JP3816828B2 - 高温熱成型可能な立体成型用不織布とそれを用いた吸音材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、立体成型用不織布に関するものであり、より詳細には優れた耐熱性を示し、そして複雑な成型加工に対する形態追従性に優れた立体成型用不織布に関する。さらに本発明の立体成型用不織布は、深絞りの成型を施すことができ、複雑な形状を有する吸音材用途として有用である。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車や建築用途などの吸音材としてガラス繊維等の短繊維からなる不織布が広く用いられていた。これらの不織布は、吸音性能を高くするために、繊維径を細くして空気の通過抵抗を大きくしたり、目付を大きくするなどの方法が採られてきた。その結果、高い吸音性能を求められる場合には、繊維径が15μm程度であり、目付が500〜5000g/m2の厚くて重い短繊維不織布が用いられていた。しかしながら、これらの不織布を吸音材として外部から見える場所に使用した場合や機械の可動部周辺等に使用した場合、熱成型加工時に短繊維の脱落を抑えたり、使用箇所の形状に形を合わせる必要があり、実用上不便なものであった。
【0003】
そこで、このような箇所にはスパンボンド不織布が使用されていた。しかしながら、スパンボンド不織布は一般的に高強度、低伸度であり、かつ伸張モジュラスが高いため、成型加工時において深絞りの成型を行う場合、部分的に浮き上がりができたり、成型品の嵩を稼ぐことができないため非常に不利である。
また、スパンボンド不織布は隠蔽性が低いため、これを改善するために他の不織布と積層複合化して使用せざるを得ないのが現実であった。例えば、極細繊維からなる不織布を積層一体化する方法等が知られているが、これら積層不織布は、やはりスパンボンド不織布の伸張モジュラスが高いため、成型時の形状追従性に乏しく、できた成型品のボリューム感に欠け、硬い風合いとなってしまい用途が制限されてしまうといった問題点があった。
【0004】
これらの問題点を解消するためには、伸びやすく、かつ隠蔽性の高い不織布を用いることが必要になる。このような不織布を比較的容易に製造できる方法として、溶融ポリマーをオリフィスから吐出し、その近傍より噴出する高温高速気体によって細化繊維化し、これを金網等のベルトコンベアー上に捕集して不織布を得る、いわゆるメルトブロー法が知られており、各種ポリオレフィン、ポリアミド、ポリウレタンなどのメルトブロー不織布が製造されている。
【0005】
近年、吸音材特に自動車用の吸音材等の用途において各種メルトブロー不織布が採用されているが、省エネルギーや環境保護の観点からリサイクル可能なポリマーや燃焼時に有毒なガスを含まないポリマーからなる製品が求められるようになってきている。
そこで、高い温度での成型加工に供することが可能な耐熱性を有し、かつリサイクル可能な汎用ポリマーとしてポリエステルが挙げられ、中でもより高い耐熱性を有し、比較的安価なポリマーという観点から、ポリエチレンテレフタレートが注目されている。
【0006】
ところが、ポリエステルの代表ともいえるポリエチレンテレフタレート(以下PETと略記する)からなるメルトブロー不織布はあまり製造されていないのが現状である。
この理由は、PETがメルトブロー用として多用されている他の結晶性ポリマーに比べ結晶化速度が遅いため、通常のメルトブロー条件で製造した場合、細化繊維化は可能であるが、メルトブロー時にその結晶化度を十分に高めることができず、そのため熱安定性が低く、ガラス転移点(70〜80℃)を超える温度下にフリーでおかれた場合には繊維が大きく収縮してしまい事実上極めて大きな問題となってしまう。この点を改良するために特開平3−45768号公報ではメルトブロー後のウェブを緊張下で熱処理して適度に結晶化を増大させる方法が提案されている。しかし、この方法は熱処理工程を増やす必要があると同時に、得られたものは球晶が発生しやすいためか、他の易結晶化ポリマーから製造されたメルトブロー不織布に比べ、熱収縮率が大きく、強度の低い、風合いの硬い劣勢のものしか得られない。したがって、このようなメルトブロー不織布を表面材として用い成型加工した場合には、加工時の熱により不織布が収縮、脆化してしまい、容易に破断してしまうという問題があり、優れた耐熱性と成型加工性を併せ持つ不織布が望まれていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、優れた耐熱性を有するとともに複雑な形状を有する成型体に対して良好な追従性を有し、かつ特に吸音材として用いた場合優れた遮蔽性を有する立体成型用不織布を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、ポリエチレンテレフタレート75〜98質量%とポリオレフィン系ポリマー25〜2質量%の混合ポリマーからなる繊維を少なくとも一成分とする立体成型用不織布であって、該立体成型用不織布が下記の1)〜4)を満たすことを特徴とする、吸音材に用いるための立体成型用不織布である。
1)平均繊維径が10μm以下であること、
2)混合ポリマーの流動開始温度が210℃以上であること、
3)120℃における乾熱面積収縮率が10%以下であること、
4)光透過率が50%以下であること。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、PETにポリオレフィン系ポリマーを特定量ブレンドすることによって生産性よく、かつ形態安定性、耐熱性、遮蔽性、熱成型追従性に優れた立体成型用不織布を得るものであり、かかる目的を達成するためにはメルトブロー法により製造することが好ましい。以下、詳しく本発明を説明する。
【0010】
本発明の立体成型用不織布はPETを主成分とするものであるが、一般にPETは、メルトブロー法により不織布化しようとした場合、他の易結晶性ポリマー、例えばポリプロピレン等におけるメルトブロー条件に比べ高いポリマー粘度、高圧のエアーを用いてメルトブローしないと得られたメルトブロー不織布の熱収縮を小さくすることが出来ない。また、このような条件では生産性、操業安定性に欠けると言うことは前述の通りである。本発明者らは比較的低圧エアーを用いてこれらの問題を解決することを検討した。すなわち、PETと非相溶性であり結晶化速度が速く、かつその溶融粘度が十分小さいポリマーであるポリオレフィン系ポリマーを適量ブレンドすることで、系全体の溶融粘度を下げる”減粘効果”を発揮させることによりPETの細化繊維化が容易となり、本発明の目的とする立体成型用不織布を得ることを可能とした。PETに対してブレンドするポリマーが同じポリエステル系ポリマーであるポリブチレンテレフタレート(PBT)のように化学構造に類似性のあるものではお互いの結晶化能を阻害するためか、目的を達成することができない。
【0011】
そこで、本発明者らは検討の結果、PETを75〜98質量%、ポリオレフィン系ポリマーを2〜25質量%ブレンドしたポリマーを用いることが上記目的達成に最も有効であることを見出した。好ましくは、PET85〜95質量%、ポリオレフィン系ポリマー5〜15質量%である。
ここで、本発明の立体成型用不織布で使用するPETは、基本的には汎用品であれば特に差し支えないが、固有粘度1.2以下であるものが好ましく、より好ましくは0.5〜0.9である。固有粘度が1.2を超えるとメルトブロー法により製造する際に、ポリマー粘度が高すぎて細い繊維径を得ることができない場合がある。なお、本発明では再生PETを用いてもよい。再生PETは、繊維、フィルム、成型品等をせん断、粉砕、溶融固化することで得られる。
【0012】
また、本発明で使用するポリオレフィン系ポリマーとしては、ポリエチレン(特にLLDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)等が有効であり、PPやPMPが低溶融粘度下での良好な曵糸性を有する点で特に好ましい。なお、これらブレンドするポリマーによる”減粘効果”を十分に得るためには低溶融粘度グレードのものを使用することが好ましい。例えばPPの場合には、230℃におけるメルトインデックスが100以上のものを用いることが、100kPa以下の低圧エアーの比較的弱い力でもポリマー流の細化繊維化が容易に可能となる点で好ましい。
【0013】
さらにPETについても流動性を向上させることで、ポリオレフィン系ポリマーとのブレンド均一性が更に向上し、より高いポリオレフィン系ポリマー混率においても低圧のエアーで細化繊維化を促進し、非常に細い繊維からなる立体成型用不織布の製造が可能になる。これは後に述べる不織布の隠蔽性を確保するためにも有利である。このためには、原料であるPETの水分率を適度に調整することが重要である。通常、PETの溶融紡糸においては、押出し機に投入するPETの水分率は、通常50ppm以下であり、この数値が大きいほど紡糸安定性が低下するとされている。しかしながら、メルトブロー法においては、必ずしもこのことが当てはまらず、特に本発明においては、この値が100〜500ppmであることで良好なメルトブロー紡糸性を確保したまま、ポリオレフィン系ポリマーとより均一に混合可能になり、かつ繊維をより細くすることが可能になり、良好な隠蔽性を確保できるようになるのである。これは、ポリマーに適度な水分を含有させておくことで、溶融押出しの際に、ポリマーの加水分解を促し、これによって生じたオリゴマーが溶融ポリマー全体の流動性を確保するために働くことで良好な流動性を発現するのである。しかしながら、水分率が100ppm未満では、PETの流動性が低く、低いポリオレフィン混率の場合に細化し難い場合がある。また、500ppm以上では紡糸そのものが不安定になるためノズル汚れの発生や、ショットと呼ばれる塊状ポリマー粒の発生が起こり、不織布が製造しにくい場合がある。
【0014】
本発明において、ポリオレフィン系ポリマーのブレンドによって熱形態安定性のよい立体成型用不織布が得られる理由としては、ポリオレフィンがPETの連続海相中に微細な島成分として分散した海島状の混合形態となり、それぞれが別々に適度に結晶化するため、加熱によってそれぞれの非晶分子が移動して収縮しようとしても、この結晶部分が分子移動を抑える拘束点となり熱収縮が小さく抑えられた不織布を得ることができるためと推定される。しかし、ポリオレフィン系ポリマーのブレンド率が小さすぎると上記系全体の溶融粘度が十分に低下せず、低圧エアーの弱い力では十分細化繊維化しにくくなると同時に、エア量を相当大きくしてもPETの配向結晶化が進み難くなり、熱収縮率は小さいものの熱処理などでガラス転移点以上で熱処理した時には繊維間の膠着が起こり不織布はペーパーライクな粗硬な風合いとなってしまう。エアー量を更に大きくすることはウェブ中繊維の飛散が生じ、安定した捕集が困難となる。
これらの点からポリオレフィン系ポリマーのブレンド率の下限は2%が限界である。一方、ポリオレフィン系ポリマーの混合率が大きくなると、PET中にポリオレフィン系ポリマーを均一に微分散することが困難となるため、通常のブレンド紡糸において見られるのと同様に曳糸性が低下し、細化不良となって糸切れを生じ安定にメルトブロー不織布を得ることが困難となる。この点からポリオレフィン系ポリマーのブレンド率は25質量%以下であることが重要である。
【0015】
またPETとポリオレフィン系ポリマーの混合状態が不均一でPET中にポリオレフィン系ポリマーが大きな塊状で存在すると、細化不良によるいわゆるショットを生じやすく安定なメルトブローが行えなくなるため、PET中にポリオレフィン系ポリマーをほぼ均一に微分散させることが望ましい。混合方法はPET中にポリオレフィン系ポリマーをほぼ均一に微分散させられる方法であればどのような方法であっても構わないが、方法の簡便さ、容易さ、混合の均一性の点から溶融前にペレット状で混合し溶融混練するか、混練したものを更にペレット化して用いることが好ましい。このような方法では特別な装置を必要とせず、従来の単一成分用のメルトブロー装置をそのまま使用することができるため、装置面についても有利である。
【0016】
本発明を実施するための紡糸ヘッドは、従来から用いられている一般的なものを用いて行うことができる。本発明の方法によれば、混合ポリマーの溶融粘度が十分低下するため、単孔吐出量は0.2〜1.0g/分以下の範囲でも安定にメルトブローを行うことができる。吐出量をある程度低下させても安定に紡糸はできるが、生産効率が低くなる場合がある。一方、単孔吐出量が1.0g/分を超えると低圧エアーでは細化繊維化が進みにくく、十分に細化繊維化するためにはエアー量を大きくする必要が生じる。この場合、エアー量を大きくしすぎると前記の問題を生じ、生産が不安定となりやすい。また、エアー圧は1kPa以上であることが好ましく、これより低いと細化繊維化が十分進まない。
【0017】
ポリマーを溶融する温度や紡糸口金部の温度は、ポリマーの劣化などの点から目的を満たす範囲で低いことが好ましく、紡糸口金における系全体の溶融粘度が10〜50Pa・sとなるような温度範囲が特に好ましい。
【0018】
このようにして得られる本発明の立体成型用不織布を構成する繊維の平均繊維径は10μm以下であり、好ましくは1〜3μmである。平均繊維径は、上記した単孔吐出量、エアー圧や紡糸口金温度等によって調整することができる。
【0019】
さらに、該立体成型用不織布の成型性を確保する上で、ウェブ内の繊維の接着状況をコントロールすることが必要になる。このため、本発明の立体成型用不織布を製造するためには、その紡糸繊維流を冷却することが必要になる。こうすることにより、繊維流がウェブ成型機に捕集されるまでの間に生ずる繊維融着のレベルをコントロールし、適度なウェブ強度を確保し、かつ熱成型加工に際して、応力がかかったときに、低応力で繊維が適度にずれて、不織布が破断せずに伸長するようになり、成型加工性の向上につながるのである。そして、繊維流が成型機に捕集される前に繊維同士が融着してしまうことで不織布の地合が低下し、その結果、後で述べる隠蔽性が低下するということも防げるのである。冷却のレベルについては、ラインCD方向中央部において、ノズルよりもライン下流側10cmかつノズルの繊維吐出面から、繊維流方向に5cm離れた地点の温度(以下、本発明において「繊維流近傍温度」と称する場合がある。)を10〜40℃にコントロールすることが肝要である。該繊維流近傍温度が10℃未満では、繊維の融着度合が少なくなりすぎて、不織布の形態安定性確保に問題が生ずる。一方、40℃を超える場合には、繊維の融着度合が激しくなりすぎ、成型加工時にウェブが適度に伸びずに破断してしまう。このように適度な温度を確保する方法としては、既に公知の手法が使用可能であり、メルトブロー装置そのものを、繊維流近傍温度が10〜40℃になるように温度調節した環境下で運転する方法でもよいし、いわゆる二次エアとして温調した冷風を繊維流に吹き付ける方法でも構わない。
【0020】
本発明の立体成型用不織布は該不織布を構成する繊維が適度に結晶化しているため、加熱しても殆ど収縮せず、優れた耐熱性を有している。特に本発明においては、120℃の熱風中で2分間フリー熱処理したときの乾熱面積収縮率は10%以下が好ましく、より好ましくは5%以下である。また、同様に200℃の熱風中で熱処理した場合における乾熱面積収縮率は10%以下が好ましく、より好ましくは5%以下である。
【0021】
さらに本発明の立体成型用不織布は、優れた熱成型性を示す点も大きな特徴の1つであり、高温に曝された場合においても、ポリマーが流動開始せず、繊維の形態を保っていることがメリットとして挙げられる。本発明の立体成型用不織布は、該立体成型用不織布を構成する混合ポリマーの流動開始温度が210℃であり、好ましくは240℃以上であり、特に好ましくは250〜400℃である。このように本発明の立体成型用不織布は、優れた乾熱面積収縮率および高い流動開始温度を有するため200℃以上の高温においても十分に熱成型加工が可能である。
【0022】
また、本発明の立体成型用不織布は、熱成型加工する際により優れた成型追従性を得るために少なくとも一方向における伸度が50%以上、かつ目付当たりの10%伸張モジュラスが0.5N/5cm/g/m2以下であることが好ましい。目付当たりの10%伸張モジュラスが0.5N/5cm/g/m2を超えると、不織布に柔軟性が無いため、複雑な形状に成型使用とした場合、成型しようとしている形状にしっかり沿うことができず、その形状を十分に再現できない場合がある。また、この値が限りなく0に近づくと、加工時の取り扱い性に問題を生ずる場合があるため、0.2〜0.4N/5cm/g/m2であることが好ましい。一方、破断伸度が50%未満の場合は、深い絞りの部分が浮いてしまったり、あるいは破断する場合が生じるため、好ましくは70%以上である。
【0023】
さらに本発明の立体成型用不織布は、優れた均一性、隠蔽性を有することも重要なファクターである。特に表面材として用いた場合に、その裏側に位置する母材の色が異なる場合等、表面材となる不織布の隠蔽性が低いと表面材を透かして下地の母材等が見えてしまい、非常に見栄えが悪い成型物になってしまう場合がある。かかる隠蔽性の尺度としては、光透過率が用いることができ、本発明においては、該光透過率が50%以下であり、より好ましくは30%以下である。
【0024】
本発明の立体成型用不織布は、その極細繊維の緻密さを利用して、印刷等により絵や写真をプリントすることで表面に意匠性を付与することも可能である。また、必要に応じ、原料練りこみや後加工により、着色、難燃性、撥水性、防汚性等の種々の処理をしてもよい。
【0025】
また、本発明の立体成型用不織布は、そのままでも表面材として成型加工可能であるが、より高強度を必要とする場合や毛羽立ち等を抑えるために、エンボス加工等により形態安定化をはかることができる。この場合、エンボス加工温度は、不織布の伸張性を確保するために、80℃〜150℃で実施することが好ましい。150℃を超える温度で加工した場合、繊維同士の融着が激しくなり、成型加工時の伸張性が発現しないため、十分な成型性を確保できなくなる場合がある。また、80℃以下では、繊維接着があまり生じないため、加工しても不織布を傷めるだけで効果が得られない場合がある。
【0026】
本発明の立体成型用不織布は、吸音材の表面材として好適に用いることができる。
一例として、本発明の立体成型用不織布を例えばガラス繊維や熱融着性ポリエステル繊維を含むフェルトからなる母材の上に配置した状態で加圧加熱成型により一体化されることにより製造することができる。このときに不織布の耐熱性が低いと、成型加工時の熱でポリマーが溶融してしまい加工ができなくなったり、成型時の熱により繊維が脆化してしまい、変形に対して追従できずに破断してしまう。また、不織布の成型追従性が低いと成型が非常に深い場合など形状に追従できずに皺が生じたり、深絞りのコーナー部が破断してしまうという問題が生じる。
一方、不織布に十分な強度があれば、破断は避けられるもののコーナー部の浮きを生じたり、全体の厚みが薄くなってしまう問題が発生する。この問題は、特に吸音材の場合には、厚み低下が全体の吸音性能の低下を招くことになり、可能な限り回避する必要のある現象である。
【0027】
そこで、本発明の立体成型用不織布を用いることで立体成型時、特に深絞り成型時においても優れた成型追従性を有する吸音材が得られるが、さらに特筆すべきことは、立体成型用不織布を用いた吸音材は、使用している母材単体に比べ、非常に優れた吸音性能を発揮するのである。これは、表面材に使用している繊維が極細繊維であるということによる吸音性能の向上加え、この不織布が成型加工時に適度に伸びることにより、母材の厚みを確保することで母材本来の性能を維持できるためであると推定している。
【0028】
なお、本発明の立体成型用不織布を吸音材に用いる場合は、その加工性をより向上させるために、片面に熱接着層を設けてもよい。該熱接着層としては、特に制限は無いが、表面層の性能を低下させないレベルで、ホットメルトバインダー層を直接形成してもよいし、または熱接着性シートを別に作製し不織布と積層した複合体を用いたり、成型加工時に3者を積層一体化する方法等が可能である。
該熱接着性シートとしては、極細繊維の伸張性を阻害しないレベルの柔軟なシートであることが望ましく、特に柔軟性を有する熱可塑性エラストマーやポリエチレンからなる不織布やフィルム等のシートを用いることが好ましい。
該熱可塑性エラストマーの例としては、エチレン−αオレフィン共重合体等からなるオレフィン系エラストマーやポリスチレン−ポリエチレンブチレン−ポリスチレントリブロック共重合体水添ポリマー(SEBS)あるいはポリスチレン−ポリエチレンプロピレン−ポリスチレントリブロック共重合体水添ポリマー(SEPS)等のスチレン系エラストマーが有用である。
また該熱接着性シートの製法としては、メルトブロー法を用いることで、別途ホットメルトマシーンやフィルム製造装置を準備しなくとも接着層を製造することができるので有用である。
【0029】
これらの熱接着層は、得られた不織布に直接メルトブロー紡糸して形成してもよいし、単独で不織布化した後、熱エンボス、超音波等で積層複合化することが可能である。なお熱接着層を複合した場合でも、成型追従性を確保するために、単体で用いる場合と同様の10%伸張モジュラスおよび伸度を有することが好ましい。
【0031】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。本実施例における各物性値は、以下の方法により測定した。
【0032】
1.PETの固有粘度
フェノ−ル/テトラクロロエタン=1/1の比で混合した混合溶媒に溶解し、毛細管粘度計を用いて温度30℃で測定し、固有粘度[η]を式1により求めた。
【数1】
【0033】
2.平均繊維径
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、不織布の表面を1000倍に拡大した写真を撮影し、この写真に2本の対角線を引き、この対角線と交わった繊維の太さを倍率換算した値を用いた。そしてこれら繊維の100本の平均値を平均繊維径とした。
ただし、2本以上が束状に融着している繊維、あるいは、異常な形態の繊維については、その1本1本の太さを測定できないため、測定対象から除外した。
【0034】
3.ポリマー流動開始温度
ヤナコ機器開発研究所製ビューア式微量融点測定装置(MP−500V)を用いて測定した。サンプル台上にサンプルを載せたスライドグラスを置き、このサンプル台を2℃/分の昇温速度で昇温すると共に、備え付けの拡大鏡にてサンプルを目視観察し、サンプルが溶融、流動開始した温度をポリマー流動開始温度とした。
【0035】
4.目付・厚さ
JIS L1906 「一般長繊維不織布試験方法」に準拠して測定した。
【0036】
5.強伸度・10%伸張モジュラス
JIS L1906「一般長繊維不織布試験方法」に準拠して測定した。また、このときの測定チャートから、伸度10%の時点での応力を読み取り、この値を10%伸張モジュラスとした。なお、強伸度および10%伸張モジュラスは不織布のMD方向とCD方向について測定を行った。
【0037】
6.通気度
JIS L1906 「一般長繊維不織布試験方法」のフラジール形法に準拠して測定した。
【0038】
7.光透過率
光源として東芝社製「フォトリフレクタ−ブラッド」(100V、300W)を使用し、東京光電(株)社製「Lux−meter ANA−315」を使用してその照度を測定し、次式により光透過率を測定した。
光透過率(%)=(サンプル挟持時の照度)/(ブランク照度)×100
【0039】
8.吸音率
JIS A−1405に従って、垂直入射法吸音率を求めた。代表値として1000Hzと2000Hzの値を求めた。
【0040】
9.メルトインデックス
PP:JIS K 6758に準拠;230℃、2.16kg荷重。
PE:JIS K 6760に準拠;190℃、2.16kg荷重。
【0041】
実施例1
固有粘度が0.62のPET95質量%と、ポリプロピレン(メルトインデックス:200)5質量%とをブレンドし、押出し機で加熱溶融後、0.3mmφのオリフィスが301孔、1mmピッチで1列に配列されたダイ幅300mmのメルトブローノズルから吐出し、スリット幅1mmのエアースリットから加熱エアーを噴射して細化された繊維を、その30cm下方を走行する金網ベルトコンベア上に捕集してメルトブロー不織布を採取した。次いで、形態安定化のために圧着面積率10%のエンボス装置を用い、温度110℃、線圧35kg/cm、速度5m/分で処理し、立体成型用不織布を得た。得られた立体成型用不織布の流動開始温度を測定した結果、258℃であった。結果を表1に示す。
【0042】
実施例2、3
PPの混率を表1に示す割合に変更したこと以外は実施例1と同様にしてそれぞれ立体成型用不織布を得た。これらの立体成型用不織布の流動開始温度はいずれも256℃であった。(表1)
【0043】
実施例4
PPの替わりにLLDPE(メルトインデックス:20)を用いたこと以外は実施例2と同様にして立体成型用不織布を得た。得られた立体成型用不織布の流動開始温度は250℃であった。(表1)
【0044】
比較例1
PETのみを用いたこと以外は実施例1と同様にして立体成型用不織布を得た。得られた立体成型用不織布の流動開始温度は260℃であった。(表1)
【0045】
比較例2
PPの替わりに固有粘度0.7のPBTを用いたこと以外は実施例2と同様にして立体成型用不織布を得た。得られた立体成型用不織布の流動開始温度は260℃であった。(表1)
【0046】
比較例3
PETとPPの混率を60/40に変更したこと以外は実施例1と同様にして立体成型用不織布を得ようとしたが、紡糸性が悪く、糸切れ発生により評価に耐えるような立体成型用不織布を得ることができなかった。(表1)
【0047】
【表1】
【0048】
実施例5〜8、比較例4〜6
・吸音材熱成型加工試験
吸音材母材として、1.5dtexのレギュラーポリエステル繊維70%と4dtexの変性ポリエステル繊維30%からなるフェルト(目付600g/m2、厚さ15mm)を準備し、これに上記実施例1〜4、比較例1、2で得られた立体成型用不織布をそれぞれ表面に配置して成型一体化した。このときの成型状態を目視観察し、また成型後の厚みをノギスで測定した。結果を表2に示す。
成型加工条件
成型形状:縦10cm×横10cm×深さ10mmの箱型の金型
成型温度、時間:200℃×60秒
【0049】
【表2】
【0050】
・吸音率試験
上記の試験で得られた成型体のうち実施例6の成型体、表面材として目付20g/m2のPETスパンボンド不織布を用いて成型した成型体、および参考例としてポリエステルフェルトのみ(未成型品)の3つのサンプルについて吸音率を測定した。結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
これらの結果から、比較例1および2の立体成型用不織布を用いて成型加工した場合には熱収縮及び不織布の脆化のために、吸音材を得ることはできなかった。また、比較例6の吸音材は、成型加工時に母材がつぶれてしまい、成型後の厚みが薄くなってしまった。このためか、吸音性能についても、母単体よりもやや低い値になってしまった。これに対し、実施例6の吸音材は優れた吸音率を示していた。
【0053】
【発明の効果】
本発明により、優れた耐熱性と複雑な深絞りの成型加工に対しても良好な形態追従性を有する立体成型用不織布を得ることができる。さらには、複雑な形状を有する吸音材においても、本発明の立体成型用不織布を使用することにより、優れた吸音性能を有する吸音材を得ることができる。
Claims (4)
- ポリエチレンテレフタレート75〜98質量%とポリオレフィン系ポリマー25〜2質量%の混合ポリマーからなる繊維を少なくとも一成分とする立体成型用不織布であって、該立体成型用不織布が下記の1)〜4)を満たすことを特徴とする、吸音材に用いるための立体成型用不織布。
1)平均繊維径が10μm以下であること、
2)混合ポリマーの流動開始温度が210℃以上であること、
3)120℃における乾熱面積収縮率が10%以下であること、
4)光透過率が50%以下であること。 - 少なくとも一方向に50%以上の伸度を有し、かつその方向における目付当たりの10伸張%モジュラスが0.5N/5cm/g/m2以下である請求項1に記載の吸音材に用いるための立体成型用不織布。
- 200℃における乾熱面積収縮率が10%以下である請求項1または2に記載の吸音材に用いるための立体成型用不織布。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の立体成型用不織布を表面材として用い、立体成型してなる吸音材。
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