JP3815863B2 - 雌ねじ部材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ナット等の雌ねじ部材に関し、特に雄ねじ部材との螺合の際、塗膜やゴミ等の異物を剥離したり取り除いたりする機能を有する雌ねじ部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ナット等の雌ねじ部材で塗膜(塗料膜)等の付着したボルトを締め付けるには、塗膜等の厚みによりボルトの径が増大した分、やや強引に締め付けていた。また、実公平5−39211号公報に記載のナットは、相手方と螺合する際に、その螺合方向の先端よりさらに先行して形成した凸部の進行方向の端部を、ねじ内周面に対しほぼ垂直に立ち上げたものである。このようなナットによれば、相手方との螺合時に、その螺合の進行に従って先頭に位置する上記凸部の垂直面が、例えばボルトのねじ山に付着している塗膜を剥離し、これを螺合の進行に従って排出することができる。そのため、ナットのねじ山と相手方のねじ山との間に塗膜等の異物が入り込みにくく、塗膜等でナットの動きが阻害されることを解消できる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、通常のナットで塗膜等の付着したボルトを締め付けるには、塗膜の厚み及び粘性などが締め付けの抵抗となって、スムーズな締め付けが行えない場合があった。また、上記公報のナットによると、ボルトを締め付ける際にボルトに付着した塗膜等の厚みを上記凸部で一度に削りながら締め付けるため、塗膜を削る力が抵抗となってスムーズな締め付けを阻害する場合がある。さらに、上記凸部により剥離された塗膜等は、ナットの座面側に押し出されることとなるが、この押し出された塗膜等がナット締結時に、ナット座面と相手方部材の当接面との間に入り込むと、ナット締結力に好ましくない影響を生じる場合も考えられる。
【0004】
本発明の課題は、塗膜等の付着したボルトに、スムーズに締め付けることができ、さらに、例えばナット座面と相手方部材の当接面との間に、剥離した塗膜等の異物が入り込むことを防止ないしは抑制するナット等の雌ねじ部材を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
このような課題を解決するために、本発明のナット等の雌ねじ部材は、雌ねじ部材を貫通する雌ねじ孔には主雌ねじ部が形成され、該主雌ねじ部と螺合する雄ねじ部材に対する螺合の開始端側に位置するように、雄ねじ部材の雄ねじ部に付着した塗膜等の異物を除去するための異物除去雌ねじ部と、この異物除去雌ねじ部の間に形成された異物溜まり部とを有し、この異物溜まり部は主雌ねじ部を径方向に切り欠くことにより前記雌ねじ孔の周方向に複数個形成し、この異物溜まり部によって分断される前記異物除去ねじ部には、前記主雌ねじ部から連続する雌ねじによってねじ山セグメントが形成され、それぞれのねじ山セグメントは各セグメントの一端から他端までにわたり同一の高さを有し、かつ、各ねじ山セグメントは前記雌ねじ部材の座面側の螺合の開始端から遠くなるほど、1ないし複数個のねじ山セグメントを単位として、前記主雌ねじ部の高さと一致するように段階的に高さが増大するように形成されたことを特徴とする。
【0006】
上記構成によれば、異物除去雌ねじ部の雌ねじ山が、雌ねじ部材との螺合の開始端から遠くなるほど異物除去雌ねじ部の雌ねじで構成するねじ山セグメントの高さが、段階的に増大するように形成されているので、ボルトに付着した塗膜等を段階的に削りながら締め付けることができ、塗膜等の厚みや粘性による抵抗力が軽減され、ひいてはスムーズな締め付けを行うことができる。なお、本発明が対象とする雌ねじ部材は、ボルト等の雄ねじ部材にねじ込まれるナットが代表的であるが、この他にも、所定の部材に固着されたウェルドナットや、該部材に直接孔設された雌ねじ孔等にも本発明を適用できる。その場合は、当該雌ねじ孔が形成された部材を雌ねじ部材として把握することができる。
【0007】
上述の異物除去雌ねじ部により除去された塗膜等の異物を収容するための異物溜まり部を形成することにより異物除去雌ねじ部で除去された異物を、その異物溜まり部に収容し、例えばナット座面と相手方部材の当接面との間に異物が入り込むことを防止ないしは抑制して、ナット締結力を強化することができる。また、異物溜まり部を異物除去雌ねじ部の谷径より深く形成することにより、剥離された塗膜等は、螺合完了以降もその異物溜まり部に収容され続けるので、以降のねじの着脱の際に、除去された異物によるねじ山のカス詰まり等も生じにくい。
【0008】
上記異物溜まり部は、雌ねじ孔の周方向に所定の間隔で複数個形成しており、前記雄ねじ部に付着していた塗膜等の異物各異物溜まり部に分散して収容されるので、異物のねじ山からの排除がより効率的に行われ、ひいてはよりスムーズなねじの締め付けを行うことができる。また、除去される異物の量が多い場合にも対応できる。なお、このように異物溜まり部を複数形成することにより、異物除去雌ねじ部は螺合方向に配列する複数のねじ山セグメントに分断される。これにより、分断された各ねじ山セグメントの螺合先行側端縁に異物の除去に好適なエッジ(あるいは刃部)が形成され、異物の除去をよりスムーズかつ確実に行うことができる。なお、本発明の雌ねじ部材を例えば冷間鍛造法により製造する場合、上記ねじ山セグメントのエッジあるいは刃部の先端は若干丸みを帯びたものとなるが、このような刃部であっても必要充分な異物を除去する効果達成できる範囲内にある。
【0009】
上述の異物除去雌ねじ部の雌ねじ山はねじ山セグメントを構成しており、このねじ山セグメントは、雌ねじ部材の座面側の螺合の開始端から遠くなるほど先端の高さが主雌ねじ部の高さと一致するように、段階的に高さが増大するように形成されており、このことは雌ねじ部材の座面側の螺合の開始端に近づくほど、1ないし複数のねじ山セグメントを単位として段階的に高さが主雌ねじ部のねじ山の先端の高さよりも減少することになる。
このため、雄ねじ山に着目した場合に、1ないし複数のねじ山セグメントが通過する毎に塗膜等の異物は少しずつ段階的に除去されるので、該異物の除去をさらにスムーズかつ確実に行うことができる。例えば、ボルトに付着した塗膜を除去する場合、螺合方向先行端側の第一のねじ山セグメントで塗膜の全厚さの半分程度を、次の第二のねじ山セグメントで残った塗膜のさらに半分程度を、さらに第三のねじ山セグメントで残留している塗膜の全てを除去するという具合に塗膜除去が進み、一層スムーズな締め付けができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施例を図面を基に説明する。
図1は塗膜剥離機能あるいはゴミ等の除去機能を有する本発明の雌ねじ部材の一実施例たるナット1を、その座面2側から見たものである。このナット1は六角部3と偏平なフランジ部4との一体構造をなし、フランジ部4の端面が座面2となっている。ただしフランジ部4は必須というわけではなく、六角部3の端面が座面2となっていてもよい。
【0011】
六角部3からフランジ部4を貫通する円筒状の空間には、その六角部3側に主雌ねじ部5が形成され、この主雌ねじ部5より座面2側には当該主雌ねじ部5に隣接し、かつ、円周方向の3箇所にほぼ等角度間隔で分断された異物除去雌ねじ部30(図2)が形成されている。このそれぞれの異物除去雌ねじ部30には、図3(a)に示すように、軸方向に並んで3条(3個)のねじ山セグメント31、32、33が形成されており、このねじ山セグメント31、32、33の高さは、主雌ねじ部5側から座面2側へ向かうほど段階的に減少している。図3(b)は、3箇所に形成された異物除去雌ねじ部30のねじ山セグメント31〜33を、直線状に表し、横軸に異物除去雌ねじ部30の長さ、縦軸にねじ下孔からの高さを示したものである。なお、3条目のねじ山セグメント33は、主雌ねじ部5とほぼ同じ高さとなっている。
【0012】
図1に示すように、ねじ山セグメント31、32、33の螺合方向の進行側の端面が、径方向にほぼ垂直に切り欠かれて塗膜剥離面7が形成されると同時に、その塗膜剥離面7を構成する3箇所の異物除去雌ねじ部30に対して、3箇所の異物溜まり部10が等角度間隔で形成され、この異物溜まり部が塗膜溜まり部10を構成している。この塗膜剥離面7の縁は、雄ねじ山側に付着した塗膜層を削り取るエッジあるいは刃部として機能する。一方、塗膜溜まり部10は、塗膜剥離面7で剥離した塗膜を主に収容する部分であるが、ゴミ等の異物も併せて収容できることは言うまでもない。ここで、塗膜溜まり部10は、図2に示すように、主雌ねじ部5及び異物除去雌ねじ部30のねじ下孔11の径より一定量深く形成されており、これが座面2まで達してその面に開放している。なお、図4に示すように、この塗膜溜まり部10を座面2までは達しないように閉じた形態で形成してもよい。
【0013】
そして、図5に示すように、ボルト等の雄ねじ部材12の雄ねじ部13と、ナット1とが螺合する際には、主雌ねじ部5に先立って、異物除去雌ねじ部30が雄ねじ部材12の雄ねじ部13と螺合する。この時、雄ねじ部13に付着した塗膜等を除去するには、図6に示すように、雄ねじ部材12が螺合方向に螺進して行くと、第一段階として、異物除去雌ねじ部30に形成されたねじ山セグメント31の塗膜剥離面7によって塗膜P1等のうち所定量を除去し、第二段階で第一段階の除去過程で残った塗膜P2等をねじ山セグメント32の塗膜剥離面7でさらに部分的に除去する。そして、第三段階では、3条目のねじ山セグメント33で塗膜除去がなされるが、該ねじ山セグメント33が主雌ねじ部5とほぼ同じ高さとなっていることから、残留している塗膜P3等のほぼ全てをその塗膜剥離面7で除去することができる。
【0014】
このように除去された塗膜等は塗膜溜まり部10に収容される。図7は、雄ねじ部材12にナット1を螺合する際に、その雄ねじ部材12の雄ねじ部13に付着した塗膜Pが段階的に剥離され、その剥離された塗膜P’がナット1の座面2側の塗膜溜まり部10に収容される様子を示している。なお、符号14は、相手側の当接面である。
【0015】
なお、図8(a)に示すように、全てのねじ山セグメントの高さを互いに異なるものとすることもできる。同図では、3箇所に形成された異物除去雌ねじ部30の合計9個のねじ山セグメント34〜42を、座面側から9段階に高くなるように形成した例を示している。なお、図8(b)は、ねじ山セグメント34〜42について、各異物除去雌ねじ部30の長さ(横軸)と高さ(縦軸)との関係を示したものである。このように、ねじ山セグメント34〜42間での高さ変化量をさらに細分化することにより、塗膜等の除去に伴う抵抗をさらに少なくすることができ、ひいてはよりスムーズなねじの締め付けができる。なお、本実施例においては、異物溜り部10で区切られる異物除去雌ねじ部30の各部分が、ねじ山セグメントを3条ずつ含む場合について説明したが、ねじ山セグメントの条数はこれに限定されるものではない。なお、異物除去雌ねじ部30に異物溜まり部10を形成しない場合には、図8(c)に示すように、雌ねじ山の高さを連続的に変化させることもできる。
【0016】
また、図9に示す実施例は、異物除去雌ねじ部30を主雌ねじ部5側へ向かって縮径するテーパ状に形成することで、この異物除去雌ねじ部30においては、ねじ山セグメント50〜52にはテーパ状の下孔Tを谷とするねじ山がほぼ同じ高さで形成されている。これにより、主雌ねじ部5のねじ下孔11を谷とするねじ山の高さに対する上記ねじ山セグメント50〜52の突出高さが、主雌ねじ部5側から座面2側へ向かうほど段階的に小さくなっている。なお、図9では説明の便宜上、テーパの傾きをやや誇張して描いている。
【0017】
次に、図10に示す雌ねじ部材を構成するナット18は、六角部3とフランジ部4が連続したやや軸方向に長い寸法を有し、その異物除去雌ねじ部30より螺合方向の座面2側の内周面に一定幅の非ねじ形成部を設け、その非ねじ形成部が、主雌ねじ部5のねじ下孔11の径より大きく形成されて、雄ねじ部材12との螺合開始時の円筒状ガイド部20が形成されており、これが塗膜溜まりの一部又は全部を構成している。前述の異物除去雌ねじ部30の間の周方向領域は、前述と同様の塗膜溜まり部10となっている。
なお、この異物除去雌ねじ部30の間の周面を例えばねじ下孔11と一致する円筒面の一部で形成すれば、この部分は塗膜溜まりとしての機能は低く、円筒状ガイド部20が実質的塗膜溜まりとして機能することとなる。また円筒状ガイド部20は、雄ねじ部材と螺合する際にそれをガイドするガイド部の役割も果たしており、この場合は、前記非ねじ形成部が異物溜まりと螺合時のガイド部とに兼用され、これら2つの役割を果たすものとなり好都合である。
【0018】
また、図11に示す雌ねじ部材を構成するナット21は、前記円筒状のガイド部20の非ねじ形成部に、異物除去雌ねじ部30のねじ下孔径より深い凹陥部によって第2の塗膜溜まり部22が形成されており異物溜まりとなっている上述の非ねじ形成部とともにこの凹陥部も異物溜まりとして、この塗膜溜まり部22円筒状ガイド部20第1の塗膜溜まり部10ともに塗膜等を収容する。
図11に示す実施例では第2の塗膜溜まり部22は、座面2までは達しないように、かつ周方向に円環状の溝形態で形成しており、図12に示す実施例では第2の塗膜溜まり部22を周方向に断続的に、例えば120°の等角度間隔に3個形成している
【0019】
そして、凹陥部を異物除去雌ねじ部の下孔径よりも深い異物溜まりとした場合は、そこに相当部分の異物を収容することができるようになり、異物溜まりとして機能する非ねじ形成部(言い換えるとガイド部)の幅が短くて済み、例えばナットの軸方向の寸法を小さくできて、寸法的制約が緩和される。
【0020】
また、このように異物溜まり部と凹陥部とを同時に設けた場合は、剥離された塗膜等が相当多い場合でも、それが異物溜まり部と凹陥部に分散して収容できるようになり、例えば異物溜まり部の収容能力が一杯になれば、凹陥部でオーバーフロー分を収容することできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例であるナットの斜視図。
【図2】 そのナットの断面及び底面を示す図。
【図3】 異物除去雌ねじ部の断面を示す図。
【図4】 図2の変形例の断面図。
【図5】 雄ねじ部材とナットとの螺合状態を示す部分断面図。
【図6】 螺合時の作用説明図。
【図7】 同じく作用説明図。
【図8】 異物除去雌ねじ部の変形例を示す図。
【図9】 異物除去雌ねじ部をテーパ状に形成した場合を示す図。
【図10】 別の実施例のナットを示す図。
【図11】 さらに別の実施例のナットを示す図。
【図12】 第2の凹陥部を周方向に断続的に形成した場合の底面図。
【符号の説明】
1,18,21 ナット(雌ねじ部材)
2 座面
5 主雌ねじ部
7 塗膜剥離面
10 塗膜溜まり部(異物溜まり部)
30 異物除去雌ねじ部
31〜42,50〜52 ねじ山セグメント

Claims (1)

  1. 雌ねじ部材を貫通する雌ねじ孔には主雌ねじ部が形成され、該主雌ねじ部と螺合する雄ねじ部材に対する螺合の開始端側に位置するように、前記雄ねじ部材の雄ねじ部に付着した塗膜等の異物を除去するための異物除去雌ねじ部と、この異物除去雌ねじ部の間に形成された異物溜まり部とを有し、
    この異物溜まり部は主雌ねじ部を径方向に切り欠くことにより前記雌ねじ孔の周方向に複数個形成し、この異物溜まり部によって分断される前記異物除去ねじ部には、前記主雌ねじ部から連続する雌ねじによってねじ山セグメントが形成され、それぞれのねじ山セグメントは各セグメントの一端から他端までにわたり同一の高さを有し、
    かつ、各ねじ山セグメントは前記雌ねじ部材の座面側の螺合の開始端から遠くなるほど、1ないし複数個のねじ山セグメントを単位として、前記主雌ねじ部の高さと一致するように段階的に高さが増大するように形成されたことを特徴とする雌ねじ部材。
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