JP3796613B2 - 分散安定化組成物及びそれを用いた分散安定食品 - Google Patents

分散安定化組成物及びそれを用いた分散安定食品 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、目的の被験物に簡便にかつ安定して分散性を付与することのできる組成物に関する。詳細には、本発明は、該組成物を単に溶解した溶液状態では増粘せず、該溶液若しくはその希釈物を用時ホモゲナイズすることにより粘性を発現して分散安定性を発揮する、取扱い性及び操作性に優れた分散安定化組成物に関する。
【0002】
また、本発明は、上記特性を有する分散安定化組成物を用いた分散安定化方法、該組成物により調製される分散安定食品及びその製造法に関する。
【0003】
更に本発明は、発酵セルロースを含有することによってカルシウムが安定して分散されてなるカルシウム強化食品に関する。
【0004】
【従来の技術】
従来から、食品などに分散安定性を付与する目的で各種のゲル化剤が使用されている。これらゲル化剤が有する分散安定作用は、ゲル化剤の増粘作用によるものであり、食品の粘度を上昇させて食品の連続相に不連続相を安定に分散させるものである。これらのゲル化剤は、粉末等の固体状で直接被験物たる食品に添加するといわゆる「ままこ」を生じ易いため、通常は、予め水等に溶解して溶液状にして食品に添加する方法が用いられている。
【0005】
しかしながら、一般にゲル化剤を含有する溶液は、その濃度に比例して粘性が向上しそれ自体がゲル化してしまうという性質を有するため、取扱い性、操作性及び定量性が悪く、ゲル化剤溶液を高濃度の状態で使用することは事実上困難であった。その一方、目的製品の組成に影響を与えることなく、高濃度のゲル化剤を最小量用いて、該製品に分散安定性を付与したいという要求があるのも事実である。
【0006】
このため、従来から、少量の使用で被対象物に分散性を安定に付与することができる組成物であって、取扱い性・操作性に優れる分散安定化組成物の開発が求められていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる事情に鑑みて開発されたもので、単に水溶液に溶解した状態では高濃度含有する場合でも増粘せず取り扱い性、操作性に優れ、所望により用時ホモゲナイズすることによって始めて粘性を発現するという特性を有する分散安定化組成物を提供することを目的とするものである。
【0008】
さらに、本発明は、上記分散安定化組成物を用いる分散安定化方法、分散安定食品及びその調製方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、カルシウムが沈殿することなく食品中に安定して分散してなるカルシウム強化食品を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねていたところ、発酵セルロースに関して、そのカチオン非含有水溶液はその濃度に依存して増粘するのに対して、一価、二価又は三価のカチオンの存在する溶液中では発酵セルロースの濃度に関わらず粘性を発現せずサラサラの溶液として調製されること、更に驚くことに、該サラサラ状態の溶液が、用時ミキシングやホモゲナイズ等の処理をすることにより速やかに粘性を復元することを見出した。
【0011】
さらに本発明者らは、かかる発酵セルロース特有の性質が、目的対象物に安定した分散性を簡便に付与する方法として応用でき、また特にカルシウム強化食品に有用であることを確認して本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、以下項1〜記載の分散安定性組成物である。
【0013】
項1.一価、二価又は三価のいずれかのカチオン含有水溶液中に発酵セルロースを添加配合するか、または前記カチオン及び発酵セルロースを同時に水溶液に配合することにより調製される、液状分散安定化組成物。
【0014】
項2 カチオンが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属に属するものである項1記載の液状分散安定化組成物。
【0015】
項3 カチオンが、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ナトリウム、カリウム及び鉄からなる群から選択されるいずれかである項1記載の液状分散安定化組成物。
【0018】
また本発明は、次の項記載の分散安定方法である。
【0019】
項1乃至3のいずれかに記載の液状分散安定化組成物を被験物に配合し、得られる被験組成物を用時攪拌することを特徴とする被験組成物の分散安定化方法。
【0020】
さらに本発明は、次の項乃至記載の分散安定食品の調製方法である。
【0021】
項1乃至3のいずれかに記載の液状分散安定化組成物と食品原料とを混合し、得られる食品組成物を攪拌する工程を有する分散安定食品の調製方法。
【0022】
上記食品が、カルシウム強化食品、ココア飲料、抹茶入り飲料、野菜又は果汁入り飲料、豆乳飲料、ゼリー入り飲料、しるこドリンク、スープ、みそ汁及び液体調味料からなる群から選択される項記載の分散安定食品の調製方法。
【0023】
食品が、カルシウムが安定して分散してなる食品であって、該食品100重量部あたり、発酵セルロースを0.01〜5重量部、カルシウムを0.01〜1重量部含有することを特徴とするカルシウム強化食品である、項5記載の分散安定食品の調製方法。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明の分散安定化組成物は、発酵セルロース及び一価、二価又は三価のいずれかのカチオンを含むことを特徴とするものである。
【0025】
本発明で用いられる発酵セルロースは、セルロース生産菌が生産するセルロースであれば特に限定されない。通常、セルロース生産菌を既知の方法、例えば特開昭61−212295号公報、特開平3−157402号公報、特開平9−121787号公報に記載される方法に従って培養し、得られる発酵セルロースを所望に応じて適宜精製することによって製造することができる。
【0026】
セルロース生産菌としては、アセトバクター属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属等に属する細菌が挙げられるが、好適にはアセトバクター属である。発酵セルロースを生産するアセトバクター属の細菌として、より具体的には、アセトバクター・パスツリアヌス株(例えば、ATCC10245等)、アセトバクター・エスピーDA株(例えば、FERM P−12924等)、アセトバクター・キシリナム株(例えば、ATCC23768、ATCC23769、ATCC10821、ATCC1306−21等)を挙げることができる。好ましくは、アセトバクター・キシリナム株である。
【0027】
かかるセルロース生産菌を培養する培地及び条件としては、特に制限されず、常法に従うことができる。例えば、培地は、基本的に窒素源、炭素源、水、酸素及びその他の必要な栄養素を含有しており、上記微生物が増殖して目的の発酵セルロースを産生することができるものであればよく、例えばHestrin-Schramm培地を挙げることができる。なお、セルロースの生産性を向上させるために、培地中にセルロースの部分分解物、イノシトール、フイチン酸等を添加することもできる(特開昭56−46759号公報、特開平5−1718号公報)。培養条件としては、例えばpH5〜9、培養温度20〜40℃の範囲が採用され、発酵セルロースが十分産生されるまで培養が続けられる。培養方法は、静置培養、攪拌培養、通気培養のいずれでもよいが、好適には通気攪拌培養である。
【0028】
発酵セルロースを大量生産するためには、多段階接種法が好ましい。この場合、通常、2段階の予備接種プロセス、一次接種発酵プロセス、二次接種発酵プロセス及び最終発酵プロセスからなる5段階の発酵プロセスが採用され、各プロセスで増殖された細菌について細胞の形態およびグラム陰性であることを確認しながら、次プロセスの発酵器に継代される。
【0029】
発酵後、産生された発酵セルロースは培地から分離処理され、洗浄されて、適宜精製される。精製方法は特に制限されないが、通常、培地から回収した発酵セルロースを洗浄後、脱水し、再度水でスラリー化した後に、アルカリ処理によって微生物を除去し、次いで該アルカリ処理によって生じた溶解物を除去する方法が用いられる。具体的には、次の方法が例示される。
【0030】
まず微生物の培養によって得られる培養物を脱水し、固形分約20%のケーキとした後、このケーキを水で再スラリー化して固形分を1から3%にする。これに水酸化ナトリウムを加えて、pH13程度にして攪拌しながら数時間、系を65℃に加熱して、微生物を溶解する。次いで、硫酸でpHを6〜8に調整し、該スラリーを脱水して再度水でスラリー化し、かかる脱水・スラリー化を数回繰り返す。
【0031】
精製された発酵セルロースは、必要に応じて乾燥処理を施すことができる。乾燥処理としては特に制限されることなく、自然乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥、スプレードライ等の公知の方法を用いることができる。好ましくはスプレードライ法である。
【0032】
かくして得られる発酵セルロースは、白色から黄褐色の無臭の物質であり、水に急速に分散できる非常に微細な繊維性粒子からなる。なお、本発明で用いられる発酵セルロースは、上記方法で調製される発酵セルロースと同一若しくは類似の性質を有し、本発明の目的を達成しえるものであれば、その調製方法によって限定されるものではない。
【0033】
また、本発明の発酵セルロースは、特開平9−121787号公報に記載されるように、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ペクチン等の高分子物質の一種もしくは二種以上と複合化していてもよい。
【0034】
また、本発明で用いられるカチオンは、一価、二価または三価のカチオンであれば特に制限されるものではなく、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属イオン、鉄等の三価イオン等が例示される。好ましくはナトリウム又はカリウムといったアルカリ金属イオン、マグネシウム又はカルシウムといったアルカリ土類金属イオンであり、より好ましくは、カルシウム、マグネシウム等の二価のカチオンである。
【0035】
本発明の組成物は、発酵セルロースと組み合わせて、上記カチオンを単独で含有していてもよいしまた上記カチオンを二種以上を組み合わせて含有していてもよい。
【0036】
本発明の組成物に含まれる発酵セルロース及びカチオンの配合割合は、特に制限されないが、通常発酵セルロース0.01〜5重量部に対して、カチオン0.001〜10重量部、好ましくはカチオン0.005〜3重量部、より好ましくはカチオン0.01〜1重量部である。
【0037】
本発明の組成物は、上述する発酵セルロース及びカチオンを含有するものであればその形態によって特に制限されるものではなく、粉末、顆粒等の固体状であっても、水等の溶媒に配合して調製されるような液状であってもよい。
【0038】
その調製方法も特に制限されないが、液状組成物の場合は、あらかじめ一価、二価又は三価のいずれかのカチオンを含有する水溶液を調製しておき、その中に発酵セルロースを添加配合する方法、または前記カチオン及び発酵セルロースを同時に水溶液に添加配合する方法によって調製することが好ましい。
【0039】
使用の態様も特に制限されるものではないが、粉末、顆粒等の固体状組成物の場合は、水等の溶媒に添加、配合して液状物として用いられることが好ましい。
【0040】
液状組成物、または固形状組成物を液状物として調製する場合の、該溶液中に含まれる発酵セルロース及びカチオンの量は、とくに制限されないが、通常、発酵セルロース量として、0.01〜5重量部、好ましくは0.03〜2重量部、より好ましくは0.05〜0.5重量部の範囲を例示することができる。
【0041】
本発明の分散安定化組成物は、溶液の状態にあっては、含有する発酵セルロースの量を増大させても増粘せずサラサラの溶液状態を保持しており、該溶液をそのままもしくは希釈後、用時攪拌処理を施すことにより発酵セルロースの含有量に依存して粘性を発現するという特性を有するものである。このため、本発明の組成物によれば、該組成物の使用量、粘度等に制限されることなく、被験物に対して簡便に所望の分散安定性を付与することができる。
【0042】
すなわち、本発明の液状の分散安定化組成物は、被験物に添加使用する際は、含有する発酵セルロース濃度に関わらず粘性を有しないため取り扱い易く、被験物に配合後、用時攪拌処理するとその発酵セルロースの増粘作用に基づいて、食品を始めとする被験物の粘度を上昇させて、該被験物中に含まれる不連続相を連続相に安定に分散させることができるものである。
【0043】
よって、本発明は、前述する本発明の液状分散安定化組成物を被験物に配合し、得られる被験組成物を用時攪拌処理することを特徴とする、被験組成物の分散安定化方法を提供する。
【0044】
本発明が対象とする被験物としては、液体の連続相にコロイド粒子、液体粒子若しくは固体粒子等の不連続相が混在して存在するものであって、該不連続相が連続相中で安定して分散することが求められるものが挙げられる。このようなものであれば特に制限されないが、具体的には、毛髪化粧料,洗顔料,化粧料,ローション等の香粧品、染料・顔料組成物、セメント等の工業組成物、後述するような食品が例示される。
【0045】
本発明でいう分散には、一般に液体中にコロイド粒子又は固体粒子が分散した状態をいう懸濁、及び液体中に液体粒子がコロイド粒子もしくはそれより粗大な粒子として分散して乳状をなした状態をいう乳濁などが広く包含される。
【0046】
また、攪拌処理とは、攪拌する手段であれば特に制限されることなく一般に採用される方法が広く用いられ、例えば、ミキシング(プロペラ攪拌、ミキサーによる高攪拌等)、ホモゲナイズ、コロイドミル等の処理が挙げられる。好ましくは、約100〜200kg/cm2のホモゲナイズ圧力の範囲でホモゲナイズする方法である。攪拌する際の温度は特に制限されず、通常10〜90℃、好ましくは10〜50℃の温度範囲を採用することができる。
【0047】
本発明の方法において、用いられる液状分散安定化組成物の組成、発酵セルロース及びカチオンの含有量、被験物への配合量等は、特に制限されることなく、被験物の種類、所望される粘度,分散安定性などに応じて適宜選択・調整することができる。
【0048】
発酵セルロースは可食性繊維であることから、上記本発明の方法は、分散安定性が求められる食品に好適に適用される。かかる観点から、本発明は、前述の液状分散安定化組成物と食品原料とを混合し、得られる食品組成物を攪拌処理する工程を有することを特徴とする分散安定食品の調製方法、及びかかる方法によて調製される分散安定食品を提供するものである。
【0049】
分散安定食品としては、食品に、含まれる固体若しくは液体等の不連続相が安定して分散することが要求されるものであれば特に制限されず、例えばココア飲料、カルシウム強化食品、抹茶入り食品、野菜・果物の果汁若しく果肉汁入り食品、豆乳飲料、ゼリー入り飲料、汁粉ドリンクまたは小豆入り飲料、スープ、味噌汁、液体調味料等が例示される。
【0050】
好ましくは、カルシウム強化食品である。なお、カルシウム強化食品とは、通常食品100重量部中、カルシウムを0.09〜3重量部、好ましくは0.09〜1重量部、より好ましくは0.18〜1重量部含むものである。
【0051】
具体的に、このような食品としては、乳飲料、ヨーグルト、プリン、ムース、ババロア、ゼリー、杏仁豆腐、コーヒー、ココア等が例示される。本発明で用いられる分散安定化組成物は、粘性を比較的低く保ったままで高い分散安定性を付与するものであるため、好ましくは、切れの良いあっさりした食感を要する食品である。
【0052】
本発明の分散安定食品は、本発明の液状分散安定化組成物と食品原料とを混合し、得られる食品組成物を攪拌処理する工程を経て調製されるものであれば、特に制限されず、例えば分散安定食品がカルシウム強化コーヒー飲料の場合、コーヒー抽出液、乳原料、カルシウム及び糖類等と共に、本発明の液状分散安定化組成物を添加調合し、ホモゲナイズ処理(例えば、100〜200kg/cm2)することにより、カルシウムが安定して飲料液中に分散してなるコーヒー飲料を調製することができる。
【0053】
食品原料に添加配合する分散安定化組成物の量は、食品の種類、その内容成分、含まれる不連続相の種類や量等によって種々異なり、一概に規定することはできないが、通常、食品組成物100重量部あたり、発酵セルロース量として0.01〜5重量部、好ましくは0.03〜2重量部含まれるように配合されるが、具体的に食品が、例えばカルシウム強化乳飲料である場合は、100重量部あたり、発酵セルロース量が通常0.01〜5重量部、好ましくは0.03〜2重量部の範囲で含まれるように用いられる。
【0054】
本発明は、上記方法で調製される分散安定食品に加えて、分散安定食品100重量部あたり、通常発酵セルロースを0.01〜5重量部、カルシウムを0.01〜1重量部、好ましくは発酵セルロースを0.03〜1重量部、カルシウムを0.01〜0.8重量部含有するカルシウム強化食品である。なお、当該カルシウム強化食品は、上記組成を有する限りその製法により制限されるものではない。
【0055】
当該カルシウム強化食品によれば、食品中でカルシウムが沈殿することなく長期にわたって安定して分散している。
【0056】
なお、本発明の分散安定食品は、上記方法で調製されるものであれば特に制限されず、上記の成分の他に、食品の分野で広く用いられている糖類、香料、中和剤、カラメル、乳化剤、食塩、食用油脂、安定剤、酸化防止剤、保存料、色素、酸味料などが含まれていてもよい。
【0057】
【実施例】
以下、本発明の内容を以下の実施例及び実験例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。尚、以下特に言及する場合を除いて、%は重量%を意味するものとする。
【0058】
実施例1
常法により、下記処方からなるカルシウム強化乳飲料を調製した。
【0059】
Figure 0003796613
この中に、それぞれ発酵セルロースを、その含量が0%、0.05%、0.1%、0.15%となるように配合して、20℃、1500rpmの条件で10分間、攪拌処理した。
【0060】
このカルシウム強化飲料(発酵セルロース含量:0%、0.05%、0.1%、0.15%)を1週間冷蔵庫に放置した場合の、懸濁安定性、色調及び口当たり(n=20による官能試験)を評価した。結果を表1に示す。尚、比較データとして、分散安定化剤として微結晶セルロース製剤(アビセルRC−N30、旭化成(株)製)を0.3%使用した場合の結果を併記する。
【0061】
【表1】
Figure 0003796613
上記結果から、発酵セルロースを少量用いることによって、不溶性カルシウムの分散安定性を図ることができることが分かった。
【0062】
また、発酵セルロースと不溶性カルシウムを併用することにより、レトルト殺菌時における褐変防止効果が認められた。
【0063】
【実験例】
実験例1 発酵セルロース+Caイオン溶液の粘度、及び粘度の復元
発酵セルロースをイオン交換水に溶解して、0.5%、1.0%、1.5%の溶液をそれぞれ調製し、B型粘度計(東京計器社製)にて該溶液(20℃)の粘度を測定した(60rpm)。一方、CaCl2を含有する水溶液に発酵セルロースを添加して、発酵セルロース0.5%+CaCl20.0693%、発酵セルロース1.0%+CaCl20.139%、発酵セルロース1.5%+CaCl20.208%のそれぞれを含有する溶液を調製して、同様にそれらの溶液の粘度を測定した。
【0064】
結果を図1に示す。図1からわかるように、発酵セルロースを溶解含有する水溶液は、発酵セルロースの濃度に比例して溶液の粘度が上昇するのに対して、Caイオン存在下で調製した発酵セルロース溶液は、発酵セルロースの濃度に関係なく粘度を呈さなかった。なお、分散安定化剤としてカラギナンを用いた場合、0.1%溶液でゲル化してしまい、添加剤として使用困難であった。
【0065】
次いで、上記3種類のCaCl2含有発酵セルロース溶液をそれぞれ10倍に希釈し、これに炭酸カルシウムを0.3%添加して該希釈液をホモゲナイザー(150kg/cm2)で攪拌均質化し、上記の方法と同様にして該攪拌溶液の粘度を測定した。結果を図2に示す。
【0066】
これからわかるように、含有する発酵セルロース濃度に比例して粘度を発現し、該溶液を室温で10日間放置した後も、炭酸カルシウムは沈殿することなく良好に分散していた。なお、図2中「無添加」とは、発酵セルロース及び他の安定剤を含まない炭酸カルシウム分散液(炭酸カルシウムとして0.3%)である。
【0067】
また、上記3種類のCaCl2含有発酵セルロース溶液を希釈せず、そのまま攪拌処理した場合、各溶液はCaCl2を含まない発酵セルロース溶液の粘度の約半分の粘度を発現し、分散安定性を発揮した。
【0068】
実験例2
次の2つの方法を用いて、発酵セルロースに対する各種カチオンの影響を調べた。
【0069】
(1) イオン交換水に0.2%となるように発酵セルロースを添加し、室温で10分間攪拌(2500rpm)して溶解膨潤させた後に、各種塩類(カチオン濃度として、0、0.001、0.005、0.01、0.02、0.05、0.1、1.0%)を添加して更に1分間攪拌した。
【0070】
(2)各種塩類溶解液(カチオン濃度として、0、0.001、0.005、0.01、0.02、0.05、0.1、1.0%)中に、発酵セルロースを0.2%となるように添加して、室温で10分間攪拌(2500rpm)した。
【0071】
(1)及び(2)の各方法により攪拌分散後、B型粘度計にて、20℃で粘度を測定した(60rpm)。(1)の方法による結果を図3に、(2)の方法による結果を図4に示す。
【0072】
図3に示すように、発酵セルロースを予めイオン交換水に溶解して膨潤させた後にカチオン類を添加した場合は、カチオン類の添加による発酵セルロース溶液の粘度に対する影響はさほど大きくなく、一価カチオン及び二価のカチオンともに微量の配合で粘度の減少が認められたものの、配合量の増加に伴って粘度が上昇する傾向があった。
【0073】
一方、カチオン含有溶液に発酵セルロースを添加した場合は、図4に示すように、一価カチオン及び二価のカチオンともに、その配合するカチオンの濃度の増加に従って急激に溶液の粘度の減少が認められた。特に二価カチオンにその傾向が強く、カチオン濃度が0.01%の場合は粘度を殆ど発現しなかった。図5にNaCl(Naイオン濃度:0.001、0.005、0.01、0.02、0.05、0.1、1.0%)溶液に発酵セルロースを配合した場合の分散安定性を観察した図を、また図6にCaCl2(Caイオン濃度:0.001、0.005、0.01、0.02、0.05、0.1、1.0%)溶液に発酵セルロースを配合した場合の分散安定性を観察した図を示す。これから、溶液の粘度と分散安定性とが対応していることが分かる。
【0074】
なお、三価のカチオンは、二価のカチオンと同様の挙動を示した。
【0075】
実験例3 攪拌による粘度の発現
Ca2+が0.01%含まれるようにイオン交換水にCaCl2を溶解し、該溶液に0.2%となるように発酵セルロースを添加して、室温または80℃で10分間攪拌(2500rpm)し、発酵セルロースを膨潤させた。次いで、種々のホモゲナイザー圧(kg/cm2)を用いてホモゲナイザー処理し、粘度発現を観察した。粘度はB型粘度計にて、60rpm、20℃で測定した。
【0076】
結果を図7に示す。なお、比較例(図中、STDと表示)として、イオン交換水に発酵セルロースを0.2%となるように溶解して、その溶液の粘度を測定した。
【0077】
図7からわかるように、カルシウムの添加溶液に単に発酵セルロースを分散させた溶液(ホモゲナイザー未処理:図中、ホモゲナイザー圧力0)の粘度は、殆ど0であったが、ホモゲナイザーで攪拌、均質化することによって粘性が発現した。またその粘性は、ホモゲナイザー圧力の上昇に従って上昇した。
【図面の簡単な説明】
【図1】発酵セルロースとCaイオンの併用による粘度低下効果を示す実験結果(実験例1)を示す図である。
【図2】CaCl2を含有する発酵セルロース溶液をホモゲナイザー(150kg/cm2)で攪拌均質化することによって粘度が発現することを示す実験結果(実験例1)を示す図である。
【図3】発酵セルロース溶液中にカチオンを添加した場合の粘度発現状況を示す図である(実験例2(1))。
【図4】カチオン含有溶液中に発酵セルロースを添加した場合の粘度発現状況を示す図である(実験例2(2))。
【図5】NaCl溶液に発酵セルロースを配合した場合の分散安定性をみた図である。なお、分散安定性を明確に示すため参考写真1を添付する。
【図6】CaCl2溶液に発酵セルロースを配合した場合の分散安定性をみた図である。なお、分散安定性を明確に示すため参考写真2を添付する。
【図7】攪拌によって粘度が発現することを示す図である(実験例3)。

Claims (7)

  1. 一価、二価又は三価のいずれかのカチオン含有水溶液中に発酵セルロースを添加配合するか、または前記カチオン及び発酵セルロースを同時に水溶液に配合することにより調製される、液状分散安定化組成物
  2. カチオンが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属に属するものである請求項1記載の液状分散安定化組成物。
  3. カチオンが、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ナトリウム、カリウム及び鉄からなる群から選択されるいずれかである請求項1記載の液状分散安定化組成物。
  4. 請求項1乃至3のいずれかに記載の液状分散安定化組成物を被験物に配合し、得られる被験組成物を用時攪拌することを特徴とする被験組成物の分散安定化方法。
  5. 請求項1乃至3のいずれかに記載の液状分散安定化組成物と食品原料とを混合し、得られる食品組成物を攪拌する工程を有する分散安定食品の調製方法。
  6. 上記食品が、カルシウム強化食品、ココア飲料、抹茶入り飲料、野菜又は果汁入り飲料、豆乳飲料、ゼリー入り飲料、しるこドリンク、スープ、みそ汁及び液体調味料からなる群から選択されるいずれかである請求項5記載の分散安定食品の調製方法
  7. 食品が、カルシウムが安定して分散してなる食品であって、該食品100重量部あたり、発酵セルロースを0.01〜5重量部、カルシウムを0.01〜1重量部含有することを特徴とするカルシウム強化食品である、請求項5記載の分散安定食品の調製方法
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