JP5108937B2 - ポリエチレンナフタレート繊維及びその製造方法 - Google Patents
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そこでその特性をより発揮させるべく、例えば特許文献1では、ポリエチレンナフタレート繊維を高速紡糸することによって、強度及び乾熱収縮率に優れたポリエチレンナフタレート繊維が開示されている。しかし強度が高い場合には乾熱収縮率が高くなり、乾熱収縮率を低く抑えた場合には強度が低くなるという問題があり、レベルとしては満足できないものであった。
さらに、特許文献2では、溶融紡糸の口金直下に390℃に加熱した紡糸筒を設置し、高速紡糸と熱延伸を行うことによって、乾熱収縮率を同じレベルに保ちながら、強度が7.0g/de(約6cN/dtex)以上とするポリエチレンナフタレート繊維が開示されている。しかしそのもっとも優れた実施例でも得られた繊維の強度は8.0g/de(約6.8cN/dtex)と不十分なものであり、耐熱性や寸法安定性を確保しながら高強力の繊維とする観点からは、まだ満足のいくものではなかった。
特許文献2とは異なり、特許文献3では、引き取り速度1000m/分以下の60倍程度の低ドラフト未延伸糸を、長さ20〜50cm、雰囲気温度275〜350℃の紡糸筒を用いて遅延冷却したのちに高倍率延伸することにより高強度で比較的熱安定性に優れたポリエチレンナフタレート繊維が提案されている。また、特許文献4では、紡糸ドラフト比400〜900で低い複屈折率0.005〜0.025の未延伸糸を得、これを総延伸比6.5倍以上の多段延伸により高強度かつ寸法安定性に優れたポリエチレンナフタレート繊維が提案されている。
これらの方法によって、繊維の強度や乾熱収縮率などの単独の物性こそある程度の物性が得られるようになってはいる。しかしなお、これらいずれの方法によっても、得られたポリエチレンナフタレート繊維は従来のポリエチレンテレフタレート繊維に対し剛直であり、複合材料中での耐疲労性が劣るという問題は未解決のままであった。特にゴム補強用などの繊維に繰り返し負荷がかかりやすい複合材とした場合、その耐久性が低いという問題があった。
さらには、X線広角回折の最大ピーク回折角が23.0〜25.0度であることや、リン原子をエチレンナフタレート単位に対して0.1〜300mmol%含有するものであることが好ましい。また、ポリエチレンナフタレート繊維が、金属元素を含むものであり、該金属元素が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましく、さらには該金属元素が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。
そして、窒素気流下10℃/分の降温条件下での発熱ピークのエネルギーΔHcdが15〜50J/gであることや、強度が6.0〜11.0cN/dtexであること、融点が265〜285℃であることが好ましい。
もう一つの本発明のポリエチレンナフタレート繊維の製造方法は、主たる繰り返し単位がエチレンナフタレートであるポリマーを溶融し、紡糸口金から吐出するポリエチレンナフタレート繊維の製造方法であって、溶融時のポリマーが金属元素を含み、該金属元素が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であり、溶融時のポリマー中に下記一般式(I)であらわされる少なくとも1種類のリン化合物を、他の化合物とあらかじめ反応させることなく直接ポリマーに添加した後に紡糸口金から吐出し、紡糸速度が4000〜8000m/分、紡糸口金から吐出後の紡糸ドラフト比が1,000〜10,000であり、紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度より50℃を超える高い温度の加熱紡糸筒を通過し、かつ延伸することを特徴とする。
さらには、紡糸口金から吐出後の紡糸ドラフト比が2,160〜10,000であることや、加熱紡糸筒の長さが250〜500mmであることが好ましい。
また、リン化合物が下記一般式(I’)であることが好ましく、特には、リン化合物がフェニルホスフィン酸またはフェニルホスホン酸であることが好ましい。
図2は従来品である比較例1の広角X線回折スペクトルである。
図3は比較例3の広角X線回折スペクトルである。
2 比較例1
3 比較例3
一般にこのようなポリエチレンナフタレート繊維は、ポリエチレンナフタレートの重合体を、溶融紡糸することにより繊維化される。そしてポリエチレンナフタレートの重合体は、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸またはその機能的誘導体を触媒の存在下で、適当な反応条件の下に重合することができる。また、ポリエチレンナフタレートの重合完結前に、適当な1種または2種以上の第3成分を添加すれば、共重合ポリエチレンナフタレートが合成される。
適当な第3成分としては、(a)2個のエステル形成官能基を有する化合物、例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸;シクロプロパンジカルボン酸、シクロブタンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのカルボン酸;グリコール酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸などのオキシカルボン酸;プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、p−キシリレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、p,p′−ジフェノキシスルホン−1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス(p−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ポリアルキレングリコール、p−フェニレンビス(ジメチルシクロヘキサン)などのオキシ化合物、あるいはその機能的誘導体;前記カルボン酸類、オキシカルボン酸類、オキシ化合物類またはその機能的誘導体から誘導される高重合度化合物などや、(b)1個のエステル形成官能基を有する化合物、例えば、安息香酸、ベンゾイル安息香酸、ベンジルオキシ安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどが挙げられる。 さらに(c)3個以上のエステル形成官能基を有する化合物、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリカルバリル酸、トリメシン酸、トリメリット酸なども、重合体が実質的に線状である範囲内で使用可能である。
また、前記ポリエチレンナフタレート中には、各種の添加剤、たとえば二酸化チタンなどの艶消剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤、耐衝撃剤の添加剤、または補強剤としてモンモリナイト、ベントナイト、ヘクトライト、板状酸化鉄、板状炭酸カルシウム、板状ベーマイト、あるいはカーボンナノチューブなどの添加剤が含まれていてもよい。
本発明のポリエチレンナフタレート繊維は、上記のようなポリエチレンナフタレートからなる繊維であって、X線広角回折より得られる結晶体積が100〜200nm3(10万〜20万オングストローム3)であり、結晶化度が30〜60%であることを必須とする。さらには結晶化度としては35〜55%であることが好ましい。ここで本願の結晶体積とは、繊維の赤道方向の広角X線回折において、回折角が15〜16度、23〜25度、25.5〜27度の回折ピークから得られる結晶サイズの積である。ちなみにこのそれぞれの回折角はポリエチレンナフタレート繊維の結晶面(010)、(100)、(1−10)における面反射によるものであり、理論的には各ブラッグ反射角2θに対応するものであるが、全体の結晶構造の変化により若干シフトしたピークを有するものである。また、このような結晶構造はポリエチレンナフタレート繊維に特有のものである。例えば同じポリエステル繊維ではあっても、ポリエチレンテレフタレート繊維には存在しない。
また、本願の結晶化度(Xc)とは、比重(ρ)とポリエチレンナレフタレートの完全非晶密度(ρa)と完全結晶密度(ρc)とから下記の数式(1)により求めた値である。
数式(1)中
ρ :ポリエチレンナフタレート繊維の比重
ρa:1.325(ポリエチレンナレフタレートの完全非晶密度)
ρc:1.407(ポリエチレンナレフタレートの完全結晶密度)
本発明のポリエチレンナフタレート繊維は、従来の高強力繊維と同様の高い結晶化度を維持しながら、従来に無い結晶体積が200nm3(20万オングストローム3)以下という微細な結晶体積を実現したものである。このことにより本発明の繊維は高い強力と寸法安定性を得ることができるようになった。微小結晶で均一な構造を形成させることにより、本発明のポリエチレンナフタレート繊維はポリマー中の微細な欠点が極めてわずかになり、優れた耐疲労性を発揮することができるようになったのである。また結晶化度は高いほど有効であり、30%未満では高い引張強度やモジュラスを実現することができない。一般に結晶化度を高めるためには結晶体積を増加させる手段をとるが、本発明では結晶体積が小さいにもかかわらず結晶化度が高い点に最大の特徴がある。
結晶体積を小さくするためには、紡糸時の口金下温度を高く保ちながら、高速紡糸する方法が有効である。一般に、紡糸ドラフト比や延伸倍率等を高め、繊維が引き伸ばされる場合には結晶体積は大きくなる傾向にあるが、紡糸時の口金下温度を高い温度に保って高速紡糸することにより、結晶の成長を妨げることができる。
結晶化度を高めるためには、紡糸ドラフト比や延伸倍率等を高め、繊維を高倍率に引き伸ばすことによって得ることができる。しかし結晶化度が高くなると剛直な繊維であるポリエチレンナフタレート繊維はますます断糸しやすくなる。そこで本発明では、断糸を防止するためと、得られる繊維の結晶体積を小さくするために、紡糸前のポリマーの段階で、微小で均一な結晶構造を形成させることが重要である。大きな結晶が存在しないことと、微小で均一な結晶構造であるために、応力集中による断糸を防止し、耐疲労性を高めることができる。たとえば特有のリン化合物をポリマーに含有させることによってそのような微小で均一な結晶構造を実現させることが可能となる。
さらに本発明のポリエチレンナフタレート繊維ではX線広角回折の最大ピーク回折角が23.0〜25.0度の範囲にあることが好ましい。結晶面である(010)、(100)、(1−10)のうち、この(100)面の結晶が大きく成長することにより、結晶の均一性が増し寸法安定性と高強力が高いバランスで両立するのであると考えられる。
また本発明のポリエチレンナフタレート繊維としては、降温条件下での発熱ピークのエネルギーΔHcdが15〜50J/gであることが好ましい。さらには20〜50J/g、特には30J/g以上であることが好ましい。ここで降温条件下での発熱ピークのエネルギーΔHcdとは、ポリエチレンナフタレート繊維を窒素気流下20℃/分の昇温条件にて320℃まで加熱し5分溶融保持させた後、窒素気流下10℃/分の降温条件にて示差走査熱量計(DSC)を用いて測定したものである。この降温条件下での発熱ピークのエネルギーΔHcdは、降温条件での降温結晶化を示しているものと考えられる。
さらに本発明のポリエチレンナフタレート繊維としては、昇温条件下での発熱ピークのエネルギーΔHcが15〜50J/gであることが好ましい。さらには20〜50J/g、特には30J/g以上であることが好ましい。ここで昇温条件下での発熱ピークのエネルギーΔHcとは、ポリエチレンナフタレート繊維を320℃で2分間溶融保持させた後、液体窒素中で固化させ急冷固化ポリエチレンナフタレートとした後に、窒素気流下20℃/分の昇温条件にて示差走査熱量計を用い測定したものである。この昇温条件下での発熱ピークのエネルギーΔHcは、繊維を構成するポリマーの昇温条件での昇温結晶化を示しているものと考えられる。一度溶融、冷却固化させることにより、繊維成形時の熱履歴の影響をより小さくすることができる。
このエネルギーΔHcdまたはΔHcが低い場合には結晶性が低くなる傾向にあり好ましくない。またエネルギーΔHcdまたはΔHcが高すぎる場合には、ポリエチレンナフタレート繊維の紡糸、延伸熱セット時に結晶化が進みすぎる傾向にあり、結晶成長が紡糸、延伸の工程を阻害し高強度の繊維となりにくい傾向にある。またエネルギーΔHcdまたはΔHcが高すぎる場合には製造時に断糸、糸切れが多発する要因ともなる。
またこのような本発明のポリエチレンナフタレート繊維は、リン原子をエチレンナフタレート単位に対して0.1〜300mmol%含有するものであることが好ましい。さらには、リン原子の含有量が10〜200mmol%であることが好ましい。リン化合物により結晶性をコントロールすることが容易になるからである。
また、本発明のポリエチレンナフタレート繊維は、通常触媒としての金属元素を含むものであるが、この繊維に含まれる金属元素が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。特には繊維に含まれる金属元素が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。理由は定かではないが、これらの金属元素をリン化合物と併用した場合に特に結晶体積のばらつきが少ない均一な結晶が得られやすくなる。
このような金属元素の含有量としては、エチレンナフタレート単位に対して10〜1000mmol%含有するものであることが好ましい。そして前述のリン元素Pと金属元素Mの存在比であるP/M比としては0.8〜2.0の範囲であることが好ましい。P/M比が小さすぎる場合には、金属濃度が過剰となり、過剰金属成分がポリマーの熱分解を促進し、熱安定性を損なう傾向にある。逆にP/M比が大きすぎる場合には、リン化合物が過剰のため、ポリエチレンナフタレートポリマーの重合反応を阻害し、繊維物性が低下する傾向にある。さらに好ましいP/M比としては0.9〜1.8であることが好ましい。
そして本発明のポリエチレンナフタレート繊維の強度としては6.0〜11.0cN/dtexであることが好ましい。さらには7.0〜10.0cN/dtex、より好ましくは7.5〜9.5cN/dtexであることが好ましい。強度が低すぎる場合にはもちろん、高すぎる場合にも耐久性に劣る傾向にある。また、ぎりぎりの高強度で生産を行うと製糸工程での断糸が発生し易い傾向にあり工業繊維としての品質安定性に問題がある傾向にある。
180℃の乾熱収縮率は、4.0〜10.0%であることが好ましい。さらには5.0〜9.0%であることが好ましい。乾熱収縮率が高すぎる場合、加工時の寸法変化が大きくなる傾向にあり、繊維を用いた成形品の寸法安定性が劣るものとなりやすい。
また融点としては265〜285℃であることが好ましい。さらには270〜280℃であることが最適である。融点が低すぎる場合には耐熱性、寸法安定性が劣る傾向にある。一方高すぎても溶融紡糸が困難になる傾向にある。
本発明のポリエチレンナフタレート繊維の極限粘度IVfとしては0.6〜1.0の範囲であることが好ましい。極限粘度が低すぎると本発明の目的とする高強度、高モジュラス及び寸法安定性に優れたポリエチレンナフタレート繊維を得ることは困難である。一方極限粘度を必要以上に高めた場合、紡糸工程で断糸が多発し、工業的な生産は困難となる。本発明におけるポリエチレンナフタレート繊維の極限粘度IVfは0.7〜0.9の範囲であることが特に好ましい。
本発明のポリエチレンナフタレート繊維の単糸繊度には特に限定は無いが、製糸性の観点から0.1〜100dtex/フィラメントであることが好ましい。特にタイヤコード、V−ベルト等のゴム補強用繊維や、産業資材用繊維としては、強力、耐熱性や接着性の観点から、1〜20dtex/フィラメントであることが好ましい。
総繊度に関しても特に制限は無いが、10〜10,000dtexが好ましく、特にタイヤコード、V−ベルト等のゴム補強用繊維や、産業資材用繊維としては、250〜6,000dtexであることが好ましい。また総繊度としては例えば1,000dtexの繊維を2本合糸して総繊度2,000dtexとするように、紡糸、延伸の途中、あるいはそれぞれの終了後に2〜10本の合糸を行うことも好ましい。
さらに本発明のポリエチレンナフタレート繊維は、上記のようなポリエチレンナフタレート繊維をマルチフィラメントとし撚りを掛けてコードの形態としたものであることも好ましい。マルチフィラメント繊維に撚りを掛けることにより、強力利用率が平均化し、その疲労性が向上する。撚り数としては50〜1000回/mの範囲であることが好ましく、下撚りと上撚りを行い合糸したコードであることも好ましい。合糸する前の糸条を構成するフィラメント数は50〜3000本であることが好ましい。このようなマルチフィラメントとすることにより耐疲労性や柔軟性がより向上する。繊度が小さすぎる場合には強度が不足する傾向にある。逆に繊度が大きすぎる場合には太くなりすぎて柔軟性が得られない問題や、紡糸時に単糸間の膠着が起こりやすく安定した繊維の製造が困難となる傾向にある。
上記のような特徴を有する本発明のポリエチレンナフタレート繊維は、従来のポリエチレンナフタレート繊維に比べ結晶体積が極めて小さく、欠点が発生しにくい。そのため、特に材料中での伸縮の程度が大きい、ゴム補強用の繊維として最適である。
このような本発明のポリエチレンナフタレート繊維は、例えばもう一つの本発明であるポリエチレンナフタレート繊維の製造方法により得ることが可能である。すなわち、主たる繰り返し単位がエチレンナフタレートであるポリマーを溶融し、紡糸口金から吐出するポリエチレンナフタレート繊維の製造方法であって、溶融時のポリマー中に下記一般式(I)または(II)であらわされる少なくとも1種類のリン化合物を添加した後に紡糸口金から吐出し、紡糸速度が4000〜8000m/分であり、紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度より50℃を超える高い温度の加熱紡糸筒を通過し、かつ延伸する製造方法により得ることできる。
[上の式中、R1は炭素数1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基であり、R2は水素原子又は炭素数の1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、Xは、水素原子または−OR3基であり、Xが−OR3基である場合、R3は水素原子又は炭素数の1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、であり、R2とR3は同一であっても異なっていても良い。]
[上の式中、R4〜R6は炭素数4〜18個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基であり、R4〜R6は同一であっても異なっていても良い。]
本発明で用いられる主たる繰返し単位がエチレンナフタレートであるポリマーとしては、好ましくはエチレン−2,6−ナフタレート単位を80%以上、特には90%以上含むポリエチレンナフタレートであることが好ましい。他に少量であれば、適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
適当な第3成分としては、(a)2個のエステル形成官能基を有する化合物や、(b)1個のエステル形成官能基を有する化合物、さらには(c)3個以上のエステル形成官能基を有する化合物など、重合体が実質的に線状である範囲内で使用可能である。また、ポリエチレンナフタレート中には、各種の添加剤が含まれていてもよいことはいうまでもない。
このような本発明のポリエステルは、従来公知のポリエステルの製造方法に従って製造することができる。すなわち、酸成分として、ナフタレン−2,6−ジメチルカルボキシレート(NDC)に代表される2,6−ナフタレンジカルボン酸のジアルキルエステルとグリコール成分であるエチレングリコールとでエステル交換反応させた後、この反応の生成物を減圧下で加熱して、余剰のジオール成分を除去しつつ重縮合させることによって製造することができる。あるいは、酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸とジオール成分であるエチレングリコールとでエステル化させることにより、従来公知の直接重合法により製造することもできる。
エステル交換反応を利用した方法の場合に用いるエステル交換触媒としては、特に限定されるものではないが、マンガン、マグネシウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ナトリウム、リチウム、鉛化合物を用いることができる。このような化合物としては、例えばマンガン、マグネシウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ナトリウム、リチウム、鉛の酸化物、酢酸塩、カルボン酸塩、水素化物、アルコラート、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。
中でも、ポリエステルの溶融安定性、色相、ポリマー不溶異物の少なさ、紡糸の安定性の観点から、マンガン、マグネシウム、亜鉛、チタン、ナトリウム、リチウム化合物が好ましく、さらにマンガン、マグネシウム、亜鉛化合物が好ましい。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。
重合触媒については、特に限定されるものではないが、アンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウム、すず化合物を用いることができる。このような化合物としては、例えばアンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウム、すずの酸化物、酢酸塩、カルボン酸塩、水素化物、アルコラート、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。
中でも、ポリエステルの重合活性、固相重合活性、溶融安定性、色相に優れ、かつ得られる繊維が高強度で、優れた製糸性、延伸性を有する点で、アンチモン化合物が特に好ましい。
本発明では、上記ポリマーを溶融し、紡糸口金から吐出して繊維とするのであるが、このとき溶融時のポリマー中に下記一般式(I)または(II)であらわされる少なくとも1種類のリン化合物を添加した後に紡糸口金から吐出することを必須とする。
[上の式中、R1は炭素数1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベシジル基であり、R2は水素原子又は炭素数の1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、Xは、水素原子または−OR3基であり、Xが−OR3基である場合、R3は水素原子又は炭素数の1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、であり、R2とR3は同一であっても異なっていても良い。]
[上の式中、R4〜R6は炭素数4〜18個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基であり、R4〜R6は同一であっても異なっていても良い。]
また、式中に用いられたアルキル基、アリール基、ベンジル基は置換されたものであっても良い。さらにはR1およびR2は、炭素数1〜12個の炭化水素基であることが好ましい。
一般式(I)の好ましい化合物としては、例えばフェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸モノメチル、フェニルホスホン酸モノエチル、フェニルホスホン酸モノプロピル、フェニルホスホン酸モノフェニル、フェニルホスホン酸モノベンジル、(2−ヒドロキシエチル)フェニルホスホネート、2−ナルフチルホスホン酸、1−ナフチルホスホン酸、2−アントリルホスホン酸、1−アントリルホスホン酸、4−ビフェニルホスホン酸、4−メチルフェニルホスホン酸、4−メトキシフェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸メチル、フェニルホスフィン酸エチル、フェニルホスフィン酸プロピル、フェニルホスフィン酸フェニル、フェニルホスフィン酸ベンジル、(2−ヒドロキシエチル)フェニルホスフィネート、2−ナルフチルホスフィン酸、1−ナフチルホスフィン酸、2−アントリルホスフィン酸、1−アントリルホスフィン酸、4−ビフェニルホスフィン酸、4−メチルフェニルホスフィン酸、4−メトキシフェニルホスフィン酸などを挙げることができる。
そして、一般式(II)の化合物としてはビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
さらに、上記一般式(I)の化合物は、R1はアリール基であり、R2は水素原子又は炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基であり、R3は、水素原子または−OH基であることが好ましい。
すなわち、本発明で用いられる特に好ましいリン化合物としては、下記一般式(I’)を挙げることができる。
[上の式中、Arは炭素数6〜20個の炭化水素基であるアリール基であり、R2は水素原子又は炭素数の1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、Yは、水素原子または−OH基である。]
ちなみに式中で用いられているR2の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、ベンジル基であることが好ましく、それらは未置換のもしくは置換されたものであっても良い。このときR2の置換基としては立体構造を阻害しないのであることが好ましく、例えば、ヒドロキシル基、エステル基、アルコキシ基等で置換されているものを挙げることがきる。また上記(I’)のArで示されるアリール基は、例えば、アルキル基、アリール基、ベンジル基、アルキレン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子で置換されていても良い。
さらには、本発明で用いられるリン化合物としては、下記一般式(III)で表されたフェニルホスホン酸およびその誘導体あることが好ましい。
[上の式中、Arは炭素数6〜20個の炭化水素基であるアリール基であり、R7は水素原子又は未置換もしくは置換された1〜20個の炭素元素を有する炭化水素基である。]
本発明ではこれら特有のリン化合物を溶融ポリマー中に直接添加することにより、ポリエチレンナフタレートの結晶性が向上し、その後の製造条件の下で結晶化度を高く保ちながら、結晶体積の小さいポリエチレンナフタレート繊維を得ることができたのである。これはこの特有のリン化合物が、紡糸及び延伸工程で生じる粗大な結晶成長を抑制し結晶を微分散化させる効果であると考えられる。また従来ポリエチレンナフタレート繊維を高速紡糸することは非常に困難であったが、これらのリン化合物が添加されることにより、紡糸安定性が飛躍的に向上し、かつ断糸が起きない点から実用的な延伸倍率を高めることによって繊維を高強度化することができるようになった。
ちなみに式中で用いられているR1〜R7の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、ジフェニル基、ベンジル基、アルキレン基、アリーレン基を挙げることができる。またこれらは例えば、ヒドロキシル基、エステル基、アルコキシ基で置換されていることが好ましい。
かかる置換基で置換された炭化水素基としては好適には、下記官能基及びその異性体を例示することができる。
−(CH2)n−OH
−(CH2)n−OCH3
−(CH2)n−OPh
−Ph−OH (Ph;芳香環)
[nは1〜10までの整数を表す]
中でも結晶性を向上させるためには上記一般式(I)のリン化合物であることが、さらには上記一般式(I’)、特には上記一般式(III)であることが好ましい。
また工程中の真空下での飛散を防止するためには、式(I)を例に説明すると、R1の炭素数としては4個以上、さらには6個以上であることが好ましく、特にアリール基であることが好ましい。あるいは、Xが水素原子または水酸基である、例えば一般式(I’)であることが好ましい。Xが水素原子または水酸基である場合にも、工程中の真空下では飛散しにくい。
また、高い結晶性向上の効果を示すためには、R1がアリール基であることが、さらにはベンジル基やフェニル基であることが好ましく、本発明の製造方法では、リン化合物がフェニルホスフィン酸またはフェニルホスホン酸であることが特に好ましい。中でもフェニルホスホン酸およびその誘導体であることが最適であり、作業性の面からもフェニルホスホン酸が最も好ましい。フェニルホスホン酸は水酸基を有するため、そうでは無いフェニルホスホン酸ジメチルなどのアルキルエステルに比べて沸点が高く、真空下で飛散しにくいというメリットもある。つまり、添加したリン化合物のうちポリエステル中に残存する量が増え、添加量対比の効果が高くなる。また真空系の閉塞が発生しにくい点からも有利である。
本発明で用いられるリン化合物の添加量としては、ポリエステルを構成するジカルボン酸成分のモル数に対して0.1〜300ミリモル%であることが好適である。リン化合物の量が不十分であると結晶性向上効果が不十分になる傾向にあり、多すぎる場合には紡糸時の異物欠点が発生するために製糸性が低下する傾向にある。リン化合物の含有量はポリエステルを構成するジカルボン酸成分のモル数に対して1〜100ミリモル%の範囲がより好ましく、10〜80ミリモル%の範囲がさらに好ましい。
また、このようなリン化合物と共に、周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素が溶融ポリマー中に添加されていることが好ましい。特には繊維に含まれる金属元素が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。理由は定かではないが、これらの金属元素を上記リン化合物と併用した場合に特に結晶体積のばらつきが少ない均一な結晶が得られやすくなる。これらの金属元素は、エステル交換触媒や重合触媒として添加しても良いし、別途添加することも可能である。
このような金属元素の含有量としては、エチレンナフタレート単位に対して10〜1000mmol%含有するものであることが好ましい。そして前述のリン元素Pと金属元素Mの存在比であるP/M比としては0.8〜2.0の範囲であることが好ましい。P/M比が小さすぎる場合には、金属濃度が過剰となり、過剰金属成分がポリマーの熱分解を促進し、熱安定性を損なう傾向にある。逆にP/M比が大きすぎる場合には、リン化合物が過剰のため、ポリエチレンナフタレートポリマーの重合反応を阻害し、繊維物性が低下する傾向にある。さらに好ましいP/M比としては0.9〜1.8であることが好ましい。
本発明に用いるリン化合物の添加時期は、特に限定される物ではなく、ポリエステル製造の任意の工程において添加することができる。好ましくは、エステル交換反応又はエステル化反応の開始当初から重合終了する間である。さらに均一な結晶を形成させるためにはエステル交換反応又はエステル化反応の終了した時点から重合反応の終了時点の間であることがより好ましい。
また、ポリエステルの重合後に、混練機を用いて、リン化合物を練り込む方法を採用することもできる。混練する方法は特に限定されるものではないが、通常の一軸、二軸混練機を使用することが好ましい。さらに好ましくは、得られるポリエステル組成物の重合度の低下を抑制するために、ベント式の一軸、二軸混練機を使用する方法を例示できる。
この混練時の条件は特に限定されるものではないが、例えばポリエステルの融点以上、滞留時間は1時間以内、好ましくは1分〜30分である。また、混練機へのリン化合物、ポリエステルの供給方法は特に限定されるものではない。例えばリン化合物、ポリエステルを別々に混練機に供給する方法、高濃度のリン化合物を含有するマスターチップとポリエステルを適宜混合して供給する方法などを挙げることができる。ただし溶融ポリマー中に本発明で用いられる特有のリン化合物を添加する際には、他の化合物とあらかじめ反応させることなく、直接ポリエステルポリマーに添加することが好ましい。リン化合物を他の化合物、例えばチタン化合物とあらかじめ反応させてできた反応生成物が粗大粒子となり、ポリエステルポリマー中で構造欠陥や結晶の乱れを誘起することを防ぐためである。
本発明で用いられるポリエチレンナフタレートのポリマーは、樹脂チップの極限粘度として、公知の溶融重合や固相重合を行うことにより0.65〜1.2の範囲にすることが好ましい。樹脂チップの極限粘度が低すぎる場合には溶融紡糸後の繊維を高強度化させることが困難となる。また極限粘度が高すぎると固相重合時間が大幅に増加し、生産効率が低下するため工業的観点から好ましくない。極限粘度としては、さらには0.7〜1.0の範囲であることが好ましい。
本発明のポリエチレンナフタレート繊維の製造方法は、上記のポリエチレンナフタレートポリマーを溶融し、紡糸速度が4000〜8000m/分であり、紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度より50℃を超える高い温度の加熱紡糸筒を通過し、かつ延伸することを必須とする。
溶融時のポリエチレンナフタレートポリマーの温度としては285〜335℃であることが好ましい。さらには290〜330℃の範囲であることが好ましい。紡糸口金としてはキャピラリーを具備したものを用いることが一般的である。
本発明の製造方法の紡糸速度としては4000〜8000m/分であることが必須である。さらには4500〜6000m/分であることが好ましい。このような超高速紡糸を行うことにより、結晶化度を高め、高強力と高い寸法安定性を両立することができたのである。
そして紡糸ドラフトとしては100〜10,000で行うことが好ましい。さらには1000〜5000のドラフト条件であることが好ましい。紡糸ドラフトとは、紡糸巻取速度(紡糸速度)と紡糸吐出線速度の比として定義され、下記数式(2)で表されるものである。
(式中、Dは口金の孔径、Vは紡糸引取速度、Wは単孔あたりの体積吐出量を示す)
さらに本発明の製造方法では、紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度より50℃を超える高い温度の加熱紡糸筒通過することを必須とする。加熱紡糸筒の温度の上限としては溶融ポリマー温度の150℃以下であることが好ましい。また、加熱紡糸筒の長さとしては250〜500mmであることが好ましい。加熱紡糸筒の通過時間は1.0秒以上であることが好ましい。また、このような高い温度の加熱紡糸筒を用いることにより、ポリエチレンナフタレート繊維の結晶体積を小さいまま高速紡糸することができるようになった。高温の紡糸筒中ではポリマー中の分子運動が激しく運動し、大きな結晶の生成が阻害されるからである。
従来ポリエチレンナフタレート繊維の製造方法においては、本願のように超高速紡糸を行った場合には、極めて単糸切れを起し易く、生産安定性に欠けるという問題があった。剛直なポリマーであるポリエチレンナフタレートポリマーは、紡糸口金から吐出された直後にすぐに配向しやすく、単糸切れを極めて発生しやすいのである。しかし本発明では特定のリン化合物を用い、さらに加熱紡糸筒により遅延冷却を行うことを特徴としている。そのようにすることにより、従来にないポリマーの微小結晶を形成させ、同じ配向度であっても均一な構造とすることが可能となった。均一構造であるがゆえに4000〜8000m/分という超高速紡糸を行った場合にも単糸切れが発生せず、高い製糸性を確保することが可能となったのである。そしてこのように微小結晶で均一なポリマー構造を形成させることにより、本発明のポリエチレンナフタレート繊維は優れた耐疲労性を発揮することができるようになった。
加熱紡糸筒を通過した紡出糸条は、次いで30℃以下の冷風を吹き付けて冷却することが好ましい。さらには25℃以下の冷風であることが好ましい。冷却風の吹出量としては2〜10Nm3/分、吹出長さとしては100〜500mm程度であることが好ましい。次いで、冷却された糸状については、油剤を付与することが好ましい。
このようにして紡糸された未延伸糸は、複屈折率(ΔnUD)としては0.25〜0.35、密度(ρUD)としては1.345〜1.365の範囲であることが好ましい。複屈折率(ΔnUD)や密度(ρUD)が小さい場合には、紡糸過程での繊維の配向結晶化が不充分となり、耐熱性及び優れた寸法安定性が得られない傾向にある。一方、複屈折率(ΔnUD)や密度(ρUD)が大きすぎる場合、紡糸過程で粗大な結晶成長が発生していることが推測され、紡糸性を阻害し断糸が多発する傾向にあり、実質的に製造が困難となる傾向にある。また、その後の延伸性も阻害されるため高物性の繊維の製造が困難となる傾向にある。さらには紡糸された未延伸糸の密度(ρUD)としては1.350〜1.360の範囲であることがより好ましい。
その後、本発明のポリエチレンナフタレート繊維の製造方法では、延伸を行うが、微小結晶のポリマーを超高速紡糸して得た繊維であるために、高い結晶化度と、極めて小さな結晶体積が両立した繊維を得ることができたのである。延伸は、引取りローラーから一旦巻取って、いわゆる別延伸法で延伸してもよく、あるいは引取りローラーから連続的に延伸工程に未延伸糸を供給する、いわゆる直接延伸法で延伸しても構わない。また延伸条件としては1段ないし多段延伸であり、延伸負荷率としては60〜95%であることが好ましい。延伸負荷率とは繊維が実際に断糸する張力に対する、延伸を行う際の張力の比である。延伸倍率や延伸負荷率を上げることによって、結晶化度を有効に高くすることができる。
延伸時の予熱温度としては、ポリエチレンナフタレート未延伸糸のガラス転移点以上、結晶化開始温度の20℃以上低い温度以下にて行うことが好ましく、本発明においては120〜160℃が好適である。延伸倍率は紡糸速度に依存するが、破断延伸倍率に対し延伸負荷率60〜95%となる延伸倍率で延伸を行うことが好ましい。また、繊維の強度を維持し寸法安定性を向上させるためにも、延伸工程で170℃以上、繊維の融点以下の温度で熱セットを行うことが好ましい。さらには延神時の熱セット温度が170〜270℃の範囲であることが好ましい。
本発明の製造方法では、特定のリン化合物を用いることによって、ポリエチレンナフタレート繊維の溶融紡糸工程において、超高速紡糸を安定して行うことができるようになったのである。ちなみに本発明の特定のリン化合物を用いない場合には、紡糸速度を下げるしか工業的に安定生産を行う手段がなく、本発明のような高い寸法安定性と高い強力を両立させた、耐疲労性に優れた繊維を得ることはできなかったのである。
本発明のポリエチレンナフタレート繊維の製造方法では、さらに得られた繊維を撚糸したり、合糸することにより、所望の繊維コードを得ることができる。さらにはその表面に接着処理剤を付与することも好ましい。接着処理剤としてはRFL系接着処理剤を処理することが、ゴム補強用途には最適である。
より具体的には、このような繊維コードは、上記のポリエチレンナフタレート繊維に、常法に従って撚糸を加え、あるいは無撚の状態でRFL処理剤を付着させ、熱処理を施すことにより得ることができ、このような繊維はゴム補強用に好適に使用できる処理コードとなる。
このようにして得られた産業資材用ポリエチレンナフタレート繊維は、高分子と繊維・高分子複合体とすることができる。この時、高分子がゴム弾性体であることが好ましい。この複合体は、補強に用いられたポリエチレンナフタレート繊維が高強力かつ寸法安定性に優れているため、複合体としたときの成形性に非常に優れたものとなる。特に本発明のポリエチレンナフタレート繊維をゴム補強に用いた場合にその効果は大きく、例えばタイヤ、ベルト、ホースなどに好適に用いられる。
本発明のポリエチレンナフタレート繊維をゴム補強用コードとして使用する場合は、例えば次のような方法を使用することができる。すなわち、該ポリエチレンナフタレート繊維を撚係数K=T・D1/2(Tは10cm当たりの撚数、Dは撚糸コードの繊度)が990〜2,500で合撚して撚糸コードとなし、該コードを接着処剤処理に引き続き230〜270℃で処理する。
本発明のポリエチレンナフタレート繊維から得られる処理コードは、強力が100〜200N、2cN/dtex応力時の伸度(中間荷伸)と180℃乾熱収縮率の和で表す寸法安定性指数が5.0%以下であり、高モジュラスかつ耐熱性、寸法安定性に優れた処理コードを得ることができる。ここで、寸法安定性指数はその値が低いほどモジュラスが高く、乾熱収縮率が低いことを表す。さらに好ましくは、本発明におけるポリエチレンナフタレート繊維を用いてなる処理コードの強力は120〜170N、寸法安定性指数は4.0〜5.0%である。
(1)極限粘度IVf
樹脂あるいは繊維をフェノールとオルトジクロロベンゼンとの混合溶媒(容量比6:4)に溶解し、35℃でオストワルド型粘度計を用いて測定して求めた。
(2)強度、伸度、中間荷伸
JIS L1013に準拠して測定した。繊維の中間荷伸は4cN/dtex応力時の伸度から求めた。繊維コードの中間荷伸は44N応力時の伸度から求めた。
(3)乾熱収縮率
JIS L1013 B法(フィラメント収縮率)に準拠し、180℃で30分間の収縮率とした。
(4)比重、結晶化度
比重は四塩化炭素/n−ヘプタン密度勾配管を用い、25℃で測定した。得られた比重から下記の数式(1)より結晶化度を求めた。
式中
ρ :ポリエチレンナフタレート繊維の比重
ρa:1.325(ポリエチレンナレフタレートの完全非晶密度)
ρc:1.407(ポリエチレンナレフタレートの完全結晶密度)
(5)複屈折(Δn)
浸漬液としてブロムナフタリンを使用し、ベレックコンペンセーターを用いてレターデーション法により求めた。(共立出版社発行:高分子実験化学講座 高分子物性11参照)
(6)結晶体積、最大ピーク回折角
繊維の結晶体積、最大ピーク回折角はBruker社製D8 DISCOVER with GADDS Super Speedを用いて広角X線回折法により求めた。
結晶体積は、繊維の広角X線回折において2Θがそれぞれ15〜16°、23〜25°、25.5〜27°に現れる回折ピーク強度の半価幅より、それぞれの結晶サイズをフェラーの式、
(ここで、Dは結晶サイズ、Bは回折ピーク強度の半価幅、Θは回折角、λはX線の波長(0.154178nm=1.54178オングストローム)を表す。)
より算出し、下式により結晶1ユニットあたりの結晶体積とした。
結晶体積(nm3)=結晶サイズ(2Θ=15〜16°)×結晶サイズ(2Θ=23〜25°)×結晶サイズ(2Θ=25.5〜27°)
最大ピーク回折角は、広角X線回折において強度が最も大きいピークの回折角を求めた。
(7)融点Tm、発熱ピークエネルギーΔHcd、ΔHc
TAインスツルメンツ社製Q10型示差走査熱量計を用い、試料量10mgの繊維を窒素気流下、20℃/分の昇温条件で320℃まで加熱して現れた吸熱ピークの温度を融点Tmとした。
また引き続いて、320℃で2分間保持し溶融させた繊維試料を、10℃/分の降温条件で測定し、現れる発熱ピークを観測し、発熱ピークの頂点の温度をTcdとした。またピーク面積からエネルギーを計算し、ΔHcd(窒素気流下10℃/分の降温条件下での発熱ピークエネルギー)とした。
他方、融点Tm測定後の繊維試料を引き続いて320℃で2分間保持し溶融させ、液体窒素中で急冷固化させた後、さらに窒素気流下、20℃/分の昇温条件にて現れる発熱ピークを観測し、発熱ピークの頂点の温度をTcとした。またピーク面積よりエネルギーを計算し、ΔHc(窒素気流下20℃/分の昇温条件下での発熱ピークエネルギー)とした。
(8)製糸性
製糸性について、ポリエチレンナフタレート1トンあたりの紡糸工程あるいは延伸工程の断糸発生回数から以下の通り4段階評価した。すなわち、
+++:断糸発生回数0〜2回/トン、
++:断糸発生回数3〜5回/トン、
+:断糸発生回数≧6回/トン、
bad:製糸不可、
とした。
(9)処理コードの作成
繊維に490回/mのZ撚を与えた後、これを2本合わせて490回/mのS撚を与えて、1100dtex×2本の生コードとした。この生コードを接着剤(RFL)液に浸漬し、240℃で2分間緊張熱処理した。
(10)寸法安定性指数
前述の(2)、(3)項と同様にして、処理コードの荷重44N応力時の中間伸度及び180℃乾熱収縮率を求め、それらを和して求めた。
処理コードの寸法安定性指数=処理コードの44N中間荷伸+180℃乾熱収縮率
(11)チューブ寿命
得られた処理コードとゴムからなるチューブを作成し、JIS L1017−付属書1、2.2.1「チューブ疲労性」に準じた方法でチューブが破壊する時間を測定した。なお、試験角度は85°とした。
(12)ディスク疲労性
得られた処理コードとゴムからなる複合体を作成し、JIS L1017−付属書1、2.2.2「ディスク疲労性」に準じた方法で測定した。なお、伸張率5.0%、圧縮率5.0%とし、24時間連続運転後の強力維持率を求めた。
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100重量部とエチレングリコール50重量部との混合物に酢酸マンガン四水和物0.030重量部、酢酸ナトリウム三水和物0.0056重量部を攪拌機、蒸留搭及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、150℃から245℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行い、引き続いてエステル交換反応が終わる前にフェニルホスホン酸(PPA)を0.03重量部(50ミリモル%)を添加した。その後、反応生成物に三酸化二アンチモン0.024重量部を添加して、攪拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、305℃まで昇温させ、30Pa以下の高真空下で縮合重合反応を行い、常法に従ってチップ化して極限粘度0.62のポリエチレンナフタレート樹脂チップを得た。このチップを65Paの真空度下、120℃で2時間予備乾燥した後、同真空下240℃で10〜13時間固相重合を行い、極限粘度0.74のポリエチレンナフタレート樹脂チップを得た。
このチップを、孔数249ホール、孔径1.2mm、ランド長3.5mmの円形紡糸孔を有する紡糸口金からポリマー温度320℃で吐出し、紡糸速度4,500m/分、紡糸ドラフト2160の条件で紡糸を行った。紡出した糸状は口金直下に設置した長さ350mm、雰囲気温度400℃の加熱紡糸筒を通じ、さらに、加熱紡糸筒の直下から長さ450mmにわたって、25℃の冷却風を6.5Nm3/分の流速で吹き付けて、糸状の冷却を行った。その後、油剤付与装置にて一定量計量供給した油剤を付与した後、引取りローラーに導き、巻取機で巻取った。この未延伸糸は断糸や単糸切れの発生がなく製糸性良好に得ることができ、その未延伸糸の極限粘度IVfは0.70であった。
次いでこの未延伸糸を用い、以下の通り延伸を行った。なお延伸倍率は破断延伸倍率に対し延伸負荷率92%となるように設定した。
すなわち、未延伸糸に1%のプリストレッチをかけた後、130m/分の周速で回転する150℃の加熱供給ローラーと第一段延伸ローラーとの間で第一段延伸を行い、次いで180℃に加熱した第一段延伸ローラーと180℃に加熱した第二段延伸ローラーとの間で230℃に加熱した非接触式セットバス(長さ70cm)を通し定長熱セットを行った後、巻取機にて巻取り、繊度1100dtex/単糸数249filの延伸糸とした。このときの全延伸倍率(TDR)は1.50であり、延伸時に断糸や単糸切れの発生なく製糸性は良好であった。製造条件を表1に示す。
得られた延伸糸は繊度1000dtex、結晶体積128nm3(128000オングストローム3)、結晶化度50%であった。この延伸糸のΔHc、ΔHcdはそれぞれ37、33J/gであり高い結晶性を示した。得られたポリエチレンナフタレート繊維の強度は8.8cN/dtex、180℃乾収6.8%、と高強力かつ低収縮性に優れたものであった。
さらに、得られた延伸糸に490回/mのZ撚を与えた後、これを2本合わせて490回/mのS撚を与えて、1100dtex×2本の生コードとした。この生コードを接着剤(RFL)液に浸漬し、245℃で2分間緊張熱処理した。得られた処理コードの強力は154N、寸法安定性指数4.4%と寸法安定性に優れたものであり、チューブ寿命、ディスク疲労性もともに優れたものであった。物性を表3に示す。
[実施例2]
実施例1の紡糸速度を4500m/分から5000m/分に、紡糸ドラフト比を2160から2420に変更した。またその後の延伸倍率を実施例1の1.50倍から1.30倍に変更し同じ繊度となる延伸糸を得た。製糸性は実施例1と同様に安定したものであった。
得られた延伸糸は結晶体積152nm3(152000オングストローム3)、結晶化度49%であった。得られたポリエチレンナフタレート繊維の強度は8.6cN/dtex、180℃乾収6.5%と高強力と低収縮性に優れたものであった。
さらにその延伸糸を実施例1と同様にして処理コードとした。
製造条件表1に、得られた物性を表3に示す。
[実施例3]
実施例1の紡糸速度を4500m/分から5500m/分に、紡糸ドラフト比を2160から2700に変更した。またその後の延伸倍率を実施例1の1.50倍から1.22倍に変更し同じ繊度となる延伸糸を得た。製糸性は実施例1と同様に安定したものであった。
得られた延伸糸は結晶体積163nm3(163000オングストローム3)、結晶化度48%であった。得られたポリエチレンナフタレート繊維の強度は8.5cN/dtex、180℃乾収6.3%と高強力と低収縮性に優れたものであった。
さらにその延伸糸を実施例1と同様にして処理コードとした。
製造条件表1に、得られた物性を表3に示す。
[比較例1]
ポリエチレン−2,6−ナフタレートの重合において、エステル交換反応が終わる前にリン化合物としてフェニルホスホン酸(PPA)の代わりに正リン酸を40mmol%を添加した以外は、実施例3と同様に実施してポリエチレンナフタレート樹脂チップを得た。この該樹脂チップを用い実施例3と同様にして溶融紡糸を行ったが、紡糸での断糸が多発し安定して製糸することができないものであった。
ちなみに紡糸筒温度を400℃から300℃とした場合や、加熱紡糸筒長さを350mmから135mmとした場合には、繊維を採取できないくらい製糸性が悪化した。
かろうじて採取された糸条を用いて、実施例3と同様に繊維およびコードを得た。
得られた処理コードをゴム中に埋め込んで耐疲労性を測定したところ、ディスク疲労性、チューブ疲労性の両方ともに実施例と比べ劣るものであった。製造条件表1に、得られた物性を表3に示す。
[実施例4]
実施例3で用いたリン化合物をフェニルホスホン酸(PPA)から、フェニルホスフィン酸(PPI)に変更し、添加量を100mmol%とした以外は、実施例3と同様に繊維およびコードを得た。
得られた繊維は高強力性及び低収縮性に優れたものであった。また製糸性も非常によく、断糸も見られなかった。
製造条件表1に、得られた物性を表3に示す。
[比較例2]
実施例4の紡糸速度を5500m/分から3000m/分に、紡糸ドラフト比を2700から615に変更した。また得られる繊維の繊度をあわせるためにキャップ口金口径を1.2mmから0.8mmに変更し、延伸倍率を1.19倍から1.93倍に変更し、ポリエチレンナフタレート繊維を得た。
延伸倍率を高めたため若干製糸性に難があったが、何とか製造は可能であった。
得られた延伸糸は結晶体積272nm3(272000オングストローム3)、結晶化度49%であった。得られたポリエチレンナフタレート繊維の強度は7.3cN/dtexと高倍率延伸を行ったにもかかわらず低い強力しか得られなかった。
さらにその延伸糸を実施例1と同様にして処理コードとした。
得られた処理コードをゴム中に埋め込んで耐疲労性を測定したところ、ディスク疲労性、チューブ疲労性の両方ともに実施例と比べ劣るものであった。製造条件表2に、得られた物性を表4に示す。
[比較例3]
実施例4の紡糸速度を5500m/分から459m/分に、紡糸ドラフト比を2700から83とし、得られる繊維の繊度をあわせるためにキャップ口金口径を1.2mmから0.5mmに変更した。また口金直下の紡糸筒の長さを250mmに変更し、低速紡糸を行った未延伸糸を得た。またその後の延伸倍率を6.10倍に変更し延伸糸を得た。
得られた延伸糸は結晶体積298nm3(298000オングストローム3)、結晶化度48%であった。得られたポリエチレンナフタレート繊維の強度は9.1cN/dtexあったものの、180℃乾収7.0%と収縮性に劣るものであった。
さらにその延伸糸を実施例1と同様にして処理コードとした。
得られた処理コードをゴム中に埋め込んで耐疲労性を測定したところ、ディスク疲労性、チューブ疲労性の両方ともに実施例と比べ劣るものであった。製造条件表2に、得られた物性を表4に示す。
[比較例4]
正リン酸を用いた比較例1と同じポリエチレンナフタレート樹脂チップを固相重合で極限粘度0.87に調整し、口金孔径を0.5mmに、紡糸速度を5000m/分に、紡糸ドラフト比を330に変更した。また口金直下の加熱紡糸筒の温度を390度、長さを400mmに変更して、未延伸糸を得た。またその後の延伸倍率は1.07倍にし延伸糸を得た。リン化合物としてフェニルホスホン酸(PPA)を添加しなかったため、製糸性に難があったが、何とか製造は可能であった。
得られた延伸糸は結晶体積502nm3(502000オングストローム3)と大きく、結晶化度は45%であった。得られたポリエチレンナフタレート繊維の強度は6.7cN/dtex、180℃乾収2.5%、融点287℃と強度がやや劣ったものであった。
さらにその延伸糸を実施例1と同様にして処理コードとした。
得られた処理コードをゴム中に埋め込んで耐疲労性を測定したところ、ディスク疲労性、チューブ疲労性の両方ともに実施例と比べ劣るものであった。製造条件を表2に、得られた物性を表4にそれぞれ示す。
[比較例5]
正リン酸を用いた比較例1と同じポリエチレンナフタレート樹脂チップを固相重合で極限粘度0.90に調整し、口金孔径を0.4mmに、紡糸速度を750m/分に、紡糸ドラフト比を60に変更した。また口金直下の紡糸筒の温度を溶融ポリマー温度に近い330度、長さを400mmに変更して、未延伸糸を得た。またその後の延伸倍率は5.67倍にし延伸糸を得た。リン化合物としてフェニルホスホン酸(PPA)を添加しなかったため、製糸性に難があり単糸切れが非常に多かったが、何とか製造は可能であった。
得られた延伸糸は結晶体積442nm3(442000オングストローム3)と大きく、結晶化度は48%であった。
さらにその延伸糸を実施例1と同様にして処理コードとした。
得られた処理コードをゴム中に埋め込んで耐疲労性を測定したところ、ディスク疲労性、チューブ疲労性の両方ともに実施例と比べ劣るものであった。製造条件を表2に、得られた物性を表4にそれぞれ示す。
[比較例6]
正リン酸を用いた比較例1と同じポリエチレンナフタレート樹脂チップを固相重合で極限粘度0.95に調整し、口金孔径を1.7mmに、紡糸速度を380m/分に、ただし繊度をあわせるために紡糸ドラフト比を550に変更した。また口金直下の紡糸筒の温度を370度、長さを400mmに変更して、未延伸糸を得た。またその後の延伸倍率は6.85倍にし延伸糸を得た。リン化合物としてフェニルホスホン酸(PPA)を添加しなかったため、製糸性に難があり、延伸での断糸が多発し、得られた延伸糸にも単糸切れが非常に多かった。
得られた延伸糸は結晶体積370nm3(370000オングストローム3)と大きく、結晶化度は45%であった。得られたポリエチレンナフタレート繊維の強度は8.5cN/dtex、180℃乾収5.6%、融点271℃と強度は高いものの、耐熱性が劣ったものであった。
さらにその延伸糸を実施例1と同様にして処理コードとした。
得られた処理コードをゴム中に埋め込んで耐疲労性を測定したところ、ディスク疲労性、チューブ疲労性の両方ともに実施例と比べ劣るものであった。製造条件を表2に、得られた物性を表4にそれぞれ示す。
Claims (14)
- 主たる繰り返し単位がエチレンナフタレートであるポリエチレンナフタレート繊維であって、繊維のX線広角回折より得られる結晶体積が100〜200nm3であり、結晶化度が30〜60%であることを特徴とするポリエチレンナフタレート繊維。
- X線広角回折の最大ピーク回折角が23.0〜25.0度である請求項1記載のポリエチレンナフタレート繊維。
- 窒素気流下10℃/分の降温条件下での発熱ピークのエネルギーΔHcdが15〜50J/gである請求項1記載のポリエチレンナフタレート繊維。
- リン原子をエチレンナフタレート単位に対して0.1〜300mmol%含有するものである請求項1記載のポリエチレンナフタレート繊維。
- ポリエチレンナフタレート繊維が、金属元素を含むものであり、該金属元素が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素である請求項1記載のポリエチレンナフタレート繊維。
- 該金属元素が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素である請求項5記載のポリエチレンナフタレート繊維。
- 強度が6.0〜11.0cN/dtexである請求項1記載のポリエチレンナフタレート繊維。
- 融点が265〜285℃である請求項1記載のポリエチレンナフタレート繊維。
- 主たる繰り返し単位がエチレンナフタレートであるポリマーを溶融し、紡糸口金から吐出するポリエチレンナフタレート繊維の製造方法であって、溶融時のポリマーが金属元素を含み、該金属元素が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であり、溶融時のポリマー中に下記一般式(I)であらわされる少なくとも1種類のリン化合物を、他の化合物とあらかじめ反応させることなく直接ポリマーに添加した後に紡糸口金から吐出し、紡糸速度が4000〜8000m/分、紡糸口金から吐出後の紡糸ドラフト比が1,000〜10,000であり、紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度より50℃を超える高い温度の加熱紡糸筒を通過し、かつ延伸することを特徴とするポリエチレンナフタレート繊維の製造方法。
R2は水素原子又は炭素数の1〜20個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、
Xは、水素原子または−OR3基であり、
Xが−OR3基である場合、
R3は水素原子又は炭素数の1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基、であり、
R2とR3は同一であっても異なっていても良い。] - 紡糸口金から吐出後の紡糸ドラフト比が2,160〜10,000である請求項9記載のポリエチレンナフタレート繊維の製造方法。
- 加熱紡糸筒の長さが250〜500mmである請求項9記載のポリエチレンナフタレート繊維の製造方法。
- リン化合物がフェニルホスフィン酸またはフェニルホスホン酸である請求項9記載のポリエチレンナフタレート繊維の製造方法。
- 該金属元素が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素である請求項9記載のポリエチレンナフタレート繊維の製造方法。
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