JP3821212B2 - ノンハロゲン難燃電線・ケーブル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は耐環境性、特にオゾンやチッソ酸化物(NOx)、イオウ酸化物(SOx)などの腐食性ガスに対する耐久性に優れたノンハロゲン難燃電線・ケーブルに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ポリ塩化ビニルやハロゲン系難燃剤を使用しない環境負荷の小さなノンハロゲン難燃性電線・ケーブルは、いわゆるエコ電線・ケーブルとして急速に普及している。これらのノンハロゲン難燃性電線・ケーブルは、電線の絶縁体またはケーブルのシースとしてポリオレフィンに水酸化マグネシウムをはじめとするノンハロゲン難燃剤を多量に混和した樹脂組成物が用いられているのが一般的である。
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来のノンハロゲン難燃剤を多量に混和した樹脂組成物が用いられているノンハロゲン難燃性電線・ケーブルによると、特に配電盤、変電設備室等の電気接点の存在する密閉空間内に配線される場合、口出線として使用される場合または自動車・車両に使用される場合にあっては、局所的に高濃度のNOx 、SOx などの腐食性ガスに曝された場合、多湿環境下電線・ケーブルの表面にべとつきが生じ、また、高温多湿環境下結露が生じるという問題があった。これは、水酸化マグネシウムが、NOx 、SOx などの腐食性ガスと反応すると硝酸マグネシウムや硫酸マグネシウムを生成し、これらが空気中の水分を吸収するためにべとつきや結露を生じるためである。
【0003】
また、電線・ケーブルの表面が乾燥すると、生成した硝酸マグネシウムや硫酸マグネシウムの結晶が表面に残留して電線・ケーブルの外観の低下を招く、という問題があった。
【0004】
したがって、本発明の目的は、NOx 、SOx 等の腐食性ガスに対する耐久性に優れたノンハロゲン難燃性電線・ケーブルを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を達成するために、絶縁体あるいはシースにノンハロゲン難燃剤を含有させたノンハロゲン難燃電線・ケーブルにおいて、前記絶縁体または前記シースは、その最外層が樹脂100重量部に対しノンハロゲン難燃剤を30〜250重量部含有し、その内側の層がシランカップリング剤で表面処理されていないノンハロゲン難燃剤を含有する構成からなり、前記最外層のノンハロゲン難燃剤は、シランカップリング剤で表面処理され、かつ、その表面処理量が0.05〜6wt%である水酸化マグネシウムを5〜250重量部と、シランカップリング剤で表面処理されていない水酸化マグネシウムを0〜25重量部とからなり、前記内側の層のノンハロゲン難燃剤は、シランカップリング剤で表面処理されていない水酸化マグネシウムからなることを特徴とするノンハロゲン難燃電線・ケーブルを提供する。このような絶縁体またはシースは、NOx SOx 等の腐食性ガスが存在する特殊環境下での連続使用において耐久性に優れ、極めて信頼性が高くなる。また、このようにすることで、押出外観が改善され、NO x 、SO x などの腐食性ガスに対する耐久性がより高くなる。また、絶縁体またはシースの押出時に押出機にかかる負荷を低減できる。
【0006】
また、前記ノンハロゲン難燃電線・ケーブルの前記表面処理されたノンハロゲン難燃剤として、更に、酸化金属化合物、リン化合物、シリコーン化合物、ホウ酸化合物、窒素化合物、膨張性黒鉛、インテュメッセント系難燃剤から選択される1種または2種の化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のノンハロゲン難燃電線・ケーブルを提供する。特に、2種の化合物を組み合わせることにより、ノンハロゲン難燃剤の使用量を減少させることができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の第1の実施の形態による3層のシース構造のケーブルを示す図である。絶縁体2で被覆された導体1からなる被覆電線を介在6の存在下、複数本集合したものをシース最内層12、シース内層11およびシース表面層10で被覆したものである。
【0008】
図2は、本発明の第1の実施の形態による3層の絶縁体構造のケーブルの他の例を示す図である。導体1を絶縁体最内層5、絶縁体内層4および絶縁体表面層3で被覆したものである。
【0009】
図3は、本発明の第2の実施の形態による2層のシース構造のケーブルを示す図である。絶縁体2で被覆された導体1からなる絶縁心線14を2本対撚りした対撚り線13の複数本をシース内層11およびシース表面層10で被覆したものである。
【0010】
図4は、本発明の第2の実施の形態による2層のシース構造のケーブルの他の例を示す図である。断面円形のスロット16中のテンションメンバ17の周囲に4心光ファイバテープ18を等間隔に配置し押さえテープ7で固定し、スロット16の周囲をシース内層11およびシース表面層10で被覆したものである。
【0011】
図1から図4に示したケーブルの3層の絶縁体、2層または3層のシースは、シランカップリング剤で表面処理したノンハロゲン難燃剤を混和したノンハロゲン難燃性材料で作製する。具体的には、以下のエチレン系ポリマ、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー、エンジニアリングプラスチックなどの熱可塑性樹脂およびシランカップリング剤で表面処理した水酸化マグネシウム等の難燃剤を含有してなる樹脂組成物である。さらには、他のノンハロゲン難燃剤、充填剤などの各種添加剤を配合した樹脂組成物も適用できる。
【0012】
本発明の電線・ケーブルの絶縁体またはシースに用いるエチレン系ポリマとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(VLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ブテン−ヘキセン三元共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン−オクテン共重合体(EOR)、エチレン共重合ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、ポリ−4−メチル−ペンテン−1、マレイン酸グラフト低密度ポリエチレン、水素添加スチレン−ブタジエン共重合体(H−SBR)、マレイン酸グラフト直鎖状低密度ポリエチレン、エチレンと炭素数が4〜20のαオレフィンとの共重合体、マレイン酸グラフトエチレン−メチルアクリレート共重合体、マレイン酸グラフトエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸三元共重合体、ブテン−1を主成分とするエチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体などが挙げられ、これらの単独または2種以上をブレンドして用いることができる。
【0013】
ポリプロピレン(PP)としては、アイソタクチックポリプロピレンまたはシンジオタクチックポリプロピレンが挙げられ、ホモポリプロピレン、エチレン系の共重合成分を含むランダムポリプロピレンのいずれも使用できる。また、前記エチレン系ポリマとブレンドすることも可能である。
【0014】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系、エステル系、ウレタン系、アミド系、オレフィン系熱可塑性エラストマーがある。
【0015】
スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン系ブロック共重合体のことでありソフトセグメントの種類により、SBS(PS(ポリスチレン)−ポリブタジエン−PS)、SIS(PS−ポリイソプレン−PS)、SEBS(PS−ポリエチレン/ブチレン−PS)などが挙げられる。またこれらのスチレン系ブロック共重合体とポリプロピレン(PP)等のブレンド物も含まれる。
【0016】
エステル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)を、ソフトセグメントとして軟質ポリエステル共重合体を有するものの総称であり、ソフトセグメントがポリテトラメチレングリコール(PTMG)とテレフタル酸の縮合物からなるポリエーテル・エステル共重合体や、ポリカプロラクトンを使用したポリエステル・エステル共重合体がある。
【0017】
ウレタン系熱可塑性エラストマーのハードセグメントは、ポリウレタンであり、ソフトセグメントの種類によりポリエステル系、ポリエーテル系があり、さらにポリエステル系には、カプロラクトン系、アジペート系、ポリカーボネート系が挙げられる。
【0018】
アミド系熱可塑性エラストマーとは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリエーテル、ポリエステルをソフトセグメントとした熱可塑性エラストマーである。
【0019】
オレフィン系熱可塑性エラストマーは、ポリオレフィン樹脂をハードセグメントとする熱可塑性エラストマーであり、ブレンドタイプと共重合タイプがある。ここでは、ハードセグメントがポリマ成分のうち、15〜95重量%の範囲にあるものを指す。
【0020】
ハードセグメントとしては、結晶性のポリオレフインが必要であり、ポリプロピレン(PP)または高密度ポリエチレン(HDPE)または低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などが挙げられる。ソフトセグメントとしては、エチレンープロピレン共重合体(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、水素添加NBR、エチレン−オクテン共重合体(EOR)、エチレン−ブテン−1共重合体(EBR)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、スチレン成分を含むエラストマーなどが挙げられる。
【0021】
また、上記ソフトセグメントを有機過酸化物などで部分的に架橋したもの、混練時に分散されたソフトセグメントを完全に架橋(動的加硫)したものなどがある。
【0022】
エンジニアリングプラスチックとしては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンが挙げられ、比較的可とう性のあるポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリブチレンテレフタレート、スチレン系ブロック共重合体で変性されたポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンが好適である。
【0023】
本発明における絶縁体またはシースには、ノンハロゲン難燃剤としてシランカップリング剤によって表面処理された水酸化マグネシウムを用いる。水酸化マグネシウムとしては、合成水酸化マグネシウム、天然鉱石を粉砕した天然水酸化マグネシウム、ニッケルなど他の元素との固溶体となったものなどが挙げられる。機械的特性、分散性、難燃性の点からレーザー式粒度分布計により測定した平均粒子径が4μm以下かつ10μm以上の粗粒分が10%以下のものがより好適である。
【0024】
本発明で用いられるシランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン化合物、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン化合物、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン等のクロロシラン化合物などが挙げられる。
【0025】
水酸化マグネシウムに上記カップリング剤を表面処理する方法としては、ヘンシェルミキサーなどで攪拌しながら添加する乾式法、スラリー状態で添加、乾燥させる湿式法、コンパウンド混練時に添加する直接混練法が挙げられる。
【0026】
シランカップリング剤で表面処理した水酸化マグネシウムを用いた場合、シランカップリング剤で表面処理していない水酸化マグネシウムを使用した場合と比べ腐食性ガスに対する耐久性は高い。この現象の詳細は不明であるが、シランカップリング剤は水酸化マグネシウムの表面水酸基と結合しており、一方で有機マトリックスと反応する官能基を有しているため、水酸化マグネシウムは樹脂に強固に保護されており、オゾン、NOx 、SOx が接触しにくくなっていると発明者らは考えている。
【0027】
上記以外に用いることができるノンハロゲン難燃剤としては金属水酸化物、酸化金属化合物、リン化合物、シリコーン化合物、ホウ酸化合物、窒素化合物、膨張性黒鉛、インテュメッセント系難燃剤等が挙げられる。
【0028】
金属水酸化物系難燃剤としては水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト、カルシウムアルミネート水和物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、ハードクレー等を挙げることができる。このうち水酸化マグネシウムはシランカップリング剤で表面処理されていないものであり、混和量は樹脂100重量部に対し25重量部以下である。水酸化マグネシウムとしては、合成水酸化マグネシウム、天然鉱石を粉砕した天然水酸化マグネシウム、ニッケルなど他の元素との固溶体となったものなどが挙げられる。機械的特性、分散性、難燃性の点からレーザー式粒度分布計により測定した平均粒子径が4μm以下かつ10μm以上の粗粒分が10%以下のものがより好適である。これらの粒子表面を、耐水性を考慮し常法に従って脂肪酸、脂肪酸金属塩、チタネート系カップリング剤またはアクリル樹脂、フェノール樹脂で表面処理することも可能である。
【0029】
酸化金属化合物としては、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化アルミニウム等を挙げることができる。
【0030】
リン化合物としては赤リン、フォスフェートエステル、フォスフォネート、フォスフォリネン、ポリリン酸アンモニウム等を挙げることができる。特に赤リンの添加は難燃性向上に効果が大きい。
【0031】
シリコーン化合物としてはシリコーンガム、シリコーンパウダー、シリコーンオイル、シリコーングラフトポリオレフィン、ポリオルガノシロキサンとアクリルゴムとの複合ゴムなどが挙げられる。
【0032】
ホウ酸化合物としては、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウムなどが挙げられる。
【0033】
窒素系難燃剤としては、スルファミン酸グアニジン、メラミンシアヌレートなどが挙げられる。
【0034】
インテュメッセント系難燃剤は、燃焼時に発泡する成分と固化する成分の混合物からなる難燃剤である。発泡成分として窒素系発泡剤が挙げられ、テトラゾール化合物などの分解温度の高いもの(300℃以上)が好ましい。固化成分として上記リン系、シリコーン系、ホウ酸化合物系、窒素系難燃剤をはじめ、ペンタエリスリトールなどの多価アルコール、カーボンブラック、シリカ、亜鉛、錫酸亜鉛、層間シリコーン挿入クレー、無機または有機顔料などが挙げられる。
【0035】
絶縁体またはシースに用いる樹脂には充填剤を添加することができる。充填剤としては、炭酸カルシウム、ソフトクレー、ハードクレー、焼成クレー、シリカ、酸化亜鉛、マイカ粉、二硫化モリブデン、ガラス繊維、ガラスビーズ、グラファイト、カーボンブラックなどが挙げられる。このうち、樹脂への練り込みが容易で機械特性低下の少ない炭酸カルシウムが好適である。炭酸カルシウムには、粒子の小さい合成炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム)と、粗晶石灰石を機械粉砕した重質炭酸カルシウムがあり、混練加工性の良い重質炭酸カルシウムがより好適である。
【0036】
また、上記の各種配合剤を、耐水性を考慮し常法に従って脂肪酸、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤またはアクリル樹脂、フェノール樹脂で表面処理することも可能である。
【0037】
これらの樹脂組成物には必要に応じて酸化防止剤、滑剤、界面活性剤、軟化剤、可塑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、架橋剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤等の添加物を加えることができる。
【0038】
本発明において電線の絶縁体またはケーブルのシースが内層を有する場合、表面層は前記エチレン系ポリマ、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー、エンジニアリングプラスチックなどの熱可塑性樹脂およびシランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウムを含有してなる樹脂組成物である。また、前記ノンハロゲン難燃剤、充填剤などの各種添加剤を配合した樹脂組成物も適用できる。
【0039】
内層は前記エチレン系ポリマにシランカップリング剤によって表面処理されていない水酸化マグネシウム等のノンハロゲン難燃剤を混和させた樹脂組成物である。水酸化マグネシウムとしては合成水酸化マグネシウム、天然鉱石を粉砕した天然水酸化マグネシウム、ニッケルなど他の元素との固溶体となったものなどが挙げられる。機械的特性、分散性、難燃性の点からレーザー式粒度分布計により測定した平均粒子径が4μm以下かつ10μm以上の粗粒分が10%以下のものがより好適である。これらの粒子表面を、常法に従って脂肪酸、脂肪酸金属塩、チタネート系カップリング剤またはアクリル樹脂、フェノール樹脂で表面処理することも可能である。
【0040】
本発明の電線の絶縁体またはケーブルのシースにおいて、シランカップリング剤によって表面処理された水酸化マグネシウム等のノンハロゲン難燃剤の添加量は樹脂100重量部に対して30〜250重量部である。添加量が30重量部より少ないと難燃性が不十分であり、250重量部を超える場合は、機械的強度が著しく低下する。また本発明において、シランカップリング剤によって表面処理されていない水酸化マグネシウムを0〜25重量部の範囲で添加することも可能である。
【0041】
シランカップリング剤によって表面処理されていない水酸化マグネシウムの添加量が25重量部を超えた場合、多湿環境下でオゾン、NOx 、SOx 等の腐食性ガスと反応して生成する硝酸マグネシウムまたは硫酸マグネシウムなどの生成量が多くなる。そのため生成した硝酸マグネシウムまたは硫酸マグネシウムなどが水分を吸収することにより、電線・ケーブルの表面にべとつきや高温多湿下での結露が生じ、また、これらが乾燥した後に表面に残留する微量の結晶状物質による外観の低下を招くようになる。より好適にはシランカップリング剤によって表面処理されていない水酸化マグネシウムを全く含まないことである。
【0042】
水酸化マグネシウム等のノンハロゲン難燃剤をシランカップリング剤で表面処理する場合、その表面処理量は、0.1〜5wt%であることが好ましい。0.1wt%より少ない場合、上記電線・ケーブルにおいて、腐食性ガスに対する耐久性が低下し表面に生成する硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの量がより多くなる。 5wt%を超える場合、電線・ケーブルにおいて押出外観の悪化を招く。
【0043】
【実施例】
本発明の樹脂組成物は、表1から表3に示すとおりであり、電線・ケーブルの
例は、前述したように図1から図4に示す。
【0044】
樹脂成形物、電線、ケーブルは以下の要領で作製した。
【0045】
各種樹脂組成物は150℃に予熱した76mm二軸混練機(神戸製鋼製)で混練、ペレット化した。ペレットを電線、ケーブル作製用材料とした。
【0046】
電線は以下の要領で作製した。100mm2 の銅撚り線円形圧縮導体に90mm押出機を用いて押出し、電線を作製した。絶縁体厚さは2.0mmとし、押出速度は20m/分とした(図2および表1参照)。
【表1】
【0047】
ケーブルは以下の要領で作製した。38mm2 の銅撚り線円形圧縮導体に架橋ポリエチレンが4.0mmの厚さで被覆された絶縁線心14を作製した。これらの2線心の複数をポリプロピレン介在6とともに対撚りしたコア15の外周上に、90mm押出機を用いてシースを押出し、ケーブルを作製した。シース厚さは30mmとし、押出速度は10m/分とした(図1および表2参照)。
【表2】
【0048】
また、2層シースケーブルは以下の要領で作製した。コア15の外周上に、90mm押出機を用いて2層同時押出によりケーブルを作製した。表面層および内層の厚さはそれぞれ、0.2mm、2.8mmとし、押出速度は10m/分とした(図3および表3参照)。
【表3】
【0049】
電線、ケーブルの評価は以下に示す方法で行った。
【0050】
(1)耐腐食性ガス試験
作製した電線、ケーブルをデシケータに入れ、20℃、湿度50%RHの条件で500ppmの二酸化チッソ(NO2 )ガスを7日間曝露した。その後、ケーブルを40℃、90%RHの恒温恒湿槽に1時間放置後、電線、ケーブル表面の状態を目視観察した。表面に結露が観察されなかったものを優、結露が微少に観察されたものを良、結露が多く観察されたものを不可とした。
【0051】
(2)マグネシウムイオンの定量分析
表面結露と、高濃度の腐食性ガスによりマグネシウム化合物が侵されて生成したイオン性物質の生成量との関係を確認するため、表面のマグネシウムイオンを定量した。ケーブルシースから切り取つた一定面積のシース表面の付着物を純水で良く洗浄したガーゼで拭き取った。付着物を拭き取ったガーゼをビーカに入れ、純水約50m1を加えた。フィルターでろ過後、100m1に定容して分析用試料とした。プラズマ誘導結合(ICP)発光分析装置(日立製作所;P−4000型)によりマグネシウム定量分析を行った。
【0052】
(3)引張強度
絶縁体、シースについて引張強度の測定をJIS C 3005に準拠して行い、10MPa以上を合格とした。
【0053】
(4)難燃性
作製した電線、ケーブルをJIS C 3005に従った60度傾斜燃焼試験を行った。炎を取り去った後の延焼時間を測定した。5回の試験のうち延焼時間が最大のものを測定値とし、15秒未満で消火したものを優、15秒以上60秒未満を良、60秒以上延焼したものを不可とした。
【0054】
(5)押出外観
絶縁体またはシースを押出成形した際の電線、ケーブルの外観を目視観察した。外観に全く荒れがないものを優、わずかに荒れが観察されたものを良、メルトフラクチャにより外観が著しく劣るものを不可とした。
【0055】
(6)押出時の負荷電流
電線、ケーブルの絶縁体またはシースを押出した時の、押出機の負荷電流値を測定した。押出機の最高許容電流を100%としたときの、負荷電流相対値を評価した。最高許容電流に対し50%未満を優、50%以上95%未満を良、95%以上を不可とした。
【0056】
実施例1〜18から明らかなようにシランカップリング剤によって表面処理された水酸化マグネシウムを絶縁体またはシースに用いたケーブルでは、表面に生成したマグネシウムイオンの量は微量である。このため表面結露の程度も微少であることから、腐食性ガスに対する耐久性が優れていることが分かった。ただし実施例3、4、比較例2からシランカップリング剤によって表面処理されていない水酸化マグネシウムの添加量が増加するのに従い、表面のマグネシウムイオンの量は増えていくことが分かった。
【0057】
一方、比較例3〜7ではシランカップリング剤によって表面処理されていない水酸化マグネシウムが25重量部を超えるため、著しい表面結露を招く結果となった。
【0058】
比較例1においてはシランカップリング剤によって表面処理された水酸化マグネシウムの添加量が30重量部以下と少ないため難燃性が不合格であり、比較例2においては添加量が250重量部を超えるため引張強度が低下した。
【0059】
実施例5〜9、実施例14〜17または実施例21〜24を比較すると、シランカップリング剤の処理量が多いほど腐食性ガスに対する耐久性が優れることが分かった。一方、処理量が多くなるとシースや絶縁体を押出後の電線、ケーブルの外観にわずかな荒れを生ずる結果となった。
【0060】
実施例18、19および実施例10を比較すると、内層がシランカップリング剤によって表面処理されていない水酸化マグネシウムを含む材料からなる場合、一層で押出するときと比較して押出時の負荷電流を低減できることが分かった。また、実施例19〜23、比較例8、9により腐食性ガスに対する耐久性は二相シースの外層にのみ依存し、内層材料には依らないことが分かった。
【0061】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、絶縁体あるいはシースにノンハロゲン難燃剤を含有させたノンハロゲン難燃電線・ケーブルにおいて、前記絶縁体または前記シースは、その最外層が樹脂100重量部に対しノンハロゲン難燃剤を30〜250重量部含有し、その内側の層がシランカップリング剤で表面処理されていないノンハロゲン難燃剤を含有する構成からなり、前記最外層のノンハロゲン難燃剤は、シランカップリング剤で表面処理され、かつ、その表面処理量が0.05〜6wt%である水酸化マグネシウムを5〜250重量部と、シランカップリング剤で表面処理されていない水酸化マグネシウムを0〜25重量部とからなり、前記内側の層のノンハロゲン難燃剤は、シランカップリング剤で表面処理されていない水酸化マグネシウムからなるため、NOx 、SOx 等の腐食性ガスが存在する特殊環境下での連続使用において耐久性に優れ、押出外観が改善されるととも に、絶縁体またはシースの押出時に押出機にかかる負荷を低減でき、極めて信頼性の高いノンハロゲン難燃性電線・ケーブルを得ることができた。
【0062】
したがって、本発明による電線・ケーブルを、特に配電盤、変電設備室等の電気接点の存在する密閉空間内に配線する場合、口出線として使用する場合または自動車・車両に使用する場合のように、局所的に高濃度のNOx 、SOx などの腐食性ガスに曝されるおそれがある場合の使用に適している。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施の形態による3層のシース構造のケーブルを示す図である。
【図2】 本発明の第1の実施の形態による3層の絶縁体構造のケーブルを示す図である
【図3】 本発明の第2の実施の形態による2層のシース構造のケーブルを示す図である。
【図4】 本発明の第2の実施の形態による2層のシース構造のケーブルの他の例を示す図である。
【符号の説明】
1 導体
2 絶縁体
3 絶縁体表面層
4 絶縁体内層
5 絶縁体最内層
6 介在
7 押さえテープ
10 シース表面層
11 シース内層
12 シース最内層
13 対撚り線
14 絶縁心線
15 コア
16 スロット
17 テンションメンバ
18 4心光ファイバテープ
Claims (2)
- 絶縁体あるいはシースにノンハロゲン難燃剤を含有させたノンハロゲン難燃電線・ケーブルにおいて、
前記絶縁体または前記シースは、その最外層が樹脂100重量部に対しノンハロゲン難燃剤を30〜250重量部含有し、その内側の層がシランカップリング剤で表面処理されていないノンハロゲン難燃剤を含有する構成からなり、
前記最外層のノンハロゲン難燃剤は、シランカップリング剤で表面処理され、かつ、その表面処理量が0.05〜6wt%である水酸化マグネシウムを5〜250重量部と、シランカップリング剤で表面処理されていない水酸化マグネシウムを0〜25重量部とからなり、
前記内側の層のノンハロゲン難燃剤は、シランカップリング剤で表面処理されていない水酸化マグネシウムからなることを特徴とするノンハロゲン難燃電線・ケーブル。 - 前記ノンハロゲン難燃電線・ケーブルの前記表面処理されたノンハロゲン難燃剤として、更に、酸化金属化合物、リン化合物、シリコーン化合物、ホウ酸化合物、窒素化合物、膨張性黒鉛、インテュメッセント系難燃剤から選択される1種または2種の化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のノンハロゲン難燃電線・ケーブル。
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