JP3818783B2 - カルボン酸エステルの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はアルデヒドとアルコールを酸素存在下に反応させ直接一段の反応操作でカルボン酸エステルを製造する方法、より詳細には該反応を実施する際により改良された触媒を使用してカルボン酸エステルを製造する方法に関するものである。
アルデヒドとしてのアクロレイン或いはメタアクロレインをアルコールと酸素存在下に反応させて得られるアクリル酸エステル或いはメタアクリル酸エステルは各種の合成樹脂を製造する重合用モノマーとして多用され、大量に製造されている極めて重要な化合物である。
【0002】
【従来の技術】
従来アルデヒドからのカルボン酸エステルの製造法としては、まずアルデヒドを酸化してカルボン酸とし、これを更にアルコールと反応させて目的物を得る方法が広く実施されている。この方法は反応工程が二段階となり、製造設備の建設費が増大するだけでなく、アルデヒドの酸化工程の収率が充分でない問題点がある。特にメタアクロレインの酸化によるメタアクリル酸の製造工程では、選択率が高々80%程度であり、そのうえ、目的物の空時収率が低く、多管式の極めて大型の反応器を必要とする欠点がある。
【0003】
上述した問題点を解決する目的でアルデヒドとアルコールを酸素存在下に反応させる試みが種々行われている。金属パラジューム触媒の存在下にエタノールを酸化すると酢酸エチルが生成することが古くから知られている(工化誌、71巻1515、(1968)。
この報告には、エタノールが酸化されて生じたアセトアルデヒドがパラジューム触媒によりエタノールと酸素と反応し酢酸エチルを与える反応機構が示されている。同様にメタノールをパラジウーム触媒の存在下に酸素と反応させると、反応中間体であるホルムアルデヒドが酸化的エステル化反応により蟻酸メチルになることが報告されている(工化誌、71巻1638、(1968))。また同報告には酸化的エステル化によるカルボン酸エステル合成を液層で行うと、使用するパラジユーム触媒の活性低下が認められること等も記載されている。
【0004】
これらの酸化的エステル化反応を、α,β不飽和アルデヒドに適用しα,β不飽和酸エステルを製造する方法も提案されている(特開昭57−35856、−35857、−35860)。これらの提案には、使用するパラジユーム触媒として、パラジユームに鉛、水銀、タリウム 等の卑金属或いは卑金属の化合物と複合することにより目的とするα,β不飽和酸エステルの収率を向上させる方法が開示されている。
一般的に、パラジユームを液層での不均一系酸化反応に触媒として使用する際にパラジユームに鉛等の卑金属或いは卑金属の化合物を複合して目的物の収率を向上させたり、触媒使用量の低減を計る方法も既に開示されている(特開昭54−138886)。
【0005】
しかしながら、このような手段を用いても、得られるカルボン酸エステルの収率は充分でなく、更に触媒の使用量も多く、工業的な大規模操業を実施するのは問題がある。例えば、特開昭57−35856には、回分式の反応器でメタアクロレイン3.3gをメタノール100cc中で反応させるのに5wt%のパラジユームと5.3wt%の酸化鉛を炭酸カルシユームに担持した触媒4gを使用する実施例が示されている。即ち、反応に供する原料の仕込み量よりも触媒の使用量が多いとゆう問題点がある。また、この種の貴金属触媒を比較的低い温度で液層で使用すると触媒活性の低下が著しい等の未解決な難点もある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
アルデヒドとアルコールを含酸素ガス存在下に反応させカルボン酸エステルを製造する際には、上述の如く、目的物の収率が充分でなく、触媒の使用量が多大であり、また触媒の活性低下も伴う等の問題点があつた。
本発明の第一の目的はアルデヒドとアルコールを酸素存在下に反応させカルボン酸エステルを製造するに際し、目的物を高収率で得られ、且つ、触媒の使用量の少ないカルボン酸エステルの製造方法を提供することである。本発明の第二の目的はアルデヒドとアルコールを酸素存在下に反応させカルボン酸エステルを製造するに際し該反応を促進する触媒の活性低下を軽減する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記した問題点のないアルデヒドとアルコールを酸素存在下に反応させる方法について種々研究した。その結果、該反応に使用する触媒として担体上に金を担持した金触媒を使用すれば収率よく目的物が得られ、触媒の使用量も従来既知のパラジューム系触媒にくらべ低減できることを見出し本発明を完成するに至つた。また、使用する金触媒を疎水性化することにより触媒の活性低下も軽減できることも見出し本発明を完成した。
即ち、本発明の要旨とするところは、はアルデヒドとアルコールを酸素存在下に反応させカルボン酸エステルを製造するに際し金触媒の存在下に反応させる方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明はアルデヒドとアルコールを酸素存在下に金触媒を使用しアルデヒド由来のカルボン酸エステルを製造する方法であつて、使用する金触媒に特徴がある。本発明に使用する触媒は金を担体上に担持した触媒であり、使用する担体は活性炭、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、チタニア、ジルコニア、炭酸カルシュームおよびゼオライトなどが使用されるが、特に活性炭が多用される。使用する活性炭は椰子殻炭、木炭、などの木質系或いは石炭系のいずれでもよい。
【0009】
更に、触媒を疎水性化するには、担体としてテフロン(米国Dupont社製)、シリカライト(米国UCC社製)、シリカ−アルミナ比が30以上のハイシリカゼオライト、或いは弗化黒鉛などを使用する。
或いは、通常の親水性担体を使用した金触媒をポリテトラフルオロエチレン分散液スラリーで処理するか、弗化黒鉛分散液のスプレイなどを噴霧し、乾燥後焼成処理をして触媒を疎水性化する。
【0010】
触媒を疎水性化することにより、反応生成水による触媒の活性低下を防止し、長時間触媒を安定的に働かせることができる。
担体の形状は、粉体、破砕状或いはタブレツトであつて、反応器の型式により適当な形状を選択する。
【0011】
本発明の方法に使用する金触媒は金の微粒子を担体に担持したもので通常は以下の方法で調整するのが適当である。
(A)担体に塩化金酸、ハロゲン化金或いは金錯体などの水可溶性金化合物を水に溶解させた金化合物を含有する水溶液を調製し、前述の担体を水溶液中に投入し含浸させる。金化合物水溶液の濃度は0.01〜0.5Mol/Lが適当な範囲である。
次いで、金塩を含浸した担体をホルムアルデヒド、蟻酸塩或いはヒドラジンなどの還元剤により水溶液中で金塩を還元して触媒を調製する。還元温度は室温〜100度Cの範囲が多用される。還元処理は気相中で水素ガスを使用して還元する方法でもよい。気相還元は100〜200℃で実施する。
担体上の金の担持量は0.01〜10%、より好ましくは0.1〜3%の範囲である。金の担持量が上記の範囲以下では触媒活性が低く、上記の範囲以上の場合では担体上の金の粒子径が過大となり触媒の活性が低下する。
上記(A)の方法で調製した担体上の金の粒子径はX線回折のピーク巾から計算して10〜30nmの範囲である。
【0012】
(B)ハロゲン化金、塩化金酸等の金塩を溶解させた金水溶液に炭酸カリ或いは重炭酸ソーダなどのアルカリ水溶液を攪拌下に添加し水溶液のpHを9〜11にし、金の微粒子状物を析出させる。金塩を溶解させた水溶液の濃度は0.01〜1mol/Lの範囲が多用される。析出した金微粒子はコロイド状であり放置しても殆ど沈降しない。得られた金の微粒子を分散させた水溶液に上述の担体を投入し析出した金微粒子を吸着させる。次いで、ホルマリン或いはヒドラジンなどの還元剤により金を還元し触媒を調製する。担体上の金微粒子の担持量は(A)の場合と同様に0.1〜3%の範囲が多用される。
上記(B)の方法で調製した担体上の金微粒子の径は通常7〜15nmの範囲であり、一般的に(B)の調製法に依れば金微粒子の径は(A)の調製法より小さい。
【0013】
本発明のアルデヒドは、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、グリオキザール、メチルグリオキザールなどの脂肪族アルデヒド;アクロレイン、メタアクロレイン、クロトンアルデヒドなどの不飽和アルデヒド;ベンズアルデヒド、トリルアルデヒド、ベンジルアルデヒド、フタルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドなどである。
【0014】
本発明のアルコールはメタノール、エタノール、プロパノール、2−エチルヘキサノール、n−オクタノール、エチレングリコール、ブタンジオール、アリルアルコールなどの脂肪族アルコール;ベンジルアルコール、フェノールなどの芳香族アルコールなどである。
【0015】
本発明の反応を行う際のアルデヒドとアルコールの使用モル比は、アルデヒド対アルコールが1対3〜1対200の範囲が多用される。使用する含酸素ガスは、空気、酸素、或いは酸素を窒素、二酸化炭素などで希釈した混合ガスなどが使用される。触媒の使用量は反応を回分式で実施する場合を例として示すと、アルデヒドを溶解させたアルコール溶液に対し0.5〜20wt%の範囲が多用される。
【0016】
本発明の反応は室温〜200℃、特に40〜150℃が適当な温度範囲として多用される。反応圧は大気圧〜50気圧の範囲が多用され、一般に使用するアルコール或いはアルデヒドが使用する反応温度で液層を保つに必要な圧以上である。反応に要する時間は反応温度、触媒の使用量、酸素分圧などにより変化するが、回分式反応の場合で例示すれば1〜20時間の範囲である。反応器の形式は懸濁床、固定床或いはトリツクルベツドが多用される。
【0017】
本発明の方法は酸化反応のため反応熱による反応系の温度上昇がある、このため反応を工業規模で実施する際には反応熱の除去に充分な考慮をはらう必要があり、反応の定温化のために常法による冷却手段を必要とする。
反応後の溶液から触媒を分離後、蒸留などの常法により目的物のカルボン酸エステルを単離する。
【0018】
【実施例】
以下実施例により本発明をより詳細に説明する。
実施例1
塩化金酸の0.1mol/L水溶液5mlに脱イオン水25mlを加え希釈した。この溶液にカルゴン社製活性炭(センタウ)の粉末10gを投入し塩化金酸を含浸させた。次いで、上記の懸濁液に1.5gの蟻酸ソーダを40mlの脱イオン水に溶かした溶液を加え90度Cに加熱攪拌した。金担持活性炭を水洗、濾別後乾燥し触媒を調製した。
得られた触媒の金担持量は1.1w%で、X−線回折の半値巾から得られた金の平均粒子径は15nmであつた。
攪拌器、還流冷却器、ガス吹き込み管、熱電対を装着した500mlセパラブルフラスコを反応器とし、外部から水浴で反応温度を調節した。
メタノール250ml、メタアクロレイン10g、触媒5gを反応器に仕込み攪拌しながら空気を吹き込み45℃で反応させた。反応開始後4時間でメタアクロレインの転化率は95%を示し、メタアクリル酸メチルへの選択率は88mol%であつた。
【0019】
実施例2
0.2Mol/Lの塩化金酸水溶液5mlを採りこれを脱イオン水で50mlに希釈し炭酸ソーダ水溶液を攪拌しながら添加し塩化金溶液のpHを10.5にし、金のコロイド状懸濁液を得た。これに活性炭粉末10gを脱イオン水50gに懸濁させたものを投入し活性炭上に金の微小沈殿を捕集沈着させた。
上記懸濁液を70度Cに加熱しホルマリン水溶液を添加攪拌し金塩の還元処理を実施した。活性炭を濾別、水洗後乾燥し触媒を調製した。
触媒上の金の担持量は1.03w%であり、X−線回折ピークの半値巾より得た金の平均粒径は11nmであつた。
実施例1と同様の反応器を使用しエタノール250ml、アクロレイン10g、触媒4gを反応器に仕込み45℃で5時間空気を吹き込み反応させた。反応液を分析した結果、アクロレインの転化率94%、アクリル酸エチルの選択率90mol%であつた。
【0020】
実施例3
実施例2と同様の触媒を使用し同様の反応器で反応させた。メタノール250ml中に含有量40%のグリオキザール水溶液10gおよび触媒3gを添加し、45℃で空気を吹き込みながら5時間反応させた。反応液から触媒を分離し、生成物を高速液体クロマトグラフイーで分析した結果、グリオキザールの転化率90%、グリオキシル酸メチルの選択率84mol%であつた。
【0021】
実施例4
実施例2と同様の触媒を使用する担体のみを疎水性の弗化黒鉛に変えて調製した。金の担持量は0.98wt%であつた。エタノール250mlに2−フエニルプロピオンアルデヒド10gおよび触媒4.5gを実施例1と同様の反応器に仕込み60℃で空気を吹き込みながら5時間反応させた。触媒を分離した反応液を高速液体クロマトグラフイーで分析した結果、2−フエニルプロピオンアルデヒドの転化率92%、2−フエニルプロピオン酸エチルの選択率87mol%であつた。
【0022】
実施例5
実施例2と同様の触媒にポリフルオロエチレン分散液を噴霧後200℃で減圧下に乾燥し疎水性の触媒を調製した。実施例1と同様の反応器にメタノール250ml、メタアクロレイン10gおよび触媒5gを仕込み55℃で酸素を吹き込みながら反応させた。反応器の気相部分には別のガス導入管から窒素を導入し気相部分を爆発範囲外に保つた。3時間反応させた時点でメタアクロレインの転化率92%、メタアクリル酸メチルへの選択率88mol%であつた。
分離回収した触媒を使用し同様の反応を4回繰り返した。2回目の転化率88%、3回目の転化率86%、4回目の転化率87%、選択率88mol%で転化率、選択率の大幅な低下は認められず、触媒活性の低下も殆ど認められない。
【0023】
【発明の効果】
金を担持した触媒を使用することで、従来既知のパラジューム系触媒に比較し、触媒使用量の低減が可能であり、アルデヒドとアルコールから収率よく効率的にカルボン酸エステルを製造することができる。また、触媒を疎水性にすることにより、触媒を繰り返し使用しても触媒活性の急激な低下を防止することができる。
Claims (7)
- アルデヒドとアルコールを含酸素ガス存在下に反応させてカルボン酸エステルを製造するに際し、金を担体上に担持した触媒の存在下に反応させることを特徴とするカルボン酸エステルの製造方法。
- アルデヒドがアクロレインであり、カルボン酸エステルがアクリル酸エステルである請求項1に記載の方法。
- アルデヒドがメタアクロレインであり、カルボン酸エステルがメタアクリル酸エステルである請求項1に記載の方法。
- アルデヒドがグリオキザールであり、カルボン酸エステルがグリオキシル酸エステルである請求項1に記載の方法。
- アルコールがメタノール或いはエタノールである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
- 金を担持する担体が活性炭である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
- 金を担持する担体が疎水性担体或いは親水性担体を疎水性化したものである請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
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