JP3824143B2 - サブマージアーク溶接用フラックスおよびサブマージアーク溶接継手の製造方法。 - Google Patents
サブマージアーク溶接用フラックスおよびサブマージアーク溶接継手の製造方法。 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、サブマージアーク溶接用フラックスに係り、とくに入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接に好適なフラックスおよびそれらフラックスを用いた大入熱サブマージアーク溶接継手の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
溶接施工においては、従来から、溶接能率の向上が強く要望されている。溶接能率を高めるためには、溶接入熱を高くするのが一般的であるが、通常、溶接入熱を高めると、溶接金属の靱性が低下する。これは、溶接入熱の増加に伴い溶接部の冷却速度が低下し、溶接金属の組織が粗大化しやすいことにその原因がある。
【0003】
サブマージアーク溶接法は、溶接開先内に散布したフラックス中でアークを発生させ連続溶接を行う方法であり、大電流でも安定したアークが形成でき、深い溶け込みと大きな溶着量が得られる高能率な溶接方法として、造船、橋梁、圧力容器、産業機械等の厚鋼板を接合する分野で広く利用されている。しかし、サブマージアーク溶接法は、大電流で溶接を行うため、溶接入熱が高くなり、溶接金属の靱性が低下しやすいという傾向を有していた。
【0004】
このような問題に対し、例えば、特開平7-328793号公報には、サブマージアーク溶接において、フラックスにボロン(B)酸化物を添加し、フラックスを介し溶接金属にBを含有させ溶接金属の靱性を改善する技術が開示されている。特開平7-328793号公報に記載された技術は、サブマージアーク溶接用フラックスを、B2O3:0.7 〜2.0 %を含む組成とし、ワイヤのSi含有量を低くし、フラックスとワイヤ中のMn含有量を最適化することにより、溶接金属の靱性を向上させる溶接方法である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平7-328793号公報に記載された技術によっても、490 〜520MPa級の高強度鋼材を溶接入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接で溶接して得られる溶接金属の靱性は、使用する鋼材、および/または溶接ワイヤとフラックスによって、著しく劣化する場合があり、安定して高靱性の大入熱溶接金属を得ることができないという問題が明らかとなった。
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題点を有利に解決し、溶接入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接で鋼材を溶接した場合にも、優れた靱性を有する溶接金属が得られるサブマージアーク溶接用フラックスおよびこれを使用した優れた溶接金属部靱性を有する大入熱サブマージアーク溶接継手の製造方法を提案することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、被溶接材である490 〜520MPa級鋼材を溶接入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接で接合し、得られた溶接金属の靱性に影響する各種要因について鋭意研究した。その結果、溶接入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接により得られた溶接金属の靱性は、N(窒素)に対し非常に敏感であり、N含有量のわずかな変化により、靱性が顕著に劣化する場合があることを見いだした。
【0008】
とくに、被溶接材が、TiおよびNb含有量が少ない鋼材の場合には、わずかのN含有量の増加によって、溶接金属の組織が粗大化し、靱性が著しく劣化する。これは、TiおよびNb含有量が少ない鋼材の場合には、溶接金属にTiやNbが十分に供給されず、固溶N量を最適値に調整することが難しいことによるものと考えられる。固溶N量の調整は、溶接ワイヤとしてTiやNbを含有するワイヤを使用することにより、ある程度は改善できるが、溶接ワイヤとしてTiやNbを含有しないワイヤを使用する場合には、その調整が困難であり、溶接金属靱性が著しく劣化していた。Tiを含有しないワイヤを使用した場合には、溶接金属の靭性劣化はとくに顕著となる。
【0009】
一般に、汎用性の高い、490 〜520MPa級鋼材では、Ti含有量が0.006 質量%以下、Nb含有量が0.012 質量%以下のTi、Nb含有の少ない鋼材が代表的であり、安定して高い靭性の溶接金属を得ることが難しい場合が多く、この種の鋼材の溶接にあたり安定して靭性に優れた溶接金属を得ることが熱望されている。
本発明者らは、上記した知見に基づいて、さらに検討を進めた結果、被溶接材がTiおよびNb含有量が少ない鋼材の場合に、Tiをとくに含まない溶接用ワイヤを用いて大入熱サブマージアーク溶接を行っても、溶接用フラックスに添加する鉄粉としてN含有量が0.0030質量%以下のアトマイズ鉄粉を使用することにより、安定して高靱性の溶接金属を得ることが可能であることに想到した。
【0010】
また、本発明者らは、大入熱サブマージアーク溶接金属に更なる高靱性を安定して付与するために、さらに研究を行った。まず、Tiを0.006 質量%以下、Nbを0.012 質量%以下含有する鋼材(板厚40mm)を溶接入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接して得られた溶接継手について、溶接金属の組織および靭性を調査した。その結果を、靭性(0℃における吸収エネルギー:vE0 )と組織(粒界フェライト生成量)との関係で図3に示す。図3から、粒界フェライト生成量を15面積%以下、好ましくは10面積%以下とすることにより、vE0 :40J以上という高靭性を安定して得られるという知見を得た。
【0011】
さらに、本発明者らは、溶接金属組織中の粒界フェライト生成量に及ぼす要因について検討した。その結果、図4に示すように、溶接金属中のB/N比(質量比)を適正値に調整することにより、粒界フェライト生成量を低減できることを見いだした。
また、本発明者らは、上記したような、溶接金属の組織を粒界フェライト生成量が好ましくは10面積%以下の組織とするためには、溶接用フラックスにMo,Nb 等を含有させることが好ましく、これにより、溶接金属にMo,Nb 等が含有され、溶接金属中のB/Nを適正値に調整することができ、さらなる高靭性の大入熱サブマージアーク溶接金属を安定して得ることができることを知見した。また、さらに少量のTiをフラックスに含有させることも有効であることを知見した。
【0012】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨は、つぎのとおりである。
(1)N含有量が0.0030質量%以下のアトマイズ鉄粉を、フラックス全量に対し20〜45質量%含有することを特徴とするサブマージアーク溶接用フラックス。
(2)(1)において、さらに、B化合物を、B換算でフラックス全量に対し0.03〜0.30質量%含有することを特徴とするサブマージアーク溶接用フラックス。
(3)(1)または(2)において、さらに(A)群:Mo粉、フェロモリブデン粉およびMo化合物粉のうちの1種または2種以上をMo換算で合計でフラックス全量に対し0.2 〜2.0 質量%、(B)群:Nb粉、フェロニオブ粉およびNb化合物粉のうちの1種または2種以上をNb換算で合計でフラックス全量に対し0.02〜0.15質量%、のうちから選ばれた1群または2群以上を含むことを特徴とするサブマージアーク溶接用フラックス。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、フラックス全量に対し質量%で、SiO2:10〜28%、CaCO3 :5〜15%、MgO :15〜38%、Al2O3 :3 〜20%、TiO2:2〜10%、CaF2:2〜10%、アトマイズ鉄粉、Mo粉、フェロモリブデン粉、Nb粉およびフェロニオブ粉以外の金属粉:2〜8%、のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とするサブマージアーク溶接用フラックス。
(5)Ti含有量が0.006 質量%以下、Nb含有量が0.012 質量%以下の母材組成を有する鋼材を入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接により溶接接合するサブマージアーク溶接継手の製造方法において、前記大入熱サブマージアーク溶接で使用するフラックスを、N含有量が0.0030質量%以下のアトマイズ鉄粉をフラックス全量に対し質量%で20〜45%含むフラックス組成のフラックスとすることを特徴とする優れた溶接金属部靱性を有するサブマージアーク溶接継手の製造方法。
(6)(5)において、前記フラックス組成が、さらにB化合物をフラックス全量に対しB換算で0.03〜0.30質量%を含むことを特徴とするサブマージアーク溶接継手の製造方法。
(7)(5)または(6)において、前記フラックス組成が、さらに(A)群:Mo粉、フェロモリブデン粉およびMo化合物粉のうちの1種または2種以上をMo換算で合計でフラックス全量に対し0.2 〜2.0 質量%、(B)群:Nb粉、フェロニオブ粉およびNb化合物粉のうちの1種または2種以上をNb換算で合計でフラックス全量に対し0.02〜0.15%、のうちから選ばれた1群または2群以上を含むことを特徴とするサブマージアーク溶接継手の製造方法。
(8)(5)ないし(7)のいずれかにおいて、前記フラックス組成が、さらに、フラックス全量に対し質量%で、SiO2:10〜28%、CaCO3 :5〜15%、MgO :15〜38%、Al2O3 :3 〜20%、TiO2:2〜10%、CaF2:2〜10%、アトマイズ鉄粉、Mo粉、フェロモリブデン粉、Nb粉およびフェロニオブ粉以外の金属粉:2〜8%、のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とするサブマージアーク溶接継手の製造方法。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明のサブマージアーク溶接用フラックスは、ボンドフラックスであり、入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接に好適である。まず、本発明のサブマージアーク溶接用フラックスの組成限定理由について、説明する。以下、とくにことわりのない場合にはフラックス全量に対する質量%とし、質量%は単に%で記す。
【0014】
鉄粉:20〜45%
サブマージアーク溶接用フラックスは、主として酸化物、フッ化物で構成されているが、大入熱でかつ高能率の溶接に使用するフラックスには金属粉、主として鉄粉が含有されている。フラックス中の鉄粉は、溶接時に溶融池へ移行し溶着速度を増加し、溶接能率の向上に寄与する。
本発明のサブマージアーク溶接用フラックスは、フラックス全量に対し、20〜45%の鉄粉を含有する。フラックス中の鉄粉の含有量が20%未満では、上記した効果が少なく、一方、45%を超えて含有すると、アークが不安定となりビード外観が劣化する傾向を示す。このようなことから、鉄粉の含有量は、フラックス全量に対し、20〜45%とする。
【0015】
また、本発明では、鉄粉として、N含有量が0.0030%以下のアトマイズ鉄粉を使用する。フラックス中の鉄粉に含まれるNは、溶接金属中のNを増加させ、溶接金属の靱性を低下させる。このため、本発明ではフラックス中の鉄粉のN含有量はできるだけ低減するのが好ましい。鉄粉中のN含有量が0.0030%を超えると、得られる溶接金属のN含有量が増加し、高靱性を安定して確保することが難しくなる傾向を示し、このため、本発明ではフラックス中の鉄粉のN含有量を0.0030%以下に限定した。なお、鉄粉中のN含有量は0.0025%以下とするのが好ましく、経済的な観点から0.0010%以上とするのがより好ましい。
【0016】
N含有量を低減した鉄粉としては、溶湯からアトマイズ法で製造されたアトマイズ鉄粉を用いるのが、経済的に有利である。また、アトマイズ鉄粉をフラックス原料として使用することにより、フラックス造粒時の結合剤量を少なくできるというという利点もある。
アトマイズ鉄粉は、溶湯を噴霧(アトマイズ)して粉化したのち、一般的には、脱水−乾燥−解砕−分級−仕上げ還元−解砕−分級する工程により製品とされる。通常のアトマイズ鉄粉のN含有量は、0.0050%程度であり、0.0030%以下の低Nアトマイズ鉄粉とするには、溶湯のN量を低減することはもちろんであるが、仕上げ還元工程における還元温度、冷却速度等を適正に調整する必要がある。
【0017】
B化合物:B換算で0.03〜0.30%
Bは、溶接時に溶接金属中に移行して、溶接金属中でオーステナイト粒界に生成する粗大なフェライトの生成を抑制し、溶接金属の靭性を向上させる効果を有し、Bはこのような効果を安価に達成できる。このような効果は、B化合物をB換算でフラックス全量に対し0.03%以上含有することにより顕著となる。一方、B化合物をB換算でフラックス全量に対し0.30%を超えて含有すると、溶接金属靭性が劣化する傾向がある。
【0018】
(A)群:Mo粉、フェロモリブデン粉およびMo化合物粉のうちの1種または2種以上:Mo換算で合計0.2 〜2.0 質量%、(B)群:Nb粉、フェロニオブ粉およびNb化合物粉のうちの1種または2種以上:Nb換算で合計で0.02〜0.15%、のうちの1群または2群
(A)群はMoを、また、(B)群はNbを、溶接金属中に含有させるための供給源である。Mo、Nbはいずれも、溶接時に溶接金属中に移行して、溶接金属中でオーステナイト粒界に生成する粗大なフェライトの生成を抑制し、溶接金属の靭性を向上させる効果を有している。上記した効果は、(A)群、(B)群から選ばれた1群または2群を必要に応じ選択して含有できる。
【0019】
上記した効果は、(A)群の、Mo粉、フェロモリブデン粉およびMo化合物粉のうちの1種または2種以上をMo換算で合計で0.2 %以上、(B)群の、Nb粉、フェロニオブ粉およびNb化合物粉のうちの1種または2種以上をNb換算で合計で0.02%以上で、顕著となる。一方、(A)群の、Mo粉、フェロモリブデン粉およびMo化合物粉のうちの1種または2種以上をMo換算で合計で2.0 %超、(B)群の、Nb粉、フェロニオブ粉およびNb化合物粉のうちの1種または2種以上をNb換算で合計で0.15%超、をそれぞれ超えて含有すると、溶接金属の組織が上部ベイナイトとなりやすく、溶接金属の靭性が劣化する傾向がある。
【0020】
上記した成分に加えてさらに、SiO2:10〜28%、CaCO3 :5〜15%、MgO :15〜38%、Al2O3 :3 〜20%、TiO2:2〜10%、CaF2:2〜10%、アトマイズ鉄粉、Mo粉、フェロモリブデン粉、Nb粉およびフェロニオブ粉以外の金属粉:2〜8%のうちから選ばれた1種または2種以上
本発明のフラックスは、上記した、鉄粉(アトマイズ鉄粉)、B化合物粉、およびMo粉、フェロモリブデン粉、Mo化合物粉のうちの1種または2種以上、Nb粉、フェロニオブ粉、Nb化合物粉のうちの1種または2種以上に加えてさらに、SiO2、CaCO3 、MgO 、Al2O3 、TiO2、CaF2、およびアトマイズ鉄粉、Mo粉、フェロモリブデン粉、Nb粉、フェロニオブ粉以外の金属粉、のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0021】
SiO2は、造滓剤として有効な成分であり、スラグの粘性を調整するために含有することが好ましい。SiO2の含有量が10%未満では、生成するスラグの融点が上昇する傾向となり、一方、28%を超えて含有すると、融点が低くなりすぎて、ビード外観が乱れやすくなり、また溶接金属の酸素量が増加して溶接金属の靭性が劣化する傾向となる。このため、SiO2は10〜28%とするのが好ましい。
【0022】
CaCO3 は、溶接中に分解し、CaO とCO2 とになる。このCO2 ガスにより溶接金属を外気からシールドするとともに、溶接雰囲気中の水素分圧を低下させ、溶接金属中への水素の侵入を防止するのに有効に作用する。また、CaO は、塩基性成分であり、スラグの融点を上昇させ、溶接金属の靭性を向上させる効果を有する。
【0023】
CaCO3 の含有量が5%未満では、上記したようなCO2 ガスによるシールド効果が認められず、耐水素割れ性が低下する傾向となる。一方、15%を超えて含有すると、CO2 ガスの発生量が増加し、溶接作業性、ビード外観が低下する。このため、CaCO3 は5〜15%の範囲とするのが好ましい。
MgO は、フラックスの過度の流動を防止する作用を有し、大入熱溶接におけるビード形状を安定化させる効果を有する。また、MgO は、スラグの塩基度を増加させて溶接金属中の酸素含有量を低減し、溶接金属の靭性を向上させる有用な成分である。MgO の含有量が15%未満では、上記した効果が認められず、一方、38%を超えて含有すると、融点が上昇しすぎてビード外観が劣化する傾向がある。このため、MgO は15〜38%の範囲とすることが好ましい。
【0024】
Al2O3 は、粘性を低下させずにスラグの融点を上昇させるため、スラグの融点の調整に有効な成分である。Al2O3 の含有量が3%未満では、上記した効果が認められず、一方、20%を超えて含有すると、スラグの融点が上昇しすぎてビード幅の不均一やビード外観の劣化を招く。このため、Al2O3 は3〜20%の範囲とすることが好ましい。
【0025】
TiO2は、スラグの流動性を向上させ、スラグの剥離性を改善するとともに、アーク空洞内で部分的に還元されてTiとして溶接金属中に移行し、溶接金属の靭性を改善することに有効に作用する。TiO2の含有量が2%未満では、上記した効果が認めらず、一方、10%を超えて含有すると、ビード外観が劣化する傾向を示す。このため、TiO2は2〜10%の範囲とするのが好ましい。
【0026】
CaF2は、融点を上昇させることなくスラグの塩基度を増加させることができ、溶接金属の酸素量の調整に有効である。CaF2の含有量が2%未満では、その効果が少なく、一方、10%を超えて含有すると、スラグの粘性が低下しすぎてビード外観が悪化する。このため、CaF2は2〜10%の範囲とすることが好ましい。
アトマイズ鉄粉、Mo粉、フェロモリブデン粉、Nb粉およびフェロニオブ粉以外の金属粉は、脱酸剤、あるいは合金元素源として添加するが、その含有量が2%未満では、溶接金属の靭性を確保することが難しくなるとともに、ビード外観が悪化する傾向がある。一方、8%を超えて含有すると、溶接金属の酸素量が低くなり、溶接金属の組織がベイナイトまたはマルテンサイト主体の組織となるため、溶接金属の靭性が低下する傾向がある。このため、アトマイズ鉄粉、Mo粉、フェロモリブデン粉、Nb粉およびフェロニオブ粉以外の金属粉は2〜8%の範囲とすることが好ましい。このような金属粉としては、フェロマンガン、フェロシリコン、フェロチタン、マンガン、チタン等がある。なお、金属粉は、粉末以外の形態として箔状、針状としてもよい。
【0027】
本発明のフラックスは、上記したフラックス原料を上記した範囲の所定量配合し、結合剤とともに混練し、 造粒したのち焼成される。造粒方法としては、特に限定されないが、転動式造粒機、押し出し式造粒機等を用いることが好適である。造粒後、ダスト除去、粗大粒の解砕等の整粒処理を行って、平均粒径が0.075 〜5 mmの範囲の粒子とするのが好ましい。
【0028】
なお、結合剤としては、ポリビニルアルコール等の水溶液、珪酸ソーダ水溶液、珪酸カリ水溶液、および珪酸ソーダ水溶液と珪酸カリ水溶液の混合液などが好ましい。結合剤添加量は、フラックス原料の合計量1kgあたり50〜300 cc程度とすることが好ましい。
つぎに、本発明のフラックスを使用した、溶接金属部靱性に優れた大入熱サブマージアーク溶接継手の製造方法について説明する。
【0029】
本発明の大入熱サブマージアーク溶接継手の製造方法は、被溶接材として、Ti、Nb含有量が少ない鋼材を使用し、入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接により溶接接合を行う場合に、高靱性の溶接金属を得るのにとくに有効となる。なお、鋼材の母材組成における質量%は、単に%と記す。
被溶接材として使用する鋼材は、Ti含有量が0.006 質量%以下、Nb含有量が0.012 質量%以下、好ましくはN含有量が0.0055%以下の母材組成を有する鋼材である。その他の成分としては、C:0.07〜0.18%、Si:0.40%以下、Mn:1.0 〜1.6 %、P:0.020 %以下、S:0.010 %以下を含み、あるいはさらにAl:0.05%以下を含有するのが好ましい。上記した成分以外にVを含んでもよい。なお、本発明でいう鋼材とは、厚鋼板、形鋼、鋼管、棒鋼を含むものとする。
【0030】
上記した鋼材に、所定形状の開先加工を施したのち、該開先内に本発明のフラックスを散布し、サブマージアーク溶接用鋼ワイヤを使用し、入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接により溶接接合する。
本発明におけるサブマージアーク溶接は、多電極のサブマージアーク溶接を含む、通常公知のサブマージアーク溶接法がいずれも適用でき、とくに限定する必要はない。また、溶接条件もとくに限定する必要はない。また、使用するワイヤは、特に限定する必要はなく、通常サブマージアーク溶接用鋼ワイヤであれば、通常公知のワイヤがいずれも使用できる。
【0031】
また、使用するフラックスは、N含有量が0.0030%以下のアトマイズ鉄粉を、フラックス全量に対し20〜45質量%含有するボンドフラックスである。
アトマイズ鉄粉中のN含有量が0.0030%を超えると、得られる溶接金属のN含有量が増加し、高靱性を安定して確保することが難しくなる傾向を示す。なお、鉄粉中のN含有量は0.0025%以下とするのがより好ましい。
【0032】
また、使用するフラックスには、さらにB化合物をフラックス全量に対しB換算で0.03〜0.30質量%含有することが好ましい。Bは、溶接時に溶接金属中に移行して、溶接金属中でオーステナイト粒界に生成する粗大なフェライトの生成を抑制し、溶接金属の靭性を向上させる効果を有する。
また、使用するフラックスには、さらに(A)群:Mo粉、フェロモリブデン粉およびMo化合物粉のうちの1種または2種以上:Mo換算で合計0.2 〜2.0 質量%、(B)群:Nb粉、フェロニオブ粉およびNb化合物粉のうちの1種または2種以上:Nb換算で合計で0.02〜0.15%、のうちの1群または2群を含有することが好ましい。Mo、NbをMo、Nb換算で上記した範囲内で含有することにより、Mo、Nbが溶接時に溶接金属中に移行して、溶接金属中でオーステナイト粒界に生成する粗大なフェライトの生成を抑制し、溶接金属の靭性を向上させる効果を有している。
【0033】
上記した以外のフラックス成分はとくに限定されないが、フラックス全量に対し質量%で、SiO2:10〜28%、CaCO3 :5〜15%、MgO :15〜38%、Al2O3 :3 〜20%、TiO2:2〜10%、CaF2:2〜10%、アトマイズ鉄粉、Mo粉、フェロモリブデン粉、Nb粉およびフェロニオブ粉以外の金属粉:2〜8%、のうちから選ばれた1種または2種以上を含有するフラックス組成とすることが好ましい。
【0034】
このような被溶接材、溶接材料を組み合わせ、入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接により溶接接合し、以下に示す組成、組織の、0 ℃で27J以上のシャルピー吸収エネルギー値(V EO )を示す、高靭性溶接金属が得られるように、溶接継手(溶接構造物)を作製することが望ましい。
以下、大入熱サブマージアーク溶接して得られる溶接金属の好ましい組成について説明する。
【0035】
C:0.03〜0.15%
Cは、溶接金属の強度を増加する元素であるが、溶接金属中のC含有量が0.03%未満では、所定の溶接金属強度を得るのが難しくなるうえ、溶接金属の靭性改善が難しい。一方、0.15%を超えて含有すると、溶接高温割れが起こり易くなる。このため、Cは0.03〜0.15%に限定することが好ましい。
【0036】
N:0.0050%以下
Nは、溶接金属の靱性を劣化させる元素であり、本発明ではできるだけ低減するのが望ましいが、溶接金属中に0.0050%を超えて含有すると、溶接金属の靱性が劣化する。このため、Nは0.0050%以下に限定することが好ましい。なお、溶接金属中のN含有量を0.0020%以下に低減することも可能であるが、溶接材料コストが増加し、溶接継手の作製費が高価となるため、Nは0.0020%以上とするのが望ましい。
【0037】
Si:0.1 〜1.0 %
Siは、溶接金属中の酸素低減に有効な元素であるが、0.1 %未満では溶接金属中の酸素量が高くなり、良好な溶接金属靭性が得られ難くなる。一方、1.0 %を超えて多量に含有すると、島状マルテンサイトが生成するようになり、溶接金属の靱性が劣化する。このため、Siは0.1 〜1.0 %に限定することが好ましい。
【0038】
Mn:0.7 〜2.5 %
溶接金属中のMn含有量が0.7 %未満では、溶接金属のパーライト変態を抑制し、溶接金属の靭性が劣化する。一方、溶接金属中のMn量が2.5 %を超えると、島状マルテンサイトが生成するようになり、溶接金属の靭性が劣化する。このため、溶接金属中のMnは0.7 〜2.5 %とすることが好ましい。
【0039】
Ti:0.003 〜0.030 %
Tiは、溶接金属中に酸化物として存在し、フェライトの生成核として作用し、フェライト粒の微細化に寄与する。このような効果は0.003 %以上の含有で認められる。一方、0.030 %を超えて含有すると、溶接金属の強度が高くなりすぎて、溶接金属の硬さ上昇による低温割れが起こり易くなる。このため、溶接金属中のTiは0.003 〜0.030 %に限定することが好ましい。
【0040】
本発明の溶接金属は、上記した基本組成に加えてさらに、Mo:0.1 〜0.5 %、Nb:0.01〜0.2 %、Ni:0.05〜1.0 %のうちから選ばれた1種または2種以上を含み、かつB/N:0.6 〜1.2 である組成を有することが好ましい。
Mo:0.1 〜0.5 %、Nb:0.01〜0.2 %、Ni:0.05〜1.0 %のうちから選ばれた1種または2種以上
Mo、Nb、Niはいずれも、溶接金属の靱性を顕著に向上させる作用を有しており、本発明では、必要に応じ選択して1種または2種以上含有できる。
【0041】
Mo、Nbはオーステナイト粒界に析出する粗大な粒界フェライトの生成を抑制し、溶接金属の靱性を向上させる。このような効果は、Mo:0.1 %以上、Nb:0.01%以上、それぞれの含有で顕著となる。一方、Mo:0.5 %、Nb:0.2 %をそれぞれ超える含有は、溶接金属の組織が上部ベイナイトとなりやすく、靱性が劣化する。このようなことから、それぞれ、Mo:0.1 〜0.5 %、Nb:0.01〜0.2 %の範囲とするのが好ましい。
【0042】
また、Niは、フェライト相の靱性を向上させて、溶接金属の靱性を向上させる。この効果は0.05%以上の含有で顕著となる。一方、1.0 %を超えると低温割れの発生が起こりやすくなる。このため、Niは、0.05〜1.0 %の範囲とするのが好ましい。
B/N:0.6 〜1.2
Bは、オーステナイト粒界に析出する粗大な粒界フェライトの生成を抑制する作用を有し、溶接金属の靭性を向上させる元素であり、本発明では、B/N比(質量%比)で0.6 以上含有することが好ましい。B/N比(質量%比)で0.6 未満では安定的に更なる溶接金属靭性の向上が期待できない。一方、B/N比(質量%比)で1.2 を超えると、溶接金属の靭性が劣化する。なお、Bは、鋼ワイヤまたはフラックスから供給し、溶接金属中に0.0010〜0.0040%含有することが好ましい。
【0043】
なお、本発明の溶接継手における溶接金属では、上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
次に、本発明の溶接継手における溶接金属の組織について、説明する。
粒界フェライト生成量:15面積%以下
溶接金属は、上記した組成に加えて、粒界フェライト生成量が15面積%以下である組織を有することが好ましい。粒界フェライト生成量を15面積%以下とすることにより、大入熱サブマージアーク溶接継手の溶接金属に高靭性を付与することができる。なお、更なる高靭性の付与のためには、粒界フェライト生成量を10面積%以下とすることが好ましい。粒界フェライト生成量を10面積%以下とするためには、上記したように溶接金属にMo,Nb 等を適正量含有させ、溶接金属中のB/N比(質量%比)を0.6 〜1.2 の範囲に調整することが好ましい。
【0044】
溶接金属中の粒界フェライト生成量の測定方法は、つぎのとおりとする。観察面を研磨後、腐食液で腐食し、光学顕微鏡または電子顕微鏡を用いて、10〜500 倍で観察し、撮像し、得られた撮像を画像解析装置を用いて解析し、溶接金属中の粒界フェライト生成量を求める。なお、粒界フェライト生成量の測定方法はこれに限定されないことはいうまでもない。
【0045】
【実施例】
表1に示す母材組成の490MPa級鋼板(板厚t:40mm)、建築構造用TMCP鋼板(板厚t:60mm)に、図1に示す形状の開先加工を施し、1パスのサブマージアーク溶接により溶接継手を作製した。開先形状は、Y型開先とし、開先角度35°、ルートフェースd(mm)を板厚t:40mmの場合には2mmとし、板厚t:60mmの場合には3mmとした。
【0046】
サブマージアーク溶接は、2電極のサブマージアーク溶接機を用いて、表2に示す溶接条件で、表3に示すワイヤ組成の溶接用鋼ワイヤを用い、表4に示す組成のフラックスを用いて行った。
なお、フラックスは、表4に示す組成になるように原料を配合し、珪酸ソーダ水溶液(添加量:フラックス1kg当り200cc )とともに混練し、造粒したのち、500 ℃×15min の条件で焼成し、粒子径3mm以下とした。なお、表4中の化学組成は合計100 %にならないが、残部は珪酸ソーダ固形分である。また、フラックス中に添加した鉄粉はアトマイズ鉄粉とし、表5に示す窒素含有量のアトマイズ鉄粉を用いた。溶接入熱は、板厚40mmの場合で269kJ/cm、板厚60mmの場合で549kJ/cmであった。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
このようにして得られた溶接継手について、溶接長中央部の図2(a),(b)に示す位置から試験片を採取し、溶接金属の組成、組織、引張強さ、靱性を調査した。溶接金属の組成は湿式分析で各元素の含有量、B/N量を求め、また、組織は上記した方法で粒界フェライト生成量を測定した。引張試験は、図2(a)の位置から試験片を採取して、JIS Z 3111の規定に準拠して実施し引張強さTSを求めた。また、衝撃試験は、図2(b)の位置から試験片を採取して、JIS Z 3112の規定に準拠して実施し、0℃におけるシャルピー吸収エネルギー値vE0 を求めた。また、得られた溶接継手について、目視でビード外観を観察した。なお、ビード外観不良としては、アンダーカット、オーバーラップなどの溶接欠陥の発生、スラグはくり不良、ビード表面の平滑性不良などがある。
【0053】
それらの結果を表6に示す。
【0054】
【表6】
【0055】
本発明例では、いずれも、ビード外観は良好であり、さらに、粒界フェライト生成量が15面積%以下の組織を有する溶接金属となっており、溶接金属のvE0 が27J以上を満足し、優れた靱性の溶接金属を有する溶接継手が得られている。本発明の範囲を外れる比較例は、溶接金属の靭性が低下している。また、さらに、溶接金属のB/N(質量%比)が0.6 〜1.2 の範囲内の溶接継手(溶接継手No. 5、9、10)では、溶接金属の粒界フェライト生成量が10面積%以下となっており、溶接金属はさらに優れた靭性を有している。
【0056】
【発明の効果】
本発明によれば、溶接入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接でTi、Nb等の含有量が少ない鋼材を溶接した場合にも、優れた靱性を有する溶接金属が安定して得られ、溶接能率を顕著に向上でき、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に使用した溶接継手の開先形状の概要を示す模式図である。
【図2】実施例で採用した試験片採取位置を模式的に説明する説明図である。(a)は引張試験片、(b)は衝撃試験片の採取位置を示す。
【図3】溶接金属のシャルピー吸収エネルギーvE0 と粒界フェライト生成量との関係を示すグラフである。
【図4】溶接金属の粒界フェライト生成量とB/Nとの関係を示すグラフである。
Claims (8)
- N含有量が0.0030質量%以下のアトマイズ鉄粉を、フラックス全量に対し20〜45質量%含有することを特徴とするサブマージアーク溶接用フラックス。
- さらに、B化合物を、B換算でフラックス全量に対し0.03〜0.30質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のサブマージアーク溶接用フラックス。
- さらに(A)群:Mo粉、フェロモリブデン粉およびMo化合物粉のうちの1種または2種以上をMo換算で合計でフラックス全量に対し0.2 〜2.0 質量%、(B)群:Nb粉、フェロニオブ粉およびNb化合物粉のうちの1種または2種以上をNb換算で合計でフラックス全量に対し0.02〜0.15質量%、のうちから選ばれた1群または2群以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のサブマージアーク溶接用フラックス。
- フラックス全量に対し質量%で、SiO2:10〜28%、CaCO3 :5〜15%、MgO :15〜38%、Al2O3 :3 〜20%、TiO2:2〜10%、CaF2:2〜10%、アトマイズ鉄粉、Mo粉、フェロモリブデン粉、Nb粉およびフェロニオブ粉以外の金属粉:2〜8%、のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のサブマージアーク溶接用フラックス。
- Ti含有量が0.006 質量%以下、Nb含有量が0.012 質量%以下の母材組成を有する鋼材を入熱150kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接により溶接接合するサブマージアーク溶接継手の製造方法において、前記大入熱サブマージアーク溶接で使用するフラックスを、N含有量が0.0030質量%以下のアトマイズ鉄粉をフラックス全量に対し質量%で20〜45%含むフラックス組成のフラックスとすることを特徴とする優れた溶接金属部靱性を有するサブマージアーク溶接継手の製造方法。
- 前記フラックス組成が、さらにB化合物をフラックス全量に対しB換算で0.03〜0.30質量%を含むことを特徴とする請求項5に記載のサブマージアーク溶接継手の製造方法。
- 前記フラックス組成が、さらに(A)群:Mo粉、フェロモリブデン粉およびMo化合物粉のうちの1種または2種以上をMo換算で合計でフラックス全量に対し0.2 〜2.0 質量%、(B)群:Nb粉、フェロニオブ粉およびNb化合物粉のうちの1種または2種以上をNb換算で合計でフラックス全量に対し0.02〜0.15%、のうちから選ばれた1群または2群以上を含むことを特徴とする請求項5または6に記載のサブマージアーク溶接継手の製造方法。
- 前記フラックス組成が、さらに、フラックス全量に対し質量%で、SiO2:10〜28%、CaCO3 :5〜15%、MgO :15〜38%、Al2O3 :3 〜20%、TiO2:2〜10%、CaF2:2〜10%、アトマイズ鉄粉、Mo粉、フェロモリブデン粉、Nb粉およびフェロニオブ粉以外の金属粉:2〜8%、のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載のサブマージアーク溶接継手の製造方法。
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