JP3800629B2 - 眼鏡用多焦点レンズおよび眼鏡レンズ - Google Patents

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Description

技術分野
本発明は、視力補正用の眼鏡用多焦点レンズ、および、これを用いた眼鏡レンズに関するものである。
背景技術
屈折力の異なる複数の視野部分、例えば遠用部および近用部を備えた多焦点レンズは1つのレンズで異なる屈折力の視野を得ることができるので、老視などの視力を補正するための眼鏡レンズとして用いられている。さらに、多焦点レンズの1つとして屈折力の異なる視野部分の間に、屈折力が累進的に変わる視野部分を設けた累進多焦点レンズがあり、視野部分に境目がないので連続的な視野が得られ、さらに外観的にも優れているので眼鏡レンズとして多く用いられている。図11に、眼鏡レンズとして多く用いられている従来の累進多焦点レンズの一般的な構造を示してある。この累進多焦点レンズ1は、図11(a)に平面的な構成で示してあるように、遠距離の物を見るための視野部分である遠用部11が上方に設けられ、遠用部11と異なる屈折力を備えた近距離の物を見るための視野部分が近用部12として遠用部11の下方に設けられている。そして、これら遠用部11と近用部12が、連続的に変化する屈折力を備えた遠距離と近距離の中間距離の物を見るための視野部分である累進部13によって滑らかに連絡されている。
眼鏡用に用いられる単板のレンズ1においては、図11(b)に断面を用いて示すように眼球側の屈折面3と、注視する物体側の屈折面2の2つの面を有し、これらの面によって眼鏡レンズに要求される全ての性能、例えば、ユーザーの度数に合った頂点屈折力、乱視を矯正するための円柱屈折力、老視を補正するための加入屈折力、さらには斜位を矯正するためのプリズム屈折力などを付与する必要がある。このため、従来の多焦点レンズ1においては、物体側の屈折面2の曲率を変えて面屈折力を調整し、遠用部11および近用部12、さらに累進多焦点レンズにおいては累進部13を構成している。そして、眼球側の屈折面3には乱視の矯正が必要な場合にはトーリック面を設けるようにしている。なお、以下においては、簡単のため乱視矯正を行わない累進多焦点レンズを仮定して説明を行うことにする。
図12に従来の累進多焦点レンズ1で得られる非点収差を示してある。物体側の面2に設けられた累進屈折面5は、面屈折力を連続的に変化させるように非球面になるので、面の各領域によって曲率が変化する。例えば、図11には、遠用部11の屈折力が0.00Dで加入度Addが3.00Dの累進多焦点レンズ1の概略構成を示してあるが、遠用部11の平均面屈折力D11を4.00ディオプトリ(D)とすると、近用部12の平均面屈折力D12は7.00Dとなる。従って、物体側の面2には、遠用部11から近用部12にわたってx方向(眼に装着したときにレンズに沿って水平となる方向とする)およびy方向(x方向に垂直なレンズに沿って鉛直となる方向とする)の曲率に差ができるので非点収差が発生する。一方、眼球側の面3は曲率が一定の球面でよく、本例の累進多焦点レンズ1においては、遠用部11の平均面屈折力と同じ値、すなわち4.00Dの平均面屈折力D21を備えた球面で構成することができる。このため、眼球側の面は、xおよびy方向の曲率が一定になり、基本的には非点収差は発生しない。従って、図11に示したレンズ1では、レンズ全体の非点収差は物体側の面2の非点収差と同じとなり、非点収差をディオプトリ(D)単位で表して所定のディオプトリの領域を等高線でつないで示したものが図12に示した非点収差図である。なお、本明細書においては、平均面屈折力は主注視線の近傍における面屈折力を示しており、物体側の面の遠用部の平均面屈折力D11は物体側の面の遠用部11の主注視線14の近傍の平均面屈折力であり、また、近用部の平均面屈折力D12は物体側の面の近用部12の主注視線14の近傍の平均面屈折力を示している。
乱視を伴わない眼鏡の使用者(ユーザー)は、レンズに現れた非点収差が1.0ディオプトリ、望ましくは0.5ディオプトリ以下であれば、像のボケをそれほど知覚せずに明瞭な視覚が得られる。このため、累進多焦点レンズ1においては、非点収差が1.0ディオプトリあるいは望ましくは0.5ディオプトリ以下となる比較的広い明視域21を、眼の動く範囲の大きな遠用部11に配置している。さらに、遠用部11から近用部12に向かって、目の輻輳を加味して若干鼻側に曲がって延びた主注視線14の近傍で、x方向およびy方向の曲率差をほとんど0とすることによって、この主注視線14に沿って必要な明視域を確保している。そして、このようなレンズ1を眼鏡のフレームに合わせた形状に玉型加工して眼鏡用レンズ9を形成し、ユーザーに提供している。
累進多焦点レンズなどの多焦点レンズにおいては、視力の補正対象となる度数が大きいほど像の揺れや歪みが発生しやすい。さらに、遠用部と近用部の屈折力の差を示す加入度Addが大きいと、遠用部と近用部の曲率差が大きく異なるので像の揺れや歪みがさらに大きくなる。累進多焦点レンズにおいては、累進屈折面の非球面化が進むのでレンズに現れる非点収差も大きなものになり、明視域が狭くなる。また、非点収差の大きく変動する領域では、視線の移動によって像が歪んだり揺れたりするので、快適な視野が得られない。このため、累進屈折面の形状を改良し、非点収差が大きく現れる領域を通常使用するレンズの領域から外したり、急激な非点収差の変動を防止してユーザーに快適な視野を提供するべく累進屈折面が改良されている。
さらに、多焦点レンズにおいては、遠用部と近用部の屈折力(パワー)の違いによって倍率が異なり、これによっても像のゆれや歪みが発生する。すなわち、遠用部11は遠方に焦点が合うような屈折力を備えており、一方、近用部12は近傍に焦点が合うように遠用部11と異なる屈折力を備えている。従って、倍率も同じにならず、累進部13を設けた場合には、累進部において倍率が徐々に変動するので、眼鏡を装着したときに得られる像が揺れたり歪んだりする原因となっている。
そこで、本発明においては、コンピュータの計算能力を活かした累進面の設計などによってほぼ限界まで非点収差の改善が行われている累進多焦点レンズあるいはバイフォーカルレンズといった多焦点レンズに対し、さらに揺れや歪みを抑制し、より快適な視野が得られる多焦点レンズおよび眼鏡レンズを提供することを目的としている。すなわち、本発明においては、現状の累進屈折面で得られる限界よりもさらに非点収差を改善できる多焦点レンズおよび眼鏡レンズを提供することを目的としている。また、視力を補正するための屈折力を持ちながら倍率の差を改善でき、倍率差に伴う像の揺れや歪みを低減できる多焦点レンズおよび眼鏡レンズを提供することを目的としている。
発明の開示
上述したように、従来の眼鏡用の多焦点レンズにおいては、屈折力の異なる2つの視野部分を形成するために、例えば、第1の視野部分として遠方に焦点を合わせやすい視野を形成するための平均面屈折力を物体側の面に与えて遠用部を形成し、さらに、第2の視野部分として近傍に焦点を合わせやすい視野を形成するために遠用部の平均面屈折力に対し加入度を加えた平均面屈折力を物体側の面に与えて近用部を形成している。これに対し、本発明においては、物体側の面の第2の視野部分である近用部の平均面屈折力が、第1の視野部分である遠用部の平均面屈折力に加入度を加えた値に達しない、すなわち、物体側の面の遠用部の平均面屈折力と近用部の平均面屈折力の差を加入度より数学的に小さな値にするという、上述した従来の眼鏡用の多焦点レンズの設計方針と全く異なる設計方針によって製造された眼鏡用多焦点レンズを提供するようにしている。さらに、本発明の眼鏡用多焦点レンズにおいては、眼球側の面の第1の視野部分である遠用部の平均面屈折力、および第2の視野部分である近用部の平均面屈折力を制御することにより、レンズ全体としては、所定の加入度を備えた眼鏡用多焦点レンズを提供できるようにしている。
すなわち、本発明の屈折力の異なる第1および第2の視野部分を有する眼鏡用多焦点レンズは、第2の視野部分の屈折力から第1の視野部分の屈折力を引いた値を加入度Addとしたときに、物体側の面の第1の視野部分の平均面屈折力D11および第2の視野部分の平均面屈折力D12と、眼球側の面の第1の視野部分の平均面屈折力D21および第2の視野部分の平均面屈折力D22とが次の関係を満たすことを特徴としている。
−(L・n/t)Add<D12−D11<Add ・・(1)
D21−D22=Add−(D12−D11) ・・(2)
ただし、Lはメートル(m)を単位とする頂間距離であり、tもメートル(m)を単位とする眼鏡用多焦点レンズの中心厚であり、さらに、nは眼鏡用多焦点レンズの屈折率である。本発明の眼鏡用多焦点レンズには、バイフォーカルレンズの様な多焦点レンズはもちろん、第1および第2の視野部分の間で屈折力が累進的に変化する累進部を有する累進多焦点レンズも含まれている。従って、本発明の累進多焦点レンズには、物体側の面および眼球側の面の両面に累進屈折面を備えた多焦点レンズも含まれる。
このような従来と異なる設計方針の本発明の眼鏡用多焦点レンズによって、遠用部と近用部の倍率差を軽減でき、また、収差性能を従来にも増して改善できるので、像の揺れや歪みの少ない眼鏡用多焦点レンズおよびこれを玉型加工した眼鏡レンズを提供することが可能になる。
まず、遠用部と近用部の倍率差について説明すると、レンズの倍率SMは、一般的に次の式で表される。
SM=Mp×Ms ・・・(3)
ここで、Mpはパワー・ファクター、また、Msはシェープ・ファクターと呼ばれる。レンズの眼球側の面の頂点(内側頂点)から眼球までの距離を頂間距離L、内側頂点の屈折力(内側頂点屈折力)をPo、レンズ中心の厚みをt、レンズの屈折率をn、レンズの物体側の面の面屈折力(ベースカーブ)をPbとすると以下のように表される。
Mp=1/(1−L×Po) ・・・(4)
Ms=1/(1−(t×Pb)/n) ・・・(5)
なお、式(4)および(5)の計算にあたっては、内側頂点屈折力Poおよび物体側の面の面屈折力Pbについてはディオプトリ(D)を、また、距離Lおよび厚みtについてはメートル(m)を用いる。これらの式から判るように、多焦点レンズにおいては、遠用部と近用部で屈折力Poが異なるので遠用部の倍率SM1および近用部の倍率SM2は異なり、この倍率差に応じてユーザーが視覚で捉えられる画像の大きさも変わる。従って、この倍率差も遠用部および近用部で像の揺れや歪みなどが発生する原因となる。
これに対し、本発明の眼鏡用多焦点レンズは、物体側の面の遠用部の平均面屈折力D11と近用部の平均面屈折力D12の差が加入度Add未満となるようにした、平均面屈折力D12およびD11を制御できる多焦点レンズである。このため、式(5)で表されるシェープ・ファクターMsを調整することが可能となる。従って、式(4)で表されるパワー・ファクターMpによる倍率差を低減することが可能であり、遠用部および近用部の倍率差を軽減することができる。一方、遠用部および近用部において視力の補正に寄与するのは内側頂点屈折力Poであり、物体側の面の近用部の平均面屈折力D12が遠用部の平均面屈折力D11に加入度Addを加えた値に達しない場合でも、本発明の眼鏡用多焦点レンズにおいては、眼球側の面の平均面屈折力D21およびD22によって制御することにより所定の視力補正機能を持った多焦点レンズを提供することが可能である。従って、本発明の多焦点レンズを採用することにより、遠用部と近用部の倍率差を抑制するように物体側の面の平均面屈折力D11およびD12を設定することが可能となり、また、累進部を設けた累進多焦点レンズにおいても累進部における倍率の変動を抑制することができる。このため、倍率の差に起因する像の歪みや揺れを低減できる。
このように、本発明の眼鏡用多焦点レンズは、物体側の面の屈折力のみによって遠用部および近用部の屈折力を調整していた従来の眼鏡用多焦点レンズと比較し、遠用部および近用部の倍率差を縮小することが可能であり、詳しくは後述するが、倍率差を縮小する効果の得られる範囲を考慮すると、上記の式(1)で示す範囲に物体側の平均面屈折力D11およびD12を設定することが望ましい。近用部と遠用部、すなわち、第2および第1の視野部分の物体側の面の平均面屈折力D12およびD11の差が上記の式(1)に達しない範囲でも、第1および第2の視野部分の倍率差を縮小することはできる。しかしながら、上記の式(1)の範囲を下回ると、レンズが厚くなり、また、非点収差も大きくなるので眼鏡用の多焦点レンズとしては実用性が乏しくなる。このため、眼鏡用の多焦点レンズとしては、第2および第1の視野部分の物体側の面の平均面屈折力D12およびD11の差を上記の式(1)の範囲とすることが望ましい。
また、眼球側の面の平均面屈折力D21およびD22は、上記の範囲で設定された平均面屈折力D11およびD12を用いて所定の度数および加入度を満足するような値を決めることができ、眼球側の面の平均面屈折力D21およびD22の関係は上記の式(2)で示すようになる。
さらに、本発明の眼鏡用多焦点レンズは、物体側の面の遠用部の平均面屈折力D11と近用部の平均面屈折力D12の差が加入度Addに達しないようにしてあるので、物体側の近用部と遠用部の平均面屈折力D12およびD11の差を従来の眼鏡用多焦点レンズよりも小さくすることができる。すなわち、本発明の眼鏡用多焦点レンズにおいては、物体側の面の遠用部の平均面屈折力D11および近用部の平均面屈折力D12が次の式(6)の範囲にすることができる。
0<D12−D11<Add ・・・(6)
このような範囲に遠用部および近用部の平均面屈折力D11およびD12を設定することにより、物体側の面の遠用部および近用部の平均面屈折力の差を軽減して、物体側の面の曲率の変化(平均面屈折力の差)を削減できる。そして、加入度Addを実現するための遠用部と近用部の曲率の差をレンズの眼球側の面にも分散できるので、非点収差を従来の多焦点レンズよりもさらに改善することが可能となる。従って、本発明の眼鏡用多焦点レンズにおいては、倍率差を軽減できる効果に加えて、非点収差も改善することができるので、遠用部および近用部、あるいは累進部における像の揺れや歪みがさらに少ない快適な視野を備えた眼鏡用多焦点レンズおよび眼鏡レンズを提供することが可能となる。
このように、従来の眼鏡用多焦点レンズでは物体側の凸面のみの平均面屈折力の違いによって、乱視矯正を目的とする以外の度数や加入度Addなどの視力補正機能を得るようにしていたのに対し、本発明の多焦点レンズにおいては物体側の面および眼球側の面の両面の第1の視野部分(例えば遠用部)および第2の視野部分(例えば近用部)の平均面屈折力をそれぞれ制御することにより所定の加入度Addを得ることができる。従って、双方の面の遠用部と近用部の平均面屈折力の違いを小さくすることが可能であり、これら遠用部および近用部の曲率差を削減し、曲率差に起因して発生する遠用部、近用部、さらには累進部の非点収差を少なくすることができる。従って、度数や加入度といった条件が同一のレンズにおいては、より明視域が広く、視線を移動したときに像の揺れなどの少ない多焦点レンズを提供することができる。
非点収差を少なくして大きな明視域を確保するという点では、平均面屈折力D12から平均面屈折力D11を引いた物体側の面の平均面屈折力の差DD1が、平均面屈折力D21から平均面屈折力D22を引いた眼球側の面の平均面屈折力の差DD2にほぼ等しくなることを目指して平均面屈折力D11、D12、D21およびD22を設定することが望ましい。平均面屈折力の差DD1およびDD2を同じ程度に設定することにより、物体側の面で発生する非点収差および眼球側の面で発生する非点収差を共に小さくできる。本願発明者が種々の設計を行ってみたところ、一方の面に非点収差が集中した従来のレンズと比較し、本発明のレンズのように両方の面に非点収差を分散した方が、これらの面を合成して得られるレンズ全体としての非点収差については小さくなることが確認できた。
また、本発明の多焦点レンズにおいては、物体側の面の遠用部の平均面屈折力D11と、近用部の平均面屈折力D12を同じ値にすることができる。すなわち、遠用部の平均面屈折力D11と近用部の平均面屈折力D12が次の式(7)を満足する場合は、物体側の面を球面などの製造の容易な面で成形することができるので、遠用部と近用部で倍率差の少ない本発明の多焦点レンズを短時間で安価に提供することが可能になる。従って、ユーザー個々の条件にマッチしたカスタマイズされた眼鏡レンズを提供するのに適している。
D12−D11=0 ・・・(7)
さらに、本発明の眼鏡用多焦点レンズにおいては、第1および第2の視野部分の物体側の面の平均面屈折力D11およびD12と、眼球側の面の平均面屈折力D21およびD22を制御することが可能なので、遠用部と近用部、すなわち、第1の視野部分と第2の視野部分の倍率がほぼ等しくなるよう、あるいは、裸眼との倍率差が少なくなるように各々の平均面屈折力を設定し、眼鏡を使用するユーザーの視覚に係る負担をさらに少なくすることが可能である。このような場合は、平均面屈折力D11およびD12を第1および第2の視野部分、遠用部と近用部の倍率が等しくなるように、あるいは裸眼の倍率である1に近づくように選択すれば良い。例えば、近用部および遠用部の倍率を裸眼の倍率と等しくなるようにするには、(3)式にもとづき、遠用部の倍率SM1および近用部の倍率SM2が次の関係に近づけるようにすれば良い。
SM1 =SM2 =1
Mp1×Ms1=Mp2×Ms2=1 ・・・(8)
このように、本発明の多焦点レンズは、物体側の面および眼球側の面の双方の第1および第2の視野部分の面屈折力を調整することにより、第1および第2の視野部分の非点収差および倍率差を低減することができる。従って、単一の累進屈折面の性能を向上することにより非点収差を改善し光学的性能を向上させた従来の累進多焦点レンズの限界を越えて、さらに像のゆれ・ゆがみが低減された累進多焦点レンズおよび眼鏡レンズを提供することができ、ユーザーにいっそう快適な視野を提供することができる。特に、加入度の大きな累進多焦点レンズにおいては、ゆれ・ゆがみを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の第1の実施の形態の累進多焦点レンズの概略構成を示す図であり、図1(a)は概略構成を示す平面図であり、図1(b)は主注視線に沿った断面図である。
図2は、図1に示す累進多焦点レンズの物体側および眼球側の面の収差図である。
図3は、図1に示す累進多焦点レンズ全体の収差図である。
図4は、本発明の第2の実施の形態の累進多焦点レンズの概略構成を示す図であり、図4(a)は概略構成を示す平面図であり、図4(b)は主注視線に沿った断面図である。
図5は、図4に示す累進多焦点レンズの物体側および眼球側の面の収差図である。
図6は、図4に示す累進多焦点レンズにトーリック面としての要素を付加した累進多焦点レンズの概要を示す図であり、図6(a)は正面図、図6(b)は主注視線に沿った断面図である。
図7は、図6に示す累進多焦点レンズの非点収差を示す図である。
図8は、図6に示す累進多焦点レンズの主注視線に沿った非点収差の変化を、他の方式でトーリック面を加算した多焦点レンズの主注視線に沿った非点収差の変化と対比して示すグラフである。
図9は、本発明の第3の実施の形態の累進多焦点レンズの概略構成を示す図であり、図9(a)は概略構成を示す平面図であり、図9(b)は主注視線に沿った断面図である。
図10は、本発明の第3の実施の形態の累進多焦点レンズの異なった例を示す図であり、図10(a)は概略構成を示す平面図であり、図10(b)は主注視線に沿った断面図である。
図11は、従来の累進多焦点レンズの概略構成を示す図であり、図11(a)は概略構成を示す平面図であり、図11(b)は主注視線に沿った断面図である。
図12は図11に示す累進多焦点レンズの収差図である。
発明を実施するための最良の形態
〔第1の実施の形態〕
以下に実施の形態を示す図面を参照しながら本発明をさらに詳しく説明する。図1に、本発明の多焦点レンズの例として物体側の面2および眼球側の面3にそれぞれ累進屈折面5aおよび5bを設けた累進多焦点レンズ10を示してある。本例の累進多焦点レンズ10は、図11に示した従来の累進多焦点レンズと同様に、上方に遠距離の物を見るための視野部分である遠用部11が設けられ、下方に遠用部11と異なる屈折力を備えた近距離の物をみるための視野部分が近用部12として設けられ、さらに、これら遠用部11と近用部12が連続的に屈折力が変化する累進部13によって連絡された累進多焦点レンズである。図1(b)に示してあるように、本例の累進多焦点レンズ10は、物体側の遠用部11の平均面屈折力D11が4.00D、近用部12の平均面屈折力D12が5.50D、眼球側の遠用部11の平均面屈折力D21が4.00Dおよび近用部の平均面屈折力D22が2.50Dに設定され、遠用部11に対する近用部12の加入度Addが3.00Dの多焦点レンズである。従って、本例の累進多焦点レンズ10は、物体側の面の遠用部11の平均面屈折力D11と近用部12の平均面屈折力D12の差が加入度Addに達しない本発明に係る多焦点レンズである。さらに、本例の累進多焦点レンズ10は、遠用部11の屈折力が0.00Dで加入度Addが3.00Dなので、図11に示した従来の累進多焦点レンズ1と同様の視力補正機能を備えたレンズである。
本例の累進多焦点レンズ10の遠用部11および近用部12の倍率は、上述した式(3)、(4)および(5)を遠用部11および近用部12に当てはめて、それぞれの視野部分の倍率SM1およびSM2を求めると次のようになる。まず、遠用部11の倍率SM1は以下のように表される。
SM1=Mp1×Ms1 ・・・(9)
ここで、Mp1は遠用部のパワー・ファクター、Ms1は遠用部のシェープ・ファクターであり、面屈折力Pbが物体側の面2の平均面屈折力D11で現されることを考慮すると次のようにようになる。
Mp1=1/(1−L×Po) ・・・(10)
Ms1=1/(1−(t/n)×D11) ・・・(11)
同様に、近用部12の倍率SM2は次のように表される。
SM2=Mp2×Ms2 ・・・(12)
Mp2=1/(1−L×(Po+Add)) ・・・(13)
Ms1=1/(1−(t/n)×D12) ・・・(14)
ここで、Mp2は近用部のパワー・ファクター、Ms2は近用部のシェープ・ファクターであり、面屈折力Pbが物体側の面2の平均面屈折力D12で現され、さらに、近用部12の屈折力は遠用部11の屈折力に加入度Addを加えた値となる。
頂間距離Lが15.0mm(0.0150m)、中心厚tが3.0mm(0.0030m)、さらに、屈折率nが1.662とすると、本例の累進多焦点レンズ10においては、内側頂点屈折力Poが0.0D、加入度Addが3.00D、遠用部の平均面屈折力D11が4.00D、さらに、近用部の平均面屈折力D12が5.50Dであるので、それぞれの倍率SM1およびSM2、および倍率差は次のようになる。
SM1=1.007、SM2=1.058、
SM2−SM1=0.051 ・・・(15)
これに対し、図11に示した従来の累進多焦点レンズ1においては、近用部の平均面屈折力D12が7.00Dになるので、それぞれの倍率SM1およびSM2、および倍率差は次のようになる。
SM1=1.007、SM2=1.061、
SM2−SM1=0.054 ・・・(16)
このように、本例の累進多焦点レンズ10においては、従来よりも遠用部11と近用部12の倍率差が6%程度緩和されており、より像の歪みや揺れの少ない視野をユーザーに提供することができことが判る。このように上述した本例の累進多焦点レンズ10は、従来のレンズ1と比較し、遠用部11と近用部12の倍率差が削減されており揺れの少ない快適な視野を提供することができる。
本発明の多焦点レンズにおいては、遠用部11と近用部12の倍率差を軽減できる範囲を検討すると次のようになる。例えば、遠用部11と近用部12の倍率差をなくすことを考えると上記の式(9)および(12)から次のようになる。
Mp1×Ms1=Mp2×Ms2 ・・・(17)
式(10)、(11)、(13)および(14)を代入して変形すると次のようになる。
(1−L×Po)・(1−(t/n)×D11)
=(1−L×(Po+Add))・(1−(t/n)×D12) ・・・(18)
さらに、式(18)の頂間距離Lおよびt/nは小数点以下2位または3位の係数であるので、展開して得られる2次の項を無視(削除)すると倍率差のほぼ等しい遠用部および近用部が得られる平均面屈折力の差DD1(=D12−D11)は近似的に次のようになる。
D12−D11=−(L・n/t)×Add ・・・(19)
さらに、従来の多焦点レンズにおいては、遠用部11の平均面屈折力D11と近用部12の平均面屈折力D12の差DD1と加入度Addとの関係は上述したように次の関係を満たす。
D12−D11=Add ・・・(20)
従って、次の式(1)で表す本発明の多焦点レンズにおいては平均面屈折力の差DD1が式(19)および式(20)の間となるので、従来の多焦点レンズよりも倍率差の少ない多焦点レンズを提供できることが判る。
−(L・n/t)Add<D12−D11<Add ・・(1)
すなわち、物体側の面の遠用部の平均面屈折力D11および近用部の平均面屈折力D12が上記の式(1)の条件の範囲内で従来よりも倍率差が少なく、それに伴う像の揺れや歪みの少ない多焦点レンズを提供することが可能になる。近用部の平均面屈折力D12と遠用部の平均面屈折力D11との差が上記の式(1)よりも小さな範囲、すなわち、上記の式(1)の下限に達しない範囲においても、従来の多焦点眼鏡レンズと比較し遠用部と近用部との倍率差を小さくできる。しかしながら、平均面屈折力D12とD11との差が上記の式(1)の範囲を下回ると、レンズが厚肉となると共に非点収差も大きくなるので、眼鏡用の多焦点レンズとしては実用性に乏しくなる。
また、眼球側の面の遠用部11の平均面屈折力D21および近用部12の平均面屈折力D22は、式(1)の範囲内で設定された平均面屈折力D11およびD12を用いて所定の度数および加入度を満足するように決定することができ、眼球側の面の平均面屈折力D21およびD22の関係は下記の式(2)で示すようになる。
D21−D22=Add−(D12−D11) ・・(2)
ただし、上記式(1)および(2)において、Lはメートル(m)を単位とする頂間距離であり、tもメートル(m)を単位とする眼鏡用多焦点レンズの中心厚であり、nは眼鏡用多焦点レンズの屈折率である。
さらに、本発明の多焦点レンズにおいては、物体側の面の平均面屈折力D11およびD12を次の式(6)の範囲とすることにより、遠用部の平均面屈折力D11および近用部の平均面屈折力D12との差DD1を従来の累進多焦点レンズよりも小さくできる。このため、物体側の面2の非点収差特性を改善することが可能となる。
0<D12−D11<Add ・・・(6)
この範囲に平均面屈折力D11およびD12を設定することにより、物体側の面の平均屈折力の差DD1を加入度Addより小さくでき、さらに、式(2)から判るように眼球側の面の近用部12の平均面屈折力D22と遠用部11の平均面屈折力D21の差DD2も加入度Addより小さくできる。従って、多焦点レンズ10全体としての非点収差特性を改善することが可能であり、倍率差により像の揺れや歪みと共に非点収差による像の揺れや歪みも低減することができ、明視域が広くいっそう快適な視野の得られる多焦点レンズを提供することができる。
図1に示した本例の累進多焦点レンズ10は、上記式(6)の範囲に含まれる累進多焦点レンズであり、さらに、物体側の面2の平均面屈折力の差DD1と、眼球側の面3の平均面屈折力の差DD2が等しい例を示してある。図2に、本例の累進多焦点レンズ10の物体側の面2および眼球側の面3で得られる非点収差図を示してある。本例の累進多焦点レンズ10は、物体側の面2および眼球側の面3におけるそれぞれの遠用部11と近用部12の平均面屈折力の差DD1およびDD2はいずれも1.50Dであり、累進部13における曲率の変化をほぼ同様に設定することによりほとんど同じ非点収差図を得ることができる。そして、物体側の面2の平均面屈折力の差DD1(=D12−D11)と、眼球側の面3の平均面屈折力の差DD2(=D21−D22)がいずれも1.50Dと、従来の累進多焦点レンズ1の平均面屈折力の差3.00Dの半分になっている。このため、図2に示すように物体側の面2および眼球側の面3で発生する非点収差も非常に小さくなる。
図3に、本例の累進多焦点レンズ10として得られる非点収差を示してある。図3に示した非点収差は、物体側の面2および眼球側の面3のそれぞれで発生する非点収差を合成したものである。図3に示した本発明の累進多焦点レンズの収差図と、図12に示した従来の累進多焦点レンズ1の収差図を比較すると判るように、本例の累進多焦点レンズ10においては、非点収差1.0Dを示すラインが近用部12の方向に下がっており、遠用部11における明視域が広がっている。さらに、近用部12の非点収差1.0Dを示すラインの位置も従来の累進多焦点レンズ1より左右に広がっており、近用部12においても明視域が広がっていることが判る。また、非点収差1.5D等を示すラインの位置を比較すると判るように、本例の累進多焦点レンズ10の非点収差の値は、従来の累進多焦点レンズ1の同じ場所の非点収差よりも小さくなっており、レンズ全体にわたって非点収差が小さくなっている。さらに、等しい非点収差の場所を繋いだラインの間隔も本例の累進多焦点レンズ10の方が広くなっており非点収差の変動も少なくなっていることが判る。このように、本例の累進多焦点レンズ10は、従来の累進多焦点レンズ1よりも非点収差の分布を比較すると全ての面で改善されている。従って、本例の累進多焦点レンズ10を眼鏡フレームの形状に合わせて玉型加工することにより、いっそう広く明るい視野と、揺れや歪みの少ない像をユーザーに対し提供可能な眼鏡レンズ9を製造し供給することができる。
本例の累進多焦点レンズ10は、物体側の面の平均面屈折力の差DD1と、眼球側の面の平均屈折力の差DD2と同じに設定されており、物体側の面2および眼球側の面3における曲率差が同一となっている。従って、収差特性として現れる曲率差の負荷が双方の面で同じ程度であるので、物体側の面2と眼球側の面3とを合成した累進多焦点レンズ10としては最も収差特性の改善可能な条件であると考えられる。
本例の累進多焦点レンズに限らず、上記の式(6)に示される範囲であれば平均面屈折力の差DD1およびDD2が異なっている累進多焦点レンズにおいて収差特性を改善できることはもちろんである。物体側の面の平均面屈折力の差DD1が加入度Addに一致していた従来の累進多焦点レンズ1と比較すると、本発明に係る累進多焦点レンズ10においては、眼球側の面の平均面屈折力の差DD2を設けることにより、物体側の平均面屈折力の差DD1を従来よりも低減することが可能であり、これによって非点収差を抑制することができる。眼球側の面に平均面屈折力の差DD2を設けることにより眼球側の面2に非点収差が発生する。しかしながら、物体側の面の負担を低減することにより、一方の面の非点収差を改善できる効果が大きく累進多焦点レンズ10全体として非点収差を改善できることは上記に示した通りである。従って、若干でも眼球側の面の平均面屈折力の差DD2を設定し、眼球側の面の平均面屈折力D21およびD22に違いを設けることにより、上記の式(6)に示される関係の物体側の面の平均面屈折力D11およびD12を得ることができ、累進多焦点レンズ10の非点収差を改善することができる。もちろん、式(6)の範囲内には、眼球側の面の平均面屈折力の差DD2が物体側の面の平均面屈折力の差DD1より大きな多焦点レンズも含まれており、このような多焦点レンズにおいても、物体側の面の平均面屈折力に差を設けることにより、さらに良好な非点収差特性を得ることができる。このように、本例の累進多焦点レンズ10は、双方の面の平均面屈折力の差DD1およびDD2を同じに設定することにより、平均的に良好な非点収差特性を備えた2つの面を形成し、これらによってレンズ全体の非点収差を大幅に改善できるようにしている。
このように、本例の累進多焦点レンズ10は、遠用部11および近用部12の倍率差を小さくできると共に、非点収差特性も改善することが可能であり、像の揺れや歪みを抑制し、広い明視域を得ることができる。従って、本例の累進多焦点レンズによって、より快適な視野を提供することができる。
〔第2の実施の形態〕
図4に、本発明の異なった累進多焦点レンズの例を示してある。本例の累進多焦点レンズ10も上方に遠距離の物を見るための視野部分である遠用部11が設けられ、下方に近距離の物をみるために遠用部11と異なる屈折力を備えた視野部分が近用部12として設けられている。また、これら遠用部11と近用部12を連続的に屈折力が変化する累進部13によって滑らかに連絡されている。本例の累進多焦点レンズ10は、物体側の面2の遠用部11の平均面屈折力D11が4.00D、近用部12の平均面屈折力D12が4.00Dであり、また、眼球側の面3の遠用部11の平均面屈折力D21が6.00D、近用部12の平均面屈折力D22が4.00Dであり、加入度数Addが2.00Dに設定されている。また、遠用部11の球面屈折力Sは−2.00Dで、レンズの中心厚さtが3.0mm、レンズ径dが70.0mmとなっている。このような条件で、図5に示すような非点収差を持った累進多焦点レンズ10を得ることができる。
上記にして説明した式(3)、(4)および(5)によって本例の累進多焦点レンズ10の遠用部11と近用部12との倍率差を求めると次のようになる。
SM1=0.976、SM2=1.007、
SM2−SM1=0.031 ・・(15’)
また、本例の累進多焦点レンズ10は、物体側の面2に2.00Dの加入度Addが付加された従来の設計では、物体側の面2の遠用部の平均面屈折力D11が4.00D、近用部の平均面屈折力D12が6.00D、眼球側の面3の遠用部および近用部の平均面屈折力D21およびD22が共に6.00Dのレンズに相当する。従って、本例のレンズに相当する従来の累進多焦点レンズの遠用部および近用部の倍率差を求めると次のようになる。
SM1=0.976、SM2=1.011、
SM2−SM1=0.035 ・・(16’)
従って、本例の累進多焦点レンズ10においては、遠近の倍率差が従来の12〜13%程度改善できていることが判る。このように倍率差が縮小されることにより、本例の累進多焦点レンズ10においては、倍率差に起因して累進多焦点レンズに起きる像の揺れや歪みを従来にも増して改善することが可能になる。このため、本例の累進多焦点レンズ10を眼鏡フレームに合わせて玉型加工することにより、明るく、揺れや歪みが大幅に改善された眼鏡レンズ9を提供することができる。
さらに、本例の累進多焦点レンズ10では、物体側の面2の遠用部11の平均面屈折力D11と、近用部12の平均面屈折力D12を等しく設定してある。すなわち、遠用部11の平均面屈折力D11と、近用部12の平均面屈折力D12が次の式(7)を満足している。
D12−D11=0 ・・・(7)
このため、物体側の面2を球面などの極めて簡単な曲面で構成することが可能であり、製造が簡単に行えるので短期間で安価に提供することができる。従って、本例の累進多焦点レンズ10を採用することにより、ユーザー個々の仕様に合わせた眼鏡レンズで、遠用部および近用部の倍率差が少なく、像の揺れや歪みの少ない快適な視野が得られる眼鏡レンズを安価に提供することができる。
なお、上記では、乱視矯正を行わない累進多焦点レンズを例に本発明を説明しているが、眼球側の屈折面3に乱視を矯正するためのトーリック面を設けることももちろん可能である。図6に上述した累進多焦点レンズ10の眼球側の面2に乱視矯正のためのトーリック面6の特性を付加した累進多焦点レンズ10を示してある。本例の累進多焦点レンズ10は、乱視軸が90度で、球面屈折力Sが−2.00D、円柱屈折力Cが−2.00Dのトーリック面の特性が付加された累進多焦点レンズであり、眼球側の面3の遠用部11の平均面屈折力D21が6.00D、近用部12の平均面屈折力D22が4.00Dという累進屈折面と、トーリック面を合成するために次の合成式(21)を用い眼球側の面2のz座標の値Zを求めている。
Figure 0003800629
上記の合成式(21)においては、眼鏡装用状態で物体側から眼球側に累進屈折面の中心を通る軸をz軸、下方から上方に向かいz軸に直交する軸をy軸、左から右に向かいz軸に直交する軸をx軸とし、XおよびYは、それぞれ眼球側の面のxおよびy座標の任意の点の座標を示し、Zは眼球側の面の垂直方向のz座標を示しいる。また、曲率Cpは、トーリック面の特性を付加していないオリジナルの累進屈折面の任意の点p(X,Y,Z)における近似曲率であり、曲率Cxは乱視矯正用のトーリック面のx方向の曲率、曲率Cyはy方向の曲率である。なお、本例においては、近似曲率Cpとして半径方向の平均曲率を採用しており、オリジナルの累進屈折面上の任意の点p(X,Y,Z)を含みz軸(レンズ中心または内側頂点(0,0,0)を通る)に垂直なxy平面において、点pと回転対称にある点p’(−X,−Y,Z)および内側頂点(0,0,0)の3点を通る円の半径の逆数を用いている。ただし、オリジナルの累進屈折面上の点pが内側頂点に位置するときは、半径方向平均曲率Cpを定義しないで(21)式においてZ=0としている。
上記では、レンズの上下方向(AXIS90度)にトーリック面の球面屈折力を設定した処方を施した場合(すなわち、レンズの左右方向にトーリック面の円柱屈折力を設定した処方を施した場合)を例に示しているが、これに限定されないことはもちろんである。すなわち、xy軸の方向は上述した方向にかぎらず、適当な方向に設定することができ、その座標系で上述した処理を行うことができる。例えば、レンズの左右方向にトーリック面の球面屈折力を設定した処方を施す場合であっても、それに合わせてxy座標のx軸とy軸の方向を上記に示した例に対しそれぞれ左に90度回転させる操作を施すだけで本例の式(21)を用いた合成方法を適用することができる。さらに、レンズの任意の方向(斜めの方向を含む)にトーリック面の球面屈折力を設定した処方を施す場合であってもxy座標のx軸とy軸の方向を上記に示した例に対しそれぞれ左にα度(αは0〜360度の任意の角度)回転させる操作を施すだけで本例の式(21)を用いた合成方法を適用できる。
このような合成式(21)を用いて、乱視矯正特性を付加していないオリジナルの累進屈折面の座標とトーリック面の座標を合成することにより、乱視矯正の能力を備えた本発明の累進多焦点レンズを得ることができる。この乱視矯正の能力を備えた本発明の累進多焦点レンズの収差は図7に示す通りであり、収差特性に関しては、従来の物体側の面2だけに累進面としての特性を付加し眼球側の面3だけにトーリック面としての特性を付加したレンズとほぼ同じ特性を得ることができる。一方、乱視矯正能力を付加していないオリジナルの累進屈折面の座標に、トーリック面の座標を単に加算して眼球側の面3の座標を求めることも可能である。しかしながら、単に加算した座標を用いると図8に破線32で示してあるように主注視線に沿って乱視矯正を目的とした2Dの非点収差が得られてはするが、実線31で示した合成式(21)を用いた場合と比較すると安定した非点収差を確保することが難しい。特に、レンズの周辺部において非点収差の変動が大きく、乱視矯正用の非点収差を確保することが難しくなる。また、非点収差の変動も比較的大きいので、合成式(21)を用いて製造した累進多焦点レンズ10と比較すると主注視線に沿って眼球を動かした際に像が揺れたり歪みやすいことが判る。
これに対し、本例の合成式(21)を用いて形成した乱視矯正用の累進多焦点レンズ10の主注視線14に沿った非点収差の絶対値(黒丸の実線31)は、主注視線のほぼ全域にわたって乱視矯正を目的とした視力補正能力を害することのない2Dの非点収差が非常に安定して確保できている。従って、合成式(21)を用いて眼球側の面3においてオリジナルの累進屈折面とトーリック面とを合成することにより、乱視矯正機能も備えた快適で揺れの少ない視野の確保された累進多焦点レンズを提供できることが判る。
このように、遠用部11の平均面屈折力D21と近用部12の平均面屈折力D22が異なる眼球側の面3に乱視矯正用のトーリック面の曲率を付加することが可能であり、物体側の面2の遠用部11の平均面屈折力D11と近用部12の平均面屈折力D12の差が加入度Addに達しない本発明の多焦点レンズを用いて乱視矯正能力を持った眼鏡用の多焦点レンズを提供することが可能である。従って、本発明により、遠用部11と近用部12の倍率差を少なくでき、像の揺れや歪みが改善された乱視矯正能力を備えた多焦点レンズも提供することが可能である。従って、本発明に基づく眼鏡レンズのラインアップの一環として乱視矯正を目的とした眼鏡レンズも含めることが可能であり、乱視の有無も含めた全てのユーザーに対していっそう快適な視野の得られる眼鏡レンズを提供することができる。
〔第3の実施の形態〕
本発明の多焦点レンズを採用することにより上述したように遠用部11と近用部12の倍率差の少ない眼鏡レンズをユーザーに提供することが可能である。本発明においては、さらに、遠用部11と近用部12の倍率差がほとんどない、遠用部11と近用部12の倍率SM1とSM2がほぼ同じ多焦点レンズを提供することも可能である。図9に、その一例を示してある。図9に示した累進多焦点レンズ10は、主な構成は上述した累進多焦点レンズとほぼ同じであり、遠用部11の屈折力Poが−3.00D、加入度Addが1.00D、物体側の遠用部の面の平均面屈折力D11が8.00Dおよび眼球側の面の遠用部の平均面屈折力D21が11.00Dの累進多焦点レンズである。本例の累進多焦点レンズ10の頂間距離Lは15.0mm(0.0150m)、中心厚tは3.0mm(0.0030m)、屈折率nが1.662であり、さらに、物体側の面の近用部の平均面屈折力D12を0.00D、眼球側の面の近用部の平均面屈折力D22を2.00Dとしてある。従って、本例の累進多焦点レンズ10は、上述した式(1)の条件を満足する多焦点レンズである。
本例の累進多焦点レンズ10の遠用部11と近用部12との倍率差を求めると次のようになる。
SM1=0.97、SM2=0.97、
SM2−SM1=0.00 ・・(15'')
従って、本例の多焦点レンズ10は、遠用部11と近用部12の倍率が等しい累進多焦点レンズであり、この多焦点レンズを用いることにより、倍率差による揺れや歪みのない眼鏡レンズを提供することができる。
さらに、本発明の多焦点レンズにおいては、遠用部11および近用部12の倍率を裸眼の倍率である1に近づけることも可能である。上述した式(9)および(12)において遠用部の倍率SM1および近用部の倍率SM2が1を満たすように、本発明の範囲内、すなわち、上述した式(1)の範囲内で、それぞれの平均面屈折力D11、D12、D21およびD22を決定することが可能である。例えば、上記の累進多焦点レンズ10においては、物体側の面の遠用部の平均面屈折力D11を24.00D、近用部の平均面屈折力D12を15.70D、さらに、眼球側の面の遠用部の平均面屈折力D21を27.00D、近用部の平均面屈折力D22を17.70Dに設定することにより、遠用部の倍率SM1および近用部の倍率SM2が裸眼と同じ倍率1.00の多焦点レンズを提供することができる。
遠用部11の屈折力Poの絶対値が小さな多焦点レンズにおいては比較的実現し易い形状として遠用部11および近用部12が裸眼の倍率1となった多焦点レンズを提供することができる。図10に示した多焦点レンズ10は、遠用部11の屈折力Poが−1.50D、加入度Addが1.00D、物体側の遠用部の面の平均面屈折力D11が11.00Dおよび眼球側の面の遠用部の平均面屈折力D21が12.50Dの累進多焦点レンズである。この多焦点レンズ10において、頂間距離L、中心厚tおよび屈折率nが上述した条件と同じであるとすると、物体側の面の近用部の平均面屈折力D12を3.00D、眼球側の面の近用部の平均面屈折力D22を3.50Dとすることにより、遠用部の倍率SM1および近用部の倍率SM2が裸眼と同じ倍率1.00の多焦点レンズを実現することができる。累進多焦点レンズにおいては、このようにして求められた平均面屈折力を満足するように累進屈折面を備えた累進部によって遠用部および近用部を連絡することにより、累進的に屈折力が変わりながら倍率の変動の非常に少ない累進多焦点レンズを提供することができる。
なお、上記においては、累進多焦点レンズに基づき本発明を説明しているが、累進部を備えていないバイフォーカルレンズにおいても同様に倍率差が少なく像の揺れの少ない眼鏡用レンズを提供することができる。また、物体側の平均面屈折力の差を従来のレンズより小さくできるので遠近の境も緩やかとなり、境目の目立たないバイフォーカルレンズを提供することができる。さらに、上記では、遠用部および近用部の2種類の距離に焦点を合わせる視野領域を備えた眼鏡レンズを例に説明しているが、さらに、第3、あるいはそれ以上の屈折力の異なる視野領域を備えた多焦点レンズおよび眼鏡レンズに対しても本発明を適用できることはもちろんである。また、上述したレンズに限らず、本発明の多焦点レンズおよび眼鏡レンズの眼球側の面に乱視を矯正するトーリック面の要素を付加できることはもちろんである。
以上に説明したように、本発明においては、眼鏡用の多焦点レンズにおいて、従来の眼鏡用多焦点レンズの設計方針と異なり、物体側の面の遠用部の平均面屈折力と近用部の平均面屈折力の差を加入度より小さくなるようにしている。そして、眼球側の面の遠用部の平均面屈折力と近用部の平均面屈折力によってレンズ全体としては、所定の加入度を備えた眼鏡用多焦点レンズを提供できるようにしている。これにより、乱視以外の視力を補正するための光学的特性を物体側の面および眼球側の面の双方に付加することができるので、視力を補正するための光学的特性を物体側の面だけに付加していた従来の眼鏡用の多焦点レンズと比較し、物体側の面の平均面屈折力の差を低減して非点収差をさらに改善することが可能である。また、倍率に大きな影響をもつ物体側の面の平均面屈折力を、眼球側の面の平均屈折力との組み合わせで自由に設定することが可能になり、第1および第2の視野部分の倍率差を低減することも可能になる。その結果、例えば、遠用部と近用部の倍率差をほとんどなくしたり、あるいは、裸眼と同じ倍率の遠用部および近用部を形成することも可能になる。また、倍率差をなくすことができなくとも、本発明により、遠用部と近用部との倍率差を従来の多焦点眼鏡レンズよりも大幅に改善することが可能となる。
このように、本発明により、倍率差を低減可能であると共に、非点収差性能も改善できる眼鏡用多焦点レンズを提供することが可能である。従って、本発明の眼鏡用多焦点レンズを用いることにより、より広い明視域と揺れや歪みなどの少ない快適な視野をユーザーが得られる眼鏡レンズを提供することができる。
産業上の利用可能性
本発明は、眼鏡レンズとして用いられる多焦点レンズに関するものであり、本発明により遠用部と近用部の倍率差が少なく像の揺れや歪みの少ない眼鏡レンズを提供することが可能であり、さらに、非点収差性能の改善も可能な眼鏡レンズを提供することができる。

Claims (4)

  1. 屈折力の異なる第1および第2の視野部分を有する眼鏡用多焦点レンズにおいて、
    前記第2の視野部分の屈折力から前記第1の視野部分の屈折力を引いた値を加入度Addとしたときに、物体側の面の前記第1の視野部分の平均面屈折力D11および第2の視野部分の平均面屈折力D12と、眼球側の面の前記第1の視野部分の平均面屈折力D21および第2の視野部分の平均面屈折力D22とが次の関係を満たすことを特徴とする眼鏡用多焦点レンズ。
    −(L・n/t)Add<D12−D11<Add ・・(A)
    D21−D22=Add−(D12−D11) ・・(B)
    ただし、前記Lは頂間距離(m)、前記tは前記眼鏡用多焦点レンズの中心厚(m)、前記nは前記眼鏡用多焦点レンズの屈折率、D12−D11≠0である。
  2. 請求項1において、前記平均面屈折力D11および前記平均面屈折力D12が次の関係を満たすことを特徴とする眼鏡用多焦点レンズ。
    0<D12−D11<Add ・・・(C)
  3. 請求項1において、前記第1および第2の視野部分の間で屈折力が累進的に変化する累進部を有することを特徴とする眼鏡用多焦点レンズ。
  4. 請求項1に記載の前記眼鏡用多焦点レンズを眼鏡フレームの形状に合わせて玉型加工した眼鏡レンズ。
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