JP4340420B2 - 架橋飽和環を有するエステル化合物を含有するトラクションドライブ用流体組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なエステル化合物、及び該エステル化合物を含有するトラクションドライブ用流体組成物に関し、さらに詳しくは、トラクション係数が高く、かつ低温流動性に優れるトラクションドライブ用流体として有用な、新規な架橋飽和環を有するエステル化合物、及び該エステル化合物を含有するトラクションドライブ用流体組成物、特に自動車用無段変速機に有用なトラクションドライブ用流体組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
トラクションドライブ用流体は、トラクションドライブによる動力伝達機構に使用される流体である。トラクションドライブ用流体は、自動車無段変速機(CVT)等のトラクションドライブ装置において、転がり接触面に介在し、動力を伝達するとともに、転動体同士の直接の接触を防止する潤滑油としての役割を果たしている。トラクションドライブは、転がり伝動であるため、歯車伝動に比べて機構が簡単であり、低騒音で、滑らかな無段変速ができるため、自動車用トラクションドライブヘの発展が期待されている。
【0003】
トラクションドライブで重要な性能は、動カ伝達能であって、法線荷重(垂直力)Pに対する接線カ(トラクション力)Tの比で定義されるトラクション係数μ(μ=T/P)で表され、このトラクション係数が大きいほど、伝達容量が大きい。トラクションドライブ用流体は、一般に、液状の潤滑油と半固体状又は固体状のグリースに大別されるが、主成分となる基油によって鉱油系と合成油系とがあり、種々の用途に使用されている。
このように、無段変速機等のトラクションドライブ装置においては、動力伝達能の観点から、トラクション係数の高いトラクションドライブ用流体が望まれている。特に近年、自動車用途を中心に高性能化あるいは小型軽量化の研究が進み、トラクションドライブ用流体も、粘度温度特性や低温流動性などの性能に優れた実用的で、かつ高いトラクション係数を示すものが要求されている。
【0004】
従来より、トラクションドライブ用流体については、飽和環を有する化合物、又は不飽和環を有する化合物の水素化物などを用いることが提案されている。
【0005】
例えば、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンに例示される化合物を動力伝達流体として利用した動力伝達方法(特公昭53−36105号公報)、ポリシクロヘキシルアルカンと、スクワラン又はポリオレフィン油とを混合したトラクションドライブ用流体組成物(特公平5−87117号公報)、ナフテン系炭化水素とポリイソブテンを混合した基油に、ホスフェタン誘導体を配合した、トラクションドライブ機構を備えた伝動装置用潤滑剤(特公平5−88918号公報)、シクロヘキサノールシクロヘキサンカルボン酸エステル又はその誘導体にポリブテンを混合したトラクションドライブ用流体(特公平6−31373号公報)、シクロペンタジエン系の3〜6量体で、ノルボルネン環二重結合上とシクロペンテン環二重結合上の水素量の比(ND/CD)が0.9〜1.3であるシクロペンタジエン系縮合炭化水素の水素化物と、分岐を有するポリα−オレフィンとを混合したトラクションドライブ用流体組成物(特公平7−47752号公報)、シクロペンタジエン系の3〜6量体で、ノルボルネン環二重結合上とシクロペンテン環二重結合上の水素量の比(ND/CD)が0.9〜1.3であるシクロペンタジエン系縮合環炭化水素の水素化物と、アルキル基中に炭素原子を1〜3個有するα−アルキルスチレンの二量体水素化物とを混合したトラクションドライブ用流体組成物(特開平7−242891号公報)、ジシクロヘキシル化合物と、シクロペンタジエン類とビニル芳香族炭化水素類との熱共重合物又はその水素化物とを混合したトラクションドライブ用流体(特開平9−59660号、特開平10−25489号公報)などが提案されている。
また、シリコーン系化合物を用いたトラクションドライブ用流体(特公平2−11639号、特開平6−271588号公報)も提案されており、例えば、特開平6−271588号公報では、シクロヘキシルメチルシリコーンを用いたトラクションドライブ用流体が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの提案にも拘わらず、トラクション係数が高く、かつ低温流動性に優れる実用的に充分なレベルにあるといえるトラクションドライブ用流体は、無かった。例えば、特公昭53−36105号公報に開示される2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンに例示されるα−アルキルスチレンの二量体水素化物は、トラクション係数は高いものの、低温における流動性が劣るため、自動車用無段変速機油としての実用化において更なる改良が求められている。そのため、低温流動性に優れた実用的なトラクションドライブ用流体の開発が強く望まれている。
前述の通り、分子構造として飽和環を有するものが有効であるとの知見から、新規な構造を有する化合物が種々検討されているが、これまでに、架橋飽和環を有するエステル化合物をトラクション流体として用いる、又はトラクション流体に混合する先行技術は、見当らない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、トラクション係数が高く、かつ低温流動性に優れた、実用的に優れたトラクションドライブ用流体組成物を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記従来技術の問題点を克服するために鋭意研究した結果、新規に合成した特定の構造を有するエステル化合物が、トラクション係数が高く、かつ低温流動性に優れるため、トラクションドライブ用流体の基油の一部または全部として用いると、実用的に優れたトラクションドライブ用流体が得られることを見い出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記の一般式[3]で表されるエステル化合物を含有することを特徴とするトラクションドライブ用流体組成物が提供される。
【0010】
【化2】
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、一般式[3]で表されるエステル化合物と他のトラクションドライブ用流体成分とを混合してなることを特徴とするトラクションドライブ用流体組成物が提供される。
またさらに、本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、他のトラクションドライブ用流体成分は、ポリブテン単独、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン単独、又は両者の混合物であることを特徴とするトラクションドライブ用流体組成物が提供される。
【0012】
そして、本発明は、前述したように、特定の架橋飽和環を有するエステル化合物を含有するトラクションドライブ用流体組成物に係るものであるが、好ましい態様として下記のものも包含される。
(1)第1の発明において、一般式[3]で表されるエステル化合物の原料のアルコール成分は、シクロヘキサノールであることを特徴とするトラクションドライブ用流体組成物。
(2))第1の発明において、一般式[3]で表されるエステル化合物の原料のカルボン酸成分は、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−酢酸であることを特徴とするトラクションドライブ用流体組成物。
(3)第3の発明において、ポリブテンは、平均分子量が300〜3500であることを特徴とするのトラクションドライブ用流体組成物。
(4)摩耗防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、及び消泡剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤を配合することを特徴とする上記のいずれかに記載のトラクションドライブ用流体組成物。
(5)トラクション係数が0.090以上、−30℃における低温粘度が30Pa・s以下である上記のいずれかに記載のトラクションドライブ用流体組成物。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.エステル化合物
本発明に係るエステル化合物は、次の一般式[1]で表される特定構造を有する。
【0014】
【化3】
【0015】
(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示し、R1、R2は、アルキレン基又は「無し」を示し、かつR1、R2の少なくとも一方は、アルキレン基であり、m、nは、0〜4の整数である。)
【0016】
一般式[1]で表されるエステル化合物の構造上の特徴は、エステル結合(骨格)の片方に、架橋飽和環、即ちビシクロ[2.2.1]ヘプチル環を有し、また他の片方に飽和環、即ちシクロヘキシル環を有することである。このエステル化合物の構造上の特徴により、このエステル化合物は、低温流動性が向上し、高いトラクション係数を有することができる。
これらの架橋飽和環又は飽和環には、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基から選ばれる置換基(R)を有していてもよく、置換基は、同一分子内で同一でも異なっていてもよい。また、置換基の数(m、n)は、0〜4の整数であり、好ましくは、Rは、メチル基であり、m、nは、好ましくは0又は1、さらに好ましくは0である。
【0017】
さらに、本発明の一般式[1]で表されるエステル化合物のR1、R2は、アルキレン基であり、又は「無し」、即ち結合を示すものであり、好ましくは、「無し」、メチレン基、エチレン基、ジメチルメチレン基、又はプロピレン基である。そして、R1、R2の少なくとも一方は、アルキレン基である。
【0018】
本発明のトラクションドライブ用流体組成物の基油として用いられる一般式[1]で表される特定構造を有するエステル化合物は、原料および製造方法について特に制限はなく、様々な手法により得ることが可能であるが、通常は次の方法により製造することができる。
即ち、飽和環を有する一価アルコール化合物と架橋飽和環を有するカルボン酸化合物とのエステル化反応による方法である。
【0019】
エステル化合物の原料である飽和環を有する一価アルコール化合物としては、上記一般式[1]のエステル結合の右側の構造のものであり、シクロヘキシル環を有し、その置換基のRは、炭素数1〜4のアルキル基を示し、その置換基の数(n)は、0〜4の整数であり、R2は、アルキレン基又は「無し」を示す化合物である。具体例として、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、シクロヘキシルカルビノール(シクロヘキシルメチルアルコール)、メチルシクロヘキシルカルビノール、シクロヘキシルメチルカルビノール(シクロヘキシルエチルアルコール)、シクロヘキシルプロピルアルコールなどが挙げられる。特に好ましい一価アルコール化合物は、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、又はシクロヘキシルカルビノールである。
【0020】
また、エステル化合物の他の原料である架橋飽和環を有するカルボン酸化合物としては、上記一般式[1]のエステル結合の左側の構造のものであり、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル環を有し、その置換基のRは、炭素数1〜4のアルキル基を示し、その置換基の数(m)は、0〜4の整数であり、R2は、アルキレン基又は「無し」を示す化合物である。具体例として、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−カルボン酸、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−カルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−酢酸、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−酢酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−プロピオン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−酪酸などが挙げられる。特に好ましいカルボン酸化合物は、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−カルボン酸、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−カルボン酸、又はビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−酢酸である。
【0021】
エステル化反応は、アルコール過剰下にリン酸等の触媒を用いて行なうか、又は酸過剰条件で行なうが、酸過剰条件を採用するのが好ましい。すなわち、アルコール化合物1モルに対し、酸化合物を1.2〜2モル(特に好ましくは1.5〜1.8モル)反応させる。反応温度は、150〜250℃、好ましくは170〜230℃とし、反応時間は、10〜40時間、好ましくは15〜25時間とする。反応圧力は、加圧、減圧でも良いが、反応操作の点で常圧が好ましい。この条件下では、過剰の酸成分が触媒として作用する。また溶媒としてキシレン、トルエン等のアルキルベンゼンを適当量加えることができる。溶媒の添加により、反応と温度を容易に制御することができる。反応の進行にともない、生成した水が蒸発してくるが、この水がアルコールの等倍モルとなった時点で反応を終了する。過剰の酸は、アルカリ水溶液で中和し、水洗により除去する。酸がアルカリ洗で取り出しにくい酸を使用する場合には、酸をアルコールの2〜2.5倍モルにして触媒を用いて、反応させる。触媒としては、リン酸、パラトルエンスルホン酸、硫酸等を使用することができるが、反応速度を高めエステルの収率を上げる点で、リン酸を使用するのが最も好ましい。本発明のエステル化合物は、最後に反応生成物を減圧蒸留して、水と溶媒を留出することにより得ることができる。
【0022】
また、アルコール過剰条件でおこなう場合には、カルボン酸1モルに対し、アルコール化合物を1.5〜3モルで反応させる。反応温度は、150〜250℃、好ましくは170〜230℃とし、反応時間は、10〜40時間、好ましくは15〜25時間とする。反応圧力は、加圧、減圧でも良いが、反応操作の点で常圧が好ましい。また、溶媒としてキシレン、トルエン等のアルキルベンゼンを適量加えることができる。溶媒の添加により、反応温度を容易に制御することができる。反応の進行にともない、生成した水が蒸発してくるが、この水がカルボン酸の等倍モルとなった時点で反応を終了する。触媒としてリン酸、パラトルエンスルホン酸、硫酸等を使用する。反応速度を高めエステルの収率を上げる点で、リン酸を使用するのが最も好ましい。本発明のエステル化合物は、最後に反応生成物を減圧蒸留して、水と溶媒と過剰のアルコールを留出することにより得ることができる。
【0023】
このようにして調製された一般式[1]で表される特定構造を有するエステル化合物は、低温流動性に優れ、トラクション係数も高く、かつ公知のトラクションドライブ用流体や、通常使われる鉱油、合成油及び潤滑油用添加剤との相溶性にも優れているため、トラクションドライブ用流体組成物の基油として有用である。
【0024】
2.トラクションドライブ用流体組成物
本発明の一般式[1]で表される特定構造を有するエステル化合物は、それ自体のみでトラクションドライブ用流体の基油として用いることもできるが、公知のトラクションドライブ用流体との混合基材としても用いられる。
本発明のエステル化合物と混合して用いられるトラクションドライブ用流体の基油としては、先ず、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンが挙げられる。
この2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンは、次の構造式[2]で表される化合物で、トラクションドライブ用流体として公知のものであり、優れたトラクション係数を有するものの、−30〜−40℃付近での低温における粘度が高く、低温流動性に劣るという欠点を有する。
【0025】
【化4】
【0026】
上記以外の公知のトラクションドライブ用流体の混合用基油としては、ポリブテンも挙げることができる。
ポリブテンとしては、平均分子量が300〜3500のものを好適に用いることができ、特に好ましくは600〜1500のものである。ポリブテンの平均分子量が300未満では、高温での蒸発損失が増加し、蒸発によるトラクションドライブ用流体の物性変化が大きくなる。一方、ポリブテンの平均分子量が3500を超えると、流動性が低下し、低温粘度が高くなり、低温流動性が悪化する。ポリブテンとしては、炭素炭素二重結合を水素添加して飽和したものも含まれる。ポリブテンは、好ましくはポリイソブチレン又はその水添物である。
また、ポリブテンは、特に、前記した2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンと組合せることにより、許容しうる範囲の高いトラクション係数を維持しながら、実用性能、例えばオイルシールゴム適合性などを改善することができる。
尚、ポリブテンの平均分子量は、数平均分子量であり、VPO法により数平均分子量を算出する。
【0027】
本発明では、実施態様の一つとして、本発明に係るエステル化合物と混合するトラクションドライブ用流体組成物の基油として、上記の2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンやポリブテンなどを用いるものであるが、これらの混合用基油は、種々の用途に応じたトラクションドライブ用流体の要求性能に合わせて、適宜、単独でも、種々組合せて用いることができる。これらの基油に又はこれらの基油の組合せたものに、一般式[1]で表される特定構造を有するエステル化合物を混合基材として配合することにより、粘度やオイルシールゴム適合性等の他の実用性能を配慮しながら、トラクション係数を高く保持しつつ、低温流動性を向上させることができる。
【0028】
本発明のトラクションドライブ用流体組成物、すなわち一般式[1]で表される特定構造を有するエステル化合物、の配合割合は、種々の基油の組合せにより、性能のバランスに応じて、適宜変えることができる。すなわち、本発明のエステル化合物の配合割合を適宜変えることによって、トラクション係数を高く保持すると共に、低温粘度が低く、寒冷地や冬期でも使用可能であり、実用的なトラクションドライブ用流体とすることができる。例えば、基油として、本発明の一般式[1]で表される特定構造を有するエステル化合物単独を用いることもでき、また、本発明のエステル化合物と2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンとを混合使用する場合には、その配合割合は、目標とする低温粘度やトラクション係数に応じて、適宜変えられ、エステル化合物100〜10重量%に対して、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン0〜90重量%の範囲が好適である。エステル化合物の配合割合が、10重量%未満では、低温流動性が不十分となる。
【0029】
さらに、本発明の一般式[1]で表される特定構造を有するエステル化合物とポリブテンを混合することにより、両者夫々の単独よりも、トラクション係数を高くすることができる。すなわち、両者を混合することにより、トラクション係数を高くする相乗効果が得られる。
上記の2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンと同様に、本発明のエステル化合物とポリブテンとを混合使用する場合には、その配合割合は、目標とする低温粘度やトラクション係数に応じて、さらには、常温粘度や高温粘度に応じて、適宜変えることができる。
また、本発明のエステル化合物と、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンと、ポリブテンの3者を混合使用する場合にも、それらの配合割合は、目標とする低温粘度やトラクション係数に応じて、適宜変えることができる。
【0030】
本発明のトラクションドライブ用流体組成物には、トラクションドライブ用流体の基油として、上記の特定構造を有するエステル化合物を含有するものであるが、種々の用途に適応した実用性能を確保するため、さらに必要に応じて、自動車用動力伝達油、例えば自動変速機油やミッションギヤ油に用いられている各種添加剤、すなわち摩耗防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、及び消泡剤等を本発明の目的を損なわない範囲で適宜添加することができる。
【0031】
本発明のトラクションドライブ用流体組成物は、トラクション係数が高いこと、−30〜−40℃における低温粘度が低く、低温流動性に優れていること等の特徴を有している。本発明のトラクションドライブ用流体組成物は、トラクション係数が、通常、0.090以上の高い値を示す。また、本発明のトラクションドライブ用流体組成物は、−30℃における低温粘度が30Pa・s以下であり、低温での使用が可能である。すなわち、寒冷地や冬期に装置を作動する場合、屋外では0℃以下、場合によっては−30℃付近になることがある。そのため、本発明のトラクションドライブ用流体組成物は、低温流動性が優れているため、−30℃付近の低温条件下でもトラクションドライブ装置を作動することができる。
なお、−30℃における低温粘度は、ASTM D2983−80に規定するブルックフィールド粘度計で測定したブルックフィールド粘度である。
【0032】
さらに、本発明のトラクションドライブ用流体組成物は、前記のような特徴を活かして、自動車無段変速機等のトラクションドライブ装置において、動力を伝達するとともに、転動体同士の直接の接触を防止する潤滑油としての役割を果たす潤滑剤として好適に使用することができる。しかも、本発明のトラクションドライブ用流体組成物は、トラクション係数が高いため、前記したように、転動体の押し付け荷重を低減させることができ、トラクションドライブ装置本体の疲労寿命を大幅に延長することができるため、装置の信頼性が向上し、装置の小型化に寄与することができる。
【0033】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例で得たトラクションドライブ用流体組成物の評価は、下記の方法で行った。
【0034】
1.物性の評価、測定法
<トラクション係数測定装置及び測定条件>
四円筒型トラクション試験機
周 速 :1m/sec
すべり率 :2%
平均ヘルツ圧:1.0GPa
ローラー温度:室温
トラクション係数は、0.090以上を開発目標とした。
【0035】
<低温粘度の測定方法>
ASTM D2983−80に規定するブルックフィールド粘度計で、−30℃におけるブルックフィールド粘度を測定した。低温粘度は、−30℃におけるブルックフィールド粘度が30Pa・s以下を開発目標とした。
【0036】
2.特定構造を有するエステル化合物の合成と同定
本発明の架橋飽和環を有するエステル化合物(含架橋飽和環エステルと称することもある)Aを次の方法により合成した。
先ず、反応容器に、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−酢酸とシクロヘキサノール(モル比3:1)及びリン酸6gを採取した。
次に反応容器を200℃に加熱し、常圧下に反応させた。反応の進行とともに生成する水が、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−酢酸の2倍モルとなった時点で加熱を終了した。反応生成物のビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−酢酸とシクロヘキサノールとのエステルと、未反応物のビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−酢酸との混合物から、未反応物を除去するためアルカリ洗浄後真空蒸留を行ない、次の構造式で表される含架橋飽和環エステルA、即ち、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−yl−酢酸シクロヘキシルエステルを単離した。
【0037】
【化5】
【0038】
上記で得られたビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−yl−酢酸シクロヘキシルエステルについて、ガスクロマトグラフィー−マススペクトロメトリー(GC−MS)により、同定を行った。測定条件を下記に示す。
【0039】
注入温度:280℃、スプリット比:150:1、注入量:1μ、カラム:HP5−MS(30m×0.25mmφ)、オーブン温度:(初期)40℃2分、(昇温速度)10℃/分、(最終温度)280℃、イオン化:▲1▼電子衝撃法(EI法) マスレンジ:15〜500、イオン化電圧:70eV、イオン源温度:230℃ ▲2▼化学イオン化法(CI法) 反応ガス:メタン、マスレンジ:35〜800、イオン化電圧:200eV、イオン化温度:200℃
【0040】
その結果、トータルイオンクロマトグラムを図1に、EI法によるマススペクトルを図2に、CI法によるマススペクトルを図3に示す。例えば、CI法では、分子量M+1のイオンが生成し、目的構造(C15H24O2)の分子量M=236に相当する237の明確なピークが検出されており、目的の構造が得られていることが明らかである。
【0041】
3.トラクションドライブ用流体組成物
[実施例1]
実施例1では、トラクションドライブ用流体組成物全量基準で、基油として、上記で得られた構造式[3]で表されるエステル化合物A100重量%のみで、トラクションドライブ用流体組成物を調製した。トラクションドライブ用流体組成物の組成及び物性の測定結果を表1に示す。
【0042】
[実施例2〜6]
実施例2では、トラクションドライブ用流体組成物全量基準で、基油として、上記で得られた構造式[3]で表されるエステル化合物A20重量%に、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン80重量%とを混合し、トラクションドライブ用流体組成物を調製した。
実施例3では、トラクションドライブ用流体組成物全量基準で、基油として、上記で得られた構造式[3]で表されるエステル化合物A10重量%に、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン90重量%とを混合し、トラクションドライブ用流体組成物を調製した。
実施例4では、トラクションドライブ用流体組成物全量基準で、基油として、上記で得られた構造式[3]で表されるエステル化合物A19重量%に、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン77重量%と、平均分子量が2900のポリブテン4重量%とを混合し、トラクションドライブ用流体組成物を調製した。
実施例5では、トラクションドライブ用流体組成物全量基準で、基油として、上記で得られた構造式[3]で表されるエステル化合物A10重量%に、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン85重量%と、平均分子量が630のポリブテン5重量%とを混合し、トラクションドライブ用流体組成物を調製した。
実施例6では、トラクションドライブ用流体組成物全量基準で、基油として、上記で得られた構造式[3]で表されるエステル化合物A10重量%に、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン88重量%と、平均分子量が1000のポリブテン2重量%とを混合し、トラクションドライブ用流体組成物を調製した。これらのトラクションドライブ用流体組成物の組成及び物性の測定結果を表1に示す。
【0043】
[比較例1〜3]
比較例1、2は、表1に示すような基油、すなわち比較例1では、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンのみの、比較例2では、ジシクロペンタジエンオリゴマー水添物のみのトラクションドライブ用流体である。トラクションドライブ用流体組成物の組成及び物性の測定結果を表1に示す。
比較例3は、市販のトラクションドライブ用流体である商品名:サントトラック(Santotrac)50を物性評価した。物性の測定結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
これらの評価結果から、低温流動性に優れ、かつトラクション係数が高く、実用的に優れたトラクションドライブ用流体組成物は、基油として特定構造のエステル化合物を含有することにより得られることが判明した。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、低温流動性に優れ、かつトラクション係数が高く、実用的に優れたトラクションドライブ用流体組成物が提供される。本発明のトラクションドライブ用流体組成物は、自動車無段変速機等のトラクションドライブ装置において、動力を伝達するとともに、転動体同士の直接の接触を防止する潤滑油としての役割を果たす潤滑剤として使用することができる。また、本発明のトラクションドライブ用流体組成物は、トラクション係数が高く、低温流動性に優れ実用的であるため、装置の小型化及びより広い環境温度における信頼性に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の架橋飽和環を有するエステル化合物Aのトータルイオンクロマトグラムである。
【図2】本発明の架橋飽和環を有するエステル化合物AのEI法によるマススペクトルである。
【図3】本発明の架橋飽和環を有するエステル化合物AのCI法によるマススペクトルである。
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