDゲート193eから出力されるホールド信号H1 も同時に高レベルに反転する。
【0025】
このため、サンプルホールド回路191a及び191bでそのときのセレクトハイ車輪速度VwH をサンプル値V0 及びVb として夫々保持すると共に、サンプルホールド回路191c及び191dでそのときのタイマカウンタ192のカウント値Tをサンプル値T0 及びTb として夫々保持する。一方、リトリガブルタイマ193cの出力が低レベルを維持しているので、ANDゲート207の出力は低レベルを維持し、これによってフリップフロップ208はリセット状態を維持してその肯定出力は低レベルを維持するので、選択回路199では勾配発生回路198の出力VXK0 が車体速度勾配VXKとして選択され、これが乗算回路201に出力される。
【0026】
このため、時点t2 では、選択回路199から所定値VXK0 の車体速度勾配VXKが出力され、一方、減算回路200ではサンプルホールド回路191dのサンプル値Tb とタイマカウンタ192のカウント値Tとが一致しているのでホールド信号H2 によるサンプリング時点からの経過時間Tc (=T−Tb )は“0”となっており、したがって、乗算回路201から出力されるホールド信号H2 によるサンプリング時点からの車体速度変化量ΔVXKを表す乗算出力も“0”となっており、これとサンプルホールド回路191bのホールド信号H2 によるサンプリング車輪速度Vb とが減算回路202に供給されるので、この減算回路202から出力される車体速度推定値VX1(=Vb −ΔVXK)はサンプリング車輪速度Vb となり、これが選択回路205を介してセレクトハイスイッチ206に供給され、このときセレクトハイ車輪速度VwH より車体速度推定値VX1の方が大きいので、図6(b)に示すように、車体速度推定値Vx1が推定車体速度VX としてマイクロコンピュータ20に出力される。
【0027】
その後、時間の経過と共に、減算回路200から出力される経過時間TC が増加することにより、乗算回路201から出力される車体速度変化量ΔVXKが増加、これによって減算回路202から出力される車体速度推定値VX1が図6(a)で一点鎖線図示のように所定値VXK0 の車体速度勾配で減少することになり、これに応じて推定車体速度VX も図6(b)に示すように減少する。
【0028】
その後、時点t4 及び時点t5 の中間点で車体速度推定値VX1よりセレクトハイ車輪速度VwH としてのフィルタ車輪速度Vfi が大きな値となるので、選択回路206で車体速度推定値VX1に代えてセレクトハイ車輪速度VwH が選択されので、推定車体速度VX が図6(b)に示すように、セレクトハイ車輪速度VwH に応じて増加する。
【0029】
その後、時点t5 ′でリトリガブルタイマ209の設定時間ΔTがタイムアップすると、これに応じて選択回路205が車体速度推定値VX1からセレクトハイ車輪速度VwH に切換えられるが、前述したように、時点t4 後に既に推定車体速度VX としてセレクトハイ車輪速度VwH が選択されているので、継続してセレクトハイ車輪速度VwH が推定車体速度VX として選択される。
【0030】
その後、時点t6 でフィルタ出力Vfi が減少し始めると、これに応じて比較回路191bから出力されるホールド信号H2 が高レベルとなり、これによってサンプルホールド回路191b及び191dでその時点でのセレクトハイ車輪速度VwH のサンプリング値Vb 及び経過時間Tのサンプリング値Tb が保持されるが、前述したように時点t2 ′でモータ駆動信号MRi が高レベルとなっているので、ホールド信号H1 は低レベルを維持しているので、サンプルホールド回路191a及び191bでは制動開始時の初期サンプリング値V0 及びT0 を維持する。
【0031】
一方、比較回路193bから出力されるホールド信号H2 が高レベルに反転すると、モータ駆動信号MRi が高レベルを維持しているので、ANDゲート207から高レベルの出力が得られ、これによってフリップフロップ208がセットされてその肯定出力が高レベルとなるので、選択回路199が勾配発生回路198側から除算回路197側に切換えられる。
【0032】
このため、減算回路195で初期サンプリング値V0 から時点t6 でのサンプリング値Vb を減算して初期サンプリング時点からのセレクトハイ車輪速度VwH の変化量を算出すると共に、減算回路196で初期サンプリング値T0 から時点t6 でのサンプリング値Tb を減算して初期サンプリング時点からの経過時間TP を算出し、これらをを除算回路197に供給することにより実際のセレクトハイ車輪速度変化に対応した車体速度勾配VXKを算出し、これを除算回路201に供給することにより車体速度変化量ΔVXKを算出するが、この時点t6 では減算回路200での経過時間TC が“0”であるので、サンプリング車輪速度Vb がそのまま車体速度推定値VX1となり、これが推定車体速度VX として出力される。
【0033】
その後、時間の経過と共に、減算回路200から出力される経過時間TC が増加することにより、乗算回路201から出力される車体速度変化量ΔVXKが増加し、これによって減算回路202から出力される車体速度推定値VX1が減少する。その後、時点t7,8 で順次フィルタ出力Vfi が減少するので、これによって比較回路193bから出力されるホールド信号H2 が高レベルに反転し、これによってサンプルホールド回路191b及び191dでセレクトハイ車輪速度VwH のサンプリング値Vb 及び経過時間Tのサンプリング値Tb を保持し、これに基づいて車体速度勾配VXKを算出し、これに基づいて推定車体速度VX を算出する。
【0034】
さらに、マイクロコンピュータ20は、図2に示すように、例えばA/D変換機能を有する入力インタフェース回路20a、出力インタフェース回路20d、演算処理装置20b及び記憶装置20cを少なくとも有し、演算処理装置20bで、車輪速度VwFL〜VwR を微分して車輪加速度VwFL′〜VwR ′を算出し、推定車体速度演算回路19からの推定車体速度VX に基づく目標車輪速度Vw* と車輪速度VwFL〜VwR との偏差及び車輪加減速度VwFL′〜VwR ′と設定値例えば減速度閾値−α2 との偏差の和でなる目標増減圧量ΔPを算出すると共に、推定車体速度VX と車輪速度VwFL〜VwR とに基づいてスリップ率SFL〜SR を算出し、車輪速度VwFL〜VwR 、車輪加速度VwFL′〜VwR ′、スリップ率SFL〜SR 及び目標増減圧量ΔPに基づいてアクチュエータ6FL〜6Rに対する制御信号AVFL〜AVR ,EVFL〜EVR ,MRFL〜MRR を出力する。
【0035】
次に、上記実施例の動作をマイクロコンピュータ20の制動圧制御処理を示す図7を伴って説明する。この制動圧制御処理は、所定時間例えば10msec毎のタイマ割込処理として実行され、この処理において、ASはアンチスキッド制御フラグ、Lは減圧タイマを示しこれらは前回のアンチスキッド制御の終了時にステップSからステップSに移行して零にクリアされている。
【0036】
すなわち、第7図の処理が開始されると、先ずステップS1で、各車輪速演算回路15i(i=FL,FR,R)から出力される現在の車輪速検出値VwiNを読込み、次いでステップS2に移行して、前回の処理時に読込んだ車輪速検出値VwiN-1からステップS1で読込んだ車輪速検出値VwiNを減算して単位時間当たりの車輪速変化量即ち車輪加減速度Vwi ′を算出してこれを記憶装置20cの所定記憶領域に記憶し、次いでステップS3に移行して、推定車体速度演算回路19からの推定車体速度VX を読込み、次いでステップS4に移行して下記(1)式の演算を行って各輪毎のスリップ率Si を算出すると共に、下記(2)式の演算を行って目標車輪速度Vw* を算出する。
【0037】
i ={(VX −Vwi )/VX }×100 …………(1)
Vw* =S0 ・VX …………(2)
次いで、ステップS5に移行して、車輪速度Vwi 、目標車輪速度Vw* 、車輪加減速度Vwi ′にをもとに下記(3)式の演算を行って目標増減圧量ΔPを算出する。
【0038】
ΔP=K1 (Vwi −Vw* )+K2 (Vwi ′−α2 )………(3)
この(3)式において、右辺第1項が比例制御項、右辺第2項が微分制御項であり、K1 は比例ゲイン、K2 は微分ゲイン、−α2 は後述する車輪加減速度を判断するための減速度閾値である。
次いで、ステップS6に移行して、ステップS4で算出したスリップ率Si が予め設定された所定値S0 (例えば20%)以上であるか否かを判定し、Si <S0 であるときには、ステップS7に移行する。このステップS7では、減圧タイマLが現在のタイマ値Lから“1”だけデクリメントした値と“0”とを比較し、何れか大きい値を減圧タイマLの値として記憶装置20cに形成した減圧タイマカウント値記憶領域に更新記憶してからステップS8に移行する。
【0039】
このステップS8では、車両が停止近傍の速度となったとき、緩増圧モードの選択回数が所定値以上となったとき等の制御終了条件を満足するか否かを判定し、制御終了条件を満足する場合には、ステップS9に移行して、減圧タイマLを“0”にクリアし、且つアンチスキッド制御フラグASを“0”にリセットし、さらに一旦保持モードとなったことを表す制御フラグFLAGを“0”にリセットしてからステップS10に移行して、アクチュエータ6iの圧力をマスタシリンダ5の圧力に応じた圧力とする急増圧モードに設定してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。この急増圧モードでは、アクチュエータ6iに対する制御信号EV及びAVを共に論理値“0”として、アクチュエータ6iの流入弁8を開状態に、流出弁9を閉状態にそれぞれ制御する。
【0040】
一方、ステップS8の判定結果が、制御終了条件を満足しないときには、ステップS141移行して、減圧タイマLが“0”より大きいか否かを判定し、L>0であるときにはステップS12に移行して、アクチュエータ6iで減圧する減圧モードに設定してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。この減圧モードでは、アクチュエータ6iに対する制御信号EVi 、AVi 及びMRi を共に論理値“1”として、アクチュエータ6iの流入弁8を閉状態、流出弁9を開状態として、ホイールシリンダ2iに保持されている圧力を流出弁9、油圧ポンプ10及び逆止弁11を介してマスタシリンダ5側に戻し、ホイールシリンダ2iの内圧を減少させる。
【0041】
また、ステップS11の判定結果が、減圧タイマLが“0”にクリアされているときには、ステップS13に移行して、ステップS2で算出した車輪加減速度Vwi ′が予め設定された加速度閾値+α1 以上であるか否かを判定し、Vwi ′<+α1 であるときには、ステップS14に移行して、前記ステップS5で算出した目標増減圧量ΔPが予め設定した設定値ΔP0 以下であるか否かを判定し、ΔP≦ΔP0 であるときには、ステップS15に移行して、一旦低圧側の保持モードとなったか否かを表す制御フラグFLAGを“1”にセットしてからステップS16に移行する。
【0042】
このステップS16では、アクチュエータ6iをホイールシリンダ2iの内圧を一定値に保持する低圧側の保持モードに設定してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。この低圧側の保持モードでは、アクチュエータ6iに対する制御信号EVi を論理値“1”とすると共に制御信号AVi を論理値“0”として、アクチュエータ6iの流入弁8を閉状態に、流出弁9を閉状態にそれぞれ制御し、ホイールシリンダ2iの内圧をその直前の圧力に保持する。
【0043】
一方、ステップS14の判定結果がΔP>ΔP0 であるときにはステップS17に移行して、アンチスキッド制御フラグASが“1”にセットされているか否かを判定し、これが“1”にセットされているときにはそのままステップS20にジャンプし、“0”にリセットされているときには、ステップS18に移行して、前記ステップS5で算出した目標増減圧量ΔPが予め設定された前記設定値ΔP0 より大きな値の設定値ΔP1 より大きいか否かを判定し、ΔP>ΔP1 であるときには、前記ステップS9に移行し、ΔP≦ΔP1 であるときにはステップS19に移行する。
【0044】
このステップS19では、一旦保持モードとなったか否かを表す制御フラグFLAGが“0”にリセットされているか否かを判定し、これが“0”にリセットされているときには、前記ステップS9に移行し、“1”にセットされているときにはステップS20に移行する。
ステップS20では、アクチュエータ6iをホイールシリンダ2iの圧力を緩増圧させる緩増圧モードに設定してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。この緩増圧モードでは、アクチュエータ6iに対する制御信号EVi を論理値“0”及び論理値“1”に所定間隔で交互に繰り返すと共に、制御信号AVi を論理値“0”として、アクチュエータ6iの流入弁8を所定間隔で開閉し、流出弁9を閉状態とすることにより、ホイールシリンダ2iの内圧を徐々にステップ状に増圧する。
一方、前記ステップS13の判定結果が、Vwi ′≧+α1 であるときには、ステップS21に移行して、アンチスキッド制御フラグASが“0”にリセットされているか否かを判定し、制御フラグASが“0”にリセットされているときには前記ステップS9に移行し、制御フラグASが“1”にセットされているときにはステップS22に移行してアクチュエータ6iをホイールシリンダ2iの圧力を高圧側でその直前の値に保持する高圧側の保持モードに設定してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。この高圧側の保持モードでは、前述したステップS16の低圧側の保持モードと同様に、アクチュエータ6iに対する制御信号EVi を論理値“1”とすると共に制御信号AVi を論理値“0”として、アクチュエータ6iの流入弁8を閉状態に、流出弁9を閉状態にそれぞれ制御し、ホイールシリンダ2iの内圧をその直前の圧力に保持する。
【0045】
また、前記ステップS6の判定結果が、Si ≧S0 であるときにはステップS23に移行して、車輪加減速度Vwi ′が予め設定した加速度閾値+α1 以上であるか否かを判定し、Vwi ′≧+α1 であるときにはステップS24に移行して減圧タイマLを“0”にクリアしてから前記ステップS8に移行し、Vwi <+α1 であるときにはステップS25に移行して、アンチスキッド制御フラグASを“1”にセットし、減圧タイマLを正の所定値L0にセットし、さらに制御フラグFLAGを“0”にリセットしてから前記ステップS8に移行する。
【0046】
この図7の処理が制動圧制御手段に対応し、この内ステップS4の処理が目標車輪速度算出手段に対応し、ステップS5の処理が目標増減圧量算出手段に対応し、ステップS14の処理がモード選択手段に対応している。
したがって、図8に示すように、時点t0 で車両が乾燥した舗装路等の高摩擦係数路を非制動状態で高速且つ定速走行しているものとすると、この状態では、車両が定速走行しているので、ステップS2で算出される車輪加減速度Vwi ′は図8(b)に示すように“0”の状態を維持している。また、車両が定速走行状態であるので、推定車体速度VX と車輪速度Vwi とが一致しているので、ステップS3で算出されるスリップ率Si が“0”となると共に、目標車輪速度Vw* は推定車体速度VX に目標スリップ率S0 を乗算した値となるため、図8(a)で破線図示のように、推定車体速度VX の80%となり、実際の車輪速度Vwi より下回ることになる。
【0047】
したがって、ステップS5で算出される目標増減圧量ΔPは、前記()式における右辺第1項が正、第2項が負となるが、第1項の方が大きい値となるので、図8(c)に示すように、正の設定値ΔP1 より大きな値となっている。そして、スリップ率Si が“0”であるので、ステップS6からステップS7を経てステップS8に移行し、非制動状態であり制御終了条件を満足するので、ステップS9に移行して、減圧タイマL、アンチスキッド制御フラグAS及び制御フラグFLAGを共に“0”にクリアし、次いでステップS10に移行して、アクチュエータ6iを急増圧モードに設定する。この急増圧モードでは、アクチュエータ6iによってマスターシリンダ5と各ホイールシリンダ2iとが連通状態となっているが、ブレーキペダル4を踏込まない非制動状態であることにより、マスターシリンダ5の圧力が略零であるので、ホイールシリンダ2の圧力も略零を維持し、非制動状態を維持する。
【0048】
この非制動状態から時点t1 でブレーキペダル4を踏込んで制動状態とすると、これによってマスターシリンダ5の圧力が急増することにより、ホイールシリンダ2iのホイールシリンダ圧も図8(e)に示すように急増し、これに応じて車輪速度Vwi が図8(a)で実線図示のように減少を開始し、これに応じてステップS2で算出される車輪加減速度Vwi ′が負方向に増加し、ステップS4で算出されるスリップ率Si は設定スリップ率S0 に達せず、しかもステップS5で算出される目標増減圧量ΔPは車輪速度Vwi が推定車体速度VX よりも減速度が大きいので、図8(c)に示すように、車輪速度Vwi の低下に伴って徐々に減少する。
【0049】
このとき、高摩擦係数路を高速走行している状態での制動時には、車輪速度Vwi の減少が早く、これに応じて車輪加減速度Vwi ′も負方向に急増するため、時点t2 で車輪加減速度Vwi ′が通常のアンチスキッド制御における高圧側の保持モードを設定する減速度閾値−α2 以下となる。しかしながら、この状態では、ステップS5で算出される目標増減圧量ΔPが、図8(c)に示すように、保持モードを設定するための設定値ΔP0 よりも大きく、さらに緩増圧モードを設定するための設定値ΔP1 よりも大きいので、図7の処理が実行されたときに、ステップS1〜S8,S11,S13,S14,S17,S18を経て前述したステップS9に移行することにより、保持モードが設定されることなく、急増圧モードが維持される。このため、ホイールシリンダ2iのシリンダ圧は、図8(e)に示すように、マスターシリンダ5の圧力増加に応じて増加状態を継続する。
【0050】
その後、時点t3 で、ステップS5で算出される目標増減圧量ΔPが設定値ΔP1 以下となり、ステップS18からステップS19に移行するが、制御フラグFLAGが前回の処理時にステップS9で“0”にクリアされているので、ステップS9を経てステップS10に移行することにより、急増圧モードが維持される。
【0051】
その後、時点t4 で、ステップS5で算出される目標増減圧量ΔPが設定値ΔP0 以下となると、図7の処理が実行されたときに、ステップS1〜S8,S11,S13を経てステップS14に移行してときに、ΔP≦ΔP0 であるので、ステップS15に移行して制御フラグFLAGを“1”にセットしてからステップS16に移行し、高圧側の保持モードが設定され、これによって、アクチュエータ6iの流入弁8及び流出弁9が共に閉状態となって、ホイールシリンダ2iのホイールシリンダ圧が図8(e)に示すように高圧側の保持状態となり、この状態では、ホイールシリンダ圧がロック圧力に達しており、ホイールシリンダ2iで大きな制動力を発生することができる。
【0052】
この高圧側の保持状態でも車輪に対して大きな制動力が作用しているが、車輪減速度Vwi ′は図8(b)に示すように正方向に増加することになり、これに応じてステップS5で算出される目標増減圧量ΔPは図8(c)に示すように上昇し、時点t5 で設定値ΔP0 を越える状態となると、図7の処理が実行されたときに、ステップS14からステップS17,S18を経てステップS19に移行し、上述したように時点t4 以降の保持モード設定時に制御フラグFLAGが“1”にセットされていることにより、ステップS20に移行して、緩増圧モードとなる。このため、図8(d)に示すように、制御信号が保持状態と増圧状態とを繰り返す緩増圧状態となり、これによってホイールシリンダ2iのシリンダ圧が図8(e)に示すようにステップ状に増加し、シリンダ圧の増加率が大きく低減される。
【0053】
その後、時点t6 でスリップ率Si が設定スリップ率S0 を越えて、車輪速度Vwi が図8(a)に示すように設定スリップ率S0 に対応する目標車輪速度Vw* 未満となると、ステップS6からステップS23に移行し、車輪加減速度Vwi ′が図8(b)に示すように加速度閾値+α1 未満であるので、ステップS25に移行し、アンチスキッド制御フラグASが“1”にセットされると共に、減圧タイマLが正の所定値L0 に設定され且つ制御フラグFLAGが“0”にリセットされる。
【0054】
このため、ステップS8を経てステップS11に移行したときに、減圧タイマLが正の所定値L0 であるため、ステップS12に移行して、減圧モードが設定され、これによってアクチュエータ6iの流入弁8を閉状態、流出弁9を開状態とし、且つモータを駆動して油圧ポンプ10を回転駆動することにより、ホイールシリンダ2i内の作動油をマスターシリンダ5側に排出することにより、ホイールシリンダ2iのホイールシリンダ圧が図8(e)に示すように減少し始める。このホイールシリンダ圧の減少に応じて、車輪速度Vwi が減少傾向から増加傾向に反転し、これに応じて車輪加減速度Vwi ′も図8(b)に示すように正方向に増加することになる。
【0055】
その後、時点t7 で車輪速度Vwi が目標車輪速度Vw* を越えて、スリップ率Si が設定スリップ率S0 未満となると、図7の処理が実行されたときに、ステップS6からステップS7に移行して、減圧タイマLの現在値から“1”をデクリメントした値と“0”とを比較し、何れか大きい方を選択するが、前回の処理時に減圧タイマLがL0 に設定されているので、L>0となって減圧モードを維持するが、ステップS7における減圧タイマLのデクリメントによって、減圧タイマLの値が“0”以下となる時点t8 でステップS11からステップS13に移行し、この時点では車輪加減速度Vwi ′が図8(b)に示すように加速度閾値+α1 以上であるので、ステップS21に移行し、アンチスキッド制御フラグASが“1”にセットされているので、ステップS22に移行して、低圧側の保持モードが設定される。この低圧側の保持モードでは、ホイールシリンダ2iのホイールシリンダ圧が図8(e)に示すように低い状態を保持するので、これによって車輪速度Vwi が増加状態を継続する。
【0056】
その後、低圧側の保持モードを継続していることにより、車輪速度Vwi が回復して車体速度近傍となって、時点t9 で車輪加減速度Vwi が加速度閾値+α1 未満となると、ステップS13からステップS14に移行し、目標増減圧量ΔPが図8(c)に示すように、設定値ΔP0 より大きいので、ステップS17に移行し、アンチスキッド制御フラグASが“1”にセットされているので、ステップS18,S19に移行することなく直接ステップS20に移行して前述した時点t5 と同様に緩増圧モードが設定され、これによってホイールシリンダ2iのシリンダ圧が図8(e)に示すようにステップ状に増加する。
【0057】
その後、時点t10で目標増減圧量ΔPが設定値ΔP0 以下となると、ステップS14からステップS15を経てステップS16に移行して、高圧側の保持モードが設定され、これによってホイールシリンダ2iのシリンダ圧の増加が停止され、次いで時点t11で車輪速度Vwi が目標車輪速度Vw* 以下となって、スリップ率Si が設定スリップ率S0 以上となると、前述した時点t6 と同様にステップS6からステップS23を経てステップS25に移行し、ステップS8,S11を経てステップS12に移行することにより、減圧モードが設定され、その後時点t12で低圧側の保持モード、時点t13で緩増圧モードが夫々設定されて、アンチスキッド制御が継続される。
【0058】
そして、車両が停車するか又はブレーキペダル4の踏込みが解除されて制御終了条件を満足するとステップS8からステップS9に移行して減圧タイマL、アンチスキッド制御フラグAS及び制御フラグFLAGを共に“0”にクリアしてからステップS10に移行して急増圧モードを設定して、非制動状態の制御状態に復帰する。
【0059】
このように、上記実施例によると、制動開始時には、車輪加減速度Vwi ′が通常のアンチスキッド制御における高圧側の保持モードを設定する減速度閾値−α2 以下となっても、保持モードを設定することなく、急増圧モードを継続することにより、高摩擦係数路を高速走行している状態で制動状態として、車輪加減速度Vwi ′が負方向に急増する場合でも、ホイールシリンダ2iのシリンダ圧をロック圧近傍まで昇圧することができ、したがって従来例のように、車輪加減速度Vwi ′が減速度閾値−α2 以下となって高圧側の保持状態となり、続いて緩増圧状態となって、ホイールシリンダ圧がロック圧に達するまでの時間が長くなることがなく、減速度不足やブレーキペダルの引っ掛かり感等の違和感を進展者に与えることを確実に防止して、良好な制動力制御を行うことができる。
【0060】
また、制動開始時に一旦保持モードが設定されると、その後に目標増減圧量ΔPが設定値ΔP0 を越えた場合でも、設定値ΔP1 以下であるときには、急増圧モードに代えて緩増圧モードが設定されることにより、ホイールシリンダ2iのシリンダ圧がロック圧を遙に越えることを確実に阻止することができ、不用意に車輪がロック状態となることを防止することができる。
【0061】
さらに、一旦減圧モードとなると、アンチスキッド制御フラグASが“1”にセットされるので、図7の処理において、ステップS17からステップS18,S19に移行することが禁止されるので、急増圧モードが設定されることはなく、通常のアンチスキッド制御状態となる。
なお、上記実施例においては、推定車体速度演算回路19でセレクトハイスイッチ18によって車輪速フィルタ16FL〜16Rのフィルタ出力VfFL〜VfR のうち最も大きい値を選択して車体速度勾配VXK及び推定車体速度VX を算出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、車輪速フィルタ16FL〜16Rを省略して、車輪速演算回路15FL〜15Rの車輪速度VwFL〜VwR を使用して車体速度勾配VXK及び推定車体速度VX を演算するようにしてもよく、さらには、車両の前後方向の加速度を検出する前後方向加速度センサを設けて、その前後方向加速度検出値を積分した値と車輪速度サンプリング値とに基づいて推定車体速度VX 及び車体速度勾配VXKを算出するようにしてもよい。
【0062】
また、上記実施例においては、推定車体速度演算回路19を電子回路で構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、マイクロコンピュータ20で演算処理するようにしてもよい。
さらに、上記実施例においては、3センサ3チャンネル方式のアンチスキッド制御装置に本発明に適用した場合について説明したが、これに限定されるものてはなく、後輪側の左右輪についても個別に車輪速センサを設けて4センサ4チャンネル方式のアンチスキッド制御装置やその他の方式のアンチスキッド制御装置にも本発明を適用することができる。
【0063】
さらにまた、上記実施例においては、後輪駆動車について説明したが、これに限らず前輪駆動車、四輪駆動車にもこの発明を適用し得る。
なおさらに、前記実施例においては、制動圧制御手段としてマイクロコンピュータ20を適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、比較回路、演算回路、論理回路等の電子回路を組み合わせて制動圧制御手段を構成することもできる。
【0064】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に係る発明によれば、車輪速度と例えば推定車体速度と目標スリップ率とを乗算して算出される目標車輪速度との偏差と、車輪加減速度と減速度閾値との偏差とに基づいて車輪スリップ率に対応した目標増減圧量を算出し、この目標増減圧量に基づいてモード選択手段で、最初の減圧モードの前の制動開始時に、目標増減圧量が設定値以下であるときには、保持モードを選択し、制動初期時の減圧モードの前の増圧状態では少なくとも前記目標増減圧量が設定値以下となるまでは急増圧モードを選択し、最初の減圧モード後の増圧状態では緩増圧モードを選択することにより、高摩擦係数路を高速走行中に制動状態としたときに、制動初期時には目標増減圧量が設定値を越えている状態から設定値以下となるまでは、車輪加減速度が減速度閾値に達した場合でも急増圧モードに維持して、ホイールシリンダ圧をロック圧力に近づけ、これによって車両減速度不足やブレーキペダルの引っ掛かりによる違和感の発生を防止し、その後の最初の減圧モード後では目標増減圧量が設定値を越えたときに緩増圧モードとして通常のアンチスキッド制御を実行することができるという効果が得られる。
【0065】
また、請求項2に係る発明によれば、制動初期時の減圧モードの前の増圧状態において保持モードが設定される前は目標増減圧量が設定値を越えているときに急増圧モードを選択し、一旦保持モードに設定された後は、目標増減圧量が設定値を越えているときに緩増圧モードとし、これによって通常のアンチスキッド制御に移行することにより、ロック圧力を大幅に越える過剰増圧を抑制し、良好な制動圧制御を行うことができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のアンチスキッド制御装置の概略構成を示す基本構成図である。
【図2】本発明のアンチスキッド制御装置の一実施例を示すブロック図である。
【図3】図2のアンチスキッド制御装置に適用し得るアクチュエータの一例を示す構成図である。
【図4】図2のアンチスキッド制御装置に適用し得る車輪速フィルタの一例を示すブロック図である。
【図5】図2のアンチスキッド制御装置に適用し得る推定車体速度演算回路の一例を示すブロック図である。
【図6】図4及び図5の車輪速フィルタ及び推定車体速度演算回路の動作の説明に供するタイムチャートである。
【図7】図2に示すアンチスキッド制御装置で実行される制動圧制御処理の一例を示すフローチャートである。
【図8】図7に示す制動圧制御処理の動作の説明に供するタイムチャートである。
【図9】従来例の動作の説明に供するタイムチャートである。
【符号の説明】
1FL〜1RR 車輪
2FL〜2RR ホイールシリンダ
3FL〜3R 車輪速センサ
4 ブレーキペダル
5 マスタシリンダ
6FL〜6R アクチュエータ
CR コントローラ
15FL〜15R 車輪速演算回路
16FL〜16R 車輪速フィルタ
19 推定車体速度演算回路
20 マイクロコンピュータ

Claims (2)

  1. 複数の車輪の速度を検出する車輪速度検出手段と、該車輪速検出手段の車輪速検出値から車輪加減速度を演算する車輪加減速度演算手段と、少なくとも前記車輪速度検出手段の車輪速度に基づいて推定車体速度を演算する推定車体速度演算手段と、前記車輪速度検出手段の車輪速度、前記車輪加減速度演算手段の車輪加減速度及び前記推定車体速度演算手段の推定車体速度に基づいて各車輪に配設された制動用シリンダの流体圧を少なくとも減圧、保持及び増圧状態の何れかに制御する制動圧制御手段とを備えたアンチスキッド制御装置において、前記制動圧制御手段は、前記推定車体速度演算手段の推定車体速度に基づいて目標車輪速度を算出する目標車輪速度算出手段と、該目標車輪速度算出手段の目標車輪速度と前記車輪速度検出手段の車輪速度との偏差及び前記車輪加減速度演算手段の車輪加減速度と減速度閾値との偏差に基づいて目標増減圧量を算出する目標増減圧量算出手段と、最初の減圧モードとなる前の制動開始時に、前記目標増減圧量算出手段の目標増減圧量が設定値以下であるときには保持モードを選択し、当該目標増減圧量が設定値を越えているときには、最初の減圧モードの前の増圧状態では少なくとも前記目標増減圧量が設定値以下となるまでは急増圧モードを選択し、最初の減圧モードの後の増圧状態では緩増圧モードを選択するモード選択手段とを備えていることを特徴とするアンチスキッド制御装置。
  2. 前記モード選択手段は、最初の減圧モードの前の増圧状態において、目標増減圧量が設定値を越えているときに、保持モード前であるときには急増圧モードを、保持モード後であるときには緩増圧モードを選択するように構成されていることを特徴とする請求項1記載のアンチスキッド制御装置。
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