JP3789030B2 - 高強度ポリエステル繊維およびその製造法 - Google Patents
高強度ポリエステル繊維およびその製造法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP3789030B2 JP3789030B2 JP26433797A JP26433797A JP3789030B2 JP 3789030 B2 JP3789030 B2 JP 3789030B2 JP 26433797 A JP26433797 A JP 26433797A JP 26433797 A JP26433797 A JP 26433797A JP 3789030 B2 JP3789030 B2 JP 3789030B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- less
- strength
- polyester fiber
- polytrimethylene terephthalate
- spinning
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Fee Related
Links
Landscapes
- Artificial Filaments (AREA)
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高強度ポリエステル繊維に関する。更に詳しくは、発現される強度が高められた、ストッキング、タイツ、ジャージ、水着、ロープ、漁網、縫糸等に好適なポリトリメチレンテレフタレート繊維およびその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
テレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸の低級アルコールエステルと、トリメチレングリコール(1,3−プロパンジオール)を重縮合させて得られるポリトリメチレンテレフタレートは、優れた弾性回復性、低弾性率(ソフトな風合い)、易染性といったポリアミドに類似した性質と、耐光性、熱セット性、寸法安定性、低吸水率といったポリエチレンテレフタレートに類似した性能を併せ持つ画期的なポリマーであり、その特徴を生かしてBCFカーペット、ブラシ、テニスガット等に応用されている(特開平9−3724号公報、特開平8−173244号公報、特開平5−262862号公報)。
【0003】
すなわち、ポリトリメチレンテレフタレート繊維を用いると、耐光性、熱セット性等の性能が低いというポリアミド繊維の性質が改良されると同時に、優れた弾性回復性、低弾性率(ソフトな風合い)、易染性といったポリアミド類似の繊維を提供することが可能となるために、既存のポリアミド繊維を凌駕できる可能性が高い。
【0004】
しかしながら、ポリトリメチレンテレフタレート繊維の強度は、高々4g/d程度であり(例えば、特開昭52−5320号公報)、5g/d以上の比較的高強度を要求される用途、例えばストッキング、タイツ、ジャージ、水着、ロープ、漁網、縫糸などに用途展開を図る際には、ポリトリメチレンテレフタレート繊維の強度を高めることが是非必要となってくるが、これまでにそのような高強度ポリトリメチレンテレフタレート繊維は知られていない。
【0005】
ポリトリメチレンテレフタレート繊維の強度が発現しにくい理由については、明らかではない。しかし、本発明者らの検討では、ポリエチレンテレフタレート繊維と比較すると、ポリエチレンテレフタレート分子は直線に近い形で配向するために、繊維中の単位断面積当たりの分子数が多くなって強度は高くなるが、ポリトリメチレンテレフタレート分子はトリメチレン部分の真ん中のメチレン部分で分子が大きく屈曲する形が熱力学的に最も安定な構造を取るために、単位断面積当たりの分子数が小さくなり強度が低くなることがわかった。従って、ポリトリメチレンテレフタレート繊維の高強度化には、特殊な分子構造を考慮した紡糸方法の設計が是非必要となるが、このような検討はこれまでに報告されていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、工業的に安定に生産できる、5g/d以上の強度を持ったポリトリメチレンテレフタレート繊維およびその製造法を提供しようとすることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、強度を向上させるためにはポリトリメチレンテレフタレートポリマーの性質、紡糸条件を極めて特定の狭い範囲に設定することで、上記の課題を解決できる可能性を見出し、更に検討の結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の第一は、実質的にポリトリメチレンテレフタレートから構成され、強度5g/d以上、伸度20〜40%、弾性率Q(g/d)と弾性回復率R(%)との関係が式(1)を満足し、損失正接のピーク温度が97〜120℃であって、かつオリゴマーの含有量が3wt%以下であり、分子量300以下の有機物の含有量が1000ppm以下であることを特徴とする強度ポリエステル繊維、であり、
0.2≦Q/R≦0.45 ・・・(1)
本発明の第二は、極限粘度が1以上の実質的にポリトリメチレンテレフタレートから構成され、かつオリゴマーの含有量が3wt%以下であり、分子量300以下の有機物の含有量が1000ppm以下であるポリマーを240〜280℃で溶融後紡口より押出し、溶融マルチフィラメントを紡口直下に設けた80〜200℃の雰囲気温度に保持した長さ5〜100cmの保温領域を通過させて急激な冷却を抑制した後、この溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変え、300〜1500m/minで引き取り、まず未延伸マルチフィラメントを得て、この未延伸マルチフィラメントを一旦巻き取った後あるいは巻き取ることなく35〜70℃の延伸工程に供し、3〜5倍で延伸した後、次いで緊張下100〜190℃で熱処理することを特徴とする請求項1の高強度ポリエステル繊維の製造法、である。
【0008】
本発明に用いるポリマーは、実質的にテレフタル酸と1、3−プロパンジオールを重縮合せしめて得られるポリトリメチレンテレフタレートである。本発明において実質的にとは、ポリトリメチレンテレフタレートホモポリマーであっても以下に示すポリトリメチレンテレフタレートコポリマーであってもよいことを示す。すなわち、本発明の効果を損なわない範囲で、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸テトラブチルポスホニウム塩等の酸成分や、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコール成分、ε−カプロラクトン、4−ヒドロキシ安息香酸、ポリオキシエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が10重量%(wt%)未満共重合されていてもよい。
【0009】
また、必要に応じて、各種の添加剤、例えば、艶消し剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤などを共重合、または混合してもよい。
本発明に用いるポリマーは、トリメチレンテレフタレートのオリゴマーの含有量が3wt%以下であることが好ましく、これによって毛羽による強度低下を避けることが可能になるほか、工業的に必要な紡糸安定性を確保できる。尚、トリメチレンテレフタレートオリゴマーとは、通常トリメチレンテレフタレート単位が2〜4繋がったオリゴマーであり、線状構造であっても、環状構造であってもよい。3wt%を越える場合には、例えば、紡糸する場合、オリゴマ−が紡口周りに析出し、糸切れ、毛羽が起こってしまう。尚、ここで長時間紡糸を行うためには、1.5wt%以下が好ましく、更に好ましくは1wt%である。更に、得られた繊維の毛羽が少なくなるという点では、0.5wt%以下、更に好ましくは0.3wt%以下が好ましく、もちろん理想的は不含である。
【0010】
更に、本発明に用いるポリマー中には、分子量300以下の有機物の含有量が1wt%以下であることが好ましく、この範囲内で一層のワイピング周期の延長と着色しないとか、耐光性に優れるといった性能を確保できる。ここで言う分子量300以下の有機物とは、ポリマーに共重合されていない有機物である。本発明者らの検討によれば、分子量300以下の有機物としては、アリルアルコール、アクロレイン、2−ブタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、グリシジルメチルエーテル、オキシプロピルメチルエーテル等が存在し、これらの化合物の総量が成形性、製品耐久性、耐候性に大きな影響を与えることを見出した。分子量300以下の有機物の含有量が1wt%を越える場合には、例えば、紡糸する時に糸切れや毛羽が発生しやすくなったり、光で着色しやすいものになってしまう。さらに好ましくは、分子量300以下の有機物の含有量が5000ppm以下であり、特に好ましくは、1000ppm以下である。もちろん、理想的には不含である。
【0011】
本発明に用いるポリマーは、融点が227℃以上であることが好ましい。ここで融点とは、220〜250℃の範囲で融解と考えられるピークのピーク値と定義する。融解ピークが複数存在する場合(ショルダーピークも含む)は、低い温度のピークを融点とする。融点が227℃未満では耐候性の低下が起こりやすくなる。例えば、一度ポリトリメチレンテレフタレートを合成し、そのポリマーを200℃程度で固相重合すると、オリゴマー量は大きく低下させることができる。しかしながら、固相重合を行うと、原料ポリマーの融点は、大きく低下し、225℃にも満たない状態となる。このようなポリマーの中には、トリメチレングリコールが2量化して生成するビス−3−ヒドロキシプロピルエーテルが大量に共重合されたり、末端カルボキシル基量が増えたりする結果、紡糸安定性や耐候性が低下しやすい。好ましいポリマーの融点としては230℃以上であり、更に好ましくは233℃以上である。
【0012】
本発明に用いるポリマーは、極限粘度[η]が1以上であり、更に好ましくは1.2以上である。この範囲で、強度、紡糸性に優れた繊維を得ることができる。極限粘度が1未満の場合は、ポリマーの分子量が低すぎるため強度発現が困難となる。逆に極限粘度が2.5を越える場合は、溶融粘度が高すぎるために紡糸時にメルトフラクチャーや紡糸不良が生じるので好ましくはない。
【0013】
本発明に用いるポリマーの製法として、好ましい一例を挙げるならば、テレフタル酸、またはテレフタル酸ジメチルを原料とし、これにトリメチレングリコールを酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛、酢酸コバルト、酢酸マンガンといった金属酢酸塩1種あるいは2種以上を0.03〜0.1wt%加え、常圧下あるいは加圧下でエステル交換率90〜98%でビスヒドロキシプロピルテレフタレートを得る。このように本発明の目的を達成させるためには、遷移金属以外の金属酢酸塩を用いることが好ましい。
【0014】
次に、チタンテトライソプロピキシド、チタンテトラブトキシド、三酸化アンチモンといった触媒の1種あるいは2種以上を好ましくは0.03〜0.15wt%、さらに好ましくは0.03〜0.1wt%添加し、250〜270℃で減圧下反応させる。重合の任意の段階で、好ましくは重縮合反応の前に安定剤を入れることが樹脂組成物の白度、ポリトリメチレンテレフタレートオリゴマーや分子量が300以下の有機物量を特定量に制御できる観点で好ましい。この場合の安定剤としては、5価または/および3価のリン化合物やヒンダードフェノール系化合物が好ましい。5価または/および3価のリン化合物としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト等が挙げられ、特に、トリメチルホスファイトが好ましい。ヒンダードフェノール系化合物とは、フェノール系水酸基の隣接位置に立体障害を有する置換基を持つフェノール系誘導体であり、分子内に1個以上のエステル結合を有する化合物である。
【0015】
具体的には、ペンタエリスリトール−テトラキス[3(3,5−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンゼン)イソフタル酸、トリエチルグリコール−ビス[3(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレン−ビス[3(3,5−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を例示しうる。中でもペンタエリスリトール−テトラキス[3(3,5−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。
【0016】
上記の方法で得られたポリマーには、一般的に次に示す性質がある。共重合されたビス−3−ヒドロキシプロピルエーテルの含有量は0.1wt%以下である。また、色相をb値で示すと10以下、場合によっては3以下である。また、末端カルボキシル基量は10〜35mg当量/kgである。
本発明の高強度ポリエステル繊維は、強度が5g/d以上である。使用するポリマーの極限粘度、不純物量、紡糸条件が最適なものは、6〜7g/dも可能な繊維である。
【0017】
本発明の高強度ポリエステル繊維の特徴の一つは、強度を高めても伸度が20%未満にならないことである。例えば、ポリエチレンテレフタレートは延伸倍率を高め、強度を上げてゆくと伸度も大幅に低下し、最終的には数%まで下がる。これはポリトリメチレンテレフタレート分子がZ型の屈曲した結晶構造を示し、完全伸びきり構造の76%程度しがc軸の長さがないことに由来する。このように強度を高めても伸度が残るためにタフネスに優れた繊維となる。尚、伸度が40%を越えるような延伸倍率では強度発現率が小さく、本発明の目的を満足しない。好ましくは、20〜30%である。
【0018】
また、本発明の高強度ポリエステル繊維は、弾性率Q(g/d)と20%伸長後1分間放置後の弾性回復率R(%)とが式(1)を満足することが必要である。
0.2≦Q/R≦0.45 ・・・(1)
Q/R>0.45では弾性率が高すぎるために、ソフトな風合いが得られないか、あるいは弾性回復性が不足し、一度応力が加わって変形した繊維は元に戻らなくなってしまい、形態安定性の悪い布帛しか得ることができなかったりする。逆に、Q/R<0.2となる領域は実質存在しないため、本発明においては、0.2をQ/Rの下限界としている。式(1)の範囲となりうる具体的な弾性率は、通常25〜40g/d、弾性回復率は80〜99%となる。
【0019】
本発明の高強度ポリエステル繊維は、動的粘弾性測定から求められる損失正接のピーク温度(以下、Tmaxと略記する)が97〜120℃であることが必要である。Tmaxは、非晶部分の分子密度に対応するので、この値が大きくなるほど非晶部分の分子密度が高くなる。高強度を達成させるためには、非晶部分の配向、すなわち分子密度の増大が必要となってくる。Tmaxが97℃未満では、非晶部分の分子密度が低すぎて、高強度を達成できない。また、Tmaxが120℃よりも高いと、非晶部分の配向が高すぎて圧縮や屈曲に対して繊維が弱くなり、毛羽が発生しやすくなる。好ましくは、108〜115℃である
以下、本発明の高強度ポリエステル繊維を紡糸する方法を示す。
【0020】
すなわち、極限粘度が1以上の実質的にポリトリメチレンテレフタレートから構成されるポリマーを溶融後紡口より押出し、溶融マルチフィラメントを紡口直下に設けた80〜200℃の雰囲気温度に保持した長さ5〜100cmの保温領域を通過させて急激な冷却を抑制した後、この溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変え、300〜1500m/minで引き取り、まず未延伸マルチフィラメントを得て、この未延伸マルチフィラメントを一旦巻き取った後あるいは巻き取ることなく延伸工程に供し、次いで緊張下で熱処理を行うという高強度ポリエステル繊維の製造法である。
【0021】
ここで延伸工程に供すこととは、紡糸を行った後にボビン等に巻き取り、この糸を別の装置を用いて延伸する、いわゆる、通常延伸法を指し、また、紡口より押し出されたポリマーが完全に冷却固化した後、一定の速度で回転している第一ロールに数回以上巻き付けられることにより、ロール前後での張力が全く伝わらないようにし、第一ロールと第一ロールの次に設置してある第二ロール、更には同様に並んだ第三あるいはそれ以上のロールとの間で、単一あるいは多段延伸を行うような、紡糸と延撚工程とを直結した、いわゆる、直接延伸法を指す。
【0022】
本発明の高強度ポリエステル繊維の製造法は、ポリマーを溶融紡糸する際の紡糸温度が230〜320℃であることが好ましく、更に好ましくは235〜300℃、特に好ましくは240〜280℃の範囲である。紡糸温度が230℃未満では、温度が低過ぎて安定した溶融状態になり難く、得られた繊維の斑が大きくなり、また満足し得る強度、伸度を示さなくなる。また、紡糸温度が320℃を越えると熱分解が激しくなり、得られた糸は着色し、また満足し得る強度、伸度を示さなくなる。
【0023】
糸の巻取速度については、特に制限はないが、通常300〜1500m/minであり、好ましくは300〜1000m/min、さらに好ましくは300〜500m/minで巻き取る。巻取速度が1500m/minを越えると、巻き取る前に結晶化が進み過ぎ、延伸行程で延伸倍率を上げることができないために、分子を配向させることができず、十分な糸強度を発現できなくなる。
【0024】
延伸時の延伸倍率は、紡糸速度に依存するために一概にいうことはできないが、通常は2〜6倍、好ましくは3〜5倍が良い。延伸倍率が2倍以下では、延伸により十分にポリマーを配向させることができず、得られた糸の強度や弾性回復率は低いものとなってしまう。また6倍以上では糸切れが激しく、安定して延伸を行うことができない。
【0025】
本発明の高強度ポリエステル繊維の製造法は、紡口から出た溶融マルチフィラメントを直ちに急冷させず、紡口直下に設けた80〜200℃の雰囲気温度に保持した長さ5〜100cmの保温領域を通過させて急激な冷却を抑制した後、この溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変えて続く延伸工程に供することが極めて重要である。この保温領域を通過させることで、ポリマーを急冷による微細な結晶や極度に配向した非晶部分の生成を抑制し、延伸工程で延伸されやすい非晶構造を作ることができる。
【0026】
ポリトリメチレンテレフタレートは、例えば、ポリエチレンテレフタレートといったポリエステルに比較して遥かに速い結晶化速度を有しているので、このような徐冷を行うことは、微細な結晶や極度に配向した非晶部分の生成を抑制する上で極めて有効な方法である。80℃未満では若干急冷気味となり、延伸倍率を上げにくくなる。また、200℃以上では糸切れが起こりやすくなる。このような保温領域の温度は80〜200℃であり、好ましくは100〜150℃である。また、この保温領域の長さは5〜100cmであり、好ましくは10〜50cmである。
【0027】
本発明の高強度ポリエステル繊維の製造方法は、延伸の際に熱を付与することが好ましく、この熱付与によって分子が動きやすくなり、毛羽が発生することなく安定な延伸を行うことができる。このような温度はロールによって付与できる。すなわち、延伸ゾーンでは30〜80℃が好ましく、さらに好ましくは35〜70℃、特に好ましくは40℃〜65℃である。延伸ゾーンの温度が30℃未満では延伸の際に糸切れが多発し、連続して繊維を得ることができない。また80℃を越えると延伸ロールなどの加熱ゾーン対する繊維の滑り性が悪化するため単糸切れが多発し、毛羽だらけの糸になってしまう。また、ポリマー同士がすり抜けてしまうため十分な配向がかからなくなり弾性回復率が低下する。
【0028】
本発明の高強度ポリエステル繊維の製造法は、延伸を行った後で、更に延伸をしながら、あるいは緊張下で熱処理を行うことが必要である。この熱処理は90〜220℃が好ましく、さらに好ましくは100〜190℃、特に好ましくは110〜190℃で行う。熱処理温度が90℃未満では繊維の結晶化が十分に起こらず、弾性回復性が悪化する。また、220℃より高い温度では繊維が熱処理ゾーンで切れてしまい延伸することができない。また、熱処理温度が160〜200℃であっても弛緩状態では毛羽や糸切れが生じやすい。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、言うまでもなく本発明は実施例などにより何ら限定されるものでない。尚、実施例中の主な測定値は以下の方法で測定した。
(1)極限粘度
この極限粘度[η]は次の定義式に基づいて求められる値である。
【0030】
【数1】
[η]=lim(ηr−1)/C
C→0
【0031】
定義式のηrは純度98%以上のo−クロロフェノールで溶解したポリエステルポリマーの希釈溶液の35℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶剤自体の粘度で割った値であり、相対粘度と定義されているものである。またCは、上記溶液100ml中のグラム単位による溶質重量値である。
(2)損失正接
オリエンテック(株)製レオバイブロンを用い、乾燥空気中、測定周波数110Hz、昇温速度5℃/分にて、各温度における損失正接(tanδ)、および動的弾性率を測定した。その結果から、損失正接−温度曲線を求め、この曲線上で損失正接のピーク温度であるTmax(℃)を求めた。昇温速度5℃/min、測定周波数110Hzで求めた。
(3)融点
セイコー電子(株)製DSCを用い、20℃/minの昇温速度で100ml/minの窒素気流下中で測定した。ここでは、融解のピークのピーク値を融点とした。
(4)ポリトリメチレンテレフタレートオリゴマーの定量
微細化したポリエステル樹脂組成物、ポリエステル繊維を、ソックスレー抽出器を用いて、クロロホルムで50時間抽出して、得られたオリゴマーを、用いた試料に対する重量%で示した。
(5)分子量300以下の有機物の構造決定と定量
(2)で得たクロロホルム液からポリエステル樹脂組成物、繊維に含まれる分子量300以下の有機物を求めた。キャピラリーカラムを備えたガスクロマトグラフィーを用いて分析を行った。用いたカラムはシリコン系とポリエチレングリコール系の2種を用いた。分離した各成分について、構造決定にはマススペクトル(GC−MS)を用い、その秤量は検量線を作成し、用いた試料に対する濃度をppmで求めた。
(6)弾性回復率
弾性回復性は、下記の方法で得られる弾性回復率として求めた。
【0032】
繊維をチャック間距離20cmで引張試験機に取り付け、伸長率20%まで引張速度20cm/minで伸長し1分間放置する。この後、再び同じ速度で元の長さ(L)までもどし、この時応力がかかっている状態でのチャックの移動距離(残留伸び:L’)を読みとり、以下の式に従って求めた。
弾性回復率=(L−L’)×100/L
【0033】
【実施例1】
テレフタル酸ジメチルと1,3−プロパンジオールを1:2のモル比で仕込み、理論ポリマー量の0.1wt%に相当する酢酸カルシウムと酢酸コバルトの混合物(9:1)を加え、徐々に昇温し240℃でエステル交換反応を完結させた。得られたエステル交換物にチタンテトラブトキシドを理論ポリマー量の0.1wt%添加し、270℃で2時間反応させた。得られたポリマーの極限粘度は1.6であった。オリゴマー量は0.1wt%であり、分子量300以下の有機物量は、330ppm、融点は234℃であった。
【0034】
得られたポリマーチップを乾燥させた後、36個の丸断面の孔を持つ紡口を用い、270℃で溶融させたポリマーを長さ30cmの、120℃の保温筒を通過させ、紡糸速度300m/minで紡糸して未延伸糸を作成した。次いで、得られた未延伸糸をホットロール53℃、ホットプレート140℃、延伸倍率4倍、延伸速度600m/minで延撚を行い、50d/36fの延伸糸を得た。
【0035】
繊維の物性は、融点236℃、Tmax114℃、強度6.0g/d、伸度22%、弾性率23g/d、弾性回復率83%であった。また、Q/Rは0.28となり、式(1)を満足することができた。
Q/R=0.28<0.45
【0036】
【比較例1】
エステル交換触媒としてチタンテトラブトキシド0.1wt%を用いた以外は実施例1と同様の反応を繰り返した。得られたポリマーのオリゴマー量は3.5wt%であり、分子量300以下の有機物量は、1700ppm、融点は233℃であった。このポリマーを用いて紡糸を行ったが、紡口面に白い有機物が析出した。得られた繊維の強度は4.1g/dであった。
【0037】
【比較例2】
保温筒を用いずに、実施例1と同様の方法で紡糸を行ったところ、強度は4.0g/d、伸度23%であった。
【0038】
【発明の効果】
本発明の高強度ポリエステル繊維は、従来公知のポリトリメチレンテレフタレート繊維に比較して、強度が極めて高い繊維である。
本発明の製造法は、従来のポリトリメチレンテレフタレート繊維に比べ、高強度と同時に残存伸度が高く、低弾性率、高弾性回復率を兼ね備えた高強度ポリエステル繊維を製造できるために、得られた高強度ポリエステル繊維をストッキング、タイツ、ジャージ、水着、ロープ、漁網、縫糸等に応用することができる。
Claims (2)
- 実質的にポリトリメチレンテレフタレートから構成され、強度5g/d以上、伸度20〜40%、弾性率Q(g/d)と弾性回復率R(%)との関係が式(1)を満足し、損失正接のピーク温度が97〜120℃であって、かつオリゴマーの含有量が3wt%以下であり、分子量300以下の有機物の含有量が1000ppm以下であることを特徴とする高強度ポリエステル繊維。
0.2≦Q/R≦0.45 ・・・ (1) - (変更) 極限粘度が1以上の実質的にポリトリメチレンテレフタレートから構成され、かつオリゴマーの含有量が3wt%以下であり、分子量300以下の有機物の含有量が1000ppm以下であるポリマーを240〜280℃で溶融後紡口から押出し、溶融マルチフィラメントを紡口直下に設けた80〜200℃の雰囲気温度に保持した長さ5〜100cmの保温領域を通過させて急激な冷却を抑制した後、この溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変え、300〜1500m/minで引き取り、まず未延伸マルチフィラメントを得て、この未延伸マルチフィラメントを一旦巻き取った後あるいは巻き取ることなく35〜70℃の延伸工程に供し、3〜5倍で延伸した後、次いで緊張下100〜190℃で熱処理することを特徴とする請求項1の高強度ポリエステル繊維の製造法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP26433797A JP3789030B2 (ja) | 1997-09-29 | 1997-09-29 | 高強度ポリエステル繊維およびその製造法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP26433797A JP3789030B2 (ja) | 1997-09-29 | 1997-09-29 | 高強度ポリエステル繊維およびその製造法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPH11107036A JPH11107036A (ja) | 1999-04-20 |
JP3789030B2 true JP3789030B2 (ja) | 2006-06-21 |
Family
ID=17401779
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP26433797A Expired - Fee Related JP3789030B2 (ja) | 1997-09-29 | 1997-09-29 | 高強度ポリエステル繊維およびその製造法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP3789030B2 (ja) |
Families Citing this family (9)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPH11172526A (ja) | 1997-11-26 | 1999-06-29 | Asahi Chem Ind Co Ltd | 低熱応力ポリエステル繊維及びその紡糸方法 |
MXPA01011322A (es) * | 1999-05-27 | 2003-08-01 | Asahi Chemical Ind | Hilo de costura. |
US6287688B1 (en) | 2000-03-03 | 2001-09-11 | E. I. Du Pont De Nemours And Company | Partially oriented poly(trimethylene terephthalate) yarn |
US6663806B2 (en) | 2000-03-03 | 2003-12-16 | E. I. Du Pont De Nemours And Company | Processes for making poly (trimethylene terephthalate) yarns |
EP1183409B1 (en) | 2000-03-03 | 2005-11-16 | E.I. Du Pont De Nemours And Company | Poly(trimethylene terephthalate) yarn |
US6458455B1 (en) | 2000-09-12 | 2002-10-01 | E. I. Du Pont De Nemours And Company | Poly(trimethylene terephthalate) tetrachannel cross-section staple fiber |
US6872352B2 (en) | 2000-09-12 | 2005-03-29 | E. I. Du Pont De Nemours And Company | Process of making web or fiberfill from polytrimethylene terephthalate staple fibers |
DE102004018121A1 (de) | 2003-05-05 | 2004-12-09 | Amann & Söhne GmbH & Co. KG | Nähgarn sowie Verfahren zur Herstellung eines derartigen Nähgarnes |
JP5173271B2 (ja) * | 2007-06-14 | 2013-04-03 | 帝人ファイバー株式会社 | 高タフネス繊維の製造方法 |
-
1997
- 1997-09-29 JP JP26433797A patent/JP3789030B2/ja not_active Expired - Fee Related
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JPH11107036A (ja) | 1999-04-20 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP3204399B2 (ja) | ポリエステル繊維及びそれを用いた布帛 | |
KR101537131B1 (ko) | 폴리에틸렌나프탈레이트 섬유 및 그 제조 방법 | |
KR100492343B1 (ko) | 공중합 폴리트리메틸렌테레프탈레이트 | |
TWI453311B (zh) | Polyethylene naphthalate fiber and its manufacturing method | |
KR102356959B1 (ko) | 폴리에스테르 | |
US5955196A (en) | Polyester fibers containing naphthalate units | |
KR102568693B1 (ko) | 폴리에스테르 섬유, 이의 제조 방법 및 이로부터 형성된 성형체 | |
WO1993002122A1 (en) | Copolyesters for high modulus fibers | |
JP3789030B2 (ja) | 高強度ポリエステル繊維およびその製造法 | |
JPH0326697B2 (ja) | ||
JP2013087153A (ja) | 共重合ポリエステル及びそれからなる吸湿性に優れたポリエステル繊維 | |
EP0454868B1 (en) | Rubber-reinforcing polyester fiber and process for preparation thereof | |
JPH11107038A (ja) | 高熱応力ポリエステル繊維 | |
JP7133540B2 (ja) | 繊維を製造するための半結晶性熱可塑性ポリエステル | |
US5464694A (en) | Spinnable polyester based on modified polyethylene terephthalate and aliphatic dicarboxylic acids | |
US5453321A (en) | High molecular weight copolyesters for high modulus fibers | |
JP2822503B2 (ja) | 高タフネスゴム補強用ポリエステル繊維 | |
JPS61132618A (ja) | 耐熱性の改善されたポリエステル繊維 | |
JP3836234B2 (ja) | ポリエステル樹脂組成物及びそれからなる繊維 | |
JP2776003B2 (ja) | ポリエステル繊維の製造方法 | |
JPH11124732A (ja) | 耐候、難燃性ポリエステル繊維 | |
JP2775923B2 (ja) | ゴム補強用ポリエステル繊維 | |
JPS627283B2 (ja) | ||
JPS59168119A (ja) | 熱寸法安定性にすぐれたポリエステル高強力糸の製造法 | |
JP5108937B2 (ja) | ポリエチレンナフタレート繊維及びその製造方法 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20040420 |
|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20040420 |
|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20051107 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20051115 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20060116 |
|
RD03 | Notification of appointment of power of attorney |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7423 Effective date: 20060116 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20060323 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20060327 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |