JP3800676B2 - グリオキシル酸の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、グリコール酸からグリオキシル酸を製造する方法、特にリン酸鉄系の触媒の存在下でグリコール酸を酸化脱水素してグリオキシル酸を製造する方法に関する。グリオキシル酸は、香料(バニリン等)、医薬(血液凝固剤、鎮痛剤等)、農薬(殺虫剤、植物生長調製剤等)及び有機薬品の合成原料、ならびに高分子化合物の製造原料などとして有用な化合物である。
【0002】
【従来の技術】
グリオキシル酸の製造方法としては、シュウ酸を電解還元する方法(米国特許第4692226号)、グリオキザールを硝酸酸化する方法(特開平3−176456号公報)、グリコール酸を酸化酵素によって酸化する方法(PCT Int.Appl.WO9501444)などが知られていて、最近では特に酸化酵素による方法ならびに電解還元による方法が注目されている。しかしながら、これらの方法はいずれも生産性が低く、操作も煩雑である。
更に、グリコール酸を銅、又は銅及びジルコニウムを含有する触媒の存在下で脱水素する方法(特開平6−157399号公報)も知られているが、グリオキシル酸の選択率及び收率が低い。
【0003】
その他、グリコール酸エステルを酸化して得られるグリオキシル酸エステルを加水分解する方法も知られているが、グリコール酸を原料とする場合は、グリコール酸のエステル化工程、グリコール酸エステルの酸化工程、グリオキシル酸エステルの加水分解工程の3工程が必要になって、プロセスが複雑になるという問題がある。また、グリコール酸エステルの酸化は、例えば、リン酸第二鉄がα−アルミナに担持された触媒の存在下でグリコール酸エステルを分子状酸素と接触させる方法(特開平2−91046号公報)によって行われるが、グリオキシル酸エステルの收率が余り高くなく、触媒調製には煩雑な前処理が必要である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前記のような技術背景に鑑みて、本発明は、工業的に容易に入手できるグリコール酸を酸化して、グリオキシル酸を高選択率及び高收率で直接に製造する方法を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の課題は、FePO4 又はFe3 (P2 7 2 を含有する触媒の存在下で、グリコール酸を分子状酸素と接触させることを特徴とするグリオキシル酸の製造方法によって達成される。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳しく説明する。
本発明で原料として使用されるグリコール酸は、グリコール酸を1重量%以上、特に3〜70重量%、更には5〜50重量%含有するグリコール酸水溶液であることが好ましい。
【0007】
本発明で使用される触媒はFePO4 (リン酸第二鉄)又はFe3 (P2 7 2 を含有する触媒である。
FePO4 としては、トリデマイト型、石英型などのFePO4 が挙げられ、Fe3 (P2 7 2 としては、α型(Y相)、β型(B相)などのFe3 (P2 7 2 が挙げられる。これらの中では、α型、β型のFe3 (P2 7 2 が反応中に安定に存在し、しかも高活性及び高選択性を示すので触媒として好適である。
【0008】
前記の触媒は、FePO4 又はFe3 (P2 7 2 から成るものであっても、これらが担体に担持されているものであっても、またこれらが希釈剤と混合されているものであってもよい。また、FePO4 とFe3 (P2 7 2 の混合物であってもよい。更に、前記の触媒は、Fe2 2 7 (ピロリン酸第一鉄)が反応中に酸化を受けてα型のFe3 (P2 7 2 に変化することから、Fe2 2 7 から成るもの、あるいはFe2 2 7 を含有するものであっても差し支えない。
触媒中のFePO4 又はFe3 (P2 7 2 の含量は100重量%以下であって、10重量%以上、特に20重量%以上であることが好ましい。
また、触媒には過剰のリン酸が含有されていても差し支えないが、リン酸は、触媒に含有されるリンと鉄の原子比(P:Fe)が1:1〜1.8:1の範囲であるように含有されることが好ましい。
【0009】
前記の触媒のうち、FePO4 を調製する方法としては、例えば、鉄含有化合物とリン含有化合物を水の存在下で混合(又は混錬)した後に、共沈物(又は混錬物)を乾燥・焼成する方法が挙げられる。このとき、鉄含有化合物としては、鉄の無機酸塩(硝酸鉄、炭酸鉄、塩化鉄、リン酸第一鉄等)、鉄の有機酸塩(シュウ酸鉄、酢酸鉄等)、鉄の酸化物(酸化鉄等)、鉄の水酸化物(水酸化鉄等)などが使用され、リン含有化合物としては、リン酸のアンモニウム塩(リン酸アンモニウム等)、リン酸(オルトリン酸、メタリン酸等)、リンの塩化物(五塩化リン等)などが使用される。
【0010】
前記の触媒調製において、乾燥は空気中で50〜200℃の温度で行われ、焼成は空気中で300℃以上、特に400〜800℃の温度で行われる。焼成温度が300℃より低い場合、FePO4 が充分に生成しないことがあり、また800℃より高い場合は得られる触媒の比表面積が非常に小さくなることがあるので好ましくない。
【0011】
α型のFe3 (P2 7 2 は、FePO4 を100〜600℃、特に160〜500℃で還元性ガスと接触させてFe2 2 7 を生成させ(鉄原子を完全に2価に還元し)、これを600℃以下、特に200〜550℃で再酸化する(分子状酸素と接触させる)ことによって調製される。還元性ガスとしては、水素(H2 )、アンモニア、一酸化炭素、炭化水素(メタン、エタン等)あるいはその他の有機物(メタノール、ホルムアルデヒド、グリコール酸等)などを含有するガスが使用される。これら還元性ガスは純ガスであっても、混合ガスであっても、また不活性ガスで希釈されたものであってもよい。
また、β型のFe3 (P2 7 2 は、FePO4 を100〜600℃、特に160〜500℃で前記の還元性ガスと接触させる(鉄原子を部分的に還元する)ことによって調製される。
【0012】
本発明で使用される分子状酸素は、分子状酸素含有ガスとして反応系に供給される。分子状酸素含有ガスとしては、酸素ガス、不活性ガス(窒素ガス等)で希釈されたガス、及び空気などが用いられるが、中でも窒素ガスで希釈されたガス(O2 濃度:10〜30容量%)や空気が好適に使用される。なお、グリオキシル酸を生成する反応において、分子状酸素はグリコール酸1モルに対して0.3〜20モル、特に0.4〜5モル供給されることが好ましい。
【0013】
本発明の反応は、例えば、前記の触媒を充填した反応器に、グリコール酸と分子状酸素を供給して気相で行われる。このとき、反応温度は180〜300℃、特に200〜280℃であることが好ましい。反応圧力は、常圧、加圧あるいは減圧のいずれでもよいが、一般には常圧が適当である。また、接触時間は、0.1〜10秒、特に0.2〜7秒程度であることが好ましい。また、本発明の反応は気相に限られるものではなく、例えば液相懸濁系やトリクル方式でも行うことができる。
【0014】
本発明では、グリコール酸又は分子状酸素と共に、水蒸気を反応器に供給して反応を行っても差し支えない。水蒸気の供給量はグリコール酸に対して多い方が目的物の選択率及び收率を向上させる傾向があるが、余りに多すぎると経済性を低下させることになるので好ましくない。水蒸気はグリコール酸1モルに対して2〜100モル、特に5〜80モル供給されることが好ましい。
水蒸気は、例えば、グリコール酸水溶液を加熱・蒸発させて必要量を供給することもでき、また必要量の水を別途蒸発させて供給することもできる。
以上のようにして生成したグリオキシル酸は、例えば反応器から導出される反応ガスを凝縮させた後、減圧蒸留、薄膜蒸留等の一般的な方法により分離精製される。
【0015】
【実施例】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
なお、グリコール酸の転化率、グリオキシル酸の選択率、グリオキシル酸の收率は次式により求めた。
【0016】
【数1】
Figure 0003800676
【0017】
【数2】
Figure 0003800676
【0018】
【数3】
Figure 0003800676
【0019】
実施例1
水5000mlに硝酸第二鉄〔Fe(NO3 3 ・9H2 O〕122gを溶解し、この溶液にアンモニアを加えてpHを8.0に調整した。生成した沈殿を分離して85重量%リン酸41.5gを加えた後、その溶液を100℃で1時間加熱し、次いで蒸発乾固した。得られた乾固物を、空気中、150℃で8時間乾燥した後、粉砕して4〜10メッシュに整粒し、空気中、480℃で5時間焼成して焼成物49gを得た。
得られた焼成物(粒子径:1〜2mm)はX線回折スペクトルよりトリデマイト型のFePO4 (リン酸第二鉄)であり、酸化還元滴定によればその鉄原子の95%以上が3価の鉄であった。
【0020】
実施例2
実施例1で得られた焼成物を内径18mmのステンレス製反応管に充填した後、これにN2 :H2 (容量比)=1:1の混合ガスを50ml/minで流しながら、300℃で5時間還元を行った。得られた還元物は、X線回折スペクトルよりβ型のFe3 (P2 7 2 (B相)であった。
【0021】
実施例3
実施例1で得られた焼成物を内径18mmのステンレス製反応管に充填した後、これにN2 :H2 (容量比)=1:1の混合ガスを50ml/minで流しながら、500℃で5時間還元を行って、Fe2 2 7 (ピロリン酸第一鉄)を得た。次いで、空気:水蒸気(容量比)=10:3の混合ガスを100ml/minで流しながら、480℃で2時間酸化を行った。得られた酸化物は、X線回折スペクトルよりα型のFe3 (P2 7 2 (Y相)であり、酸化還元滴定によればその鉄原子の36%が2価の鉄であった。
【0022】
実施例4〜8
触媒として実施例1で得られたトリデマイト型のFePO4 20gを内径18mmのステンレス製反応管に充填した後、常圧下、グリコール酸:酸素:窒素:水蒸気〔流量(mmol/hr)比〕=12.3:3.8〜25:500:480で流しながら、表1記載の反応温度、酸素濃度及び接触時間で3時間反応を行った。反応ガスを冷却して、回収された生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した。その結果を表1に示す。
【0023】
実施例9〜11
触媒として実施例2で得られたβ型のFe3 (P2 7 2 (B相)20gを用いたほかは、実施例4と同様に反応と分析を行った。その結果を表1に示す。
【0024】
実施例12、13
触媒として実施例3で得られたα型のFe3 (P2 7 2 (Y相)20gを用いたほかは、実施例4と同様に反応と分析を行った。その結果を表1に示す。
実施例の結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
Figure 0003800676
【0026】
比較例1
酸化脱水素反応の触媒として類似のV−P系及びヘテロポリ酸系の触媒を本発明の反応に適用した例を比較例に示す。
2 5 18.2gをベンジルアルコール−イソブチルアルコール〔1:1(容量比)〕溶液中で2時間還流して黒色の懸濁物を得た。これに98重量%リン酸21.2gを加えて2時間還流した後、溶媒を除去して固形物を得た。この固形物を、空気中、150℃で6時間乾燥し、次いで空気中、300℃で6時間そして450℃で12時間焼成した。得られた酸化物は、X線回折スペクトルより(VO)2 2 7 (リン酸バナジイル;V/P=1/1.06)であった。
触媒として上記の(VO)2 2 7 20gを用いたほかは、実施例4と同様に反応と分析を行った。その結果を表1に示す。
【0027】
比較例2
触媒として、H3 Mo1240(リンモリブデン酸;関東化学製)を空気中、370℃で6時間焼成したもの20gを用いたほかは、実施例4と同様に反応と分析を行った。その結果を表1に示す。
【0028】
比較例3
触媒として、H5 PMo122 40(リンバナドモリブデン酸;関東化学製)を空気中、370℃で6時間焼成したもの20gを用いたほかは、実施例4と同様に反応と分析を行った。その結果を表1に示す。
比較例の結果を表2に示す。
【0029】
【表2】
Figure 0003800676
【0030】
【発明の効果】
本発明により、工業的に容易に入手できるグリコール酸から、高選択率及び高收率でグリオキシル酸を直接に製造することができる。

Claims (2)

  1. FePO4 を含有する触媒の存在下で、グリコール酸を分子状酸素と接触させることを特徴とするグリオキシル酸の製造方法。
  2. Fe3 (P2 7 2 を含有する触媒の存在下で、グリコール酸を分子状酸素と接触させることを特徴とするグリオキシル酸の製造方法。
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