JP3811996B2 - トラクションドライブ用流体 - Google Patents
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Description
【0001】
本発明は、トラクションドライブ用流体の改良に関し、広い温度範囲にわたって高いトラクション係数を示すとともに、摩擦特性がすぐれたトラクションドライブ用流体を提供する。
【背景技術】
【0002】
トラクションドライブ装置は、円柱状または円錐状の回転体とそれを包む回転体との間にはさみこまれた流体油膜が流動性を失い硬化することにより生じる剪断に対する抵抗力に起因する、ころがりすべり摩擦を利用した動力伝達装置であって、自動車用無段変速機、産業用機械の無段変速機あるいは水圧機器などに広く用いられてきている。とくに近年、自動車用を中心にトラクションドライブ装置の高性能化や小型軽量化の研究が進み、トラクションドライブ用流体も高性能のものが要求されている。
【0003】
自動車用トラクションドライブ装置には、トラクションドライブ本体のほかにトルクコンバータ、油圧機構、湿式クラッチなどが含まれており、これらを潤滑するトラクションドライブ用流体には、前述した、優れたトラクション特性に加えて、粘度特性、摩擦特性、耐摩耗性、焼き付き防止性、耐腐食性、低温流動性、酸化安定性、錆止め性、シール適合性、消泡性、剪断安定性など、さまざまな性質が求められている。
【0004】
トラクションドライブ用流体は、これまでも種々提案されている(特許文献1、特許文献2および特許文献3)。従来のものは、30℃付近でのトラクション係数は比較的高いが、高温になるにつれてトラクション係数が低下し、実走行時の油温と考えられる高温域ではトラクション係数が小さく、実用性が低い。そこで、高温におけるトラクション係数の改善法が提案された(特許文献4)。これは、シクロペンタジエン系の3〜6量体を主成分とするものに、シクロペンタジエン類とα−オレフィンとの熱共重合物を配合することにより、高温領域(120℃付近)のトラクション係数を向上させる技術である.
【0005】
別の技術(特許文献5)では、シクロペンタジエン系化合物の重合物を使用して、高温領域のトラクション係数を向上させている。この効果はシクロペンタジエン系化合物単独の重合物の効果によるものであって、他の共重合物を用いるとしても、使えるものは脂肪族のオレフィンまたはジェンであると記載されている。
【0006】
一般にこれまでトラクションドライブ用流体に関しては、トラクション特性だけが問題にされている場合が多く、後述するトラクションドライブ装置の潤滑という観点から必要とされる、各種の性能を備えていないものが多い。自動車用トラクションドライブは広い温度領域で使用されるため、これらを潤滑する自動車用トラクションフルードは、低温時の始動性を考慮するとともに、油圧制御のための油圧油としての性能か要求される。すなわち、低温粘度を重視した粘度−温度特性、および低温流動性を改善する必要がある。
【0007】
トラクションドライブ装置には、湿式クラッチを用いたロックアップ機構を付けたトルクコンバータの採用が検討されている。ロックアップ機構とは、走行条件に応じて、エンジンの出力を直接トラクションドライブに伝達するものである。低速域における燃費を改善するため、低速域でもロックアップクラッチを使用する、スリップ制御か導入されることが予想される。低速域においてロックアップ機構を作動させた場合、「ジャダー」と呼ばれる車体振動が発生するおそれがある。ジャダーの発生を抑制するためには、μ(摩擦係数)−V(滑り速度)特性の良好な潤滑油を使用することが必要である。
【0008】
湿式クラッチは、静摩擦係数が低いと滑りが発生しやすくなり、ロックアップ作動時に伝達トルクのロスか多くなるおそれがある。伝達トルクのロスを少なくするためには、湿式クラッチにおける静摩擦係数を高める必要がある。この特性を「伝達トルク容量」と名づける。
【0009】
このような二つの摩擦特性は相反する性能であるが、自動車用トラクションフルードとしては、両者をバランスよくもつことが要求される。ところが、従来提案されてきたトラクションドライブ用流体は、ジャダー防止性能および伝達トルク容量の両性能をともに加味したものは少ない。すなわち、スリップ制御ロックアップコンバータ付きトラクションドライブ装置用の潤滑油としては、不満足なものである。
【0010】
トラクションドライブ用流体として、シクロベンタジェンとα−オレフィン類またはモノビニル芳香族炭化水素類との熱共重合物またはその水素化物に、分岐を有するポリ−α一オレフィンを配合したものを使用することが提案されている(特許文献6)。
【0011】
発明者等は、高温領域において高いトラクション係数を有するトラクションドライブ用流体を開発すべく研究の結果、高いトラクション係数を有する下記の化合物(A成分)に、
【化10】
【化11】
〔上記二つの式において、R1〜R10は水素、C1〜C3のアルキル基およびシクロヘキシル基から選択される基をあらわし、Q1〜Q4はC1〜C3のアルキル基およびシクロヘキシル基からそれぞれ独立に選択される基をあらわし、n1〜n4は0〜5の整数である。n1〜n4が2〜5の整数である場合、Q1〜Q4の各基は独立に選択することができる。〕
シクロペンタジエン類とビニル芳香族炭化水素類との熱共重合物またはその水素化物であって、軟化点が40℃付近以上および重量平均分子量が250以上の条件の少なくともひとつを満たす化合物(B成分)を、A/Bが85/15〜97/3の重量比で配合したもの、あるいはその配合重量比A/Bが85/15未満である場合に、そこで用いられているA成分よりも低粘度の下記の化合物の少なくとも1種(C成分)を加えたトラクションドライブ用流体が、優れた温度特性をもつことを見出して、すでに提案した(特許文献7)。
【0012】
(i)ジシクロペンタジエンまたはその誘導体の水素化物である、式6の化合物
【化12】
〔式中、Q5はC1〜C3のアルキル基またはシクロヘキシル基から選択される基をあらわし、nは0〜10の整数である。nが2〜10の場合、それぞれのQ5は独立に選択することができる。〕
(ii)トリシクロペンタジエンまたはその誘導体の水素化物である、式7の化合物
【化13】
〔Q6はC1〜C3のアルキル基またはシクロヘキシル基から選択される基をあらわし、n6は0〜15の整数である。n6が2〜15の場合、それぞれのQ6は独立に選択することができる。〕
(iii)テトラシクロペンタジエンまたはその誘導体の水素化物である、式8の化合物
【化14】
〔Q7はC1〜C3のアルキル基またはシクロヘキシル基から選択される基をあらわし、n7は0〜20の整数である。n7が2〜20の場合、それぞれのQ7は独立に選択することができる。〕
(iv)デカリンまたはその誘導体である、式6の化合物
【化15】
〔Q8はC1〜C3のアルキル基またはシクロヘキシル基から選択される基をあらわし、n8は0〜10の整数である。n8が2〜10の場合、それぞれのQ8は独立に選択することができる。〕
および
(v)ポリ−α一オレフィンであって重量平均分子量が100〜1000であり、分岐を有する化合物。
【0013】
発明者らは、さらに研究を重ねた結果、C成分について開示した前記特許文献6に記載のトラクションドライブ用流体の成分(ポリ−α−オレフイン)と、前記特許文献7に記載のトラクションドライブ用流体の成分(シクロペンタジェン系化合物)とを組み合わせ、それにリン酸エステル化合物または亜リン酸エステル化合物と摩擦調整剤とを配合することによって、いっそうすぐれたトラクションドライブ用流体が得られることを見出した。
【特許文献1】
特開昭60−228599
【特許文献2】
特開昭60−096690
【特許文献3】
特開昭60−058495
【特許文献4】
特開平05−001292
【特許文献5】
特開平01−230696
【特許文献6】
特開平05−140574
【特許文献7】
特開平09−059660
【特許文献8】
特開平07−242575
【特許文献9】
特開平07−242573
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上記した発明者らの得た最新の知見を活かし、30℃付近で高いトラクション係数を有し、そのトラクション係数が高温域においてもあまり低下せず、しかも低温流動性が高い、すぐれた摩擦特性を有するトラクションドライブ用流体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のトラクションドライブ用流体は、下記のA,B,C,DおよびE成分からなるトラクションドライブ用流体である。
(A)一般式1または2の化合物
【化16】
【化17】
〔上記二つの式において、R1〜R10は水素、C1〜C3のアルキル基およびシクロヘキシル基から選択される基をあらわし、Q1〜Q4はC1〜C3のアルキル基およびシクロヘキシル基からそれぞれ独立に選択される基をあらわし、n1〜n4は0〜5の整数である。n1〜n4が2〜5の整数である場合、Q1〜Q4の各基は独立に選択することができる。〕
(B)シクロペンタジェン類とビニル芳香族炭化水素類との熱共重合物またはその熱共重合物の水素化物であって、軟化点が40℃以上および重量平均分子量が250以上の条件の少なくともひとつを満たすもの
(C)下記の化合物のうちの少なくとも1種であって、かつ40℃における粘度が、そこで用いられているA成分の40℃における粘度よりも低いもの
(i)ジシクロペンタジエンまたはその誘導体の水素化物である、式3の化合物
【化18】
〔式中、Q5はC1〜C3のアルキル基またはシクロヘキシル基から選択される基をあらわし、n5は0〜10の整数である。n5が2〜10の場合、それぞれのQ5は独立に選択することができる。〕
(ii)トリシクロペンタジエンまたはその誘導体の水素化物である、式4の化合物
【化19】
〔Q6はC1〜C3のアルキル基またはシクロヘキシル基から選択される基をあらわし、n6は0〜15の整数である。n6が2〜15の場合、それぞれのQ6は独立に選択することができる。〕
(iii)テトラシクロペンタジエンまたはその誘導体の水素化物である、式5の化合物
【化20】
〔Q7はC1〜C3のアルキル基またはシクロヘキシル基から選択される基をあらわし、n7は0〜20の整数である。n7が2〜20の場合、それぞれのQ7は独立に選択することができる。〕
(iv)デカリンまたはその誘導体である、式6の化合物
【化21】
〔Q8はC1〜C3のアルキル基またはシクロヘキシル基から選択される基をあらわし、n8は0〜10の整数である。n8が2〜10の場合、それぞれのQ8は独立に選択することかできる。〕および
(v)ポリ−α−オレフィンであって重量平均分子量が100〜1000であり、分岐を有する化合物
(D)一般式3〜5の、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステルおよび酸性亜リン酸エステルからえらんだ少なくとも1種のリン化合物、
【化22】
【化23】
【化24】
〔上記三つの式において、Rは水素原子、C1〜C30の炭化水素基またはイオウ原子含有炭化水素基をあらわし、XおよびYは1または2である。〕ならびに
(E)N系またはエステル系の摩擦調整剤
[環状の炭素骨格に結合している水素は、置換基としては表示してない。]
【発明の効果】
【0016】
本発明のトラクションドライブ用流体は、広い温度範囲において高いトラクション係数を有し、とくに低温流動性が高く、かつ摩擦特性に優れており、とりわけ自動車用に使用したとき、すぐれた性能を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書で、C1〜C3のアルキル基は,具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基およびi−プロピル基である。
【0018】
A成分の化合物において、R1〜R10は、水素、メチル基またはエチル基であることが好ましい。中でも、水素またはメチル基が好ましい。また、シクロヘキシル基に隣接する炭素原子がアルキル化されているものが、とくに好ましい。原料の入手が容易であることや、コストから考えて、n1〜n4は、実際上は0〜2の範囲にあることがとくに適切である。Q1〜Q4が存在する場合には、メチル基が一般的である。化合物1および2の好ましい例としては、1,2−ジシクロヘキシルプロパン、1,2−ジシクロヘキシル−2−メチルプロパン、2,3−ジシクロヘキシルプタン、2,3−ジシクロヘキシル−2−メチルブタン、2,3−ジシクロヘキシル−2,3−ジメチルブタン、1,3−ジシクロヘキシルブタン、1,3−ジシクロヘキシル−3−メチルブタン、2,4−ジシクロヘキシルペンタン、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン、2,4−ジシクロヘキシル−2,4−ジメチルペンタン、1,3−ジシクロヘキシル−2−メチルブタン、2,4−ジシクロヘキシル−2,3−ジメチルブタン、2,4−ジシクロヘキシル−2,3−ジメチルペンタン等が挙げられる。さらに、上記化合物の任意のメチル基が、エチル基、n一プロピル基、i一プロピル基またはシクロヘキシル基で置換された化合物、および、シクロヘキシル環の任意の位置がひとつ以上、メチル基、エチル基、n一プロピル基、i一プロピル基、シクロヘキシル基の中から選ばれた基でアルキル化されたものなどが挙げられる。また、化合物1と2とは、それぞれ単独で使用しても、任意の割合の混合物で使用してもかまわない。
【0019】
A成分の一種であるα−アルキルスチレン二量体の水素化物は、α−アルキルスチレンを二量化し、さらに水素化することによって得ることができる。二量化および水素化の方法についてはとくに制限がなく、任意の方法により適宜行なうことができる。
【0020】
α−メチルスチレンの二量化は、触媒、一般には酸性触媒の存在下、必要に応じて溶剤、反応調整剤などを加えて実施することができる。酸性触媒として、具体的には活性白土、酸性白土等の白土類、硫酸、塩酸、フツ化水素酸等の鉱酸類・p−トルェンスルホン酸、トリフリック酸等の有機酸、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化第二スズ、三フツ化ホウ素、三臭化ホウ素、臭化アルミニウム、塩化ガリウム、臭化ガリウム等のルイス酸、さらに、ゼオライト、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、カチオン交換樹脂、ヘテロボリ酸等の固体酸が挙げられる。この酸性触媒の使用量はα−メチルスチレンに対し一般に0.1〜100重量%、好ましくは1〜20重量%の範囲であるが、とくに制限はない。
【0021】
反応媒体には飽和炭化水素類を用いればよく、具体例としてはn−ペンタン、n−ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、あるいはシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等が挙げられる。
【0022】
反応で生成する二量体の選択率を高める目的で、反応調整剤を用いるとよい。具体的には、酢酸等のカルボン酸、無水酢酸、無水フタル酸等の酸無水物、γ−ブチロラクトン、バレロラクトン等の環状エステル類、エチレングリコール等のグリコール類、ニトロメタン、ニトロベンゼン等のモノニトロ化合物類、酢酸エチル等のエステル類、メシチルオキシド等のケトン類、ホルマリン、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、セロソルプ類、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のポリアルキレングリコールアルキルエーテル類等が挙げられる。
【0023】
二量化反応の温度は、一般に−30〜180℃、とくに0〜160℃が好ましい。
【0024】
前記のようにして得られたα−メチルスチレン二量体の水素化も、一般に触媒の存在下、必要に応じて反応媒体として溶剤を使用して行なうことができる。触媒としては、ニッケル、ルテニウム、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、銅、クロム、モリブデン、コバルト、タングステン等の金属を1種類以上含む、いわゆる水添用触媒として知られているものを用いることができる。この触媒の添加量もとくに制限はないが、通常は、上記重合体に対して0.1〜100重量%、好ましくは1〜20重量%の範囲とする。
【0025】
水素化反応の媒体とする溶剤としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等やシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の液状の飽和炭化水素類が挙げられる。この水素化反応は、通常の水素化反応と同様に、20〜300℃、好ましくは40〜200℃の温度範囲で、常圧〜200kg/cm2(G)、好ましくは20〜100kg/cm2(G)の水素圧下で実施することができる。
【0026】
以上、α−メチルスチレンの二量体の水素化について説明したか、スチレンや、メチル基以外のアルキル基またはシクロアルキル基で置換されたα−アルキルスチレンの二量体の水素化も、これと同様に実施できることはもちろんである。
【0027】
本発明で用いるα−アルキルスチレン二量体の水素化物は、その中の線状体の割合を高める必要がある。そのためには、本発明者らカがすでに提案した下記の方法でこれを製造することが好ましい。すなわち、α−アルキルスチレンを、
i)原料α−アルキルスチレン基準で1〜100重量%のヘテロポリ酸を触媒として用い、無溶剤下、固相−液相の不均一系で、80〜140℃で二量化するか(特許文献8)、ii)原料α−アルキルスチレン基準で1〜200重量%のヘテロポリ酸を用い、触媒を溶解しない溶剤の存在下、固相−液相の不均一系で、30〜140℃で二量化するか(同)、または
iii)ヘテロポリ酸を用いて、水の共存下、二量化する方法(特許文献9)である。これらの反応生成物に前述した既知の水素化反応を行なって得た反応生成物は、線状体の割合がきわめて高いので、困難な環状体の分離工程を省略できるという利点を有する.上記した発明者ら提案の二量化法は、二量体への転化率も高く、反応時間も大幅に短縮できるため、経済的にも有利である。
【0028】
α−アルキルスチレン二量体水素化物を得るに際して、目的物の環状異性体であるオクタヒドロインダンが副生することもある。これはトラクション係数を低下させるため、混在しないことが好ましい。本発明のトラクションドライブ用流体中のα−アルキルスチレンニ量体水素化物の純度は、70重量%以上であることを要する。90重量%以上であることが好ましい。
【0029】
本発明のトラクションドライブ用流体のA成分は、二量化以外の手段でも得られる。たとえば芳香族化合物のカップリング反応の後に核水素化すること(特開昭60−258131、特開昭60−262892)である。核水素化する前にフリーデルクラフツ反応等の芳香族置換反応によりアルキル化を行ない、その後に水素化を行なえば、シクロヘキサン環にアルキル基が導入された化合物が得られる。
【0030】
本発明のトラクションドライブ用流体のB成分は、前記したとおり、シクロペンタジエン類とビニル芳香族炭化水素類との熱共重合体またはその水素化物である。このB成分の製造に用いられるシクロペンタジエン類には、シクロペンタジエン、そのオリゴマーのアルキル置換体、およびそれらの混合物が含まれ、工業的には、ナフサ等をスチームクラッキングして得られる、シクロペンタジエン類を約30重量%以上、好ましくは約50重量%以上含むシクロペンタジェン系留分(CPD留分)を用いることが有利である。
【0031】
CPD留分中には、これら脂環式ジエンと共重合可能なオレフィン性単量体が含まれていてもよい。オレフィン性単量体の例としては、イソプレン、ピペリレンあるいはプタジエン等の脂肪族ジオレフインや、シクロペンテン等の脂環式オレフィン等が挙げられる。これらオレフィン類の濃度は低い方が好ましいが、シクロペンタジエンに対して約10重量%以下であれば許容される。
【0032】
なお、シクロペンタジエン類としてシクロペンタジエンまたはその誘導体の単量体を用いる場合は1モルとして、二量体を用いる場合は2モルとして、それぞれ配合量を計算する。
【0033】
シクロペンタジエン類と共重合させるビニル芳香族炭化水素類としては、スチレン、0−,m−,p−ビニルトルエン、α−,β−メチルスチレン等が挙げられ、これらを、シクロペンタジエン類1モル当たり3モル未満配合するのが工業的に好ましい。このビニル芳香族炭化水素類はインデン、メチルインデンあるいはエチルインデン等のインデン類を含んでいてもよい。工業的には、ナフサ等のスチームクラッキングにより得られる、いわゆるC留分を用いるのがよいが、得られる生成物の品質を高く保つためには、これらの各種原料の中でもとくにスチレンモノマーを用いることが好ましい。
【0034】
B成分は、シクロベンタジエン類とビニル芳香族炭化水素類との熱共重合体またはその水素化物でありさえすればよく、その製法にはとくに制限がないか、熱共重合法の好適な例を示せば、下記の方法がある。すなわち、シクロペンタジエン類とビニル芳香族炭化水素類とを、溶剤の存在下または不存在下に、好ましくは窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で、約160〜300℃、好ましくは約180〜280℃の温度で、約0.1〜10時間、好ましくは約0.5〜6時間、原料系を液相に保ち得る圧力下で熱共重合する。この重合反応混合液から、原料中の不活性成分、未反応原料、さらに必要ならば溶剤を、蒸留等の操作により留去した後、引き続き第二段の重合を、減圧下、約160〜280℃で約0.5〜4時間行ない、さらに必要に応じて目的とする熱共重合物から、軽質のものを蒸留等の操作により除去する。
【0035】
このようにして得られるシクロペンタジエン類とビニル芳香族炭化水素類との熱共重合体は、軟化点が40℃以上または重量平均分子量か約250以上、好ましくは、軟化点が100℃以上200℃以下または重量平均分子量が400以上2000以下のものである。
【0036】
上記の熱共重合物は、水素化処理をしなくてもトラクションドライブ用流体として高い配合効果を示すが、酸化安定性等の性能を考慮すると、水素化処理を施すことが好ましい。水素化処理は、通常の方法で行なうことができる。たとえば、前記したA成分の水素化に用いられる触媒、代表的にはニッケル、パラジウム、白金等の水素化触媒を用い、溶剤の存在下または不存在下に、約70〜300℃、好ましくは約100〜250℃の温度範囲、水素圧約10〜200kg/cm(G)、好ましくは約20〜120kg/cm(G)の圧力下で、約0.5〜20時間、好ましくは約1〜10時間水素化処理すればよい。
【0037】
水素化処理を行なうに先立って、熱共重合体の芳香族環にアルキル化を施すこともできる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、シクロヘキシル基等か挙げられる。
【0038】
本発明におけるA成分とB成分との配合比は、重量でA/B=85/15〜97/3、好ましくは85/15〜95/5である。B成分の割合が少な過ぎると、高温におけるトラクション係数向上効果がほとんど認められない。多過ぎると、トラクション係数は高くなるが、粘度の増加が大きくなり、ハンドリング時および使用時のエネルギー損失等の問題を生じるので好ましくない。上記範囲内の配合比であってもさらに粘度を下げたい場合には、40℃における粘度がそこで用いるA成分の40℃における粘度よりも低い化合物を加えることにより、粘度を下げることができる。
【0039】
本発明において、A成分に対してB成分を上記よりも多く使用する場合には、やはり粘度が高くなるので、それを抑えるために、同様に低粘度の物質を加える。とくに、トラクション係数が高いものを使えば、トラクション係数の低下は小さく抑えながら、粘度を下げることができる。その具体例が、前記の化合物(i)〜(v)であり、本発明では、これらをC成分として使用する。なお(i)〜(v)の化合物は、単独で用いても、混合して用いてもよい。
【0040】
C成分のアルキル基の数は、原料の入手容易性やコストから考えて、つぎの範囲からえらぶことか好ましい:シクロペンタジエン重合体である(i)〜(iii)のn5〜n7は0〜4、デカリン化合物である(iv)のn8は0〜8、とくに0〜4。
【0041】
(v)のポリα−オレフィンを構成するα−オレフィンは、四級または三級炭素原子を主鎖にもつものである。原料としては炭素数が3以上のオレフィンであればよく、とくにイソブチレンの1〜4量体やプロピレンの1〜5量体が好適に用いられる。また、これらのオレフィンは1種類単独で重合させてもよいし、2種類以上混合して重合させてもよい。
【0042】
分岐を有するボリα−オレフィンは、分子量が100〜1000の範囲のものであればよく、とくに分子量150〜500のものが好適に用いられる。これらポリα−オレフィンの分子量は100より小さいと、蒸発性が高い上に、油膜保持能力が低いし、分子量が1000より大きいと、粘度上昇による低温流動性の低下が生じ、どちらも好ましくない。なお、C成分としてポリエチレンなどの分岐を有しないポリα−オレフィンを使用すると、得られるトラクション係数か低く、本発明の所期の効果は得られない。
【0043】
C成分の添加量は、トラクションドライブ用流体中10〜70重量%、好ましくは30〜50重量%とする。
【0044】
上記トラクションドライブ用流体は広範囲の温度領域において高いトラクション性能を示すが、以下に述べるD成分およびE成分を一定量含有することにより、摩擦特性に優れたトラクションドライブ用流体を得ることができる。
【0045】
D成分は、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステルおよび酸性亜リン酸エステルなどのリン化合物であって、前記の一般式で表わされるものである。
【0046】
リン酸エステルの具体例には、トリアリールホスフェート、トリアルキルホスフェート等があり、たとえば、ベンジルジフェニルホスフェート、アリルジフェニルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、エチルジブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジェチルフェニルフェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジプロピルフェニルフェニルホスフェート、トリェチルフェニルホスフェート、トリプロピルフェニルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジブチルフェニルフェニルホスフェート、およびトリブチルフェニルホスフェート等の化合物を挙げることができる。
【0047】
酸性リン酸エステルとしては、たとえば、2−エチルヘキシルアシツドホスフェート、イソデシルアシツドホスフェート、ラウリルアシツドホスフェート、トリデシルアシツドホスフェート、ステアリルアシツドホスフェート、イソステアリルアシツドホスフェート、オレイルアシツドホスフェート、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート等が挙げられる。
【0048】
亜リン酸エステルとしては、たとえば、トリフェニルホスファイト、トリ(p−クレジル)ホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリイソデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリオレイルホスファイト等が挙げられる。
【0049】
酸性亜リン酸エステルとしては、たとえば、ジ(2−エチルヘキシル)ハイドロジェンホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、ジオレイルハイドロジェンホスファイト等が挙げられる。
【0050】
D成分は、本発明のトラクションドライブ用流体中、0.01〜5.0重量%、好ましくは0.03〜3重量%、とくに好ましくは0.05〜1重量%を占めるように配合する。
【0051】
E成分として、N系摩擦調整剤および(または)エステル系摩擦調肇剤を添加する。
【0052】
N系摩擦調整剤の代表的なものには、−(CO)NH−(アミド結合)、−NH−、および−N<を有する化合物がある。−(CO)NH−を有するものとしては、エチルヘキシルアミド、ブチルヘキシルアミド、ブチルデシルアミド、エチルヘキサデシルアミド、ブチルエイコシルアミド、ジヘキサデシルアミドのような、一般式R−CONH−Rであらわされる化合物を挙げることができ、これらの中でも、ブチルデシルアミド、エチルヘキサデシルアミド、ブチルエイコシルアミドなどが好ましい。上記一般式中、RおよびRは、各々炭素数3〜20および2〜20の炭化水素基であり、好ましい炭化水素基は、アルキル基およびアルケニル基である。−NH−を有するものとしては、エチルヘキシルアミン、エチルデシルアミン、ブチルデシルアミン、エチルヘキサデシルアミン、ブチルエイコシルアミンなどを挙げることができ、これらの中でも、エチルデシルアミン、ブチルデシルアミン、ブチルエイコシルアミンなどが好ましい。
【0053】
−N<を有するものとしては、CH−N(CH−COOH)のように、一般式R−N(R−COOH)であらわされる化合物を挙げることができる。CH−N(CH−COOH)などは、カルボキシル基と−N<結合の両方を含む化合物である。
【0054】
エステル系摩擦調整剤の代表的なものは、−COO−を有する化合物であって、ヘキサン酸メチル、ウンデカン酸メチル、テトラデカン酸メチル、オクタデカン酸メチル、エイコサン酸ブチル、酢酸オクタデシル、こはく酸ジテトラデシルなどを挙げることができ、これらの中でも、テトラデカン酸メチル、オクタデカン酸メチルなどが好ましい。
【0055】
本発明において、摩擦調整剤は組成物全体を基準として、0.01〜3.0重量%、好ましくは、0.03〜1重量%、とくに好ましくは、0.05〜0.5重量%の範囲で使用する。この範囲より少ないと耐ジャダー性能(μ−V特性)の改善効果が小さく、多すぎると静摩擦係数か低くなって、伝達トルク容量の低下による湿式クラッチの滑りが生じる。
【0056】
本発明のトラクションドライブ用流体には、必要に応じて、摩耗防止剤、無灰型分散剤、金属型清浄剤、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤および消泡剤などを添加してもよい。
【0057】
金属型清浄剤としてはアルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート等が、無灰型分散剤としてはアルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸エステル、長鎖脂肪酸とボリアミンとのアミド(アミノアミド型)等が、摩耗防止剤としてはジアルキルジチオリン酸亜鉛等が、酸化防止剤としてはアミン系、フェノール系の酸化防止剤等が、金属不活性剤としてはベンゾトリアゾール、チアジアゾール、防錆剤としてはアルケニルコハク酸エステルまたはその部分エステル等が、粘度指数向上剤としてはポリメタクリレート、オレフインコポリマー等が、流動点降下剤としてはポリメタクリレート等が、消泡剤としてはシリコン化合物、エステル系消泡剤等が、それぞれ挙げられる。
【0058】
本発明のトラクションドライブ用流体におけるA成分とB成分とは、相乗効果により、とくに高温領域でのトラクション係数を大きく向上させる。これらにD成分およびE成分を添加することにより、トラクションドライブ装置で必要とされる摩擦特性が大いに向上する。A成分よりも低粘度のC成分を配合した態様においては、広範囲の温度領域で高いトラクション係数を示すとともに、低温流動性に優れたトラクションドライブ用流体が得られる。
【0059】
【実施例】
以下、参考例、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
〔製造例1〕
5リットルのガラス反応器にα−メチルスチレンを1200g、水を400g、HPWOを800g入れ、冷却装置および温度計を取り付けて、100℃で3時間反応させた。冷却後水層を除去し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機層をガスクロマトグラフィーで分析したところ、α−メチルスチレンの転化率は89.5%、α−メチルスチレン二量体の収率は86.4%、選択率は96.5%であった。
【0061】
このようにして得た有機層1200gを10リットルのオートクレーブに入れ、さらにシクロヘキサン5000gおよびN−113(日揮化学(株)製の水素化触媒)120gを加え、オートクレーブを密封した。水素圧60kg/cm2(G)、反応温度180℃で5時間反応させた後冷却し、濾過して触媒を除去した。
【0062】
蒸留によりシクロヘキサンおよびα−メチルスチレンの水素化物を留去し、生成物1250gを得た。ガスクロマトグラフィーで分析したところ、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン(以下、(a−1)成分と記す。これはA成分の一具体例である。)の純度は96.5%であった。
【0063】
〔製造例2〕
5リットルのガラス製反応器に温度計および冷却管を取り付け、無水クメン2300gと、金属ナトリウム40gおよびイソプロピルアルコール11gを入れて130℃に加熱し、強く撹拝しなからスチレン650gを3時間かけて滴下し、続いて1時間撹拌し、反応させた。撹拌を止め、冷却後に油層を取り出し、エタノール200gを加え、5N塩酸水溶液および飽和食塩水2リットルでそれぞれ3回洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、ロータリーエバポレーターにより未反応のクメンを留去し、次いで減圧蒸留により沸点115〜125℃(0.13mmHg)の留分700gを得た。この留分450gを10リツトのオートクレーブに入れ、シクロヘキサン4500gおよびN−113(日揮化学(株)製の水素化触媒)45gを入れ、オートクレーブを密閉した。水素圧60kg/cm2(G)で180℃、5時間水素化を行ない、室温まで冷却した。触媒を濾別し、シクロヘキサンをロータリーエバポレーターで留去後分析したところ、1,3−ジシクロヘキシル−3−メチルブタン(以下、(a−2)成分と記す。これはA成分の一具体例である。)であった。
【0064】
〔製造例3〕
ナフサのスチームクラッキングにより得たペンタジエン留分(ジシクロペンタジエン75.0重量%、オレフィン5.4重量%、残余の大部分は飽和炭化水素からなる)500g、スチレンモノマー125gおよびキシレン775gを、窒素雰囲気下、18kg/ cm2(G)、260℃で3時間反応させた。反応液から原料中の不活性留分、未反応原料および溶剤を、最初は加圧下に、続いて減圧下に252℃で留去した後、さらに50Torrの減圧下で同じ温度に1時間保持し、シクロペンタジエン系縮合体を留去しながら、第二段の重合を行った。反応容器の残留物から、シクロペンタジエン−ビニル芳香族炭化水素熱共重合物を401g得た。これにN−111(日揮化学(株)製の水素化触媒)3重量%を加え、水素圧60kg/ cm2(G)、反応温度220℃で6時間水素化し、目的とする水素化シクロペンタジエン−ビニル芳香族炭化水素熱共重合物(以下、(b)成分と記す。これはB成分の一具体例である。)401gを得た。軟化点175℃、重量平均分子量1300であった。
【0065】
〔製造例4〕
製造例3で原料として用いたシクロペンタジエン留分600gを、溶剤として用いたキシレン400g中、窒素雰囲気下に、圧力18kg/ cm2(G)、温度260℃で3時間反応させた。反応液から原料中の不活性留分、未反応原料および溶剤を、最初は加圧下に、引続いて減圧下に160℃で留去した後、さらに50Torrの減圧下で同じ温度に1時間保持し、目的とするシクロペンタジエン系縮合体56gを得た。得られた留分56gにN−111(日揮化学(株)製の水素化触媒)3重量%を加え、水素圧60kg/ cm2(G)、反応温度180℃で4時間反応させ、水素化シクロペンタジエン系縮合体(以下、(c−1)成分と記す。これは平均組成としてC成分の(iii)の一具体例である。)を56g得た。GPC分析を行ったところ、面積比で、シクロペンタジエン3,4,5,6量体を、各々41重量%、25重量%、19重量%、7重量%含有していた。
【0066】
〔製造例5〕
製造例4と同様にして得た水素化シクロペンタジエン系縮合体を蒸留し、オーバーヘッド分として48重量%を得た。GPC分析を行ったところ、シクロペンタジェン3,4,5量体を、各々85重量%、13重量%、2重量%含有していた(以下、(c−2)成分と記す。これは平均組成としてC成分の(ii)の一具体例である)。
【0067】
〔製造例6〕
2−エチルナフタレン(Aldrich社製)1kg、N−113(日揮化学(株)製の水素化触媒)100g、シクロヘキサン10kgを20リットルオートクレーブに入れ、密封した。6.0MPaの水素圧下、200℃で5時間撹拌して反応させた。冷却後オートクレーブを開封し、触媒を漉過により除去し、シクロヘキサンを蒸発させて2−エチルデカリン1.06kgを得た(以下、(c−3)成分と記す。これはC成分の(iv)の一具体例である)。
【0068】
参考例、実施例および比較例で得たトランクションドライブ用流体の評価は、下記の方法で行なった:
(トラクション係数)
四円筒式摩擦試験機を用いて駆動軸回転数2,000rpm(4.19m/s)、すべり率5%、法線荷重395kg、試験油温度30℃および120℃において測定した、法線荷重に対する伝達された接線力の比で表示した。
【0069】
湿式クラッチにおける摩擦特性は、SAENo.2試験機および低速すべり試験機により評価した。
【0070】
(SAENo.2試験)
ディスク:国産自動変速機用ベーパー系ディスク(2枚)
プレート:国産自動変速機用鋼製プレート(4枚)
モーター回転数:ダイナミックサイクル:3000rpm
スタティックサイクル:0.7rpm
押し付け圧:2.81kg/cm2
油温:120℃
サイクル数:500サイクル
以上の評価条件により、ダイナミックサイクルを500サイクル運転した後のスタティックサイクルでの静摩擦係数を測定した。静摩擦係数が0.120以上あれば伝達トルク容量が十分であるとした。
【0071】
(低速すべり試験)
ディスク:国産自動変速機用ペーパー系ディスク(1枚)
プレート:国産自動変速機用鋼製プレート(1枚)
回転数:1〜150rpm
油温:40℃
面圧:10kg/cm2
以上の評価評価条件における回転数1rpmのときの摩擦係数をμ1、回転数50rpm のときの摩擦係数をμ50として測定し、μ1/μ50を算出した。μ1/μ50<1であれば、実機でジャダーを発生しない。
【0072】
(BF(ブルックフィールド)粘度試験)
ASTM−D2983に従って、−30℃のBF粘度を測定した。
【0073】
(重量平均分子量)
標準物質としてポリスチレンを用い、通常のゲルパーミュエーションクロマトグラフィーを行ない、その結果をポリスチレン換算値で表示した。すなわち、本発明では東ソー(株)製HLC−802型を用いて以下の分析条件で測定したものである。
【0074】
カラム:テトラヒドロフラン(THF)
カラム恒温槽温度:40℃
流速:1.2m1/min
資料濃度:0.005g/1ml THF
検出器::示差屈折計
〔参考例1〜8、実施例1〜5,比較例1〜6〕
上記製造例1〜6で得た生成物を用いて、表1に示す配合組成のトラクションドライブ用流体を製造した。表1において、原料の符号はそれぞれ下記の意味をあらわす:
A: 2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン
B: 水素化シクロペンタジェンービニル芳香族炭化水素熱共重合物
C−1:水素化シクロペンタジエン系縮合炭化水素(2〜3量体)
C−2:ポリイソブチレン(重量平均分子量300)
D−1:トリイソオクチルホスファイト
D−2:2−エチルヘキシルアシツドホスフェイト
D−3:ジ−2−エチルヘキシルハイドロジェンホスファイト
E−1:(N系)ブチルデシルアミド
E−2:(N系)ブチルデシルアミン
E−3:(エステル系)ミリスチン酸メチル
E−4:(エステル系)ステアリン酸メチル
各流体のいずれにも、重量で、酸化防止剤0.5%、無灰型分散剤4.0%、金属型清浄剤0.1%、摩耗防止剤0.1%および金属不活性剤0.05%を添加した。
【0075】
表1
A B C - 1 C - 2 D - 1 D - 2 D - 3 E - 1 E - 2 E - 3 E - 4
参考例 1 90 10 − − 0.3 − − 0.1 − 0.1 −
参考例 2 90 10 − − − 0.3 − − − 0.1 0.1
参考例 3 90 10 − − − 0.3 − 0.05 − 0.1 −
参考例 4 90 10 − − − 0.3 − − 0.1 0.1 −
参考例 5 90 10 − − − − − 0.3 0.05 − 0.1
参考例 6 90 10 − − − − − 0.3 − 0.05 0.1
参考例 7 90 10 − − 0.3 − − 0.1 − − 0.1
参考例 8 90 10 − − − 0.3 − 0.05 − − 0.1
実施例 1 72 8 − 20 0.3 − − 0.05 − 0.1 −
実施例 2 50 10 − 40 − 0.3 − 0.05 − 0.1 −
実施例 3 45 5 50 − − 0.3 − 0.05 − 0.1 −
実施例 4 45 10 20 − − 0.3 − − 0.05 0.1 −
実施例 5 45 10 20 − − 0.3 − 0.05 − 0.1 −
比較例 1 90 10 − − − − − − − − −
比較例 2 90 10 − − − − − 0.1 − 0.1 −
比較例 3 90 10 − − 0.3 − − − − − −
比較例 4 45 5 50 − − − − − − − −
比較例 5 45 5 − 50 − − − − − − −
比較例 6 45 5 50 − 0.3 − − − − − −
【0076】
各流体について、−30℃における粘度、30℃および120℃におけるトラクション係数、伝達トルク容量および耐ジャダー性能を測定した。その結果を表2に示す。
【0077】
表2
粘度 トラクション係数 伝達トルク容量 耐ジャダー性能
−30℃ 30℃ 120℃ 500 サイクルμ s μ 1 / μ 50
参考例 1 192000 0.119 0.100 0.132 0.75
参考例 2 191000 0.118 0.099 0.122 0.77
参考例 3 192000 0.118 0.100 0.125 0.83
参考例 4 189000 0.119 0.100 0.122 0.79
参考例 5 191000 0.120 0.099 0.125 0.74
参考例 6 192000 0.118 0.098 0.130 0.85
参考例 7 192000 0.119 0.100 0.129 0.80
参考例 8 190000 0.119 0.101 0.127 0.79
実施例 1 44600 0.111 0.088 0.131 0.82
実施例 2 14400 0.102 0.078 0.127 0.80
実施例 3 8960 0.100 0.072 0.130 0.86
実施例 4 8960 0.105 0.073 0.132 0.82
実施例 5 9520 0.109 0.085 0.127 0.81
比較例 1 190000 0.118 0.099 0.172 1.70
比較例 2 189000 0.118 0.100 0.095 0.71
比較例 3 194000 0.119 0.100 0.167 1.32
比較例 4 9400 0.103 0.074 0.170 1.72
比較例 5 9030 0.101 0.072 0.168 1.69
比較例 6 9450 0.100 0.072 0.165 1.29
【0078】
参考例1〜8の流体は、広範囲の温度領域で高いトラクション係数を有し、伝達トルク容量および耐ジャダー性能においても良好であるが、やや低温流動性が悪い。一方、実施例1〜5は、参考例1〜8と比較してトラクション係数はやや低いが、優れたμ−T特性をもち、かつ低温流動性にも優れている。この違いは、(A+B+D+E)成分からなる参考例1〜8の流体に対して、実施例1〜5では低粘度剤としてC成分を添加したことにより得られたものである。したがって本発明の流体は、広範囲な温度領域で使用される自動車用トラクションドライブ流体として好適である。
Claims (7)
- 下記のA,B,C,DおよびE成分からなるトラクションドライブ用流体:
(A)一般式1または2の化合物
(B)シクロペンタジェン類とビニル芳香族炭化水素類との熱共重合物またはその熱共重合物の水素化物であって、軟化点が40℃以上および重量平均分子量が250以上の条件の少なくともひとつを満たすもの、
(C)下記の化合物のうちの少なくとも1種であって、かつ40℃における粘度が、そこで用いられているA成分の40℃における粘度よりも低いもの
(i)ジシクロペンタジエンまたはその誘導体の水素化物である、式3の化合物
(ii)トリシクロペンタジエンまたはその誘導体の水素化物である、式4の化合物
(iii)テトラシクロペンタジエンまたはその誘導体の水素化物である、式5の化合物
(iv)デカリンまたはその誘導体である、式6の化合物
(v)ポリ−α−オレフィンであって重量平均分子量が100〜1000であり、分岐を有する化合物
(D)一般式3〜5の、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステルおよび酸性亜リン酸エステルからえらんだ少なくとも1種のリン化合物、
(E)N系またはエステル系の摩擦調整剤。 - A成分がα−アルキルスチレン二量体の水素化物である請求項1のトラクションドライブ用流体。
- A成分の化合物におけるR1〜R10が、メチル基、エチル基、n−プロピル基およびi−プロピル基のいずれかまたはシクロヘキシル基である請求項1のトラクションドライブ用流体。
- B成分が、軟化点100℃以上200℃以下、および重量平均分子量400以上2000以下の条件の少なくともひとつを満たすものである請求項1のトラクションドライブ用流体。
- C成分としてシクロペンタジエン重合体である(I)〜(iii)を使用する場合はそのアルキル基の数n5〜n7が0〜4であり、デカリン化合物である(iv)を使用する場合はそのアルキル基の数n8が0〜8である請求項1のトラクションドライブ用流体。
- C成分の(v)の分岐を有するポリα−オレフィン化合物がポリイソブチレンである請求項1のトラクションドライブ用流体。
- C成分の配合量を、流体中10〜70重量%とする請求項1のトラクションドライブ用流体。
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