JP3802140B2 - シリコン単結晶製造用黒鉛ルツボ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」と略記する)によるシリコン単結晶の引き上げ操作に使用される黒鉛ルツボに関する。
【0002】
【従来の技術】
CZ法によるシリコン単結晶の引き上げ操作には、シリコンを溶融するための石英ルツボと、これを収納して外側から保持する黒鉛ルツボとの二重構造となった装置が用いられる。そしてこの引き上げ操作を行なう際には、石英ルツボと黒鉛ルツボとが1500℃付近の高温で接触し、これら二つのルツボ間で主に以下のようなケイ化反応及び酸化消耗が進行すると考えられている。
SiO2 +C→SiO+CO …(1)
SiO+2C→SiC+CO …(2)
SiC+2SiO2 →3SiO+CO …(3)
【0003】
即ち、反応式(1)による黒鉛の酸化消耗に伴って生成するSiOガスは、黒鉛組織内部の気孔中に拡散し、反応式(2)により黒鉛をSiCに転化し、黒鉛ルツボの内側表面からルツボの内部へと徐々にケイ化が進行し、黒鉛ルツボの内側表面から表層部分にかけてケイ化層が形成される。更にこのケイ化層中に含まれる黒鉛とSiCは、石英ルツボとの接触によりそれぞれ反応式(1)及び(3)によって消耗するため、黒鉛ルツボの肉厚が薄くなる現象(いわゆる「減肉」)が進行する。そして、黒鉛ルツボの寿命は、一般的には酸化消耗による減肉の状況を目視で判断することで行われるが、上記酸化消耗による減肉以外の原因でルツボの使用ができなくなる場合がある。具体的には黒鉛ルツボに反りや破損が生じる場合であり、この反りや破損が原因で使用不能となる事態は減肉現象が進行する前に起こる。このため、このような反りや破損は黒鉛ルツボの耐久性を低下させ、ルツボの寿命を著しく短くするため、上記酸化消耗よりも深刻な問題である。
【0004】
ところで、黒鉛ルツボは、一体型の構造にするとケイ化反応による歪みの影響を受けやすく破損を生じやすい、との理由から、一般には黒鉛ルツボを垂直方向に縦割りした2分割あるいは3分割された構造となっており、石英ルツボを保持する際には分割された各部分の間に必然的にすり合わせ部分が生じる。ここで、2分割構造の黒鉛ルツボは3分割構造のものに比べてすり合わせ部分が少なく、このすり合わせ部分でのSiOガスの流れが低減し、結果として酸化消耗による減肉が起きにくくて長寿命化できるという利点がある。しかしながら、この2分割構造の黒鉛ルツボには、3分割構造のものに比べて、形状的にケイ化反応による内部応力が増大し、破損などが発生しやすいという別の問題があり、この問題が2分割構造を採用してより一層の長寿命化を図る上で大きな障害となっている。
【0005】
更に、近年のシリコンウエハー製造分野では、8インチ以上の大口径シリコン単結晶の製造が主流になりつつあり、これに伴って黒鉛ルツボのサイズも大型化が必要になり、ケイ化反応による黒鉛ルツボの内部歪みが増大しやすく、反りの度合いや破損の頻度が増加する傾向にある。
【0006】
この黒鉛ルツボの反りや破損の現象は、特開平第2−172887号公報に開示されているように、前記反応式(2)のケイ化反応に伴って体積膨張が起こり、この際に黒鉛ルツボ内部に生じる歪みが原因と考えられ、この問題を解決する目的で、ケイ化反応を抑制するために黒鉛の気孔径あるいはガス透過度を低減した黒鉛ルツボ(特開昭58−156595号公報、特開昭63−85086号公報)が提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者らの検討結果によれば、このように気孔径等を低減させた黒鉛ルツボでは必ずしも破損などの発生を防止できず、逆に黒鉛材の気孔径を小さくすると、黒鉛組織内部へのSiOガスの拡散が抑制され、生成するケイ化層中のSiCが緻密化してケイ化層の体積膨張率が高くなり、かえって黒鉛ルツボの反りや破損が発生し易くなることが判明した。
【0008】
そこで本発明者らは、黒鉛ルツボの反りや破損の原因について鋭意研究した結果、生成したケイ化層中のSiC含有率がこの反りや破損の発生に直接影響しており、このケイ化層中のSiC含有率を低く抑えることにより黒鉛ルツボの反りや破損を可及的に防止することができることを見出した。そして、このケイ化層中のSiC含有率を低くするためには、黒鉛ルツボを形成する黒鉛材の平均気孔径と開気孔率とを所定の範囲にしてケイ化反応を抑制することにより達成でき、更に、弾性率を最適化することにより、ケイ化層の形成に伴う体積膨張によって惹起される歪みを抑制でき、その結果黒鉛ルツボの耐久性を顕著に改善できることを見出した。
【0009】
従って、本発明の目的は、CZ法によるシリコン単結晶の引き上げ操作時における反りや破損を軽減化し、耐久性に優れたシリコン単結晶製造用の黒鉛ルツボを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、水銀圧入法により測定される平均気孔径dが3μm<d≦7μmであり、開気孔率が10〜20%であって、且つ弾性率が800〜1600kg/mm2 の特性を備えたシリコン単結晶製造用黒鉛ルツボである。
【0011】
本発明において、黒鉛ルツボの平均気孔径と開気孔率の値は、SiOガスが黒鉛組織内部に拡散し反応して生成するケイ化層中のSiC含有率とこのケイ化反応の反応性を低減させるために必須の事項である。
【0012】
本発明においては、黒鉛ルツボの平均気孔径dを3μm<d≦7μmの範囲、好ましくは3μm<d≦5μmの範囲にする必要がある。このように、黒鉛ルツボの平均気孔径dを3μm<d≦7μmの範囲にすることにより、SiOガスが黒鉛ルツボの内部の深い領域にまで拡散し黒鉛ルツボ周壁の厚さ方向に深い領域までケイ化層を形成し、このケイ化層の領域が厚くなると、SiC含有率は低くなり、その結果、ケイ化層の更に内側にある黒鉛層(ケイ化されていない層)との間の体積膨張率の差が小さくなり、これによって黒鉛ルツボの反りや破損を惹き起こすような大きな歪みも生じない。
【0013】
ここで、黒鉛ルツボの平均気孔径dが3μm以下の場合には、高温の石英ルツボと黒鉛ルツボとが接触して発生するSiOガスは黒鉛ルツボの内側表面から黒鉛組織内の深い領域にまで拡散することができず、黒鉛ルツボ表層の浅い領域でのみSiCを生成し、この浅い領域に形成されたケイ化層のSiC含有率が上昇する。ここで、SiCの体積膨張率は黒鉛に比べて高く、このSiCを含むケイ化層の体積膨張率もSiC含有率に比例して高くなり、このケイ化層の内側に隣接する黒鉛層との間の体積膨張率の差が大きくなり、このために黒鉛ルツボに反りや破損が発生し易くなる。反対に、黒鉛ルツボの平均気孔径dが7μmを超すと、SiOガスの拡散によるSiC含有率の低下やこれに伴う体積膨張率の低下による有益な効果よりも、ケイ化反応に与かる反応表面積が増大することや機械的強度の低下による悪影響の方が大となる。
【0014】
本発明において、黒鉛ルツボの開気孔率は10〜20%の範囲、好ましくは10〜16%の範囲である必要がある。この黒鉛ルツボの開気孔率は、反応表面積に影響するため、ケイ化反応量及び酸化消耗量に影響し、20%を超えると反応表面積が増大して、たとえ平均気孔径が上記範囲内であってもケイ化層中のSiC含有率を低減することができずに、破損を起こして寿命が短くなり、反対に、10%未満であると、焼成時において成型体中のバインダー成分から発生する熱分解ガスが抜けにくく割れが起きやすくなり、大型の黒鉛ルツボを製造する際の製品歩留りが低下するほか、平均気孔径が3μmを超す材質特性の黒鉛ルツボが得難くなり、破損しやすくなる。なお、この黒鉛ルツボの開気孔率は、水銀圧入法により、黒鉛ルツボに対して60000Psiaまでの圧力で浸透した水銀の体積を測定することで、黒鉛ルツボに対する浸透水銀量の体積率として定義される値である。
【0015】
本発明において、ケイ化層に含まれるSiC含有率は、黒鉛ルツボの反応層断面をEPMA(X線マイクロアナライザー)でライン分析することにより測定することができる。このSiC含有率の測定箇所は、反応量が大きくSiC含有率が最大値を取りうる壁内面における曲率開始位置、即ち黒鉛ルツボの側壁から底壁にかけて曲率が付き始める位置がよく、この部分で測定されたSiC含有率は破損等の影響をよく反映する。EPMAにより測定されるSiC含有率は、ケイ化層表面から内部方向へ深くなるにつれて僅かではあるが減少する傾向がある。そのため、本発明についてのケイ化層に含まれるSiC含有率とは、ケイ化層をその厚さ方向に特定のミクロン単位の幅の領域に分け、各領域毎のSiC含有率(重量%)を求め、これらを平均してケイ化層全体の平均値として求めた値である。
【0016】
本発明による黒鉛ルツボでは、形成されるケイ化層に含まれるSiC含有率を40%以下にすることができ、8インチ以上のシリコン単結晶の製造においても黒鉛ルツボの反りや破損を効果的に抑制することができる。一方、SiC含有率が40%を超えるものでは、反りや破損がわずかな使用回数で発生しやすく耐久寿命が短いものとなる。
【0017】
シリコン単結晶の引き上げ操作中に黒鉛ルツボに形成されるケイ化層の深さは、通常1〜3mm程度の範囲にあり、黒鉛ルツボの開気孔率が同程度である場合、ケイ化層が深いと層内でのSiC含有率は小さく、逆にケイ化反応層が浅いと層内でSiCが緻密化しやすくSiC含有率が大きくなる。ここで、前者のSiC含有率が小さい黒鉛ルツボの方が内部に発生する応力を低くすることができ、反りや破損を抑制することができる。従って、ケイ化層については、その深さは黒鉛ルツボの破損等には問題とはならず、ケイ化層中のSiC含有率の大小が大きく影響を及ぼすのである。
【0018】
本発明においては、黒鉛ルツボの弾性率を800〜1600kg/mm2 、好ましくは1000〜1300kg/mm2 とする必要がある。この黒鉛ルツボの弾性率は、JIS−R7202に準じた共振法により測定される値であり、ケイ化反応により体積膨張したケイ化層が黒鉛ルツボに歪みを生じさせたとき、この黒鉛ルツボに発生する応力の大きさを決定する。ここで、弾性率が800kg/mm2 未満では、ケイ化層の体積膨張による歪みを緩和するために黒鉛ルツボが容易に変形してしまい、内部に保持した石英ルツボを安定して支持できなくなり、シリコン単結晶の製造に悪影響を及ぼす。反対に、弾性率が1600kg/mm2 を超えると、ケイ化層の体積膨張による歪みに対して黒鉛ルツボの変形による応力の緩和が起きにくく、黒鉛ルツボ内部に発生する応力の絶対値が大きくなって、破損が生じ易くなる。
【0019】
本発明における黒鉛ルツボを製造するに該っては、原料コークス粉の粒径を大きくすることで、黒鉛ルツボの平均気孔径が拡大するため、特定の平均気孔径を有する黒鉛ルツボを製造するには、この原料コークス粉の粒度を所定の範囲に制御すればよい。そして黒鉛ルツボの開気孔率は、焼成時までの成型体の収縮率に依存するため、原料コークス粉の粒径以外にバインダーの添加率等コークス粉とバインダーの熱混練条件の最適化を行なうことにより目的とする開気孔率値を得ることができる。また、黒鉛ルツボの弾性率は前記の条件以外に黒鉛化温度の影響を受けるため、2000〜3000℃の範囲の温度で処理することにより目的とする弾性率値を得る。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、実施の形態に沿って本発明の黒鉛ルツボを説明する。
本発明における黒鉛ルツボは、微粉状のコークス粉とタールピッチ等のバインダーとの混練物を微粉砕した二次粉をラバープレスにより成型後、焼成および黒鉛化処理することで製造することができる。そして、コークス粉の粒度、バインダー添加率、黒鉛化温度等を適当な値にして製造することにより、3μm<d≦7μmの範囲の平均気孔径d、10〜20%の範囲の開気孔率、及び800〜1600kg/mm2 の範囲の弾性率を有する黒鉛ルツボを製造することができる。なお、本実施形態の黒鉛ルツボは、歪みが発生しやすい2分割の構造にすることもでき、また、3分割又はそれ以上の複数個の部分に分割される構造にすることもできる。
【0021】
シリコン単結晶の製造過程において、黒鉛ルツボは石英ルツボと高温で接触することで、黒鉛ルツボの内面にSiCを含んだケイ化層を形成する。このケイ化反応は体積膨張を伴った反応であり、ケイ化反応層が体積膨張することで黒鉛ルツボの内部に歪みが生じて破損を起こして寿命が短くなる。
【0022】
本発明では、水銀圧入法で測定した黒鉛ルツボの平均気孔径dが3μm<d≦7μmの大きさであるため、石英ルツボと黒鉛ルツボとが高温で接触する際に発生するSiOガスが黒鉛ルツボの表面から内部にまで拡散し、ケイ化層の厚さが大きくなる結果、ケイ化層全体としてのSiC含有率が低く抑えられる。また、開気孔率が10〜20%の範囲であるため、ケイ化反応そのものを低下することができ、生成するSiCそのものの量を低減することができる。そのため、これら平均気孔径、開気孔率を本発明の範囲にすることにより、結果的にケイ化層中におけるSiC含有率を低下でき、その結果ケイ化層の体積膨張率を低減化して黒鉛ルツボの反りや破損の発生を防止することができる。また、黒鉛ルツボの弾性率を800〜1600kg/mm2 にすることにより、黒鉛ルツボの内部に生じた歪みによる応力を低化させる。従って、黒鉛ルツボにケイ化層が形成されて反りや破損が発生する現象が効果的に防止される。
【0023】
【実施例】
次に、実施例1〜4及び比較例1〜5に基づいて本発明を具体的に説明する。
本実施例及び比較例で用いた黒鉛ルツボの物性値は表1に示すとおりである。これらの黒鉛ルツボは、原料コークスの粒度、バインダーの添加率等のコークス粉とバインダーの熱混練条件、黒鉛化温度等の諸条件を適宜調整することにより表1に示した平均気孔径値、開気孔率値、弾性率値等の各物性を備えた黒鉛ルツボとして製造したものである。
【0024】
特性値の異なる高純度黒鉛材(灰分10ppm以下)より、直径24インチで2分割のシリコン単結晶製造用黒鉛ルツボを用いて、シリコン単結晶引き上げ装置にセットして実用試験を行った。
【0025】
第1表には、黒鉛ルツボの耐久試験結果とあわせて、ケイ化反応の深さとその層に含まれる平均のSiC含有率を示した。ここで、ケイ化層内でのSiC含有率は、黒鉛ルツボの壁内面における曲率開始位置での切断面をEPMA(X線マイクロアナライザー)により深さ方向にライン分析し、100μm幅で平均化されたSiC含有率(ビーム径10μm)をケイ化層の全領域で平均した値とした。また、ケイ化層深さは、EPMA測定による100μm幅領域でのSiC含有率が5%以上まで検出される範囲とした。
【0026】
第1表の結果より、本発明の黒鉛ルツボを用いた実施例1〜4では、いずれもSiC含有率が35%以下と低く破損のない状態で75回以上の使用が可能であった。ここで、消耗による寿命原因は、最も消耗する黒鉛ルツボのすり合わせ部分、すなわち黒鉛ルツボの壁内面における曲率開始位置の肉厚が、70%まで減少した時点として判断したものである。
【0027】
これに対して、平均気孔径が3μm以下、開気孔率が10%未満の比較例1、2、及び開気孔率が20%を超える比較例3、4では、ケイ化層に含まれるSiC含有率が45%以上の緻密なSiC層が形成され、実施例に比べて少ない使用回数で破損した。特に本発明の特性要件を全て外れる比較例4では、使用回数が極端に少ない15回で破損が生じた。また、弾性率が1600kg/mm2 を超える比較例5では、SiC含有率を36%に低減したものの、ケイ化層によるわずかな歪みであっても、黒鉛ルツボに発生する応力が大きくなったと考えられ、30回の使用により破損が生じた。
【表1】
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の黒鉛ルツボを用いることによりケイ化反応層におけるSiC含有率を低減させ、黒鉛ルツボの内部に生じる歪みを緩和することで、CZ法によるシリコン単結晶の引き上げ操作時における破損を抑制した耐久性に優れるシリコン単結晶製造用黒鉛ルツボを提供することができる。これによりシリコン単結晶の引き上げを長時間安定して行うことができ、製造コストの低減等、工業上極めて顕著な効果がもたらされる。
Claims (1)
- 水銀圧入法により測定される平均気孔径dが3μm<d≦7μmであり、開気孔率が10〜20%であって、且つ弾性率が800〜1600kg/mm2 の特性を備えていることを特徴とする、シリコン単結晶製造用黒鉛ルツボ。
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